○月☆日

カニが、カニが・・。

のたくったミミズのような文字、かろうじて読み取れるそのすぐ下に英語で
代筆───サラ。とある。








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サラ(旅行記中編






















今日はたいへんでした。

朝の水汲み、私が当番だったので泉に行き偶然知り合った人たちと話が合って
和やかにお茶を飲んでいたんですが、鶴子と景タローが起きてくると大騒ぎになってしまいました。
なんと景タローくんのお婆さん、ひなたさんだったんです。
突然、鶴子と喧嘩になって遺跡を破壊しつつ何処かへ行ってしまいました。
景タローも後追いかけて行ってしまい、ひとりテントに取り残されて問題がひとつ・・・。


「困りました、狩り出来ないんですけど私・・・今朝は鳥にしましょうか〜」


振り向き美人はニコニコと毛づくろいしてる疾風(はやて)をみて言った。
ビクッと鶴子の鳥が震える。
一歩踏み出して、一歩踏み込んで、もう至近距離。
繰り出された手が掴んだ獲物は式神疾風ではない、吊るされてた昨日の釣果。


「ほーんと昨日の獲物残っていて良かったですね?」

「あんさん何度言ったら鳥言いよるのやめるんや?式神って言ってな青山家当主に受け継がれる」

「でも鳥でしょ」

「鳳凰やし」

「でも鳥だよ、鶴子さんのだから食べちゃいけないけど」

「ウチのもん狙うのやめた方が身のためやで、景はんも疾風も寄越せ言うてもムダや」

「気が変わるようにしてあげちゃうけど、いいのかしら♪フフフ・・・」


睨んでくる鶴子に笑って近づく、組んだ指を動かして楽しげに。





・・・・・・・・・・あの後、いつものように包丁を握り、ご飯を作りながら待ってたけどお昼になっても
誰も帰ってこないので、鶴子の鳥と一緒に二人を探しに行った。
すると、強力な戦術兵器群投入した戦場みたいになってた森に二人が倒れていました。重なって。ぴく。

見つけた二人は今まで寝込んでて事情を聞けなかった。
鶴子が起きたけど不機嫌で話そうとしない、何が起きたのかわからないけど・・・それで私が代わりにコレを書いてます。
いつも勉強と同時に日記をつけてるのを知っていたから、鶴子は知らなかった様子。見たい。見たい。と煩い。
二人の過去を知らないのは癪だったから、つい・・・笑い死にさせたくなって、くすぐったっんだけど効果なし。





「うそっっ、こんなにしてもヒーヒー言わないどころか顔色一つ変えないなんて」

「ばあさんにやられたとこ傷んで気にもならん、あんたとは鍛え方違いますもん我慢比べで勝てるかいな。
えーもん。後でコッソリ見ますもん。って、あんさん近づきすぎやて、駄目や、ウチの景はんを」


ぁ。弱点みっけ、直接じゃなくて景タローや鳥を人質にしたほうが効くみたい。
あ。あと鶴子が川吹き飛ばした復讐にカニがテントに侵入してきてたみたい。
何故か景タローが挟まれました。痛がってます。
でも、助けてあげません。
ペアで、パートナーで、いつも一緒に居る姉と弟のような関係の二人。たまには私にも景タローを貸して
くれたっていいはずですよね。やっぱり男の子を看病するのは気持ちいいものです。


「あのばーさん最後のキツすぎやってん、久しぶりに死闘してもーたんはええーんやけど」


腕も動かせられへん、はよ景はんに引っ付くのやめてどきなドロボー猫と言われました。
ですが役得です。
ああ、やめられませんね・・・確かにコレはぐぅ・・・・Zzz










○月■日

本当は式神という存在らしい、はやて。
その鳥はいつも鶴子の肩にとまっていた、そのように見慣れているので不思議動物には慣れていた。

修行と自分探しの旅の三人に加わった新しい仲間。でかたま。
三人とも出会った時は驚き通りこして呆れていたけど、俺たちはいつものとおりトラブルに巻き込まれて
海難事故で漂流していたから本当に助かった。
いきなり海面が持ち上がってびっくり、最初はクジラかと思っていたけど今は三人とも慣れて平然している。
この程度のハプニングでは唖然となんてしてられないほど、アクシデント続きの旅をしてきた。


「浦島にカメと言えば、日本の童話にありましたなー」

「どんなお話ですか。海の関する神話は似ている要素たくさんあって聞いたことあるかもしれないです」

「鶴と亀が仲よくなる話や」

「えっ?そうでした?」


配役が逆になるとか、童話になった時に色々要素削ぎ落としているので古典に触れないと民話も混ざって
景太郎のような認識になっている。浦島太郎や鶴の恩返し、ラストまで侮るべからず。


「そやで♪」

「くっ、日本限定の説話となると鶴子のいいようにされて反撃できない。知らないからって景タローも
頼っていたら駄目です、今回も乗った船に大穴あけたのは」

「でも海賊でしたし、小船で海流よんで航海してたから遭難したんですよ」

「ほら見てみ、原因はサラはんやないの。家計とり仕切りたがってたから
ウチのお足も全部預けたのに賊やら悪徳商人は撃退できはるのに落として無くすやなんて、訳わかりまへん」

「舟賃落としたのは謝りますけど、天候も悪いんです。
星座よめていたら、ああ・・・でも下品な海賊を成敗するのは構わないんです。
けどね、あそこで景タローに大技見せて点数稼ぎを」

ミォヴ?

ええっと、カメが迷惑してるのでやめてくれませんか?あのー二人ともドウシテ俺に詰め寄りますか!?
ひぃーっ

「「はっきりしない、景タロー(はん)が悪いっ」」










○月▲日

先日は日記つけていられる状態じゃなかったので、今日ここに書き留めておく。
けっして毎日あるサラさんの手料理と何故か鶴子さんとの決闘、それに巻き込まれたわけじゃない。










一月一日


「あけましておめでとう。本年もよろしくおねがいいたしますう景はんにはとっておきのお年玉やで。
合格祈願のお守りですえ大事にしてや、サラはんには何もありまへん。
むしろウチにおくれやす瀕死のあんさん見つけたお礼とか、別れの挨拶とか二人っきりにさせるとか」

「鶴子さんありがとう、これ大切にするよっ!」

「喜んでくれて嬉しい」


この二年間ずっと俺と居たから日本には帰ってない、手の中にあるのは確かに太宰府天満宮とある。
このお守りをずっと持っていたのだろうか?


「あら?はっぴーにゆーいやーって日本の風習ではプレゼント交換なの?贈り物あげるの?
どっちでもいーわ。じゃ私は鶴子の大事にしてるものが欲しいっ」


鶴子にうながされ正座してみたものの慣れないサラは足が痺れ始めて、わがまま言う子どもみたいに
文句を言っては先日景太郎が偶然手に入れた日本茶を飲んでいた。
サラの記憶喪失はいまだ直らなかった。
それでも、それだからこそ修行と鶴子が称する冒険の仲間になってこうしてここにいるのだが。

景太郎は時々意味ありげに見てくるサラに気がついていない。
鶴子は当然知っていたので、置いてけぼりにしたり何かと仕掛けているが失敗続き。


「そやけどなあ、止水は素子にあげましたし・・・大切と言えば素子。
素子ごと欲しいんか?」

「誰なの?」

「ウチの可愛い妹や泣き虫やけど、大きゅうなったと聞いたなあ・・・」

「女の子はいいわ、でもやっぱりくれるなら男の子が欲しい。
例えば〜景タロー」

「俺がどうかしましたか?あれ鶴子さんってお姉さんなんですか、へえーじゃあ・・・
つる姉さんとか、あお姉って呼んでみ・・イタ、つねらないで下さいってば」

「血が繋がってるのって聞いたのがそんな悪いことだった?鶴子と景タローがこいび、たったたっギブ
じゃありませんよーっ。あお姉てば乱暴ですねー女は優雅に勝負しましょ?」

「年のこと言うたらサラはん大負けですやんか?」

「なによ、×××だからって女やめろって言うの!」

「勝負!?勝負は今度は二人とも穏便にぃっ、もう吹き飛ばされるのはやだーっ!
あ、そうだテーブルゲーム・・・カルタはサラさんが、カードは鶴子さんは知らないからえっと」


二人とも晴れ着で、動きに制約あるのに喧嘩しあう様はいつもと変わりない。
景太郎がオロオロするのもいつもどおり。
あと、この二人の勝負とか決闘で一番の被害者は必死にてんぱっている。


「この!あんさんまだ言いますかっ、ウチかて背はよう景はんに追い抜いて欲しいんや。
ああ・・・・・景はんは本当にまだ残念ながら、あのば・・お婆さまにセーフは×××と言わはれてますし」

「へぇ、じゃ×××は既に何回もしちゃってるんですね。出会いからして未成年略取誘拐だそうですし。
でも私は今知りました。
会ってもいない人には鶴子さんみたいに忠告されてませんし、別にいいんじゃありませんか?」

「な、なにか飲みましょうよっ。色々と今日はコレクション放出なんですから、ん?お酒って
料理酒もおいしいのかなー洋酒はケーキづくりで知ってるけど、食べ物だってこんなにおいしそうなーー」


ギラッ

キラリッ


「クッ、クス。そうですねぇー鶴子?」

「ほほほ、そうどすなここは一時休戦しとき後で。ウフフ・・」

「え?あははは」


なんか険悪だなあ、何だか良く分からないけど突然機嫌良くなって良かった。と景太郎。
大和撫子あでやかな着物、そしてブロンド。
ドレスの美女に言い寄られてる自覚がなかった、ついでに酔い潰しを狙われている自覚もなし。

日記の最初に書いてあるヒナタ婆さんの来襲。
その事実と記憶が消えてる上に今も耳が自然に聞き流してたりするので、この二人から
恋人以上の好意を持たれていることにも、景太郎が日本の法律で結婚できる年齢になるまで
待ち遠しく想われていることにも、まるきりわかっていなかった。










○月◆日

アメリカからイギリスに来て、サラさんの自分探しを手伝っていたら何故か鶴子さんの職業が
占い師から退魔師兼ハンターに変わっていたり、依頼主がどこぞの貴族や。
修行も一段階上がって、俺が矢面に立つことも・・・ずっと前からあった気がするけど一人で
依頼こなせるようになってからと言うもの、言葉だけじゃなく行動で成長できたと実感できることが多くなった。


「まーた王立から指名やて、あやしーなあー」

「そうですね鶴子。景タローだけってこの頃多すぎじゃないかなー、ねー?
隠し事はしてないよね・・・私たちに。まさかねえ?」

「でも簡単な依頼ですよ、ベビーシッターっだったりおばあちゃんの話し相手だったり
俺は冒険というか修行を面白おかしく話して聞かせてますから」

「・・・まあいいでしょう。私は明日午後から気になっていたことがあったので
ロンドンへ行ってきますけど二人とも何かありましたか?」

「ウチは景はんに付いて行きましょ仕事ちゃんとしてはるんか、見とかんと」

「今日もまた降ってきそうですね、もぅ二人とも何を疑ってるんですか」


窓から外の空みて憂鬱を嘆いていると、妙齢の美女ふたりはヒソヒソとこちらを見て話していた。
・・・別にやましいところあるとは思ってない。
ただ面白くないのだ。
単純に自立したと喜ぶ育て親ではない、二人とも面白くて楽しくて一緒にいれるなら
なによりそれが幸せなのだが、ハプニングをそれにひとつまみ。