「旅に出たいねえ、舟とかで海と山を見てまわりたいねぇー」

「また?って言うか山登り同時に航海は出来ないよ。
あれ?また連れてかれちゃうんだ、待ってくれって!本気なんだねっ、その準備万端の格好わああああーー」

「ほっほっほっ!行くぞっ景太郎。
海が呼んでいるからのぅ山はそのあとじゃ、若いもんが出遅れてどーする」

若い頃から冒険が大好きな祖母がいた。
地元では旅行好きでも有名な和菓子屋、浦島本家に生まれた長男。浦島景太郎。
彼には夢があった。
幼い頃の約束を守りたい。東大に入りたいというものだったが、毎年連れまわされて時間が犠牲に
なってしまい、勉強に不向きだと中学入学式にて悟った。
乱入されて騒動、そのまま国外へ行く羽目。
とにかく結果、今度こそは勉強してやると全寮制男子高校に逃げ込もうとしたが何故か妹に泣いて
止められてしまい、今はその義妹。浦島カナコと一緒に祖母の魔の手から逃れて、地方の山国に
ひっそりと転校していた。

「わぁっ上手、凄いよねーあなたのお兄ちゃんって冴えないけど、お友達にはなりたいなー。
いいにおい、おいしそうだー」

「冴えなくて結構です。これは私に兄が用意したものなんですからあげませんよ。
それにこ、この程度わたしにだって出来ます。ほらっこれが見よう見マネで作りましたっ」

「まずっ。炭?」

横からひょいと小さな女の子、これでも最上級生、しかも会長。
かすめ取って口のなかへ。ぽいっ

「チョコです、うー」

落ち込むカナコ。机にがんっ、頭打ち付けてしゅ〜〜〜〜〜と突っ伏す。めそめそ泣いた。

「痛そーよしよしブラコン娘」

「どうして私はお兄ちゃんと一緒にできないの、和菓子屋の娘なのに。たしかに甘いもの苦手だけど」

「仕方ないわよ。誰にだって向き不向きがある、それにあなたにしか出来ないことがある・・・ほら
あそこでまたイノシシに追いかけられてる景太郎を救いに行って来なさい」

「生徒会長、どうしていつも兄の覗き見を!面白がって見てるんですね・・よね?悪口流したりしてませんよね。
イノシシ?それ本当ですか?!ああっ」

「行っちゃった。午後の授業どうするんだろ・・・会長無気味に笑わないでくださいよ」

「ふふふ、あのこ鋭いわね」

どんな縁があるのか国内では両親の援助期待できない、育ち盛りの息子と娘と離れて暮らすなんてのは
考えられないこと、ばあさんの思慮陰謀はすごすぎるからあちらはそれで手一杯なんだろう。

「今日はイノシシ鍋かー暖かくていいね。お隣りさんにお裾分けしてくるよ」

「私が行きます。猟師さんたちにも冷凍わけてきます」

だから生活はサバイバルの一言。
川に釣りをし森に罠と狩りで暮らす、バイト探しすれば良いのに。二人ともどこか抜けていた。
だが、トラブルは日常茶飯事のばあさんに身に付けさせれた家事能力の景太郎、愛情たっぷりの
朝食と夕食と何故か近所のもらい物でデザートまでこしらえてしまう男子中学生だ。妹が文句言うはず無い。

「戻りました。喜んでもらえましたよ」

「あーおかえり。んーもうちょっとでできるから待っててー」

「これは?」

「手紙来たんだよ父さんたちから、どーやらばあちゃんに負けたみたいだ。
カナコ?・・・なにしてるの?」

「あ・・はやかったですね。な、な、なんでもありません。
また転校ですか、明日役場に入って書類そろえて来ますね。お兄ちゃん」

「この手紙に書いてあるのは今までと違うんだ、カップ出してくれるか?その変な粉入れた奴は除いて。
でさ家に帰る事になりそうだよ、俺ももうすぐ受験だし」

「あ・・・ぁあ何で、もう少しで押し倒して貰えるはずだったのに。
はっ!?兄さん聞いてしまいましたね、はあ、はふぁ、ふふふ・・家に帰るなら尚更です。
これを飲んでください」

食べ下さい、ずずいっと景太郎の目を盗んで入れることに成功しそうだったコップをもって迫る。
顔は真っ赤に目はぼーっと熱に浮かされていた。

「カナコ!?変だぞ、お前、それ」

隣近所に住む双子たちに触発されて、何かが急速に芽生えちゃったらしい。
いままでは慌しくて男女の仲を考えている暇が丸きりなかったけど、それなりに余裕できた今なら
二人きりの生活はじめて育ってしまっていたものを兄にプレゼントしたい。

「いーから飲んじゃってください兄さん」

「うぁっ」

「す、すきです。だから、拒否しないで受け取って私をっ」

勢いよく胸に飛び込んでしまった。
コップ持ったままで、浦島流空牙という投げ技を決めて意識を落とした腕の中の兄。
気絶した兄を見てまた重要な場面で失敗したのだと愕然とした。
ここに来た晩もそうだった。

「やっ・・・ちゃった、やっぱり練習不足でしたか」

森に狩りに出たときに兄に見立て告白の研修を・・・誰が見てもそれは違うと言うだろうものを
熱心に練習していたカナコ。
一度、学校の教師と会長に見つかって微妙なエールを送られた。
祖母も祖父をこうして落としたと言うし間違ってないが、根本的に間違ってる恋の成就を突っ走っていた。
逆夜這い成功しているのに、経験と知識不足で気が付いていないのは景太郎には幸運といえるだろう。

「起きてお兄ちゃん」

「う・・・ん、あれ・・・えっと何してたっけ?手紙来たんだよな帰って来いって」

「はい、そうです。
引越しすると言ってましたよ、今夜中に準備しておかないと間に合わないかもしれないですね」

「言ったら聞かないもんな。ばあちゃんの手配した運送会社がやってくるのは朝一番だし」

「今までもそうでしたもんね。荷物は先に送ってしまいましょう」

変な粉入り飲み物の残骸を片付けて、祖母仕込みの変装道具をカナコは用意していた。
明日、役所への潜入して公文書偽造で必要なのだ。
今回は何故か一教師に事情把握されて、うまくやってもらっていたが新婚家庭に夜お邪魔するほど
野暮じゃないので必要になってしまった。急なことだし。

「ところでそれ誰かで試してないよな、はるかさんとか」

「ここに居ませんし、効果見ずに使用できないので一つ屋根の下で二股してる寝ぼけの」

「まーくんに?」

つーんと拗ねてしまったカナコの口から、とてもまずいことを聞いた。
浦島家以上に複雑な事情もってる三人にお裾分けしてきました、何となくまーくんに食べてもらったら
元気になったようなのでオールおっけーです、とのこと。

「もう手遅れか、いや信じてる、信じてるぞ同じ兄弟をもつ者として」

「説得力ないです。わたしはずっと一途に」

「わぁー脱ぐなっ、壁っ追い詰められたっ?!」

賑やかな浦島家。






---中略---






手紙にはこんなことが記してあった。

連絡を両親に潜伏先を伝えていたが孫馬鹿には勝てなかったようだ、泣き落とされたらしい。
老い先短い老人の幸せを取り上げて、なんて親不孝なんだとか言って冒険の助手に若い二人を連れて
行きたいだけ楽しみたいだけ、そんな人だ。楽しいけど大変なのだ。

カナコは変装と格闘が身についてしまっていて、女の子らしくないと嘆いていたが景太郎だって家事と
不死身で桁違いに優しい。それでカナコは焼餅を焼く。

「また何なんだい、それは」

ここでの最後の朝食。
おばあちゃんからの贈り物、以前きてた小包に紛れ込んでいた惚れ薬とか何とかいうの残りがあったらしい。
・・・あやしい。

「効果すごかったらしいぞ、解毒剤届けてきたけどギリギリだったしマーくん泣いてたぞ。
だからもうそれは捨てなさい」

「そうですか。残っていたのすこしですけど是非」

聞いてないカナコ、ものすごい笑顔で受けとらきゃ罪の意識で苛まれそうだ。女の武器ってこわい。

マーくんちの昨日の修羅場の再現だ。
あの時、何故かお客さんに来ていた副会長ポストの子と双子たちのどっちともに迫られてたのは知らないふり
しそうになるほど恐かった、三人同時に服用させることができて本当に良かった。
あとは折角のチャンス失敗し無言の女性陣とマーくんに平謝りしてきたのだが、カナコは懲りてない。

自分もとやかく言えない妹と二人の住環境だ。
カナコは思い切りがすこぶる宜しい性格になった、ほほほっと笑う誰かに似てきてる。

でもまだ甘い。

「飲んで、あ、飲んじゃった・・・」

「ここでの最後の朝食なんだぞ波風立てずに終わりたいんだけどなあーカナコ。もう半年・・・
長かったような短かったような。別れの挨拶しにいくか・・・確認しておくけど解毒剤まだあるか?」

「嘘だとどーして分かったんですか兄さん?」

「いつも見てるから何となくな、カナコは来年高校生だもんな、ばあちゃんに連れまわされないようにな」

「・・・・ふぅ、あーあ、無駄になっちゃった。
お兄ちゃんと同じ高校に行きたかったんですけど、付き合うことになりそうです浦島ですし」

「そっか、うちは女性が強い家系だもんな。
海外のスクールだと思うよ、ばあちゃんも国内はあらかた見たと言ってたし」

学校と役所、別れ惜しまれて二人は実家の和菓子屋に帰ってきた。
半壊してた。
キッチンと営業は倉庫を急遽使用していた。
久しぶりの我が家は何故か半壊していたので、二人はまた信濃でのサバイバル継続。テントぐらし。

「あーはははーごめんねー、ひなた母さんを父さんと説得してたら何時の間にか決闘になっちゃって」

「母さんもあいかわらずだね。
元気そうでよかった、でもカナコぐらいは屋根あるところで寝かせたいんだけど」

「ふーん。お兄ちゃんしてるのねー東大言ってた馬鹿息子め」

「いいからホテルでもいいから少しの間さ」

母は成長していた我が子に説教して、カナコの視線を探ると離れたくないようだ。
豪儀な性格は遺伝。
でも、息子と養子ではやくも孫は避けたい若き女性でもある。

「困ったわねー」

京都行って来い。
父親から出た言葉は東大だけじゃない、他の大学にも興味もてということらしい。知り合いもいるそうだ。

「観光都市だしあっちなら宿泊施設も充実してるでしょ、泊めてもらってきてもいいわよ。あの人たちなら
歓迎してくれるから存分に腕を振るってあげてきて、聞いているわよ景太郎ってお菓子作りできるのよね?」

「まぁ」

「カナコとばあさんのお墨付きなら大丈夫だろ、行って来なさい」





た目指していたが、ばあさんに巻き込まれカナコと日本各地をまわる羽目となってしまった。
何を考えているのか幸せ一杯のカナコに妙に危機感を持って、床は別部屋を用意して勉強をしたり
二人で格闘訓練に精を出したりしていた。
各地の和菓子屋や洋菓子屋によって味を盗むのが景太郎の癖だが、妹は青い顔して痩せ我慢の笑顔