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黒のラピスラズリ   第七話「姫若」

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-----A part
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どれだけ破壊しても数が減ったようには思えない、まだまだいる何処で終わりなんだ?
焦りが入った。
まだいる。
右にいて左にもいる、振り返ると奴らは赤い目で俺を見ていた。


「目の前ばかり見て慌てないで、動かして私に手を、きゃっ」

「なんでこんなにいるんだよっ。くそぉお前なんて、ちく、しょう・・・わぁぁっ。当たったっっ死ぬ?
死ぬかよっ、う、うあぁぁぁぁぁぁっ」

「・・・・いたたぁーしっかりしてよ、目的地は向こうだよっ!!
あれれ聞こえてないのか・・・・うんそうだねわかってる手伝ってよ可愛い相棒。
アキト聞いて!いい?左手に重ねさせてもらうね、混線しないから大丈夫心配しないで、ね?」


バッタの小さなミサイルが背中に命中して衝撃に揺れる、アキナはシートにいなかったので
ぶつかりそうになってアキト任せは危険だと判断せざるえなかった。可愛い相棒、ラピスラズリにも
後押し受けてアキトの手に無理矢理手を重ねた、一つの機械に二人の操縦者IFSがそんなふうに
使えるのか戸惑っているアキトだったがエステバリスは新兵器だ。できるのだろう。


「(さっきので壊れたところはないし、武器無くても機動に不足は無いよ)」

「基本の動きが荒いから、それが良ければ逃げることはできるはず」

「そうなの!?だって敵が多い、くそっまだ勝てないのかよ」

「ああもうっ正面から行かない!それに冗談でしょ私がいるのよっ!
負けるっ?はずない。
そうでしょ?さっまだ行くよ先に進むよついてきて」


声が少し弾んでいると自覚、綺麗な声色でこの程度余裕だという宣言をする。
この娘がいうべきセリフじゃない・・・言える状況じゃない。のに。なのに。

スピードが格段上がったわけじゃない、でもジェットコースターの方がマシだと思える、そんなGのかかり方。
下からと思ったら右に揺さぶられ、集中なんてできないはずなのに
あの大量のバッタの攻撃から逃れている事実。彼女が操っている?


「ねぇちゃんと動かして避けるのは私がしてあげたけど」

「え、嘘だって・・だって向こうにナデシコが来るんだろ。動かしてるの君だろう」

「ちがうよ。ちがう。
私はバッタ見てただけ、アキトは行き先決めていたのよ集中してはやく」

「でも」

「敵が人間なら駆け引きがある、こっちは人間でも相手は違うでしょ、無人兵器なの
ナデシコが狙ってるのこと、主砲による一網打尽がばれてやしないわ。さあいくよ」


エステの動きが変わる、機動のさせ方が素人から達人へと。
引き付けていた敵を必要最低限のみ攻撃して、進路を海岸へとって思い切った制動で敵を離す。
それが囮の役目。
あっさりと出来すぎていてIFS所持者でない地球の、まして民間人にはそれが分からない。

ついにナデシコと会えた。
敵はグラビティーブラストで一網打尽になり、アキトは素直に驚き喜んでいる。


「ピンチなんとかなって良かったね、でも素人なのによくできました。花マル♪
そうだおごってよコックなんでしょその腕を私に振るってくれる?失敗しても酷いこと言わないからー」

「でもその俺、見習いでお客に出せないかも」

「いいよ。そのかわりデザート付きぐらいの甲斐性あるよね、怖い思いしてサポートしたのよ、ほら」

「見せなくていいっ近づかないで」

「いや無理、ここから出ないと離れられないよっ冗談だよっあははは
次は何してもらおうかなーー」


狭い中でぶつけて赤くなった肌を上着の隙間から見せようとして、遠慮されたアキナ。遠慮しないアキナは
自分が生物的にメスであるとわかっている上でやっぱり何もしてこないと分かりきっている相手に攻める。


「もう乗らないから次なんて無いっ、無い。だろ?」


そう、この仕事はそもそも例外。本来はコックなんだ。
アキナにIFSを使ってもらって敵への攻撃抑制と、的確な・・・そして時々理解しがたいアクロバットを
させられたアキトで制御はアキナには譲られていない。そこがポイントだった。

まだ、そしてまたアキナにはパイロットは趣味にとどめてとネルガルから言われてた・・・。兄妹そろって
手の焼けるとはエリナとエリナに師事する女性たちの弁、ナデシコだから自重できるかどうかは不明。


「あーあ遊びすぎた?ああでも兄さんに泣かれちゃうなー嫁入り前の娘がって
君覚悟しておいてよね、わたしと乗ったことは秘密にしてあげるから死なないでね」

「え・・!?」

「冗談よ本気で心配しちゃった?次はないよきっと」

無垢な笑顔は幼い時のユリカみたいで俺はぼろ泣きに泣かされそうな気がした。

「ごくろーさまアキト迎えに行くねー、あれ誰その子?なんでアキトと一緒に乗ってるの?」

「ミスマルユリカ?艦長?」

「あ、じゃお先に!」

「え?今まだ動いてるから待ってって、嘘ー?」


サーカスの軽業師のように格納中のエステバリスから飛び降りていってしまった。
そのせいで、整備班に一人捕まったり艦長が五月蝿かったりしてプロスペクターが来たときには既に書類の
ことなど頭に無かったし食堂に連れられて、サインしたことなどウェイターたちに質問攻めにあって忘れる。

そこに再び現れたユリカの襲撃、そんなアキト見捨てた少女は色気ただよう美女のスマイルにやられていた。


「はーい席について、隣りにねアキナちゃーん」

「ああ、本当に大変ですねー。テンカワアキトさん、付きまとわれるって本当に、本当に、本当に、
大変なんですね・・・・自慢じゃないんですけど経験豊富なんですよ。でも耐性できないし」

「(本当に自慢じゃーないネ諦めて慣れてよアキナ。
エリナにだって、イネスにだって私はいつも。アキトにだって可愛い可愛いって言ってもらった)」

「まぁね・・・・」

「それで私はイタリアンで、っとそれ何がいーい?」


艦長がいない艦橋で自己紹介するとハルカミナトに捕まって可愛がられた。
食事どきになってそれを理由に逃亡したはずだったが、ナデシコの構造を知り尽くしてるアキナよりも
何故か先に向かったアキナよりもはやく食堂の入り口で待ち伏せられてた。謎だ。

そうしてご飯食べに来たアキナが見たのは、何だかんだ言っても今日のいいとこどり男ということで
男性陣で盛り上がっている食堂でアキトはキャッシャーしている姿だった。
ヤマダが何か熱く語っていたり・・・何もしてないだろ!むしろ無駄骨折ったろと騒がしい。

「照れてるのかわいーね。
艦長と同い年だっけ、幼馴染ってトリップしてたけど」

「ところでハルカは私の手、離してくれないのは何故?食べにくい」

「なんかー聞いたことあるような噂の人みたいで、思わず・・・えへっ
そんなほら細かいこと気にしない。初勝利でしょ記念に一緒に食べましょう?逃げない逃げなーい」

「わかりました、わかりましたってば」

以前ネルガルに可愛い娘がいると聞いてたハルカ。
一緒に居ると楽しそうだとマークしていたが、逃げたので行く手を阻み連行した。
戦闘後にハイになるとはミナト自身が意外だったけれどアカツキアキナは確かに可愛い。

初めてばかりのナデシコなので、星野瑠璃や瓜畑など馴染みと
なるメンバーよりも何時か何処かで聞いた彼女・・・ネルガルのシスコン。かなり失礼。ぞっこんである様子だ。
ついとアキナはミナトの頭の上、中空に視線を投げてみる。勿論そこには何も無い。
だが見えた気がした。
ルリとペアでミナトに可愛がられているアキナがいて、アキトがうらやましそうに・・うわ。

「頭痛がする、妄想癖は艦長で十分なんだけどナ」

「えっ?あ、そうねー」

「ユリカかわってないですから、比べちゃハルカさんが可愛そうだよ」

「うわ、頭撫でないでよ。もーおこるよ」

「テンカワくんて・・意外に女の子の扱いなれてるのかなー
今日はミナトでもハルカでも好きに呼んでもいいのよ、ヒーローしてたしね」

「ちっちがいます、だってアキナちゃんてホラ小さいし
ずっと一人暮らし長かったから、木星蜥蜴が来てから大変だったし女の人なんて呼べばいいのかって」

「そっか・・・ミナトさんでいいわよ」

「だめだめ気をつけてよミナトさん。でも安心して私はこれっぽっちも男の子としてみてないから、私を
女の子として見てないふりされてちゃね。それに男はオオカミでしょー」

「あっあはは、アキナちゃんは女の子たせもんねー。それはそうよねー。
私が教える前に知ってたか、説教したのはお兄ちゃんかな?
ふふん、アキナの守備範囲にはいないって残念ねーテンカワくん、あ、ところでさ注文したのもうできたかな?」

「そうっすね、じゃ仕事もどります」

「腕上げて稼いでよーコック見習い」

「あーわかったよ」


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夜の帳、それはもう明けてかりにも宇宙に行ける舟なので交代制であるのだけど
出撃からトカゲさんたちに狙われたから、女の敵、お肌の敵、お姫様の敵、テンカワアキト!許すまじ!

「ーったくコックだとーケチつけたるから覚悟おし」

「サチ不機嫌ね」

「仕方ないよ姫様に挨拶し損ねたんだよ間が悪いのは前からだけど、ナデシコ入る前にしておかないから」

「事前に目通したのに飛び入りがあるなんて、しかもこいつの部屋巡回ルート外れてるし闇討ちできんかな。
・・・ネルガルに居たときは簡単にルート修正できたのに。オモイカネだか何だか知らんけど邪魔だね」

SPである彼女たちはネルガル本社からエリナが選び入れた人間たち、アキナの顔見知りで売店とかに居たりして
アキナが思わず挨拶してしまったけど秘密であるのだ一応。オモイカネが稼動するナデシコでは初対面のフリが
必要で、民間特有の秘密の守り方を普段する仕事に隠して遂行する予定。乗員もスカウトという形態をとって機
密漏洩を防いで、必要な人員を余裕持って確保したつもりだったのだが直前に乗艦してくる艦長にはプロスペク
ターも予想外だった。

ずるずるーっとラーメン、他二名はアイスにオレンジ。
食堂でアキトを片目で追いつつ物騒な顔しているこの女、サワラサチ・・・以前アキナに落とされたSPさんだ。

「それにしてもさ、なんでそんなにのめり込んだのよ?出世かね」

「苦いね、このアイス」

「食い気より色気よ。私はアレをお兄様って呼んでもいいのよ姫様のためならね」

「迫力ありすぎな決意表明ありがと・・・・レズだったのあんた?それともマゾ?姫様と仲よくしてたと思った
ら・・・まさか命令された?まずいっ、うち等の姫様アレの妹だ!?わ、わたしパスだよ。絶対だからね!」

「わかったわかった。言っておくから、それに私一人で十分だからこっちから願い下げておく」

「中はアマアマだーだから外が苦めなのね、まだ何かあるなきっと、どーなってるのかなー」

「君はいい加減会話に参加なさい。アイスとクリーム拭いて、ほら、コラ、いつまで食ってんのあんた?
姫様がナデシコで大暴れしないようにお供させられたんだから、あんたもサチの暴走も止めなさいよ」

オモイカネが稼動してるナデシコ内において公共の場での会話は気をつけている。
アカツキアキナという呼称を姫様に変え、そして出来うる限り周りの人間に合わせて笑いもする。
本業は警備じゃない、プロスペクターほど腕はないにしても諜報や護衛・・・特にこのナデシコでは軍人たち
の介入されるためにも最終段階。地球圏離脱までは彼女たちの存在が公にならないようにしていた。
しかしクレでの補充まだだから人数も多くない。

そんな彼女たちの隣りにはアキナに逃げられたミナトが、新たに捕まえたメグミがいて
その向こうにはミスマルユリカ艦長がテンカワアキトに王子さまと連呼している。
かなり混沌している食堂。

「いつもアキトが来てくれるって信じてたもん!アキトは王子様だもんねー、私がピンチの時は
必ず助けてくれるんだよね。アキトぉー何処行っちゃうのー?」

「ついてくるなよー」

「お話しようよ。もうお仕事終わったんだよねパイロットなんて知らなかったよ、アキトが火星に
居るとばかり思ってたからいつ地球に来たの?ユリカに連絡してくれれば会いに行ったのに」

「俺はコック希望したぞ、ほら仕事中なんだぞ」

「いいよテンカワ、こんなじゃ仕事にならないだろ。艦長や飲んでる奴の相手しておやり」

「すみませんホウメイさん」

顔赤くしてちらちらとジュースの氷つつきながらアキトに話し掛けるミスマルユリカ。

「ねえアキトは今まで何処に居たの?ピンチに颯爽と来てくれたのはやっぱり心が通じてるから?
ユリカはね地球に来てからお父様と一緒に暮らしていたの」

「ユリカは知らないか、火星から地球に行ったすぐ後・・・オレ親無くしたんだ。それからは
孤児院、戦争が始まるまでは一人で生きてたよ」

「え」

そんな苦労していたとは思わなかった意外だと何も知らなかったユリカは驚く。
でもすぐに王子さまに『悲劇』のをつけて再生、へこたれない乙女心持ってテンカワアキトに話し掛け
続けていたが、気になっていた一緒にエステに乗っていた女の子の話が出てムスッとした顔。

「あれは、初めて俺が戦って勝ったんだ。
火星でも地球でも負けっぱなしだろう?手伝ってくれてさアキナちゃん」

「・・・ふーんネルガルの社員さんか、でも小さいしユリカの敵じゃないね?ね?」

「何言ってんだよお前、あの子と比べるとガキだなー、本当に艦長なのか?
そうだ、お前の父親の」

「お父さま?元気だよ会いに一緒に?こんなにはやくご挨拶なんて困っちゃう、でも」

一度会いに行って直接聞いてみたい、両親がミスマル家と別れた日に死んでしまったのか。
前日まで挨拶も交わした。
話した相手を簡単に裏切れる、軍人というもの・・・故郷ユートピアコロニーに何が起きたのか知ってる。
両親失って火星でコックを目指し、トカゲで故郷を失って地球で必死に生きたのに軍は役立たずで
そんなアキトにナデシコは初めて力を与えてくれた。エステにはもう乗らないはずだけど、その力を
知っている。

「すげーなこれどうなってるんだ、素人なんだろーあーでもIFSあるんだよな、トカゲがバタバタ落ちてくぜ。
班長わかります?あっ、おおっ、ノーマルでこれほどいけるなんて」

「ちょっとまて」

「何してるんですか?ウリバタケさん。
食堂に持ち込みまでして食べて飲んで、えーと」

「ああ艦長さんか、整備のついでに戦闘記録み見てんだ。
そこのコックの兄ちゃんなかなかいい腕してる、初めてとは思えないぜ。ん?」

「ん?これムネ当たってないすか・・ねぇ?」

「んー」

「はははは」

「んー」

「整備長、具申させて頂きます」

「何だ」

「アキナ嬢との同乗がやむ得ないとはいえ、この行為は我々整備班にとって裏切りとは言えないでしょうか?」

「その通りだ同士よ。あの年頃の娘はまさにヒロインに違いない、艦長にはないものを持っているアキナ嬢は
ウリバタケ班長もそうお思いでしょう?」

「みんな静まれ、もう一度確認する」

巻き戻してもう一度。
シーンはラスト、格好いいナデシコがトカゲたちを殲滅したシーン。
問題は・・・アキトは戦闘中でかなり焦っていて気にしていられなかったが、二の腕にアキナの
ささやかな胸が当たっていた。一、二・・二回も。
見ていたユリカの笑みが凍りつき、盗み聞きしてたサチが箸を折り目を険しくした。

しかし男の性か女性陣より険悪でない、エロおやじだ。

「テンカワぁー、手がはえぇなーぁ、コラ」

「な、ちょっとやめてくださいよ。」

「こいつめ、ああっん?
嬢ちゃんムネ、やっこかったろ・・・ぐふくくくく、このっ」

「迫ってこないで下さいよっ!偶然にきまってるじゃないですか。いたっ、だからわざとじゃ」

「あたりまえだーっじゃないと半殺しだぜ、ヤマダめ役に立たん奴だ。どーして怪我なんかしやがったんだ。
あの馬鹿やろーこいつに出番与えたんだよ畜生羨ましい・・・」

「そうだ。ロボット、美少女という組み合わせをーっ」

「艦長まで手にしておきながら飄々とっ、くそーっ」

「おわぁぁっっっっ、な、なんですかっ」

どぉりゃぁぁぁぁっ、下から恐怖を感じて身を引いたのは正解だった。

「このっ変態がぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!
死ねっ、アキナにっ、離してっ、殴るからこいつ殴るぅ・・」

身を引いたお陰でサチの強力な一撃を回避できた。
スカッと外れて危機一髪回避できた、アキトは女性の剣幕に驚く。

「はい。どーどー、アイスあげるからサチは向こうにゆこう。
はいはい行こう、どーも迷惑かけましたーっ」

「いづっ、引っ掻かれてる」

「なんだありゃ・・・見事なアッパーと魂の叫びだぜ、どこの漢かと思ったぜ。女ヤマダだなあれは」

「あの役立たずのパイロットさんですね。殴るって女らしくないです。しかも私のアキトに」

ニヤニヤして小突かれまくって、整備班に揉まれてアキトは苦笑いしていたら一つ向こうのテーブルから
やってきた女性にいきなり殴りかかられて、頬を引っかかれた。
取り押さえられていったのを唖然と見送る整備班たち、まだ仲間の女性たちに宥められているが血涙流す
ほど羨ましいらしい。
野郎じゃないのにテンカワアキトに嫉妬するなんて変な奴と見ていたけど、ミスマルユリカにだけは
いちゃつく材料。引っ掻かれた場所に手をやって過剰なほど心配する。

「痛い?痛い?ねーアキト大丈夫?」

「いいよいいよ、手離せよ」

「いま何処にいらっしゃるんですか艦長。プロスペクターさんが連絡あるとさっきから呼び出しているんですが、
事前に艦橋に集まるように言われているはずです。もう皆さん待っています」

「え、え?ジュン君なにも言ってなかったよ、うん行くよ。ごめんねアキト」

「副長は専属の秘書でもなければ付き人でもありませんよ、ネルガルで雇った艦長の代理が役職なのです」

プロスペクターが愚痴か皮肉か言うが聞いてない、アキトに謝って艦橋に向かった。その間に副長がユリカの
私物を部屋まで荷物運びしていた事実が明らかになり、提督と副提督から学生気分を戒められていた。

「ご存知のとおりナデシコはクレに寄ってから目的地を目指します」

「それは聞いてるわ」

本当は艦長であるユリカがブリッジを副長に任せてここに来ている予定だったが、提督が今後の話を
ムネタケに任せると言って残ってくれたのでプロスとムネタケが話をすすめていた。そこに軽食を持ってきた
アキナが二人に加わる。

「もう行っていいわよ、難しい話するから」

「いえいえ、是非とも聞いていてもらいませんと彼女はネルガルの社員ですし・・・・・実はですね」

「スキャバレリ・プロジェクトは会長の影響力あってのものですから、私が乗り込んでるんですよ」

「ちょっとあんた大言壮語しすぎ、嘘も程ほどにしなさいよ」

ちっこい小娘を出してきたネルガルの考えてることは分からないが、馬鹿にしてるようなので愉快に笑えない。

「副提督笑い飛ばさず聞いてください。彼女はただのキャッシャーだったりオペレーターだったり、まして
パイロットでもありませんよ、軍にも申し上げたとおり性格とわず腕一流でネルガルの会計である私が集めた
人材なのです。どれも簡単に兼務できるはずないじゃないですか」

「ふん、それで何よ?」

そっぽ向いて彼女の持ってきたサンドイッチを口にした。

「クレで軍の護衛を強化してもらいたいんですが、確かウミヅキ級が停泊していますよね。出港でトカゲに
襲われた時に役に立ったのは私がサポートしたエステバリスだけでしたしー」

「そんなこと私には関係ないじゃない、どうして」

「さてどうして?って火星の英雄フクベ提督が乗られるフネが沈んじゃまずいんじゃありません?」

「アキナさんの言う通りです。
我々民間人は経済性を考慮して協力していくつもりです、ほらこのとーり。お安くしておきますよー」

「ネルガルの新兵器ね・・・ふーん」

エステバリスの性能は既存の戦闘機とは隔絶したものだった、バッタやヤンマを簡単に潰せる戦力が
手に入れば押されている軍の顔もたつ。代価はナデシコとの共同作戦をアピールしてもらうことのようだ。
重要人物をナデシコに乗せてくるネルガルの意図がわからないし、この小娘の得体が知れないけど
邪魔立てしないなら荒立てず穏便に利用できる、気に食わないところもあるが・・・・ん?わたし乗せら
れてない?このままネルガルの言うとおりにしてていいのかしら?

「待ちなさい。護衛ならそれは作戦も共同でないと何処まで行くのか、いつまでなのかはっきりしてよ」

「サツキミドリに行くまでは内密にしておきたいのですが仕方ありませんね」

「火星です」

なに・・・?

「あ、は・・・・はは、なにそれ馬鹿なの?
ネルガルが火星に単独で行ける筈ないじゃない、それは物理的にじゃくないわよ。政治的にもね。
そんなバカな賭け」

「そうですね。ですが本気ですよ。
提督も薄々気が付いているからこそ、ナデシコに乗られた」

「そうね提督なら言うでしょ、地球に居れば英雄扱い・・・閑職ですもの。
火星の英雄は待っていられない、軍よりネルガルを。その気にしたのはプロスペクターでしょ」

「とんでもない。私はただ提督の居場所を用意できると申し上げたまでです」

立ち上がって退室していくムネタケ、振り返らず言った。

「このフネがクレに着くまでに結論考えておくわ」


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ナデシコは順調にクレシティへの航路を進む。ブリッジ上部の艦長席には落ち着かない様子のアオイ副長が
座っています、後ろにいた提督が遅刻の注意なんて学生にするように言い聞かせています。
これでしっかりしてくれると助かるんだけれど。

「ねぇ艦長知らない?」

「知りません。星野さんに聞けば大抵のことはわかるんじゃないですか?
さっきもプロスさんに呼び出して欲しいと言われましたけど、来なかったし・・・何処にいるんでしょうね?」

「戦闘終了後にパイロットに会いに行ってからはずっとその方の後をついてまわっているようです、今は
食堂ですね。ミナトさんとはすれ違いしたようです」

「サボりかぁ〜いいな、でも面白そうな艦長で良かった」

提督と副長が神妙に話している上とは正反対にミナト、メグミ、ルリはパイロットと艦長の恋路を話題にして
ナデシコが戦う舟ということを忘れている。

「二人だけだったから後から乗ってくる艦長がガチガチの軍人さんかな?
そう思ってたし、ネルガルがパイロット以外にも引き抜いてるのかと思ってたのに、メグちゃんはどう?」

「えっ?確かに少ないですよね。こんなに凄いの、ネルガルが作っちゃったんですよねー。
一体何をするつもりなんでしょうか?
あの艦長さんの考えてることならきっととんでもない事だと思いますけど」

「その内、知らせてくれるわよ。楽しみね〜でも艦長が知らされてなさそうよね、あはは。笑えないけど。
そう言えばあのパイロットくん・・コックって言ってたけど。どうなのルリちゃん?」

「登録はコックです、出港時リストにはありませんでしたがプロスペクターがその場で採用したのが、監視
カメラにありますIFS持ちだからでしょうか、火星出身者は当然持っているそうです。でもあの操縦は」

テンカワアキトをサポートしていたアキナの手際には驚くべきものだった、タイミングの合わせ方からすべて
経験や訓練がなければマシンチャイルドであるルリにも難しいと思う。
何処となく顔の輪郭が似ていますが・・・・肉親でしょうか?

配属はネルガル本社になっていますが、社員としてこれといったプロジェクトはスキャバレリがはじめて。
あの戦闘の中で、自分の手足のように新開発のエステバリスを扱った点から開発に関わっていたものと
推定は早急・・・一番信じられないのはテンカワアキトに華持たせ自分を影にしてしまったこと。
英雄という光が強ければ、自然とできるピエロという影にも目がいってしまうものなのに。

「オモイカネといい、艦長に不安があるけどネルガルはナデシコをつくって何させるのかな?
でもトカゲもアキナも手ごわいですね。プロフィールはロックされている・・・プロスペクターは
教えてくれませんし・・・オモイカネ?」

『分からない』『アキナなんて知りません』『ただの女の子』『こわくなんてないよ』

「よく教育されてますね」

「ルリちゃん何が?あ、プロスさん何か用ですか?はい、ええ、では呼び出しますね」

「なーにメグちゃん?」

「艦長をいいかげん席に着かせて欲しいと言ってました。クレに着く時はブリッジに全員揃えていろと」

「あとどの位なの?」

「速度はあげませんので03時55分に軍の施設に着く予定です。艦長は・・・」

オモイカネに探させてみると自室に戻っていた。プライベートモードと権限の関係でサウンドオンリーで
しか通信できないようなのでレイナード嬢の代わりに用件を伝えた。
便利だな、いいな凄いなと羨ましがられたがルリとしては戦場に出てきたのは予想外だった。ネルガルに
買われたときは研究所の続きだろうと予想していたのだから。

「気になるわよね?」

「はい?」

「ミナトさんこんな子どもに聞いても分からないんじゃ」

「いえマシンチャイルドですから、あ、断っておくと私以上にはナデシコの各設備機能を十分に
把握理解できる人間はいないと思いますよ。それに子どもじゃありません」

「へぇーーーーすごいんだあ」

感心したようにミナトは言い、近づいていって背後からルリのオペレーター席を覗き込んだ。

「ね、お話しない?」

「大抵のことはA.Iオモイカネが答えてくれます。私には業務があるのでそんなに」

「いーから、そーゆうのは任せられるんじゃないの?」

「・・・ええ、まあ」

さしあたって理由も思い浮かばず、嘘などついたことない少女は手を引かれてちょこんと輪に加わった。


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用意された部屋は比較的広い。
最低限のものは揃っていたし、隣室はプロスペクターがいる軍で言う仕官用の部屋なんだろう。
その上アカツキの仕業だと断言できるが、周りの部屋はシークレットサービスの皆さんが一般クルーに
化けて部屋を割り当てられているようだ。数名だが顔見知り。


「アキナさんの部屋の隣はゴートと私で、突き当たりにはSPが居ますので何かあったらそちらにも」

「あ、あのひと知ってる」

「・・・まぁそうでしょうな。会長もまったく・・・そんなかわいいんならミスマル提督みたいに
引き止められても困るんですが、仕事できないとか我が侭をエリナ女史も私に言わないで欲しいですな。
中間管理職とは上司の愚痴を・・」
ぶつぶつ


一人でトコトコ割り当てられた部屋行くアキナ、出会う人に挨拶するがそっけない。
オモイカネを注意しているんだろう。
一般社員として登録してるので、違いがあったりすると不信人物としてマークするのだ。

コミュケを通して小言を言うプロス、ナデシコが完成して以来アキナがべったりの性格ではなくなったので
時々極楽トンボへ行くべき苦情がまわって来る。火星への思い入れがアキナにもあるんだろうと口には
出さないが思われているようだ。

だからそれを笑って受け答えするアキナ、たまにはアカツキを庇ったりしてやるがやりすぎはよくない。
しばらく会えない兄、あとで小姑と化すエリナが容易に想像できるから。
命を救われた事もあったし、奴の事は色々と知っている。・・・立場上ぷらす皮肉屋で友達少ないとか。


「まだ時間はあるけど」


仕事が多岐に渡る為、自室にゆっくり出来ないのは分かっている。
顔合わせとかは早めにした方がいいかな?知らない所を知っているとマズイ反応をしそうだから。


「(ルリに会いに行こう、オモイカネにも会いたい)」

「そう?そうだねー、うーん、出来る事ないなぁ〜ブリッジ行こうかな?」

「(時間はあるよ、ナデシコAの中も見たい)」

「うんそうしよう。プロスさん、予定お願いします」

「・・・聞いてませんでしたね?アキナさんもあのボンクラに言っておいてくださいよー」

「プロスペクター?」

「はいはい、わかりました。ですがその前に紹介などしませんか?馴染み深いホシノルリさんは
もう覚えてしまっているでしょうが、軍艦らしい人材たちも私がスカウトした金の卵たちを。
ネルガルは組織ですし社交事例ということで」

「プロスが好きそうなことですね〜、いーですよ。
あれ?艦長はまたいないみたいですけど」

「ははは、ブリッジから飛び出してしまってパイロットにまだ・・・はぁ性格も考慮すべきでしたかね?
ともかく艦長を呼び戻します」

「私が伝えます。オモイカネ、出力最大で嫌がらせしちゃって?」

『規制解除?了解、承認をネルガル最高権限より確認』

目の前に相対しつづけるウィンドウに回り込まれて、今ごろ困ってるだろう。
これはナデシコ内でしか使えない取れない目隠しだが、絶大の効果あるので設計時に規制。

アキトと離されて恨まれたかな?

「いーですか艦長、至急ブリッジにお戻りください。
はい・・・くれぐれも遅れずに職務復帰お願いします」

「えーん、アキトと話せないし顔も見えないなんてー」

「大人しくブリッジに戻ってくれたらしませんでしたよ、プロスさんが嘆いてるから」

「アキナさん。私は物事を円滑にすすめることには賛成ですが些か・・・目の前、目隠し強制は
艦長には可哀相ですなあ。はぁ・・・あの兄にこの妹ありですね」

「エリナに教わったんだけど」

「世話して貰っていたんですよねアキナさん、これは大人として忠告しておきますが
あの人たちを兄、姉と慕うようになっては女の子失格です。
・・・棘のある女性は勘弁願いたいものです」

「(それが本音?プロス結構苦労してるね。これからもずっとエリナとアカツキに泣かされるよ)」

「あ・・・あはは、お兄ちゃんは女の子に優しいから」

ぽりぽり頬かく手、その甲にはナノマシンの証、雪の結晶のようにも華のようにも見える。
いつのまにか着いてた艦橋には、怠慢と遅刻で説教されてる艦長がいた。

「あれあれ?あなたパイロットじゃなかったっけ?・・・でもえーとアカツキさんはプロスペクターさんや
ゴートさんと一緒で社員でしたよね」

「そうですが、アキナさんについてはホシノさんの実務補佐という形になります」

「オモイカネがいますが、いったい何をするんでしょうか?」

はじめてアキナを間近で見てみると手の甲のインターフェイス、そして目の色にわからないものを感じた。
わたしとおなじ?
でも、金糸銀眼がマシンチャイルドの決定打ではないはず。観察していくことを決めた。


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ため息してじっと見ているアキナの書置き。

『密かに進めていた休暇奪取作戦をエリナに暴露してしまいました、ゴメンね?
でもお兄ちゃんがいけないんだよ、私がナデシコで火星行くのギリギリまで理由つけて引き止めたから』

はあ

『だから、オシオキしておいてエリナ。あと帰ってきたら風月堂の甘味、それと・・』

ふう

『あとで、だから、ラピ・・・あ、あははごめん。なるべくはやく帰ってくるから勝手なことしないでね?
じゃないとミチカちゃんとかリナちゃんに浮気チクってあげるからねー』

は・・・あ、あはははははは

「ねぇ、エリナくん。彼女はどうして僕の事を僕以上に知ってるんだろう?
やっぱり腹違いとはいえ兄弟なのかなぁ〜?はぁ〜〜心配だなぁ〜〜、うんっ、やっぱりナデシコに行くぞ!!
アキナ、悪い男に引っかかってないかな〜シークレットサービス付けただけじゃ心配だよ」

「駄目ですっ!!!それより仕事してください、溜まった書類に目を通す!
逃亡を計画していたなんて椅子寄越しなさいよ!会長!さぁこちらにもまだまだ沢山ありますから」

「はぁ・・・確か僕って嫌われてないよね?ああ、勘違いしないでくれエリナ君なんかじゃなくてアキナ」

ゴツッ
書類の束で出る音じゃなかった、血がぴゅーぴゅーでてるし。

「コラ。あんたのよーな優男の妹でしょ、しかも実の。
嫌われて当然です。はい♪」

「そんなぁー、面白がってない?」

「そんなことはありません、会長なんです。
立派に仕事こなしてくれれば尊敬しますし、裏から仕掛けたりは・・しますが、頑張ってください♪」

殺人未遂して本当に嬉しそうに微笑むエリナ、げんなりとしつつ書類に向かう。赤い。
そんな風に秘書にこき使われる会長っていったい・・・。

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