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    「とりあえず、これでいいか。
    ・・・確か寮生活って二人で一部屋だった気がしたんだが?
    わたしっていつも一人で食べてたよな。だれか居たか・な・・・・・・・・・・そっかザジか」


    明け方に起きてパジャマのまま、朝食代わりにと自販機で売ってた間食系クッキーをかじりつつ鏡を覗いた。
    自らの姿かたちをチェックする。
    『魔女』の外見は千雨の心が認識していた『過去の自分』をあるべき人型に反映する。
    別人だと思われないだろうか。
    背の高さ、脚の長さとかインチキなんてしてない。たぶん。私の心は正直で全うな女の子なんたぜ。
    ごめん嘘ついた。
    髪の質とか肌を、とある長耳の不老長寿系種族に似せている。

    「仕方ないじゃん。
    女なら嫉妬するし、コスプレイヤーならフォトショップ要らなくなる『魔女』になったからには・・・
    って私は誰に言い訳してんだか。小言いう子悪魔はここにはいないんだぞ?」

    まぁ、でも着る服がないのは問題だった。コスプレ衣装も含めて全滅していたから、制服もない。
    パジャマと『魔女』の黒服・・・・このまま外に出たら変人の仲間いり、そんなのごめんだ。

    朝日が窓から入り部屋の中が明るくなってくると壁の不自然な汚れが見えたりと細部の破壊箇所が気になりだした。
    指でそれをなぞって突っついて魔法で修復を施す。
    ゴミは袋に圧縮加工して不自然ではない量と大きさ、重さを調整して玄関先に積んだ。
    量があるので後日、数回に分けて捨てるしかないようだ。




    「片付けないとまずいよなぁ。相部屋なのに、まずい。見られたら口止めしねーと」

    ザジがテント暮らしなのは完全に忘れているようだ。

    「♪〜」

    こういう浮遊と操作の魔法は『現実』で使えると便利だと常々思っていたが楽しいもので鼻歌がでる。
    宙に浮いて整頓されていく物を眺めながら選別もしていく、破壊され尽くしたパソコンの残骸の一部はベッドになって
    しまっていて再生は無理だった。
    魔法でも千雨は直せるし創れるが限度というものがあった。
    『ゲームの世界』では中世程度の簡単な機械しかなかったし、オーパーツは複製に時間がかかったが
    マテリアルも結局は生成できたのだから、パソコンだって作れるだろう。買ったほうが今は早いけど。

    窓の外が騒がしい。
    部屋の中に血のにおいが漂っていたことを改めて思い出し、空気を浄化ついでに風を発生させて窓をあける。
    外を見ると遠くに神楽坂と近衛に引っ張られていくネギ・スプリングフィールドが見えた。非常識と思えたのも懐かしい。

    ああ、そういえば現実にも私の嫌う非常識がたくさんあった。
    そのひとつがこども先生だった。




    「まーたやってんのか。
    久しぶりに見るとあのガキも先生なんてやってて大変なんだな」

    「・・・・」

    「って、おおっ。ザジじゃねーかそんな所でどうしたんだ」

    「鍵閉まってたから」

    「あ、ああっそうか。ちょっと荒れてて・・・入って来られると非常に恥かしいんだが、待ってくれ。
    えーとそれで何か用か?」

    「・・・・?」



    気がつけば、滅多に話さないクラスメイトが木の枝にいた。登ってきたらしい。
    しかも何やら言いたげに部屋の中よりも千雨自身を無表情のまま見ていた。

    殺風景な部屋の中を見せるのも、ゴミ袋の山もまずいことではなかった。
    言い訳ならいくらでも思いつく。
    嘘つき少女、と呼ばれた幼少期。
    成長した少女期のひねくれ具合、そして嘘だらけの魔女時代。

    でも、ネットで荒しにちうがブチ切れてものにあたる癖は知られている。こいつぐらい無口なら安心できる。
    物にあたって破壊、小物なら何度もあった。目覚まし時計とか。ガラスコップとか。
    しばらく睨めっこしていたがスルスルと木をおりて行ってしまった。




    「なんだったんだ?あんな一発で疑われてしまったのだとしたら、学校には化粧でも軽くして行くしかないけど
    どーなんだ?わからん・・・。
    あいつの感覚が理解できなくなってるぞ、前は・・・かなり昔のことになったけど
    わかった気がしていたのにな。時が流れるってヤなもんだな」



    ザジについて考えるのも思えば初めてだった。
    千雨が追い出したわけじゃなかったからと言っても、いまここはちうのプライベート空間になっている。
    突然の訪問客はあいつ以外いないから気にすることが今までは無かったが。

    以前は自然な距離をとっていたけど、今のは不自然だったのかもしれない。
    ・・・・この調子じゃクラスで浮くかもしれない。
    一晩で性格や容姿が変わっていたら誰だって気になるだろう。
    気合はいりすぎた弁当に隣の席から箸がのびてきたが、人間との食事は久しぶりだったので気前よくあげた。


    「杞憂だったかな」

    「なにか言いました?いりますか、癖になるです。
    ミートボールのお礼です」

    「いらねぇよ。ん、なんでもないから気にしないでくれ」


    となりで薬品らしきものを飲んでる少女をランチを誘ったら、ついてきた二人に相槌をうつ。
    確か、早乙女とか言ったほうは私の朝の醜態を馬鹿笑いしてる。


    「あははは。でも面白かったよ。しかも、なに、伊達メガネだったとはねぇ〜?
    美味しいキャラ隠してたなんて酷いなー」

    「ああ、メガネの話か。
    なくしたんだよ。気に入ってたやつだし、今週は無しでいくつもり」

    「何かキッカケがあったね♪これは〜なんだろ〜ラブ臭がしないのが残念だけど」

    目を光らせるハルナ、しげしげと千雨を観察するが無視して黙々と食事するだけにした。
    宮崎のどか、綾瀬夕映も何か千雨を気にしているようだ。

    「ふぅーん、ほぉー・・・・おぅ。んー、びゅーてぃほー。
    でも、というか美人さんだったんだねー。千雨ちゃんって。
    メガネを外して様変わりしたように感じただけかと思ってけど、わたしとキャラかぶっちゃって困る」

    「パル。失礼ですよ、こっちはナチュラルな実力であなたはメガネだって普通に目が悪いだけ」

    「あ、あの・・・長谷川さんって呼んでもかまいませんか」

    「それは普通だろ、クラスメートに何を遠慮してるんだよ。宮崎もどう呼んでもいいよ。
    おいっ勝手に食べるな、って」

    「いいじゃん。
    私のどれでもあげるから」

    「ケチのハルナが珍しいですね。
    わたしのもどーぞ、誘ってもらっておいて迷惑かけるわけには行きません」

    「なら私のも」



    チャームはかけてないが魔王のハーレムに居たサキュバスの相手していたからか、女の子の千雨に対する好感度は
    Maxであることが多かった。一度敵対したシスター相手にもモテて困ったことがあった。
    こいつらとは初対面じゃないけど見栄美人は得だと思っておけばいいのか?
    違うか。
    私がどんな心算で話し掛けたって疑ってもない、友達つくりやすいクラスだったな。
    小さなときのトラウマ、嘘つきの私が自分から距離つくってたから話す機会がなかっただけなんだ。



    「あ、そうです。
    帰りに一緒に買い物に行きませんか?なくしたメガネより気に入るのがあるかもしれないですよ」

    「わりぃ、今日は遠慮してく。
    部屋を整理しなおして探せば見つかるかもしれないからな。じゃぁな」





    メガネか。
    ずいぶん長い間してなかったんだよな、服ばかり気にして再生したの忘れてたな。
    『魔女』って不老不死なのかは知らないけど、視力だって衰えるって事が無いからなぁ・・・・メガネいらねぇ。

    今さら探すのも面倒だぞ。
    ガラスはパソコンの残骸と一緒にテーブルになってる可能性が高いし、ベッドの一部と化しているかも。
    でも私ってメガネしないままだと目立つもんかなー。
    成長しない体はイメージチェンジでフォローするしかないし、変装する時にメガネの有無で印象変えれるし、今はこのままでいくか。