悲しい窓辺
長い黒髪を後ろで髪を纏め上げてシンジが、淡いオレンジ色のエプロンを着こんで料理をつくっている。
夕闇なので部屋が暗い、壁についているスイッチを触って蛍光灯をつける。まだ、帰ってこない彼女の夫は今ちょうどネルフを出たところ
だろうか?いとおしい彼のために腕を振るって食卓を彩る、リビングでは彼女の娘がこども番組を見てキャキャとはしゃいでいる。
ありえたかもしれないそんな日常・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ぅ、うわぁぁぁぁ・・・・・」
ガバッ、っと布団を跳ね除けて息荒く額に手をやる。
「ぅぅぅ・・・・」
涙が止めどもなく溢れ出してきて、彼女の瞳を紅く染め上げる悲しい水が流れつづける。
「・・・・ごめんね」
誰ともなくあやまる、もう夢、幻しかない彼女の最後の願いとも言える幸せ・・・・それは儚かった。

悲しい窓辺2
「ママ?大丈夫?」
「大丈夫よ、まだそんなに疲れていないわ」
気丈にも微笑んで答える、いとおしい娘のために。心優しい彼女に心配はかけられない、きっと私の傍で眠ってくれるだろうから・・・
「でもちょっと疲れたから、一緒にお風呂入ろうか?」
「うんっ」
娘の着替えと自分のを持って浴室に向かった。
「ママ、ママの体洗ってあげる」
「そう、でもママ自分で洗えるわ。貴方は自分で洗える?」
私のことを大切にしてくれる彼女、血のつながり・・・それに保証されていても私は嬉しかった。
「うんっ、洗えるよ」
ごしごしと背中を洗ってくれる彼女、いつも一緒にいたはずなのに肌が触れ合うことがこれほど重要だと今思い知らされた。
「ママ、また増えてるよぉ・・・ぐずっ」
「あ、泣かないでっ・・・ごめんね、ママが悪いからね。酷いママだよね・・・ごめんね」
「ううん、ママは悪くないよ。私のこと大切にしてくれるもんっ、きっと良いことあるよっ、先生がいってたもんっ」
「そう、ありがと。ママ嬉しいわ、貴方にそういってもらえて」
それだけで私は生きていける、ヒトでいられる。
悲しい窓辺
「まったくすいません、御迷惑ばかりかけて」
「ママッ、私悪くないよっ」
「謝りなさい、ママを困らせないで。お願い」
頼み込むママ、いやこんなママみたくない!いつも笑っていて私の大好きな笑顔で。
「!!・・・ママいいよっ、私謝る」

「ごめんなさい」

痛いホンバコ
「ねぇ、どうして彼をいじめるの?彼が何かあなたに悪いことしたの?」
誰かが言った言葉、私には何の意味もない言葉だった。そう・・・だって・・
「だって、大事な家族だから。血のつながりはなくてもね?」
その中に私は入っていないんでしょ?そう皮肉った。
「それしか才能を持っていないのよ、彼の処世術なのよ。今はね」
だからって私を捨てないで!頑張ってきたのよ!ねぇ!
「臆病?優しい?そうゆう性格なのよ、どっちなのかは分からないけどね?」
臆病なだけじゃない!そんなの、欺瞞よ!


ホントに?


「君から何も話してくれないじゃない!感謝さえもしてくれないじゃないか!」
そんなこと・・・ないわよ。
「傲慢なのね、あなた」
あんたなんかにいわれたくないわよ!わたしのどこが“傲慢”なのよ!
「子供なのよ、感情をコントロールできないしね」
ちがう!私はもう大人よ!嘘吐きばかりじゃない、あんたたちなんて!
「それが大人なのよ、そういうものなのよ。あなたもいつまでも夢を見てないで!」
それはあんたのことでしょ!私は違う!
「ただ、与えられることに貪欲なんでしょ?誰にも、何も、あげたくないんでしょ?」
そんなこと関係ない!今までだってそうしてきたんだから。


でも、明日からは・・・


「あんた、用済みのよ。ごめんね、バイバイ」
なによ・・・家族じゃなかったの?これだから大人って・・・
「あなた、誰?」
人形・・・なのかな?私って・・・
「そういえば、見かけないわね」
私の代わりなんて、いない・・わよ・・・でも・・・
「あれ、まだいたの?でていくんでしょ、だって・・・できないから」
くっ、だれがあんたなんかに。あんたとだけは絶対に、


大嫌い、だれが?


「好きだよ」
嘘、そんなバカなこと・・
「好きよ、だれより」
そんなことない!だって、あんたは。
「好きよ、私の大事な・・」
その続きを知りたい・・・お願い教えて。
「お人形さん?」
いやぁぁぁぁぁっ、来ないで!
「あなた以外はすべて、えたいの知れない・・」
知りたくなかった・・・そんなこと。
「他人なのよ」
そう・・なの?


こんな世界、イヤよ!


「ホントに何もなかったの?」
そうよ、誰も・・・
「彼女は?」
誰のこと?ヒカリ?泣かないで!
「どうしてっ、よぉ・・・・どうして!?」
ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい・・・・
「悲しいことだけだったの?」
それは違う・・でも、ホントに良いことなんて
「じゃ、こんな世界は・・この人もいらないのね」


パンッ、銃声。


「助けて・・」
ヒカリ・・ヒカリ・・・・死なないでよぉ。


パンッ、パンッ、パンッ


「・・・・・」
イヤァァァッ、なんてことするのよ!
「いらないものは消すしかないわ」
ヒカリは必要なのよ、私にとって!
「じゃ、貴方は自分にとって都合の良い世界を望むのね?」
それは誰だってそうでしょ?
「今までのすべては夢・・・幻だった?」
それは・・・そんなこと・・・
「夢はいつか覚め、どこまでね荒野が広がる大地が貴方の瞳にうつる」
どうしたらいいの、私は・・
「そこに立つ時、人にとって必要なことはただひとつ」
一人じゃ、イヤ・・そう一人きりなんて・・
「隣に、周りに貴方の望む人々が居たのなら・」
きっと、また明日があるって信じられると思う。それがどれだけ儚い希望でも・・
「そう、生きようとする気持ちがあれば」
ずっと、人はこの星で生きて行けるのね?
「わかったようね、この先どんなことが貴方を待ち構えているのか」
そんなこと、わかるわけない。
「それが当たり前なのよ、だから今を、自分を、しっかり持って」
生きるのね?
「そうよ」