ひなた荘にカオラ・スゥと成瀬川なるが加わりようやく寮らしくなってきた。
それまでは狐の寝床であったり、小さな管理人が来てからは共同生活が大変だったりしたのだが
狐が姉貴きどって見せたりして楽しそうだったのが一段と華やかになっていく。
ところでなるとカオラ、この新参者の二人にはまだ役割分担がなされていない。
やって来て三日、まだまだ部屋の整理や手続きが忙しそうだったし親友であるキツネはそれに
ちょっかいかけつつ、歓迎会開こうと浮かれていた。
そしてこの頃なぜか避け気味だった加奈子に歓迎会の話をしに来たのだが、途中で家賃の話が出てきて
自分のウッカリに気が付いてどっと冷や汗流す。
そやった先月カナコと遊びまくって使い切ってまったんや、しばらくは大人しくしとくつもりやった。
「どーして一緒にお風呂に入ってくれないのかな、避けられてるって気がついた時かなり傷つきました。
友だち出来ない無口なカナコはやめたのに。
それなのに嫌いになっちゃったかなーって心配していたんですよ。キツネさん?
それがなんです、家賃待ってくれっですって・・・あなたって人は」
「やぁん、いっひひ、ひや、やめてぇなぁははっははは」
「キツネさん、一緒にはるかさんに悪戯した仲じゃないですか水臭い。
どう何ですか?ホラ、こことか、弱いって認めたほうが楽になれますよ〜」
「かんにんや、もうあかんカナコお願いやあ・・・あっひ、ぎゃはははっはははは」
くすぐりで陥落した。
「うぅーしんだー」
「そうですか、遊び歩く資金に消えたと言うのですね?
いいでしょう・・・今回はお家賃お待ちします。私にも責任ありそうですし」
「ほっ・・・助かったわ。
怒らせるつもり本当になかったんや、ほんまやて、ちぃーと」
「怒ってませんよ、ええ分かってます。意外とやさしい人だってことは十分知ってます。
情けは人のためならずって言いますし」
「ま、まぁワケがあったんや勘弁してや」
「ええですから代わりに買出しの手伝いしてもらいます、家賃賭けますか?
この前も賭け事で私にぼろ負けしてましたよね?」
へこへこしてたキツネの目が光った。
「賭け?賭けるまでも無いわっ!バカにすんなや!」
「では、コインで。裏です」
「ちょっい待ちぃっ!うちがやる、手先器用な加奈子にさせるかい。表!」
旅館だったときの名残がそこかしこにあるひなた荘、観光地にありがちな記念メダルも点在してて
キツネが見つけては硬貨と勘違いし、ラッキーと言っては何度かはるかの茶房で使おうとして
銭形平次で悪人退治をされていた。
結果は裏。
「あっちゃー裏か・・・流石ばーさんの孫だけあるわ。
荷物持ちかー、そいえば人増えたんや。
これからは買い物の回数増やすか、量増やさんとあかんやないか厳しいかなー」
/08
加奈子(日向荘
楽しい歓迎会になって、管理人している年下の女の子に話し掛けてる成瀬川なる。
まだあどけないのはお互い様なのに、妹が居たからなのかカナコを猫かわいがりしてしまう。
「東大志望なんだよね勉強しながら?!頑張ろうね。
私も応援する、例えば怠けて遊びに来るキツネ退治とか」
「はいそうですね。その時はお願いします」
「あんたら鬼や、うちすっかり家政婦扱いやんかーっ!はるかさんかてもぅ少し優しいで!?
ふたりとも東大はいったら絶対に玉の腰紹介してもらうで!ええな!?」
「参考書の貸し借りや質問も受け付けてるわ。
部屋は丁度上下だし、穴あいてるしvどーして開いたままになってるんだろアレ?」
「さぁ・・・お婆ちゃんが槍でも振り回したんじゃないですか?」
「あー、ありえる」
「無視かいっ!?うわーん!!!友だちがい無しなるのボケッ、意地悪カナコのブラコンッ!」
「あっキツネ?」
「何やねーちゃん、ああっ泣いて早食い競争か?負けへんでーっ!」
逃げて行った先でカオラと早食いし始めてしまった。
台所から呆れた顔で浦島はるかはそれを見ていた、そんな騒がしい夜の次の日・・・。
「おはよーごさいます、カオラさーん。起きてますかー?
・・・ドコに居るんですか?なんですかここは・・・・ジャングル?部屋の中に?」
新入居者の部屋に入って唖然とする加奈子。
住人が自堕落にならないように生活改善まで管理人の仕事としていた、それは主にキツネに
対して行われていた。今日はいつも理由なく蹴り放ってくるカオラにも厳しくしていこうと
来たのだが、ギャギャーとかグルルル・・とか獣の声。ここはジャングルか?
目に入ってくる奇天烈な状況、椰子の木やらを無視して進む。
がさっ
「おー管理人。おはよー起きてるでぇ・・・ふぁぁぁ」
意外、ちゃんと起きてました。
ふと足元を見ると騒がしい野生の森の音、リラクゼーションCD?怪しい。
「あの、部屋の模様替えですかこれは・・・」
「うちの国らしい雰囲気出てると思わへんか?加奈やん。
なぁーなぁーそれでなー、光ケーブル引っ張ってくるの許可してもらってええ?」
「はぁ・・それってこの部屋を改造するとかってことなんでしょうか?
わっ、たた・・・痛い。
なんですかこのガラクタ、コードも沢山ありますね何処につなげて」
「んっ?すまんなぁー今作ってるメカの部品ばらしてそのまんまや、あーー!?
ラジコンのコントロール装置までばらしてもうた・・・寝ぼけてたんか。
ヘリはどこ行ってるんや?確か・・」
「ヘリ?」
ばっばっばっ、うぃーーん
窓の外からの音。
朝日に黒い影がゆらゆらと浮いていた、確認のため開けると顔前に銃口ロックオン、それを慌てて仰け反って回避した。
チュンチュシュッ、チュン
小型マシンガンによって室内穴だらけになっていく様を見て、鼻先を弾道が駆けた時は肝を冷やす。
ドドドド、しゅー
あわてて椰子の木の陰にはいる二人、位置がよかったのか跳弾も来ない。
「まずいで!玉切れしたから次はミサイルが来るんや、加奈やん!?
調整まだなんや、破壊活動止めへんとひなた荘が炎上してまうで!」
「バッテリーは?!」
「30分。リモコンから操作うまくいかん。武器いるか?」
「結構です。ここはひなた荘、管理人浦島加奈子はこの手のトラブルぐらい簡単に解決しないと」
どっかーん!
所詮機械、少しカオラの手が入っているからと言っても羽根に絡まった縄はほどけない。
かっこよく得意の束縛術で落としてやった。
真っ先に管理人を狙った、なかなか知能もった敵だったが相手が悪かったな、ちなみに
彼(ヘリ)は火砲支援してくれた常識外れの留学生カオラスゥ自身による作品らしい。
機械、コンピューターに強く部屋にはトラップが沢山あるようだ。
・・・彼女の留学おえるまでひなた荘は無事だろうか?
一抹の不安にも彼女は明るく笑い飛ばす、そのペースに巻き込まれたらたまらない。苦手なタイプかもしれない。
「・・・ふぅー結構です。
くれぐれもひなた荘を壊さないでいただければ」
「なははースマンなあ、管理人。出入り口とこ隠しカメラつけたりセキュリティあげとこかー?
改造してええんやろー?じゃあ勝手にやっとくでー」
「ちょっ、ちょっと!?好き勝手しないでくださいよっ、私のひなた荘なんですから」
行っちゃった・・・うーん困りました。
変装と素手では勝てそうですが、彼女のつくる兵器とトラップは強力でした。
ほぼ同時期。また二人の入寮者、青山素子と前原しのぶ。
今度の入寮者たちのうち、同い年の女の子は家庭的なところがあってホッとします。
成瀬川さんはどーしてかつくる料理が理解できません。美味しい不味い以前の問題なんですから。
ですから私と料理分担してくれる良い人、前原しのぶさん。しかし、同い年でありながら
管理人だということに強く感銘してくれて思わず夢とか語ったのは・・・らしくなかったかも。
「そういうわけで私はこうして管理人をしているのです。勿論茶房のはるかさんには
色々お世話になってますし、上の部屋の成瀬川さんには勉強みてもらったりしてます」
「す、すごい・・・です。それに比べて私はあうー」
「あぁ・・あの」
がっくりと肩落として泣くしのぶにおろおろするカナコ。
兄が管理人だったら、落ち込み泣くそんな自分をどう励ますのか成りきってみる。にいさんはきっと・・。
「ですけど、こうしてお料理当番頼んでます。足りないところは力借りますから
あなたも貸しつくるつもりでいいんです。キツネみたいに遠慮なくなるのは困るけど・・・ね?」
「え、はい分かりました。
・・・素敵ですね、加奈子さんってハッええ・な、なんでもないですっ」
『なりきった加奈子は同性にもモテモテにゃ、ふぎゃ』
「あれ?今猫が」
「気のせいです。クロは私の猫ですから可愛がってやってください、ほらにゃーにゃー」
『ふみゃ、みにゃ』
百合の華がバックに咲き乱れましたが・・・・気のせいでしょう。
美味くなった腹話術をわざと下手に行って、クロの世話と露天風呂の用意を頼んだ。いい気味。
飼い主に似る?まさか、飼い主に生意気になったのはキツネのせいだ。
・・・たぶん。
冷や汗を拭いて歓迎会の準備していると。
「管理人。すまないが話が」
「え、はい何でしょう?
キツネ、つまみぐいは感心しませんよ。朝練ふやしましょうか」
「あ?ばれとったんか、しゃーないなぁ。加奈子とウチは好物は似てるのに
この待ち切れへんっつう気持ちがわからんとはなあー。厳しいトコは誰に似たんや?」
「単に反面教師が身近に居たからですが?」
「きっついなー・・ふて寝してるわ」
「・・・いいか管理人?」
「ええ」
呼びに来たもう一人の新しい住人。
青山家の次女、京都からやってきた理由ありの入寮者。
「あー・・・そのだな」
「話しにくいのでしたら屋根に上がりませんか、そこならキツネの側耳も届きません」
「そうか」
「管理人とでも、加奈子とでも自由によんでください。ところでその刀は?」
「我が家に伝わる名刀だが、そうかこちらでは木刀を持ち歩いたほうがいいか・・・道場を開いていてな
流派では普段から肌身はなさずが基本なのだが」
「別にそのままでかまいません。用心のため持ち歩きを許可します、女子寮ですし警備には
下にはるか伯母さんもいますけど、それで話と言うのは?何でしょう?」
「う、うむ。私がこっちに来た訳を聞いていると思うが、浦島のひなた様から指南を受けたいと
思い実家を離れて住み込みに来たのだ・・・しかし不在とは来るまで知らず」
「・・・」
あはははは、乾いた笑い声に無言で返され素子はしょげる。
「どうにか取り次いで貰えないだろうか?
わたしもここまで来て京都に帰っても・・・・・・成長して帰りたいのだ」
「お婆ちゃんにですか、連絡が取れないんです。世界駆け巡ってるはずですので
どうせなら暇してる浦島のはるかさんに・・・・駄目ですねあの人やる気ないですし」
「・・・そうか、あとで私から直接頼みに行く。感謝する。
しかし、管理人しながら東大を目指しているとは立派な目標だと思う、大変だろう。
手伝えることがあるのなら言ってくれ」
「それはどうも」
意外に仕事が多い管理人の職務にため息。
人が増えてきてはるかがやっていた時より大変なのは仕方ない、それより旅館になったときの
雇い人探しが一向に進んでいなかったのが痛かった、東大は成瀬川なるとの二人三脚で進んで
いるので助かっている。
ちょうど洗濯物も乾いていたので取り込む、多い。
風がイタズラをして、いくつか飛んでいってしまったが素子さんがとってくれた。
「おっと一人ではおおくて大変だな。手伝おう。
その年でひなた様の代わりか、管理人というのは何か理由があるのか?」
「東大が大変ということは分かりきっていましたのでいいんです、別件が・・・三年前に
行方不明になってしまった兄が目指していたんです。約束なんです。それで会えるかもって」
説明は苦手だった。
特に兄に関することは、相手にフォロー入れてもらったり親しみやすさがないと話せない。
「行方不明か・・・大変だな、そう言えば私の姉も行方不明になってしまっていてな他人事とは思えん」
「それは・・・」
心配だろうと加奈子が気を使う、しかし素子は首を振って笑う。
「いや、しかし・・・なに、あの人のことだ。加奈子ほど深刻に考えていない、驚くに当たらない。
噂に聞いたひなた様に似てるな、仲よく茶飲み友達になれそうだと言われててな・・・そろそろ三年経つな。
実力試しに海外に武者修行に出て行くと言づけもあった」
「「ん?三年?」」
「偶然だろう」
「偶然ですね」
素直に感心する素子、だが加奈子の第六感はピリピリ・・・素子の姉に少しの疑念を抱く。
偶然だ。
祖母に似てると言われると兄いじり好きな異性は加奈子の敵になる可能性が高かった。
祖母は例外。
伯母も例外。
もう一人例外がいたけど、疑惑もある。でも敵は一人、そう約束の女の子は絶対。
・・・この広い日本、たまたまだ。この時はまだ気のせいだと思ってた。