どこが私とは違うのだろう?
頼りにされてた志摩子さんや会うたびに可愛がられていた祐巳さん。
姉の姉、三薔薇さまたちとは白薔薇さまは言うに及ばず、意外と孫を可愛がってた紅薔薇さま。
そして私のファミリーである黄薔薇さまと私は接点がかなり少なかった。

姉妹ひとつ介しての関係では姉妹より薄いのも仕方ないだろうけど、それに加わって病弱だったので
いつも令ちゃんに守られているお姫様としてしか見られていなかったんだ。
でも、今はあの江利子さまのケラケラ笑いが頭に残っている。・・・気がする。



「・・・はぁ〜。これも令ちゃんに守ってもらって来たから
頼りすぎてたから私がこれから頑張らないとね〜・・・とは言っても」



あの頃は一見、島津由乃は大人しめの美少女にしか見えなかった。
今もこうして溜息ついていると想い人がいて恋煩いしている方が似合うし万人に納得できる話だ。
しかし、異性のいないリリアンじゃ恋愛などできようはずもない。訂正、簡単にできない。
それは薔薇さまたちも同じことだったので、特に楽しいこと大好きな憂鬱の黄薔薇さまは気晴らしになるだろう
と生徒会に入ったのだ。昨今はご自身にいい人が現れて忙しくなっていたので、由乃が元気になって黄薔薇好み
になっても、二人の関係が悪化したり親しくなったりと変わることなく卒業されていった。

由乃にとって三薔薇さまとは、志摩子さんの取り合いした祥子さまと白薔薇さまがまず最初に印象に残り
そのあとで親友となってくれた福沢祐巳さんに手を出してきた白薔薇さまやそれを怒る紅薔薇さまと祥子さまが
むしろ近い位置にいて、まさか、卒業してから難題を出してくるなど考えていなかった。
変わっていない性格の良さ、悪さ、に妹にされた令ちゃんに八つ当たりしてみたりしてた。
あの恋愛ボケてた鳥居江利子さまが暇つぶしに出された宿題の内容が内容だけに、令ちゃんにもあたれない。



「期限までに妹を作れというのは乱暴狼藉じゃないの!?
・・・張り合った私も私だけど」



それを解決するため、今夜も私の髪で遊びに来た令ちゃんを玄関先で冷たく追い返して悩んだあげくに。
とんでもない結論・・・祐巳さんを祥子さまみたいにスケープゴートにする、妹にする。
結論に達しかけたので一息紅茶で落ちつかせる。



「やっぱり祐巳さんを妹にするしか・・・内弁慶とはよく言ったものね。親友をこんなに
頼りにしてたなんて、出会ってからずっとあんなにかわいいままの祐巳さんが悪いのよ。もう。
妹・・・妹・・ねぇ?あ、ひとりいるじゃないの」


そう、とっても可愛くて私と違ってすっごく素直で
彼女の笑顔は暖かくて独り占めしたいから妹にしよう!

すぐに快諾してくれるわね。だって・・・・・
その証拠にずっと由乃の近くに居てくれるじゃないか。照れるわ。


「ふふ、ふははははは。ぁは。はっ。はは。
ぴったりじゃないの!あ〜・・・ふふふ、江里子さまも他愛無いわ!わっははははは」



妙に男らしい高笑いをあげて既に勝ち誇っている島津由乃。
そんな彼女には頼りないけど年上の幼馴染、確か令ちゃんという名前の暴走ストッパーがいたのに、今夜は
実家に帰らされてシクシク枕を濡らしていた。





{ゲット・YU}ケース02
















「紹介してね、由乃ちゃん。期待してるわよ」



今思い返しても、つくづく楽しそうに言ってくれてっ・・・紅と白のつぼみを褒めてたし。
ああ、不出来な孫ですみませんね。
両手に華の紅薔薇のつぼみや、桜の下の白薔薇さまみたいに運命的なエピソード提供できなくてっ!

志摩子さんには妹ができてて、祐巳さんには二人も仲の良い下級生がいるのにおかしい。
自分には姉も親友もいるのに妹だけはいない。
二人とも向こうから話し掛けてきたから、実は自分から手に入れようとしたわけじゃないけど。
・・・そんな馬鹿な。
今はもっと行動力もあるはずなのだ。



「やっぱり・・・祐巳さんと親友になったのが大きいかしら?でも部活も入ったし、自由に時間が使えないのは
言い訳にならないのよね」



そんなこんなで島津由乃は一大決心をしたのだ、祐巳絶ちである。
姉はいつものようにベタベタしてくるのを昨夜のように追い返してあげればいい。
福沢祐巳はそう簡単にはいかない。
一時期、罰ゲームとして志摩子にさせたら腑抜けた令ちゃんみたいになっていたので厳しい
ことは先刻承知ずみ。



「今回だけは祐巳さんだって敵なんだから、くっ苦しいわ。
言葉にしただけでこんなに。わたしの心臓大丈夫かしら?」



でも、でも、なんだよ。
紅薔薇のつぼみと呼ばれシンデレラストーリーを歩んだ彼女にだって負けられない。
クスクスと笑う鳥居江里子さまを見返してやるには、今も私に無垢な笑顔で笑いかけてくれる親友とベッタリ
してなんかいられない。想い知らせないと私がやる時はやる女だって。
それはちょっと過激な物言いだけど・・・ね。

今までは令ちゃんの役割だった本来すべきでない相談にだって乗ってくれる、そんな親友を裏切ることに
ならないか?って考えてしまうのは杞憂?ただ妹をつくるだけなのに。



「おねえさまって呼ばれるようになる。ただそれだけのことなのよ、三薔薇さまたちだって妹依存して
なかったし互いに距離があったはずなんだから例えばそうよ、志摩子さんとの関係が変わってないように」



本気になって妹選びすれば私にぴったりの妹が見つかるはず、そしたらきっと江利子さまを悔しがらせるに違いない。
それでも、見事姉妹になった私と妹がいるとします。
当然新婚さんです。
ちがう、姉妹です。
そこを祐巳さんが余計なコト考えたりして遠慮したりするところを想像すると、ことさら寂しく思ったり罪悪感
が凄い。どーいう対象としてるんだよ?自分の片思いを怖がって。
親友にも同じように感じて欲しいと期待してしまってるし。
明け透けに好意を伝えてくれた時から、憎らしく思えるはずないのだから今更手遅れでしょうか。



「ああっ、もう、駄目よ、こんな考え方してちゃ・・・
直接会う前から、あの告白を思い出しただけで赤面するなんて、はぁ・・」

本当、大丈夫だろうか?

「ごきげんよう。黄薔薇のつぼみ、今日は早いじゃないですか何かありました?
それに・・・黄薔薇さまの姿が見えないですね、めずらしい」

「あら真美さんごきげんよう。
授業が始まるの前に会えたら行こうとおもっていたのよ。丁度よかったわ」

「こんなに朝早くから何用です?黄薔薇様がいない理由を考えれば想像つくけど。
それと併せて、髪型変えた理由でもネタノートに早速提供してくれるのかしら?」



お下げを梳いてがらりと雰囲気変わっていた。
しずしずと歩いて、風を切ってもプリーツは乱さない生徒の模範みたいに歩いてた。
支倉令さまがいないのも髪型違うのもあって見逃してしまいそうだった。



「それだけじゃないわ、そうね先手を打っておきましょうか
私たちつぼみに妹ができましたって」


にこり笑って言った。
革命起こした彼女の口からポンと出た言葉。
それはきっとすごいこと、ただ少し傍迷惑な予感がした。


「それは・・・つかんでなかった、それで相手はどなた?
えっと、わたし・・・たちって?
どういうこと、祐巳さんトコも妹選んで迎えたの?どっち?」

「甘い。甘いね真美さん」



ヘアースタイル変えたせいだろうか・・・小説家志望、新聞部部長の姉にどこか似てる笑顔。
ろくでもないこと企んでる顔だ。
黄薔薇さまは知っているのだろうか?
心配だ。

他の姉妹のこと、ましてや山百合会のつぼみの妹のこと。
私はお姉さまという反面教師がいた。
私がでしゃばる事じゃない。
でも迷った。
グラグラと心の天秤がお節介な良心と姉越えの特ダネを乗せて揺れていると、片方に記者魂が
落ちてきて、革命以来の騒動を起こしそうな島津由乃を見過ごしたり見逃したりすることにした。
静観することにしてしまう。
いつも真面目で正確な報道姿勢でいたのに、いくら言い訳してもスールの絆はしっかりとあの姉と
結ばれていたようだ。自分の選択に困惑しつつ別れた。



「えっと・・・ん、後で独占インタビューさせてよ。
いまは他をあたって、ホラ、調べておくから、で、ではごきげんよう」

「・・・?
ええ、わかったわ。あ。・・・あれは祐巳さんね。驚くかな?」













さわやかな春の風と太陽がやさしく生徒たちをみていた、ここは子羊たちの花園。
そんな中のひとり。
親友が彼女のために張り巡らした罠も知らず、暢気に微笑んで談笑している彼女。
山百合会の三薔薇、その一輪、昨年一番輝いたシンデレラの靴を履いた彼女。
紅薔薇のつぼみ。福沢祐巳。



「おはよう」

「え?・・あれ由乃・・さん、だよね?」

「そうよ、わからなかったでしょ。イメージチェンジしてみたのどう?
三つ編みやめて、お姉様みたいにまではしないけど部活動も始めたし心機一転」



ばっさり切ってしまえるほど髪に思い入れないわけじゃない。
髪いじり・・・令ちゃんの女の子遊び道具と化してるだけかもしれないけど。
女の命だと言う人もいるが、由乃にとっては制服と似た感想と扱いをしていた。衣替え、が適当か。



「別人みたい、さらりとした綺麗なロングだったんだよね。
一度見たことあったけど今改めて驚いちゃった。
志摩子さんとふたり並んだら仲間外れになっちゃいそう、わたし場違いだよ・・・でも綺麗だよ」



最後に儚げに微笑んでくれた、しょぼくれてもしまう祐巳の反応があまり可愛く
その不意打ちに頭の中のマイハートエンジンが全開だーっ!
真っ赤になってる顔を合わせれず、アリガト…なんて素っ気なく言うだけで精一杯。

親友をますます好きになってしまってどうするのよ!?
可憐さ健気さにときめいて、妹なんて欲しくない、祐巳さんだけが欲しい!とか思っちゃうし。
うぅ・・先が思いやられるわ。



「それでどう?これなら今までのイメージ払拭できていいでしょ、下級生たちにも
ひとめでアッピールできるし」

「どうして下級生なの、なんで?」

「決まってるでしょ、それはそうよ。
あ、祐巳さんのトコは言われてないんだよね。妹つくれって」

「うん。
志摩子さんが一番最初につくったのは乃梨子ちゃんと縁があったって聞いてるし」

「私も妹持ってみようと思うの」

「へー、目つけてた子いたんだ?」

「ムッ。
祐巳さんって時々無意識に直球投げてるよね、いきなり至近距離で顔面にくるわけだから
受け取れやしない。大ダメージよ。・・・もちろん居るわよ」

要らないとか言ってたし確保させてもらったわ、志摩子さんも何考えてるんだか。分からない。

「だってさ・・・私。
けっこう由乃と一緒にいるのに気がつかなかったなんて・・・ね?
ほら、なにか寂しいじゃない」

「祐巳。祐巳さんが、がああもう!」



興奮して二の句が次げない。
祐巳、と呼んでしまったことが信じられないほど恥かしかった。
由乃、と呼ばれたことが嬉しかった。



「まぁ・・・だからね、同じ山百合の会の志摩子さんから妹を借りるのよ。
学年違うけど同じつぼみ相手なら誰からもとやかく言われないし、練習し放題でしょ?」

「え?乃梨子ちゃんなの。
ちょっと想像できないよ、お姉さまがわたしより変り種とおっしゃって言たけど
結構しっかりしてるし」

「だって仕方ないじゃない。私一年生に知ってる子いないし、乃梨子ちゃんを振り回して
いれば知り合う機会もありそうだし・・・そうだ祐巳さんも一緒に」

「由乃さーん?乃梨子ちゃんにあまり無理させないであげてよ、この前も
ちょっと・・・」

「・・・わかってる、よ?
実際、電話一本ですんじゃったし貸し借りなんて言わないとわからないことよ。
気楽に行くことにする」

「」
「」
「」






●
「いいわけとか考えてるんでしょう」

「・・・違う、違うって。そのね」

駄目な子だ。
でも、わたしはもっと駄目な子だった。

「・・・・祐巳さん前言撤収。
敵、敵、敵に白旗あげるわ・・・だから妹になって♪ああっもうだめっ」

「ええええっ由乃さん、わたしたち親友だよ。
だから、」

自分に正直になってみたら、紅薔薇が切れました。
何故か新顔の白薔薇のつぼみさえ怒られました。わたし上級生なのに。

「祐巳さま、私の妹になるですっ」

↑どこぞの他次元世界風味巫女少女・古手梨花。

「あら?なに戯言いってるの、上級生に導かれもしない外部からの貴方が
藤堂志摩子かと思えば・・・私の祐巳を見ていたとはね」




◆最後会話「」「」はやくテンポあげて、ラストへもってくこと。