赤と黒のペンキで塗りたくってフライパンでジュージューと焼いた世界、そこであぢぃなあーと文句垂れて
さ迷い歩いている私。こんなふうに料理されるのは好きじゃない。
・・・帰れない変えれない過去を夢に見るのは、とおっってもっ嫌いだった。
いつもと違っていたのはここから先、しばらく行くと遠くから誰かが起きろとよぶ声が聞こえ。目を開けた。

「・・オ・キ・ロ!・き、しぉーー・・・きて、お・・・・らぁ・・・」

「んんっ」

「起きろーっ!朝、朝だぞーっ!もう八時だぞ遅刻魔の衛宮シオぉぉーーンっっ、オキロ起きて来いっ開けて
出てきて出迎えろーっ!オキロ!おきろーっ!早く!早く!!起きろ起きろっ、出て来い!!」

「・・・最悪な目覚めだ」

いつからリピートしているんだか・・・額に手を当てうな垂れた、虎の遠吠えが玄関から聞こえる。
ここは太陽系第三惑星地球日本国冬木市だぞ。
お前みたいな未確認生物のような虎が居ていいと?
野生に帰れ、ジャングルに帰れ、賞金稼ぎとかハンターが襲ってくるけど気にせずに帰れ。いつかWanted!!とか
されて冬木に錦を飾れ。
がんがんっ!!ダンッ!ドガッ!!!!!
玄関壊されてる音だ、早足で出向いてがらがらーっと戸開けて寝不足まなこ半分で睨んで言ってやる。

「死ね」

「あーっ、やっと起きたかネボスケめ!シオン、遅いぞーっ。
朝ごはんをっあれれれれ?どーして閉めるの?えっちょっとぉーっ開けなさいってーのよーっ」

カランと足が何かを蹴った。
玄関脇にかなり前から何故か積んであるダンボール、その中身がなにか拍子に崩れて落ちていた。
良く見ると賞味期限切れの非常食だったので手を伸ばしてひとつ取るとタイガーに渡した。

「これ朝飯代わりに食え、死にゃしないだろ」

「インスタントより手軽でいいのよねー、ってこの缶詰開いてないじゃん。
缶切りよこせっ!!って違うわぼけぇっっ!!」

「うるさいなー。昨日は遅くまで大変だったんだぞ。
お前も女なんだから時たまには朝を用意してよ、姉妹の契り交わしたのに・・・あー頭ガンガンする」

「あはは、あの時は吃驚したわねーいつも生意気なシオンちゃんがちょっびっとの日本酒で轟沈なんてっ。
うん、先生してる姉に対する敬いが足りんからだぞ。藤村組の娘をなめていたからだぞ。
それにさあー仕方ないじゃない。家政婦さんが朝ぐらい作れるようになりなさいって言うから、でも面倒でさー」

「それで解決策として、私のところに毎回たかりに来てると。
家庭料理つくれるようになれないし腕磨けないだろ?まさか・・・・問題解決になってないの気が付いてないのか?」

「そっかー、最初の頃より腕上げたと思ったのにおかしいねー」

「それは錯覚、と言うか私の能力向上しただけ手伝いもしないのに・・・おかしいのはアンタだ。
納得しない。
わたし強い奴と日夜戦って体調不良なの、だるいの、イライラするの」

「そっかー、だから未成年の酒とタバコは禁止なのかー」

「・・・・あのね、もういいから出てけバカ」

そう言えば昨日の帰宅時、タイガーがついてきた猫に何か与えていた。
下駄箱の上にその残りが置かれてる、どうせ同じ猫科かもしれない動物なので秋刀魚カンヅメは好物に違いない。
ポイッと外に投げて鍵閉めた。

「バカって言うなーっ。わわっ、これ野良猫の残りでしょ人間様だぞーっお姉ちゃん虐待反対だ!
先生なんだぞーっ!聞いてるのっ?!ねえっ鍵開けて入れなさいよ缶切りだけでも、ねえー?
朝ごはんっ!朝ごはんっ!あさ・・・無視かーっ?!シオンの不良、乱暴者、鬼!教育が必要だぞっだから聞けーっ!」

・・・今朝はめっきり寒いので牛乳を温めることにする。
寝ていたときより五月蝿く虎が騒いでいるのは気のせいではないようだ。仕方なく玄関に戻り、扉越しに
駄々こね子どもに諭すように話してみるものの諦めそうに無い。
まだまだ外の空気は冷たいのを確認し、今日は朝冷えて昼に雨だと聞いた・・・このバカ虎は放っておくと
いつまでも粘って風邪ひくかもしれない。ちょうど暖まったミルクを分けてやった。
そして、中に入ろうとしたのを防いで三度再び戸を閉めて締め出した。
この様にいい飼い主は飴と鞭を使い分ける。

「わー、手冷えてたのよ気が利くねー・・・ばっきゃろーいっ!!中に入れて暖かいメシ寄越せっ
この反抗期娘めめめめめっ、うわ舌噛んだっ。
どーせ男でも連れ込んで教師に見せられないんだっ、青春真っ盛りってやつ」

「・・・・・はぁぁ〜〜〜。色ボケてんのはアンタだ、さっさと行って私の遅刻申告しといて」

もはや押印しまくりで真っ赤な生徒手帳を隙間から渡す。

「あーもうスタンプ押せるスペースないぞ。それに・・・・・・冷たい。
シオンいーかげんお姉ちゃん苛めないでさぁ、普通に来てくれないの?ねー進級できないよ本当に遅刻でいーの?」

「今回もテストで良い点とるから気にするな自称保護者」

つれない返事にがっくりしているこいつは藤村大河、私の姉とも、先生とも、そして保護者ともいわれる女性。
欠点はタイガーと言うと暴走することと、女の色気が三十路への階段を順調に上っても身につかないこと。
私が成長期というのもあるだろうが、身内のひいき目に見ても化粧とか服装とか全く変わらない。成長してない。

そして学生である私、衛宮シオンはコレが勤める穂波学園に在籍している。
ちょっと複雑な家庭環境を持つ、性別はメス、赤髪とピアスが似合う血筋は日本とあまり縁なさそうな衛宮家の養子。
藤村組にそのうち入るだろうけど未だそれは先の話だ。
現実的将来には確定に近いことだけど、今は遅刻と早退の常習犯であり、テストだけは何故かいつも欠点なしの超優良問題児。

「朝練あるのに顧問いないと困るんだよー?元気ないと困るんだよー?だからご飯作って」

「だから?所属もしていない私に弓道部に貢献しろと言うな、眠く・・・は、もう無いけど」

「二度寝?駄目だぞ遅刻しちゃうぞ。
だから私が来てあげたのだ、感謝なさい」

悪夢とまではいかないが不愉快な夢のせいで睡眠は欲しくない、タイガーが得意満面で登校を迫ってきた。

「・・・・・わかった」

「一緒に学園行くの久しぶりだねー、準備手伝ってあげるよ。
これが私のお弁当ねうんうん綺麗に準備してあるじゃない、詰めて詰めていっぱい・・っとシオンは?」

「いらない。自分でする」

「遠慮しちゃって、もー」

台所には昨夜仕込んだ弁当の材料があった、それをタイガーは二つの弁当箱に3対5の割合で分けて入れた。
5の方にはかなり無理して詰め込んでいる。
養父がなくなってから孤児同然のシオン、問題児であるが実はこう見えて必要に迫られて家事能力は高かった。
まだ、学生であるものの経済的には自立していた。

「それで、今日はどの車持ってきてるんだー?」

キツイ性格は家庭環境が影響してつくられた、女の子らしい部屋には見えないが無趣味なので気にもしない。
制服に手を通して髪をまとめる。
赤髪が後ろで一つにされる、そしてそこから少し前に持っていって顔を半分隠す・・・10年前の火傷の為だ。
他は肌が多少黒っぽいだけで目立つ特徴的な傷跡は少ない。カバンは軽い、教科書の代わりに凶器一式と薬を数種。

「えー歩きだよ、峠とか海とか走るわけじゃないしすぐ10分もかからないじゃん。
寒くなってきたから走れば暖かくなるよ、シオンって運動不足じゃなかっけ?じゃいいよねー」

「行く気無くした。やっぱ遅刻で」

「元から無いものをなくせるはずないでしょ、ほらレッツゴー」

肩を捕まれて走り出していく。
やがて他の生徒の姿見え始めると自然と別れた、職員室に行く大河と教室に向かったシオン。
入ると視線が集まったがギロリと威圧するとそそくさと目をそらすのが大半、あとは顔見知り。

「珍しいな」

「鐘か、今日は気が向いただけだ。三枝は・・」

「探さなくていいゲス、いいかげん諦めたらどうだ。蒔寺も私もお前が三枝にちょっかいかけなければ
どれだけ喧嘩してようが、一向に諌めようとも思わないし、こうして話もしてやるというのに」

「残念ながら学校来る楽しみ減らせと言われて、虎にだって言われてもこっそり手をのばすよ」

「これが男なら簡単なのだが・・・厄介なクラスメートだ。
調子が狂うな、私にこんなに苦労させて」

氷室鐘という白髪の眼鏡かけてる女の子、すこし堅いところがあるが他の生徒みたいに私を避けたりしない。
並みの胆力じゃない、虎の場合は・・・あれは身内だし凹むとか想像つかない。
前に一度威圧のために火傷の痕見せても、度胸の据わっているこいつには効かなかった、あと一人そんな奴がここには居る。

氷室鐘とは今は個人的な都合により冷戦状態だが、私から交友関係を切ろうとは思わない。
鐘からも切ろうとはしていないし、そういう奴は嫌いじゃない。
あと、いつもテストで世話になっている。

「悪い悪い。ところで今度のテストは成績はどう?良さそう?」

「ん・・またか、相変わらず変な奴だなシオン。いつもパーフェクトの癖して
私と勉強会したいなどと、あと会長も誘うなら早く何かしら得点稼いで貸しつけておいたほうがいい」

「悪いね。そっか」

私なんかの友人していて良いことなんて何ひとつ無いのに、こうして助言もしてくれる貴重な友人だ。
三枝由紀恵への接触は遊びだと感じているんだろう、油断だよ誤解してる。
徹底的な破局にはしないと確信しているからだろうけど、残念なことに私はどんな切欠で壊れてしまうか
分からない関係だと思っているんだ。だって君たちは私の悪癖を知らない。

事後はたぶん一方的に私が悪になるんだろうね。
夜、または仕事中では非情で通っているんだから、その時には関わってしまわないでくれ。くれぐれも気をつけて。

「ふーん。会長か・・久しぶりに手伝ってやるかねー」

席に着いてのんびりとテスト対策を考えていく、と言っても勉強するわけじゃない。
そもそも、真面目に来ているだけで邪魔者扱いされている空気の教室にいつまでもいたいとは思わない。
会長に雑務リスト作成してもらって授業フけて労働にいそしもうかと考えていた。

「あれ?鐘っち、あれ」

「ん、衛宮なら朝早くから来ている。私が監視しているから三枝とは接触してない安心しろ」

酷い言い草だ、タイガーと同じ扱いか。

「うげ。爬虫類のような目でこっち見た、猛獣とかより生理的に受け付けない!
チロチロ舌だしてる大蛇だぞアレ・・・なんで来てるんだ」

毒持ちのクラゲとかカエルとか、まだプニプニしてて可愛げのあるものなら例えられても
許してあげるつもりだったが、蛇ときたか・・・蒔寺楓め。おこげ。私もかそれは・・・黒肌に赤髪だもの。
ケケケ、今度大事な大会に邪魔しに行ってやろうかぁ?
応援名目で知り合いの馬鹿引き連れてなあ〜ぁぁ・・・やば眠くなってきた。やっぱり昨日は遅かったから・・・Zz・・ぅ・んん。

「ホームルームだぞ席につけ。
肉食獣がやってくる」

氷室が話し終わると同時に扉が吹き飛び突入してきた。
暴走教師タイガー、がおーーーんっとここに登場。やたら元気だ。てめえは子どもか。

「全員揃ってるかーシオンは居るかー、おっいるいる。気分いいよねー。
やっぱり全員そろうと手抜けないね。
きっと今日は良い一日になるぞー、他には連絡事項無し!ちょっと学園の外が騒がしいけど新都とか
遊びに行ってる悪い子はシオンだけだよね?じゃいいかー他になにか質問あるー?」

クラスの半数がくじ運悪い女教師の宣言に首を振り、半数がため息を吐く。
手抜きでも気合でもいい・・・真面目に仕事してくれたら救われる学生が沢山いるんだ。無自覚は罪だ。
機嫌が良さそうだったので生真面目な女生徒がシオンが寝ているのを確認して聞いた。
小市民だと思う。
悪人は大きく構えているんだ、しかも本気で寝てる。

「先生。なんで今日は全員来ているんですか?特に」

「あー気にしないで、寝る子は育つの。シオンはただでさえ背ちっちゃいんだから」

「答えになってませんよー」

ぐっすり眠るシオンは教卓のド真ん前なのだが、これには色々と事情があったりする。最初の席替えのときに
シオンは良い人と保健室にふけていたし、虎の被害を一番受ける席は空席もしくは衛宮シオンという毒を
持って毒を相殺できるはずない。・・・・・らりってる人間が多かったという民主主義万歳だったのだ。
優しいクラスメイトばかりだ、嬉しくてついタイガーを苛めちゃうな。

「シオンが起きる前に授業はじめちゃいたいなー、あ、現国か葛木先生にお任せ〜」

「どーなるやら」

「起こさなくていーのかなー、衛宮さん」

「由紀は優しいな」

「だが絶対に話し掛けるなよ、遠坂の方がまだマシなんだから衛宮とは免疫持った相手しか話せない」

「え、うん。鐘ちゃんがそう言うのなら今度から気をつける」

コクコク頷く三枝由紀恵。
でもこれで安心できない、由紀恵は人を疑うことを知らないから。

「今日こそはお弁当を遠坂さんとね」

「そっか気をつけて・・・あ、まぁ、頑張れよ。
気合いれて作ってきたの、無駄になったら私が味見してもいいか?」

「本音ってさ思わず出ちゃうよなー」

「ばかもの、それに食い意地はってるわけじゃ」

「はいはい分かってるって・・・鐘っちって何気に衛宮の弁当も食べたことあるって言ってたよな、どーなんだ美味いのか?
この前耳にしたけど、あいつがとてもエプロンつけて作ってるとは思えないし、実際そんなの見たら笑いころげるんだけど。
とても信じられなくてさー。
それでも、食いたいって頭下げるのはゴメンだし、不意打ちで奪えなさそうだし、私だって藤村先生の弁当には手を出せないしー」

「計算とまで思っていないが・・・・・人あたり悪くて得してるんだなアレは。誰も口にしようとは思わないだろ?
三枝だったら楓やら遠坂やらに奪われまくってるだろうな、先生がかまっているのも弁当目当てと思ってしまうほどだぞ」

最高の褒め言葉を皮肉には使わない氷室鐘が言うのだ。
本当にうまいんだろう、衛宮シオンのつくる料理は。

「へー衛宮さんて上手なんだ。そう言えば先生も三食お世話になってるって誉めてたよね・・・交換してくれるかな?」

「由紀は近づいちゃ駄目だろ、いくらあいつがおさんどんしていたって・・・あ、そう言えば教室にいつも
いない奴なのに鐘もどうして食べれたんだ?遅刻魔だから午後から出てくる時もあるし、昼時は何処に行ってるんだか」

「柳洞時くんが一緒に食べてるって言っていたよ」

「ほぅ?それは私も初耳だ。
蒔寺、わたしが食べれたのは藤村先生つながりで誘われたから特に親しくしていたりするわけではないからな」

「そーか・・・ならいい、由紀っち防衛同盟(子犬を守る会)は健在ってことで。
しっかしよぉー考えられない組み合わせだぜ、模範生の会長と問題児の衛宮が仲よく食事?
まだあの遠坂とかあたりが、こう背筋寒くなる笑いでピリピリしながら生徒会の仕事関係で仕方なく一緒ってのが限界だろ?」

「・・・間に入りたくないな、楓も人のこと言えるか?苦手なんだろう?
由紀はどーしてか憧れてる遠坂とは犬猿だし、会長とは部活のことで堅物だ、わからずやだ、と言うのだし。」

この三人組のうち双璧構える二人の杞憂が現実になることなく、衛宮とも遠坂とも三枝は関わることなく
最後の学期を平穏に過ごした。進級してもこの学園は滅多なことではクラス代わりする生徒はいないが、今年は
衛宮シオンがいたりして教師たちの間で藤村大河の監督不足が話題になってた。

「自業自得でしょ」

「なによ酷い、なぁ・・はふ、、んん」

鍋をつつきシオンに愚痴を聞かせるタイガーはすっかり飼いならされた虎だ。コタツみかん猫だ。

「でも、おいしー!頬が落ちるよぉ。
どーしてこんなに奮発、引っ込めないで。食べるって。
勿体無くなんてない、食べてもらうのが幸せって私ってば果報者?!」

「がめつい・・・頂き物だから遠慮するな、雷河じーさんが持ってきたんだ。
一人で食いきれないしな。それからテストは良かったんだ文句出させてないよな、担任の先生?」

餌付けされてる自覚を感じさせることなく、コントロールするために虎の弱点突付いたり撫でて誉めそやしたり
・・・悪女だったシオン。