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    数分前。
    カモミールはついに感動の再会を果たしていた。

    いまさっき学生寮で破廉恥なひとしごとを終えて、ちうに虐められたストレス発散したカモ。
    ネギの生徒たちに迷惑かけたのに、その教師のネギに助けを求めるのに躊躇ぐらいしたらどう?
    騙すかたちになるのに、後ろ暗さのひとかけらも無いじゃないか?
    この白いオコジョ、あくどい上に慎重だ。
    現に今、ネギのとなりにあの長谷川千雨と同じ制服を着た少女がいたので様子をうかがっている。



    「でも不思議よね。
    犯人って動物でしょ、たべものでもないパンツ盗むなんてあんたの魔法ぐらい間が抜けてるわ」

    「あれは、失敗してああなっちゃうだけで。誤解ですっ」

    「いつもなんで私がとばっちり受けてんのよ。失敗しすぎ」



    でこピンされるネギ。威力は加減もしてあってネギがいじめられているようではない。
    親しそうな感じ、よーし大丈夫そうだ。
    ふーっ、どうやらあの少女はあの悪魔とは違って人間みたいだぜ。
    それに魔法使いの事情を知ってるみたいだし、姿みせても驚かないだろ。行ってもいいみたいだな。



    「オイラのことをおぼえてくれてて嬉しいぜ、命の恩人」

    「だれ、なにこれ?」

    「え?あれ、カモくん!!!!どうして日本に居るの???」

    飛び出してきた白い動物におどろくふたり。

    「お久しぶりでさぁ。
    ネギのあにき、そちらのアネさんに自己紹介するぜ。オコジョ妖精のカモミール」

    「しゃべってる・・・・ネギこれあんたの?」

    「違いますよ。故郷でもっとぼくが小さかった頃に知り合ったオコジョ妖精のカモくんです。
    どうしてマホラに?」

    「ぜひ修行の手伝いをしたい、って言いたいところだが、実は理由あっての悪行で故郷で大暴れした
    おいらは大罪をきせられっちまった。帰るに帰れねぇ・・・そこで旅に出たわけさ。
    風のうわさで命の恩人であるネギの兄貴がここで教師という立派な魔法使いになるための厳しい修行
    する、って聞きゃ思わず地球を半周してきたのさ」

    「白い、動物、・・・・・・あのさネギ。
    なんかさっきから気になってるけど、こいつ下着ドロなんじゃ」

    「な、なんて・・・・・カモくん。ありがとう、ひとりで不安だったんだ。アーニャもいないし
    アスナさんは少しだけ姉さんに似てるけど、やっぱり同じ故郷の知り合いがいないから」

    「話し聞きなさいよ」

    カモを見て明日菜が指摘するが、昔の話しに花を咲かせる一匹と一人。

    「日本にまで追いかけて来たんだぜ。
    きっとオイラの力が必要になるってな、しかもちょうどいい。こっちの姉さんがパートナーなんだろ?」

    異境の地でまさかもうパートナーを見つけたとは伝説の魔法使いの息子だよな。
    くっくっくっ、それに既に契約済みでもオコジョ妖精がアーティフィクトを与えられるなら、儲けもの。
    打算で目を光らせて助言する。

    「おっと、はやく伝えねぇといけない重大なことがあったんだ。
    この学園に滅茶苦茶ひどい奴がいてな。
    偶然そいつの悪巧みを知ってしっちまったおいらはまた追われてるってわけさ」

    明日菜がストップをかける。

    「待って誰か来るわよ」

    「明日菜さん。いったん場所を変えましょう」




    足音は一人、現れたのは下着ドロボーを追っていた少女たちじゃなかった。
    猫や子犬を入れるカゴ持った長谷川千雨。
    ネギの生徒のひとりだ。




    「やっぱり・・・ありがとうございます、ネギ先生。
    その子を捕まえてくれて」

    「あなたは確か、長谷川さん」

    「・・・・!!!・・・・、・・・・!!!」
    (こいつだ、来たぞってなんで話せないっ!
    そうか!?この首輪が声帯に悪さしてるんだな)

    「駄目だよカモくんしゃべっちゃ」

    「そこ黙ってなさい。あっ、はは・・で、どうしたのよ長谷川。
    下着泥棒の件なら見てないわよ。
    あ、こいつはねネギが見つけたの。
    珍しいでしょ、オコジョって言うらしいわ、野良みたいだから手はださない方がいいわ」

    「違う、神楽坂。
    そいつ私のペットなんだよ、逃げてて困ってたんだ」



    いつものより五倍増しの穏やかな口調で笑う。
    千雨が怒っていると解する人間はいなかった、明日菜もあまり知らないクラスメートの言葉を疑わなかった。
    小動物の本能は、生命の危機には特に敏感でなくてはならない。ガクガクぶるぶる震える。




    「え?カモくんと知り合いなんですか?」

    「おかしな先生。わたしが飼っていたペットです。内緒ですよ。
    ちょっと病気だったのですぐに『処置』して実家に『還して』あげる予定なんです」

    「(え、病気って本当なのカモくん?)」

    「・・・・・!(No、こいつはおいらを。
    や、やべぇ・・・すぐに殺して埋めてやるって言ってる!)」

    必死に首を振るがネギは小声で心配そうに言う、それさえも地獄耳で聞き取る千雨。

    「でもこいつ・・・・は違うんじゃない?ネギのだと思うわ、長谷川のペットは大人しくてもっと品良い奴でしょ。
    あれ長谷川メガネは?コンタクト?やっぱり見間違えてるのよ。白い小動物なら他にもたくさんいるわ」

    「あー、あのな。目はそんなに悪くないんだ実は。
    理由は聞かないでくれたら嬉しい。あはは・・」




    へえー・・・長谷川ってメガネやめたんだ。
    断然イイと思うわ。
    イメージチェンジか、こんな風に私もなれたら高畑先生に告白できるのかな、って思う。

    この頃、長谷川にも性格変える何かがあったのかな、と大量の疑問符を頭につけるアスナ。
    たしか数日前からメガネ外して、早乙女、綾瀬、宮崎の三人の図書館グループと一緒にいるのは知ってた。
    性格一変して、明るくなったと聞いていたけど。
    社交性皆無だったのに激変よね、戸惑ってどう反応して良いのか迷うわ。まずはオコジョのこと話そう。



    「良いと思うわ、なんでメガネかけてたのかって聞きたいほど。
    それは置いておいて私は清潔なのが好きなのよ、長谷川もぺット飼って大変じゃない?
    あ・・もしかして同室のザジさんの影響?」

    「狩ってみればわかるぜ、楽しいぞ。
    大型はさすがに困るけど。部屋におさまりきれない肉食獣は餌やりも大変だけどなー」

    「そーね。(ネギが増えたりしたら)洗うの頑強に抵抗しそうだし、私はいらないわ」

    「あの・・・ほんとうにカモくんはあなたのペットなんですか?
    なんか抵抗してるんですけど」

    必死に千雨から離れようとするカモ、腰が抜けててちっとも逃げ切れてないけど。

    「そのフェレット、その首輪に『長谷川XXX-XXXX』ってTel番ありますよね」

    「あ、ホントだ。
    ネギこいつ首輪してるじゃない、しかも連絡先まで」

    カモくんにも事情があるんだろうと思っていたりして、怪訝な顔をしながらも納得するしかなかった。
    このままでは渡されてしまう。

    「僕の知ってるオコジョと思って、人違いでした」

    「人じゃないわよネギ。
    あ、後でまたそいつに会いに行ってもいい?ネギのペット。イギリスにいるやつに似てるらしくてさ」

    「・・・・・・・・・・・!!・・・・・・!!!!(おぃっ!呪いのアイテムなんだよ!!
    こっちのねえさんパートナーじゃねぇからって気がきかねえな!
    はやくおれっちを自由にして逃がしてくれよ、ここはいったん別れてからアニキが解呪してくれよー。
    間違ってもこの悪魔、大悪党に渡さないでくれー!!)」

    カモが必死にジェスチャーする。
    じたばたして逃げようとするが今度は明日菜がしっかり捕まえていた。
    とくに接点も無いクラスメイトのペットだ、目の前で逃がしたりできるもんか。さっさと渡そう。

    「へえ似てるんですかー」

    「ええ、そっくりなんですよ。でも・・・あの、本当に長谷川さんのペットですか?
    名前はなんていうんでしょう」

    「また会いにいけばいいじゃない。やっぱり間違いでしょ、それにイギリスから日本までこれるわけないわ。
    誰かがこいつ包んで送っても郵便受けに入ってなきゃ、野良よ。野良。
    仮に、そうね。稀にそんなことがあっても空港から学園まで何キロあると思ってんの」

    「白いからシロです。先生に納得して貰うのは簡単ですよね。こうして・・・いま証拠を見せます。
    おすわり、ホラ、お手」

    しゃーっ、と威嚇していたカモ。

    明日菜の手から降ろされて千雨が近づく、しゃがんでやさしそうな顔でカモと視線を合わせる。
    突然、その目が縦に裂けた。
    ネギたちには見えない角度、冷ややかな瞳で見下される。
    そこには慈悲のかけらもみえない、もしここで千雨の指に噛み付いたらどんな地獄をみるのか。
    考えただけで身の毛もよだった。

    至近距離、手の届く場所の真正面からプレッシャーを受けてへたりこむ。
    プルプルしながら手を出すオコジョ。

    「・・・へぇ立派に仕込んでるんだ。凄いわ」

    「うまくいった。甘い顔して仕込むのは無理、スパルタで教えたんだ。
    今でもなかなか言うこと聞かないけどな」

    明日菜が褒めた。
    うちの居候とは違って長谷川の所は教育されてるわ、やっぱりスパルタなのかな?ネギにも効果あるかな?
    ああ、でもうちは木乃香がいるから飴はいつでも渡してるじゃないの!?