星の片道キップ第4話 「彼の予定」 

 

景色が前方から後方へと飛んでゆく明るい太陽は傾き初め
美しい夕焼けが遠くの山々を赤く染めている、深い闇もすぐそこまで迫りつつある
前世代的なガタンゴトンと揺れる列車ではなく
このリニアは静かに目的地まで運んでいってくれる

コトッ

「母さん、紅茶です。」

「あら、ありがとう」

シンジから紅茶を受け取るとユイは景色を眺めながらそれを飲んだ
アッサムティー・・・今度はダージリンも飲みたいわねと考えながら
隣でミルクを飲んでいるシンジに目を向けた
しばらく、見ていると視線を感じたのか不思議そうな視線をユイに向ける

「シンジ、今日は分からないことあった?」

「なかったよ・・・ミサトさんと公園で遊んだの」

「ミサトさんって・・・」

「忘れたの?母さん午後から一人で何処か行ってたでしょ」

「・・・ああ、そうね。あの人ってそんな名前だっけ?」

「葛城ミサトさんだよ」

「葛城・・・何処かで・・・」

目の焦点があっていない。ユイがものを考えるときはいつもこうだ
周りの状況も見えないらしい、シンジは飲み終わったミルクの容器を捨てに
立ち上がって自動販売機コーナーに向かった

シンジが自動販売機コーナーに居る頃、ユイは一人考えにふけっていた
カツラギ・・・
かつらぎ・・・
葛城・・・・・・
そう、葛城調査隊ね
セカンドインパクトの立会人になった人たち・・・
あの日から何年か過ぎたけど、まだ世界は混沌としているわね
ここで幸せを掴んで欲しいわ・・・まだ小学校にも入らない
我が子のことが深く気にかかる
あの子が自分の道を選んで進んでくれてるから良いとは思うんだけど
あの日から瞳に悲しみをたたえているから、心配だわ
とても我が子ながら信じられないもの、今日の講義だって本当は
高校修了課程の子が学ぶべき物じゃないし、なによりまだまだ3歳ですもの
私があの子に干渉するのはやめるべきだとはわかっているけど
心配ね・・・

「母さん!?」

「シンジ!居たの?」

「もう、ぼぉーっとして・・・また考え事していたの」

「シンジ、来月から先生の所に行きなさい」

また、わけが分からない・・・・
先生の所へは確かに来月、母さんが消えてしまってから
行くことになる・・・だけど、なんで?
父さんが言うなら分かる気がするけど・・・・
母さんは理解できないな・・・
ここは元の世界なのだろうか?ここは過去の世界なのだろうか?
母さん・・・前の所では・・・記憶にさえ残ってなかったけど
すごい人だ、父さんがあんなに必死になることは少しだけ
分かった気がする、頭も良いし性格も良いと思う、
そして・・・人のことを分かってくれている温かい人だ
でも、「人類補完計画」・・・それだけは発案して欲しくなかった
頭が良すぎたのかもしれない、遺伝子学的にいうと
私は頭がよいはずだった、でも前はやる気がなかったのも
あると思うが今ほど必死になにか
目的を持って取り組んだことはなかったからかもしれない

「どうして?」

「どうしてって、心配なのよ」

「なにが・・・」

「いつも、母さんと一緒にいるでしょう?」

「そうだけど、都合が悪いの?」

「シンジ、同年代の子と遊んだこと全然ないでしょ」

「でも・・・・」

「だめ、ちゃんと子どもらしくしなさい
今までは気にしなかったとは、言わないけど私も心配なの
あなたなら分かるでしょ、大学に、研究所に連れていったことを
今では後悔しているわ・・・・それ以来あなたは勉強ばかり・・・理由は聞かないけ
ど」

ユイはそれ以来どころかそれ以前からシンジが
自分の年齢に合わないことをしていたのを知っていた
必死で自分を守るように
誤魔化すように
偽るように
シンジはとても背負いきれない物を持っている、ユイはそう感じた。

「わかったわ、私わかるもの」

既視感を感じる・・・
アスカのことを感じてしまう
ユニゾンの時、シンジがアスカに・・・自分に言いたかった言葉は
ユイが言っているこの言葉かもしれない。
『あなたの価値はそれだけじゃない』
そして、シンジはアスカを助けるためだけにここにいる
それが・・・目的。
何にも負けれない・・・力が欲しい・・・アスカを守れるだけの
以前の自分にはなかった、力と知識・・・アスカを救うまでは自分を偽り続けなければ
ならない。でも、アスカはこう言うかもしれない『あんた本当にわかっているの?』
この努力もアスカを救おうとすることも自己満足にすぎないかもしれない、
でも、それでアスカが救われれば良い、それ以外自分には考えられない。

「だってシンジ、ときどきとても悲しい瞳をしているんですもの
本当は寂しいんじゃないの?あなたは大人びているから、よけい心配なのよ」

夕焼けも一筋の光をすっーと一瞬残し
遠くの山に消えてゆく、私は・・・

「私は・・・」

「でも、これは強制ではないわ
あなたが考えて決めることよ・・・だから・・・」

ユイの表情は読みとれない・・ただ、声から深く真剣であるとわかる

「後悔だけはしちゃだめよ」

「私、行くよ・・・(先生の所・・・いつか・・・考えたこと。でも・・・いい想い
はないよね)」

そのような会話を交わす二人を乗せたままリニアは
もう暗くなってしまった山々の間を静かに進んでゆく。



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「こんにちは、シンジくん」

「ほらっ、シンジ挨拶は?」

「はじめまして・・・」

唖然としたシンジに気づかずにユイは勝手に話を進めていく
どうやら、以前と違いユイの知り合いの「先生」に預けるようだ
以前はゲンドウの知り合いの「先生」だったが・・・
第一印象から「先生」は職業がよく分かる
戦自・・・戦略自衛隊
ユイにはその性格や雰囲気から交友関係はかなり広いらしい、
もちろんユイのバックボーンにいる
ゼーレのつてもあるのだろうが・・・

「で・・・碇さん、この子を預かって欲しいと?」

「ええ、なかなかしっかりした子なんですけど・・・同年代の友達が居なくて」

「では・・・どの位の期間預かれば?」

「じゃあ、とりあえず2ヶ月くらいでいいですわ」

「2ヶ月?三歳の子どもにとって長すぎでは・・・」

「いいえ、きっと大丈夫ですわ、ね、シンジ」

「ええ、いいですよ」

「しかし、でも私の所にも3人ほど同年代の子がいたし、
いいですよ、恩もありますし」

「そうですか、ありがとうございます」

2人が話し込んでいる間、シンジはチョコレートパフェを食べていた。

「母さん、以前頼んでおいた物なんだけど・・・」

「えっと、これね」

ユイはバックの中から分厚い論文とレーポートの束を取り出して

「でも、すごい量よ・・・これは2年分以上あるわよ」

そういいながらシンジに手渡し、チョコレートパフェなどの清算をすると

「今日はわざわざすいません、無理を言ってしまって」

といって相手の「先生」と別れると

「今日は午後から実験なのよ、シンジも来なさい・・・実はシンジも参加できるように
カリキュラムを組んでおいたの、あなたには明るい未来を見せたいからね」

そう言ってシンジの手をとりその喫茶店から出た。




だが、その未来がどんなものになってしまったのか?
深く・・・・・
暗く・・・・・
希望もない未来・・・
せめてアスカだけには明るい未来を与えてあげたい、
ユイの言葉にそんなことを考えてしまったシンジだった。
 
 
 

 

 

 

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星の片道キップ第五話 「二度目の天井」 

 

 

「いい?」

「ハイ。」

「最終安全装置解除、エヴァンゲリオン初号機、リフトオフ!」

初号機の身体を固定していた輸送台兼拘束具が解除された。
夜の闇に包まれた第3新東京市に、その巨体を表すエヴァンゲリオン初号機。
街路灯の光が、さながらフットライトのごとくEVAを照らし、
闇に浮かび上がらせていた、ミサトの命令で拘束具が解除される

「シンジくん、まずは歩くことだけ考えて」
リツコが指示する

「つまり、イメージすればいいんですか?」
シンジが聞き返す

「そうよ、生身の肉体ではできないことでもできるって訳」
エヴァがゆっくりと歩き出す・・・どよめく発令所

「ミサトさん、武器はないんですか?たとえばナイフみたいな物とか」

「プログレジックナイフはまだ準備できていないわ・・・ごめんなさい」

「つまり・・・素手で戦えってことですか?」

「そうね・・・使徒の弱点は赤い光球よ、そこを破壊すればいいの」
リツコが説明を付け足す

「そうですか・・じゃ感覚も掴めましたし・・・行きます!」

「えっ?ちょっとまって・・・」
初号機が走り出し使徒との距離を一気に詰める使徒の顔面で急停止し
使徒を台にしてとんぼをきると背後に回り込み回し蹴りを放つ
今までぴくりとも動かなかった初号機、
あえて言うなら人形が華麗な動きをしているのである
・・・唖然とする発令所の一同、それはゲンドウも例外でない
しかし、その驚きは別のところにあるのだが・・・



シンジは初め迷っていた、戦った初めての使徒だ
だが、戦った使徒ではない。戦ったのは母さんらしかった
悩んでいてもしょうがない、まずは相手の力を見てみることにした
以前はエヴァの動きに脳が着いてゆけなかった、だが今は・・・
精神的には14歳の時点で心が止まってしまったが・・・
シンジのエヴァに関する知識、そして「先生」との出会い
その「矛盾」との出会いによりエヴァの制御を行いながら静かに物事を
分析できる、本気になればエヴァさえシンジの感性に着いてゆけないだろう
使徒の両手を掴みながら蹴った、使徒は大きな兵装ビルにぶつかり倒れた

「シンジくんが操っているの?でも・・・こんな操縦の仕方」

「人は見かけによらないわね」
初号機が再び使徒に襲いかかろうとしたが、
赤い六角形の結晶らしきものが使徒と初号機の間に浮かび上がる

「ATフィールド!?」
それを浸食する初号機、使徒の光球に拳を叩きつける

「浸食しているの?初号機が」
徐々に打撃によりヒビがはいる。使徒はその身体を丸め、エヴァに取り付く。
モニターで様子を見ていたミサトたちが叫ぶ。

「自爆する気!?」
その直後エヴァは火球に包まれた。
黒い景色に突如、十字に現れる光の柱。
蒼く黒い夜空に第3新東京市にシンボルのごとく現れる
使徒の自爆による光の柱・・・神々しく感じる景色だ


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どこかで6人の男たちが会議を行っている。
出席者は碇ゲンドウ、そして明らかに外国人風の男たちだ。
彼らは使徒の再来に触れ、その処置、情報操作、さらに
ネルフの運用についてゲンドウに苦言を呈する。

「使徒再来か。あまりに唐突だな」

「15年前と同じだよ。災いは何の前ぶれもなく訪れるものだ」

「幸いともいえる。我々の先行投資が、無駄にならなかった点においてはな」

「そいつはまだわからんよ。役に立たなければ無駄と同じだ」

「人類補完計画≠アれこそが君の急務だぞ」

「左様。その計画こそがこの絶望的状況下における唯一の希望なのだ。我々のね」

「いずれにせよ。使徒再来における計画スケジュールの遅延は認められん。
予算については一考しよう」

「では、あとは委員会の仕事だ」





「発表はシナリオB−22か。またも真実は闇の中ね」

「広報部は喜んでいたわよ。やっと仕事ができたって」

「ミサトさん、ウーロン茶飲みます?」

「あらっ、もう検査は終わったの?」

「ありがと、シンジくん」

シンジにウーロン茶を受け取りながら、暑いからビールが
飲みたいわと考えているミサトだった。
確かにミサト、リツコともに暑そうな服装をしている
そのデザインからペンペンを思い出すシンジだった。
街中が着々と武装されていく。

「エヴァとこの街が完全に稼働すればいけるかもしれない」

「思いも寄らない優秀なパイロットの確保ができたことに感謝するべきね」

「そっ、リツコはいつもドイツ支部からつつかれてたもんね」

「それだけじゃないわ、ATフィールドの展開可能なことを含めて
松代からS級セキリュティレベル職員の転属・・・っていうより
引き抜けたこともあるけどね」

「私は司令の所へシンジくんを連れて行くわね」

「中学校への転入の手続き済んだわ」

「そう」

「あら?気にないらないのね。彼の場合、松代での実力じゃ
高校に飛び級したとしてもつまんないでしょうね、私の所に回して欲しいわ・・・彼」
私的な理由も入っているのだが・・・





「よろしいのですね?同居でなくて」

「碇たちにとって、お互い居ないほうがあたりまえだったのだよ」

冬月が答える、今さっきゲンドウを説得し終えたばかりで、
なかなか言い出せないようだ
なにか言いたそうな普段見慣れない冬月に気づき
ここは早く退室したほうが良いような気がしたミサトが

「失礼します」

と言ってシンジの手を取って部屋を出ていく
それを見送る冬月の背中はどこか寂しげであった

「それでいいの?シンジ君」

「いいんです。ひとりのほうが、父さんもそうなんでしょう」

事実は冬月がゲンドウを説得をしたと言うことなのだが
ミサトはシンジを自分の元に引き取ることにした、そのことを電話でリツコに告げる。






ミサトはシンジを連れたまま、コンビニに立ち寄った
新しい同居人のお祝いをするために食料をいろいろと買い込む。
夕焼けの中を走るミサトの車。

「すまないけど、ちょっち、寄り道するわよ」

「・・・・いいですよ」

峠の展望台に停車するミサトの車。
夕焼けの中、第3新東京市が浮かび上がっている。

「時間だわ」

腕時計を見ていたミサトが顔を上げると、周囲にサイレンが鳴り響いた。
それは山々に吸い込まれ、こだまとなってゆく。そして、その音が合図のように
地表のゲートが開き、中から何かが出てきた。集光ビルの手前のゲートも開き
地面より建造物が現れ始める遠くの芦ノ湖の湖面に夕日が反射している。

「・・・ですね」

シンジが何かつぶやくが小さすぎて聞き取れなかったようだ
ビルが次々と上昇していき密集した高層ビル街が眼前に広がった
そのビル街の向こう側に夕陽が落ちていく

「これが『使徒』専用迎撃要塞都市―――第3新東京市。私たちの街よ」

広がる光景を前にして、ミサトはシンジに語りかける。

「そして、あなたが守った街・・・」

夕陽が静かに沈んでゆく・・・・・







ミサトのマンションに着いたときすでに周囲は闇に包まれていた
コンフォート17マンション――それがミサトの住むマンションである。
部屋は2LDKになっているが、ミサト自身、まだ引っ越してきたばかりで
ダンボール箱などが雑然と積まれていた。

「さっ、入って」

「・・あ、あの・・・おじゃまします」

「シンジ君。ここはあなたのウチなのよ」

シンジがゆっくりと敷居をまたぐ。

「・・・た、ただいま」

「おかえりなさい」

シンジは嬉しかった、また、ここに住めることが・・・
自分の家はミサトとアスカと一緒に住んだこのマンションのこの部屋なのだから






「まぁ〜ちょっち、散らかってるけど気にしないでね」

慣れとは恐ろしい物だ、以前の経験があるから
まだ、ましな方だと納得している自分がいるのを知ってシンジは愕然とした。

「んぐ、んぐ、んぐ、んぐ、ぶはぁ〜、カーッ。やっぱ人生、
このときのために生きてるようなもんよね」

「飲み過ぎじゃ・・・・」

「まっ、細かいことは抜きにして、生活当番を決めましょう」

プシュ、ゴクッ、ゴクッ
2本目に入るミサト、ペースが速い
「生活当番ですか?私が全般引き受けますよ」
「あら?でもさ〜公平にしましょうよぅ」
「料理には自信がありますし・・・この部屋の様子から見ても私が全般を引き受けた
方がいいです」
「棘がある言い方ね〜リツコみたい」
「それから、お風呂入りたいんですけど着替えは・・・」
「これじゃない?」
ミサトはひとつのダンボールを指さす
「たぶん、そうだと思います」
中からフリルのついた薄緑色のパジャマを取り出すシンジ
下着なども豊富に入っているようだダンボール15個はゆうに有るのだから
リビングはミサトのゴミとあいまって足の踏み場もない

ガチャ
トコトコとペンギンがその中を通ってゆく
ガチャ
冷蔵庫を開けて入っていった
「ペンペンよ、私の同居人。食べ物はさかな全般ね」
「・・・・・」
「あら、驚いちゃったようね」
そうではない。
なんというのか・・・
かわいい・・・のだ。
前はそう感じなかったのだが・・・
ミサトの声をぼーっとした調子で聞き流し、風呂に向かった




「風呂か・・・あまり良いこと思い出さないな」
4歳の時の事故以来、初めはドギマギしながら入った風呂も
慣れてしまった、まあ結果的に良いことになったのだが・・・・








ギュッと手に力が入る、相手を殺すために・・・
苦しみから救うために・・・こうすることが相手を救うと分かってる
だけど、殺せないことも分かってる
いつものことだ・・・そして「     」
ここで目が開き、汗をかきながら身をおこす

「はあっ・・はあっ・・はあっ・・・くっ、また・・か・・・・」

「まだ、駄目なのか・・・僕は」

久しぶりだな・・この夢を見るのも、だからかもしれない
僕と言ったのも・・・・





そのときミサトの声がする。

「シンジ君・・・開けるわよ」

「言い忘れてたけど今日はありがとう、おやすみシンジ君。がんばってね」

 

 

 

 

 

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星の片道キップ第六話 「繰り返すべき、時」 

 

 

 

広い草原の中をトボトボと一人の女の子が歩いている。
夕闇が怪しく近づいている、何かを予感させるような深く紅い闇だった。
空も急速に暗くなっていく、それと共にこの地方特有の黒い雷鳴雲が急速に草原の空
を覆った。

「ママ・・・『さよなら』なんて言いたくないよ」

それでも前に進むことを選び歩みだすことが必要だった・・・あの約束を守らなけれ
ばならない。
ママとの・・・そして私自身との・・・その思いだけが彼女の全てであった、
その強固な思いに綻びや虚偽がないことが彼女の成長の証なのだろう・・・

「もう、誰も悲しませたりしない・・・そうでしょ・・・ママ?」

彼女は知っていた・・・今日が母親の命日だと言うことを、
その今日まで過ごした母親がエヴァで廃人になる前の楽しい日々・・・
彼女の記憶の奥にあった母親との柔らかい暖かい生活、
まったくなかった楽しい日々、それはミサトの家での同居生活にどこか似ていた。
もちろんミサトの家では味合えない安らぎだったが、確かにどこか似ていた。
絶えず誰かが居て、つまらないことを言い合ってた・・・あの頃に
エヴァが彼女の全てであったときは、必死で努力した。
やはり母親も努力家であった・・・研究熱心だった。
母親自身、滅多にアスカに構ってやることができなかったが
クリスマスやハロウィンなどの特別な日には家にいてアスカと楽しい時間を過ごして
いた。
それでもまったくなかった母親との生活はアスカに少なからず影響していた。
甘い生活だった・・・『ママを失いたくない・・・』その思いは日に日に高まってい
き・・・
しかし、現実はまだ年端も満たない子どもには厳しい物だった
父親との離婚後、母親はそれを忘れ否定するかのごとく研究に没頭していった
アスカは悲しかったが紅い海での母親との約束を固く守った。
たとえ、母親がエヴァの中に居ようとも守ってくれる、それを知っているから・・・
・
やがて、家に着き・・・・トン・・トン・・トン・・と階段を上ってある部屋の前に
着いた

ガチャ・・・








2日後

ドイツ。ある墓地。アスカの母親の葬儀が行われている。喪服姿で立っている幼いア
スカ。

「偉いのね、アスカちゃん」

「いいの、今は泣かない」

涙声の中年女にアスカは下唇を噛んで辛そうに言った。
ママに会えなくなったのは辛いけど心に余裕ができた今なら耐えれる
心が強くなったのかな・・・でもこんな強さなんていらなかった。
大切な人を守れなかった・・・辛かった。






私は一.二ヶ月なんにもする気が無くなっていた。
学校から帰って行く途中軽く声をかけられた・・・

「そこのお嬢さん、ちょっとつきあわない?」

軽薄そうなやつ・・・気を悪くした私は無視して行こうと決めた

「あらら〜、嫌われちゃったぁ〜?」

そう言いながらもひつこく着いてきた

「ん〜、じゃあ、さ〜、見てよこれ、セカンドインパクトまえの
いまじゃ、なかなか見つかんないモデルなんだぜ」

「どう?かっこいい深いブラック・・・な?ちょっとつきあわない?」

なに?こいつ、まだ子どもの私がそんなの分かるはずないでしょ?
それともなに?変態なのかしら?・・・あぁ〜もうネルフの諜報部は
なにやってんのかしら?こんな変態早く追っ払ってよ

「やあ、お嬢さん」

「か、加持さん!?」

私はびっくりして思わず『加持さん』って言ってしまった

「ん、なんで俺の名前を?」

「え、そ・・それはネルフの上司から聞いたのよ!」

もどってしまったし・・・怒ってるように聞こえたかな?

「ああ、そうか。それより、さっさと消えたほうがいいぞ」

「なっ、ネルフ!?」

「まっ、そう言うことだ。下手に声をかけないことだな」

ネルフはあいも変わらず一般認識では軍隊みたいに思われている
ここ、ドイツでも国内に広大な研究施設とかを持ってるから・・
あわてて男は走り去った。

「はじめまして、お嬢さん。俺は加持リョウジ、君の身辺警護を担当することになった」

「えっ・・ちょっと、私はお嬢さんじゃないわ、アスカって名前があるの」

「おお、すまん、じゃ、はじめましてアスカちゃん」

私の大事な人・・・ママだけじゃなかった・・・加持さん・・・シンジ・・・ミサト
・・・ヒカリ・・・
いっぱい居たんだ・・・何で気づかなかったんだろ?簡単なことなのに・・・





ともかくこれが2度目の加持さんとの出会いだった

「ねぇ、加持さん、今度どこか連れて往ってよ」

あの日以来、加持さんに甘えてばかりの私。
昨日なんか一緒にドライブしたの。

「アスカちゃん、昨日ドライブしただろ?」

「じゃ、今度、ショッピングに行こ!」

「ははは、まっ、そのうちにな」

加持さんも居ないときは寂しい・・・このころの私って勉強ばっかだったな


今はやることがない・・・


暇・・・・


寂しい・・・・・


寒い・・・・・・



・・・・友達欲しいな。ヒカリ何してるかな?
あの熱血バカとまた、喧嘩でもしているのかな?



寂しいな・・・・・・・







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第三新東京市の街の中でパレットガンを構えるエヴァ。
センターには第3使徒サキエルが入っている、十数発の銃弾を打ち出す。
命中し爆発しながら倒れていく使徒――だか、それはすべてシュミレーションの中の
出来事だった
回線を開き喋りかけるミサト。


「どう、シンジくん調子は?」


「いいですよ。でも、もっと強力な物も欲しいですね」


「どうして?理由を知りたいわ」


リツコが少し心外そうなしゃべり方で聞く。


「そうですね、この前の使徒にも言えることなんですけど、
使徒もエヴァもATフィールドが張れますよね。」


「ええ、ATフィールドはATフィールドでしか浸食できないことも分かったわ」


「で、この前の時に感じたんですATフィールドにも強度があるってことを」


「強度?じゃあ・・その大きなエネルギーさえあれば
ATフィールドも貫けるってことになるわね」


「ええ、ですから。検討していただけると嬉しいのですが」


「わかったわ、今日はもう帰ってもいいわ」










「で、リツコ何のよう?」


ミサトはコーヒーを飲みながら聞いた


「シンジくんのことでね・・・・・」


「彼がどうかしたの?」


「彼じゃないわ、彼女よ」


「なにって?9年前会ったときはどこか女の子っぽかったけど・・」


「髪の毛を採取して染色体をしらべたら完全な女性なのよ・・・女装しているのかと
思いもしたけど」


「じゃ、あれはシンジくんではないの?」


「でも、DNA鑑定をしたけど確かに9年前のシンジ君の物と同じなの」


「じゃ、戸籍は?」


「調べたら、6年前に更新もしくは交換されているの『碇シンジ』から『碇ケイ』に」


「そういえば、シンジくんのIDカードはっきり見てなかったわ
司令もあの慌てぶりからすると知らなかったようね」


「(司令も興味なかったのかしら・・・実の息子に・・・いえ、娘に・・・かし
ら)」


「リツコ?リツコ!何、ぼーっとしてるの?いろいろ知りたいこともあるし
今度うちに夕食食べにこない?もちろんごちそうするから」


「えっ!ええ・・・・・・(5年前・・・確か・・あの頃・・・)」


「まだ、ぼーっとしてる。まっいいわ、じゃねー」


「(あの模擬戦の頃・・・・。司令も知らない。マギにも不審な点はない。何者なの
彼女?)」


知らぬが仏、リツコはミサトのごちそうを食べなければ
ならなくなったことに気づいていない。










夏の朝・・・コンフォートマンション・・・・・
一人の少女がせわしく家事をしている、かわいいひよこのアップリケが
ついたエプロンをつけ2人と一匹分の食事を手早く作っている。


「ミサトさん、おきてくださ〜い」


しかし、ミサトに起きる気配はない。しょうがなくケイがふすまをノックして


「起きないと禁酒、ネルフに遅れちゃいますよ〜」


その部屋の主人は普段の怠惰な生活ぶりを変えられないようだ・・・


「もうちょっとぉ〜〜・・・ん!?いい匂い〜〜」


バッとふすまを開けキッチンに向かう・・・冷蔵庫からビールを出し
ケイの作った食事に箸をつける。


「どうですか?」


ケイが心配そうにミサトに聞いた。


「ん〜〜、べりーぐっと」


味音痴であるミサトに誉められても普通は嬉しくないのだが・・・
しんぱいはしんぱいなのだ・・・・


「ケイちゃん、良い奥さんになれるわよぅ〜〜」


ミサトはビールを片手にそう言った、夫はミサトに適役なのだろうか?


「・・・!?。誰に聞いたんです?まだ言ってなかったような気がするんですけど」


「あっと・・・ゴクッ・・・ゴクッ・・ぷはぁ〜〜。・・・えっーっとぉー、リツコ
よリツコにきいたの」


「あっ、そうですか。」


ペンペンが久しぶりの・・・いや、初めてのまともな食事を満足そうに食べていた。


「じゃ、学校行って来ます〜〜」


「いってらっしゃ〜い」


ケイが出ていったのを確認すると電話をかける。


「・・・・・今日から警護して、マンションを出たわ」












「今日、転校してきました。碇ケイです。今までは松代の方にいましたが
親の都合で転校してきました。よろしくお願いします」


沈黙する教室・・・・居心地が悪そうにケイはひとまず言われた席につく


「・・・とまあ、そういうわけだ。碇はあとで手続きの続きを職員室までしにきなさい
一時間目はホームルームとする今日はすることがないので各自、自由にしなさい」


ガラッと扉を開け出ていく担任・・・突然ワッとわく教室。


「ねぇ、碇さんって綺麗ねー、いいなー」


「碇さん、家族って何人?」


「ケイちゃんって彼氏いる?俺、立候補しよっ」


「彼氏って居るの?松代って遠いよね・」


「じゃ、遠距離恋愛なの?う〜ん、たいへんねー」


ケイが何も言ってないのに進んでいく話題・・・・
少し引き気味のケイの周りには教室中の生徒が集まっている。
唯一、綾波レイだけが読書をしていた。
ヒカリはいつもはしっかり注意するのだが、
ケンスケやトウジも輪に加わっている、それを見てケイは安心していた。


「(トウジの妹助かったんだ・・・じゃなきゃ、ここにトウジ居ないもんね
シェルターの配置とか覚えて置いて良かった・・・)」












授業が始まった。教師は数学の授業とは関係なく、セカンドインパクトの想い出を語
り始める。
ケイのラップトップパソコンに教室内の生徒から通信が入る。


「パイロットというのはホント?」


ケイはとりあえず《No》と入れた。


「守秘義務とかあるんでしょ、ネルフの関係者ばかりだし・・ネ?オネガイ」


しつこい・・・しかし今度も《No》と入れた。


「そういわずに〜」


しょうがない・・・いずれ分かることだし・・・《Yes》


「ええ〜〜〜〜っ!?」


騒然とする教室内。同級生が次々に質問する。


「あのロボットの名前は?」
「恐くなかった?」
「どうして選ばれたの?」


ケイはしかたなく一息着いてから用意していた言葉を。


「・・・・ノーコメント」


「ええっーー!?いいじゃなーい」


言ってみた・・・それでもざわざわとする教室。
















昼休み、教室で仲良くなった友達と一緒にお弁当を食べているケイ。
ヒカリもその中の一人だったりする。レイは・・・一人でパンを食べている、


「ねぇ、綾波さんっていつも一人なの?」


ケイはいろんな感情をレイに持ちすぎているため、なかなか声をかけられないでいた。


「そうね、あの娘から話しかけるのも、誰かと話すのも見たこと無いわねー
それよりケイって、パイロットなんでしょー、今日も午前中、居なかったじゃない」


「だからー、ノーコメントだって。」


レイに心情の変化はないようだ・・・でも変えなければならない


「非常召集・・・・先行くから・・・・」


レイはそう言うと足早に教室を出ていった。
後には驚いている生徒たちが数名・・・ケイも荷物をまとめると教室を後にした。
レイが喋るのを見たこともない生徒ばかりなのだろう・・・
無口で物静かで・・・レイは学校では確かに浮いた存在なのだろう・・・










第3新東京市内にサイレンとアナウンスが響く。
「ただいま東京地方を中心とした関東、中部の全域に特別非常事態宣言が発令されました。


速やかに指定のシェルターに避難して下さい」


「総員第一種戦闘配置」


ゲンドウ不在のため、冬月が指揮をとる。第3新東京市は戦闘形態に移行する。


「中央ブロック収容開始」


サイレンが響き、第3新東京市中央部のビル群が地下に沈んでゆく。
沈下したビルはロックボルトで固定され、同市の地下に広がる
ジオ・フロントの天井部に収容された。




トウジもケンスケも、そして民間人もすべてシェルターへと避難している。
TVには報道管制が敷かれ、真実は伏せられていた。


「こんなビックイベントだというのに」




「委員長」


「なに?」


「わしら2人、便所や」


「もう、ちゃんと済ませときなさいよ」






「あれか・・・」


「そうだよ、トウジ。だから2人じゃないと駄目なんだ」


2人が歩いている前方30メートルあたりにおっきな鋼鉄製の扉があった。


「まっ、しゃーない・・・ケンスケそっち頼むわ」


「いいよ、じゃ・・・いち・・にの・・・さん!」


・・・とケンスケはそこで気を失った、後頭部への荷重攻撃で・・・・


「・・・んっ――」


「!?」


トウジもケンスケと同じく正確な正拳突きで気を失った。




ズルズル・・・・


「はぁー、もうケイも女の子に頼むことじゃないでしょ!?」


ズルズル・・・・


「それにしても、危ないとこだったなー。もう少しで外に出ちゃうとこだったわ」


「ふぅ、誰か呼んできた方がいいかしら?」


さっきから愚痴ばっかり吐いているこの少女・・・
見たところ年は運んでいる(引きずっている)少年と同世代らしい。


ズルズル・・・・


「ケイに早く会いたいわ、もう、『転校を一週間、早くして』なんて
このことだったのかしら?呼んでくれたのは嬉しいけど・・・」


334シェルターまであと300メートル。
ケンスケとトウジの身体が心配だ・・・ちなみに階段もある。


「ふぅー、一休みっと」


カンカンカン・・・
誰かが階段を上ってくる。
ヒカリだ、トウジの心配でもしているのだろう・・・ケンスケは―――


「あっ」


慌ててトウジの側に駆け寄るヒカリ、
気を失っているだけと分かってほっとしている


「えっとお、その子たちね。外に出ようとしていたから連れてきたの
私一人じゃ辛かったの、あなた運んでくれる?」


「えっ、そうなの、でも気を失ってる。あなたがやったの?」


ヒカリは不機嫌そうに聞いた・・・トウジに手を出したことが気にくわないらしい
表現に気をつけた方がよい。


「ええ、しょうがないじゃない。私の説得じゃ・・・無理だと思ったし」


「ところで・・・あなた・・・だれ?」


「私は霧島マナ、一週間はやく転校してきました。よろしくね」


そう言って少女は右手を差し出した。


「えっ、転校生?こ、こちらこそよろしく。私は洞木ヒカリ」


二人は奇妙な出会いをした。

 

 

 

 

 

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