枯れた花_後の章










この人は一体なにをしてるのか?
島津由乃さまと二人でご自身の噂の真相を確かめているとは思わなかった。
親友にはやはり隠しておきたいのか・・・それは私も確かに思い当たる節が無いわけではない。
いまの祥子お姉さまの状態を、口が堅いとは思うけど乃梨子さんには話さなかった。

前を歩いていた祐巳が立ち止まり、ここなら誰も来ないね。なんて笑って・・・笑って?

「ではいきなり本題で申し訳ないのですが」
「イヤ」
「・・・・はぁ。
まだ何も話してませんけど、何かおっしゃりたい事でも?」
「ふふっ、怒っちゃった?でも理由があるんだよ。
うん。さっき、見てたよね。由乃さんとふたりでいるところをさ」
「気がついてらっしゃったんですか、私たちも詳しくは聞いてなかったので
それにあまりにも曖昧な噂でした。ですからこそ気になる事はハッキリさせたくて・・・違います。
こんな話をお聞かせする為、ついて来たんじゃないです」
「それで、どんな噂なのかな?ほら誰も私に教えてくれないから知らないの」
「・・・私が聞いた限りでは、祐巳さまご自身が一番知ってらっしゃるかと」

うーんなんだろう、ドジなネタだったらやだなあなんてやはり笑って・・・。
噂どおりなら落ち込んでいるはずなのに、やはり変だ。
私に対する態度も、何か罠がある気がする・・・この人はそんな器用だったか?・・・私の考えすぎか。

「それで私に用ってなにかな」
「吉報じゃあないですよ、どうしてさっきからずっと笑ってらっしゃるんです・・・。
それが私には、気になって仕方ありませんのでそちらのお話を先にどうぞ」

昨日はとても良い別れかたではなかったはずだし、私も少しは気にしていたのに。
ノーダメージとはどういうことだろうか・・・。
あの日あの後、祥子お姉さまから電話なり何なりフォローがあったのかもしれない。私の知らない所で
信頼築いた二人なのだから、姉妹なのだから・・・だからって納得できないのは私の性格のせいだろうか。

「そう?ちゃんと答えてね。松平さんは何時なのかな、未だなのかな、そう考えていたの」
「何がですかそれ、具体的に言って下さらないと」
「・・・松平瞳子に聞きたいこと、福沢祐巳が知りたいこと。分かってるでしょう?ね♪」
「からかってらっしゃるんですか」
「駄目だよ。あなたは答えるの、それしか許さない」
「だから、え・・・」

一方的に祐巳を皮肉と不安をぶつけるつもりでもあった、そして祥子さまのこころにある
大切な妹が本当にそれだけの価値ある人か試すつもりでもあったのに。
そして、私が思い知らせてあげるのだ。
祥子お姉さまはあなたのような、ごくごく普通のリリアン生徒がいつも声かけてもらって話して
よい人ではないと。まして妹ならば、相応しい人間が私以外にいるはずないと。
ずっと前から瞳子のなかでは決まっていたこと。

現実にはそう上手く事は進んでくれなかった、祐巳の怖い目に硬直をしてしまう。
理解が遅すぎた。
祐巳の目は全く笑ってはいなかった、楽しそうに聞いてくる声が無邪気でこわい。

「あ・・あ、はっ・・・あなたは」

その表情見て思う、祥子お姉さまが怒っている所なんて不機嫌だからで片付くから簡単だと。
激情とは反対の落ち着いた色を湛えた目は、演技を見ること肥えた私に真実の深い恐怖を与える。

喋ろうとしてもガチガチと歯が鳴るだけ。

「ねえ」

視界一杯になるほど近づいてきた祐巳、目を吊り上げ凄んでみせる。
あの愛嬌のあった顔に鋭い瞳は似あわないものと、思い込んでいた。酷い独り善がりだった。

「ねえ」

笑いが消えてようやく自然な表情、彼女の手が肩に食い込む。痛くはない。
逆にだからこそ逃げれない。
その顔のまま私は何をされてしまうのか・・・福沢祐巳が怖い。
リリアンの上級生が下級生を叱るでも過ぎた態度だと思う、だから止めた人がいた。

「答えてよ」
「そこまでよ、祐巳さん」
「志摩子さん?なんだ、やっぱり邪魔するんだね。白薔薇様だから仕方ないか」

誰も来ないところは、元々は藤堂志摩子さんに教えてもらった場所で
白薔薇、白薔薇のつぼみ、つぼみの妹は概してこういう場所に惹かれている。

当然かもしれない、ひとり二年で薔薇様をしている志摩子さんが異質となった私に注意するのは。
でも、他の薔薇、他の姉妹に邪魔しないで欲しかった。
そりゃ確かに今は松平瞳子は私の妹でもなければ、いまだ小笠原祥子の妹でもないけれど。

「祐巳さんがその子を泣かせているところなんて見たくないわ。
どうか、今は逃してあげて」
「・・・志摩子さん。・・・やだよ、奪わないでよ、お姉さまを、スールを」

俯いて震えている声、再びあげた顔は悲しそうに、それに志摩子は騙される。

「これは私のオモチャなんだから、泣かしてもいいでしょ・・・飽きるまで泣かせるの」
「え?」
「いいでしょ?ね?」
「・・ぁ」

ほがらかに笑って松平瞳子の首に手を這わせる。
睨みつけようと決意は固まったはずなのに、祐巳の言っている事と表情の不一致に何も言えないでいた。
凄まじい歓喜を抱え込んでいるのに、悲しみに泣きだしてしまいそうな極端な二つの感情を併せ持ち
バランスはいつ秤ごと落ちてしまうような危うさを見た。
嘘でしょ?
祐巳さん。
やさしくて誰にも辛くあたること出来なくて・・・そんなあなたがと問いたかったが狂気に飲まれてしまった。

「ひっ・・・・ぁ・」
「瞳子ちゃんって、私に酷いことして嬉しそうだったよね。
あなたが来てから私はお姉さまがわからない。わからないまま奪われちゃった」
「離して、ください・んっ」
「逃がさない。逃がさない。」
「やっ、やめて、きゃ・・・来ないでください!」

志摩子の目の前で祐巳は隠していたものを表に出す、急激に変化する表情。
怖い。見ないで。
睨みつけられた相手は震えるしかないだろう。
タイに手をかけられた瞳子も必死に抵抗して縺れる二人。
止めることもできず言葉なくした志摩子に助け舟が現れる。
ここでは本気でなかったのか乱れていた制服を整える祐巳、警戒していた瞳子は不意に身を翻らせて行ってしまった。

「あ、いた祐巳さんっ・・・志摩子さんも一緒にいたの?私だけ仲間外れにしないでよ・・もぅ」
「え、志摩子さん」
「あ・・・・乃梨子、由乃さん」

ちょうど島津由乃と二条乃梨子も現れた。
事情説明を求められ、一人でも右往左往するのに二人相手など志摩子には荷が重過ぎて
何も言えないでいると・・・祐巳が何ごとも無かったように振舞って説明してくれた。
清々しいぐらいの大嘘を演義に見えない顔で。

「志摩子さん!瞳子は一緒じゃないんですか何処に行って」
「あれいないの?」
「ええ」
「やっぱりあの子ひとりの暴走でしょ祐巳さん?もう気にしなくていいから今日は帰ろう」
「由乃さんでもいいの?噂の出所さがすって言ってたのに」
「う、ん・・・興味なくしたのよどうせ熱しやすいわよ私。悪いね友達なのに」
「友達だからでしょ慣れてるよ」
「正直モノメ」
「気にしないで、私も気にしないよ。でもなんとなく分かったちゃったんだけど
瞳子ちゃんと少しだけど話したから事情はおおよそ知ったの」

由乃と仲よく、温かな光景のはず・・・その祐巳の笑顔が偽ものだなんて思いたくない。 凍る背筋はなかなか溶けない。

「志摩子さん!志摩子さん、しっかりして!教えて瞳子は?どこっ!?」
「え、走って行ってしまったのよ。どうしたらいいの、私・・・ごめんなさい乃梨子」
「わたし追いかけますから」

しかし、志摩子にはかつてのお姉さまのように自由な行動への力と意思があるわけではない。
友達である二人、そして妹の友達との間で揺れていたのが理解できてしまっただろう。
乃梨子は鋭い子だから。
わたしのように弱くない。

妹に急かされて松平瞳子が行ってしまったことだけは話すが力にはなれそうもない。
役割を果たしているとは言えない。
いま即時実行と冷静な判断を下せる人間のほうがよっぽど頼りになる。
さっそく追いかけようとした乃梨子だが祐巳のひとことで立ち止まらざるえなくなる。

「由乃さんはどうだったのかな、噂のこと聞けたの?」
「・・・まーね。誰が流したのかは真美さんならもう掴んでいそうだけど参考に教えて」
「・・・瞳子ちゃんが言ってたみたいなの。
ほら私とお姉さまちょっとあったから、あの子邪魔なんだよね」
「「え?」」
「祐巳さま?瞳子が、そんなことするはずないじゃないですか。根も葉もないことを」
「・・・・・・・祐巳さん。
それって本当なの?あ、だからさっき話をしたのね?意外と度胸あったのね。
祐巳さんたら、ずっと紅薔薇さまにくっついてたもんね・・・ん」
「・・・」

由乃は違和感を感じて、でもそれでも自分を納得させた。親友の言葉だから。
彼女が話してくれたのだ、何かあったら励まそう。応援しようとおもっていたけど。
それほどのことがあったのだと思った。
彼女が進んで他人を悪く言うなんてすこし信じられないでいたけど。

しかし白薔薇は一線を引いていた。
今さっき凄惨な笑みを見せた祐巳さん、今は少し落ち込んだ顔で事情の知らない後から来た二人を
罠にかけていた。言葉が出せない・・・なにをここまで彼女させるのか。
得体の知れない悪いもの。それから彼女を守るべきだった私、親しいはずだった私。

あんなに仲が良かった山百合会の中でさえ見過ごしてきた破滅の予感、志摩子が信じてきた愛情が
こんなにも呆気なく壊れてしまうものだなんて思わなかった。
虚脱状態で佇むことしかできない。
彼女は無垢で、だから祥子さまから無条件に受け取ってしまったに違いないのだ。
うわさ。
捨てられた妹。
心を冷やす雨の中にいる祐巳さん。
その時に傘を差し出してあげれたのなら、祐巳さんは・・・。

「志摩子さん!?」

由乃さんが驚いているけど祐巳さんの腕を取って、至近距離に近寄りささやくように話す。

「ゆ、ゆみさん・・もうやめてお願い」
「ふふ・・・・優しいんだね。
あんな子にも志摩子さんは優しくできるなんて、ほんとうにマリアさまみたいだよね」
「・・・・・そんなことない。違う。
わたしは傷ついていないもの、祐巳さん」
「志摩子さん心配しないで、泣かないで。ほら乃梨子ちゃんが心配してるじゃない」

「うん。由乃さんごめんね。嘘ついてごめん。 この頃お姉さまが瞳子ちゃんと一緒にいたでしょ、私が捨てられちゃうんじゃないか。 だから・・・・」 「あ、あのね・・私はもうやめたっていいと思う。 約束だって律儀に守って、自分が無理してるって自覚あるんでしょ?距離置いた方が 身のため」 「よくありません、そのままじゃずっと誤解したままじゃないですか。 瞳子を悪者にしないで!」 「そうだよしないよ」 「え?祐巳さん?なんで庇うの。 それに乃梨子ちゃんさっき言ってたことと違うじゃない」 彼女が仕掛ける罠に進んでいく妹、落とし穴があるのに見えていない。 挑発している でもまさかそんなことを望むはずが・・・。 「祥子さまに原因があると思うの、だから悪くはない」 「それを言うのならね祐巳さん。松平瞳子が星でなくても噂を否定するなり何なりしないと」 「ホシって刑事ドラマじゃないでしょ下手人あたりなら何とか納得」 「あのねえ」 「じゃ黒幕」 由乃は明るく話そうとしている祐巳に気遣って剣先を鈍らせられた。 呆れるようにオーバーリアクション。 「由乃さま」 「よしなさい乃梨子」 イライラして乃梨子は瞳子に拘わろうし、志摩子は妹を止めてしまった。 「どうしてですか!」 「意味のないことよ祐巳さんにとっては、今は乃梨子が追いかけなくて良いの?」 「でも」 「私が約束しても不安なの?」 「いえ。・・・はいわかりました」 「ごめんなさい」 乃梨子も志摩子にこんな顔させてまで祐巳に今何かを訴えて得たいことなど、形にはなっていなかった。 もやもやしている嫌いな気持ちをすっきりさせれないのに、いまの自分に出来ることは少なすぎた。 追いかけて探して見つけること出来なかった。 あんな状態の瞳子、親しくなったのは皮肉と礼儀がちょっと気に障ったけれども今では良い仲だから 救えるなら上級生相手でも構わない。 「祐巳さまお話があります、私と今からいいですか」 「え?」 「ふーん・・どうするの祐巳さん?」 黄薔薇のつぼみ島津由乃が一緒に帰ろうと約束した相方にたずねる。 明日でもいいじゃない帰ろう? そう言外に言っているが、二人で乃梨子の面倒そうな頑固そうなお話しをしたくはないのだろう。 それに上級生二人がかりで白薔薇のつぼみ二条乃梨子をまた、そうまた、いじめるみたいにはしたくない。 「いいよ二人で乃梨子ちゃんを無理やり説得したくない」 「ええそうよね。むしろ祐巳さんが説得されないか心配だけど」 「ええっ酷いよ由乃」 「ふふ」 「ごきげんようまた明日」 「祐巳さん明日、会いましょう元気で」 笑顔で島津由乃を見送った、その笑顔が嘘には見えない。 でも聞かなきゃならないから意を決して核心を、手を胸に当てて問いただした。 「その胸にロザリオはありますか」 「・・・いきなりだね。うん今は持ってないんだ忘れたのよ・・・どこかに」 「とぼけてるんですか?わたし聞きました雨の中、薔薇の館に入っていく紅薔薇のつぼみが 泣いていたって信用できる人から聞いているんです。だから瞳子があなたたち二人に振り回されてる 山百合会に私は拘ってる人じゃないって思ってましたけど」 「そうだよ認める。 痛いよ、乃梨子ちゃんが聡いから私はこんな甘い方法でしか返せないじゃない。 ・・・私が志摩子さんに関わらなければ、良いんでしょう? いいよ、みんなを騙し通してあげるから」 もう遅いけどね。 そう言われている、真正面から不遜にも程がある。 この人は・・・こんな毒を持っていたのか、野育ちの乃梨子にも効くほどの強力な猛毒。 危険だ。 甘い・・甘い・・甘いのに、甘美だから危険だ。 篭絡されてしまう、鋭利な牙を優しく甘噛みしてくる。 福沢祐巳はそんな笑顔を出来るようになっていた。 「そんなの!偽りの笑顔で志摩子さんと話していられるなんて・・・祐巳さま?どうして! あんなに優しい人だったのに、如何してそんなにも冷たくなってしまわれたんですか?」 「今も私は優しいよ。ただ私にも許せないことが一つだけはあった、それ理解しただけなの 瞳子ちゃんは、突っかかってきたから仕方なかった。 祥子さま以外のリリアンの誰かには、これっぽちも興味ないから大人しくしててね」 その物言いに思わず足止めて大声で批難して、まわりの注目を集めてしまいそうになる。 それを祐巳が先回りして、乃梨子の袖をつかみ間近で忠告してくれた。 「あ、あ・・なたはっ、っ」 「ほら内緒のお話だからあなたは少しも心配しなくていいの、みんなもわかってる。 紅薔薇がどんな状態なのか誰がどうとか・・・例えリリアンでもあり得る。 外界から来たあなたなら良くある話だと思うでしょ、犠牲者は少ないほうが良いと思わない?」 「いいのよ」 復習しか考えていなかった私の愚かさもたった一言で許してくれた。・・・なんて酷い人だろうか。 私の気持ちを無視して逃げだしていたのに、その一言で私はすべてを許したくなってしまったのだから。







☆ 「無くしました」 ロザリオを返してと言われ損ねたが、紛失したと周囲には言っていた。 そして、薔薇の館にも行かない理由を姉の不在を理由に一日が適度な緊張と注目の中で過ぎた。 ●祥子主観 黒い祐巳に衝撃を受けて、あの優しかった祐巳を変えてしまったのは私、何故もう少し なにもかもが急にやってきてしまうのか。家族の死も愛しい妹の急変も。 紅茶を入れてくれて明るくてドジで、いつも当然のように居て溶け込んでいた。 仲の良い二人と、志摩子とも上手くいっていて、由乃ちゃんとも仲が本当に良くて ・・・それはいつのまにか山百合会にいなくてはならない人となっていた。 主人公並に深さと暗さと、自虐を織り込んで 最初は松平瞳子を泣かせたのは紅薔薇のつぼみと、さりげなく知らせた人がいた。 令に聞くと、私のいなかった。 死を悼んで、一日学校を休んでしまった時に。いろいろとお姉さま、水野容子さまが 手を尽くしてくれた事。柏木さんもなにかしてくれたこと、でも・・・。 最後に私に、祐巳は私に会おうとはしてくれなかったこと・・・誰も言ってくれなかった。 さすがに登校すれば福沢祐巳が今、どんな状態か知ってしまうから 令が気を利かせて、いま祐巳ちゃんは瞳子ちゃんと喧嘩して荒れているから近づかない方が良い。 そんな嘘と真実混ぜて教えてくれた。 「それでいつ来るのかしら?」 「今日は来ないと思うよ、ほらそっとしておこう。昨日のはやく終わらせよう」 そっけない、もう私がお姉さまに立ち直らせてもらったからか それとも・・・なんだろう祐巳に関わらせないようにしている?馬鹿馬鹿しいわね。 姉妹でないというのに瞳子に甘かったのは家の事情を知っていたから、少し彼女の気遣いに 祐巳の姉としての役割を放棄してしまった。 その間、何もしてあげなかったどころか彼女の優しさに甘えるだけではなく 祖母の心配ばかりして、構いもせず会う度に表情曇らせて、最後には冷たい仕打ちをしてしまった。 「お、お姉さま?どうしてここへ」 「・・・私じゃ不満なの、祥子が心配なのよ。ほら」 そんな私でも姉が救いをくれた。 白薔薇さまが臥せっていた私を知って、連絡してくれていた。 だけども、福沢祐巳の変化には誰も気がつけなかった。 心の中での大きな変化を、表に出せなかったこと・・・その理由がすれ違いだなんて悲しすぎた。 容子の優しさ、姉の優しさと妹の役割はそもそも気負いしていた祐巳に道を示した。 だから祥子に直接関わりを持たずに、本人が知らず知らずの内に変化はおきていたのだ。 きっかけは瞳子ちゃんだったけれけど、今ではもう言い訳にしかならない。 姉妹解消する? 小さな身体、健気な心、そして裏の無い笑顔・・・そんな子が姉と慕ってくれたのに。 裏切って捨ててしまうなんて、 でも侮り見くびっていた。捨てられるのは彼女ではない自分だと、知って 私には出来た妹だった、手のかからないタイプではない。 だからこそリリアンでは理想とされるだろう、姉の指導が必要な妹として。 ちょっと落ち着き無い性格に、立派な薔薇さまに彼女を成長させようと私は決意した。 それは誰しも妹持つ姉なら思うはず、例えば彼女が上級生に少しでも興味持って話せば その相手は誰だって彼女が実に魅力的な人物だと気が付く、すぐにロザリオを渡したくなったろう。 その幸運を私は、手に出来たのに。 「私なんかロザリオが先の、とんでもなく非常識な姉だった。 順序が逆、最初っからねじれが出来てた。当然いつか祐巳は私を見なくなる」 その時が来てしまっただけ、早過ぎると感じるのは幸福だったからなのか。 夢から覚めたくなくて、それは思い出せない我侭なのだけど もう言わないから返して欲しい。私の妹を、夢の中へ戻して欲しい。 「祐巳・・・」 道は別れた、人は愛によってのみ喪失を知ることができる。 片時も離れずに生きることは人には不可能、このリリアンにはマリア様がいらっしゃるけど 温かく見守ってくださるけれど、愛を返すことは出来ない。 現場を取り押さえられて勘弁願う祐巳 「虚勢なんか張って、祐巳さんらしくない」 「それなら由乃さんの手で矯正してもらえたのに、今じゃ 志摩子さんでも聖さまでもっていうほど困った子になっちゃってさ」 挑戦的な瞳が返されると、さすがに何か違うと理解してくれたようだ。 「変えたのは・・・祥子さま?」 「まあね、由乃さんとの関係を変える気持ちないから安心していいよ。 嫌いな人を無理に好きにならなくなっただけ、ただそれだけだよ」 「あ、ありがと・・・恥ずかしい事いわせるのは変わらないね、安心した」 「人に優しくできない私を私でさえ好きでいれるかわからないけど、親友のつもりだから」 島津由乃は 驚いた。 「由乃さんには分からない!福沢祐巳がどうしてお姉さまを切り捨てたのか・・・」 「捨てた!?本当に、祐巳さんがそんなこと」 「あなたが羨ましかったの、知らなかったでしょう?でも知らなくてもいいの。 姉妹の形が違うと知ってるから気にしなくても、わたし由乃さんの『友達』でいるよ。いたいよ」 「ぅ・・・今それを言わないで私だって友達だよ、でもそれなら なお更・・・何故、あの分からず屋の祥子さまに教えてあげないのよ。 革命ぐらいであなたを見捨てるとでも思った?見損なわないで」 「・・・・由乃さん。・・・・あの時までお姉さまにただ一人愛を貰って、常に満たされていたの。 でもね、幸せの絶対量が二等分されたら私は足りないと感じる。 自覚したのはその時が初めてだった。 しかも、それだけじゃなく新しく現われた瞳子ちゃんより少なかったら?・・・あげたくないって」 「祐巳さん?」 血の気が引く笑顔を見てしまった由乃さん、祐巳が視線を外すまで余裕など消え去っていた。 「・・・取られたくない、そう思ってしまった。 愛が無償だからこそ、私がどんな努力をしても元通りの愛は取り戻せない。私って欲張りなんだよ」 「デートを何回も延期してでも諦めなかった、諦めていたら関係冷たくなって こんな出来の悪い私でも、支えてくれる妹でも欲しがったかもしれないね? 分からなかったんだよ自分がこんなにも欲深だなんて、ただ見ていればこんな思いしなかった。 容子様に遺言までされていたのにね、頼りない、勤まらない、私はここまで。脱落しちゃったんだよ」 あははははは涙流して笑う、彼女をぎゅっと抱き寄せた。 瞳子はいない 乃梨子は外野、祐巳とは縁の無い運命らしい。 喪失してしまったのに、もう戻らない半身を新しく代えるみたいには出来ていないしなれない。 だから・・・言葉に出さずとも。 「 」 「駄目なのね」 「・・・はい」 -------------------------------------------------- ダーク。枯れた花。 レイニーは山百合会を去る祐巳で良いかもしれない。 そこに救いなんてない。 求めていないものを無理矢理押し付けてはいけない、水野容子はそう思う。 祐麒も祐巳が苦しんでいたことを知っているからそう思う。 福沢祐巳はリリアンという閉鎖された世界を敵にまわすだろう。相手にもされないだろう。 ただの一般の生徒に戻っただけ、戻ったのだから。 由乃も志摩子は敵にはならない、でも味方にはなれない。 つぼみだから、その免罪符がある。 助けようとしても祐巳が手を伸ばす意思がないのだ、だから二人は悔やむだろうし 瞳子や乃梨子は敵。 祐巳は結果的に果たせるだろう、容子の望みと遺言を。 山百合会の破壊という行為をもって。 三人も会長はいらない、ただ私がいればいい。 ------------------------------------------------------------------- 数日後。 傷癒えてはいないが容子に助けられ、リリアンに登校してきた祥子。 祐巳は今日は登校しているという。 朝に姿見た人はいたけど、その後は教室にも来ていないらしい。どこにいるのか? ロザリオの授受する二人、居合わせた祐巳。 「お幸せに」 →追いかける。 →気まずい二人となる。 どっちがいいかな・・・ -----------夢のおわりに -----------(Ex愛にすべてを