第二章

ふたりのカスール










食卓にて




目を剥いて驚いている者は意外にも一人も居なかった、だがそれは無条件にパシフィカの言葉を信じている一人と
その他全員で疑いと困惑の視線だったりする。獣姫は廃棄王女とフゥーッ、と猫の喧嘩のように激しく火花散らしているし、
微笑むシャノンに困惑する女性たちはラクウェルに話し掛け、また戸惑う。

一方じろじろと見られている二人はと言うと、苛立ち落ち着きなく居心地悪そうにして
もう一人はのんびりとごはんを食べてお茶をすすって、質問にも適当に相槌をうち笑顔を見せていた。



「何よ!?私が嘘ついてるって、そんな事して何になるの?」

「さっきまで口裏合わせしていたんじゃないか?三人だけで、お前が何を企んでこんな事させているのか分かってる」

「本当にわからずやで、頭が固いんだから・・・第一分かってるって、何が、どう、在りもしない私の悪巧みを作って」

「ですから私の知識の範囲には、遺物の一つや二つでは出来ない事柄と〜・・・聞いてます?」

「俺は違う、中身は向こうだ知らん。おいラクウェル?」

「はい?あ、そうですけど確かに入れ替わっているんですよ。私がこう言ってるんだから間違い有りません」



黙々と食べている人間はいない中で、昨夜の騒ぎの事情聴取なんて出来ない。
それを理解している私は・・・

人を殺めず、大切にしているその思いをシャノンは守り通した。
私はどうしてもそこまで純粋にはなれなかった、完全には信じられなかった。
家族への思いは同じくらいあると思う、けれど巨大な魔力持つ私は・・・彼とは違い、諦めを認めてしまう。
だから私は密かに憧れを抱いていた。

・・・会話に参加せずじっと見ていたかった、『監視するもの』とまでは言わなくても、ずっと、ずっとこうしたかった。



「ラクウェル姉、そんなに気にしないでいいから」

「何を?」

「何をって、シャノン兄の嫌いなものなんて生理的なものなんかじゃないから、ほーんと子どもの我侭みたいな理由で」

「こら、それはタマゴ偏執狂のお前が言う言葉かあ〜」

「なぁにぃする〜、うっ・・・卑怯者、ラクウェル姉の顔に反撃できないと」

「くく」

「ふふ」

「シャノン、苛めないの」



諌める声に、シャノンが頬から手を離すとパシフィカは頬を撫でながらラクウェルの元へ移動し
背に逃げ込み安全確保をしてから、肩から様子を窺ってあっかんべーと挑発をした。
それを見てムスッとしてしまったシャノン。
実に微笑ましい家族像だと思った客人たちは和み、当面の問題を一瞬すべて忘れてしまった。



「・・・姉ぇ、その」

「あら?なに?」

「ううん」



振り返り微笑む兄の顔に俯き、なんでもないよと首を振る。
それでもやはり、いつもと違う家族の在りかたにパシフィカは戸惑っていた。

でも折角なので、いつもは言えない事を耳元で言ってみたり擦り寄って甘えてみたりした。
いつもはこの後すぐに気恥ずかしさから誤魔化してしまうが、相手がラクウェルなので思いっきり抱きついてもいいのだ。

食後の熱いお茶をすする姿が似合いの人物は、御冠の御様子で。
ちょっとだけ、罪悪感を抱いたパシフィカだったが
今何が出来るかと言えば、こうなった原因を探るために一人一人問い掛けていくのが先決。



「レオは何か憶えてないの?」

「はぁ・・・」

「くく、こいつ(酒)弱いんだぜ。あたしが思うにお姫様より初心な騎士のタマゴなんて」

「そう苛めないでくださいよ、不甲斐ないことに昨日はこの酒鬼に無理矢理ごくごくと」

「あー、あー、そう。・・・この二人はあてにならない、と。
次は・・・最後まで起きていたのは、確かラクウェル姉よね?」

「ごめんなさい、私もお酒のことしか」

「・・・えーごほん、まぁ仕方ないわね」

「・・・」

「何よ?言いたいことがあったら言えばいい、むすっとして。あんなに慌ててたのは誰?
私が誰のためを思って、こうして一筋縄では行かない人たちに事情聴取をしてると思って」

「ラクウェルのためで、ついでに俺のため?」

「半分ずつ正解じゃないかな?」

「またわからないことを言う、本当は楽しんでるんじゃないのか?」



また、言い争い始めた二人。
どうやら先ほどからラクウェルとばかりスキンシップしているのが気にくわないらしい。
だが何故かパシフィカには伝わらず、ただ不思議そうな表情をするだけだったので
一方的に機嫌悪化させたシャノンがネチネチと絡む、二度目なのでそれは放って置かれた。



「お茶がおいし、ところで二人とも原因究明は出来た?」

「あのー?」

「何でしょう?」

「少し気になったことがありまして、お二人に渡したお土産のなんですけど」

「えーとその私にくれた綺麗な宝石と、シャノンへ剣・・・あれが?
魔法の類、それも長期間の呪術かけられたなら・・・可能性はあるけど」

「もしかしたら・・・ですけど」

「何?あれはそんなものだったか?適当に国の宝庫から持ってきて、お前も何も言わなかったから」

「私全て知ってるわけじゃありません、姫様に追いついていくのがやっとです。
軍人の端くれですけど、まだまだ若くて教えて貰えないことのほうが多いんですよ」

「そうか?」

「そうですよ」

「すると、あの二つに原因が・・・剣はあるけど」

「あった、あら宝石は何処?台座の指輪だけよ」

「ないな・・・剣は関係ないかもしれないな、宝石は対になるものが存在していたはずだから
もう片方は見つからなかったから持ってこなかったが帰って調べるか」

「もとは二つで一つ?ということですか、なら一つだけ何かのきっかけで使ってしまったとするなら」

「何が起こっても不思議じゃないということか・・・」



獣姫との会話で昨日の出来事を順を追って確認していくと、どうやら土産の一つに特別な物が混ざっていたらしい。
消滅した宝石の謎をとくために、急ぎ帰国して貰うことになった。



「それでは、なるべく早く帰ってきます。捜してどんな曰くある物なのか早く調べませんと」

「と言うことだ。はやく戻りたいのなら一緒に来ないか?」

「それは遠慮する、お前の国に観光に行くほど暇じゃあないしパシフィカを一人置いていくわけにはいかない。
頼んだぞ?吉報を一刻も早く届けてくれ、少しラクウェルの様子が気になっていてな・・・」

「そうか仕方ないな次に会うまで精々女を楽しんでいろ、お前の性分だと苦労するだろうからな。
っと、そうだ。ラクウェルにまた酒酌み交わそうと伝えてくれ、楽しかったぞ」

「楽しかった、のか?そーか」



くくく、ふふふ、と怖い笑い方をする女傑が二人。
さすがのレオもパシフィカのことは任せてくださいと言える雰囲気ではなかった。
最悪の見送りになったが、しかしセーネスと二人きりで話したいことがあったパシフィカは
みんなと別れて街道への近道を走った。何度目かの茂みを出ると、小川の橋を渡る一行に追いつく。



「あら?」

「はぁ、まって、ふぅ・・セーネス?」

「やはり全力で追いかけてきたようだな、さっき何か話したがっていたろう?先に行ってろ」

「はい。お待ちしてましょうか?」

「無用」

「ありがとう」

「・・・で?なに用か?」

「・・・うん・・・その」

「考えるより先に行動したのか、まぁ二人に関することだしお前も家族を大切にするカスールの一員らしいな」



察してくれるのは意外だった、見透かされているとなるとパシフィカとしては大変だ。
真剣に一刻も早くふたりを元に戻す方法を見つけてきて欲しい、と態々こうして頼み込みに来たのだから。
こちらから頼むと言うことは借りを作るようなもの、わかっていても自分ができる最大限の事はこのぐらいなのだ。
終わってから、もしセーネスが何を言い出しても静観を余儀なくされる場面があるとしても。



「なら二人共とは言わん、片方だけでも私に譲ってくれないか?わたしは武勇もつシャノンが好みだが
酒のみ交わしてラクウェルも気に入った。今度のことは政務を一時放棄しないと無理だ、あの巨大な
どれだけ何が入ってるのか誰も知らない宝物庫から探しだしてくるのは」

「なによ原因は」

「・・・冗談だ、本人の意思を尊重する。
全てが分かってまだ二人が戻れないのなら責任は取ろう、私もそれを望んでいるのだ。
ひとつ断っておくが、企んでこんな変な状態にはしたりしない。
お前を使って世界を望んだのも、それには理由があり確信があり正しいと信じていたからだ」

「そう、でも責任ってどんな方法があるのよ・・・」

「・・・ははは、お前はどっちが大切なんだ?心か体か、シャノンかラクウェルか。
・・・今は両方一片というわけにはいかないから悩んで二人とも手元に置いておきたいのか?」

「なによ悪い?そーよ妹なんですからね」

「いや、私も出来るなら二人とも欲しいと思っている。ではな」

「あ、ちょっとまだ」

馬に乗り駆けて行ってしまった、思い通りには行かなかったのでパシフィカは肩を落とした。
今回の件に関しては当事者で無いゆえのため息ばかり出てしまう。
心配する相手は唯一無二の二人で、それぞれへの配慮の仕方を入れ替えないといけないのがまた複雑化させていた。












帰国の途についた二人、まだ信じきれず騙されているような気持ちを引きずっていたが
かつて巻き込んだ相手に必死に頼み込まれれば無碍には出来ない、あの二人が妹姫に接する態度で本能的には理解できていた。



「信じてらっしゃるんですか?」

「我々にあの姫様が頼みごとしてまで得るものはない、損得勘定するまでもないことだ。
それに二人を元に戻せば恩を売れるぞ、愉快なことだな、二人のカスールを家族とするあの姫様。
邪魔せず大人しくしてくれれば、私は説得できる自信があるし、姫様も二人には従い譲ってくれるさ・・・はやく
帰って家捜しするか」

「はぁ、しかし二人とも若く戦力となってくれるでしょうか?
強いことは何度も聞き知っていますがどれだけの増強効果が期待できるのか、冷静に判断したいと」

「経験ではわが国に勝てるものは居ないだろう、共にとまでは行かないが託宣に立ち向かった戦友だ。
魔法研究ではラクウェル、そしてあのシャノンは将として私も気に入ってる能力が・・・なんだその笑いは?」

「いえ」



ギクシャクとしてないか、そんな心配してシャノンを訪ねたと思っていた従者。
もしかして廃棄王女も独り立ちし新たな道を探していると思い、双子のカスールの戦力を得れたらと士官の話もしに
来たのに姫様は存分に酒盛りして満足されてる、ちょっとは国のお仕事の話してくれたのかな?
しかし今ここで私に説明されてる様子を見ると話しづらかったかもしれない、あの三人は強固な絆があり間に入る術
はないのだ。



「本当にあの指輪にそんな力があるとは思えないんですけど、直感ですけど」

「頼りにならないな」

「そんなあ、私も楽しんじゃいましたけど色々と用意してきたんですよ。
資料の他にはあれ?・・・あれ?武具一式がありませんっ、ちゃんと出るときに確認してなかったから・・・」

「何処かに落としたか、まぁたいした物じゃない。重たいし荷が軽くなって丁度いい。先いくぞ」



馬を駆って行く、元気有り余るその後を追いかけて街道を進んでいった。
意気込んで帰国したセーネスは、まず手近に居た数名の者たちを伴って倉庫に行こうとした。



「あの申し訳ありませんがこの先には立ち入りが」

「私が許可する、それに少しは信頼のおけると見込んだのだ。よいから付いて来い」

「ああっ、待ってください。姫さま早すぎますよっ、まだ用意出来てないんです」

「書類なんて順次作製するれば、そうだな・・・お前と」

「私ですか?はい」

「女はこいつに従って、あとの者はここからこんな・・・」



寝室に戻ったときに取ってきた自分の滅多に身に付けぬ宝飾品、その中から
カスール家でなくした物と似ているものを選んできた。指でつまみ掲げて示す。



「これより少し大きめの、宝石を捜せ。いいな?」



数時間後・・・。



「誰がここをこんな風にしたんだ、責任者は誰だ!?出て来い!
ぶった切ってやる、それにどうしてこんなに暗いのだ?窓はないのか?錆付いている?破壊しろ。
もうここは閉鎖どころか更地にしてやりたい気分だ」

「うわっ、危ないですよー。それに責任者なんていませんよ、ごほっごほごほ・・埃すごいですねー。掃除しないと」

「はぁ?」

「ここは代々王族の方々以外立ち入りを禁止されておりましたので、誰もこんな様子になっているとは・・・」



山積みになった武器と宝石箱、そのひとつに腰掛けた。
壊された窓からの光にキラリと黄金が輝く、だっだ広い部屋の中はしかし埃で大部分朽ちている様でもあった。



「そうだな・・・こんな適当に宝を山積みにして、誰に見られたら恥だからな。
それに細々した仕事など性似合わん、父上も国防に力入れて日々軍隊指揮に忙しかっただろう」

「だからスペースが足りなくなると新しく建設してたんですね、寝室を飾るなんてこと
していらっしゃらないご様子でしたし、質実剛健と思って感心していたんですけどショックです。
・・・姫さま?聞いてます?これらは何処へお持ちしましょう?」

「回想に水をさすな、それは・・・・・・王座にでも積んでおけ、興味ない」



昔懐かしむ姫と、侍従長は清掃要員として屈強な衛兵を使って宝物整理に精を出し始める。
一つ一つの価値はかなりのものばかりだが、ここ数代の王は文化にはまったく明るくないので地方から貢ぎ物として
納められた重要書物も虫に食われ欠損物が多かった。
しかし、まったく凄い光景だ。
荒くれ者揃いの盗賊さえもう少しマシな貯め込み方をするだろう、ここまで杜撰な宝物庫の状態を国民に知られたら
王族の威信は地に落ちる・・・かもしれない。いやしかし女性でありながらあまりの無骨さに忠誠を誓う軍人が出る
かもしれない。












「あれから数日経つが、まだ・・・なのか?」

「ええっと、まだ第二倉庫群の一角が封鎖されるという状況が起こり
この遅延が響いて天候も手伝って未だ・・・それに全体の作業効率を考えますと」

「ふむ」

「限られた口の堅い衛兵だけでは期限内には」



ひとつの倉庫からは壊れた大砲が見つかり、しかし危険な液体が漏れているのが確認され
大きすぎ重すぎることも手伝って、対策が立てられるまで閉鎖が決まったと知らされたのが昨日の夕刻。
今朝は、この季節のこの地方のこの天候に苛立っていると
大量の雨によって、橋や街道だけでなく港に山野・・・各地から被害と救援届が大量に届いた。


「停滞してるな・・・」

「そうですね」

「魔道の専門家は呼んでも来れないか」

「はい、軍でも今年は街道の整備に手が回りません。
被害はいつもより四割増とまではいきませんが、私の知る限り最高です」

「そうか、延びそうだな。王女はどうしているだろうな、ふぅ・・・」



外で軍事訓練するにもいかない。
民の目からは、軍は損壊した建造物の復旧に力を入れるべき季節、地味な土木工事を嫌い他の将軍に任せていた。
慰問と視察は重要な事柄と理解している、しかし経済活動も鈍る季節なので愚痴ばかり聞く羽目になり実に忍耐強く
我慢しなければならなかった。
アンニュイなセーネスは恨めしそうに曇から落ちてくる大粒の水滴を、そして空を見つめた。






草原の小道



「獲物かかってるといいわねー」

「うーん、どうだろ雨上がりだし私は魚と香草の葉っぱでお昼できたらいいなー」

ラクウェル兄と狩りに来ていた。このあたり一帯は王家から与えられた領地で、森を開拓してカスールの家も畑も
つくったばかりだ。まだ川が何処を流れているのかぐらいしか知らない。
詳細な地図があるわけでないので資源探索を兼ねてこうして二人、もしくは三人で狩りをしていた。
時たまに、近辺の人間が薬草を取りに来ていたりするが争い事などなく長閑なところだ。

「シャノンどうしてるかしらね、大丈夫かしら」

「ほんとに登城しなくて良かったの?
ラクウェル姉がいつも魔法教えてるんでしょ、シャノン兄に分かるのかなー
あっ、今はシャノン姉でラクウェル兄だったね。でも言いにくいや・・・うまくやってればいーけど」

「別に失敗してもいいのよ、ほんの少しだけ実演して後は歓談やお茶頂くだけだったし初歩だから簡単よ。
いつも楽しくお話してそのあと街で買い物して帰ってくるだけだもの。
シャノンが大変なのはお喋りかしらね、あとそうね・・・男の人に誘われたりしたらどうするのかしら?」

「フフフって、シャノン兄の顔で笑わないでよぅなんかー抜けてくー元気とか頑張るぞって言うやる気とか
んー、美人だもんねー男の人に、ええっ!?あー、あの分からず屋がひと暴れしそうかも」

「シャノン姉って呼んで上げなさい、女の子なんだから」

「えー。じゃラクウェル兄って・・・やっぱり言うの?」

「うふふ、それいいわね」

籠に縄、そして刃物一式を持っている見た目いつもと変わらない兄だが中身はラクウェル姉だ。
姉にそれが使えるのか疑問だったが、釣りにしましょうと言われてほっとした。
のんびりとできそうだ。

以前と言ってもかなり前だ、シャノンが青年の入り口少年と呼べる成長期に一度大型草食動物を狩りに
父と出て行って、帰ってきた時は肉食動物二匹と薬草に変わっていたことがあってから性格が太公望でも
行動は狩人だった兄を男性と見るようになった。それまでこんなことができるのだと知らなかった。
でもあと何故か、野ウサギがついて来て家の近くの丘に住み着いたので、シャノンが飼うことになった。

「ラクウェル姉の姿で喧嘩しないで欲しいな、乱暴なんだから」

「面白そうね」

「とか言って笑うし、本当に大丈夫かなー」

「でもいつも私が悪戯してるから気にしなくていいのに、シャノンもパシフィカだって止めるから」

「それは・・・突然だから心臓に悪いの、シャノン兄は手を出すと言うのがしっくりくるけど
ラクウェル姉はぽわわんと手を下すんだもん。ごく稀にだけど」

到着した魚のよくいる所は水量が増していた、釣果に期待できないようなので山菜取りにまわることになったが
二人は別行動をとることになる。

「買い物は私の仕事で街ばかりだったでしょ、家の近くなのに知らないことの方が多いから」

「うん」

「だからね散歩してきていい?」

「うー・・・私と」

森や草原に三人揃って来るときは仲よく、二人だって仲よく行動していたがラクウェル単独はない。
シャノンが遅くまで獲物追う時はパシフィカは無理矢理ついて行って、ケガして帰って父親に怒られた。
だからラクウェル姉が本当に楽しそうにしていると思うと引き止めれなかった。

「お昼までにここに来てね、ラクウェル姉わたしは釣りして大物持ってくるから」

「ええとじゃあ私は大きな熊さんを見つけてくるわ」

それはさすがに家の近くには生息してないと思うよ。パシフィカはそんなずれたことを言う姉に文句言えず
いつもなら兄に突っかかっていく所なのだが・・・調子狂うなぁと以前教えてくれた他の釣りポイントへ行く。

一方、別れてから一時間もたたないうちに目茶目茶遠くに進んでいたラクウェルは泉を見つけていた。
ここはもう地形がかなり違っている。
青い山が近くに迫り木は鬱蒼として、背の高い木のまわりには何かわからない植物がふわふわと飛んでいる。
キノコ胞子にも見える。手の籠には妙な形の草が入っていた、残念ながらかわいい熊さんは見つからなかったようだ。

「ああ途中で見かけたの持って帰りたかったな」

いわくありそうな人面岩とか、お庭に植えておきたいトラビュット種の若木とか。

木の枝など靴の汚れを落として汗を拭いた、泉のほとりで休憩をとる。
ここは水飲みに森の動物が来ているようで獣道が幾つかあった、進むとしたら目指す大きな熊さんなら
馬車道並に広いのを選べばいいはず、あとで話したらそんなに大きな動物はいないと信じてくれなかった。

進むと草原に出た。
緑と赤の人影が居た、スーピイくん?

「あなたも薬草とりに来たんですか?」

「えっとそう、これだけ」

違った。ちょっと背の高い女の子だった。見たことない服装は民族衣装だろうか。
けっこう似合っている・・・・かわいい。

「見たことないのばかり変わってるね、お兄さんは何処から来たの?
私は昨日からここにいるけど南の村から歩いて来たけど、ほら見ていいのばかり取れるのよここ」

そう言って見せてくれたのは確かに、有名な薬の材料にもなる貴重な草の根などいいものばかり物欲しそうに見えたの
か一つ譲ってくれた。シャノンもこうして人に何か譲ってもらうのだろうか、もうそんな年でないしパシフィカに言わ
せるなら爺で女の子にもてるはずない。
ちょっと気になったのは、一人でここに来てるのかということだ獣道ばかりで動物は多いのに、護身に武器ひとつでも
持っている様子ない。話してみると今は村長に世話になってるという、親は二人とも数年前に亡くなったらしい。
私が騎士だと知ると見えないねーと言われてしまったので、シャノンがしてきた数々の武勇を聞かせたけど納得しても
らえなかった。自慢話でないけど幼い子ならともかく、この位の女の子ではカッコいいところ見せようとしてるだけに
見えても仕方ないか。

「でも面白いね」

「そう良かった」

「だってそうだよ大の男が狩りじゃなくて、山菜取りにさ。来ないでしょ普通、連れでもいるのかと思ったけど
何か動物でも追いかけて来たの?」

「ええっと、熊なんて出ない?」

「このあたりは出て精々オオカミくらいよ。私は捕まえれるよ、罠もそうだけど弓でね。
今は持ってないけど小動物なら何度か捕まえたことあるもの」

そう言えばもうそろそろお昼だ。
パシフィカには行けないなら何処で無事なら、信号をしないと怒るからねと怒っていた。

「ちょっと小高いところ知らない?かなり離れてるから妹に知らせないと」

「妹さんなんだ。へぇ仲良し?いいよ着いて来て、それにしても変なひとだよねー
あなたとても優しそうで騎士なんて見えない。ところで何か燃やすなら協力するけど、合図はどんな」

「魔法で伝えるから」

「魔法が使えるの!?すごい初めて会ったよ、私ね街に出てく機会ある村長さんに聞くだけなのよ」

その日はそれで別れた。
彼女にはシャノンカスールと名前だけ伝えて、パシフィカへの魔法打ち上げを餞別に派手なのを見せてあげた。




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