◆ カレいくもの ◆

大筋は先生に会えなかったら・・・イフ設定。シリーズとしよう。
七夜ではなく遠野としての、今の志貴が出来上がった重要な地点にあるべき出会いが無かったとしたら。

シリアスは深く書くと七夜は月姫として書けない、書きたい。
でも殺人貴だからこそ、かっこ良いのだし、私の書く七夜は読者受けしない駄目な属性かも―――。
この頃、どうも急展開って書けないなぁ

本質や資質が七夜であっても、殺人貴へのきっかけ(Arcueid=Brunestud)が無ければ・・・ある程度捻くれてても普通に暮らせるのでは?
狂うとあったけれど仮定の話で、何処までその通りになるやら・・・秋葉や琥珀、ロアやシオン、登場人物たちの
願望と言うか・・・欲望も志貴は殺したのだし、自分を殺すことだって。秋葉ルートで前科あるのだし・・・自殺も選択肢のひとつかな?
遠野志貴が殺人衝動を始めて感じたのはアルクェイドを見たからであって、
魔を狩る程の衝動はなかったし、夜出歩く程の体力は四季の共融の能力によって奪われ、なかったのだし・・・。

第零話として先生に会わない、お話書いて。





<本文>

第0話「変色」

強く肌にあたる風、それは志貴の体も、何もかも吹き飛ばしてしまいそうだった。
そんな強風が本当に気持ち良かった。
この草原には志貴以外には誰一人いない、ただ風が流れているだけ・・・すぐに好きになった。
耳に届くのは風の音だけ、ビュォービューゥーと
それは孤独な獣の鳴き声のようでも、それは生き物の鼓動のようでもあった。

枯れ木と見間違えるほどの貧弱な木が数本あるだけの草原。
この風が何もかも吹き飛ばして、残したのは草だけ、それも丈の低い。
そんな場所。
けれど初めて見た時、寂しい風景とは感じなかった理由が今わかった。
何故ならそこには風が在るから、ここは風によって作られ満たされた場所だから。
ここは居心地が良い、あそこから抜け出して、来れた事に満足していた。

「本当に、いい場所・・・」

何の気なしに手を持ち上げて風に触れると、細い黒い糸が手から流れていた。
この見慣れたものは、あの窮屈な場所だけでなく、何処にでも此処にもあるものなのだと理解する。
納得し、風に靡いて指の近くで動き回る黒く細い線を五指でなぞった。
途端に志貴の周りの風が一瞬だけやむ、しかしすぐにまた襲いくる風、つまりそういうことだった。

この現象を知ったのは目が醒めてから少し経ってから、最初は戸惑いしかなかった。

「・・・」

事故?
憶えていない。

ラクガキ?
こんなもの、どうして?見える。

「・・・」
「言葉が話せなくなった?耳が聞こえなくなった?結局、事故の後遺症はこんな形で残ったのか」
「・・うるさい、聞こえるし喋れる。ここは何処?」
「そうか、話せるのか。記憶は曖昧なのか、当然か。
・・・事故だよ、君は命失いかねない自動車事故に巻き込まれてこの病院に運ばれて来たんだ」

その医者との話はまるで他人事のように続いた、志貴の態度にも問題はあるのだろう。

「・・・」

ほんの数日前まで遠野の屋敷で元気に走りまわっていたのに、今は檻の中。
一日中、検査かベッドの上。
大人しくしているしかない。
変化しない窮屈な場所に閉じ込められて、イライラする。
穏やかとは言いがたいけど、心地良いあの風にあたりに行きたかった。
しかし、空色が怪しく雲は凄い勢いで南から北へ流れていた、ゴロゴロと雷も鳴り始めている。

「つまらないな」

テレビは屋敷にはなかったものだが、知識として知っていた。
翡翠がいつか何処かの部屋にあると言っていた、実際に見るのはこれが初めてだ。
ウェザーブレイク、今年は秋が短く、冬が長い異常気象とのこと。
情報は正確で確かに次の日は正午から雨だった、そして明々後日からは季節外れの雪となるらしい。
昏睡状態から目が醒めてから、物に触れるたびに壊しまくるので個室に隔離された。
その部屋には何も無かった。
窓もはめ殺しが天井にひとつあるだけで、完全に異常者扱い、閉じ込められて数日が過ぎた。
面会に来る人間はいなかった。
ただこの数日間、監視されていることは分かった、それを不信には思わない。
記憶に無いだけで何もかも壊すことのできる自分は、きっと大切何かを壊してしまったのだ。
だから屋敷に帰れない、と思っていた。

「無理かな・・・」

そんな諦め以外に願う事もある。
あの場所へは行けないかもしれない、勝手に抜け出して行っても完治していない体では熱出して倒れてしまうだろう。
子供の足では結構な距離があったし、誰にもあの場所を知られたくない、連れて行きたくない。
あそこは自分だけが知っている特別な所なのだから。
退院まで変化しない毎日が結構続いたが、その後は嵐のように過ぎ去って行った。
屋敷に戻ったと思ったら、父がすぐに一族の誰かを紹介する。
時間にして三時間程度、有間の家へ移ることを説明されたが疑問も持たず簡単に納得してしまった。
いったん寝室に行く事にした。
自分の服や大切にしていたものがあったような気がしたが、思い過ごしかもしれない。
事故によって忘れている事が多くて、自分でもわからないことばかりだからだ。
玄関へ移動する、階段の所から誰が見ていた。

「誰?」
「・・」

尋ねようとしたら逃げられてしまった、後姿で女の子と分かったけど・・・誰だろう?
庭に出て、離れを目指すと小さな人影を見た。
一緒に遊んでいた子かな、と思ったけれど行ってしまった。
流石に何度も避けられてちょっとショック 見慣れ住んでいたはずの屋敷が他人の家のように感じる、。



白いリボンなんて、でも初めて話した子との約束




同じ町内だけども、その日から志貴は有間という苗字の家で暮らすこととなった。





<本文>

第1話「寒い日の朝T」

七夜としての存在が消され、遠野としての存在も消され、有間として生きていた志貴。
消され・・・亡くし続けてきた、その体験が形作る人格。
それは何にも依存しないという生き方、性格、在りよう・・・それを悲しいと思う思考回路は記憶とともに錆付いて。

やがて志貴は独特のものの見方をするようになっていた。
人間には二つの目がある、右目からの視界と、左目からの視界、その二つで物事を記憶をする。
しかし、その二つは似ているようで、少しだけ違うものを見ているのだから、実質的に世界は二つあるのだ。
手足が二つあるように当然の事だ、左右対称の、よく似ていて、しかし少しだけ違う。
その差異を気に止めない人がなんと多い。
朝に起き夜に寝ることが当たり前の人間たちは、違う世界を知る術など知ろうともしない。
しかしそれゆえに、志貴は思うのだ。


「見てコレならどう?」

「・・・」


死の線は走る、何処にも彼処にも、免れるものは無い。
どんなに絶対という言葉で否定しても、免れる事は許されない。
例えば・・・この雪だるまが日光で数日ののちに解けて消えてしまう事だって、そうだろう?
・・・しかし。


「・・・何だこれは?」

「・・・」


ぴくっ
睨まれている、義理の妹に。
恨まれている、その言葉を吐いた事を。
犯人め、と暗に言っている。
見上げてくる視線にそれが上乗せされている。
とても大きな雪だるま、何処から雪を調達したのか庭には足跡一つ無いというに
確実に数日前に製造されたモノの倍以上はある、小学低学年の彼女が何故ソレを可能なのかは知らない。


「誰かに壊されないように大きくしたの」

「そうか・・・で何故作った?」


ぴくっ
と、機嫌の悪化がこの数日の気温のようだと思ったが、あえて聞いた。
だって本当にわからない。
玄関の脇に佇む、というか陣取る大人二人分はあろうかという雪だるま。
都古が誰を模して作ったのか知ったことではないが、邪魔だったので昨日の帰宅時に指で解体しておいた。


「・・・」

「・・・」


それが復元され、より芸術的に、より強力になって、眼前にあれば溜息をつくしかないだろう?
まったく・・・変わらない。
夏の時を思い出す、人が暑さにやられて弱っているというのに付き纏ってきて
あげく、それを無視したら地獄タックル繰り出された。
まるきしの片思い状態だというのに飽きないのかこいつは?俺からは声さえかけた事がないというのに。
―――わからない。
有間家に来て七年間、一日何も喋らない方が普通だという程の無口で、そんな俺に都古が懐く理由がわからない。
それに今日は先約がある。
ロビーで捕まらなかったと思ったら玄関の外、雪だるまの後ろで張り込んでいたとは・・・子供は風の子、都古は雪ん子。
元気な事は良い事だ。
しかし、あんなのと無理矢理されられた約束でも、OKしてしまったのでなるべく守る予定。
都古の相手はしていられない。
時間まで守ると相手が遅刻してきそうだ、どちらが誘ったか分からなくなってしまうが
遅刻したら屍にしてやる予定なので問題は無い。
だから、雪だるまは破壊する。


「あ、なんでー?」

「脆いな、雪の質が問題だ」


都古は蹴ったり倒したりを想像していたのだろう、下部は雪玉にはなっておらず頑丈なつくりだった。
しかし、造作も無い。
指で撫でただけで雪に戻るソレ、評する俺は文句つけられる前に有間家を出た。
啓子さんが開いている教室に通ってくる生徒たちに、見せびらかしたい代物ではないと直感的に知っていたし。





<本文>

第2話「桜は風雨にて散る」

黒い森に華美な花々は存在しない、誰も見てはくれないのだし、場違いだからそれも当然だ。
急速に時間が移ろっていく、振り向くと一面の黄金野だった。
ビュゥと風が吹き抜けていった。
唐突に場面は移る。
積もった雪が綺麗な夜には、浮かぶ月が照らすは白い山々、凍える寒さの中にひとりで立つ、白い息をはいた。
この記憶が何時のものなのか、思い出せない。
そこは、大切な取り戻せない場所だということだけがはっきりと分かる。


「はぁ・・・」


起き上がり額に手を当てる志貴。
頭痛というわけではない、ただ夢見が悪いだけ。
志貴の場合、春眠暁を覚えずとはいかない。
夢など普段は滅多に見ない、見ても曖昧にしか憶えていないし、記憶に全く無い夢を見るのは決まった季節。
春の始まりだけのこと。
思えば春は別れと出会いの季節、自分も例外に漏れずそんな類の何かが過去にあったのかもしれない。
だから余計に憂鬱なのだ、自分はそんな存在ではないと自覚しているからこそ。

入学する高校の制服に袖を通して、家を出た。
珍しい、滅多に会わない一子が玄関で腕を組んでタバコを吸っていた。
何故か志貴をジロジロと見てから、そっぽ向いて呟くように言った。


「有間か・・・似合ってるんじゃないか?」

「・・・そうか、よくわからないが」

「おっ、迎えに来てくれるとは意外すぎるぞ。この悪人め、姉貴をたぶらかして進学早々俺の」


コレは無視だ。
こんな奴を迎えに来たわけではない、たまたま今日は一子がいたから足を止めただけ。
この人とは波長が合う。
今まで出会った誰よりも話しやすく、そして滅多に会わないからこそ
お互い最初のイメージを崩さずに接している。たぶんこれからも・・・。


「にしても意外だな、遠野と大人しくこうして入学式などを祝われるとは」

「そうか、なら」

「止めとけ、俺に常識人として振舞わせるつもりか?」


悪いが騒動を起こすつもりなど無い。
ただ・・・少しだけお前が貧血起こして入学早々保健室に運ばれるだけだ。
本格的トラブルメーカーのお前が、何故こうも心配するのかだけは詳しく話して欲しいところだがな。
・・・我ながら朝の夢を引きずっているな、あの夢をあれほど鮮明に見たのは何時以来だろうか。
式を終えて、裏門から帰宅の途につく。
雲行きが少しおかしかったが、正門にある桜の木に集まる人たちを避ける利点がある意味でも、裏門から出る。
最短の帰宅路に人は少なく・・・ぽつん。
傘は持っていなかった、身ひとつで来たのだし当然、雨に濡れて町を歩く。
あの夢のことをただ考えていた、志貴と同じに傘を持たない通行人たちは走っていたけれど。


「あ、やっぱり・・・もう心配させないで」

「しなくてもいい、タオルを渡してくれれば自分でやろう、自分で選んだ事だ」

「風邪ひいちゃうから、服脱いで、それから」


有間家に着く頃には、新しい制服はすっかり濡れていた。
ポトポト
廊下の床に水滴が落ちる。
出迎えた啓子はいつも以上によそよそしい志貴の様子に、何も言わず志貴の雨に濡れた髪をタオルで拭く。
邪険にするつもりもないが、必要以上に世話になる理由もないと思い込んでる志貴。


「・・・」


その考えを読み取っているのか、ただ着替えを用意すると制服を持って部屋を出て行った啓子。
志貴の部屋はまだ夢のことを考えていて・・・
次第に激しくなってきた雨音も、ずっと前から変わらない自分の部屋も意識の外。


「おにいちゃん、帰って・・えーっつまんない、雨に濡れて帰ってくるほうが悪いの、悪い子だー」


都古の階下からの声も無視して、ただただ美しかった夢で見た場所のことを考える。
・・・やがて空も灰色から黒が混ざる時間になる、そっと体を起こし窓の外を見る。
少し熱が出ていた、窓を開けたいが風は体に悪いだろう。
静かに視線だけを、子供の頃から見上げていた、全てから逃れるように見ていた空に向ける。
夜空に月が出ていない事が今は気に障る。
でも、雲が消えれば今宵は満月なのだと感覚的に分かる。
気分は悪くない、ただ恨めしいのはこの病弱な体が夜の活動を阻害している事。
もし・・・自由になれたら何がしたいのだろう?まだはっきりした事はわからない。





<本文>

第3話「朽ちる梢に」

ちょうど暑さ和らいだ秋口に入った週の終わり、朝の食卓で有間家の家主、文臣が数週間、家を空けることとを報告した。
遠野一族の曲がりなりにも一員である彼は、小さな小さな・・・
それでも一企業の経営者で、この時勢よろしくアジア方面へ視察名目で出張となったらしい。
珍しくこの数日、帰宅が遅かったがその準備のためだったと言う事。


「土産は何がいい?」

「えっと・・・秘境に埋もれる奥義ひとつぐらい」

「奥義?えー・・・父さん、それは無理だなー。もっと手軽にできないか、都古。何がいーい?」

「じゃ達人ひとり」

「・・・はぁ、交渉はしてみるよ、でも期待して・・・え・・っと、はい」


都古の中学生の女の子とは思えない要望を笑いながら断る、と都古の後ろから笑顔で啓子が見ていた。
冷や汗流す文臣。
娘に甘い父親だと、親バカと妻は言うけれど、これは無いと思う。
そんな妻の希望は自宅で開く茶道教室で使う茶器・・・手土産とはいかない量、これは航空便だな。
志貴は・・・特に無い、との事だが骨董のひとつでも探してこようと言った。


「じゃ行って来る」


そんなで出て行った文臣、その後姿を玄関から三人で見送った後、啓子は言った。


「じゃ次は都古、用意なさい」

「はーい」

「都古も何処か行くのか?」

「呆れた・・・知らなかったの?何度も都古が駄々捏ねていたじゃない?
三日もこの家を離れるなんて初めてじゃない、だからかと困っていたけれど・・・そうでもないみたいなのよねー」

「もー、いいじゃない。母さんだって明日はいないんでしょう?」


そうねー、でも後二日は志貴と二人きりねーと人の悪い笑みを浮かべる啓子。
志貴は何といって良いのか分からず、そうか・・・とだけ答える。
月曜は東北にいる親友に請われて茶道の先生として出かけるらしい、だとすると。


「朝一番の新幹線に乗らないといけないから、朝食用意しておくけど。
だからって志貴?寝坊しないように、夜は店屋物とって、他には・・・何かあったら私に連絡入れてね」


有間家に志貴以外だれも居ないなんて確かに初めてで、啓子の過度とも思える心配振りもある程度納得できよう。
携帯電話の番号メモを渡される志貴。
以前にも何度かこんな事があったが、たびたび買い換えている上
啓子は仕事とプライベートを使い分けているので、その都度教えられている。


「いくら私が一日だけとはいえ、みんな出かけて家に一人なんて寂しいでしょう?
志貴の体は弱いから心配よ、休暇がてら私と温泉にでも行かない?夏バテ防止に良いと思うし」

「別にそれほど子供じゃないし、体は・・・良くなってるとあのヤブも言ってたからいい」

「そう・・・志貴がいいなら良いんだけど。ちなみにこれはプライベート、こっちが仕事と緊急用ね」


そして、都古も啓子も朝早くに出かけて行った。
誰もいなくなった家から登校し、いつもと変わらない高校生活をして、帰宅する。
夜は店屋物とだけ言われたので久しぶりに有彦と街へ行く事にした、カギを閉めて日暮れ時に家を出た。
志貴が完全に日の落ちた夜を歩くのは滅多に無い事で、街には昼の顔とは全く違う色と音があった。


「来たか」

「ああ待たせた

「っても、夜早い志貴と違ってまだ俺は腹減ってない」

「勝手だな、でもそうだな・・・」

「適当にぶらついてから向おう、どーせ時間はあり余ってるんだろう?」


今日は確かに調子良いし、確かに帰宅がいくら遅くなっても良い。
志貴が考えこんでいたら乾有彦が消えていた、見ると道路向こうに居て口説いている。
・・・いつもなら無常な蹴り入れて人の話聞かない罪を償わせるのだが、今日はそんな気持ちにはならなかった。
むしろ都合が良かった。
自分ひとりで自由に歩いてみたい、そう思ったから。
それから何処をどう歩いたか分からない、いつの間にか一本の坂道に来ていた、見上げると大きな屋敷が見える。
その上には蒼く白い月が浮かんでいる、雲の流れで隠れたり現れたりしていた。


「ここは・・・違う」


自分でも何が違うのか分からない、確かにあの場所はいつかは行かなければいけない。
けれど今は違う、違うと思う。
だから郊外に足を進める、何故どうして?
自分への問いの解は出ないけども、この夜が続くうちに向かわなければいけない所がある気がする。
そこはきっと、好きだったあの場所だ。


「・・・ふぅ」


有間家に住み始めてからは、様々な制約があった以上に体が思うように動いてくれなくて、ここには来れなかった。
土と草だけ、けれどやはりここには風が在った。
七年前のように・・・本当の孤独に浸りたかったかも、また風にあたりたかったのかもしれない。
ただ、無意識に足が向いていた。
記憶どおりに誰も居ない草原、あの時と同じ風に満足し昇り始めた月を眺めていると誰かの気配。 「先客か・・・やっぱりね。 」 勝手な事を言ってくれる、大きなトランク持って・・・? 寂しいこの場所に人が来ることは珍しい、増して時間を考えると彼女は相当気ままな旅行者なんだろう。 「」 「君は一人でこんな場所で、寂しくないのかな?」 「それは月を指差すようなことと意味を同じくする問いだな」 誰も居ない草原、ここまでどうやってどれだけの時間をかけて歩いたのか記憶にはなかった。 ・・・ここは寒い。 強い風だけがそう思わせているわけではなく、夢の中の景色と似ているからだろう。 雪が積もれば、きっとここはあの場所となる。 「」 先生、とは呼ばないし、でも何か七夜としての始まりはやはり此処と思わせる出会いを。



<本文>

第4話「寒い日の朝U」

秋の終わりには多くの人間たちが、遠野志貴は変わったと感じていた。 その変化はクラスメイトの弓塚さつきをはじめ、多くの人間の注目を集め様々な憶測をさせて その変化はクラスメイトの弓塚さつきの心境を複雑にしていた。 学校ではそんな状況のまま、ゆっくりと年が過ぎ去ろうとしていて・・・しかし。 「起きてる?」 「・・・あぁ」 答えるのも億劫になっていた、志貴が床についてから五日目。 月末に近づくにつれて、急激に下がる気温に欠席が続いてしまっていた。 去年のように雪は降っていないけれど、降った方が暖かいのではないか?と思わせる程の気温が連日続いていた。 普通の人間ならこの寒さに風邪ひいても、一日二日で回復させてしまうだろうが 志貴は基本的な体力の少なさから、眠りつづけることしか選択できなかったのだ。 窓の外は死の寒さ、息が白くなる前に凍ってしまうほどの。 「今日もまた」 「」 「」「」「」「」「」 変わらないこと、変わっていくことのふたつ とてつもなく、体の心まで凍ってしまうほど。 志貴の体の調子は良くないのは当然、共融の四季は地下にいて、凍死とはいかないまでも弱っているのだ。



<本文>

第5話「ルームメイト」

窓から入る夕日が綺麗だった。 部屋には私以外には誰も居なくて、ただ静かな時間がある、静かな時間が過ぎていく。 雑音が排除され、やがて私の音のみとなる。 この音が生み出し続ける命、その半分を私はあの人に送り続けている。 あの人との繋がりを感じる術は血が教えてくれる、私という意識を薄めて混濁とした何かを頼りに、進む・・・ゆっくりと。 そうすれば・・・ 常に傍らにあの人を感じていられる。 それは私の聖なる時間で、鋼の心と揶揄される遠野には与えられない、安らぎの時。 幼い頃の記憶に遡って命を分け合う事になった場所と時間を思い出すと、 罪の意識と、愛しさが交じり合った感情が溢れる。 今はまだ私は籠の鳥、だから・・・もう少し待っていて、飛び立てるまで。 夕日を見つめすぎたせいで、目元が熱い、誰も居ない場所でも涙は流してはいけないのに。 「遠野」 「あ、っっ・・蒼香、居たの?」 「何もそんなに驚かなくてもいいじゃないか、にしても遠野が物思いに耽ってるなんて珍しい。 本当は声かけるの躊躇われたが・・・羽居、探してるんだが見なかったか?」 制服姿のまま蒼香が目を逸らして、羽ピンの乱雑なベッドを見ていた。 「何処かで話し込んでいるかも知れない、そうだろうな・・・たぶん」 「そうね」 「遠野、どんな事を考えていたか知らないが止めた方がいい。 お前、夕日に消えそうだった・・・だったから声かけれなかった。 」 「それは・・・正しいと思う」 自分を嘲る、その通りだと肯定する。 だって、 ルームメイトの二人と話していた。 珍しく何用もなかった日だったので、後輩達に誘われたり引き止められたが 羽ピン 秋葉の期待と思いは裏切られる、その続きは・・・。 七話へつづく。



<本文>

第6話「遠野一族」

翡翠視点、。



<本文>

第7話「」

月姫のおーぷ 5から何話かは秋葉や翡翠、視点にして 志貴帰宅は月姫のように、セオリーどおりに。 アルクェイドは殺し、協力やその類は拒否、裏路地で二度目の殺害、というか戦闘。 ネロの尖兵の黒犬の出現でにゃんぷしーは九死に一生を得る。 だって遠野志貴はアルクをまだ必要なものではないと考えている、昨日の犯行の発覚は生きていく上で障害となると考えている。 遠野には何一つ思い無いけど、家庭である有間の家までコレは手を出す可能性がある。 路地駆け抜けていく、壁から壁へ飛び移る。 昨日のように不意打ちではないので、防御されるが、焦りはしない。 太陽が上っているし、仕掛けてきたのに罠のひとつもなかった。 自分の力に自信を持って、侮っている。 広い場所ならアルクェイド有利・・・一時でも盾になる障害物などが在るのなら志貴圧倒的に有利。 化け物との因縁は当然ここで断ち切るつもり、こいつは自分が一度殺されているのに学習してない。 こんな力だけのガラクタ人形など、化け物でも何でもない。 だが、普通の人間には脅威となる。 「今度こそ殺しきってやろう、お前の全てを終わらせてやろう」 「嘘、こんなことが・・・こんな所で私が終わるなんてそんなこと、ありえないっ!吹き飛べぇ!ハァハァ・・」 先輩は・・・どうかな?どうしよ? 「こんばんは」 声が聞こえた、姫ではない若い男の。 ただ歩いてきただけの、普通の人間が、いきなり腕を切断した。 「な、貴様、何者だ?」 落ちた自分の腕を見て一言の感想、 「」 振り向きざまに腕を切られたネロは、何十もの空飛ぶ化生を出して志貴の挨拶に答える。 言葉なんて要らない。 遠距離でも関係なく多くの獣を出してくる、トラにシカ、猛牛に鷹。 しかし獣たちは混沌に戻される。 昆虫のような、しかし大きさは想像を絶する物体は 頭から巨大な化生から生えた鋭利な爪が襲う、素早く志貴は距離を取った。 正解、それは何度も分かれて宙を掻いた。 何千、もしかしたら何万の血肉を喰らったかもしれない。 そんな化け物との殺し合いは歓喜すべき事だ、この短刀ひとつで戦わなければならないのも 死が近くに感じられて笑える、どくどくと脈に変化ないけれど不思議とこの感情は楽しい時のものとわかる。 対ネロ戦は序盤 かちかちと歯の音、恐怖と高揚を取り間違えていた。 この時間は俺だけのものだ、誰にもそれは邪魔できない。 <さいしょにかんがえたせっていとおおすじ> 黒い線を見るのが嫌になって青空ばかり見上げていた、人も道路も何もかも つぎはぎだらけの町も人も見たくなくて、だから有間家の子どもにはなれなかった。 視線は向けても本当はそれを見ていなくて、自分に必要なものと邪魔なものだけ見るようになった、見分けるようになった。 必要なものには話もするしそれなりの対応もする、しかし邪魔なものは 容赦なくその死を指でなぞって、そのものの運命を弄ぶ悪い癖がついてしまった。 思い出の中の人間は線がなくて、秋葉のこととか・・・いつも元気だったあの娘、 そして・・・嫌な事から逃れるために、美しい記憶だけを求めることが日常になっていた。 窓際の娘、そして・・・四季、と・・・アレおかしいな、誰だっけ? 志貴が大立ち回りしなくても解決してしまう、というか「表」「裏」ルートように。 青崎青子を先生と呼ぶ理由がないし、七夜へと堕ちるだろうか? 「見てよ志貴、あの月は 見上げれば月、日本では黄色と表現すべき色だけど。 俺は知っている、青白い月はアルクェイド、朱い月はその裏側のもの。 「無垢なほど白い光と闇の七夜、殺人貴と呼ばれるだけ」 世界の理と、許容と破壊。 遠野に反転があるように、七夜には欠落がある。 反転によって力を手に入れる遠野、それは魔の血の濃さに比例する。濃ければ濃いほど強くある。 七夜の欠落、とはすなわち人として大切な何かを失っている事によって 何者にも縛られない、というアドバンテージと殺人衝動が前面にある形のことである。 生まれが純粋な七夜ほど、そうなっている。 血からは逃れられない、絶対に。