朝から血のにおいが校舎全体に漂っていた、そんな日。
じっとり不快指数が急上昇なのにも関わらず、私が回れ右せず素直に登校したのは変だった。
その後、授業フけることなく教室で陰鬱な生徒と教師たちを観察するのは楽しかったんだけどねー。

どっぷり日が暮れて夜になったけど、今日はなんだかとっても校舎の雰囲気の居心地がいい。
例えるなら、食べられるのを喜びながら死んでいく蜘蛛。
そんなおぞましさが世界にあることを知ってるから、平和で平穏なここがこうなっていることが
面白くてしかたなかった。だから街にも行く気が起きず珍しく校舎に残っていたシオン。

それも飽きてきて冷たい夜風にあたりに外に出た。
夜の校舎闊歩していたら校庭から物音、よく聞けばエンジンじゃなく金属音だったと気がついた時には鉢合わせ。

「だれか単車で遊びにきてるのか?おぉーイ、ヘイ!わたしもつれて行ってくれない?
あれ人違い?峠とか海、見に行くんじゃないの?」

「あ、あんたエミヤ!?なにしてるのよ!
逃げなさい、こんなところでフラフラしてるんじゃあないの!」

「あー、嬢ちゃんの知り合いか?まあ目撃者だし殺しておくぜ」

「遠坂じゃんなにこいつら、って槍振り回すな!
危ないって、おいソコの変人仲間あとは任せたぞトーサカさん♪」

「あっ逃げた」

「待ちやがれ」

何故か一緒に遠坂と二人で逃げ回って衛宮邸にまで行くことになった。
凛の駿足には驚いてるけど、点々と街灯あるだけの夜道。
暗闇で百メートル四秒フラットのシオンもどうかと思う、それ絶対ポリから逃げるときに役立つだろ?

「なに、危険なの、学園につれてきてるのよ!
わたしだって自分からは学校に迷惑かけたことないのに、アレ何処の刺客?流れでしょ」

「私だって逃がさないわよ、アーチャー捕まえるわよ!待ちなさいよー。
あんた本当に、はやいっ・・魔術師じゃ」

「あっ、あいつそこの男と争ってたろ!じゃやっぱり私狙いじゃないんじゃない!
遠坂のストーカーなんだろぉ、なんで私がトバッチリ受けるのよ!」

「コラーっ止まれ!マスターじゃないんなら事態をややこしくするな、ごちゃごちゃうっさい」

「ゲッ、切れた。あばよっトーサカ」


ガントぶっぱなして追いかけたが、問題児で闖入者で実は魔術師だったという破天荒な同級生は
スピードを一段とあげて魔術で強化した私の脚でも追いつけなかった。
逃亡先は自宅の中ではなく、庭にたつ蔵へと行ったのをアーチャーの目が確認していた。


「その逃げ足、魔術師かと思って来たらいきなり飛び道具かよ。
しかも民家の蔵にどーしてストックがそんなにありやがる!貴様」

「うわぁっ・・・あれってマシンガン?
藤村先生の家って、アーチャーあんたもとりあえずランサー追い払いなさいよ」

「いやあれは改造されたMPだろうな、それを両手持ちとは恐れ入る娘だ。
凛それは助けろと、しかしな。あれは魔術師だろう?敵ではないのか?」


明らかに衛宮シオンは何らかの魔術行使して対抗しているように思う、でないと英霊が可哀想だ。
現代の銃器の山と一本の槍で闘うなんざ。
それに私のプライドもガタガタだ、同じ校舎に四六時中でないとはいえ感知できなかった。


「くそ、てめぇ相性わりィぜ。
俺には矢避けの加護があるんだぜ、だがなんて速射だよ!
この制限さぇなきゃ・・・ちっ勝負預けるぜ」

「改めてこんばんは。衛宮さん?」

「あ、あー・・・・・・見た?コレおもちゃだからね、ぅ、ハッハッハッ」

追いかけて来た変態チックストーカーの槍男を追い払った。
あとから来た遠坂凛に見られてしまった、銃刀法違反物品の数々を慌てて隠して乾笑い。
重たい蔵の扉を片足でガンッと閉めた。
その馬鹿力あるのに、脅さず穏便に誤魔化そうと四苦八苦しているのが間抜けだった。

でも、魔術がどうのとか言われて・・・びくりとなる。

「衛宮さん?見事でしたね、ですが戦争ですよ。
次は私が相手となりますが魔力まだ尽きてませんよね。覚悟はよろしいですか?」

「戦争?違うでしょ藤村組に仕掛けて来たやつらなんていないはず、ってああっ!?
そうか、トーサカって隣りの教会とつながってるんだな!
神父の野郎、弟子がどうとか言ってやがったのはお前なんだな!?
ちっ、舟で海外から密輸とかか!?
畜生そうだった、ズルいぞ私が長年温めてきた夢を不意打ち実現してるだなんて」

「あの、冷静に考えてみてくれないかしら?それともふざけてるの?
私が殺し合いに出てきてる意味、もうしらばっくれったって聖杯戦争しかありえないでしょう?」

「・・・・・・・・なにそれ?」

凛の口から出た言いがかりに心底ウンザリといった様子で、シオンは十年前の火災とか神父から吹き込まれた
戯言と符合を見つけて・・・・あぁここにも国産怪僧ラスプーチンの犠牲者が居たのかと嘆く。
シオンが珍しく他人に哀れむ視線、売られていく子牛さんに向けるソレを注いであげてた。

「ソレ・・・騙されてるよ遠坂。
外でこうしているのも寒いしさぁ、マズイけど暖かいお茶でも出してあげるから家に上がって話さない?
あいつが原因なら相談に乗る。こうみえても慰めるのは得意だから、特に女の子とか」

「くっ。冷静に。優雅に。
あー・・・わかった、いただくわ」

「凛!?どう考えても罠だぞ!毒入りかどうか確認せずとも、君は。
なにを言ってるのかわかって」

「黙れ奴隷(さーヴあんと)。
この娘に、遠坂家と冬木の聖杯、そして魔術の凄さを教えてアゲルから。ね。」

ぎろり

「睨むな。睨むな。まだ魔術っていうならそういうことにしてあげてもいいけど。
うわ、優等生サマが勉強のし過ぎで狂っちゃったーぁっ!?って思うし、まだ若いのに」

「人聞き悪いっ。衛宮さん、あなただって使ってたじゃない」

「身に憶えないなぁ〜ええっと、それとも何?駅前で怪しい『ダイエット』の薬でも買ってみたり・・・。
あー、そう言えばオヤジも魔法使いなんだ♪なんて言った時は脳内麻薬がどぱっどぱっ出てそーな感じ
だったなあ、あの顔で声色も気持ち悪いほど甘かったるかったしー」

新しいオモチャ買ってもらったばかりの少年のように、瞳をキラキラと光らせて言っていた。
麻薬の合成は素晴らしいものだ、それが脳内ではなく現実ならばの話。
上質な新製品を生み出す工場を所有してみたいとは思うし、尚更良いのはルート構築と密輸まで一手に
掴みとることだと思う。・・・買い手がドーパミンで満足してるのは困る、遠坂凛とか衛宮切嗣とか虎とか。

「信じられないのも仕方ない。ずっとノーマークだった反省はしておこう。
新顔の隠れ魔術師が冬木に根を張る藤村組に入り込んでいたのは計算済みってわけ?」

おい、私の話ちゃんと聞いてないだろ?
それ、お互い様。

「あー・・・・・分かってる。言わなくていい。分かってるから!
贅肉贅肉って言いつつも、ここが貧しくて実は友達欲しがり屋さんだってのは分かってるから!」

シオンは腰から手を這わせ胸を示す。

「ち、ちっがーう!!」

話の噛み合いを望んで魔術を見せても、おーっすごいすごいパチパチパチと拍手してやってくれて。
仕返しに挑発。
つい、ガントぶつけたのに平気そうな顔してるのもイラつく。

「だから私も父親も魔術師で魔法使いを目指す代々続く家柄なの、あなたはこれでもそう思う?
わかりやすいでしょ火を」

「それなんてガス?無臭なのよね、親父もいつも持ち歩いて吸ってたりしたのかね?
マジシャンっていつもそんなもの持ち歩いてるんだ、へー」

マジックと言って信じてくれないし、だからと言って力押しでは宝石が勿体無いし、それにシオンの
桁違いの強化魔術の前には児戯にすぎないから、分かってからかわれてる可能性も捨てきれないが・・・。
女の子が怪力とかハズイじゃんと笑い飛ばす様子は真に迫って嘘に見えない。
・・・銃弾を素手でとれる人間が常識語らないで欲しい。すこし泣けた。

「・・・・・・・・もう呆れたわ。もういい、だから教えておく。
聖杯戦争ぐらいは知らせておかないと境界線崩しそうだもん、アンタ」

この非常識の塊は何処かミスブルーを髣髴とさせる。
噂でしか知らないが、破壊に秀でた彼女の日常はこちら側と一般人と区別しない生き方をしていると言う。
破壊はともかく。
置いておいて。
今まで確認できなかったのは、表でも藤村の囲い者として危ない人物と目される衛宮シオンだからだ。
新参者の魔術師は怪しさ隠せない。なら隠れ蓑には丁度いい顔が姐御、不良娘とは似合ってる。納得した。

思わずスパスパ魔法の煙だすストローで、いいかげんな顔と身長になって幼稚園児に言い聞かせるように語った。

「これから冬木でアタイたち魔術師・・あー、マジシャンな。
そのマジシャンのゲリラショーがナイトフィーバーなわけだ。わかる?
2人1組の14人で刃物投げとか人間解体とか、元に戻せない物体焼失トリックとか藤村さんとこは
くれぐれも手を出すな。ふぃー・・・一服。あー、それでショバ代は隣町の教会に請求すること」

「なんか投げやりだぞー」

「いーから聞け。この鉄砲娘」

やってることは善悪の両端であるけど、気の強い女の子同士なんだか仲良しになれそうでした。
遠坂凛、優等生の仮面の下はシオンと大差ないみたいです。
さっきから視線が家の置物、高価そうな壷とか刀に興味しんしんだし。あれ鈍らだけど1本はするんだよ。
1本=100万円。

「まーイイや。それで三枝さんと仲良くしたいけど、私は女の子が好きだーと勇気出して言えない凛ちゃんは
私が羨ましかったんでしょー?ひひ、くくく」

「ばっ、バッカ言わないでよね。何を言うかと思ったら」

「男には冷淡なのに、女の子にはひたすら優雅に優しくしていると言う証拠。
こんなラブレターへの返事とかマメなんだよねえー、あーぁ泣かせた子は二桁いくかなー。
一匹、後輩の仔猫ちゃんは病んでどこかへ行っちゃったことあったよね」

女だろうが男だろうが見境なく食いまくってる自分のことは棚に上げて、凛の乙女心をちくちく突付いて笑った。

ラブレターの返事は気の迷いで出した一度きり、ぐさりとトラウマに差し込まれるシオンのドス。
その心当たりに青くなる顔色が物語るのは真実だったりするから困る。
よくある告白。
はじめて本気で泣かれた子のフォローしていた時は自分はもう駄目だな、腐ってるな、妹に顔向けできないな。
そう思った。
気の迷いと振り切ったのに。

「あ・・ぁわわわ・・・・なんで、誰にも」

「それでですねー。帰宅部所属の遠坂凛さんが弓道部に知故を訪ねているのは虎が教えてくれました。副部長の
間桐くんと部長の綾子さん仲が悪いそうですが、間桐くんの妹さんに気があるんじゃないかと探るつもりで私は
偶然出会い、そして恋に落ち・・って目が尖ってますよ」

「冗談もほどほどに」

ごめんなさい柔らかい桜餅ふたつ、おいしく頂きました。

「えーーっ・・と、まぁそれはこっちに置いておいて私は同属だと思い至ったわけです。
会長もそう断言してくれましたし」

「あっそう。後でお礼を言っておかないとね、間桐くんも妹に思いやりもって貰えるように一言いっておこう。
衛宮さんも間桐くんの妹が大変お世話になりました。
是非とも何処までお世話様なのか、詳細にご説明していただけると嬉しいのですが?」

「いやいやいやいや、綾子さんとも仲良しですし他に沢山可愛い子がいるので私は反対しませんよ。
別に禁断のご関係を築かれても他の子と仲よくしたいとか、ちっとも、ええ、全然」

ケラケラ笑う悪魔のカウンターが炸裂する。
これまでの経験値の差がはっきりあらわれレベルがまたひとつ上がったシオン。
いかんせん純白で血を流していた遠坂凛と、街の暗闇と輝きで血を見てきた衛宮シオンとでは実際戦いに
さえならなかったのだ。凛は最初から避けるべき争いだった、相手の戦力を確認しつつ反撃などシオンは
余裕与えてくれなかった。

「兄貴さんと話しつけてもいいけど、ラッピングしてあげる間桐妹は返品不可ですよ。なんかあれで
情念深い女の子みたいですから、ストーカーちっくになる素質十分ですから」

「他人の人生切り売りしてんじゃないわよ、衛宮!あの子はね、アンタなんかより優しいし可愛いし
とにかく・・・その令呪奪い取ってやるわ!覚悟しておきなさい!」

「かわいーなー泣いて強がる仔犬ちゃんって、それに、だからあげるって言ってるのに。
ちぇっいいさ暴走っぷりといい。しくしくよく泣く桜は虫ダイエットして変な声だしてキマっちゃてるーし?
相性良いかもね、く、くくくっ」

長生きだけがとりえの虫も報われない。
あのミイラみたいな実体以外に確保している宿主にいた寄生虫、本当の本体をダイエットの女in虫=サナダムシ
とか思われてしまった上に、シオンの過激なプレイのせいで死にかけた桜の体を意地で動かして警告したのに
二重人格でもいーや舎弟にしてやるぜ、と力ずくで心臓握りつぶされそうになったりと大変だった。
・・・その扱いは酷いんじゃないかシオン?
かませ犬じゃないんだ、裏ボスなのに雑魚キャラやら電波とか幽霊以下。
魔術のため、聖杯のために延命してきたアレな人生の果てに待ってたピンチがこんな小娘の性癖とは誰だって
思わない。