星の片道キップ第11話「マナ・・・」
 

 

「おっはよう!レイ、マナ、ヒカリさん!」
手をあげて答えるマナ、何やら口をモゴモゴさせている
「「おはよう。」」
と返すレイとヒカリ、いつもの登校風景だ。
「マナ?何を食べてるの、もしかして・・・寝坊しちゃったから
そのサンドイッチが朝食だとか?」
「もごもぐ・・・もぐっ、もごっもぐもぐ」
口の中にサンドイッチがあるのに喋ろうとするマナ、
日本語になっていない・・・・ヒカリはあきれ顔でレイは無関心だ。
「そう、そうなのよっ。今日の朝は珍しく寝坊しちゃったのよ」
校門も近くになったので焦りながら言い訳するマナ。
「そんな、毎日こんな調子じゃ言い訳にならないわよ?」
そう、レイとケイはいつも比較的早い時間帯に学校に登校するし、
今日はヒカリも日直なので3人そろって登校している。
マナはケイと一緒に登校するために早く起きようとするのだが
いつも、寝坊して朝食はいつもサンドイッチになってしまうのだ。
 

「今日は転校生が来るらしいわ、さっき職員室で聞いたの」
「へぇ、アスカさんかしら?ねぇ?ケイ、そうじゃないの?」
「たぶん、そうじゃないの。
疎開する人ばかりだし転校して来るのはネルフの関係者だろうから」
「アスカさん?あの昨日の・・・知っているの?レイさんも。」
「エヴァンゲリオン弐号機のパイロット、惣流・アスカ・ラングレー、14歳。
日独のクォーター。昨年、ドイツの大学を主席で卒業。昨日づけで本部に配属」
レイが棒読みで簡略履歴を読むように答える
「ええっ!大学卒業しているの?凄い人ね・・・いろんな意味で凄い人だったけど。」
「じゃ、ケイはどうなるのよ?ネルフの技術部に所属してるのよ?」
「あっ、そうだっけ・・・」
「ヒカリさんってうっかりしているのね?」
ようやくヒカリに受け答えするケイ、今日は考え事が多いらしい
ぼぉーっとしている時が考え込んでいる時だとマナは戦自に
いたときから知っていたのでケイに気を利かせて話題をうち切った。
 

「では・・・教室に行くので、ついてきてくださいね」
老教師はそう言って廊下を歩き出す
私は黙ってあの教室に向かって歩いていく、1年にも満たなかった
私の本当に楽しかった中学校の生活、でも半年過ぎてからかな?
ミサトの家と一緒でギクシャクし始めちゃったのは・・・
あの教室には・・・ヒカリがいる、声を一番最初にかけよう。
そして、私が苦手としたレイがいる、でも仲良くしたい。
あの熱血バカがいるし、メガネもいるだろう・・・でも・・・・・・・・
でも・・・・・・シ、シンジはいるのだろうか?
 

綺麗な筆記体で黒板に惣流・アスカ・ラングレーと書いてゆく。
「はじめまして、惣流・アスカ・ラングレーです、日独のクォーターです。
ネルフの関係でこちらに来ました、あと彼氏はいないし募集もしていません」
「じゃあ、惣流さんは洞木さんの隣の席に座ってください」
席に着くアスカ、教室の男子たちが羨望のまなざしで眺めている。
「はじめまして、惣流さん。私は洞木ヒカリよ」
「はじめまして、ヒカリさん。仲良くしましょ、昨日はゴメンね」
「?」
なぜ謝られたのか分からない上にアスカはクスクス笑いをこらえている。
「えー、では一時間目は・・・おや?自習ですか・・・おかしいですねぇ?
まぁ、そう言うわけですから各自、有効に時間を使ってください」
老教師は首を傾げながら教室を出ていく。
 

「ねぇ、ドイツってどんなところ?」
「彼氏、募集しないのはドイツで失恋したとか?」
「綺麗な髪〜、腰の高さが違うわぁ」
がやがや騒ぎ出す教室、ケイ、レイ、マナは静観する。
ヒカリは・・・・・案の定、爆発する。しかし、自習と言うこともあり
いつのまにか、ヒカリさえもアスカに質問する輪の中に加わっていた。
 

時が移って昼休み、仲良くなったアスカと数人の女子たちが
輪を作って弁当を食べている、ヒカリはアスカの隣をキープして
ケイやマナ、レイはつかず離れずと言ったところをキープして弁当を食べている。
ちなみにアスカは頑張って作った手作り弁当、ケイはマナ、レイ、ミサトに自分と
4人分の弁当を作っている、マナは時々(おこずかいに困ったとき)ケイの弁当を
ケンスケ経由で密売している、ケイはお弁当はかなり見た目も良く
味もその2つ上を行くくらい良く、かなりの値がついている。
戦自の時から続いているマナによるケイの手作り弁当の横流しは
戦自の時はムサシ限定(ムサシがいないときはケイタ)であったが
ネルフに来てからはケンスケと手を組んで密売ルートは拡大の一途を
たどっている、手口は至って簡単。
 

「ケイ〜、ごめん。私の友達がお弁当忘れちゃったのよ、
私のお弁当その子に渡しちゃったの、ケイのお弁当つまませてっ」
そう、こんな感じで月に5.6回程度密売している。
 

そうすると、マナは月に5.6回も経済的な危機に直面しているかというと
そうではないような・・・そうではあるような?
そのマナの経済的なピンチはケイが関わってくる、
マナのケイとのデート?にマナがケイに奢っているからだ、
そんな状況になってくるとマナはケイのデート代をケイのお弁当でまかなうので
利益はケイに還元されていると言って良い状況でプラスマイナス0と言うところ、
しかし、マナ・・・そこまでしてデートしたいのか?
もしかしたらこの密売の仲介料を取っているケンスケが一番利益を得ているのかも知れない。
 

「何者なの、こいつ?」
学校が終わってネルフに向かう、顔合わせと本部の説明があった後
端末を使って「サードチルドレン・碇ケイ」について調べている。
アスカは「こっち」にきて以来ネルフの重要情報を秘密にする体質にいらだち、
パイロットとしてのカードレベルは頼りにならないと判断して
技術部に就職して研究員としてのカードレベルを手に入れていた。
 

碇ケイ――14歳、技術部二佐待遇、エヴァンゲリオン初号機専属パイロット。
       六年前に戦自からネルフにヘッドハンティングされ、
       松代でエヴァンゲリオンの武器装備の研究開発を担当。
       戦自所属時は第七世代有機コンピューターを研究開発。
 

「へぇ?すっごいわねー」
単純に驚いてしまう、こんな奴がいるなんて・・・
「でも、この・・・『六年前の戦自マギとの模擬戦にてネルフマギに圧勝』って、
ところが凄いわ、あのマギに勝つなんてしかも『圧勝』なんて・・・」
アスカも技術部に就職し、マギに勝つことがどんなに凄いことのなのか
理解しているだけに驚きもひとしおといったところか・・・
「だとすると・・・マナの奴は幼なじみだということになるわね。
マナの方から聞き出してみようかしら?」
端末を切って部屋から出ていく、通路の向こう側で加持を見つけ
走ってよっていく、加持に隠れているもう一人の人影を見つける。
「加持さーんっ」
「おっ!アスカじゃないか、今日はどうしたんだい?
顔合わせだったはずだろう、顔合わせはもう済んだのかい?」
「ええ、もう終わって本部の説明も受けた所よ。
加持さんこそ、こんなとこでナンパでもしてるの?ミサトに殺されるわよ。」
「ははは、そりゃ怖いな。でも、俺は大人の女性しか口説かないんでね」
サッと加持が体をずらすと加持の後にいた人物が現れた。
「そうね、加持さんは私みたいな子供を相手にしないと思う。」
ケイはうんうんと頷きながら加持に相づちをうつ。
「!!!。サードチルドレン、あんただったの?」
「まあね、加持さんとちょっとお話ししてただけだし、
そろそろ、仕事に戻るわ。遅れたらリツコさんに叱られちゃうしね」
「じゃあな、ケイちゃん」
パタパタ、手を振ってケイは去っていった。
「ねぇ、加持さん。あいつって・・・どんな奴だった?」
「どんな奴ったってなあ?・・・不思議な子だね」
 

確かにマギに勝っただけはあるな?・・・碇ケイちゃん。
通路で偶然を装い近づくと話しかける、この方法で加持はケイと接触した。
「やぁ、今日はりっちゃんの手伝いかい?」
「あれっ?加持さん仕事ないんですか、
私はこれからいっぱいお仕事があるのに・・・」
じぃーーっと睨むケイ、眼がすわってる。
ちょっと引いた加持だったが、本来のスタイルを取り戻すため
飄々とケイの愚痴を軽く聞き流し『デート』に誘うため話を切り出す
「えっ?私とですか・・・いいですけど」
あっさりとOKするケイ、加持を警戒するとかそんな素振りを見せない。
「それと・・・ミサトさんに殺されちゃいますよ、私なんか誘って。
言っておきますけど、私って未成年ですからミサトさんみたいにビール飲めませんよ」
「おいおい、いくら俺でも葛城とケイちゃんを一緒にしないさ、
あいつは今でも朝っぱらからビール飲んでるんだろ?」
「そうなんですっ。まったく・・・・・」
ケイの思考は日本人女性として理想的な理論を基盤としているらしい・・・
俺にはとても葛城とケイちゃんを同じ日本人として認識でききれない。
こりゃあ、将来碇ケイを嫁にもらう奴は相当の果報者だな。
「ところで・・・」
ネルフ内では盗聴されていないところはないので、
ケイの耳元で囁くように鎌を掛けてみる。
「司令は何を考えていると思う?」
押し殺したような重い言葉、まさにスパイとしての仮面を
かぶった加持の声・・・それにケイはきょとんとした顔で
「は?分かるわけないじゃないですかぁ」
とあきれたように答える・・・加持にもこの無垢な微笑みが
ケイの真実なのか判断できなかった。
 

階段を上っていく、ある階で通路に移る私。
ポケットから鍵を取り出しドアノブに差し込み鍵を開ける、壊れていた鍵を直してもらって、
今ではこの・・・出かけるときは鍵をかけると言うことが習慣になってしまった、
習慣・・・もう一つの習慣は『ただいま』と言うこと。
誰もいない私しかいない『寂しい家』だけどケイさんがくれた
ガラス細工の置物・・・と、金魚が赤と黒が一匹づつ、計2匹いる。
どこかのお祭りでケイさんがとって飼っていたのを譲ってくれた。
 

「私・・・家に帰りたくない」
ケイさんの家に行ったとき私は寒さにふるえる幼子のように言った。
「寂しいの?」
わからない・・・・・でも、一人は・・・・だめなの。
「・・・・・・・わからないけど、イヤなの。一人は・・・」
じーっとケイさんを見つめて言うと、ケイさんは部屋に行って
金魚鉢に入った金魚2匹を持ってきた。
「これはね、マナとの絆なの。
まだ、戦自にいたときにね。近くの神社でお祭りがあってマナに誘われて
行ってね、マナとそこの屋台でとったの楽しかったマナとの思い出、
それでマナとの絆が深まったかな?
どうだろう・・・その思い出がマナとの絆の一つだということは言えるの。
でも、結局マナは一匹もとれなかったから私が2匹あげたわ、
きっと今も大事にしていてくれると思う。
レイにもこの金魚あげるね、この『命』を大事にしてあげて・・・・生きているから。
生きているものを育てることは良いことなの、
寂しさを紛らわすためにしてる人もいるけどミサトさんは言っていたわ
「家族として見ているって」・・・・ペンペンを。
「そのでめきん・・・私にくれるの?
私・・・その・・・・ありがとう、ごめんなさい『帰りたくない』といって困らせてしまって」
「ううん、しょうがないよ。一人でいると寂しいもの・・・」
 

キーホルダーには2つの鍵がある。
一つはこの『家』の鍵・・・もう一つは『葛城三佐の家』の鍵・・・
ケイさんは『いつでも来てねっ』と言ってこの鍵を渡してくれた。
葛城三佐も『離れて住んでいるけど私はあなたのことを心配しているし
・・・・・・・・・・・・・・・本当はね、家族として迎えてあげたかったんだけど。』
家族・・・・・・私もケイさんの大切な人になれたの?
葛城三佐・・・私を家族といってくれた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・嬉しい、そうかもしれない。
それ以来、毎日のように葛城三佐の家に行くようになる私。
このキーホルダーは私の絆になった、司令との絆である眼鏡は割れて消えた。
人との・・・葛城三佐やケイさん、洞木さん、霧島さんとの絆。
私は・・・絆を手に入れれた、失いたくない。
『私には何もないもの』
満月の下で言った言葉。過去は消えない、でも明日がある。
だから私は今を明日を大切にする。
 

 

 

 

 

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星の片道キップ第12話「憂鬱」
 

 

「だっだいまぁー」
マナはそう言うと決まって一番最初にすることがある
「日記に挿し絵を付けること・・・だっけ?」
ケイとの交換日記をはじめて既に1ヶ月半、
ノートを開き今日あったことを書き連ねていく、
ぽりぽりとスナック菓子を食べながら1ページの半分程度まで書いていく
「今日は・・・レイが、あっ!ヒカリも・・・よしっ!終わりっと。
あとは挿し絵を描くだけね〜♪」
すらすらと一気に書いていく、マナは綺麗な文字とは対称的に挿し絵が
小学校◯学年レベルなのが気になるが、日記は本人は気にしていないので問題なし。
この家には家族がいる、1匹の金魚だ、マナはとても大切にしている・・・・
ケイに3匹もらった内の、一匹はムサシに、一匹はケイタにあげた。
きっとまだ生きていると思う・・・いや絶対に生きているっ、
世話を怠ったりしては・・・ないと思う・・・ケイタは。ムサシは・・・・心配だが。
 

「ビールもう一本だけ・・・ね?」
ひたすらケイに媚びるミサト、保護者としての自覚なし、権利なし、威厳なし。
まさにパーペキな保護者失格者である、ペンペンもこの家では実力者ナンバー2だろう。
ナンバー1はもちろん、この家の生活のすべてを支えているケイである。
ペンギンとして手の掛からないペンペンとは違い、
手の掛かりすぎる、人として・・・いや一人の大人として
余裕で失格しているミサトの地位は何処にあるのだろう?
これでアスカが来た日にはますます、葛城家での地位低下に拍車がかかるだろう。
アスカは以前よりも料理をするようになった、
義理の母親との仲が良く、頻繁に一緒に料理をしたためだ。
アスカが積極的にアプローチした結果、本当の意味で家族となれたようだ。
ただ、アスカの中でママは依然として弐号機の中のママであったが・・・
ふっきれたと言うわけではないが彼女が大人の女性になったとも言えるかも知れない。
 

「やぁ、良く来てくれたね。よく似合っているよ、ケイちゃん」
たっ、たっ、たっ、と駆けてくるケイに加持が答える。
周りの目を引く組み合わせだろう、青を基調とした清潔感がある服装の美少女と
長身で・・・後で髪を束ねてサングラスをしている男性。
一見するとセカンドインパクト前の危ない関係にも見えなくもないが。
ケイと一緒に車に乗り込む、車でドライブするなら男性である加持が
ケイを迎えに行くべきなのだろうが、なにぶん碇ケイは葛城ミサトと同居中の身であり、
それこそ迎えにでも行ったら返り討ちに合い三途の川を流されてしまう。
「今日は特別に俺のお気に入りの場所に案内しよう」
「へぇ・・・どんなところなんですか?」
ケイも『何処?』などと野暮なことは聞かない。
お気に入りの場所?スイカ畑はまだ作っていなかったよね?と、
考えているだけだ、しゅん、しゅん、と快速とも言うべきスピードで
車は外輪山に向かっている、やがて町並みが途切れて森の中を進んで行く。
白い橋を通っていく、ここまで来るとマギの影響ともいうべき監視の眼も届かない、
ここは日向とミサトの密会の場所でもあったところだが
今はただ静かに風が吹いて、車一台もすれ違わない。
 

「ここですか?」
「ああ、森林公園だよ。
中にはいろいろと休憩するための施設とかがあるし、昼食はそこでとろう」
車を止めておき木々が一定間隔で生い茂っている公園を散策する。
「涼しいですね、標高が高いのもあるんでしょうが。
木々の中はビルの中と違って落ち着きもしますね。私、気に入りましたよ」
「そうか、それは良かった。アスカも意外とこういう所が好きなんだよ。
葛城はこんな所でさえビール片手に騒ぐだろうがな・・・・ははは」
苦笑する加持にケイは相づちを打つ。
凄い偏見だろうが、どこかでその可能性も否定できないケイだった。
今頃某マンションではくしゃみをしている、三十路の女性がいるだろう。
いや、もしかしたら・・・まだ熟睡中かもしれないが。
 

2時間ぐらい散策し、木々の中を進んでいくと開けたところに出た、
そこは湖があり鳥たち水遊びをするように水面で羽ばたいていた。
「へぇ・・・」
眼前に広がる風景に感嘆の声が出るケイだが、
そのとき、おなかがぐぅーとならなければ感動もしとしおだったのだろうが・・・。
「もう昼飯にしようか?」
加持が苦笑してという。
「ええ、そうですね」
恥ずかしさのあまり俯いて答える、頬が紅潮しているのが自覚できた。
 

「俺は山菜定食のBだな、ケイちゃんは何にする?」
「私は・・・えっと、これにします」
「じゃ、決まりだな。注文しておくから席を取っておいてくれ」
「はい、わかりました」
ケイは店内を見渡し窓際の人が少ない離れた席を取る、なんとなく・・・
今日の加持の行動に何かを察したからだろう、
加持に対して警戒する必要はまったくないので頼ってみようと思ったのだ。
「ほんと・・・良いところ。加持さん、こんな所も知ってるんだ。」
独り言を言い、席に座って加持を待つことにした。
 

「おっ、うまそうだな。」
「ええ、私もつくってみたいですね」
「ケイちゃんは料理も得意なんだって?
りっちゃんから聞いたよ、りっちゃんに弁当差し入れたんだろう?」
「まぁ、一通りのことはできますけど。」
「そう言えば・・・りっちゃんが聞いてきたよ、マギのことで。
ケイちゃん知っているんだろ、6年前の戦自の技術主任が誰なのか?」
「ええ、まあ」
冷や汗がでてくる、まさか加持さんにも聞くなんて。
バレる、確実にばれてしまう。
「それより、早く食べましょうよ。冷めちゃいますよ」
「ああ、そうだね」
話題を逸らすのに必死になってしまった。
 

「今日はありがとうござます、とっても楽しかった・・・」
「いや、俺がつき合ってもらったんだし。
良かったらまたつきあってくれるかい?」
「またまた、加持さんったら・・・ミサトさんに殺されちゃうんじゃないですか?」
「たははは・・・そうだな、それはいえる。」
「じゃ、また明日本部で・・・」
走り去っていくケイに手を振りながら呟くように
「明日、何かあったか?」
この男、仕事しているのか?
 

「サードチルドレン!ちょっとつき合いなさい」
腰に手を当てて、びしっと指さすアスカ。
周りにいたクラスの女子男子全ての生徒たちが注目する、
今は昼休みでみんな弁当や購買パンを食べている。
「いいわよ惣硫さん、何処で食べるの?」
「何処って・・・そうねぇ、屋上よ!」
「マナも誘って良い?」
「まぁ、いいわ。早く行くのよ」
ケイの手を引っ張るようにして屋上に行く。
マナは慌ててお弁当をケイのかばんから取り出してついていく。
「ちょっと、まってよ〜」
 

私が誘って聞き出してやるのよ!
そう、アスカは怒っていたケイがアスカに素っ気なさ過ぎるのだ。
あのレイでさえケイに愛想良く、まるでシンジのように接して
ケイもレイに良くコミニュケーションしているのに・・・
マナはケイにまとわりつくように仲が良いし、ヒカリも仲が良いらしい。
それなのに!同じチルドレンである私にはまるで避けているかのようにしている
私が来日してから4日間ちっとも必要なこと以外に話しかけてこない。
それには訳があるのだが、この際アスカには言っても聞く耳持たないであろう
アスカが来日したのは木曜であり、初登校が金曜であった
そして、土曜はシンジの時にはなかったリツコの手伝いがあり
午前中はネルフにいて登校はしていない、
このときにファーストチルドレン・綾波レイとの『こちらの世界』での初接触があり
アスカはカルチャーショックを受けたかのごとくレイの態度の変化に驚いた、
もちろんレイとは仲良くしたいと願っていたのでプラス面になったし、
マナともケイがいないこともあって友達になった。
昼食をネルフの食堂で取り、自分の研究室にでも行こうとしていたときに
通路で加持に出会い日曜の『デート』に誘われて日曜はマナとも
遊んでおらずアスカとの接触はシンジの時と段違いに少ない。
 

「ねぇ、あんたってさ。司令の娘なのよね?
ひいきされているんじゃないの、いろいろとさ。」
アスカは相手が感情的になるように嫌みをめいっぱい込めて言う、
このケイという少女は知ったところによると感情的になることは皆無だという。
容姿や雰囲気から落ち着いたところが伺い知れるのだが、
実際はどうなのだろう?私はまず相手の本音を知りたかった。
「そうでもないわよ、リツコさんにはこき使われるし。
ミサトさんは保護者として・・・いえ、女性として余裕で失格してるのに
同居している身としてはこれも運命とあきらめているもの」
「へぇ、辛烈なことをいうのね。
確かにミサトはアレだけどさ・・・」
マナはアレと聞くと顔色を悪くしてとめる
「やめて、アスカ。そのことは言わないで・・・」
「えっ・・・まさか、マナ食べたの?」
隣でケイが何か感じて冷や汗を流してマナから遠ざかる、
アスカは不思議に思い、マナはギラリとした眼をケイに向ける。
「ケイ、確かケイが誘ったんだよね・・・」
背中から暗くて重いオーラを出しながらケイに近づく。
「いえ、そのね・・・話せば分かってもらえると思うし、
マナだから・・・ね?この話は後でするから」
ケイにしては珍しく焦っている、アスカもそんなケイの様子を見て
「そうよ、お弁当がまずくなっちゃうわよ?」
と言い止めるためにマナのお弁当からつまみ食いをする。
「隙ありっっっ、ぱくっ、もぐもぐ。おいしいっ♪」
「ああああっ、私が取っておいたエビフライがぁ〜」
「マナ、私のあげようか?」
ミサトカレーの謝罪の意味でエビフライを譲渡した。
「えっ、いいの?ラッキー♪
やっぱりケイのお弁当は美味しいわ〜」
ぱくぱく美味しそうにケイの手作り弁当を食べるマナ。
「あ〜あ、私だけパンかぁ。」
アスカはケイの美味しそうなお弁当を見て愚痴をこぼす、
明日からはたぶん自分で作ってくるだろう・・・面倒になったら
同居するであろうケイに任せようと考えるアスカだった。
 

そういえば、マナって戦自のスパイだったわね。
どうなちゃったのよ?もう既にマナがここにいるだなんて・・・やっぱり
全ての変化の中心人物は碇ケイに関わっているわね。
 

一方ネルフの制御室では加持がリツコを口説こうとしていた。
「やせたかな?」
後から抱きつく加持、リツコは動じず手を動かしながら
「あら、そうでもないわ」
そう答えて手を休めて振り向く。
「涙の通り道にほくろがある女性は一生悲しい恋をする運命にあるからな」
「いいかげん、離れた方が良いわ。外からこわぁ〜いお姉さんが睨んでいるから」
ガラス越しにじっーーーーっと頬を膨らませながら睨むミサトがいる。
 

「あんた!弐号機のひきわたしがすんだら、さっさと帰りなさいよ
昨日だってケイちゃんを連れ回していたのは知ってるんだから」
「あれ?ばれちゃった、ちょっとカワイイかったからデートに誘ったんだよ」
「もうっ、あんたは本当に軽いんだからケイちゃんに近づくの禁止!」
「今朝出向の辞令が届いてね、ここに居続けだよ。
また3人でつるめるな、昔みたいに」
そのとき警報が鳴った、第七使徒襲来である。
「総員、第一種戦闘配置」
不在の碇司令に代わって副司令が叫ぶ、
エヴァ初号機、弐号機に出動命令が下る。
 

 

 

 

 

 

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星の片道キップ第13話「・・・なる理由」
 

 

 

 

「どうしよう?」
 

アスカはここに来て迷っていた、今回の使徒はシンジとのユニゾンで
倒したのだが原因は一つ、碇ケイである。
今までの使徒戦でシンジ以上の結果を出したチルドレン。
確かに凄いと思う、でも・・・何か引っかかるのよね。
初号機って碇ユイさんの魂が入っているのよね、じゃあ・・・・あいつはいったい?
 

「どうしたの?惣流さん。」
 

回線を開き尋ねてくるケイ、第三新東京市からエヴァを輸送して
今回の使徒を水際で叩く作戦はミサトの案によるものだ。
ただし、第三新東京市の稼働率は59パーセントと決して低くない数字なのだが
先手を打てるものなら打つ方がよいのである、もちろん・・・
59パーセントといっても使徒の攻撃能力が分からないのでは対処のしようがなく、
数多くある武器も役に立たせなければ意味がないので、
ミサトの判断はこの戦闘に限定すれば正しい
 

「何でもないわ、さあ。行くわよっ、援護してっ」
 

弐号機は海から飛び出した、使徒に向かって全速力でダッシュする。
そして、思いっきりジャンプして・・・使徒を真っ二つに切る。
切断面がぴくぴくしている・・・ふと、アスカはもう一回切ってみたくなったが
四体に分裂されては困るので柄の部分で片一方を吹き飛ばす。
そこまでは良かったのだが、2体に分離する使徒。
劣化ウラン弾で使徒の構成体を吹きとばすが、すぐに再生する。
 

「ミサトさん、きりがありません。
いったん引いて策を練りましょう、いいですか?」
 

「ミサト!引くしかないわ。こいつ、すぐに再生しちゃうわ」
 

パイロット2人の意見が一致していること、
使徒の再生能力が異常なほど高いことも手伝ってかミサトの決断は早かった。
 

「・・・総員退避!エヴァ両機は迎撃をしながら、本作戦のAポイントで
輸送機による回収を行います、日本政府にNN爆雷の要請して!」
 

2体の使徒を迎撃しつつ、Aポイントで回収される。
その3分後にNN爆雷による、構成物質の28パーセントの焼却に成功する。
ネルフ初の敗戦であった、使徒は修復のため沈黙しているがマギの
計算によると7日後に再侵攻が可能になる自己修復能力を持つことが明らかになる。
 

 

 

 

 

山だ・・・書類のしかも、50枚や100枚ではない・・・軽く2千枚くらいはあるであろう
日本政府からの苦情から始まり、委員会の被害報告要請書や国連からの
要請書がミサトのデスクをわがまま顔で占拠している。
元々、ミサトのデスクは日向やリツコ、ケイといったミサトと仲が良い人々の
好意によって時々ではあるが整理整頓されているのだが、
いかせんデスクの使用者であるミサトにはそんな高等な技術を持ち合わせていない。
 

「あーあ、今回が初めての敗戦ってことかしら?」
 

「そうね、まだあるわよ?これが戦自からの要請書よ」
 

そう言ってリツコは段ボールに入った書類をミサトのデスクの一番上に
積み上げる、少しぐらつくがあまりの重さのために書類は倒れない。
 

「大変だわぁ、首がつながるいい方法はないかしら?」
 

「いい方法?世の中そんな甘くないのよ、でもこれが・・」
 

リツコは白衣のポケットから二枚のディスクを取り出す、
一つのディスクには『マイ・ハニーへ』と書かれている、そしてもう一枚には
流れるような綺麗な文字で『第7使徒の修復能力に関する考察及び対処方法』と
長々とかかれている、リツコ自身も二枚目のディスクには驚かされた
一枚目のディスクは加持からミサトに渡すように言われた物だが
二枚目のディスクはパイロットである者からの視点で考察できる範囲で書かれながら、
これをこのまま技術部の報告と偽って提出しても違和感はない物だったからだ。
 

「それ、アスカからなのよ、信じられる?」
 

「へぇ、大した物ねぇ。将来、技術部に欲しくなっちゃった?」
 

一枚目のディスクを置き、二枚目のディスクを手にとって聞く。
 

「ええ、そうね。」
 

リツコは今の内から声をかけておこうかと思った。
 

「・・・でぇ?こっちは・・・まさか?」
 

『マイ・ハニーへ』と書かれたディスクを手にとりながら凝視する。
 

「そう、加持くんからよ」
 

顔を和ませるミサトにリツコは『まだ、好きなのかしら?』を思った。
 

 

 

 

 

 

「ふぅ、何でこんなに荷物が多いのかしら?」
 

それはケイが女性であるという証拠だからなのだが、この荷物を運び出そうとする
少女にとってはまず予定通りにしなければ気が済まないらしい。
 

「シンジの荷物は少なかったのに、あら?」
 

ぶつぶつ言いながらケイの部屋から荷物を運び出そうとするが、
未だ、二割も運び出せていない様子・・・このままではケイが帰ってきてしまう。
そのとき、何かを見つけたらしく運び出す手を止めてそれを開ける。
中には予想通りの物が入っていた、チェロである。
 

「シンジと同じなんだ・・・」
 

内罰的で家事だけが取り柄だと思っていた、
そのころに聞いたチェロ・・・
 

 

 

『結構、いけるじゃない!そんなの持ってたんだ』
夕焼けが部屋に入り込んで・・・
『そんな、五歳の時から始めてこの程度だからね・・・』
綺麗な演奏とともに・・・
『謙遜は美徳じゃないわよ』
暖かな雰囲気を持つ・・・
『そんな・・・』
チェロの音・・・
『じゃあ、なんでやめなかったのよ?』
ただ、感動できた・・・
『誰もやめろなんて言わなかったから・・・』
私がまだ、シンジに本当の笑顔を見せれた頃の話・・・
 

 

 

「何してるの?」
 

突然声を背後からかけられる、はっとするアスカ。
いつの間にか、ぼっーとしていたらしい。
背後にはケイが丸い目をして自分の部屋の荒れようを見ている、
アスカは一カ所に絞って運び出していくつもりだったが
だんだんとケイの部屋をあさっていると言った方が
適切になってきていたことに気づかないまま、ちょうどチェロを見つけたらしい。
 

「あの・・・これは?」
 

ケイはただ呆然とし、朝にはきっちりと整理してあった洋服類や本などが
床に散らばっているのを見つめ続けた。
 

「あ、これはね・・・私がここに住むからよ!」
 

「えっえー!?なんでぇ、ミサトさんどうなっているの?」
 

ミサトと一緒に帰ってきたケイ、ミサトを問いつめるため声をあげる。
 

「それはね、今回の作戦のためよ」
 

ケイの背後にはミサトがいつの間にか立っている。
 

 

 

「今回の使徒の異常なほどの再生能力はお互いを補完しあっていることから
コアに二点同時荷重攻撃を加えることで殲滅できるわ、そうでしょ?」
 

一通り、使徒の対処法と今回の作戦を説明した後アスカに聞く。
静かに説明を受けていたアスカだが・・・
 

「私の書いた報告書がミサトにも分かるんだ?
栄養が全て胸に行ってるわけじゃないのかなぁ?」
 

とミサトの胸に嫌みをたっぷりこめて聞き返す。
 

「し、失礼ねぇー!?ケイちゃんもそう思うでしょ?」
 

図星だったのか慌ててケイに同意を求める。
 

「どうせ、リツコにでも教えてもらったんでしょ?」
 

「ぐっ・・・」
 

二人の言い合いを眺めてケイはむぅーっとしている。
 

「・・・で、惣流さんはどこに住むんですか?」
 

「そうねぇ・・・」
 

ミサトが考えているとアスカが
 

「私はケイの使ってる部屋がいい!」
 

と言う、だがミサトが即、冷静にきりかえす
 

「ダメよ、アスカ・・・あの部屋に荷物運び込むだけでも丸1日かかったんだから
それにケイちゃんの仕事の関係でLAN作るのに2日よ!2日!」
 

ミサトはケイの手伝いのため・・・
『手伝ってくれたら、ビールを増やしてあげる♪』と言う言葉につられて手伝ったのだが・・・
悪夢を見せられたとでも言うべき体験になった2日間であった。
その作業に疲れあまりにグッタリしすぎたため、
ミサトのビール人生始まって以来のまずいビールの味だった。
 

「げぇ・・・じゃ、しょうがないわねぇ。
うーん・・・そうねぇ、隣の部屋空いて居るんでしょ?ミサト」
 

アスカの言葉から意味を察したミサトは
 

「そうだけど・・・隣、借りよっか?私が申請しておくから・・・」
 

申請・・・つまり、リツコや日向に仕事を任せるために電話をする。
 

 

 

 

 

 

「しっかし、なんやな・・・」
 

トウジがぼやくとケンスケが同意するように首を縦に振る。
この2人の思いはひとつ・・・レイに原因がある。
学校でのこと・・・がである、今日ケイとアスカが休んだのだ。
マナは弁当が購買のパンになり、レイは洞木さんと必要最低限の会話しかしなかったし
どことなく不安で不機嫌な様子が鈍感なトウジにもわかったのだから・・・
下校時にマナの提案で病気で休んだというマナの確信のもと
5人で見舞いに行くこととなった、トウジが珍しく夏の学生服着ている。
マナはそのことでトウジを茶化す、ヒカリは注意することではなかったので注意できず
トウジとじゃれるマナを見てどことなく不機嫌な様子。
原因のレイはというと無表情である、まるでケイが転校してくる以前のレイのようだ、
しかし、親しいヒカリにはレイが不機嫌でありその理由がケイが居ないことにあると
わかり以前のレイと比べ、微笑ましくもあったのだ。
 

「じゃ、俺らは先に碇さんのとこ寄るわ。綾波、何号室やった?」
 

「はぁ、私だけアスカの所か・・・。」
 

4人は葛城家のチャイムを鳴らす、隣のアスカの家のチャイムを押すヒカリ。
 

「「はぁーい」」
 

「?」
 

 

 

 

 

 

「はい、どなたかしら?」
 

「あのぅ、碇さんと同じクラスの鈴原、いいます。
碇さんが休んだのでお見舞いに来ました、あと綾波と霧島、相田もいます」
 

「もう!私に代わって、ミサトさんですよね?ケイはどう・・」
 

「あら?マナちゃん。ちょっと待ってね・・・」
 

プシュッ、軽い空気音のあと扉が開く。
 

「マナちゃん、ケイちゃんは隣なのよ」
 

ミサトはそう言って、隣に向かう。
 

 

 

 

 

「ケイさん?どうしてここに・・」
 

「アスカ、洞木さんが来たよ。」
 

部屋の奥に向かってアスカを呼ぶケイ。
 

「ケイちゃん、順調に進んでる?」
 

「あっ、ミサトさん。それにみんなもどうしたの?」
 

「「碇さんのお見舞いなの・・・」」
 

ヒカリとレイが声をそろえて言う。
 

「ケイ?何処も悪くなさそうじゃない」
 

そこへアスカが出てきてミサトを見て言う。
 

「ええ、順調よ。思ったよりずっとすすみ具合はいいわ
そんなことよりミサト!ちゃんと、仕事しなさいよ。」
 

ミサトの顔が思いっきり歪む、アスカに電話での会話を聞かれて
「仕事ぐらいしなさい、この飲んだくれ!」・・・と言われてケイの
部屋にあるネルフとの直通回線で在宅勤務をしていたのだ。
その代わりに、この作戦をミサトへ提案した加持一尉がケイとアスカの
ダンスを鑑賞もとい監督していたのだ。
 

「そうだぞ、葛城・・・ちゃんと仕事しろよ。
こっちの方は完成度8割といったところだぞ、仕事はかどっているか?」
 

なかから、ウーロン茶の缶を持って加持が出てきた、その缶が
ビールだったならばミサトは加持にスクリューアッパーから連ねて後回し蹴りと、
加持が気絶するまで攻撃の手を休めなかっただろう・・・
 

「わるかったわねぇ、仕事がはかどっていなくて?」
 

子供たちの前で争うのは不毛であると考えてアスカの一時的な住居に
入っていく、加持やアスカ、ケイが後に続き。
当然のごとくマナやレイも入っていったのでヒカリ、トウジやケンスケも・・・
ただ、ケンスケはカメラの準備をしっかりしていたが・・・
 

 

 

 

 

 

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