_ _ _ _ _ 太陽が昇って _ いのちの海から数キロの地点、そこにアスカは居た。 丸一日、歩き回って手に入れたのは水がペットボトルに5本だけ。サードインパクトの中心でかなり良い成果だろう。プラグスーツと包帯の替えを探したが、焼け焦げた大地に衣服は見当たらない。 「いつまでこんな所が続くんだろ・・いえ時間は少ない。早く武器と食料を探さないと、誰も居ないわけない」 人を探して彷徨う。 セカンドインパクト同様、大人でもなく男でもない自分は早く武器と食料を捜さないといけない。人も。ネルフはどうなっているのだろう、エヴァは?戦自だけは避けなければならない。 あいつは捨ててきた、もぅ息絶えてるだろうか?戦自にでも捕まっているのだろうか?あれほどの重傷だ、この日光だけでもキツイ生き抜く事は不可能・・ああ私何考えてんだろ? 関係ない。 そう、今すべき事はこの地獄から抜け出す事。5キロほど歩いてようやく黒く枯れた大地をすぎる、ちらほら散らかる衣服を不審に思いながら銃を探して進む、ネルフ職員のものだ。近い。人はいる? 「でもまずは・あった」 あった、全弾ある。 構える、大丈夫だ。これで二桁は無理でも5人ほどなら瞬時に殺めれる。実力に裏打ちされた自信がある、服を羽織る。ぶかぶか・・・でも赤のしかもプラグスーツはまずい。髪も束ねてベレーのなかに押し込む。途中で女性の服を見つけよう。 「いくわよ、アスカ」 深呼吸を一度。 見つかったら相手は戦闘のプロ、侮ってこられた方がいい。ただのパイロットと。 派手に破壊してくれてる・・・ようやくまともな道路を見つけるとネルフへ向かう。本部まで行けば職員の生き残りを見つけれるはずだ。味方は多いほうがいい。単独で生き残る事できない、エヴァが無い今はネルフの政治力に期待しよう。 _ _ _ _ _ まぶたに夕闇 _ 「・・・?あれ、まだ」 あれほどの重傷だったのに、死んではいなかった。手を上げて顔に触れるとカサカサとした感触、乾いた血液だ。あの痛さは夢ではなかった。じゃあ?・・・人間の自然治癒力がこんなに高いはずはない、そう人間ならば・・・ 「やっぱり続きか」 手のひらを見ると色素抜けた丸い場所があった、聖痕。あると思っていた。どうとは思わない。 海水で血を落とす服は変えようが無いので洗わない、折れていたはずの恥骨や肋骨も痛くない。乾いて黒くなった血糊以外は普通だ。腕も真っ赤に染まったていたはずなのに。 白昼夢に違いない、きっと僕の体は重傷で本当は白色の砂の上で焼かれて死ぬ間際なんだ。 そうでなければこの・・・ 「とうとう目までおかしくな・・った」 ぱしゃ、ぱしゃ・・・ばしゃ!瞳の中をのぞき見る、ぞくりっ。水面に写った深さを感じるほどの黒には、光の反射だけでは説明できない細かな幾何学模様が走っていた。それがすう瞬ごとに形をかえている。虹彩も、瞳孔も、この体はいったい・・・ 「・・・なんでだよ、どうして!世界がこんなになっても!それでも生きて!その上こんな茶番を用意して、何をさせようって言うんだ!」 海に向かって、宇宙(ソラ)に向かって叫んだ。 人の思い、それを分かった気持ちになっていた。希望を見つけて還ってきたのにまだ悲劇を続けろだなんて、誰が?父さん?綾波?母さん?ミサトさん?アスカ?トウジ、ケンスケ・・・あらゆる人々が浮かび消えていく。父さんは僕と同じ、そうただの臆病者だった、それはわかった。すこし理解できたつもりだ、憎しみは消えていないけれど。母は・・・人類のためと全てを分かっているような口調で僕に別れを告げ、エヴァで宇宙を彷徨いに行ってしまった。綾波は幻のような存在だ、消えてしまった。ミサトさんは、最後まで復讐者で保護者で血のつながりない家族で居てくれた、いろんな顔を持つ女性。僕は・・・僕は・・・。 「くそっ!ん・・ぅ・・ぅぅ」 こぶしを振り下ろして歯を食いしばる、何度もLCLが服にかかってビチャビチャになる。 ・・・・・・いったい誰が僕を弄ぶの?コレは誰が仕向けたの?やめて、もうやめてよ。 _ _ _ _ _ 翌日。 _ 政府というものは存在しないようだ、したとしても後ろ盾の委員会の量産期は石像と化して海に刺さり、ゼーレの老人たちの墓標になっていたし。黒の月を本来の姿にされた影響で第二東京は消滅し、日本列島は本州の半分を失っていた。 戦自の撤収とも呼べない流れが起きて、ネルフが正常化していく・・・インパクトが起こってしまったショックからか目覚めたものたちは戸惑い、指揮を請う。敵味方かまわず発令塔から指示を送りつづける。オペレーターたちは銃を床に捨てて忙しく存在する指揮系統の確認と構築に追われていた。弾痕生々しく残るココで。MAGIも状況把握に忙しい。 「第四の通路とカメラは、駄目だ」 「外の様子はわからない、まずは健在の広報の第二をまわして。いい、そんなじゃなくても人手が要るんだ。・・うん、ああそれで?」 「よっと」 床に立つ葛城ミサト。 壊れた床、壁をつたってゲージから戻ってきたら発令所はこのありさま。。 「はい、・・はい・・そうしてください。先輩の方は?」 「いいわよ。それよりパイロットは?もうエヴァも無いし消される必要は見つから無いけど、カードにはされるかもしれないわ。戦自と日本政府のほうはいいけど、国連がね」 「リツコ?」 「ミサト遅いわ、また遅刻?」 「どうなってんの?それにしょうがないじゃない、ただでさえ迷いやすいうえに所々崩壊して塞がっていたのよ。ベークライトで」 汚れた服、確かに吹き飛ばされたはずなのに。 そう不思議に思いつつ発令所を目指してきたら、警戒していた戦自の兵士たちは茫然自失しているしオペレーターたちと冷静なリツコの会議をしていた。 政治の話、エヴァの喪失など良くない状況なのに。 「で?どうなっているのよ?」 「戦略的に余裕はあると思うわ、インパクトで奴らの精神が崩壊してるからよ。・・・・・・もう戻って来れないわ」 ニヤリと笑った。 どんなことして試したのか知りたくないけれど分かってしまう、 魂が抜けたような名も無き一兵士を実験したのだろう。白衣に血糊。マヤちゃんは落ち込んでいるし。 「マヤ、貴方が気にやむこと無いわ。尋問に答えないように訓練されていたのよ、きっと」 「尋問!?アレがですか?そんなそんなそんな・・・・・・」 あいかわらず冷徹な親友に安心する。 昔からそうだった、敵にまわさない限り害はないのだ。まだ震えてるマヤを無視してリツコに近寄り小さな声で聞く、リツコも心得たもの。 「それで?」 「ただ指示された事だけ聞くのよ、生命のスープでもない。元のまま。最初は混乱してるだけかと思ったけれどインパクトの影響かしら?そんな事よりチルドレンよ」 「シンジ君は私が送り出したけど」 「あの後、アスカが死んだわ。確認できた情報はこちらに有利よ、ここの国は完全にこちらの影響力下にあるわ、司令も生きてる。手腕に期待しましょう」 顔を変える、マヤとミサト。 吐きそうになるマヤの背中をさする日向、ミサトはリツコに詰め寄る。 「アスカが!?死んだ、本当に!?見せてっ、私だってこういうふうに生きてるっ!なのに!?」 「ミサトっ!冷静になりなさいっ、まだ聞いて欲しい事があるっ!」 「違うっ、私は冷静よ。リツコ聞いて、私死んだのよ?ここに銃弾受けて助からないはずなのに。血を流して死んだはずなのに・・・加持に会ってないのよ」 「死んだ?・・・」 「冗談じゃなく、ココに傷負って」 血はなく、ただ破れているだけの服。その破け方は確かに不自然だった。 示し、傷一つ無い肌を見せる。 「待って、それなら私もそう。もしかしらアスカも生きてるかもしれない。だから探してるの」 「それでUNのほうは?」 「今のところ混乱してるだけ。でも・・・不穏な動きが幾つかあるわ。やつら探し始めてる、情報を都合のいいように改竄してチルドレンを祭り上げるか生贄にするでしょうね。ネルフもいいように扱われるでしょう、エヴァをなくしたネルフが主導権をとるためにもチルドレンの存在は不可欠よ」 _ _ _ _ _ 企む者たち。 _ 「南部と半島の状況は?」 「最悪です、閣下」 いつもは指導部だけが座れる席に二人、軍人でもなく科学者でもない。まして政治家などという面白みのない人間ではない。この二人はこの国の特務の幹部、裏の仕事を生業とし巨大なこの国の暗部に通じていた。ここは中国。 「有能な君がそう言うのだ、そうなのだろう。だが、わが国の中枢は危機を再び免れた。それに建造されたばかりのエヴァもある・・・性能は科学者どもの折り紙付だ」 「一週間以内に起動させれば、世界に覇を唱える事が可能でしょう。委員会が消滅したドイツは、友好的態度を4時間前に伝えてきております。あとはチルドレンだけです」 5人分の資料に目を通す、1人目と4人目5人目には抹消の文字。 残るのは青い目をした少女と黒い目をした少年。 生死不明や過去に死亡した者をはじくと二人だけ、どちらも手に入ればいいが入らなければ最悪消した方が良い。エヴァの技術を持ったネルフが他の国と連携すれば厄介だ。 過去の戦争の常識を変えたエヴァ、一騎当千のそれを他の国が得る前に・・・。 量産機は委員会の消滅と共に文字通りダミー共々消えた、それゆえパイロットが必要不可欠になっていた。戦自侵攻時の情報を元に、生存している可能性が高いサードチルドレンを優先に作戦を検討する。崩壊したゼーレの情報から依代とされたはずの人間はインパクトの中心に還元されると推測され、少数精鋭で奪取する事が決められる。 「そう、一番重要なファクターだ。アメリカ、ロシアに先手を打たれる前に行動を起こさねばな・・・」 「地理的に我々は圧倒的に有利です」 「だが、一刻も早く手に入れ力を示さねば半島の内乱が飛び火する。世界をこの手に収めるにも」 「N25部隊を索敵にN26部隊を支援にまわせば、作戦は4日以内に完遂できる確立は89パーセントです」 「良い数字だ、では始めてくれたまえ」 闇の中で権力を求めうごめく者達は再びの災禍を利用しようと、表に姿を現し始めた。 始まる。 _ _ _ _ _ 裏の世界から。 _ 邪気漂うここは人殺したちが生死の境を越えた所、裏の裏・・・闇の底にいる者たちが集まりつつあった。酷い実験訓練で人の体の限界を試していた、前世紀から。 「どうだ?」 「」 ロシアの裏から クーデター、大尉。大佐。 「我らの成し遂げようとしている事は正しいのでしょうか?」 誠実な男はミスを犯してしまった、 部隊の出動など。 一日の経過。 「おかしい」 「はい、確かに」 「日本政府はどうなっている?この状況ではUNが委託統治を決めるまで混乱は避けれんはずだった・・・諸所に独立させて傀儡できるはずだった」 「そのとおりです」 衛星から取られた画像を確認する。日本列島は北関東から近畿まで円形に消し飛んでおり、黒き月が存在した部分だけ離島のように浮かんでいた。 「サードインパクトの影響か?」 「それはわかりません、ですがネルフはどうやらMAGIとインパクトを利用して緩やかな連邦制をしいてします、良い政治的判断です」 「・・・・・・何という事だ、邪魔立てされる前にN2で消すか?可能だろう?」 「いえ、やめておいた方が賢明かと。それに」 「まだあるのか?」 「どうやらネルフの上層部は健在らしく、日本を確保しつつエヴァの技術でアメリカと交渉しているようです。まだ、まとまっては居ないようですが近いうちに手を結ぶでしょう」 「・・・それで?」 有力な国々の情報を一つ一つ聞く。ヨーロッパはゼーレの後釜を狙ういくつもの組織が抗争を始めたらしく、全ての政府が押さえ込みに忙しいらしい。イタリアなどは教皇の膝元さえも昼間から銃声が絶えないとの事、世界の覇国など狙う余裕はないようだ。証拠にドイツとイギリスはこちらの動きを支持をしている、支援はないが。 近代の数世紀、強運だけで発展した国々らしい。口がお上手だ。 「セカンドおよびサードチルドレンは未だ見つかっておりません、それはあちらも同じでしょうが。部隊からの報告では作戦地域は酷いもので、しらみ潰しにキャンプを潰してゆけば何とか」 「まぁ、それほどの動乱なら誰の仕業とUNも探らんだろう」