首を汗がだらだらと流れていく、校庭の風景が揺らいで見える。
「やって、られへんな」
「ああ、くっそー。女子たちはいいよなぁ」
「そうだね」
トウジも弱音をはく暑さの中、只今トラックを6周目。
「あと何周や?・・・あかん、もー足が」
「ううっ、俺も」
トウジとケンスケは戦線離脱、先生も暑くてやってられないのか校舎の日陰で見ぬふり。
「僕も・・」と、シンジも足を校舎の日陰に向けたが・・・。
「シンジィ一!」
どうやら、あんな遠くからでもわかってしまったようだ。周りの男子の視線がいたい。
「あんた、それでも男なの!最後まで走りきりなさいよっ」
お姫様のご機嫌は急降下のようだ、げげっと顔を引きつらせる。
転校以来男子を名前で唯一呼ぶのがシンジだからだ。
「なぁ、ごっつ。目ええなぁ」
「どんなに目がよくても、あそこからだぜ」
ケンスケは校庭の隅にあるプールを指差す、そして言う。
アス力の人気は淒い、猫かぶりに今も男子たちの視線を独占していた。
「見ていたんだろ、ほら委員長もいるぜ」
惣流が右手振り上げて騒いでいる、隣に委員長もいる。
「なんや、そーなんか。シンジも大変やなぁ、あんなのに目つけられおーて」
涼しいところで我知らず顔でいう。
ケンスケは無神経、無関係なトウジに苦笑を見せる。トウジだって・・・なぁ。
プールに視線を向けなおすと、綾波レイが
冷たい視線で小うるさそうに惣流の行動をみていた。
「ここなら何いうても、関係あらへんしな」
「そんな、冷たいよ」
いつのまにかシンジが日陰に入ってきていた。

「で、どやった?」
今日の数学のテストは抜き打ちだった、トウジは陰鬱そうに結果を見ながら聞いた。
ケンスケは、運良く問題の山を当てたらしいがそれでも・・
「ああ、散々だよ」といったほどだ。
「・・・」
シンジは机の上にぐたっとしている。
「どうしたんや、ワシよりも悪いんか?」
「まさか?シンジ?」
「・・・」
ケンスケがシンジからテストをひったくると、
そのまま両手で2つに折った。
「トウジ、俺たちは親友だ。普段、あの惣流の防波堤になってもらってる恩を思い出せ!」
ケンスケは熱くトウジにかたる、シンジは横目でその様子を見ながらため息をつく。
ケンスケの言っていることはある意味正しい、だがいつも煽りたてているのはこの二人だ。
テストも親友も同居人も僕に優しくしてくれないのかと頭が痛くなってきた。
「・・・・・」
「そ、そんなにか?いつも大変なセンセの事情はこの紙一枚に詰まっているんやな!」
そういってケンスケから奪ったシンジのテストを、また2つに折ってシンジの肩に手をかける。
「トウジ、親友は困ったときは助け合うものだ」
ケンスケとトウジの熱い語り合いは続く。
シンジは騒がしい2人を軽く無視して、ふと同居人を目で探す。
「そうやな!まったくそのとおりや」
委員長の席でお喋りしているのをみつける、
金髪碧眼の騒がしい同居人・惣流惣流ラングレー。
「シンジのこの危機を救ってやるべきだ、もちろん俺たちのこの危機も!」
「そうやそうや!」
ネルフでの訓練も優秀で、学校でもラブレターの山をもらっている。
大学も卒業ずみで、容姿も抜群だが・・・
「勉強は3人でやるべきだな、3人寄れば文殊の知恵とかいうし」
「もんじゅやろが、もんじゃやろうが関係あらへん」
同居人としては手がかかりすぎ、あのだらしない保護者とあいまって
家事のせいで此処の所勉強が疎かになってしまっていたのだ。
「「午後はシンジちで勉強会だなっ」」
あれだけ熱く語って結局はミサト、惣流狙いの親友2人に呆れるしかないシンジだった。

「はあ・・惣流のやつも手伝って・・くれないよなー」
帰り、やっぱりいつものように買い物袋を片手に呟く。
惣流はというとヒカリの家に遊びにいっている。
ユニゾンの時ちがって家事もあるし、2人きりになることも少なくなっていた。
何より惣流の性格もあいまって、ミサトも食べるのに遠慮がない。
ぶーぶー文句をつける惣流とビールを飲みながらシンジをおもちゃにするミサト。
家事決めなんて多数決では女性陣に有利で
シンジは手抜き料理で済ませて仕返しするしかない。
しかし、この項はビールが主食と噂のミサトも
舌が肥えてきたらしく惣流と共にブーブ一と文句とたれている。
「うるさいなー、惣流は」
「シンちゃーん、もーいっぽん」 ミサトがビールをせびり、惣流がバカ呼ばわりする。
「なによっ、このばかっ」
「くわーっ」
騒がしい、その一言に限る。
「あの性格さえ直してくれれば・・」
シンジは惣流と出会ってから何回も考えたことを
口にした・・・が、やっぱり想像できない。
あの2重人格者が「シンジ君、今日は美味しかったですか?故郷の料理に挑戦してみたんですけど・・・」
心配そうに覗き込む瞳にシンジは笑顔を見せて答える。
「うん、美味しかったよ」
「そうですか!うまくいってよかったぁ」
笑顔を見せる惣流、シンジは幸せそうな声で「惣流をお嫁さんにもらう人は幸せだね」と、
「そ、そんな!ばかぁ・・・」赤くなる惣流・・・・・・・・・・・・だめだ、背筋に悪寒を感じる。
そんな想像をしてみたのも、惣流の美の女神が与えたと思われる容姿のせいだと決め付けた。
確かに惣流は綺麗だ、今まで同居してきたミサトと比べると大人の魅力とはまた違ったモノを感じる。

「ただいま一」
シンジはキッチンに買ったものを置く、リビングを覗くと惣流がペンペンとテレビを見ていた。
「今日は何一?」さっそく聞いてきた、自分が当番の日なのだがシンジにつくらせる気らしい。
それにしても惣流のこの薄着はど一にかならないものかと思う。
学校でのネコかぶり時には深窓の令嬢よろしく、清楚な感じなのだが・・。
亜麻色の髪と透き通る位の肌、目の毒だと思う。ケンスケたちなら、涙を流して喜ぶのだろうが。
ハッキリ言えばシンジも嬉しくないわけじゃないのだ。
「今日は八ンバーグ、それと残ってたタマゴ焼きかな」
「エー、なにそれ。たまには別のもんにしなさいよ」
惣流が文句をたれる、しかしハンバークは好物なので大人しくひきさがる。
この項は惣流の好物ばかり食卓に並ぶ。
これは決して偶然ではない、シンジの行動がアス力中心に動いているからなのだ。
あのゲームセンターの前で足を止めた時から惣流にふりまわされ続けてきていた。
「惣琉、少しは手伝ってくれてもいいじゃないか」
ふてくされた様にシンジが言うと惣流は「知らな一いも一ん」と我知らず顔。
「そんなんじゃ、お嫁に行けないよ」
「イイも一ん、加持さんはアンタと違って優しいも一ん」
いつもどおり、作っていく。
「惣流ってミサトさんにみたいになっちゃうのかな」
ジューといい匂いをたてるフライパンを見ながらつぶやく。
「なによお、私みたいな綺麗な女の子があんな自分の管理もできない行き遅れになる訳ないじゃない。
失礼な奴う」
イイ匂いにつられて惣流が来ていた、シンジの呟きを聞きとがめる。
「チッ、聞こえてたのか」
「ふんっ、バカシンジなんか一生だれもお婿にもらってくれないわよっ」
食卓に並んだものをつまみながら言う、挑発的ないつもの彼女らしい言葉にムッとするシンジ。
言い争いを始める二人、アス力が一方的にダッダッダッと機関銃のようにしゃべりまくる。
それをシンジが一、二言の皮肉で返す。
「ナ・マ・イ・キよ!このっこのォ」
ハンバ一グにそえるキャべツの千切りを作っていた所に、惣流が後ろからイタズラする。
「惣流、危ないって!」
「フっっフフフ、このォ!オコサマのくせにィ♪」
惣流は楽しんでいるようだがシンジは、脇腹を攻められて苦んでいた。
料理を作り終えたシンジもようやくイスにつくことができた。
惣琉は部屋に戻っていった、いつもの様に僕はお風呂の用意をする。
テレビでも見ようとリビングに行くと、案の定惣琉がテレビを見ていた。
「はぁ・・・」ここの所のテレビの支配権は完全に失っていた。
さっさと自分の部屋に戻っていくのが正解だ、なぜなら・・・
「シンジ・・・ん?どこいくのよ?」
自分の部屋に退散しようとしたが気がつかれてしまった、いつもはチャンネルを争って
惣流のプロレス技に沈んでいたシンジ、いくらなんでも学習しないわけではない。
静かに退散するつもりだったが、惣流にとっては「いいストレス解消相手」だったのか
目を付けられてしまった。「なんでもないよ、自分の部屋で・・そう勉強しなきゃ」
「そんなもん、べつにいいじゃん。ここに来て私の相手しなさいよっ」
バンバンと隣を手で指し示した、じっーとにらんで来る。
「で、でも・・」
「あっー、もうっ早くしなさいよ。このばかっ」
うるさいヤツだ、そもそもこの惣流の相手をして何のメリットがあるのか?
あのマザコン発言を暴露してみたいところだが、確証もなければ惣流の仕返しのほうが怖い。
「うるさいなっ、そんなだから加持さんにも見向きもしてくれないだよっ。
加持さんもせいぜい小うるさい手のかかる妹としかみてないよ」
「なんですってぇっ!!!このバカシンジ!!」
そうとう頭にきたらしい、ひどいとは思うけど事実じゃないか・・
「このっ、ばかっ」
ぐっ、君はいつもおもいっきりだね。
「ちょっ、なんだよ。この二重人格者、まったく・・」
「くぉのォー」
その後、惣流の冴え渡る体術の餌食になるシンジ。
「あたたたた、ギブギブ」
「ふん、ざっとこんなもんね」
次の朝、パンをかじりながらペンペンに餌をやるシンジ。珍しくミサトが早くに出ていった。
惣流のやつ・・・遅いなどうしたんだろ?「んっ?」
「シンジィ一一一」ミサトの寝起きのうめき声によく似た声を上げて、片手をお腹にあててる惣流が出てきた。
「どうしたんだよ?」それに制服じゃなく部屋服のままだ。
「生理一一一」あの惣流がぐったりしているのは始めて見る、
しかしそのおよそ年項の女の子らしくない言葉にシンジは動じるでもなく。「ふ一ん、じゃ今は弱ってるんだ」
そんなことを言ってみたりする、ユ二ゾンの時も精子などと言っていたしやっぱり解んないな女の子は。
と思っていた、まあ実際問題シンジの周りの女たちが変なだけである。
「何よ!・・・薬よこしなさいよ一」言いたいことだけ言ってテーブルにつっぷす。
「はいはい、水と薬・・・ホント大丈夫?」
「なによ、さっさ行けば?寝てるから」水を飲み、目を閉じてゴクリと薬を飲み込んだ。
「顔色悪いね、・・・部屋でちゃんと寝てなよ、惣流はすぐ遊んじゃうから」
「本人を前に何いってくれるの?でも、生理痛いから寝てるわ・・あっ、そうだ」
ポケットから手紙を出してシンジに渡す、受け取るシンジは何だろう?とはてなを飛ばす。
「こ・これは・不幸の手紙?手渡しなんて惣流も酷いことするね」
ひくシンジ、惣流は目元をひくつかせて言う。口より先に手が出なかったのが不思議だ。
「何よ、それは・・加持さんに渡しておいて。あんなこと加持さんの前でしちゃって
どんな顔すりゃいいのよ。・・・・・シンジとなんて、サイテー」
はぁと浮かない顔、そこまでいうなんて酷いとシンジは思う。僕としては凄く惜しかったな
アレは。キスしたかったな。その先も。
「わかったよ、渡すよ。サイテーって何だよ!もう」
強引に惣流の手から手紙をもぎ取る、不機嫌になってしまったシンジ。
「中、見ないでよっ。ちゃんと誤解、解いておいてよ!!」
玄関まで声が聞こえる、元気だな。マンションを出て暑い日光が道路を照らす。
「何書いてあるんだろ?げ」
太陽に透かしてみると「かじさんあれはばかしんじがむりやりせまってきただけなの」と、
書いてあった。子供っぽいなぁ、惣流。でも生理きてるし・・女の子だよね・・・、笑うと可愛いし。