星の片道キップ第1話 「彼は彼女になった」 

 

西暦2000年。セカンドインパクトと呼ばれる未曾有の大災害が起こり、南極の氷は融解し、
地軸はねじまがり、多くの都市は水没した。この災害はさらに世界規模の経済恐慌を招き、
内戦や民族紛争を勃発させ、世界人口の約半分が失われた・・・・・。
そして西暦2015年。ようやく復興したかにみえた、ここ日本のある地点に巨大な
物体が迫っていた。その事態を察知していたかのように国連軍の戦車隊が海岸線を埋め、
陸上に迫る謎の物体に対し防御陣を敷いている。そんな非常事態の中、
ひとりの少女が、その街を訪れていた。




水没した都市のビル街の中を、巨大な影がゆっくりと移動してゆく。
それは明らかに異形の姿である。
ビル街も荒れ果てて、その生物との奇妙な雰囲気のバランスを保っていた。


海岸線にズラリと並ぶUN(国連)マークの戦車部隊。
その砲身は海中よりの接近物に向けられていた、その戦車は危なげなほど
密集して周りの涼しげな自然とはミスマッチだった。






街には特別非常事態宣言が発令され人影はない。
「まっいたわね。」
その静かな動く物のない街の中で車を走らせる人間がいた。
その首には十字架のペンダントがきらめいている。




人影の消えた街で、何処かに電話をかける黒髪の少女。
だが、回線は不通だった。
「どうしたらいいのかしら・・・
早く迎えをくれないと・・・」
白で統一された清潔そうな服装をしている
涼しげでもあり、どこか隙のない着こなし方だと言えよう。
少女は写真を手にとってつぶやいた。
「待ち合わせは無理ね。」
その写真には能天気なメッセージの書き込みが・・・・
そのとき彼女は、目的地に居るであろう少女を
人影がないはずのの街に見る――。

突然とどろく衝撃音。少女は遠くの山あいから出現した巨大な物体を目撃する。
それは国連軍の攻撃を受けてもビクともせず、移動していく。






ディスプレイに移動物体が表示される。
「正体不明の物体は本所に対し進行中」
「目標を映像で確認。主モニターにまわします」
「・・・・・・15年ぶりだね」
白髪の男、冬月が口を開く。
「ああ、間違いない」
「使徒だ」
眼鏡の男、碇ゲンドウは表情を変えずに答えた。



猛攻を加える国連軍。しかし、使徒と呼ばれる物体はビクともしない。
使徒の腕から伸びた光が、国連軍のVTOL重戦闘機を貫通し、爆発した。
使徒が踏みつけた戦闘機が爆発し、少女は爆風に飲み込まれそうになる。
そこへ急ブレーキとともに滑り込んでくる青いルノー。
「ごめん。おまたせ。・・・?、まあ、いいわ早く乗って。」
余裕と困惑の笑みを浮かべる女性の姿がそこにあった。
いっぽう、少女は少し悲しそうな顔をして
「ひさしぶりね。ミサトさん」
一瞬、ミサトは怪訝な顔をしたが少女の手を取り
素早くその場を去った。






「目標は以前健在。現在も第3新東京市に向かい、進行中」
「総力戦だ。厚木と入間も全部挙げろ。」
「出し惜しみはなしだ!!なんとしても目標をつぶせ!!」
大型ミサイルが使徒に向けて投下された。しかし!
使徒は片手でミサイルを受け止めると、バラバラに切り裂いてしまった。
通常の火力ではもはや、対処できないのか。
爆炎の中から姿を現す使徒。その身体は全くの無傷である。
「なぜだ!?直撃のはずだ!!」


慌てる軍首脳たちを尻目に、会話を交わす冬月とゲンドウたち。
「やはりATフィールドか」
「ああ、使徒に対し通常兵器では役に立たんよ」


通常の火力兵器では使徒に対し、全く効果がないと判断した国連軍は、切り札とも言
うべき
最終兵器゛nn地雷″の使用に踏み切る。





「ちょっと、まさか・・・・・・nn地雷を使うワケッ!?」
「・・・・効果はないのに」
双眼鏡で使徒を観察していた葛城ミサト一尉は、nn地雷の使用を察知。
少女を抱え込んで素早く身を伏せた。


閃光が走り、巨大な爆発が使徒を包み込んだ!
まるで、核爆発を思わせる爆発が起こり、巨大な火球が使徒を包み込む。
ミサトとその少女の乗っているルノーは灼熱の砂漠で
砂嵐に出会ったような状況に陥った。



爆発の衝撃波が起こる。すさまじい破壊力だ。
そのエネルギーはネルフ本部のモニターに電磁障害を起こさせるほど、強力なもの
だった。
「やった!」
「残念ながら、君たちの出番はなかったようだな」
軍の高官がゲンドウ冬月に勝ち誇ったように語りかける。
国連軍の高官たちは、誰もが使徒を倒したと確信した。だが・・・・。






爆風で横転した車を元に戻す二人。
「ふ〜う。どうもありがと」
「いえ、私の方こそ・・・・ミサトさん」
「あら?以前、何処かで・・・・!?」
「ひさしぶりね、あのキャンパス以来かしら?」
「碇さん!?」
突然、ミサトが少女に抱きつき泣き始めた。
その少女は自分より背の高い妹をあやすように頭をなでた。
「うぅーーーー、・・・いかりさん」
「相変わらずみたいね、元気だった?」
「うぅー、ひっく・・ひっく・・・碇さん・・・シンジくんこそ・・・元気だった
?」
ミサトも年下の少女に抱きつくのをやめ旧知の親友のような態度で尋ねた。
・・・と言うより精神的な年齢は碇シンジと呼ばれた少女の方が高く見て取れる。






「その後、目標は?」
「電波障害のため確認できません」
「あの爆発だ。ケリはついてる!」
「センサー回復します」
「爆心地にエネルギー反応!」
「何だと!?」
使徒の姿がモニターに映った。
使徒の姿にどよめく一同。
「我々の切り札が・・・・・」
「なんてことだ」
軍人のひとりがくやしそうに拳を机に叩きつける。
「化け物め!!」


焦土と化した地上に立つ使徒。まるで呼吸するかのように動くエラ状の部分。
さらにそれまで頭部だったものを、押しのけるようにして顔を見せている
新しい頭らしきもの。多少のダメージはあるが、使徒は健在だった。







他の車のバッテリーパックを無断借用したことを案ずるシンジ。
「あとで、話しておきますね」
「変わってないわね、その性格・・・」
「(精神的な年齢は上がってないわね・・・)・・・あなたもね」
この少女は14歳にして精神的な年齢が上がらない妹を持ってしまったようだ
車は箱根の第3新東京市にあるネルフ本部に向かっていた。






爆心地では使徒が、その身体に受けたダメージを回復しつつあった。
「予想どおり自己修復中か」
冬月がモニターを見て言う。
「そうでなければ単独兵器として役に立たんよ」
ゲンドウが答える。そのとき使徒が放った光線で、
映像を送信していた大型ヘリコプターが破壊された。
「ほう、たいしたものだ。機能増幅まで可能なのか」
「おまけに知恵も付いたようだ」
「この分では再度侵攻は時間の問題だな」







車ごと台車に載せて移送する゛カートレイン≠フ乗り場にたどり着くミサト。
入り口の扉には゛NERV(ネルフ)≠ニ書かれている。
「ネルフ・・・ドイツ語読みなんですね。」
「そうね、国連直属の非公開組織よ」
「父のいるところですね・・・」
「お父さんの仕事知っているの?」
「はい、人類を守る大事な仕事・・・らしいんですけど」





同時刻。ネルフ本部では軍の高官と碇ゲンドウが向かい合っていた。
「今から本作戦の指揮権は君に移った」
「お手並みを見せてもらおう」
「碇君。われわれの所有する兵器では、目標に対し、有効な手段がないことは認めよ
う」
「だが君なら勝てるのかね?」
多少、皮肉っぽさが入り混じった口調で、軍人はゲンドウに質問した。
「そのための、ネルフです」
ゲンドウは自信に満ちた口調で、眼鏡を押し上げながら答える。
「期待しているよ」
軍人たちはそう言い残して退席した。


冬月がゲンドウに声をかける。
「国連軍はお手上げか。どうするつもりだ?」
「初号機を起動させる」
「初号機をか?パイロットがいないぞ」
「問題ない。もうひとりの予備が届く」






「これから父の所に行くんですね」
「そうね、そうなるわ」
父の所に行く・・・・。
そう思ったシンジの心の中に、想い出がよみがえる――大きなカバン、
それをもち立ち去る自分・・・・父との決別はこのときついた。
「これ読んでおいて」
ミサトは極秘と書かれたファイルをシンジに差し出す。
読むようにしてみる・・・知っていることなのですぐに窓の外の景色を眺める。
「・・・・ジオフロントね」
「そう、これがあたしたちの秘密基地ネルフ本部。世界再建の要、人類の砦となる
所。」



箱根の地下に広がるジオフロント。
特務機関ネルフの本部は、その中心に位置している。
「おっかしーわね・・・」
「ミサトさん、ここ通りました・・・いいです。ついてきて下さい」
シンジは迷うことなくひとつのエレベターの前に歩いていった。
突然開くエレベーターの扉
「あら、ミサトまた迷ったの?」
「ごめ〜ん、でもシンジくんに付いてきたら会えたし・・・いいじゃない」
「・・・?例の男の子は?どこ?」
「ここにいるじゃない、こちらが碇シンジ・・・くんよ」
「・・・ミサト冗談はよして、あれがもう少しでここに来るのよ」
「冗談じゃないわよ・・・リツコ覚えてない?キャンパスの頃の『生物類似の講義』
・・・」
「えっ!?彼なの?」
「お久しぶりです、リツコさん。相変わらず仕事の虫のようですね」
その少女は不敵にほほえんだ、まるでリツコが知るもう一人の友人のように
「あ、あの・・・ひさしぶり」
狼狽してしまったリツコは本当に珍しい、ミサトは面白そうに眺めている。
未だ、現実に復帰できないリツコ、ミサト、シンジを乗せてエレベータは目的の場所
についた。






「では、後を頼む」
ゲンドウは冬月に声をかける。
「3年ぶりの対面か・・・いや、もう実質9年か」





「あれは?」
壁から巨大な人の手のようなものが出ている。
「ああ、あれね。零号機よ」
「・・・ここですね」
「・・・!?・・・なぜ知ってるの?」
「私は無駄な時間を過ごすつもりはありません、早く操縦方法、武器の説明を
教えて下さい、これでも私はセキリュティレベルSなんですから」
「ネルフの関係者だったの?」
「ええ、今までは松代の方でしたが・・・」
「そう、そうだったの・・・まあ、いいわ付いてきてね」




「これは?」
「それは・・・さすがに呑み込みが早いわね」
「ねー、司令に報告しなくて良いの?」
「まぁ、決まってたことですし・・・良いんじゃないですか」
シンジはリツコにエヴァのエントリープラグ付近で説明を受けている
ミサトは少し高いところにある場所からコーヒーを飲みながらそれを見ていた




「葛城一尉。」
いつのまにか碇ゲンドウがミサトの背後に来ていた
「い、碇司令、ただいま、赤城博士からサードチルドレンに
エヴァの操縦方法を・・・」
「なに!?・・・でサードは?」
「シンジ君・・いえ・・サードはあちらです」
あわててゲンドウが初号機に走り寄っていった
「シンジ!?」
「ああ、父さん、出撃ですね」
「ああ、そうだが・・・おまえは本当にシンジなのか?」
「ああ、この格好ですか?別にいいじゃない」
「だが、おまえは男なのだぞ・・・・」
まさに絶句・・・なのだろう、ゲンドウは顔色を少し変えた
それでも、現実に自己を確立できるだけ素晴らしいことではあるが・・・
「だからーー、良いんじゃないですか、それにっーー!?」
突然施設内が大きく揺れた・・・





活動を再開した使徒が、第三新東京市に対し攻撃をしかけてきた!
使徒の放った光線で爆発による光柱が、天へと高く伸びてゆく。




「奴め、ここに気づいたか」
ゲンドウは天井を見上げながらつぶやく。
「出撃をいそげ、葛城一尉、発令所に体制を整えておけ」
この際、シンジがどのような状態であろうと乗る意志があるのだから
シンクロする可能性がある人間をエヴァに乗せるのが
妥当であるとゲンドウは判断した。



シンジはエヴァンゲリオンに乗り込む。シンジを乗せた操縦席、エントリープラグが
EVAに挿入される。エントリープラグの挿入部は、人間でいう脊髄にあたる部分に
あった。                エントリープラグ内部に黄色い液体LCL
が注入される・・・エヴァの起動がスタートした。
  10
 A 神経接続、思考形態は日本語を基礎に固定し、
双方向回線を開く。その作業プロセスは全て順調に進み、シンクロ率は50.00%
を記録した。
リツコは、そのシンクロ率の高さに驚く。
射出口へと運ばれるEVA初号機。
やがて、すべての発進準備が整った、エヴァンゲリオン初号機は
固定台ごと射出口より発射され、地上にその姿を現した。



「かまいませんね」
「もちろんだ。使徒を倒さぬ限り、我々に未来はない」
ミサトがゲンドウに念を押す。



「碇、本当にこれでいいんだな」
答えぬゲンドウ。
心中はシンジのことで穏やかでなかった


「発進!!」
ミサトの号令によって、固定台ごと発射されるエヴァンゲリオン初号機。
地上に出たエヴァンゲリオン。そのモニターには使徒の姿が映る。決戦の時は来た。



「シンジくん・・・・まだ、お礼をいってなかったわ。死なないでよ」
ミサトはこころの中でつぶやいた。
 

 

 

 

 

 

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星の片道キップ第2話 「彼女の予定」 

 

ドイツ・某所・・・

広い道路を一台だけ黒の車が走っている、一見どこにでもあるような光景だ。
だが、その車内の会話だけが常軌を逸していることをのぞけばだが・・・

「・・・しかし、セカンドチルドレンを本部に配属する予定はなかったはずですが」

「だが・・・やむえまい我が国も委員会には逆らえないのだよ」

「ですが、我が国の威信にも傷が付きかねませんか?」

「まぁ、他の国も・・・いやEU各国は我が国の仲間だから良いだろう」

どうやら政府の高官が多くの策略案から選び出した計画を断念したらしい
世界のパワーバランスもセカンドインパクト以前はアメリカという
軍事、経済、政治という権力を牛耳っていた強国の崩壊により
EU,などの運命共同体の強固な国々が生き残ったかぎりとなった
アフリカの国々は強固な連盟をつくれず国として安定しているところは数少ない
例外的に日本という国は東アジアの島国だったのが幸いしたのか
国民性が良かったのか国連内でもセカンドインパクト後も大きな発言力を保ってい
た。

「では、いつ頃の予定なのですか?」

「今ははっきりと言えないのだが・・・・」






綺麗な太陽が広いキャンパス内を照らしている、季節的にはもう冬なのだが
この広大なキャンパスの中庭では数名の学生たちが楽しくおしゃべりをしている
ベンチで寝ている学生もいるが、多くは自由なキャンパスの雰囲気のため
気兼ねなく誰とでもおしゃべりをしているようだ、そんな中ひとつのグループの中心
になっていた
学生が何かに気づいたらしく、ふと顔をあさっての方向に向けた

「ねぇ、あの娘って誰だか知ってる?」

「どこ・・・・あの娘?」

「ん?・・・・ああ、えっーと」

「ラングレーさんだろ?」

「ええっ!?どう見たってジュニアハイスクールの生徒だよ!?」

「ラングレーさんって、たしか飛び級で・・・聞いたところによるとじゅうー・・・
何歳だっけ?」

「えっ、ちがうだろ俺は8とか9とか聞いたぜ」

「たしか・・・去年だっけ『天才少女』とか新聞でいってたぜ」

「ああ、おまえは知らないのか?一応おまえの先輩なわけだ!」

「ええっ!?まじっすか・・・・信じられないな」




てくてくと歩いていくアスカ、ひとつの研究室の前で立ち止まる。
トントン、ガチャ

「教授、論文を持ってきました」

教授はすでに60は越しているもう老齢のいい年でここの大学でも
昔はいろいろと話題を提供した名物授だセカンドインパクト以前は
イギリスで教授をしていたと言うからもう、相当なキャリアだろう・・・
アスカは以前この教授の過去を調べてみたが・・・少し後悔した人の過去は掘り返す
べきではない
『1999年4月5日・・・イギリス某大学の教授が女装して講義を行った』と
その日の各国の新聞に話題を提供したらしいのだ。

「ああ、君かそこに置いてくれ」

アスカは持ってきた論文を置くとコーヒーをいれた

「ブラックですか?」

「ああ、そうしてくれ・・・ところで友達はできたのか?」

「ええ、友達も5人ぐらいできました」

「他の教授たちも心配してたよ、なにしろ年齢も離れているし」

「心配ありません、この惣流・アスカ・ラングレーはちゃんとやってますよ」









うまくいってる
もう届かないと思ったことさえあったことなのに
以前はママっていう手の届かない人に存在に私自身の
存在意義をもっていたからかしら・・・でも今度はまちがわない
今度は絶対に離さないから・・・突き放したことばかりだったけど
私から否定したこともあったけれども・・・・・・・
あいつさえ、いてくれたらいい・・
あの暖かささえ側にいてくれれば良い、これは私の嘘いつわりのない気持ち
最後に会ったときのことさえも、私にしたことさえ・・・あいつだって人間だもの
完璧な人間なんていないもの
私が天才少女と呼ばれていたことは全てママのためだったような
ものだったし・・・才能なんて私の一部に過ぎなかった
『天才少女』・・・『弐号機パイロット』・・・これは他人に認識してもらった私・
・・
自分の価値観の中でしかなかった私・・・でも、あいつも似ていた
でも、どこかちがってた・・・その違いが私とあいつとの心の距離・・・壁だったの
かな
でも、わたしは望まない・・・あんなLCLの海なんて・・・誰もがひとつになること
なんて
あれがほんとうに『気持ち悪い』ことなんだもの。
そう、距離があるからこそ傷つけ合ったりもできるし慰め合うこともできるんだよね
・・・私は一方的なままかな、でもいいじゃない他人なんて分からない方が
幸せだもの、でもどこかで分かっていて欲しい気がするのもしょうがないよね
ここに来てからは前と変わってないだから後はわたしの努力次第だから
以前は勉強ばかりで作らなかった友達も作ってみた、もちろん勉強も
少しはしている、怠け者じゃないしね。博士号は今のところとってない
もう少しでとれるかな?今は結構充実している。
シンジが居ないということをのぞけば
歴史通りに進んでいるわたしが日本へ行くのもあと少しらしい
ドイツのネルフ支部の動きがあわただしくなってきたからだ
以前は自分のことばかりで気にも留めなかったが余裕ができているからだろうか
ミサトが2日前来た、涙が出そうになったが泣くのはシンジと会ってからにしよう
私は一人で生きるから泣かないんじゃない、嬉しいことや悲しいことが
ある時に泣くんだ・・・それはたぶん良いことだから・・・ミサトにおもわず

「まだ、料理はあのまま?」

って聞いてしまった、まだここでは食べたことさえないのにね。
初対面なのにさ・・・以前の私に比べるといいとは思うんだけど・・・
 
 

 

 

 

 

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星の片道キップ第3話「彼の事情とミサトの事情」
 

 

日本・新第2東京



「今日もよろしくぅ〜」

私の親友である葛城ミサトがこの頃、頻繁に講義の出席率が低下させている。
原因はひとりの男性らしい、学問一筋の私には到底理解できないが・・・
理解できないのは初対面からそうだった。

「ミサト!今日も?」

私は親しくなった人間には結構世話を焼く癖があるのかもしれない

「えへへ〜、ごめーん」

「まぁ、あなたの選んだ人生だから私はとやかく言わないわ」

「じゃ、リツコも一緒にドライブしよう!」

「えっ」

ミサトはそう言うとさっと私の手を取って学生の数名いる
大学の廊下を駆けだした

「わ、わたしはイヤよ、まだ講義が・・」

「まっ、りっちゃんもそう堅いこと言わずにさ」

いつの間にか私とミサトの隣を加持リョウジが駆けていた


「そーゆーこと、リツコもたまには良いじゃない」

何がいいのか?私はとんでもない間違いを犯した気がした。


翌日・・・・

「うーーーー」

私は自室で昨日のハイウェイでの悪夢を思い出していた、さすがに悪く感じたのか
ミサトが看病しに来てくれた、台所でお粥を作ってくれているらしい

「ほら、できたわよ」

ミサトがお粥をもってきた

「においから推測すると良いできあがりのようね」

私は少し息で冷やしてから一口くちに運んだ
結局その日から2週間、私は大学を休んだ。



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「まったく、リツコも不甲斐ないわねー」

わたしが看病しに行ったのにさ、加持くんとデートの予定が
潰れちゃったじゃないの・・・・

「まっ、りっちゃんも葛城の凄さが現代の科学では
解明できない領域であることが分かったからいいんじゃないか?」

「なーんか、引っかかる言い方ねー」

「それより明日は用事があるんでな、ちゃんと講義に出るんだぞ
なにしろめったやたらに見れるものじゃないしな」

「なにそれ?」

「じゃな」

ブチッ・・プーッ・・・プーッ・・・プーッ
不思議なことを言って加持は一方的に電話を切った。



翌日・第一講堂

「・・・?」

ミサトが見た先にはどう考えたって小学生ぐらいの男の子を連れた
白衣の女性が研究発表を行っていた、・・・子どもを連れてくるなんて変なの。
あまり、講義を聴かぬままミサトはだらっーとしていた。
学食でお昼をとろうと窓側の近くの席に座った、特に意味はなかったが
久しぶりに講義に出たのでぼーっとしていたいのだ

「あの、こちらに座っても良いですか?」

さっきまで講義を行っていた女性だ、改めて見てみるととても若いようだ
たぶん30は越えていないだろう、しかし子どもを連れているところから
落ち着いていて穏やかな雰囲気をもっている大人の女性だ

「あっ・・んぐっ・・・もぐもぐ・・・いいですよ」

私は慌てて食べ物を飲み干して返事をした

「慌てて食べて平気?」

と、この女性の連れていた男の子が心配そうに私の顔をのぞき込んだ

「んっ、平気よ」

「はじめまして、私は碇ユイこの子は碇シンジって言います」

「私は葛城ミサト、はじめまして」

男の子はシンジって言うのか、髪がちょっと長めでシャギーが入っているし
格好だけは男の子って感じがするわね

「ところで碇さんはどこから?」

「私は京都ですわ、今は第三新東京市に引っ越す準備を
しているんですけど・・・夫の仕事の関係で時々、新第2東京市にも来ますわ
まぁ、そのせいで講義を特別に頼まれましたが」

「そうなんですか、ところでシンジくんはいくつなんですか?」

二人共々馴染みやすい性格をしているのかすぐにうち解け始めた

「シンジ、いま何歳?」

ユイがやさしく聞いた。

「いま3歳です」

「えっ、(信じられないわ、もう小学生くらいかと思ったわ)」

「うふふっ、葛城さんも驚かれたでしょ、けっこうこの子大人びているかから
時々だけど、すごく年齢を高くみられることがあるのよ」

「ええ・・・私も小学生ぐらいかと思って」

そのとき、携帯が鳴ってユイが話し始めた

「ええ、いまは・・・・・そう・・で冬月せ・・・わかったわ」

ユイは携帯を切ると少し残念そうに

「ごめんなさい少しの間だけシンジの世話を頼みたいんだけど」

初対面のミサトに自分の子どもを預けるのに躊躇があるようだ

「いいですよ、どのくらいですか?」

ここに知り合いが居ないのか、
ミサトをある程度信頼できそうだと判断したユイは

「じゃあ、駅に5時にお願いするわ。お礼は後日するわ」

ユイは素早く身を翻すと足ばやに去って行った
ミサトはシンジと一緒にお昼のランチを食べた
ちなみにミサトはカレーで、シンジはお子さまランチだった。



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大学近くの公園
シンジは走り回っている、ミサトは鬼ごっこの鬼の役をやらされてしまった
本気になればすぐに捕まえれるが、それでは大人げない

「きゃははは」

無邪気に走り回っているシンジの後をつかず離れずおいかけていた
やがて、疲れてきたのかシンジの走り方がゆるくなったところで
後ろから捕まえた、遠くから飛んできた危険物に気づかぬまま・・・

ドカッ

ミサトの頭にペットボトルがクリーンヒットした。

「いたっ、だれよこんなものなげたの」

「ふー、あぶなかったわ」

公園の入り口付近にリツコがいつの間にか立っていた

「リツコ、あんたどういうつもりよ!」

いささか、語尾が荒くなっているし、顔は笑顔のまま・・・ちょっと恐い

「どういうつもりって、ミサトに科学の限界を思い知らされてから
今日まで寝込んでいたからよ」

「それとこのウーロン茶がどういう関係があるのかしら」

「たまたま、調子が良くなったからコンビニで買い物した後通りかかったら
ミサトがその子を追いかけ回して捕まえようとしていたのをみたからよ」

「ただたんに、鬼ごっこしていただけよ・・・まったくもう」

「ところでその子は?」

「ああ、この子は今日、講義に来た人に世話を頼まれたのよ」

「へぇーそう、もうくれぐれも鬼ごっこはやめることね」

「どうして?私はべつに・・・」

なぜか赤くなるミサトとリツコ。

「じゃ、わたしは早く体調を整えるわ」

リツコはミサトからウーロン茶のペットボトルを受け取ると去っていった


シンジは疲れたのかミサトの膝で寝てしまった
ミサトはシンジの幸せそうな顔を見ながら
私にもこんな時があったのかな・・・
シンジが身じろぎをして起きそうになった
ふと、シンジが持っていた落書き帳らしきものを見つけると
多少の罪悪感があったが好奇心には勝てずパラッとめくった。

「なにしてるの?」

びっくりして声をした方を見るといつの間にか瞳をぱっちり開けた
シンジがミサトをのぞき込んでいた。

「ええっとね、これ何が書いてあるか気になったのよ
ごめんね勝手に見ようとして・・・見ていい?」

「えっ・・・いいですよ」

「なにこれ?」

「えっと、それは今日の講義の分ですね」

年端もいかない少年がこんなものを書くわけないし・・・
ユイさんのかしら?それにしても聞いてなかったけど結構高度な物ね

「これ、お母さんの?シンジくん」

「ちがいますよ、私のですよ」

「(へっ?)私っていうんだシンジくん」

「ええ、父さんより母さんと居る方が長くて写っちゃったみたいです」

「へー、これ分かるの?」

こんな落書き帳みたいなのに大学の講義内容が書かれていることも
驚いたがこの少年が自分と同じように母親にしか
相手にされなかったことに少し共感を持った。

「ええっと・・・お父さんは忙しくて母さんしか相手にしてくれないので
母さんから少しおそわったんです」

「そう・・・・父さん相手にしてくれないんだ・・・」
いつの間にか自分とシンジを重ねていた

「私も父さんが相手にしてくれなかったの・・・」

「ミサトさんの父さんは愛してくれたんですか?」

「いえ、よくわかんないわ自分のことあまりはなさない人だったから」

ミサトはなぜシンジにこんなにも素直に自分を
見せれることを不思議に思いながらそれでも同年代の
親友にでも相談するような口調でしゃべっていた・・・・・
ただ・・・この少年に共感している自分がいることを悟った

「でも、好きだったんでしょ」

「そう・・・かもしれない」

「でも、忘れろとは言いませんが過去を見続けるのは
やめるべきです・・・常に時は動いているんですから・・周りにはいい人がたくさん
居るでしょう」

「そ、そうね・・ありがと。いいこと聞いた気がするわ」

深くではないところ・・・こころの何処かで
暖かい風が吹いたような言葉だった。
暖かいと言うよりも暑い午後が過ぎていった
もう、時計が4時半を指していた。

「駅まで送るわ」

ミサトは手をとると公園近くのコンビニでアイスを
シンジに買ってあげた

「今日のお礼ね・・・なんだか良い話を聞いた気がするから」

今まで生きてきた中でも今日は不思議な一日だった
年端もいかない少年に少しだけこころを救ってもらった日だからだろうか
 
 

 

 

 

 

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