黒祐巳と乃梨子、これに出てくる祐巳は黒です。意識して読んでもらえるといいかと
{ゲット・YU}ケース01
「ありがとう嬉しかったよ乃梨子ちゃん」
まさに花の咲くような笑顔で御礼を言われてしまうとどうしようもなくなる、言い訳もできない。
この人の無垢な善意からは誰も逃れられないという真実だけが理解できてしまう。
「ありがとうね」
「祐巳さま。あの、もう、私に何度も言ってくださらなくても」
「だって色々してくれたんでしょ?
私が悪かったのに、頑張っててくれたの、わかってるから」
赤面してまで言ってくれる。
滅多に言わないんだろう、すべてわかってるよ、なんてこの上級生らしからぬ素朴さと
気さくさを兼ね備える人は先輩らしいことしたり出来なかった。今の瞬間まではその機会がなかった。
でも、そこまで言われる程のことが私に出来たのは嬉しい。
恥かしいはずだ。
私が目を泳がせるのは気まずい時だけかと思ってたのに、こんなにも見つめることで感謝を伝えようとしてくれている。
優しい慈愛に満ちた目でじぃっと見てくる祐巳さま。
その目が潤んでるのに気がつく、何処かでアラートが鳴ってるが無視。ああ、やっぱり可愛い。
「恥かしいね。こんなの」
恥ずかしいなら言わなきゃいいのにと思う反面、この言葉が私以外には聞かれない、私以外には言われない
という勘違いをしたくなる、それ程殺人的な魅力の持ち主が他にいるのか。いまい。
他の薔薇ファミリーは外見でよく噂されるが、この人だけは美しい魂で魅了される人が多いと聞く。
この満足感というか、優越感が胸をくすぐる。
「いぇ」
それほどの感謝をされてしまった。
それだからこそ人をむやみにドキドキさせないで欲しい、自覚ないのは先刻承知の私でさえこうなんだから。
密かに熱烈なファンである可南子さんとか瞳子の心中察して余りある。
「ありがとう」
「はい。あの・・」
近い、近いぞ。
「う、祐巳さまって私とあまり目の高さ変わらないんですね」
「もうちょっと成長期ぽく伸びたいんだけどね」
「今のままでいいです。
違います、身長のことです。もう離れてもいいですか?」
「いや?」
いいえちっとも。
よくも冷静だぞ、これは自分を褒めてもいいじゃないか?
この時代によくもまあ純粋というかリリアンらしいというか、皮肉のひとつも言いたくなるはずの私。
でもマリアさまに見守れながら育ってきた乙女、心の奥底から可愛い人に抱きつかれてしまった。
「・・いぇ」
「はい、いいこいいこ」
・・・なんだろう、この状態。
感情豊かな人だとは思っていたけどココまで親しげにされるほど愛想良くしていたか?
私。
でもなんだか白薔薇には油断してるみたいだし・・・以前、うちの姉がお世話になってましたよね?
あの志摩子さんが髪触られて幸せそうだった。
微笑ましいなあと感じた憶えがある。
優しい祐巳さまとだからと納得してたけど、あの表情は幸せすぎて頭ゆらゆらしてたんだね。
私もうダメかも。
「あれ?顔赤いよ乃梨子ちゃん熱でもあるの?」
離れていく祐巳の腕、引き止めたらアレと一緒。アレと一緒。
紅薔薇。
黄薔薇。
それを思い浮かべつつも残念なのは本当だ。
抱きしめてた腕の力を抜く、ぬくもりから離れる気は無かったが閉じていた目をひらいて
見た光景は・・・。
不機嫌な様子の島津由乃と我が姉が暖かく見守っていらっしゃいましたよ。
「う、うぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!
見てた、どこから、いつからっっ??」
「最初から最後まで、聞いてもいたのよ。
・・・乃梨子しあわせそうで羨ましいわ」
どうしてここに、現われた人は我が姉、最高の笑顔、そう出会ったときのように。
でもひたすらこわいです。
血の気が引いて動けないです、え、何です?祐巳さま?
「ね、恐い顔しないで由乃さんも志摩子さんも・・・乃梨子ちゃんが怖がって」
「大丈夫よ心配しなくていいの。親友じゃない、一時の過ちなんだから」
「過ち、違う」
すかさず反論、視線がマイナス零度以下で返答される。
祐巳さまが怯えてますよ。
「うるさいなあ、志摩子さん早くその子持って行ってよ」
「乃梨子をどこかへ連れ去る前にあなたに聞きたいわ、祐巳さんと友情深めたいのは
私も同じなんだから、ねえ由乃さん?」
「だめ。ダメだよ・・・二人ともどうしてそんなこと言うの?」
「くっ祐巳さん。そんな目で見られると私」
「しっかりしなさい黄薔薇のつぼみ、戦う相手を間違えてるわ。
目標は私の祐巳さんを利用してる乃梨子よ。
生徒会やドリルやノッポに忙しくて心の隙間に性格悪い悪魔が入ってしまったのよ」
いや違うです。
元々、こんな性格でしたし志摩子さんには確かに気を許してしまったことあったけど
はかない笑顔と純白が好きだったのに、ばっさり切るところとか愉快な笑顔で冷めました。
それに引き換え、祐巳さまは駆け引きなしに私を庇ってくれる。
私は涙を流すほど嬉しいのだけど・・・酷いことに島津由乃を使って我が姉が
にやりと漁夫の利を得ようとしてます。・・・何なんだこの二人は、狙ってたのかよ。
「学年も違うのだから接触禁止は難しいことではないはずよ、でも念のため二条乃梨子は
薔薇の館に一週間出入り禁止!これにて一件落着」
横暴奉行、島津由乃ここにあり。
「でも生徒会の仕事で役立ってくれるのに、由乃さんがその分誰か連れてくるなり妹つくりなりして
フォローしてくれるなら賛成するわ」
「え?な、なにをされたの!あの子に会う以前の志摩子さんに戻ってよ。一も二もなく面倒なことは
引き受けてくれたのに・・・どうしちゃったの?乃梨子ちゃんに告げ口されたのね!?
ズルじゃないのよ。あれはね、私が部活に行けて尚且つ祐巳さんとも仲良くできるし白薔薇は
てきとうに銀杏と桜で飽和できる方法なのよ!騙されないで志摩子さん!」
えっへん踏ん反り返る由乃の泣き所に容赦ない攻撃加える志摩子。
その黒さに憧れたこともあったけど、わたしはもうついていけません。祐巳さまに癒してもらいます。
なでなで、はふぅ〜
妹の乃梨子を可愛がり甘やかし惑わされ毒されたか!なんて本人を前に言わないで下さい。
つーか本音白状してませんか?
そういうところが妹つくれない理由なんですよ。
志摩子さん比べても由乃さまは十分に美少女じゃないですか?人気とりすれば
馬鹿な子が妹になって、白薔薇の代わりにあなたがサボった仕事を張り切ってやってくれますよ。
だから大人しく妹漁っていてください、祐巳さまとなかよし過ぎますよ。
「ええーっ!すごくいい子なのに出入り禁止って!?」
「ええそうよ祐巳さんの半径一メートルは新参者に認めるわけにはいかないわ、罰ゲームで禁止してみなさい
それで先週危なかった人も実際居るし、あの紅薔薇が寝込むんだから相当な大事よ。祐巳さんとの接触は
身体に必要な採らなくちゃならないものなのよ」
どんな栄養分なんだソレ・・・先週?危なかった?
「志摩子さん?もしてかして、何で・・・何してるんですか元気なかったの心配したのに。
日曜日に尋ねた時いなかったの、病院行ってると思ってたのに本当は何処に?」
「あ、志摩子さん珍しく一人でうちに来てたよね・・・あれ何だったの?
勉強教えてもらって助かったけど、山百合会担うにはわたしってまだ頼りないのかなー」
あからさまに視線逸らす姉、事実とわかってしまい、また祐巳の何も分かってないだろう態度に脱力する。
「その勉強会について報告なかった志摩子さんは後で魔女裁判にかけるとして、さしずめ二条乃梨子は
黒猫、ランチとでも仲良くしててよ。祐巳に懐くな!」
「呼び捨て?」
「呼び捨てだ、いつの間に」
「親友なのよ当然じゃない、何よ志摩子さん」
「私は?どうして違うかしらね」
「細かいことは気にしない。だって薔薇様だし一番山百合会の仕事してるし」
「都合のいいときだけ白薔薇ファミリー煽てて調子いいこと言いますね」
「何かいった?」
「いいえ、祐巳さまは私が近づかないほうが良いですか。
そんなはずありませんし無理ですよね、祐巳さま」
「乃梨子ちゃん。そうだよ由乃さ・・・由乃!ね?あはは」
さん付けようとしたのを誤魔化して、冷や汗出てますが暴走島津由乃には適切な対応ですね。
祐巳さまは親友と言うだけあって扱いなれてますね。
我が姉の深謀も優しくなでて挫折させたりと尊敬しますよ。この人が黒かったら学園が大変だろうなあー
なんて愚にもつかないこと考えてしまう。
でもそれって親友なんですか・・・私にも似たような何処かの瞳子がいたっけ、人のこと言えないな。
加奈子さんもいるし・・・何だこの符合っぷりはもしかして泥沼なのか私って。
でも何とかなりそう。
「そうなの。先週は行けなかったけど、空いてるから来てよ祐麒も一緒にと言いたいけど忙しいみたい。
久しぶりに二人で勉強会しよう」
「そ、それならいいわよ。
白薔薇姉妹もちゃんとどちらかの家で大人しくしていること、祐巳さんの家に来ないこと」
「あはは大丈夫だよ由乃。志摩子さんたち頭良さそうだし私たちは心配しなくても
生徒会活動も支えてくれてる二人なんだから、頼りにしていいんだよ。ね?乃梨子ちゃん?」
うーん複雑、結構大変なんだけどと思ってると祐巳さまにこっそりお願いされてしまった。
役立つとここまで褒められると、やだ、なにこれ嬉しい・・・。
黒い姉とふたりで仕事するのはデートするよりはマシだけど、普通は文句の一つも言いたくなるんだけど。
祐巳さまのお願いは即受けだ。
私の心にも簡単に響く声。
祐巳さまって鶴の一声出してる自覚あるのかな?
あるわけないか、こんなにも純情なんだし修羅場馴れしてない暖かい人なんだから。