04
すごく乱暴な『帰宅』したときに、大事な携帯電話も大切なキャッシュカードも破壊してしまったので
一文無しだった千雨だが、手に入れた魔法という名前の金貨を使うのは気がひけた。
せっかく『普通』に戻れたのに・・・『魔女』が囁く。
「ばれないって。嫌なら少し人の心を操るくらい楽でしょ、チャームの魔法くらい使っちゃえよ。
金なんていらねぇだろ」
ささやく頭の上を飛ぶ『悪魔』、それに対して『天使』が言う。
「ちうは真っ白なアイドル、みんなの天使だぴょん♪
おねだりしちゃえば、気持ち良くファンのみんなが寄付してくれるよー♪ね?」
腹黒いことを言いながら、未だリアルではパソコンに触っていないが
久しぶりの登場『ネットアイドル』がクロスカウンターを放った。肉体言語を駆使して『魔女』を不意打ち。
「ぐっ、やるな。
ネットアイドル・ちう、死んでなかったか。ネット出来ない異世界に居たのに」
「ふふん、魔法なんてデタラメなものは必要ないの。
現実に帰って来たらネットこそが長谷川千雨のすべてを出しきれる、大活躍できる場所なの。
おまえ、死んじゃえ、です」
こうして悪魔が逝ちゃった結果、貯金をくずすことになる。
銀行に行くと本人確認をされて、とりあえず月末までの資金をおろしてカバンに無造作に突っ込む。
多少、カーテンや椅子などの家具は自作していたけど家電やらお気に入りのコスチュームは買うつもり。
すごく苦労して作ったアイテム、ドレスもあったし高かったスカートも全部、駄目になったことは悲しい。
悲しいがまた集めれば良いし作りだせばいいんだ。
「ふふ・・こんなにドキドキするのは久しぶりだな。自分が完成させたダンジョンで迷って
焦った時以来か、それとも魔法少女コスを変人よばわりされて怒った時か」
裏切りや冷徹な決断をしていた『魔女』なのにへっぽこな所もあったのだ。
しかし今は『ちう』モードであり、可愛いは正義である。
とにかく決意はかつてなく高まっていた、乙女は衣料品売り場という名の戦場へ。
普段どおりなら冷やかして、参考になるなーと思いつつ財布の中身と相談するのだが
今日は一張羅しかない。
空っぽの部屋のラックが私を待っていると考えると手ぶらで帰るわけにはいかなかった。
千雨の華奢な腕は、裁縫が得意で両手にいっぱいの荷物を持つなんて力仕事は嫌いなの。
魔法で少し浮かべて移動して来たけど量が量なので注目されていた。
「ただいまっと」
カギをあける。
入ると、思わず閉めようとしたが、異世界から『帰宅』した朝にザジを締め出してしまったことを思い出した。
鍵はかけないことにした。
完全に追い出してしまったほうが秘密を守りやすいが、学園にそれを問題視されるリスクだってある。
千雨が大暴れしたせいで殺風景になった部屋、招く客も今のところ居ないがあの三人組は来るかもしれない。
防犯はどうかと言えばここはエリア一帯、女子寮は安全な場所でタバコを吸う不審者はいない。
なのに、部屋は微かに煙ったかった。
「こらカモ。
てめ、ちゃんと掃除してたんだろうな。そのジュースわたしのじゃねーか」
「あ、帰ってきやがったな。やいやい自由を返せオイラは」
「戒めよ閉じよ」
「ぐぇっ。締まる、や、ギブっ」
「てめえは反省して学習しろ」
待っていたのは捕獲したイタズラオコジョ、カモだ。
そう名乗った。
逃げないように呪いの首輪、と言っても簡易な部屋から逃げると首がしまるというやつ。掃除させてる。
しゃべる珍しい生物。
ただし、『魔法使い』が実在するというホラ話しばかり話すから一方的に命令したあとは無視してる。
「ちくしょー何で無実のオイラが」
「今日はエサ抜きで逆さ吊りにしてやる、月光に干しておけば獣の魔性が抜けるって
ホラ話を聞いたことがあるし」
「ホラ話!?嘘って分かっててヤルすね!?こんなにも、こんなにも愛らしいオイラにえげつない仕打ち。
なんすかソレは!・・・・・・とんでもねぇ悪魔だぜ。こんな犯罪者並危険人物がマホラにいたなんて」
将来、大悪党まちがいねぇ・・・服の趣味も人相もワリィし、詠唱も杖もなしで魔法もかなりの使い手だぜ。
やべぇよ。
「服の、何だって?」
「なにでもアリマセンよ。
地獄耳だぜ。はやいとこ逃げ出さねぇと、兄貴に悪の魔法使いがいるって伝えてコテンパンに」
「剥製のオートマタになりたいかぁ?
・・・ったくよ」
「ひっひぇぇー!勿論冗談でございます、ご主人さま、お嬢さま。長谷川千雨さま。」
「自分の主人をフルネームで呼ぶな。
イエス、という前に失意体前屈で額を地面に打ち付けろ!
この汚物が、獣が、わたしが生かしてやってるんだ!ほら潰れてろ!あはははははは」
女王様モードの時のテンションは千雨も後で反省するほど酷い。常識人だ、わたしは常識人・・・
でもやっぱりポイッ、と持っていた荷物をカモに投げ潰して沈黙させた。
気持ちを切り替えて、買い込んできた服をひとつひとつ確認しながら整頓していく、その間にも
白壁の殺風景な部屋は魔法で改造されていく。
自在に壁から棒が延びてきて収納棚となり無骨なベッドもコーティングされていく。
元に戻す気はないようだ。
ザジ以外の客がきたり、家庭訪問があれば玄関で押しとどめて卒業までこのまま勝手にするつもりらしい。
これを開き直りという。
「・・・・・・・ぎゃ」
「うーん、これだけ買えばシーズンは乗り切れるな。
生活必需品は学園に注文したし、綾瀬たちとの約束で週末はメガネを買って」
「・・・・・・・ぅぅ、怖ぇ。
うわっ、とと、また天井に落ちっ」
「そっち行くな」
「ぎゃっ、いてーー」
初日にちうがやったように天井に向かって落ちたカモミール。
この部屋では重力制御に慣れないと生きていけない、魔女の部屋。まさに魔の空間。
誰かに部屋を見られたら口をふさがなきゃならない。トリック絵みたいな状態なのだ。
天井に本棚があったり、壁にベッドがあって、床はなにも置かれていなかったり、また重力の境目が
わからないカモがすでに何回も落ちていた。全面に重力制御の魔法をかけた上下感覚の喪失したこの部屋で、
千雨は落ちたカモを掴むとまたベッドにポイ捨てた。
ひょい、と天井に移動するとブドウがまきつくような網を作ってごそごそとポッケから小さないくつか
袋を出す。植物の種が入っている。
水道から水を引き寄せて呪文。
「0100101011111001100101000111、あ、そか0100101010001001100101000111これでよし」
言葉にならない音の羅列を発すると、芽が出て水の玉の中から飛び出て網に果実をつくった。
根っこの部分には水を入れたコップを点滴のように吊り下げて、これで食料は確保である。
魔王城の大回廊には及ばないがこじんまりとした家庭菜園。
経験が生きると言うが、手馴れた様子で不思議部屋つくるのはよしたほうがいい。悪い魔女の婆さんみたいだ。
まだ鍋はないけど。
いいのかこれで、長谷川千雨が好きだったはずのリアルから全力で離れていってるぞ?
「あとはここに乾燥機がわりに風の魔法を閉じ込めて、と。
学校で何かあったときに証人もいるし誤魔化しができないから、はやく友達つくっておかないとな。
あの三人で誰が一番いいかなー他にも探してキープしとかないと、あのとき『学院』で魔法暴走させたのは
未熟だったからだけど。今後、わたしが失敗しないならいいんだけどねぇ。うーん。
あとは・・・・・・そう、狩りだ」
「ここはゴマすって・・・・機嫌よくしとかねぇと。
えっ?狩りですかい?あっしに任せておくんなさせぇ」
お供して外出→逃げ出すチャンス到来っ!
なにを考えたかピーンッとちうの衣服を跳ね除けて復活、にやりと笑って役に立ちますとアピールするカモ。
千雨だって本当はハンティングには犬を連れて行きたかったが、いないものは仕方がない。
逃亡する満々じゃねぇか、バレバレだぞ。
こんな感じで少々問題あるが小間使いはカモでいいだろう。
誰か居るところでしゃべったら舌を抜くぞと脅しをかけたし、腹話術や電子トイだと
どうせ誰も信じたりしない。
今回は『使い魔』の作成、材料には品があって忠誠心ある小動物がいい。
『魔王』の部下にちいさな蝙蝠が居たが、魔女にはやはり猫だろうと一度『使い魔』を作ったことがあった。
「・・・どーしてんのかなアイツ。
口は悪かったけど、自由気ままな猫の癖にいうこと良く聞いたよな〜」
「おっと、ここで二手に分かれたほうが効率いいんじゃねぇですかい」
「そうだな、じゃあ一時間後。
ここに集合な。
・・・・もし来なかったら、狩りじゃなくてお前の駆除になるからな。時間合わせるぞ」
「おっ!?首輪が光った?
げぇ、この数字、時限爆弾じゃねぇでしょーねー!」
「ただのタイマーだ。気にするな」
「ほんとに?ほんとしっかりしてるぜ、にげださねぇって言ってるのに。
ま、兄貴にかかりゃこんなの・・・くくく」
何かまた不審なこと言っていたが気にしていない。
散々、自分が不思議と遭遇したのを棚上げにして『魔法使い』の存在を否定する千雨。
変なところでリアリストなのだ。
まず自分自身という不思議生物に手がかかりきりだから『しゃべるオコジョ』も知ったことではないのだ。
『飛ばない』
道具要らずでふよふよ浮かんでいいのは風船だけなのに。魔法って便利だ。
『消えない』
移動手段が増えたと思えば自宅→教室と一瞬なのが朝はいい。魔法って便利だ。
『壊さない』
戦略級兵器で魚をさばく器用さが必要だが限度がないってすばらしい。魔法って便利だ。
この世界に『生還』してから三原則を決めたのに、守るのは大変だった。
うっとうしいが小言と助言をテレパシーできる使い魔の作成を決めたが
生贄の小動物探索していると、カモとの時間が迫ってきたので帰ってきたがなんだか寮の周辺が騒がしい。
「どこ行った待てっ。このドロボー!
逃がさないんだからーっ!みんな行くぞーっ!」
「長谷川、気をつけてっ」
「なにをだっ、おいっ・・・?おまえら半裸でどこ行くんだよ、ったく」
気合入ってるクラスメイトたちが、武装し出撃して行ったのを唖然と見送った。
「聞いた。あっちに逃げたみたいよ」
「何を突然言ってるのか知らん。
出かけてたから、事情を説明してくれって」
「泥棒、しかも下着ドロ。
今みんなで探してるから二人で探そうよ、一人だと逃げられちゃうでしょ」
下着ドロ?
まさか・・・・・思い当たりすぎて頭痛がする。こんなに早く再犯をするとは。
「あとでな。
急ぎの用事を思い出した」
クラスメイトたちが走り回ってる場所から離れて隠れた、建物のものかげで首輪のキーを取り出す、
アンテナがわりに反応を確認するが『圏外』。なるほど・・・・・たかがオコジョになめられたもんだ。
「あはは、罰はそうだなぁ?
八つ裂き決定だな♪さぁて〜覚悟しろよ〜♪」
探すこと数分、呪いの首輪の鍵が示す方向に二人の知り合いが居た。
ネギ先生と神楽坂がまた仲良くしてる。
その足元に白い目標を発見、ネギが捕まえてくれたようだ。
「ちっ。拾得物って一部を譲ってやらなきゃなあ〜♪しっぽ位ならアクセサリー加工してあげるか♪」
怖いことをつぶやいて営業用スマイルで二人に話しかけた。