■神楽坂明日菜 転生、憑依どちらでも良くてTSでOK 『神楽坂明日菜(仮)レベル0』 厳しい寒さもようやく和らいできた初春。 朝はやくから昨日残ってしまった仕事を片付けて、そのまま午前いっぱいまで出ていた疲れもあったのだろうが 日差しもよく、俺はうつらうつらと眠りそうになっていた。 「あったかいなあ・・ん?」 熱い。 いきなり熱かった、暑いではなく一瞬だけだったが仕事仲間のいたずらかと思って振り返る。 しっかり目を開いたはずなのに真っ暗なままだった。 「おい」 これは・・・決して手で目隠しされたわけじゃない。 証拠に音まで消えてる。 呆然と周りを見回したと思う、だが感覚がなくなっていた。 夢の中ってのはなんとなくわかるモンだろ? これは違うのである、音のない世界に自分がいるのがわかるし他にだれも居ないのもわかるのだ。 「やめてくれ、だれか助けてくれ、ここはいやだ。ここは」 孤独を埋めようと暗闇の世界に手を伸ばすと、小さな手につかまれた。 「え?」 唐突に光が復活し、触れた手が重なっていく。 人の記憶が自分のことのように記憶されていく、それはほんの一瞬の出来事だった。 ひとりの女の子の悲しい記憶が流れ込んできたのだ。 「あなたに託す」 「待て。消えるなんて」 幼い精神が薄れていくのがわかった。 どうやってか理解できないが自分は彼女の存在を乗っ取ってしまったようだ。 子供と大人、男と女、整合性が取れない記憶の矛盾に混乱してしまうが今は放っておく。 瞬きひとつするとようやく自分の手だと認識できた、重なっていたはずの手は鏡にふれていた。 「神楽坂明日菜? わかる。わかるけど、どうして俺がそんな記憶持って神楽坂明日菜なんだ?」 どうやら混乱しているようだ。 「あ・・すな、あすな?」 「は、はひっ!」 呼ばれたので思わず返してしまった。 相手はおなじぐらいの背丈、誰だ? 「あー、起きてたん?・・・ふぁ」 このか。 このかだ、うんそうだよ。近衛木乃香。 「このか。寝るのか」 「そーやよ、もうウチ眠いし」 ここには同居する人間がいたのだ、記憶が最近のものからはっきりと思い出していく。 新しい学年。 その前は・・・知らないはずの囚われの身。 「ああ、そっかー・・・明日菜とかやめてください。 寝よ。夢だよこれは二徹とか似合わないことしたから春の陽気にあてられてるだけだって、そう寝よう」 だってこのままじゃ、学園長あたりが木乃香と明日菜をセットにして創られた英雄の息子ネギにお買い得ですよと 押し売りしようとするからね。魔法にはノータッチでいなければならないんだよ。 そう他人事のように考えて現実逃避しつつ、ベッドに横になったがどうにも眠気が襲ってこない。 ないよー。 ないない。 いくらなんでも、これは、ないんだよ。 どう考えてもおかしいじゃん神楽坂明日菜はさ、ヒーローのパートナーとなるメインヒロインなんだから 殺伐とした物語の本筋から逃亡の余地が微塵もない。 もし・・・こんな憑依だとかと言う、アホなことになってたとしてもアスナには三つの問題がある。 原作かアニメか、それとも二期かという問題だ。 これによってあまりにもキャラの性格と運命に幅が広すぎるのだ、メインヒロインと死亡フラグなら全力で 回避するんだがチュパカブラフリークなら居なくてもよさそうなもんだしな。 あと、容姿だけならメガネとった長谷川千雨がほぼ同じだと言われていたが、そっちのほうが良かった。 数多く居るヒロインたちの一人に過ぎない。 現実は彼女らとは一線を画すメインヒロインなんだよねー。ああ憂鬱だ。 「・・・どーしろっていうんだよ、ハァ」 自分が憑依してしまった相手が、年頃の少女で物語の中のヒロインである程度の過去と未来まで 知ってるとなると不安にならざる得ない。 こうして夜はすぎていった。 寝てしまうまで考えていたが、結局誰にもすべて本当のことは言えないと結論が出た。 魔法が在る世界だとしても未来予知を簡単に信じられないだろうし、たとえ未来人に聞いてもタイムマシンより信じられない話だろう。 まさか自分たちが架空の物語の登場人物だなんて。 そして同居人の作ってくれた朝食を食べながら、考えることは自分自身のことだ。 近い未来において八面六臂の活躍をする予定だった体の持ち主の中身が変わったことを話さねばならない。 特に目の前の親友であるはずの彼女には。 「どーしたん?さっきからウチの顔ばっか見て」 「んー」 「なにかあったんか、今日のは実家からの出汁やけど薄かったか?」 こんな突拍子もないこと、近衛木乃香には話せてもクラスメイトたちには記憶喪失で通すしかないだろう。 ひとりひとり、なんと呼べばいいのか・・・さん付け?ちゃん付け?呼び捨て? 覚えてないって、無理ゲーすぎるでしょう? そして、ライバルと呼んで親友と書く雪広あやか(委員長)がいる。 彼女にはそれとなく理解されてしまいそうな気がする。 本物のお嬢様キャラなんて生前というか現実で実際会ったこともないのに口喧嘩できるとは思えないのだ。 それに未だ意識は男のままだし、これからそのつもりでいるのでおじさまコンプレックスだった明日菜の心情は謎のままでいい。 「おいしいよ、うん」 「そーか良かったわー」 「でも、ちょっと思い出せなくて」 「何か忘れ物か?宿題は昨日してたし」 「それが実は、自分のこと。 わたしって誰だっけ?うん、明日菜だよね。 でも違う。違うっていうより別人になってるんですが信じてくれません、よね?」 「・・・えっと、あー・・・寝ぼけとるん? うん、真剣な目やな。 あかん。壊れてん」 いや、あたま叩いて、そして撫でないでくれ。 おかしくない、おかしいけど大丈夫なんだ。問題はあるけど叩くなって、斜め45度で。 「とにかく、別人ってことは知ってて」 あーぁ、誰かか代わってくれないかなあ・・・。 戦争の後始末で英雄になりたい人間と一緒にいれるか!わたしは一般人になるぞ、ハーレムメンバー的な意味でも 主人公の犠牲になってたまるか!こんなラッキーエロリストのいる世界に居れるか!おれは現実の世界に帰るぞ! 何度も何度もきっちりフラグを立てた後で滅茶苦茶へこんだ。 これは・・・無理ゲー、ダメそうな気がしてきた。 ふたりで仲良く登校したわけだが、会話はずっとボケとボケの掛け合いになってた。 自分でもわかってるよ、別人だとか物語の中の登場人物だとか・・・天然同士って会話できなくて困るなぁ。 「おはよー」 「・・・」 「おはようございます、長谷川さん。今日は放課後いいですか?」 「・・・おはよう。なに?」 教室に入ると一人の女の子を探して声をかけた、長谷川千雨だ。 今までこうした接触は避けてきたはずの彼女に積極的に挨拶してみたのは、こうしたそっけない態度のときに 知っておいてこそ、千雨のツンデレを堪能できると思ったからだ。 木乃香も黒髪の京美人でツボだったけど、さすがネットアイドル。予想以上に美人だった だから秘密(ネットアイドル)を盾にして仲良くなりたいと思っちゃったのさ。 宇宙人、未来人?そんなのいるわけねー。 そんなふうにミーハーで、気楽な話が彼女とはできるはずなのだ。 「ちょっと聞きたいことがあって」 「ち、ちかい・・って、オイ」 「かわいいよちうかわぃ、ッ」 「!?」 耳元でささやいてあげた。 おーおー驚いて、こわっ。睨むのやめてください。 「襟掴まないでよ。あとでね」 えーと、まずは趣味の親和性なら早乙女ハルナや綾瀬夕映がいいのだが、ふたりは厄介ごと(魔法関係)に完全に取り込まれるからなぁ。 ネギや魔法とは星の巡り会わせが悪い雪広あやかが羨ましい、逆にハードボイルドな世界に通じてて 姿を消したフリができそうな傭兵である龍宮真名あたりは相談しだいで協力を得られるなら仲良くしておいたほうがいいか。 しかし、なんで明日菜なのか。 完全に一般人ポジションを確保できそうな柿崎美砂、バンドは魔法とは違う漫画にスピンアウトできそうだ。 ハーレムの癖にチアリーディングで彼氏がいるのが実に安全パイだ。 まぁ、彼氏には悪いが男の娘でない限り速攻で振るが。 本音は傍観ポジションで、才能も出自もそこそこ分かりきってて物語りに巻き込まれても 精々人質ポジションで大した決断もせずに済む。そんな植物の心のような生活をおくりたいです。 いや、それよりさ。 アスナ・ウェスペリーナ・テオタナシア・エンテオフュシアの時の記憶がないのはどういうわけよ、アスナに憑依しちゃってるのかい? あとさぁオッドアイなのに特殊能力じゃぜんぜんなかったよね、役に立つのは実質ちうとコスプレしたときだけじゃん。 まさか自分が落ちもの系ヒロインになるとは思っていなかったわけで、 ★シリアスは禁止したいものです。どうにか軽くしたい。 転生というは残酷だと思う。 失うものが大きすぎる、一度天寿を全うした経験は財産だが忘れてしまうと。 失うと二度と戻らない。 いつも買っていた缶ジュースとかそんなちょっとしたことから好きだった人。嫌いだった人。 たとえば、住んでいた町の駅に乗って遠くまで出かけた記憶にある行き先は何処で。誰かと行ったのか、とか。 カラオケで喉を壊す勢いで歌いまくった、お陰で学校では一言もまったく喋らずにいた。 何かを食べた