●.20



カカカと不気味に笑う間桐の翁と一番見た目が凶暴で物騒な武器持つ藤村大河。 そしてその背中を守るランサーが見上げる先、尖塔の近くの屋根に立つ正体不明のサーヴァント。 三竦み状態には成らならず。 袋のねずみとなってしまった大河とランサーは気持ち悪い姦計の骸骨ジジイによって、シスターシオンと離され 戦力分散していた。 また突然現れたイレギュラーサーヴァントは話の通じない暴君だし・・・・ああもう! イリヤスフィールは居ないし、踏んだり蹴ったり! 撤退しようにも蟲も蠢きを止めずワラワラわいてくるし圧倒的に分が悪いんだ。このっ。 「「(気に食わねーーーーェッ)!)」」 せっかくイイ気分で戦っていたのに、あの男。 「やりにくい!やはりアーチャーか、こっちもきりねえなっコイツはっ!」 「虫多すぎ!反則だってば、こっちはチャチな装備なんだからねぇっ!! とぉりゃ、連発できないってさ、わかるでしょーがぁッ!チッ!弾切れ」 大河に弾薬補給させまいと蟲が寄る。 「あんたっいきなり来てどーいうつもりだとかっ言いなさぁーーぃっ!噛み付くなこのムシケラ!」 「ははははは!何とも面白いマスターに巡り合えたな、似合いだぞ狗。 そこの虫けらも聞かせて欲しければ生き残れ。聖杯戦争唯一の掟ぞ」 「お前はそうか。憶えているぞ。 カカカッ、どこぞの阿呆がしぶとくも続きをさせようとはな」 ランサーは今回ほど不運なのは死んで以来だと、感じていた。 英霊ゆえに覚えていないし、記憶していないがイイ女に袖にされる気分は簡単には忘れん。 あいつ何て言ったけ? 現世ではリンとかシオンとか・・・タイガは良いマスターだと思うが口説こうなんて思わない。 邪魔な男の影が強いからだ、それを言えばリンもシオンも同じことだったがどーもまだまだ 前の二人には自覚というものがない。 「うぉぉーーッ、ア゛ァァラァッ」 自身に向かって飛んでくる武器たち、それに立ち向かっていくランサー。戦闘狂にふさわしい笑みで 叩き落していく速さはどのサーヴァントも敵わないだろう。 槍が届かないなんてことは一度たりとしてない。 苦境に陥っても退こうとは思わない。 事前偵察がそのまま名に残る戦場となったことも暫しの今回の戦争。 挟み撃ちで受けて絶望的だったが序の口、地獄には程遠い。戦いのために生きる、この状況は本望だ。 難しいのは・・・ できればマスターを救い勝つ、この幸運を満足できる決着で終わらせたいもんだ。 「うるっせーな。この蟲どもが。燃えろっ」 落ちてくる鋼鉄の雨。 まだ、矢よけの加護が効いてかすり傷だが頑張ってるマスターにも応えねぇとな! 槍をふるい魔物たちを切り裂いて血路をつくって叫ぶ。 「うぉぉぉっ!!サシでやりあうならアーチャーなんだが、っく! 邪魔くせぇ虫どもがっ、壁崩れるぞこっち来い、マスター!」 「ああもう。笑われてむかつく、あの憎いジジイ殴ってやりたいっ! 卑怯者に負けるのは気に入らない。 一撃いれるわよ!ランサー後ろ任せた!虫が減ってる今しか撃てるからね!死になっ」 隣の建物の屋上にいる敵より、目の前の奇怪な笑い声を発してる翁にむかう。 不快な音を出して、包囲してくる間桐の魔術師。 バサバサガサバサバサガギバサ!!このおぞましい光景に睨むことで最弱の獣である人間は知能を持つことで 最強へと変化をとげる。 刈られる獲物がいかに巨大であろうとも食い殺すつもり。牙を剥き咆哮して踏み込む藤村大河。 だってわたしは、あの人に追いつくんだから敵に背は向けて逃げられない。 「ランサーはあの屋根の馬鹿を相手してて私は道を切りひらく!頼んだ!」 「いーぜ、強い女だったんだなアンタ」 コートに仕込まれた兵器の中からナイフを手にとり、ライフルにポケットから出した弾丸を装填。 特徴的なドンっという太い発砲音。 破壊力は人間相手には過剰といえる。 至近距離で外れるわけないそれが、その凶悪な牙を差し込まれた間桐臓硯の腕を飛ばしても痛がる様子はない。 「このようなものワシにはきかん」 続けて撃たれ脚を崩された。 それでも効果みられず、虫がわいて来て元に戻り人形(ヒトガタ)をつくる。 「効かないって?これならどぉー?!ばぁぁぁっとね」 「って、おぃっ!やめろ逃げるぞ」 ランサーに首根っこ引っ張られつつも兵器庫となってるコートから、いっぱいプレゼントとばかり 手榴弾を出してきてピン抜く。投げた。というより落として行った。 だけど、ここはせまい。 トリッキーにも一つが壁の彫刻に撥ね返ってきた、タイガーの足元に落ちる。 「あははは、吹き飛べぇーっ!あれ?」 「おいっ何で戻ってくんだよっ、窓破るぞっ」 ドンッ、ガシャン! 「ここまでか。ここも落ちれば後は・・・・・そうよの。 十年前の借りを奴にかえしてやるかの」 廊下の突き当たりまで空間埋め尽くしていた攻撃用の虫たちが駆除されたが、微々たる被害だ。 あのアーチゃーもいる。 ランサーのマスターの自爆に巻き込まれるのも馬鹿らしい、撤退を決断する翁。 取り逃がしたが焦る必要もなかった、イレギュラーがつまらなそうに見ていたが 互いを敵として認識しなかった。 ほぅ、虫か。 ふむ、道化め。 影のように消え去る間桐臓硯、残ったアーチゃーは誰かをしばらく探すようにあたりを見ていたが いないようだと確認すると破壊に朽ちた城を去ったのだった。 ■ ■ ■ ■ 「こらランサー突っ立ってないで肩貸しなさい。 くっ、い、いたっ、うー。 もっとそぉーっとできないの、ほらココ打って赤くなってるでしょー」 「無茶しやがるからだ、待てマスター。 おい、そこにいるのは誰だ?まさか新手・・・ん」 城から離れた森のなかで二人は無事だった、小川で汚れを洗い落としている。 大河は重い上着を脱いで汚れをはらい武装は解除していた。 「出て来い。サーヴァントじゃねェなら見逃してもいいが・・魔術師なんだろ」 「シオンちゃんじゃない。 間抜けな罠にはめられたと思ってたけど生きてたの?」 「罠?・・・ああ敵はいましたが追い払いましたよ。 本当、酷い教師もいたものですね。 かわいい生徒を他人の家に置き去りなんて・・・まぁいいわ、久しぶりねランサー。 先生、何か居るとは思ってたけどランサーとは何故一緒に?敵でしょう」 背丈じゃランサーとタメ張ってるのにかわいいとはよく言う、それに大河たちだって あの破壊というか崩壊のさなか、森の中まで形振りかまわず逃げたあと漸く気がついたのだ。 チクチク責めるにしたってえげつない。 だって、きれいな純白の服が惨めにも汚れている。 機嫌が一段と悪くなっていそうな言峰シオンは言う。 罠といった部屋に突入した後、何があってここにいるのか?どうして私を忘れているんだ 生徒を放って、先生は怠慢で傲慢で・・・一息いれて気を静めてから言った。 ランサーとは何処で会い共にいるのか? 聞いた。 「あんたの親父さんに貰ったのよ。用心棒だってねー。 やさしいお父さまじゃないの、家出なんてする悪い子には私が仮の保護者して」 「いりません。 それより、収穫はありましたかランサー。敵はあいつなんでしょ?」 素っ気ない態度で血のつながりのない親の諸行を無視した、中立なのに怪しい行動ばかりして 予想しなかったわけじゃない。 敵・。 子ども扱い?挑発?舐められてる? そのすべてだ。 あの馬鹿親父。殺す。 じわりと汗、さっきの戦いが命を落としかねないものだったからか焦ってのだろうか。興奮しているのか。 いつもはへこませるまで続く非難も止めた、ランサーは機嫌が悪いのだと考える。 「・・・どうなの」 無表情を装っているが、木の幹に片手をつき心の臓に抑える。 呪いを受けたのかもしれない。 サーヴァントだったのだから それなのに、ランサーに黒幕は養父なんでしょ、と言うときは笑って言うシオンの性格はイジワルだ。 「ああくそっ、目論見どおりなんだろうよ。 聖杯戦争をはじめる前から、最初からかき混ぜやがって! 卑怯な手ばかりうまいのは教会らしくてイラつく、聖杯戦争を俺にとって最悪な形で管理しようとしてるしな」 「それには同意ね。 自分の娘に不意討ちかけるなんて神父らしいでしょう。 アーメン。我らの裏切り者に死を」 どこか邪悪な微笑みで十字きって祈るしぐさ。 ランサーはシオンが綺礼と通じているのではないかと邪推したってしかたないだろう。 「お前という女は怖いね、裏切られたって仕方ねえな。 しかし今のマスターの不運は一人歩きしすぎる、俺の戦う機会(チャンス)が少ないんだぜ ・・・・・・確かお前シスターだろう? 情報は手に入っているのなら他の参加者たちはどうしてるか知ってるんだろ?」 「テンプルが崩壊したのを確認している。 オーナーが足を向けたはずだから討ち取ったんだと思ってる」 「確実じゃなくたっていいさ。 別にあのアーチャーだっていいんだしな、お前はサーヴァント持ちじゃねぇし。マスターはこんなだしな」 「そのマスターの手助けが居るんでしょ、それまでは私を生かすって言うのね。 ・・・何故か教会のシスターとしての力は使える、果たしてこれが本当の情報なのかは判別できないわ。 それでも次の行き先考えないと駄目ですね?先生はどう思います」 「そうなのよねー、散々わたしを無視して会話進めた罰としてイリヤちゃんの いそうな所を教えなさい。あの妖怪じーさんが狙っていたみたいだしさー」 気楽な選択だが間違ってはいない。 あの切羽詰った袋のねずみから脱出できて感覚が麻痺しているのか、もともと気力十分なのかタイガーは 焦げたコートの中から長身の猟銃を出して装備。 武装し直して、シオンの調子にも気が付かず今から道案内を任せる気らしい。 シオンは皮肉混じった溜息をして方角を確認。 「元のタクシー降りた場所でも良いですが、迂回します。間桐がいないとも限りませんので」 「ん?そこでどーして桜ちゃんが出てくるのかなー」 「・・・聞いてませんか?なら別に話す必要はないですね」 「マスターあのじじい名乗ったろ忘れたのか」 「へー偶然ね。 わたしの可愛い教え子兼恋のライバルとおんなじだ〜」 「ランサーやめておきなさい、恋などと言う女は・・・ああ経験ありですか?ご愁傷様。 先生の言うとおり城の主に会いに行きましょう。わたしの用事も済んでいない事ですし」 「で、どこへ向かう?」 「教会」