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賭け事の対象にスール制度を選ぶなんて悪趣味な人たちだ、リリアンには清純で慎み持った人間しかいな
いとは言わないけれど。さまざまに注目と重視される、伝統の山百合会の長の彼女たちが、こんな非常識
な事を許可するだなんて・・・静かに怒りが湧いてきた。

「ハァ・・・嫌なもの見ちゃったな」

ありのままの山百合会を見て、決して下級生たちに思われているように天使やマリアさまではないと知る。
憧れは消えた。
裏切られたと、勝手に思う、そこまでは許せる。
でも小笠原祥子の妹として私を見るのは、見られるのは、それだけは・・・耐えられない。

「嫌いになりそう」

「独り言多いよ祐巳さん、いま大事な所なんだから」

「そう言えば蔦子さんは新聞部と仲良かったっけ?一部始終掴んでおきたいなら私のことなんか気にしな
いでいいよ、わたしは一人でため息ばっかりついているからさ」

思わず漏らしていた愚痴は、とんでもないことしでかす為のキーとなる。

「そんな・・・薄情なんだかクールなんだか、つまらなそうにしちゃって」

まだ続く紅薔薇のつぼみが三人に苛められているように見えて、正直に言ってしまった。
さっきより大きめの声で、同室で学ぶ志摩子に同意を求める。
返答はきっと曖昧にされてしまうだろう、油断している相手と思っていたし平和的性格だと知っていたから
・・・これもただの独り言にすぎなかった。
その独り言、聞きとがめた相手がいた。

「フゥ・・・嫌にならない?志摩子さん、三人がかりでいじめてるのをみてるしかないなんて」

「え?」

「今、気になる言葉が聞こえたけど。福沢さんかしら?」

「はいそうですが、気に障りましたか紅薔薇さま?
私が勝手に失望しただけです、不躾に申し訳ありません」

「関係のない人は黙ってて、福沢祐巳は私を姉とは認めないのだから、私も」

「ふふ、いいじゃない。ね?」

あれほど騒いであっさりと反故にしてしまったので、今度はこの人の舌の状態が心配になってしまう。
きっとどんな言葉でも、愛さえも薄くて軽いんだろう。

でも祥子さまのヒステリーがこちらに向くとは思わなかった。
薔薇様たちは驚きつつも、余裕の笑みを一様に浮かべて新たな標的に見て何を考えているのか。

祐巳は思う、心は自由だと思う、身体はそれを閉じ込める檻であるはずなのに。
ざわつく心は口を動かしていた。
相手が上級生で、しかも完璧なお嬢様のお姉さまであるのに反抗的になってしまう。

「連絡ミスは仕方ないです、それでも切り出し方がえげつないと・・・」

「いろいろあるのよ、でも確かに三対一は酷かったかな」

「何か代替案があると言うなら、提案してくれる?」

にっこり笑って黄薔薇さまが言う。

「・・・そうね、こういうのはどう?祐巳ちゃんにも賭けに乗ってもらうの、祥子の妹作りを妨害して
もらって結構よ。たぶんだけど、祐巳ちゃんは反対なのよね?その妹にされた子が代役させられるのが」

「なるほど、白薔薇さまにしては感、悪くないわね」

生徒会の限られた人員、今年は一人少ないのだが原因は聖の人嫌いにある。
それがようやく解消されて今残された空きは紅薔薇のみ、後押しされるし、プレッシャーもかかる。

「相手は一度ふられた福沢祐巳さん、妹に出来たら代役させてもいいわよ。紅薔薇のつぼみが出演しない
劇に文句言う相手なんだから、代役はそれでいいわよね?容子?」

「本人がいいなら」

「わたしは別に事情知らない他の子でも良いけど、その場合は代役の都合は黄薔薇でつけてあげるわ。
祥子には別に役をやってもらうけどいいわね?でも邪魔までされちゃあ無理かな〜」

静観の構えの紅薔薇さま、祥子に妹作るチャンスと思いあさっての方を見ていた。
黄薔薇さまの挑発にヒステリーを起している小笠原祥子を祐巳は見ずに、紅薔薇さまに近づいた。

「どうお考えなんですか、賛成なんですか?姉妹制度をどんな目で見ていたんです?
悪用してもいいものだと悪意を持って作る姉妹の末路なんて・・・私にはとても許せれない」

「・・・」

沈黙してしまう容子、最初に怒りを最後に悲しみをぶつけられた。本当に驚くことに
初心な一年生だと思っていた子は、姉妹制度を妹の立場からだけ考え捉えてはいなくて、リリアンの
一生徒の立場から心配していたのだ。珍しいと共にすごい子だと思った。

「そんな形でもいいと、中身なくても」

「そんなことは言ってないわ・・・きっかけが必要なのよ、祥子だって気がついてはいるんだけど
中々機会がないから私は後押しをしたかったの、山百合会でなら内面をこうして出せる子なのにね」

「・・・ありがとうございます」

良い人だとは思う、対等に近い話し方で私を落ち着かせてくれた。
でも・・・生まれる前に腐るなら、殻でも卵の形していた方がいいと。そう聞こえたしまった。

「きっかけを紅薔薇さまは本当に望んでるんですね、でも私は見過ごせませんし妹にもなれません」

「ああ残念ね、どうしてと聞いてもいいかしら?
姉は・・・いないと言ったあなた、姉妹制度が憎いのかとも思いもしたけど」

「なん、なんで私がっ。違います。憎いのは賭け事にしているから、だから、でなければ、私も。
・・・妹にさえ強圧的だから生徒会に手伝いに来ようとする人まで、心に一枚壁作って距離とって
遠ざけているじゃないですか。苦言を私は言いますから間違いだと思うなら指導下さい」

「厳しさは、でも必要なことよ」

「私だってそう思いたいです」

禁句を言ったしまったのだろうか、祥子も黄薔薇たちも喧嘩を止めて
私たちを見ているというのに彼女の目は私しか見ていない、そろそろ治める頃合だろうか。

「入学してまだ一年も満たないあなたが、幼稚舎からリリアンなら・・・?」

「・・・申し訳ありませんがずっと、スール制度に憧れていた私は母もリリアン出です」

「ふ、ふふふ・・・そこまで私に言うなんて度胸の据わった子ね。
それでどうしたいの?どうして欲しいの?山百合会に失望させては、私もお姉さまに申し訳が経たない」

「・・・乗ります、賭けには負けない」

「だ、そうよ祥子頑張りなさい」

余裕もって笑顔を見せたところで福沢祐巳も状況に気が付いたようで、黙り込み小さくうなづいた。

「さて武嶋さんは少し残ってくれる?写真のことなんだけど、もう少し詳しく聞かせて」

「え?はい紅薔薇さま」

思っていたより福沢祐巳はかたくなで、どうして拒んだか事情(ワケ)を話してはくれないだろう。
志摩子と同じ組ということなので一緒に帰宅を促して、残されるのは紅薔薇と蔦子のみ。
黄薔薇は妹たちをからかいに来ているようなものなので、ついでに白薔薇は祥子についていった。

「驚いたでしょう?」

「え、その・・まあ正直言えば小笠原祥子さまがああいう方とは。
祐巳さんにも同じく、それでお聞きになりたかったのは彼女のことでしょうか?」

「察しいいわ、三奈子とは仲が良いそうだけど今回の記事はもう出来上がりそうなのかしら?」

「距離はとって活動してますから心配は無用です、ですから新聞部の部長が
何処まで予想・・空想してかわら版を仕上げるのかは知りません。
この写真は上がったばかりで、三奈子さまの目には触れていませんよ。私からは洩らしません」

「別口か、黄薔薇さまあたりに言っておかないと駄目かしら?」

「あの・・・こちらから質問してもよろしいですか」

「ええ何かしら」

「完璧な祥子さまと一部では言われていますが、妹に関しては二度目のごめんなさいですよ?
これで駄目なら諦めてしまいませんか・・・」

「仕方ないわ聖の例もあるし、必ずしも良い妹が良い姉に成れるとは限らない。
私も良い姉でいたいのだけど・・・私が口出しては上手く行かないこともわかってたりするのよ」

「はあ・・・勘の鋭い妹への評価なのに、意外と厳しいんですね。
それで祐巳さんのことについて何処までご存知なんですか、私もクラスメイトながら
彼女が何を急いでいるのか、風のように次々と・・・人が変わったようになっていて」

「ちょっと待って、あなたたちはリリアンの持ち上がり以前からの友達だったの?」

「多少は面識ありましたけど」

「関係があるんでしょうね、春のころの病院通い。今でも行っているのかしら?」

「本人からは聞きませんがもう行ってはないようで、いいえ、私も詳しくは知りませんでした。
あいまいな答え方ですみません、でも原因らしきことは知っています。
・・・入学の少し前に不幸があったとか」

「なんとなく見えてきたけど、あまり遅くなるのもまずいし、いいわ、今日はもう帰りましょう」




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その日はリリアンがひとつの噂で持ちきりになっていた。
山百合会関係であるのと、つい最近大きく動いた白薔薇と紅薔薇が同じ組にいるあまり注目されて
いなかった誰か・・・福沢祐巳さんが渦中の人だと知った時、わたしは心中穏やかでいられなかった。
だって、いくら何でも昨日蔦子さんと話したばかりだ。

「遅いなぁ」

友人の登校が少し遅れただけなのに、必要以上に心配してしまうのは彼女が
平凡なリリアンにない行動力の持ち主だったから・・・顔は結構知られていた。

放課後もお昼も先生とよく一緒に居たり、小柄な外見とツインテールと愛嬌ある表情で
沢山の人と話す姿は、一見彼女を姉妹制度から離させ独立した個人としてみせる。

だが、本当の友人と呼べる人は変わり者と幼馴染みという異色さ。

「ごきげんようふたりともはやいね・・・」

「ごきげん、よ・・ごきげんよう。
大丈夫?祐巳さん今日はちょっと遅かったけどどうしたの?なんか朝から元気ないね」

「うーん・・・良い絵、とはいかないか。
それで啖呵切った祐巳さんはどうしてそんな状態なの?」

「沢山の人につかまって、ちょっと反省してる。
ううん、やっぱり結果見えてたから・・・賭けは続けるよ」

「悲惨ねえ」

蔦子さんはちっとも同情していない様子で、昨日の写真展示願いを同行したこと忘れているみたい。
乙女のたしなみ、リリアンでは少々特殊な挨拶を交わす。
桂さんは戸惑って蔦子さんは挨拶代わりにシャッターを切る、それはとても新聞部のあの先輩と
似ていて二度と手伝ってやるものかと思う。
でも、仏心じゃなくて・・・マリア様のように慈悲深い私はまた手伝うのだろう。

「ちょっと蔦子さんそんな言い方、酷いよ。
祐巳さんはね、とってもね大変だったんだよ」

校門、マリア像、並木道、下駄箱・・・何回も面倒だった。
ありのままを話す必要は無い、山百合会と仲悪い新聞部のあの人に期待されたくないからだ。

桂さんの頭の中では多くの上級生、特に二年生に囲まれて詰問される祐巳が子犬になっているようだ。

「あ・・・そんなに酷くなかったから、ね?
安心して、そんなにありありと顔に出すほどじゃないから
桂さん、いいの。少しの間ちょっと騒がしくなるけどごめんね」

「いいよそんな言って貰わなくても、私たちの仲じゃない」

今でこそ、元気な福沢祐巳を安心して見ていれるが
一足遅れでリリアン高等部に来た最初の頃は友人が変化に戸惑った。
利き手が突然反対になったような違和感があって・・・酷く心配させられたものだ。

理由は知っている、お見舞いに行った数少ない友人の一人だから。
中等部ではよく話する相手だったし、あの時の祐巳は夢だけでなく総てを失った少女だった。
今は落ち着いて見ていられるが思い出すと不安にかられる。




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お昼になって祐巳はひとり逃げて、空き教室にいた。
逃がしてくれた人たちに感謝しつつ、誰か来ないかと心配しつつ、午睡に適した窓際に行き
外の景色を見ながら昼食をとろうとして、一人分の人影を目で追った。

「あ、誰なんだろ」

「・・・、  ・・ ・・ ・・・・・・ 」

見つかってしまった相手は藤堂志摩子、遠いので声は聞こえないが手を振ってくれていた。
行ってみよう。
ここに居ても仕方ないし、事情知った人とは話しやすい。

「どうしたの祐巳さん、あんなところに一人で」

「それなら藤堂さんこそ、いつもこんな所で?」

話は意外に弾んだ、山百合会のことを避けても志摩子さん個人の趣味から嗜好まで
とにかく新鮮な驚きを提供してくれた。祐巳も昨日のことは、今朝から騒動となって
いまいっときでも休みたかったので、自分の場所に歓迎してれた志摩子さんには感謝する。

こんな場所に人が来るとは思わなかったが、意外な人が現れた。

「祐巳ちゃん、どうしたの、あれ志摩子もいたんだ」

「はい、二人でお弁当を。
私は所用がありますので先に失礼しますが・・・ごめんなさいね祐巳さん、楽しかったわ」

「あ、志摩子さん」

「じゃあねー」

「・・・邪魔しちゃいましたか?」

「え。なになに、どうして?
・・・別に志摩子と約束してたわけじゃないよ。
たぶん、真面目な志摩子のことだから委員の仕事とかがあったんだよ」

「てっきり待ち合わせしていたのかと、自然なんですね」

「でもそれを素っ気無い澄ましてるって言うらしいのよ、祐巳ちゃんもそう思ったかな」

実の血肉分けた相手ではないのだから、誰にどんな目で見られるのかは気になる。
それが重荷になってはいない白薔薇姉妹を見ていたら、昨日の総てが些細なことだと思えた。
たとえ賭けの提案者でも。

だから笑顔で答えていた、いいえ素敵な姉妹ですねと。

「志摩子さんが白薔薇さまと会えてよかったです、本当に」

「あ・・・うん」

祐巳の慈愛に満ちた表情(かお)に何処か寂しさを感じた、思い過ごしとこの時は思った。
彼女が大切なものを失っていたと知っていたら、言葉選びをもう少し慎重にしていたかもしれないが
結果は変えようがなかった、祥子は強情だし。祐巳とは昨日まで面識がなかったし今更だった。

疑問を口にしても、何かにかたくなな意思持つ祐巳はけして教えてはくれないだろう。




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賭けの期日が近づくにつれ忙しくなってきていた。
いつも自然に身についている身だしなみ、リリアンの生徒誰もが心がけるのもこの時期特有。

「いい?」

そんな中、福沢祐巳は場違いな意識が捨てきれずにいた。
学校の活動には元々積極的参加は望んでいたが、このような形であるとは思いもしなかった。

「祐巳ちゃんは時間をできるだけとってあげるから、台詞を詰め込んでおいてね」

「いいよいいよ私がフォローするから」

「白薔薇さま面白くしなくていいの、面白くするのは・・・祐巳ちゃん?ね?期待してるから」

黄薔薇さまに苦笑いを返す、励まされているのか空回りを期待されているのかどちらにしろ
面白くない。白薔薇様は遠慮なく相手してくれるが、いざとなったらとんでもない罠に
はめてくれそうな人なので警戒していると突然に抱きつかれた。

「ぎゃっう」

「つーかまえたっ」

「やめてくださいよ前言ったはずです、白薔薇さまぁ」

幸いに休憩時間で、他の部員たちが離れた瞬間だったので生徒会だけに目撃された。

「はしたなくてよ祐巳」

「劇ではお姫様らしくね、緊張だけが敵だから白薔薇様にほぐして貰ってて」

祥子さまと令さまに冷やかされた。
今は一年生が祐巳一人だけで、黄薔薇のつぼみの妹は入院していていない。
そのせいか黄薔薇さまの毒気に当てられたのか、すっかり祐巳を気に入っておもちゃにしていた。

さっきも台本に無いアドリブで戸惑わせ慌てさせられた。

「祐巳にそんなことしてもらわなくて結構、令からかわないで」

「祥子。からかうならこうするよ、白薔薇さま貸してください」

「はいよ」

聖から令に、まるでぬいぐるみのように渡される祐巳。
人形ではなくぬいぐるみと言うところが志摩子や由乃との違い、愛らしさにも種類があるのだ。

「え」

「あ」

「うーん由乃とは違うね。・・・由乃は来れないから伝言は私が聞いてる」

「令、私までからかわないで度を過ぎていてよ」

「祐巳ちゃん怖がらせちゃロザリオ受け取ってもらえないよ、ね?」

「あ・・そうです」

「な、卑怯よ。令まで邪魔するなんて聞いてない」

祐巳を受け取り最初に令が言った言葉の、後半部分は耳元にささやくように。

ただ一人祐巳だけに聞こえたし、意味も通じたのはたぶんこの中では祐巳だけだ。祥子や紅薔薇は
親しそうにする二人に目を丸くする、支倉令がこんな行動するのも驚きだが、妹の目の届かない
今この時に下級生に愛想よく振舞って特別サービス、というより浮気だ。
けれども、それはかなりのはまり役で劇の一幕でないのが惜しいくらいだった。

「いいなー」

白薔薇さまが自分のことは棚に上げて羨ましがっていた。

「へえ令も祐巳ちゃんの面白さに気が付いたの?でも惜しいわ既に妹がいるし」

「お姉さまの言うおもしろさとはちょっと違いがあります。
でも些細な違いでも大本は一緒だと思います、ね?祐巳ちゃん?」

実は福沢祐巳と島津由乃はただならぬ間柄、多少の面識あるだけでは語れなかったりするほどの。
しかし一緒に居ることは少なかった、それでも見えない繋がりを持っている。

「はあ・・・所で何処で」

「玄関で待っててくれる?すぐに行くから」

「わかりました、ありがとうございます」

「別にお礼言われることじゃあないよ、私からもついでに話したいこと少しだけあるから。
祥子もこうしてスキンシップ取ればいいのに。
私はね由乃からよろしく言われてこうしてるけど・・・いいねこれ」

祐巳をよりいっそう抱き寄せる。

「令!?白薔薇様も黄薔薇様も笑っていないでください。
劇にはそんな場面ないのよ祐巳、はやく離れなさい。令の妹の代わりしてないで」

「はいはい、祥子は独占欲強いね」

「言うに事欠いて妹の不在時に、言わせて貰うとね。あなた依存しすぎて」

「そうだよ。だから今はこうして他の子に構ってみてるの」

「・・・あ、そう。分かってるなら別にいいの。
とやかく言わないから離れなさい、もう人が来ているわ」

がやがやと中休み終えて演劇部員のほかには、生徒会がここにいると知って
それぞれの部の諸連絡係となった子も二、三人姿を確認できる。

その後の練習は何故か祥子さまがつきっきりで相手をしてくれた、支倉令への対抗意識が
あったのだろうが結果的に祐巳には出来る姉として映り、少しは長所として知られ印象を和らげた。

「待たせちゃった?」

「いいえ。ここは人が沢山通るので入れ替わり立ち代り話してました。
みんな山百合会の劇を楽しみにしてましたよ、令さま」

「そう良かった、じゃあそうね・・ついて来て」

二人は売店に寄ったが祐巳が軽くしかし固く断ったので、せめて喉でだけでも潤してと緑茶をプレゼント。

「紅茶のほうが良かった?私が入れたのなんて由乃くらいしか飲まないけど、お姉さまは特別だからね」

「え?意外です、令さまって由乃さんに頭が上がらないとばかり思ってました」

「・・・もぅ言わないでよ由乃と気が合うだけはあるね、祐巳ちゃんてば祥子と似すぎてるかも。
あ、ゴメン、噂流れてたよね」

「あー・・・その、うー、良いんです」

少し意地悪に返されて受身には不慣れらしく苦笑い、一日目ですから。
志摩子さんも、クラスメイトもフォローしてくれますから。
だから、気にしないで由乃の伝言教えてください。

「元気にしてますか?今は入院、らしいですね」

「うん、でも」

迷いがあるのか令は話を蒸し返して、できるだけ冷静に対応して祐巳の過激な反応を削ぐ。

「祥子の妹にはなれないかな?」

「邪魔してくれないんですか?由乃さんに言いつけちゃおうかな、さっきの冗談は人が悪いですよ」

「聞いただけで見ていないから言うけど、無鉄砲になってた祥子なんて信じれないのよ。
まあ確かに薔薇様たちに意地悪されたら怒るのは当然だと思うし、性格的にも有り得るんだけど。
ただ・・・シンデレラを降りたいというだけで初対面なのに、祐巳ちゃんを使ったなんて」

「その場で使い捨てられましたけどね。
捨てる者あれば拾う者ありですが、その拾った人が問題なんです。白薔薇さま・・・なんですよね」

「イメージが変わったの。聞いてたろう風説とは違っちゃってる去年までとは違っちゃってる、まるで
別人という人もいるよ。・・・何か言われたの?」

「抱かれました痴漢ですよもう会うたびに私はあなたの恋人じゃないですよ」

「ぐほ、げほ・・・げほ・・・ま、さかねー・・」

噴き出して、口にしてたミネラルウォータを気管に入れてしまう。
冷たく賭けを強要されたのではないかと心配したのだが、何か違う方向から磁力が発生してしまっていた。
何でも一気にそこまで傾倒したのはまずい、容子さまが頭を痛めてはいないだろうか。

「?」

「それは放っておいて」

伝えようか伝えまいか、またも増えた難問に令は苦労人らしく必要ないことまで悩む。
・・・手におえないと判断して二人の薔薇様たちに話して、祐巳には伝えないことにした。

「祥子を怒らないであげて、完璧だとか思ってたからでしょ?きっかけが酷かったにせよ
由乃とは仲良くしてるでしょ?だから妹に祐巳ちゃんを選んだのに、間違いなんてないんだ」

「それでもです」

「それでも」

妹にはなってもらえないなんて、二度も。
ちょっとやそっとの衝撃じゃなかったのに祥子も不器用なんだから、それに・・・。
由乃は望んでいると思う、・・・ごめん。私が望んでる。
山百合会で、一緒に友達である二人で学生生活送れるならこれほど素晴らしいことはないと思うから。

志摩子は確かに仕事できるし、山百合会には由乃と一緒にいてくれるだろうが
双方ともに積極的に仲良くなろうとはしないだろう。積極と消極の極同士だから中間に一人いてほしい。

既に親友と言ってもいい仲で、出会いはたった半年前で、普段話しなんてしない。
それで計れない絆を持ったふたりに、同じ場所で同じ思い出を作れるなら私がきっかけを作ろう。

由乃には泣かされるし祐巳には虐められそうだけど・・・。



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