まひるとひなたのおうち2



「なんで起きないかなーー、こいつは」
低血圧のはずなのに朝からこの寒い部屋の中で怒ってる小さな人、その怒気を向けられた本人は
ソファですぴーと惰眠を。夢の中ではお肉を。貪っていた。
既に朝食はできてるというのに。
手際のよさは同じ遺伝子を持つとは思えない、ひなたはこの姉・・・兄をどうやって懲らしめて・・・起こしてやろうと。
言い直しの数が多くなるのは、この姉・・・いや兄が複雑でそれでいて明快な人物であるから。
性格は明朗快活、底抜けに明るく・・・悪く言えば遠慮なしの爆走娘。
それで友人たちにブレーキという名の元によく成敗される。
一言で言うと容姿はキュート、りんごの様。ぼやりとしている時は、溶ける笑みを浮かべて美味しいもののことを考えている。
兄のはずの人物の見てくれはつまり少女のそれ、言われても納得できる人はいないだろう。スカートの似合う男の子だなんて。
「どーして起きてないのよ、アレ?・・・ない」
目覚し時計を探してみた、ない。
接触少ない姉妹同士だったが、目覚ましがあることは知っていたつもりだった。しかしない。
無くしたのか実家に置いてきたのだろう、ま抜けなまひるらしい。
「起きろー!姉。姉。姉!」
「うにゅ・・・うゆ、うまうまぅ。ま、うま・・うま」
青筋が一本。
「まひるっ!?さっさと起きなさいよ、このぐーたら!起きないと朝飯抜き、私が全部食べるわよ!」
ひなたは色々あってよく食べる。
いまさら体積比で3倍が4倍になっても5倍になってもそう変わらない、ひなたはマジで食べようと思った。
「っ!?ええっ!?ひなた、朝から食べ過ぎわいけないよ!あたし起きてるよーっ!」
「ったく」
ばばっと起きて、ひなたのちーさな肩を掴んで泣きすがる。
反応早すぎ、ついでに妹に威厳のない所を見せ過ぎのまひる。
食べ物への執着ぶりに呆れたのか感心したのか無表情、そしておはようと一言。
「じゃ早く食べにきて」
「ふぁーい」



ひなたに泣きついて泊まってもらったまひる、朝食まで用意してくれるなんてとかなり感動気味。
どちらが年長者なんだか・・・また抱きついてひなたに頬擦りしてるし。
「♪〜、ひなた。ありがとう♪」
「う、うわ〜。ちょっと止めろー」
「あ、ごめん。ごめんね、ひなた。あたし嬉しかったからつい・・・ごめん」
「べ、べつにどうってこと無いわよ。いただきます」
「いただきます♪」
またニコニコしているまひるを引っぺがすと、椅子に登って座りまひるの3倍のご飯に手を合わせ食べ始める。
朝からすごい食欲だと思うまひるだが、それよりもひなたと一緒に食事をとるなんて今まで無かったも同然の事なので
パクパクと食べてニコニコとひなたの顔を眺める。
「なに?」
「ううん、こうやって二人で食べた事無かったなって・・・姉妹なのに。あの・・・あたしの事避けてた?」
心配そうにおずおずと聞くまひる、ひなたは普通に答える。
「そんなことはないわよ、両親とも忙しかったし」
ほっとし、そして納得。
単純というより確認したかっただけらしい、本題はここから。
「そうかな?そうだね。今はそんな事どうだってイイ、ひなた。その・・・勝手なお願いなんだけど聞いてくれる?」
「まひるはいつでも勝手でしょ、なによ?」
箸は止めず、おーおーよく食べるなぁ。
さり気なく言えそう・・・言おうか。
「これからも時々でいいから来てくれないかな?・・・ほらあたしってご飯美味く作れないし」
「よく一人暮らし、なんて言えたわね」
心底呆れた顔でひなたが言う。
「やめとく」
「っ」
一番嫌だった答え、母が心配して一日だけ無理させてくれたのだろうか。やっぱり。
「・・・そうだよね、無理言ってごめん」
少しの喪失感と悲しみが胸に広がる、今まで好きじゃないとか大好きなのではないかと独りよがりしてきたものとは違う本物の痛み。
「違うっ!そんなじゃないっ!」
「え?」
「わ、わたしもここに住むっ!それと」
お風呂や寝床も変えなくても・・・一緒でも。言えない。恥ずかしい。
「え?でもそれはまずいんじゃ、あたしはそれでもいいけど母さんに確認してからとかの方が〜」
希望的観測だったが、ひなたに小言でいじめられそうなので少し遠慮していた・・・同居という選択肢。
それでも嬉しい、同居の申し出にわたわた慌てる。
それは確かに嬉しいが色々と問題があるからだ、まず両親。そして圧倒的に貧しい住環境。
「それよりいいの?」
「え、もうこんな時間?ひなたごめん、あたし行かないと」
「いってらっしゃーい。私も早く行かないと。あ、待って夕食何がいい?」
「ハンバーグ。あっあ、うわっ、まずっいー」
遅刻かな、私も急がないと今日は一時時限から体育だったな。慌しく出て行く姉を見ながら思った。



美奈萌が歩いていると声をかけてきた人物がいた、珍しい遠場透だ。
いつもは香澄、まひると付き合っている?のに。
「よぉ」
「おはよ」
「・・・」
「おはよ、私はまひるじゃないから続き」
ぼぉーっとされても分かんないわよ、それなりに親しいと言えば親しいがまひるのようにツーカーの間柄では無い。
はたから見てると以心伝心という言葉と、波長という言葉がよく似合っている。
先を促す、隣に並ばれた。
「いや〜結構普通だな、と」
「普通じゃないわよ、昨日のアレ・・・私戸惑っていたし」
「俺と香澄はいいが、美奈萌は遠ざけようとするかもな」
「まひるは男であんたも男でしょ?問題大有り。私は女だから別に問題ないの」
まひるに気があると誤解されたな、まぁそれでもかまわないんだが。
「違う、まひるがだ」
「そんな・・・まひる変わってなかったよ?そんな事ないよ、しないよ」
「わかってる。でも状況が許してくれそうも無いと思うぞ、教師にやっかいなのがいるしな」
「私にも何かできるなら必ずする」
「・・・・・・そうか、頑張れ」
何考えてるかさっぱり。でも友、ライバルでもあるかな・・・ん?
私は女、至ってノーマル。
本人の居ないところで火花でも散らしておこう、ぼーっとした男のこいつとライバルは嫌だけど。
まひるはあんなだし。
「おはよう」
「香澄か、おはよう」
「よぉ」
「おはよう、透。奇遇ね」
「・・・」
続きを待つ美奈萌と香澄、またもや空気で話そうとする透。
十秒ほどの沈黙の後に美奈萌は突っ込む事にした、MCのまひるとの掛け合いで手馴れたものだ。
「また一言だけかあんたわ、この一見朴念仁が」
「いや〜、まひるがいないと二人は冷たいな。それと俺は一見朴念仁ではない、朴念仁そのものだ」
「自分でいうな」
透が自慢気に話しているように見えたのでムッする美奈萌。
「・・・」
「また妙な間を、それはまひるしか分からないんだからちゃんと声に出して」
まひるがいなくなってからはバラバラに登校していた三人が並んで歩く、珍しい光景に生徒たちの視線が集まる。
男も女も憧れる香澄と並んでいるだけでも視線がきついのにもう一人女をつれる透には多くの視線が突き刺さる。
「まひると俺だけに分かる・・・ぽっ」
ごすっ
しかし本人は異性に失礼な態度を取って、背後からの一撃で地面に顔面から顔を埋めた。
「う、会話に参加しないと思っていたのに・・・」
ばたり
香澄の鉄拳制裁を受けても倒れずにいれる数少ない人物は、まひるにホの字遊びをしていたので不覚をとった。
二人はすたすたと地面に沈んだ透を見捨てていった。
それから、5分後。
「わわっ、何か踏んだぁーーー」
「ぐぉ、まひーるぅーーー」
足音、そして踏みっ♪
踏んだほうは透に気ずかぬまま校門を駆け抜けていった、透は少し切なかった。



授業中、そしてお昼へ。
「あからさま過ぎ」
「何が?香澄ぃ、そのタコさんソーセージ可愛いなぁー」
「・・・」
狙われたタコ、それを香澄が素早く摘んでまひるの目の前で揺らす。
うんうんうん、縦に顔を振って強請るまひる。
遊ぶ香澄、右へ左へタコさんを揺らして目をきらきらさせてるまひるを弄んだあげく・・・
「ほらこの足が少し焦げたタコが恋しいのか?ん、欲しいのか?あげないわよ」
「肉なのに?香澄はそんなぐらまーな体してるのに?うぅ〜なんて酷い奴なんだ、香澄っ」
「違う方向に色気と食い気をだして、ちっとも男らしくない・・・はぁ」
結局、香澄の口に中に消えていったタコさん。
「そんなだから、周りから指差されるのよ。その制服、スカート、身振り手振り直していかないと。この二ヶ月間何したの?」
「検査、経過観察、検査、検査・・・次は検査?いや何にもしなかった日が続いて」
「指折り数えんでいい、それにアンタの記憶はあてにならん。
私が聞いているのは変えようとか思わなかったのって事、色々聞かされたんでしょ?男だからどうこうって」
「いやー、あたしって忘れっぽいから。
なんか白い部屋で二ヶ月間暇してただけ、別にそんな心配してもらうような」
「心配?はぁ〜。・・・違う!アンタは男に成ったって言うか、こんな顔してても中身は男なのは分かってるんだからぁ〜」
「うにぃ〜、かすみー引っ張るな〜」
柔らかな頬だ、香澄の手で上へ下へよく伸びる。
いつもどおりのまひるに男としての自覚を促す?香澄の努力を聞き流して、もう一人の人物を探した。
「そういえば、美奈萌がいないな」
ずるるるるるるる
いつものヌードル。味は飽きないので汁まで。
「ぷぅ」
寒空の下、高いところで集まっている三人。特に一人。
「すける、香澄は酷い奴だ!何とか言ってやれぃ!」
「まひる、香澄から肉を貰おうとしてたのがまずいんだ。あの胸は多くのタコさんソーセージの犠牲で。
・・・つまりりんごウサギなら、うっ、がはぁっ!」
げしげし
無表情で蹴る香澄、邪魔者を早急に排除するつもりか!?
「ああっ、すけーるぅー!大丈夫か!?」
「助けろ、見てないでっ」
「でも・・・香澄にはかなわないし。・・・う、わかった。香澄ぃ、あたしの後援者兼イケニエをっーこうしてやるぅー」
「ひゃう!」
まひるの抱きつき攻撃を軽く避ける、そして・・・え!?ぎゅむーっ。
捕まってしまった、何故?と考えるまもなく揉まれて密着されて。
首筋に顔を埋められて鼻の先でスリスリされる、くる!ビッ、と電流が走る。○△×□っをん、んくぅ〜〜。
「かすみぃ〜♪捕まえた〜、昨日の成果発揮ぃ〜〜♪」
「な、やめなさいよぉ・・はな、して・・んきゃっ!?はん!?まひる、ちょっ・・ん」
「香澄ってやっぱりグラマー、あたしにも分けてくれないかなー」
「だから男っ」
「ん〜ん〜、女の子どうし女の子どうし〜」
「あんたは男でしょう!はやくやめなさいよ、ん〜」
いつのまにか復活して二人を観察している透、しかしベンチに座って休憩。
その隣には遅れてきた女生徒、美奈萌。
さっきまで階下で柳川を退治していたのだ、少しは役立てたとまひるの顔を見にきたら香澄とじゃれあっていた。
「香澄、いいな・・・」
美奈萌が羨ましく思っていると突然隣の男が立ち上がる。
「よしっ!男の子どうし男の子どうし〜」
「きゃあ、あああああああああ〜〜!!」
「透ぅ〜〜!?まひるになんて事して!」
と、まひるの尻に引っ付いて香澄と言い争いになって三人で騒いで・・・・・・・・・美奈萌は平和にお昼をたべた。



「あ、そだ。香澄」
「なに?」
「引っ越したばかりで家具がないの、だからテーブル買いに行くんだけど一緒に行ってくれないかな?」
「いいわよ」
監視役兼補助を獲得した、小さなテーブルでもまひる一人ではとても大変なのだ。
その点、あらゆる武術をそつ無くこなせる香澄は単純な力もそこらの男では敵わぬものを持っている。
まひるより頭ひとつ高い体格で、まひる程度なら持ち上げる事に苦労もしない。
「あ、放送室」
「なに?やめたんじゃなかったの?」
まひるのいない間、想いに気がつかされた香澄にとって
今までのアドバンテージを維持し発展させるために、まひるの美奈萌との接触はいいものではない。透も然りだ。
「後輩の子鈴ちゃんにMCとして何かしてあげろって、言われなくても・・・むー」
「ちっ、余計な事を」
「え?何か言った?」
「べっ、べつになんでもないですよ。さ、さっさとすませてプエルタに直行しましょう」
すたすたすた
「でも何であんなに、そりゃMCは好きだけど」
廊下を歩く二人、香澄がいつもようにまひるの後に。
それを気にせず、妙に気合の入っていた美奈萌を不思議に思いかえす。後輩って確か子鈴ちゃんよね〜。
そう思いながら扉を開けると、かなりの時間待っていたような雰囲気。
「やっと来たわね?」
後輩をだしにして捕獲作戦を取る策略家、放送部の部長さん。夕凪美奈萌。
なぜか香澄は入って来ない。
理由は二つ。
テリトリーではない事、そして重要なのはこちら。
放送部入部疑惑の噂をたてて、クラブ間抗争に火をつけるのはまひるのためにも本位ではない事。
「五分、それくらい待ってる」
「うん」
「あ、桜庭さん?」
「今日は顔出しだけ、少しだけ。今日プエルタ行かないと家具がなくてひなたに。
あ、ひなたってのはあたしの妹、ライバルって言ってたよね〜。え、っとまぁ、それはどーでもいいよね」
美奈萌が睨む。
まひるの妹・・・にゃ少し浅からぬ思い出があった。
それはまひるの知らないところであった事なので、美奈萌とひなたの間に何があったかは当然知らないまひる。
「それと香澄はあたしの買い物の荷物持ちをしてもらう事になっているのだ、美奈萌も一緒に」
ごつん
「な、なぜだぁ〜」
「手早くすませてさっさと来なさい、無駄話してたら・・・いい?」
こくこく
小突かれたところを抑えながら涙目で大人しくなって頷く、目は恨みがましそうだったが。
「五分よ、遅れたらまひるのプエルタでの楽しみが少なくなるわ」
「楽しい?」
「・・・たぶんね、玄関で待つから」
ばたん
行ってしまった。
小動物のように怯えている子鈴ちゃんと話す、たしか男性恐怖症?
う〜ん、あたしちゃんと教えてあげれるのだろうか?伝える事、伝える事・・・あった、時々おかしくなる美奈萌の
フォローの仕方教えないと。叶先生に叱られるのは美奈萌でも気の弱い子鈴ちゃんが可哀想だ。
でもまず、くせのある機器の扱い方とテクニックです。
「でね子鈴ちゃん、このスイッチはよくおかしくなるから美奈萌にも言ってはあるんだけど」
「はい」
「そして、こいつは10秒ゆっくりとね」
「はい」

「」








「」
プエルタで




「まひる、あんたには男として大切なものが欠けているぅっ!」
びしっ
「ん」
指差されても、まだアイスが・・溶ける溶けるっ、ん〜〜あまあま♪
「くーぅ、なんでこんなに」



僕
ぼく
「ボ、ボクぅ?」
「ーっ、かわいったらありゃしないっ!?はーっ、ふーぅふーぅ・・・フン」
赤くなった顔を背ける、こんなにも可愛いまひるを美味しく頂きたくなってしまう。








二日目の夜、お風呂でばれる。小さな羽根。生え変わり?