月の往復キップ第一話
雨だった、その日は雨が降っていた日だった。
ヒカリと一緒に帰ろうと約束していた、結局鈴原のバカが珍しくヒカリを誘ったケンスケも一緒だったけ?
ともかく、シンジとあたしが久しぶりに2人きりで帰った日だあの時は何にも起こらなかった、
シンジがあたしに愛の告白するとか、その逆にあたしがシンジに愛の告白をするとか・・・・
そんなこと無かった、ちっとも特別な日じゃなかった。あたしにとって、ただ、
過ぎていく怠惰な日常の内の1ページだった日・・・なのにどうして?どうして?どうして・・・なの?
でもあたしは今ここにいる。そう、戻ってきたんだこの日に・・・シンジは気が付いてる?
あたしがシンジを見るときの目に・・・・このあたしの瞳の奥の息苦しさに寂しさに・・・そして想いに。
紅い瞳の包み込むような暖かさとは正反対の突き放すような蒼い瞳。あたしだって感じるんだよ、シンジ。
劣等感や敗北感を優等生にさ・・・だって知ってしまったんだもん、だって惹かれてしまったんだもん。
赤でもない青でもないシンジの黒曜石のような黒い瞳に・・・・すごい魅力を。
黒は・・・なんだろ?うまく表現できないけど・・・暖かさも冷たさも魅力も欠点もすべて持っている・・・
そんな何でも悟っていそうな余裕を感じるんだよ・・・あたしはシンジに。
シンジ何見てるの?あたし以外の誰か、優等生?母親?父親?・・・それともあたし?
窓の外はパラパラと小雨が降っている、窓際の季節はずれのアジサイ・・・綺麗。
緑の葉っぱと濃い紫の花、かたつむり?今はいない、生態系が完全に戻った訳じゃないから。
つまんない授業、あたしはいつものようにシンジを見ている。いつからだったんだろう?
ほんの数ヶ月前のこと・・・でも思い出せないほど曖昧なままの・・・それでいてはっきりとした記憶の数々、
一生懸命生きてきた、その記憶・・・・・・いつかは忘れてしまうのだろうか?忘れない!忘れれないよ、あたしは!
だっていつもじゃない日常に胸がドキドキしてしまうこんな日々をあたしに与えたんだからね!シンジ!
この罪は重いんだから、一生かけても償ってもらうんだから!
あたしはシンジ、あんたを逃がさない。逃がしやしないからねっ!
アスカが気になる・・・なんか今日のアスカはおかしい。
いつも洞木さんと一緒に帰るんだけど今日は違う、トウジが洞木さんに用があったみたいなんだ。
だから、今日はアスカと2人で帰ることになった、それは別に大したことじゃないよね?
それにしても・・・・ちょっと今日のアスカはおかしかった・・・理由を聞いてみようか?
でも、今日に限ってどうして?どうしてなんだろう?自問自答するシンジ。
雨がしとしと降っていつもはうっとおしいと感じる暑い太陽が・・・太陽が出ていないから?
活気がない様に感じるんだろうか?ただなんとなく?・・・・分からない。
アスカと一緒に玄関まで来た、綾波がいる。だれかを待っているのだろうか?
そんなこと・・・ないよね。じゃあどうしたんだろう?尋ねてみるシンジ。
アスカは気がなさそうに見ているだけ・・・不思議だ今日に限って・・・おかしい・・・。
綾波はどうやら傘を忘れてしまったらしい、今日に限って綾波までどうしたんだろう?
僕が傘を貸してあげた。アスカが2本傘を間違えて持ってきたって言ってたはず・・・
だからアスカに借りようと思ったけど、綾波がお礼をしたいって家に誘ってくれた。
アスカはじーっとその様子を眺めていたが、シンジにそんなことしなくていいわよっ!
って今日初めて元気に・・・怒ってしまった、
トウジたちが珍しく静かだったからストレス発散させるところをやっと見つけようだ・・・僕の意志はどうなったんだろ?
帰り道シンジが珍しく話しかけてくれた、・・・えっ!?、私がどこか変だって?
不思議・・・そんな素振りはしなかったつもりなのに気づかれた!?シンジって鋭かったっけ?
しょうがないから、あたしのこと見ていてくれたことに感謝して・・・・
今日は少しだけほんの少しだけ素直になってみようかな?違う!今日から・・・素直に・・・なろう。
雨が上がって来ている、もう雨は・・・やんだようだ。
コンフォートマンションまであと少し傘を折り畳んで水たまりがある・・・虹が出ている第三新東京市を歩いていく2人。
マンションに着くなりアスカがチェロを聞きたいって、そんなこと話した覚えはないんだけどどうして知っているんだろう?
ただ、やめる理由がなかったチェロ・・・それなりに準備が必要だって言ったらアスカが食事はあたしが作ってあげる・・・
変だ、今日は特別にアスカが料理できるのか?どうして今日は・・・こんなに特別なのか?
疑問は尽きない。調律している内にアスカが作っている食事の匂いが漂ってきた、おいしそうな匂い・・・
どうして、アスカは料理しなかったんだろ?面倒だったから?そうだよね。
素直になる・・・決めた・・・けど、どうこの思いを伝えたら良いんだろう?
あたしにとって最大の悩み。そうだ!前一回、キスしたときにチェロ聞いたよね・・・あの音色を聞いていたら
あの頃でも魅力を感じたんだもん、今ならきっと告白できるよね。
でも、あたしだけが心の準備をしても・・・素直になっても、シンジは答えてくれるとは限らないよね?
あたしのあたしだけの魅力を感じて欲しい、あたしって考えてみるといつもシンジに突っかかっていたよね。
どうしよう?シンジは好きでいてくれるかな?でも、あたしはシンジとは好き合っていたい。
そう・・・叶うと信じなきゃいけないあたしの気持ちを・・・真心を受け取ってもらうんだもん!
形で行動で示さないと・・・料理ってのはどうかな?
レパートリーの少ないあたしだけど、頑張って作ろうきっと喜んでくれる!
そうと決まれば早速準備しなきゃいれない、シンジにはチェロの調律でもしてもらおう、
手軽だけど料理を作ろう・・・愛をこめて・・・。
月の往復キップ第二話
ハンバーグとカレー・・・どっちも良いと思う、このミサトの家で食べた料理で天国と地獄を見せてくれた。
あたしにとって、食べてて嬉しくなる・・・幸せを感じる家族という名のあたたかさを感じれる、この2つの特別な料理。
ハンバーグは・・・シンジのにはかなわないからカレーにしよう!ミサトのカレーよりはおいしく作れるわよね?
まず、にんじん、ルー、タマネギ、お肉、じゃがいも・・・・お鍋をかけて・・・火をつける。
蛇口をひねって綺麗に洗って・・・うーん難しいわ・・・だっー、うえっ・・・ひっく、ひっく涙が止まんないよぅーー
タマネギってイヤァーーお肉は等分に切って・・・・野菜から入れて、
トポッ、トポッ、トポッと綺麗に切られた材料たちがお鍋に入っていく、スパイスはよく分からないわ・・・どうしよう?
シンジの使っているのを使おうか?でもあたしが作ったって分かって欲しい・・・
でも、不味くちゃいけないから、シンジのを使おう・・・いつか、シンジの気に入ってくれる
あたし自身の味を作り出していきたいな。2人で肩を並べて・・・料理して・・・近い将来そうなれたら良いな。
チェロの楽譜どこ行ったんだろう?おかしいな?
僕の荷物はそんなに多くなかったはずだし・・・きっとまた、ミサトさんの部屋だ。
ミサトさんは時々部屋の掃除してるのかな?この前も僕の荷物が紛れ込んでいたし・・・
アスカが来て以来、注意されて少しはましになったようだけど、酷かったな・・・・・ズボラな性格も直してくれないと。
暗譜で弾ける曲もあるけど、あれは今日のような日に弾く曲じゃないな・・・アスカってどんな曲が好きなのかな?
どんな曲を弾いたら喜んでくれるかな?『よろこんでくれる』・・・?
おかしいな、今までそんなこと思ったことなんてなかった。
いつも、誰にも期待なんてされなかった、だから他人なんてどうでも良かった、ここに来てミサトさんに
家族として受け入れられてそれからかな?アスカが特別なのかな?
そうかもしれない、ずっと家族なんて居なかったから
偽りの家族だけどミサトさんやアスカが気楽に接してくれるから、だから特別なのかもしれない。
グツグツ煮込んで良い具合になってきたカレー、アスカは食器を並べていく
ミサトが遅くなる日には2人で食べるが今日のようにアスカが食器を並べることさえ初めてのことなのだ、
シンジがいつもやっていることだからだ。ミサトは言うに及ぶまい・・・押して知るべしとはこの事だ。
シンジがチェロの調律をしている、あたしはそろそろ声を掛けようとシンジの部屋に行った。
エプロンをミサトのイスのポジションにかけて、スリッパを脱ぎトコトコと歩く・・・
一応、ノックして・・・だって、日本の家って不謹慎なつくりでしょ?だから、あたしが
言い始めたことなんだけどミサトもシンジもそれを守ってることなんだけど・・・・・・
ほら、ふすまってノックの音が響かないじゃない、あたしが言い始めたことだから守ってる、
なんだか意味ないこと言ったな、あたしって。コンコン、ノックの音だ。
アスカが呼びに来たみたい、じゃ・・・行こう。
なんだか、怒ってるアスカの後を付いていったら夕食の心配が驚きになった。
アスカってカレー作れたんだ、そりゃ女の子だし・・・意外な一面ってやつかな?家庭的な女の子とは違って、
アスカってアクティブな性格してるしね。じゃあ、ミサトさんは家庭的?って聞かれると
これはまた別の一面から答えを出さなければいけない。アスカのカレーはおいしかった。
ただ、僕が作るカレーと似てると思ったんだ、でもアスカが作るだけあって
カレーの随所、随所に自分で作る物とは違う味を感じたんだ、思えば他人の作る料理ってひさしぶりだな、
ミサトさんのカレー以来・・・僕が全て引き受けたんだっけ?
掃除や洗濯、家事全般においてミサトさんに任せれなかったし・・・・
落ち着け、落ち着きなさい・・・アスカ。少し強めにノックをした。
これから・・・・シンジにあたしの料理を食べてもらうんだって思ったら恥ずかしくなってきた。
おいしかったらいいけど・・・ハズカシイ。顔が紅く感じる、シンジに急いで「できたわよっ!」
と言って早足でキッチンに戻った。・・・今の怒ったように聞こえたかな?少し後悔・・・。
シンジの食べる様子を見ながら食べるあたし、おいしい・・・よね?
シンジは味わって食べているからあたしが見てることに気づいてない。
感想を聞こうかとも思ったけど全部食べてくれたし、おかわりもしてくれた。
感想なんて聞いてもシンジ優しいから、それともあたしが恐いからかな?おいしいって言うよね・・・・。
ホントの気持ち聞けないよぉ、少し切なくなる。
洗い物は僕がやるよって言ってくれたけど、後回しでいいって言ったの。
だって、早くシンジのチェロ聞きたくなったんだもん。シンジを急かすのも雰囲気が悪いと思って、
少し時間をとるためにコップだけ洗った。チェロ、どこで聞こうか?って思ったけどキッチンで良いかな?
シンジの部屋?あたしの部屋?ミサトの・・・論外。リビングかな?決定!
ペンペンって前、シンジのチェロ気持ちよさそうに聞いてわね、聞かせてあげよう!
冷蔵庫を軽くノックする・・・この家でこのノックが役に立つのはここだけ。ペンペンがクワッ?って頭をのぞかせた、
そのまま抱き上げてリビングに連れていった、この時間はいつもテレビを見てたしペンペンも大人しく抱かれている。
ペンペンを床に置くと、ちょうどシンジがチェロを持ってやってきた。物珍しそうにシンジを見上げているペンペン。
あたしはソファに座ると楽な姿勢で弾いてちょうだいって優しく言った・・・・・
ミサトさんの部屋から持ってきた楽譜を広げて、呼吸を整えすっと姿勢を構えた・・・・久しぶりだけど、
うまく弾けれるようだ。楽器を演奏するときにはぴったりの雰囲気だ、引き始めると速いテンポにも関わらず
ミスひとつない重くて深みのあるチェロの音が波となってリビングに広がる・・・・・
中盤まで来たときに気が付いたけどペンペン・・・寝てる、自分の演奏に浸ってたから気づかなかったけど、
アスカも気持ちよさそうに目を瞑って・・・寝たらどうしよう?起こしてあげればいいか・・・・・・
シンジの優しいチェロを聞いている内に眠くなっちゃった、あたし。
ソファも柔らかくていい気持ち・・・安らぎってこのことなのかな?
ペンペンも頭をふらふらさせていたけど・・・ゴロンって寝ちゃった・・・・。
あたしも・・・・
やっぱりアスカも寝ちゃった・・・アスカに近づいて揺り動かそうとする。
!?
頭が痛い・・・・そして僕はアスカに覆い被さるように倒れ込んだ・・・・
月の往復キップ第三話
ん?・・・・重い、なんだろ?・・・・・・・・・・・・シンジ!?
ち、ちょっっっとぉーーーまだ心の準備が、できてないよぉ、・・・・・あれ!?
あたしはあわててシンジの様子をうかがう、目の焦点があってない瞳孔は・・・・大丈夫開いてない
・・・けど、大丈夫ではないのは確かだ。脈をとって、ゆっくり床に寝かせる、今すぐに何かしなきゃ・・・
気を失っているだけみたい・・・だけど。・・・・いったいどうしたんだろう?
あたしが寝てしまってから・・・シンジの身に何が起こったの???
シンジの頭を少し高くして楽な姿勢にして、台所におしぼりを取りに行く・・・・
シンジのおでこに冷たい絞ったおしぼりを乗せる、あたしは・・・心配だ。心配で・・・たまらない。
いつまのかシンジの手を握ってじっーとシンジを見ているあたし。・・・・・大丈夫!
自分に言い聞かせる・・・ギュと握ったシンジの手の存在を確かめながら・・・気を失っているシンジ・・・・
だれもいない自分だけの世界・・・夢の中と言う名の・・・突然入ってくる、記憶、感情、思考・・・・・
きみは・・・だれ?
頭の中に響く声・・・きいたことのある、一番身近な。
・・・ぼく?ぼくは・・・碇シンジシンジ?・・・
うそだろう?・・・
ぼくが・・・シンジだよ
ぼく?・・・きみが・・・ぼく?
・・・きみが・・・う、うそ・・・そんな・・・
驚愕している相手・・・
そんな、なぜ・・・かあさん?どうして?
きみは・・・ぼくなの?それにかあさん・・・って?
よくわからない・・・混乱する。
そうか、そうか!きみはぼくなんだね
・・・ひとり合点のいった様子
・・・シンジは
よくわからないよ、きみはぼく・・・そんな!
そんなわけ・・・ぼくがきみのところにいるってこと・・・そうだね、教えてあげるよ
シンジの頭脳に急速に入ってくる赤い暗い記憶。そして・・・・・深い悲しみに彩られた感情。
アスカはじっと・・・シンジが目覚めるのを待っている。時々、おしぼりを取り替えながら。
シンジは初めは大きく見開かれた瞳をしていたが途中から目を閉じた
・・・それでも、安らかな顔をしてはくれなかったのが、心配なアスカだった。
ミサトが帰ってくるまではまだ少しある、シンジの様子を気にしながら隣にゴロンと寝転がるアスカ、
シンジの方を見て子供のように身を寄せる。シンジの心臓のトクン、トクンという規則的な音を聞きながら、
じっとシンジの体に近づき・・・・手を伸ばして・・・・・シンジに抱きつく。・・・少しだけ。
そう思いながらずっとこのときが続けば・・・とも考えるアスカだった。
不意に身を起こすシンジ、きゃんとかわいい声をあげてしまうアスカ。
あわててシンジから身を遠ざける、とりあえず声をかけてみる
・・・ねぇ、シンジ?
シンジはアスカの声も聞こえないのだろうか?じっとしている、
部屋の風景さえ見えていないかもしれない・・・目が愕然とした様子を表している。
ねぇってば!シンジ?聞いてるの?
少し強い口調で繰り返し聞いて、肩を揺すってみる。何も写していなかった瞳にアスカの顔が写る・・・・
ハッと目が覚めたようにアスカを見つめる瞳が大きく見開く
・・・・・・・・・・・!?
何が起きたのかアスカにははっきり認識できなかった、シンジでさえ直情的な行為だったのだろう・・・・驚く。
・・・・シンジがアスカを抱きしめたのだから・・・・・・・狼狽したままの2人・・・なかなか2人とも行動を起こさない。
いつもなら、アスカが怒って・・・・シンジが慌てて謝るのだが・・・今日は違う・・・・・。
やっと、シンジがアスカを離す、顔を合わせれない・・・気まずい雰囲気。
アスカがさっと立ち上がって自分の部屋に駆けていってしまった。
シンジは周りを見渡して様子をうかがいながらアスカの後を早足で追う・・・・・。
かあぁっーと熱くなってる顔を冷ましているアスカ。
ふうっー、一息つく。
シンジ・・・どうして?あ、あんなことしたんだろ?かなりドキドキしているのが自分でもわかる、
確かにあたしは・・・シンジのこと好き。だけど・・・いきなり、あんなことされたら困っちゃうよーーー、
かあぁーーっとまた、熱くなる顔。ぱたぱた両手であおぐ。
トントンって遠慮がちに叩くノック、シンジがアスカに話があるんだいいかな?って聞くっっって!?
は、はずかしいじゃない!だ、だだだめぇっ!だめだって
そんなアスカの気持ちに関わらずシンジは部屋の前で懇願している。
「あっらー、しんちゃーん、どうしたのぉぉぉ。アスカに愛想着かされちゃったぁぁ?」
この場の雰囲気に合わない、それでいて無神経な声だ。ミサトさん・・・何本飲んできたんだろ?
「み、ミサトさん!そ、そんなこと、あるわけないじゃないですか!」
「いいのよぅーー、隠さなくってもぉ。若いっていいわねー、でも襲っちゃダメよぅ」
アスカはこれ以上事態を悪化させないためにも、部屋から出てくるとミサトに向かって
「ばっかじゃないの?30になってちゃうんでしょ。お酒ばっかのんで・・・ちょっとは家事やんなさいよ!
シンジばっかにやらせて、だから結婚できないのよ!」
「そ、そんなことないわ!もしダメになっても貰ってくれるわよねー?しんちゃーん?」
ビヤ樽女はそう、のたまった・・・・・・
月の往復キップ第四話
ばたんっ、ミサトは帰ってきてからも飲み続けついにつぶれてしまった。
「ぺーんぺーん、あんたも、のみなさぁーい・・・・ぐぅー」
寝言も酔っぱらいのそれだ、アスカとシンジはぶつぶつ言っているミサトを部屋につれていく。
「じゃ、あたし先にシャワー浴びる・・・」
着替えを持って浴室に向かう・・・シンジが声をかける
「アスカ、あとで離したいことがあるんだ、いいかな?」
アスカは何も言わずさっさと浴室に行ってしまった
「アスカに・・・嫌われたのかな?違う、嫌われていってしまうんだ・・・」
シンジは抱きついてしまったことをアスカは怒っているのか?と考え、
これから、同居し続けることでアスカが心を壊してしまうことを考え、この家から出ていくことが良いと思った、
しかし・・・・考える。この胸が痛くなる思いは・・・消すことができない。
キュ、シャーー。アスカはタイルの壁に手をつく・・・・顔はうつむいていて。
表情は伺い知れないが・・・顔を上げると・・・・微笑んでいた。・・・なによ、シンジ。あたしはおこってんのよ!
あ、あんなことして・・・まだ、言ってないわよ、あ、あいしてるって。あ、あんただって告白してないじゃない!
心の声とは逆に顔は崩したまま・・・・『素直になる!』そんな決意はどこへやら
実際、唐突に考えられないことが・・・ハプニングが起きたのだ、アスカだってどう対応したら良いのかわからないのだ。
それに・・・シンジがどうして抱きついてきたのか?わからない・・・・わからないから・・・・不安にもなってしまう。
あたしの知ってる世界とは違うことが起きたから・・・・
アスカはドキドキしながらいつもより早くシャワーを終えた、シンジは柱にもたれ掛かって音楽を聴いていた・・・
静かな夜が過ぎていく・・・アスカはとても気まずく感じ、素早く部屋に向かおうとした・・シンジが気づいて呼び止める
「アスカ、どうしても話したいことがあるんだ。とても大切なことなんだ」
「い、いいわよ、ただし手短にして」
おどおどするアスカ、キッパリと意志を告げるシンジ、いつもとは逆の風景だ。
「まず、言いたいんだ。僕はアスカを愛しているって・・・・でも」
「なっ!?」
「でも、僕はアスカを傷つけるだけの存在なんだ。」
「そんなの身勝手よ!あ、あたしだって、シンジの全てを知ってる・・・だから好きなの」
「知っても・・・知っても嫌いにならないとは言い切れないよ・・・」
「でもっ!あたしは知ってるシンジが臆病で卑劣でだってこと・・・あのときあたしを殺そうと・・・・慰めるためにしたことを。」
あわてて口をつぐむアスカ、未来のことを話してしまって混乱してしまった。
「!!!!し。しってるの?アスカなの?ごめん・・ごめんね、アスカァ・・・」
シンジは驚愕して、そこまで言葉を呟くように言うとシンジは泣き崩れてしまった。
アスカはシンジが落ち着くように・・・存在が消えてしまわないように思いっきり抱きしめた・・・・・・
肩を震わせ嗚咽を漏らすシンジ。やがて、アスカが抱きしめていることに気づくと手を背中にまわし抱きしめる・・・・・・・
シンジとアスカはとても長い時間・・・時が止まってしまったとおもうほど抱きしめ合う・・・お互いに
・・・あたたかい相手の存在を失わないないように・・・・・シンジは激しく慟哭した、
アスカが《アスカ》であることに・・・・・・そして、アスカの言葉に・・・・
「うれしいよぅ、アスカァ・・・ひっく、ひっく、ひっく」
目から溢れる涙を拭いながら、もう片方の手でアスカを抱きしめる。
流れる時とともに胸が熱くなる思い・・・・アスカはしあわせだった。
彼女が欲しかった物・・・ただ側にいて無償の愛を与えてくれる人。
彼が欲しかったもの・・・側にいてくれるただ側にいてくれて暖かい時間を一緒に過ごしてくれる多くの他人・・・・・そして、
愛するひと。
彼は・・・・・・彼女は・・・・ただ、普通の優しい時が欲しかった
ささやかすぎる・・・・そして、彼に・・彼女にとっては贅沢すぎるものだった物。
今しっかり、この手の中にいる・・・・
「「(もう、はなさない・・・・)」」彼、彼女の共通の願い・・・・今を大切に生きてゆく、
それが2人の想い。惹かれていく・・・・この人に・・・・
止めたくない想い・・・・
「シンジ・・・キスしよっか?」
あのときと同じセリフ・・・・気持ちは違う、このシンジとキスしたい。
「キス・・・・」
口の中で反芻するシンジ・・・・アスカと?・・・・キスする。
アスカを見ると瞳が僕をのぞき込んで・・・・・優しそうな瞳に吸い込まれてしまいそう。
「アスカ?いいの?」
「私がしたいの・・・シンジもしたいよね?私と同じようにしたいよね?」
なぜかシンジは急速に理解できた、同じなんだって・・・
アスカが首に手をまわし、目を閉じる。
シンジがアスカの背中に手をまわすと華奢なアスカの体がすっぽり手の中に収まる・・・・・
こんなにも華奢な体で頑張っていたんだ・・・いっそう愛おしくなる。
すでに近くにある唇に自分の唇を合わせる。まだ、何にも知らない子供のキス。
ミサトとした大人のキスとは違う・・・でも、ドキドキする。
満たされる。
通じれる。
暖かくなれる。
この・・・今がすべてだと思える素敵なキス・・・・・・・・・
星の往復キップ第五話
「愛してる・・・」
「僕もアスカを愛してる。もう、離したくない。ずっと、僕の側にいてくれる?」
「ばか・・・当たり前じゃない。」
アスカはそう言うと少しからだを離すと両手でシンジの手を包む様に握る。
「離さないでね・・・」
シンジも握り返す、アスカの綺麗な手を・・・
「僕も離して欲しくない・・・」
「シンジの手、暖かいね。この手を好きだよ」
「ありがとう」
朝が訪れたコンフォートマンション。
いつもの日課であるキッチンでの風景・・・シンジは今日も忙しそうにしかし、
楽しそうに3人分のお弁当を作っている。
「おはよ、シンジ」
「おはよう、アスカ。今日はね、アスカの大好きな物ばかり入れたよ」
「朝から熱いわねー、しんちゃん」
ミサトが例のごとく冷やかす・・・いつもの風景だが・・・一つ違うことが
「おはようございます、ミサトさん」
シンジは一通りの料理を作り終え、アスカにキスを軽くした。
「へっ?」
「なっ、し、しんちゃん?それはどういうことなのかしら?」
「「おはようのキスですけど?(だけど?)」」
平然と言い返すシンジとアスカ。
「だから、どうしてアスカとシンジくんがキスしてるのよ!?」
「ミサト、好きだからにきまってんじゃない。」
「そうですよ。僕は嫌いな人とキスなんかしませんよ」
あっさりとし過ぎている返事のせいでミサトも思わず
「へっ?あっそう・・・・・・」
と納得した・・・・が、なにか?違うのよね・・・・
「って?・・・・・・・・・・・・・・・・・・シンジくん?アスカ?」
「「なんですか?(なによ、ミサト?)」」
パンにオレンジジャムとブルーベリージャムを塗りながら顔を振り向き聴く2人、
2人とも声が重なってよく解らないが言っていることはたぶん同じことを言っているのだろう。
「その、2人ってつきあってたっけ?」
「何言ってるんですか?」
「そうよ、つきあうも何も好きだっていったじゃない」
「えっとぉ・・・でどっちから告白したの?」
とりあえずセオリー通りの質問をしておく、ミサトのために言っておくがまだ、
ミサトの脳細胞はシンジとアスカがつきあっていると認識できていない。
その証拠にビールじゃなく、牛乳を飲んでいる・・・片手にはマーガリンを塗ったパンを持っている。
「どっちって・・・僕からですけど」
「そうね、シンジからね。じゃなきゃ、私素直になれなかったもの」
平然とし過ぎている・・・・ミサトが冷やかしたくても、こんな雰囲気じゃ・・・
「あっ、よかったわね。2人とも・・・」
学校では
「なんや、先生ついにやってもうたんか?しかし、難儀なもんやなー。あの性格ブスを彼女にすると・・・」
「すずはらーー!?」
「わあ、冗談やがなー。勘弁してやーーいいんちょーー」
「まったく、鈴原のバカも相変わらずねーー」
「でも、嬉しいよ・・・」
シンジがポツリと言う。
「そっか・・・そうだもんね。シンジにとって鈴原は、私のヒカリと同じだもんね」
「そうだよ・・・」
少し暗くなるシンジ・・・それを感じたのか
「シンジ・・・あたしが支えてあげるから」
「アスカ・・・ごめんね。心配かけて・・・そして、ありがとう」
「まったく・・・ばかシンジにはあたしが居ないとダメね」
すこしおどけるように胸を張って言う。やさしい時間が流れ始める2人の間に・・・2人の周りに・・・そのまま、
時は流れ続ける。
確実に良い方向に・・・たった2人の心の安らぎ・・・心の補完・・・心からの信頼・・・愛情が引き金となって