×月♯日 ちりん 悠久の流れ、古代より途切れることの無い雨粒の通り道。 ナイル河の上通る風を切る舟の舳先、一行の内笠かぶる鶴子だけが唯一涼しげな顔していた。 /06 鶴子(旅行記後編 「よう晴れて気分ええなあー・・・二人とも何くたばってますのん?」 「暑いからです。 んー・・・駄目、言い返す気起きないわ」 「屋根のある所にいた方がいいですよ、脱水症状になっちゃいますって」 「そやろか?」 サラと景太郎はグタリと寝転び、普段とかわりない鶴子の様子に嘆息する。 「異常ですよ。 こんなに暑いの、鶴子さんも涼とった方がいいですよ」 「ああもう駄目。死んじゃう。景タロー最後に・・・」 ごろごろ転がって抱きつきに行くサラの目の前、船底に鶴子の小刀が刺さった。 「やめとき」 「はあーあなたには勝てないわ、よくそんなに日光浴びて平気な顔してるわね。 人間離れしすぎです! ・・・怒ったら暑い、景タロー水ちょうだい」 「はいどうぞ、俺も勉強できません。汗すごい出てくるし・・・汗かき性質じゃあないのに。 鶴子さんて京都出身でしたよね、暑くないんですか?それとも慣れですか?」 「半分はそやけど半分はご先祖さまのおかげと違いますやろか?」 「南方系の血が入ってるとか、遺伝って言っても鶴子さん肌色白で」 「やゃわ♪景はんたらー」 羞恥し突き放つ。 威力はヘタな奥義よりも強力、しかも今日は調子いいらしい死角からの一撃で成すすべなし。 あわれ景太郎は吹き飛び河の中へ・・・・そこへすかさずロープ投げるサラ。 だんだんと荒事に慣れてきて、鶴子相手に口喧嘩しかけることもしばしば。鞘当どころか切り結び。 「非常識な鶴子のルーツよ?そんな生易しいはずない、きっとサキュバスか玉藻のまえ・・・」 「こんこん?狐やて、面白いこと言う人やなぁ」 「私の景タローを妖しい色気で惑わして」 「いつからサラはんのになりました?」 びりびり。視線で火花散らす二人。 でも、少し景太郎を労わってやってくれないか?なんか投げたロープのわっかが首に見事引っかかって 命の危険があるし、水面下から影の予感。ミステリー♪古代の巨大魚釣り、しないなら助けてあげないと。 「保護者は自任してますけど、何処かの誰かと違っていきなり突き飛ばすやらしませんしー。 よほど自覚ない女よりマシじゃあないですか?」 「ほほほほ、ウチたちが遠慮いらん仲やの知って、スネてはるんや?」 鞘に手かけて正対し構える鶴子。 対してサラは膨れているだけ、武器さえ持とうとしていない相手にも容赦ないように見えるが このように始まった過去の決闘にすべて負け越している。 車が突っ込んできたり強風が吹いたり、そんな突発事故災害なのにサラが無傷なのには呆れた。 神の手かと感じるほどの幸運で勝ちを拾うサラ、天性の実力者は侮らない。 ダンッと甲板踏み跳ぶ、斬! 邪気は払われた、サラは頭にタンコブ作って倒れこむ。 涙目で憎まれ口いうが負け犬の遠吠え、勝ててご機嫌の鶴子は珍しく快活に笑う。 「あ、はははははは♪勝ちや♪勝ちましたで景はん、ご褒美おくれやす♪ ・・・なんや何処に、逃げはりましたん?どこ、ですか?ほほほ♪」 船の上、逃げる場所無しと探す鶴子。 さっき突き飛ばした記憶は無い、恥かしがっていると本能で行動してしまうので後で知ることになる。 「景太郎はん、お邪魔虫は鶴子が退治しましたでー出てきてええんや。 ・・・はよしな舟と競争したりさせますえ?ついこの間までお天道様恋しがってましてたやんか。 英国王立の根暗どもはこんなトコに来ぃへんよし、観光旅行気分やろ楽しまな。 ・・・変やな、サラはん何処に隠しました?」 「え?な、なんですかあれ?」 「河のヌシとちゃいますか、しかしデカ・・・ん?」 「ん?」 大きな口からロープが出てサラの足元に続いていた。 「ウチの景はんが食われた?!」 「この暑さで景タロー体力落ちて、って私も!?うわぁっ水着用意し、がぼがっ」 「あんさんがしっかりしてへなんだから責任とりぃ撒き餌や!」 サラ突き落とし酷いことを言いはなち、自らも景太郎を助けに飛び込んで行く。 三人一緒に仲よく危険な水遊びとなった。 ■月◇日 あんなにも暑かったナイル河の遡上から一ヶ月が経って、景太郎、サラ、鶴子の一行は 鬱蒼とした熱帯雨林に埋もれた巨大な遺跡で巨大な魔物たちと戦っていた。 いきなりの遭遇と戦闘開始に驚きはしたものの、比べるのも馬鹿らしい体格差もあって、命がけの 鬼ごっこをして有利な地形に移動する。すべて慣れだ。みんな強くもなっているが。 ・・・お前は本当に東大目指してるのか!? そう聞かれたら困る、だってこれは日記なんだからあったことしか書けない。それに黙って二人の 前から居なくなるのも悲しませるだろうし日本からのお客さん、捜索者に捕まるのも目に見えていた。 鶴子さんと婆ちゃんの凄さを知らない人なら仕方ない、知らないのか鶴子さんからは逃げられない。 いつものように鶴子さんの奥義で勝ったと思って油断していたら、足元が崩れて地下へ。 二人ともタフすぎるので、危機回避能力を伸ばそうとしていなかったのが今回は仇となったみたいだ。 「イテテ。鶴子さん?今日はこのぐらいにしましょう」 「ごくろうさんどす、あっちの地下回廊は潰れてましたんや景タロはんが掘ってる方しか 道ないみたいやけど・・・ここいら何やあったかくありまへんかー?」 「そう言えばそうかも、土掘ってて気がつかなかったけど亜熱帯ジャングルとはいえ 夜になってる時間なのに。あ、水探しはどうでした? 食料は見つけたので火通せば一食ありつけそうですよ、ほらトカゲとか、ネズミとか」 「ウチは木の根っこやら焚き木になるもん見つけましたえ、疾風の獲物はおいしそうや。 ええ子や、見てこんなん狩ってきたんや」 ぴちぴち、いきのいい三匹の魚。 「え、魚?出口あったんですか?」 「残念ながら出口は崖で人は通れへん、巨大な滝は見る価値あるそうやけど・・・そや♪ 他にもええもん見つけましたんや来てみ」 「あ、わ、わー!?うわーん放してー」 猫の子のように、またもいつかのように引っ張られて行く。 楽しそうで元気な鶴子とはいえ、以前のように小さいワケでもない成長もした景太郎なのに。 「来てみ。こっちの方から湯気みたいなんが出てますやろ」 「うわ・・・凄い。世界史に出てたローマの公衆浴場みたいだ、地盤沈下したのかな。 瓦礫の半分埋もれてるみたいだけど、温泉ですよ」 「ほな早速入って心と体の汚れ落として明日に備えますえー」 「え?」 あっと言う間、気がついたら鶴子に押し倒されてた。 強制発生イベントらしい。 こんなことはサラの目盗んで日頃から良くあったことだけど、今はその止める人がいない。 出口探索してた鶴子と体力削って穴掘ってた景太郎、女の子みたいに抵抗が弱くて腕で押し返せない。 「水心あれば魚心ありですやろ?鶴心あれば亀心ありや!そういうコトで♪」 「どういうコトで?!うぅ、はなして〜また食べられる〜?!ぁあ、ん」 「熱いペーゼを。ちゅぅぅ・・・やらこい感触やね」 純和風の鶴子なのに、どうして接吻じゃないんですか?とか混乱する頭で考えてみるが くっついたマウストゥーマウスはさらに深くつながっちゃう。あは♪ 「んっ、んっ!!・・・じゅぷはっはぁっ。 舌が、あぅぅぅん。手どこに入れるんですぅうわわぁ〜」 「野暮なこと聞かんといて、大丈夫ウチに任しとき。 それに景はんの体は真っ当正直に育ってます、育てましたから、ちぃと青いけど収穫してええやろ?」 なー? 耳元に問い掛ける鶴子、吐息が甘かった。 チョロチョロ、トプ・・・コプ 暖かい温泉わいている崩壊した浴場の一角、しくしく泣き声とそれを慰める女の声。 「安心しぃ言ってみれば・・・みねうちどす。寝た後まではしておへん。 無理矢理になってしまいますと問題やろ、論理と法律を持ち出すサラはんも居まへん心配せんでもよろし」 「また流されちゃったよ。これでいいのか俺?」 「あんなよぅ発情しとったのに泣きめそなんてウチじゃ満足できへん、って言うんやないやろね? サラはん」 「ちがいますよおー、だってその鶴子さんとは師弟の関係ですし」 「ウチが今まで手取り足取り教えてきたことなんてありましたか?ハプニングは 人生いつでも不意打ちなんやから、夜這いしますえ〜、手篭めにさせてもらいますえ〜 なんて言って景はん逃がすのはアホくさいこと。まぁ♪立派になってましたで♪ほほほ」 合掌し浦島景太郎の恵みに感謝、幸せそう。 ウマかった、ごっちゃんですっ。 立ち上がり衣服を手にとり一戦して乱れ湯に濡れた髪を拭く鶴子。 お腹いっぱいで満足ですわとツヤツヤしている、景太郎は虚脱状態で湯あたり脱水してるかもしんない。 「湯冷めせんように、はよ上がりぃ。 床作っておきますさかい一緒に寝ましょ、そうしまひょ♪」 ○月◇日 つい先日知ったんやけど、武者修行の合間にこないなもんをつけとるなんて筆まめなんやね。 ウチと違って元気ないみたいで今日はうちが書き留めておきますわ。 「昨日寝かせてくれなかったのは誰なんですーかあーああ、ああ・・・」 まなこ半分落ちたり上がったり、もうちょいでサラはん特製地獄コーヒー出てきよるから我慢してや。 こんな景はんめんこい人どす。 いつも、朝からウチのため(ついでにあの横恋慕の)に朝飯を用意してくれはります、仕事にも いつも一緒に行って(役立たずのあの)大立ち回りして、一日を過ごすのが日課なんどす。(側女が煩いんやけど) そして、しあわせな家庭を・・ ありゃこれじゃあかん?のろけやて愛人候補のサラがしつこお言うんで景はんの育ちから説明してやります。 景はんはなんぎな星の元に生まれてますけどせえだいして、おもろい生き方できる人やから好きに させてもらってます。 いややわ景太郎さんなきめそ何かやんぺ、ウチまたいちびりたくなるやないの。 「勝手に妄想書いてなさい、私は景タローと出かけてくる。 ホラこれ飲んで依頼者に会いに行くんだから」 「・・・苦っが、ん、あー、あいかわらず頭痛くなるなー。 鶴子さん、はやく帰って来ますから無茶なこと企んだりしないで機嫌治し」 「行きますよっ」 泣きながら出て行きよりました。 歳月経つんは早いもんで、二年前あんなにちっこかった景太郎はんが。童顔で、かいらしい景太郎さんが 肩幅広くなったりから頼りとうなってくんはホンマに嬉しいことやってん、でもなぁ・・・。 「サラはん露骨なりましたなあ・・・そろそろお別れせんと」 ただ不敵に微笑む。 鶴子が算段はじめた時、景太郎は今までと同じように自分の身に訪れる災厄、その悪寒を感じた。 でも、風邪だと簡単に納得した。 鶴子の教育の成果ではなく、生まれつきの性格でもない。・・・あの祖母の元で養われたもの。不憫だ。 それにしても、景はんは変わりました。 男子三日会わざれば刮目して見よと、言わはりますがずっと一緒にいるウチはその成長ぶりをよーく 知ってるつもりやった。けど、いくら浦島って言うても東の血筋に知識持たなかったんで あの婆さんかて最初は風景に埋もれる穏業使われるまで手抜いてしもうて、悔やまれる負け貰てしもうた。 「成人するまで婿にはやらん!景太郎で遊んでいいのはワシだけじゃからね。ほっほっほ」 わびさび分かる京人の中で和菓子屋の浦島が有名やと知ったんは日本からの文、でも思うんよ。 浦島なんて関係おへん。 景太郎さんやもん、そんで十分。 ?月◇日 この日、公開講義あると知り寄った理工学系の大学。 三者三様の異色の見学者はキャンパスを見学し、観察されてもいた。 家庭教師二人で文武両道を歩む景太郎だが、どうしても偏りがあるし自覚もしていたので 有意義で普段の騒動とは無縁の穏やかな時間、そんな午後。 サラとはぐれたので探すと引き止められていた、どうやら知識と容姿で一目惚れされてしまったらしい。 相談してくるサラさんは乗り気ではない様子だったから不思議に思った。 この国では勿論、日本でだって知名度かなりある大学なのにもったいない気がしたが本人が望まないなら。 「そやそや自分探しもウチらと一緒に行動しても見つからへんよ、だから いっぺん考えてみ、元々ついてた職業かも知れへんやんか?ツテ無いんやし」 鶴子さん、すごく嬉しそうに話すのでサラさんともお別れかなと寂しさでシュンとしてしまう。 「ああ・・・やっぱり駄目です」 「・・・インチキやで、なんでここでそんなことするん?ややわぁ」 誰かと誰かの光源氏実行計画は失敗して、逆にココロ鷲掴みにされちゃってた。 ☆月◇日 日本へ向かっていたはずが、またも漂流、またもでかたまに助けてもらう。 カメに乗って台湾あたりで鯨の群れにのりつけて北上、日本を目指したら仲良くなり 北海道までなし崩し的に回遊してしまう。 危うく流浪人レベル壱にクラスチェンジしてしまうところだった、いままでも受験生やってる自覚なかった けどサバイバーとか、鶴子のパートナーとか・・・一緒にいたがってた鯨たちとカメに引き止められ 予定より一日遅れ、二日遅れ、一週間、一ヶ月にさしかかり日本海で冬は死ぬので鶴子さんに頼んで 説得・・・うん説得してもらった。 日本列島にある実家は京都らしい。 ウチの両親に挨拶して行ってくれまへんか?そんなことを笑顔で言う人。 若狭で下車した。 「さいなら」 「またなー」 出国時は舟での密航、帰国時は何故か若狭湾で戦闘の後・・・大検を受けて合格した。 「さすが手強いもんばかり揃えておますなあ、こうでなくては開府以来まつりごと ようやったかとて東もんに天子様をお預けできまへん。 景太郎さん行きますえー。斬空閃!んで、反しや!よう飛んできぃー」 わざわざ原発強襲する必要あったのかわかりません。 こーいう人ですし・・・一時の別れだと言って風のように去っていった、あお姉・・・こう呼ぶと 拗ねてしまうところ。女性として、人としてすこし度が過ぎて強いところなんてのも数ある魅力の一つ。 俺にたくさんのことを教えてくれた恩人。 サラさんは無事に故郷に帰れたのだろうか?意外にはやく再会できたりして 切符を買い京都駅のホームで列車を待っていたら海外では使えなかった携帯にコール、カナコからだ。 ×月●日 受験しようと書類を用意していたら、戸籍が消えていた。 どうやら出国時、行方不明を出されていたのが数年経過し死亡扱いに・・・素早い行政、改革成功しすぎ。 とにかく戸籍復活に時間かかることが判明し東大には合格したけど入学できず。 ひなた荘・・・いや妹が旅館にすると言ってた思い出の場所へ行くことにした。お金も無いし。 |