02




    走馬灯という悪夢を見た。
    見慣れた液晶、向こう側から小さな手が何本も出てきて千雨を引っ張り込む。

    そして、長谷川千雨という少女は死んだのだ。






    「どこだよ、ここ?」








    そして次の場面では、いつのまにか薄暗い山地とわかる崖の上に立っていた。
    ちらほら残雪もあることからかなりの高山らしい。
    確か、自分はネットしていたはずだ。
    はずなんだが、そうは思えない・・・・・・素っ裸だし、寒くないので夢だと思っていた。思っていたかった。

    物語は進む。
    はじめてみたドラゴン、魔物というべき姿の化け物たち。

    流されるまま・・・・・・・・RPGな世界で、何かの手違いで『魔女』やることになってました。
    『魔法少女』を希望したのに『魔女』扱いになったのは私の性格に問題ありだって。コロス。
    そう言った『魔王』は病的なやせた男にしか見えない。







    「ああ、生贄になった君の肉体は消滅してるはずだ。
    精神が『真実の羽根』より重ければ『魔女』の肉体に宿る、滅びることの無い体。
    呪いを、災厄をふりまくのだっ!わっはははは・・・・・」

    「なんだそれ。
    とにかくさっさと元の世界に返せよ、信じれるか。こら」

    「さすが最悪の精神、古き邪神も趣味がいい。
    本当に口が悪い。穢れた乙女。
    ああ、そうだ。言い忘れていたがお前には魔力を与えたぁ・ぅっうう、あっ、はなせっえっ、えっ、えっ」

    魔王の襟首つかんでガクガク揺する。

    「おいおい魔法が使えるのか?わたしってばリリカル」


    年頃の女の子らしいファンタジー要素満点の『実は善良な』『悪』ヒロインのオファーだったとは、常識者のちう様も
    美味しいキャラクターならハメをはずしちゃうぜ。
    ヘッドハンティングの素質がある『魔王』だ、と思ってたら次の言葉で切れました。


    「違う、君には俺のパートナーとしてだな。
    そのなぁ・・。
    あのな。
    つまり花嫁として強くて逞しくて相応しィーッ!裏ボスッ!美しいッ!この魅惑的で悪魔系のスーツで男どもを支配ッ!」

    「このぉっ、ドM魔王がぁっ!!!」








    結局『魔女』を役目をまっとうしつつ『現実世界』へと帰宅する方法を探す破目になったわけだ。
    アホ魔王を倒してしまった私、さっさと手抜きエンディングになってくれると思ったのにゲームバランスが崩れ去ったと言われた。

    さらにアホなことに執務室にチャート図が・・・・。
    ゲーム作った神・プログラマーは何を考えてバッドエンド・レ・バッドプロローグに『魔女に倒された魔王』があるんだよ。
    『魔王』って普通ラスボスで三段変化はする宇宙人でしょ?
    わたしが規格外の存在『魔女』でもさ。
    至近距離で、目覚めたばかりで力のコントロール知らない全開のを食らっては駄目なんですか。遺言がアレだったし・・・・。





    「うう・・・し・・・・」

    「なんだ弁明でも、はぁはぁっ!あぁぁ・・・疲れた。魔法って便利そうで大変だな。力が抜ける。
    今なら詫びて謝るなら許してやっても」

    「し・・・・シマパン、黒じゃない」

    「ああん?」

    「ぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁオゥ゛!!!ギャーーーッ」





    MPが足りなくて魔法が使えなくたって、ちうには肉体言語があるんだもん。トドメはこれでっ!
    ちうの胸の中で永久の眠りにつけぇっ!
    断末魔をあげる魔王を恐々見守る部下たち、そして私は伝説になった。なるな!ってオイ。

    そして現実へ帰れ・・・・なかった。






    「それじゃ魔王の仕業じゃねーってのかぁっ!?アキレス腱固めでそのままいっけぇぇっ」

    「ギブアップ、折れる、折っ・・・ぐぁっっ!」

    「もうやめてくださいっ。
    千雨さまっ!もうすぐです。
    何度も言ったとおり全員で千雨さまの召喚儀式を執り行った亡き魔王さまの書斎を調査させておりますので、しばらく」

    パタパタと蝙蝠の魔族が止めようとするが無理だった。

    「はがっ、がっぁっっ!?ぉぉぁぁぁぁああああ!!!!」

    「ちっ!落ちたか。
    どいつもこいつも根性が足りないんだ。
    『魔女』の体に傷ひとつ、つけれねーとは」

    「あぁ・・・・それはそうでしょう。
    しかし、闇の森の番人と言われ魔力なら随一の悪魔まで壊されてしまうなんて『肉体言語』はコワイ。
    魔法とは無縁の力が作用してます、我々魔族が武器なしで瀕死とは信じられない。ぉぉぉ・・」





    吸血鬼が泣いて私から逃げていった。

    それから数日後、ちうのストレス解消の八つ当たり受けた魔族が壊滅寸前になる。
    『魔女』の『帰宅イベント』が起こらない原因が判明したのだ。これはこの世界では歴史の転換点として記憶されることになる。

    本来なら『魔王』が健在のまま、プロローグとなるのだが『魔女』が倒してしまう個所に『バグ』が発生して
    この世界の創造神・眠れぬ半眼が『魔王』を『魔女』に兼任させるようにしたらしい。
    魔道書や歴史書が改ざんされた形跡があった。
    そのためか『魔女』のステータス異常がおきているし、敵である千雨がへちょい勇者の成長を誘導したり
    腰抜けの部下どもに特殊アイテムを集めさせては与えてやったりという、ラスボスの役目を押し付けられていた。
    それをしないと魔王が契約し私を召喚したというアホ神が出てこないという。




    「そんな・・・・あなたが敵だったなんて」




    『勇者』がなんか最後は裏切られたとか、言ってたけど知ったこっちゃねーな。
    こちらとらテメェが生まれる前から、数十年の時間を『・・・・・それから○数年の時が過ぎた』という
    ナレーションですまされたんだ。
    ストーリーを一から組み直したストレスで国ひとつ潰したり、息抜きと暇つぶしに正体隠して『王家の魔術院』で学生身分で
    嫌いだった『勉強』したんだから『暇』が悪魔をも殺すのだと理解したぜ。

    それにプログラミングを肉体労働で行うのは疲れんだ。
    創造神よ、バカにして悪かったな。
    あと、エンディングの改心した『魔女』とのラブストーリーシナリオはフラグ折っておいたから。