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島津由乃とは初対面でお互いに必ずしも好印象ではなかった。その時の福沢祐巳の精神状態は最悪で
相手が両親でも、家族だからこそ酷いことを言えた。
病院の集中治療室から一般病棟に移っても、ただじっと悪夢に耐える日々が続いていた。

「もう起きれるようになったんだ」

部屋の真向かいには、持病の定期的悪化に大事を取って入院していた少女がいた。
静寂に沈む病院でも極度に音がないと喧騒より酷い気分にもなる。
間。
あるごとに目を合わせてしまった結果、同年代と気が付いた。珍しいことに由乃から話し掛けた。

「ええ・・・」

「ごきげんはいかが、この病院は長いんだけどあなたみたいな女の子が隣りに来るのは珍しいから
声かけちゃった。ねえどうしたの?起きれるよね?手・・」

「・・・なんでもない」

貸そうとしていた手からサッと逃げられた、そんな相手に特に気分害した様子もなく話しつづける。

どうしてか、彼女を見過ごせないと思った。
一人で、いつも一人で、家族が来てても一人で、何か呟いていて事故が原因の傷が癒えても心を
病んでしまった子が私なんか見もせずにいたのに。私を悩ませるあなたを放っておくわけにはいかない。

そう仕方ない。

「わたしいつも読書してるの知ってるよね、何を読んでると思う?姉が買ってきてくれるの
ちょっと気が利かないけど。自分も読書はするのにね」

「知らない、わたし本読まないし」

「でねその姉といっても本当はいとこなんだけど、家が近くで仲良いから来てくれる度に
本が結構増えて困ってるのよ。剣豪小説どう?あなたいつも暇そうにしてたから、学校はどこ?
ああ・・・そう言えばもう、残念ね時期的に遅くなりそうで不安なんでしょ」

「興味ないから、ないから一人にして。一人にしてよ。
ナースコールでも何でも使って返してあげるから私に関わらないで」

「何よ。え?ちょっと本当に、仕方ないじゃね」

一方的に話しかけられているだけならまだ良かった、日々の不満でも何でも幸せそうに話せる彼女が
許せない。その笑顔を見てしまうと思い出してしまう人がいる。
だから、その島津という子がめざわりではじめましての日はそうして別れた。

それから二日。
意外に気が強いその子が心臓に欠陥があって、昨日の夜から通院に切り替わったのを知った。
・・・看護師さんたちの会話を耳に入れただけで別に気にしてはいなかったのだが。

「ふぅーんまだいたの?」

それからまた四日経ち島津由乃というらしい、いとこ姉に強気の病弱少女が現れた。
・・・そういえば祐麒がリリアンの同級生とか、言っていた。そっか、姉とは・・・スール。

「ますます嫌な目になってるわね、福沢祐巳さん」

「今日は何?いえごきげんよう」

「───うんごきげんよう不機嫌なつぼみ、学校出てくるまでには
私みたいに心も直してもらいなさい」

「つぼみだなんて・・・・それは私じゃなくてあなたですよね。
未来の薔薇さまにご指導いただいて光栄です、どうか気になさらないでください」

「祐巳、あれ?こちらは」

「あらご家族の方ですよね、隣り部屋に入院していた島津由乃って言います。はじめまして。
福沢さんとは奇遇にも同級生ということになります、退院を一足先にしてリリアンで待っています」

「こちらこそ祐麒です。花寺なんです弟と姉で今年から通いたかったんですが」

「出て行って」

「出ましょう」

「祐麒も出て行って」

「祐巳。おまえ。折角来てくれたのに、この前も友達無くしそうにしてその態度どうにかならないのか」

「・・・いいのよ。もう退院でしょ誰も来させないでいいわ、勿論あなたも」

悲しむ時間はたっぷりあったし、思い出とトラウマを整理できる時間も残酷に過ぎ去ってはいたのだが
リリアンに行くにはまだ少しだけ時間が必要。外の傷の完治にもあと数日の猶予があったのだ。
祐麒と違い自分を未だ失ったままの祐巳はさして重要でないことにも、本気で怒りを見せるほど
不安定でこうしてにらみあうこと多々あった。今は姉と弟どちらも譲らなかった。

「お邪魔したわね、ほんと自分じゃ直したいとは時々思ってるんだけど。
気にしないで学校でもアレでいじめたりしないから、わたしそんなじゃないからね。じゃこれで失礼します」

「あ、待って」

過干渉をそもそも好まないのは鎖絡まる体持つから、息が詰まりそうな緊張を
わざわざ味わいたくなかった。病室を出ると後から福沢祐巳の弟さんが出てきて由乃に話し掛ける。

「待ってください。あの、少しいいですか・・・戻るのは嫌でしょう。
そこで座って聞いてくれませんか・・・突然失礼だなとは思うんですけど、島津さんは確かその黄薔薇とか」

「ええ黄薔薇のつぼみの妹と言われますが。
いいんですか放っておいて、あのままで?わたしに何か」

「祐巳にはもう少し考える時間が必要なんです、もしかしたら・・・リリアンへは行かないかもしれない。
それに島津さんに聞きたいこともあるんです。
父から頼まれてもいるので、知っておきたいんです。私立リリアン女学園のことを教えてくれませんか?」

そう言った祐麒、彼にも翳りがあるのを感じる不安や恐れなどには敏感になのだ。
自分自身の心臓の随分前からの決まりごとを常に忘れずにいるから、気が付けたのだろう。
でなければ本当はもっと積極的な性格を表に出して、相手のことを少しも気にしなかっただろうから。

そういえば母親の姿を見ることはそれほど多くなかった、どうしてなのか?
いつも見ていたのは友人や父親、弟が多かった。

「確かリリアンには姉妹制度と言うものがあるとか、それで僕も父も心配してるんです」

「心配・・・ですか?」

「詳しいことまでは知りませんが母がOBなので以前から少しずつ聞いていたんですよ、その時は何とも
思いませんでしたが今は少し状況が違ってしまって・・・祐巳はずっとリリアンだったので今さら
ほかになんてと思うんですが・・・父はそう思わなくて転校を本格的に準備しているんです」

「入学はしてるんですよね、それに・・・ちょっと待ってください」

何か隠してる、意図的なのか本能的になのか分からないけれど
リリアン高等部と言ったらスールというほど特徴的な学校公認の制度なはず。

「なにか」

「こんな風に言うのはなんですが今さらと思うんです、だって母もリリアンなら
・・・あの、今日は来てないんですか?退院近いと聞きましたけど」

「来てはいるんですがあんなことあってから二人の間はギクシャクしてしまって、母が落ち着くまで」

「何が、いえやめておきます。軽々しく聞いてしまって後悔を押し付けるのはとっても嫌いですから」

「うん気が楽になるよ、はぁ・・ありがとう」

優しい言葉を女の子に言われたのは久しぶりだった、後悔なんて押し付けるものじゃないとか
言われたのは初めてだ。本当のところ疲れていた、父が母を自分が祐巳をつききりとはいかないが
見ていて夕食の話題は一ヶ月ほど祐巳の病状・・・それだけ他には無い。
その一ヶ月前とは同じ家庭とはとても信じられないほど、悪い空気。

祐麒には頑張って下さいと労いの言葉をかけて別れた、次の来院でも予定では見舞いなんてせず
帰宅するつもりだったけれど、何故か令ちゃんに言われた言葉どおり気にかけてしまう。

「他人でいれないのよね」

「また来たの・・・」

「その目やめたら許すけど」

気が向いて行けるような人物の居る場所ではない、相手は悲劇のお姫様気取りに違いないのだ。

「許すも許さないも、私あなたに迷惑かけてないでしょ」

「たとえ自覚なくても私は十分にあなたに訝り感じてしまってるの、分かる福沢さん?
自然治癒しない、そんな生まれつきの傷抱える私から言えば甘えてる」

どんなこと言えば祐巳を打ちのめせるか分からないから、次から次に責めた。

「少し入院した程度で心配かけさせてるんだから、ちゃんと安心させるぐらいしないと恨まれるわ。
その程度ならましかもね、あなた家族にさえ酷いと思わないの?
何に囚われてるか知らないけどね、あなた自身よりも優先すべきこと?そうしていて守れるの?
忘れられてしまったら本末転倒だとは思わないの、どうするの?ねえ」

「言いたいのはそれだけ?まだあるなら勝手に話してて」

「大切な誰かみたいに」

由乃の口を閉じさせるのは諦めた、反応するのを待ち構えていると見透かしたつもりだった。
だからナースコールには手を伸ばさずに明後日のほう見て無視を決め込む、この対応が正しい。
でも予定外にヒートアップせざる得なかった。

「シスコンもほどほどにしてよ」

「・・・誰に聞いたの、でもそれだけで理解したつもり?できないわよ!」

仲違いしても心底信頼はしてた祐麒が部外者で、しかもつい先日会ったばかりの由乃に話すなんて。
ああ、そうか仲良くなったんだ。
祐麒だって心底好きだったはずなのに、そんなに簡単に忘れられるの?薄情者!

「姉さんを悪く言わないで、あなたなんかに祐麒も・・・なんで?
贋物の姉妹なのに分かるわけないよ、どれだけ私が姉さんを好きだったのか」

「偽もの?ふぅん」

「さぞかし立派なお姉さまなんでしょうね手のかかる妹をお選びになって」

「この、わからずやっ!」

わかってないのはそっちもだ。
・・・確かにいつのまにか一緒にいた、令ちゃんが姉になると言ってもピンとこない。
付き合い始めは近所や血縁で、本人の好む好まざるに関わらずだったはずだ。
我ながらトラブルメーカーだと思う、今もこうして喧嘩腰で・・・でも、私から決して離れていかなかった
令ちゃんに対して感じてる純粋な感情を、この祐巳はいとも簡単に言い切り捨てる。

そう・・・そっちがその気なら逆鱗に触れてあげる。
どれだけ激高させても嫌な目をやめさせる、作った壁の内側でも彼女の耳に由乃の声は届くはずだ。
だって私本気だもの、舐めてかかった人には火傷させて誰に目つけられたか分からせる。
今だから。私が祐巳以上に姉依存している今だからこそ言おう。

「目を覚ましなさいよ、甘える相手にだけは迷惑かけちゃあ駄目じゃない。
それがもう謝れない相手なら尚更でしょ・・・私はそう思ってる令ちゃんにはそう伝えてきたつもり」

「なに、なにを!どうしてよ!私のこと否定ばかりして、出て行ってよ。
あなたなんか愛しい───いとおしいお姉さまのところに帰ればいいでしょぉ」

もう会えないのを知ってるのに。態々ここまでいじめに来なくてもいいでしょう、強いひとに
守られていないと弱いわたしは泣き言しか言い返せない。今まで心を檻に閉じ込めてきたのに誰にも話さずに。

「素直に帰ってもいいのよ、本当はね私がここまで祐巳さんにこだわっているのは
実に個人的に理由からで弟さんに頼まれたからではないのよ。だから言う。
何故失った意味を考えないの?
私はずっと考えてきたわ、心の臓に刺さった棘がなかったら姉との関係は変わっていたか」

え?

「どうなのか、ね。
弱虫になってちゃ私も失う恐れを感じつづけないといけなかった、馬鹿みたいでしょ?」

笑って言う島津由乃に熱くなった頭を冷やされて沈黙する。
なんなんだ、この子はと思う。
目茶目茶に貶めて、私を姉をそして自分さえ例外でなく・・・そんな簡単に負けを認めていいのか。
───もしてかしてとても不愉快なことだけども、最初から一人で道化演じていたんじゃないか?
だって、そう・・・。

「教えて欲しくなっちゃったんだ、私。由乃さんあなたのことを知りたい」

「なんだようやく通じたのね鈍いんだから」

友情はこうして病室で始まり、令からの伝言へと至る。


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「どうなるのかは私にもわかりません祥子さま次第です」

「由乃は決断したよ手術を受けると言ってロザリオを私に・・・本当に心配、駄目だな私は」

「え、なにを」

「ほとんど成功すると言われたけど、こうしてロザリオ返されると。そして、祐巳ちゃん」

由乃に言われた。
もし私がこれをもっていくなんてことになってしまったら
令ちゃん一人でも大丈夫とは思うけれど、祐巳さんに渡してあげてもいいよ。
私の願いは聞いてくれるよ、本心だからこそ卑怯なんだけど。
最後には納得してもらえると思うの。
だってきっと祐巳のお姉さんは私の姉になってくれるはずだもの、冗談よフフ・・泣くな令ちゃん。

「令さまやめてください由乃に失礼です。私も祥子さまから逃げたりしませんから」

「そっか」

どんな結末迎えようとも今は小笠原祥子と福沢祐巳が、互いに。
思いあっていけるのか、姉に相応しいのか、妹でいれるのか、考えつづけているはずだ。
そこに、横槍を入れるなんてことはマリアさまだって許してくれない。

「そうだね」


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ほんの少し時は巻き戻り場所は福沢家へと移る、時刻は前日未明。

「祐巳は結局、その劇に出ることになったんじゃなかったか?」

帰宅してすぐに家族に何度も言われて、隠すことでもなかったので山百合会での多くの災難・・・
祐巳はそう思っている。
それは言わずに、シンデレラを演じる一人として練習あるだけと伝えた。

「たいした事ないよ」

「本当にそれだけ」

「クラスメイトの志摩子さんもでるし」

「志摩子さん?それって藤堂志摩子さんだっけ少し聞いたことある名前のような気がする」

「・・・祐麒あとで話さない?興味あるでしょー」

「なんだよその含み笑いは」

白薔薇のつぼみであることなどは言わず巧妙に、友達と一緒に脇役であるかのように誤魔化した。
でも祐麒だけは何故か本当のことを知っているそぶりを見せたので、後でお話をすることに。

結果的にこれが祐巳を危機から救う遠因になるとは本人も思いはしない。
まるで我が身のことのようにリリアンで何が起きているのかわかっているらしい、それを不思議には
思いつつもやぶ蛇を避けるため花寺の話しを振ったが明らかに回避された。
・・・なにかあったのだろうか?

「花寺もリリアンも一緒だな」

「何がー?花寺でもなにか今の時期あるの?手伝いに来るらしいけど」

「ん、少し耳にしただけ。それより同じなんだな劇だなんて思わなかったけれど、祐巳は風邪ひいて
知らなかったままだけどリリアンのマリアで」

「・・・風邪?・・・・あ、そっか姉さんもしたんだ」

「ああ」

「どうしてだろ?わたしなんて似合わないよ。まして姉さんがしたと聞いちゃうと」

「でも大根だったよ、リビングでさ。それならお前も見たろう?」

「えー・・・そうだったかなぁ?」

「だから、あの時怒っていたろ?俺だけにだったかな・・・でも、だったって言ってるだろ」

「ふーん?」

「信じてないな」

意図的に学校のこと話題にしないけれど、ぽつぽつと言いたい気持ちも出てきた。
もう弟とは自然になっている。
いずれ母親ともそうなれると思うが、祐巳は同性だからこそぎこちなくなってしまう壁つくってしまっていた。
姉の福沢笙子の話題も避けるのはやめていた。

「うーん?」

「ああそうだよ。祐巳は怒られない子だもんな信じられないな」

「えー?それは疑問?」

「やっぱり素で返すなぁ・・・甘やかされっ子だからなぁ・・・」

「」























福沢笙子 大学あたり?リリアン卒業控え
福沢祐巳 長めのツインテール ひとまわり大き目の祐巳想定、すこし痩せて


柏木 祐麒 話と、そして騒動を収める


─◆設定◆───────────────────────────────────────────

祥子さまは確かに素晴らしいけど、死んだ人には敵わない。
永遠の理想となった福沢笙子は縛り続けている、祐巳を。

■真夜中の真実




張り切っていて活動的だけれどもぷにぷにとかぽえぽえとかなくて痩せてる。
肉付き悪い。病弱さが未だ抜けきれない。
少し由乃さんに似てると表される。
精神的には回復したが塞ぎこんだ思春期の体はなかなか調子が元には戻られないということ。

桂、痛々しい彼女が何を支えにしたか、永遠となった姉のことだろうか。



祐巳を驚かせ、ぽかんとさせること出来たなら、垂れ目ちいうか子ダヌキ顔になるだろう。
普段は澄ましていてそれが高等部入ってからずっと、落ち着いていると思われ
それが普通だったので

愛嬌がこんなにあるとは思われなかった。

表情を崩した祐巳は自然なオーラは志摩子ほどではないが、暖かくかなり穏やかで
人に好かれそうな雰囲気が出るだろう。

上ばかり、理想の姉ばかり見ていたから、眠気まなこ状態でしか今までは

Dancer In The Dark

学園祭、様々な部との折衝
忙しさを考えて、そして今

MEMO
活目せよ賞賛せよ前進せよ
A HEAD A HEAD GO A HEAD!

ほんの少し選ばせただけ

●でも一見普通のまま、なぜならキーワードは『姉さん』だけだから
そう、祐巳に姉妹制度は禁句となってしまった。
事故までは憧れていた、年の離れた姉さんとは高等部で一緒になれない。
スールになれないけど、三薔薇様ではないけど別格の存在だった。
だからこそ偽りでも、理不尽な事故で姉を失ったからこそ『姉』と呼べない。
罪だと思っていた。
祐巳がなりたいと思う、ならないと駄目だと思う実姉。咎、願、…

★かわいい、おさない、ちっさい、ちびっこ、ロリ、ツインテール、黒リボン、子悪魔、

●かたくなな拒否反応。
だから、祥子本人の前では百面相というより悲しいそうな顔しか出来ない。
一時期姉の面影を見たような気がして、興味は持ったけれど違う他人だと分かり
そのことについては謝った。

●反対に
友達や白薔薇のような接し方する人間には、普通にかなりボケボケってしてしまう。