星の片道キップ第14話「8月がはじまる」
 

 

ドイツの秋のような風が吹いてくれないのかと恨めしくも思う。

「日本はやっぱり暑さだけがとりえの国ね、あっつい〜。どうにかならないの?」 

私が第新三東京市に来日・・・

つまり、戻ってきて考えたことのひとつがそれだった。 

だって私はドイツ育ちだもの、

涼しくて心地よい日差しがあったドイツが懐かしいわね。 

でも、この暑さもここの良さのひとつかもね。 

今日からユニゾンの練習なのよ、

ミサトの奴を追っ払って加持さんに頼んじゃった。 

だってミサトさぁ、ビール飲むのよ?信じられる? 

あそこまで平然と飲まれると私だって怒る気にもならないわ、

今日は確か・・・ 

「ピンポーンッ」

来たわね?レイ、負けないわよ! 

ドアを開けようと玄関に行こうとするがケイが 

「私が出るから、いいわ休んでて・・」 って押しとどめたから待つことにしたけど、

結局あとからついていったら・・・

「ケイさん?・・・それにアスカ?」

あれっ?ヒカリだけなの、おっかしいわ。 

「あっ、ヒカリ?ミサトも?」

私は不思議がって聞く、ケイも同じように質問する。

「「碇さんのお見舞いなの・・・」」 

「なるほど・・」 

声に出して納得する私、加持さんも来て、ミサトも来て・・・。 

まぁ、いいんだけどね? 













「私とケイの華麗なダンスを見に来たのね!」

珍しく制服を着ているトウジに言う、高飛車なアスカの態度にケンスケと声を揃えて

「「自信過剰なやつぅ〜」」と、 

ケンスケとトウジのユニゾンは完璧のようだ。 

「うっさいわね!?黙って見てればいいのよ、野次馬は!」 

自信満々な私、その理由は初めて練習したのに

ケイとほぼ完璧にユニゾンできることにあった。 

以前、加持さんに「ケイって運動神経いいほうなの?」って聞いてみたことがあった、

加持さんなら調べているだろうと思って・・・

「戦自にいたからね、常人はよりは遙かに強いだろうな。 

俺が聞いた話だが教官を初めての訓練の時に、悪さをしたらしくてな、

ケイちゃんに失神させられたらしいしな・・」 

「そ、そう・・」

いくら私でも、教官をのしたことはない。 

「それから、ケイちゃんはアスカみてもカワイイ娘だろう?」

「そ、そうね。私ほどじゃないけどまあまあじゃない?」

久しぶりに強気なるアスカの態度に加持は 

「だから、軽いオトコ達をあしらうためにも・・・ 

教官1人ぐらい失神させるほどの技量がないとな?」と軽くふざけて言う、 

そんな加持の態度にアスカは笑って答えた。 

それにしても・・・どうして初めってからユニゾン巧くいくんだろ?







ダンスは順調に最終ステージまで進む、

美少女2人の華麗なダンスに観衆達の胸は高まる、

2人のダンスはこの暑い夏の午後に吹き抜ける

一つの 涼しく、気持ち良い風となる。

フィニッシュとなる、誰もが華麗に決まると思った。

だが、ケイの動きがずれた 

「ブッブーッ!」 なる機械と 

「Error!」 の文字。 

呆然とするアスカ、そして・・・・ケイ。 

「最後で失敗とはな?今回はついてなかったな、アスカ」 

「そうよ、ケイちゃん。もう一回やってみましょう?」

ミサトと加持がフォローする、トウジやヒカリも

「アスカ、もう一回やったら?うまくいくわ、だって2人とも凄く息があっていたもの」

「そや!ワシはダンスなんてもん詳しくはないんやけど、次は巧くいくわい」 

「「・・・?」」 

ケンスケとマナは何やら考え込んでいる、

声をかけるべきかマナは迷っているようだ。 

「ケイ?解っているんでしょ、あんたが失敗させたんでしょ!?」 

久しぶりに激昂するアスカ、周りは何事かと声をかけるのをやめる、

静寂が部屋を包む、その中でマナの麦茶の氷がカランッと音を立てた。

「私が失敗させちゃったの・・・」 

やっとケイが声をだす、アスカはいらいらする。

「そう!どうして、失敗させたの?私だって、絶対巧くいくと思っていたのに」

そう、ケイでさえも巧く進みこのままフィニッシュできると思っていたのだ。

だが、実際はケイが偶然ではなく故意に失敗させてしまった。

「ごめんなさい、次はうまくやれると思うから」 

「そう、でも真剣にやってね。」 

プイッと顔を背けて、アスカはキッチンに行ってしまった。

「じゃ、私は仕事に戻るから加持、あと頼んだわよ?」

「ああ、やっかりやれよ」 

機械を設定し直しミサトの声に答える、

マナはアスカの後に付いてキッチンに向かっていった。

残っていたヒカリは居たたまれなくなり帰ることにした。

「じゃ、ケイさん。私は帰るからアスカによろしく言って置いてくれる?」

「えっ、うん」 

「ほな、ワシもぼちぼち、おいとまするわ。ケンスケ、ゲーセン行こか?」 

「ああ、そうだな」

トウジもケンスケと連れだって帰るようだ。










レイはトコトコとケイの近くまで来て・・・一言。

「ケイさん、私もやっていい」

「?・・・どうして」 

「・・・絆」 

レイの思考は跳躍しすぎていて連想ゲームみたいだ。 

「絆・・・じゃないと思うけど、このダンスは」

ケイが必死に考えて答える。

「そう・・・でも、どうして?ケイさんとアスカさんは楽しそうだった。」

「楽しそう?そうか・・・ありがと、レイ。」 

レイはケイとアスカのダンスが綺麗にそろっていて絆のように感じたのだ、

だから自分もケイとダンスをしたいと思っただけなのだが・・・ 

ケイは何故、自分が最後巧くいかせなかったのか解ったような気がした、 

そう・・・絆なのだ。 

「私もう一回アスカと踊ってみようと思う、だからレイは待っててくれる?」

「踊ってくれるのね?」 

「ええ・・・」

一安心したレイは加持に近寄っていき、機械の設定方法を教えて貰うことにした。

「レイちゃん、どうしてこんなこと覚えたいんだい?」

「私もエヴァのパイロットだから、2人と一緒にいるべきだわ」 

「そうかい、まぁ俺もアスカに頼まれてやってることだし・・ 

葛城の様子でも見てくる、ちょっと頼まれてくれるかい?」

「ええ・・・いいわ」 

たいして難しい操作方法でもないので、5分とたたずに憶えるレイ。










「麦茶?私にもくれる?」 

キッチンに入ってきたマナは、アスカの飲んでいるものを見て聞く。 

「はい、どうぞ」 

ムスッとした顔でマナに麦茶を渡す、マナは苦笑いで返しながら受け取る。

「まっ、ケイも反省してるようだし許してやってよ?」 

たははっと笑いながら茶化すようにアスカに話しかける、 

麦茶を一気に飲み干してもう一杯と注いで少し飲む。

「マナ・・・アイツってさ、どんな奴なの?」 

ぽつりと独白するような声で聞くアスカ、マナは少し視線をおとして考える。

「えっと・・・ケイは素敵だと思うけど」 

「ちがうっ、その・・・表面的なことじゃなくてっ、どう言えばいいかな?

そう、アイツは優しいの?」

「優しい?」

聞き返す、どんな優しさなんだろう?

マナはケイに対してあまりにも無防備であった。 

だからだろう、ケイに優しいと感じたことがない・・・ 

ケイから感じる優しさは絶えずケイの周りにあって・・・・

マナにとってはただ、自然にある空気のようなものだったのだ。 

だからこそ、アスカの言葉に疑問を持つ声でこたえた。 

「そう・・・アイツはわからないもの、 出会って少ししかたっていないからかな?」

「解らない?幼なじみの私だって・・・全て分かる訳じゃないわよ」

「そう・・・」 

落胆しながらも、アスカは気を取り直してリビングに向かった。







氷も溶けてしまったグラスを傾けて遊んでいるケイ、

隣にはレイがちょこんと座っている。

「あ、アスカ、」 

ケイのところまで歩いていくと

アスカの足が視界に入って気づいたらしく顔を上げてアスカを見る。

「あ、あんたねぇ〜ちょっとは反省してなさいっ!」

ぐーでこつんっと頭をなぐるアスカ、レイがじっーと見ている。

「いったぁーいっ!、反省はしたから続きをやろうよぅ?」 

頭をさすって、そして甘えた声でアスカの手を握って言う。

「やっ、やめなさいっ!気持ち悪いっ!」 

背筋に悪寒を感じケイから離れる、後ろにいたペンペンを踏んづけてしまい・・・

「クワッッッ!?」 

ペンペンはレイのところへ逃げていった。 

ケイの頬が紅くなっていないことと、

瞳が正常な色を宿していることで冗談と感じたレイが

「じゃ、はじめましょ・・」 

と言って2人を無視して機械を設定する、

ペンペンはくちばしでボタンを突つこうとしてレイに止められる。 

「クワワッッ」 

「だめ・・・」 

そんなレイの様子を見てアスカは準備する 

「しょうがないわね」 

「じゃ、準備しよっ」

アスカはしょうがないと言い、ケイは素直に位置につく。

レイはペンペンを膝において2人のダンスを見つづける。 

「今度はうまくいったね、アスカ」 

「そうね・・でも、さっきは何故失敗させたのよ?」 

「えっとそれは・・・秘密ってことで・・だめ?」

そうケイはいって首をかしげて、 

ケイにできる精一杯のかわいさを動員してアスカに答える。

男性なら簡単に虜になってしまうほどの笑み、アスカは思わず頬を染める。

「わ、わかったわよっ、かってにすれば?」 

何をかってにするのだろう?

会話が成立していないが、とりあえずケイはホッとする。

レイが何か思い出したらしくケイの袖を引っ張る、

振り向くとペンペンを抱えたレイがいてペンペンを床に置くと 

「私もする」

という。

「ごめんっ、レイ明日にしてくれない?」

「どうしてそういうこと言うの?」

「アスカとのユニゾン、完璧にしておかないと 

ほかの人と踊っちゃうとペース戻すの大変なの・・・ごめんね」

「そう、明日くるわ」

「うんっ、ペンペンも喜んでくれると思うよ」

床に置かれたペンペンがレイの足にもたれかかって暇を持て余している。

「ミサトも加持さんもペンペン、連れていってくれれば良かったのに

・・・ペンペン、暇そう」

アスカがペンペンの手を引っ張って遊びながら言う。 

「アスカ・・・説得力ないわ、ペンペン嫌がってる」 

レイがアスカの手からペンペンを取って膝においてあげる。 

「ケイ、そろそろはじめよっか?」 

「うんっ、そうね」 

レイはペンペンの世話をしながら、機械のセットをしていたが 

外も夕闇が迫るころになるとケイが 

「レイ、今日はミサトさんの家に止めてもらったら?」 

といったのでアスカが 

「別にここでもいいじゃん、それに寝るときぐらい

ユニゾンのために 2人で居なくてもいいんじゃない?」

レイはアスカに思わず

「ありがとう、私夕食作ってくる」

御礼を言った恥ずかしさからだろう、 夕食を作りにキッチンに入って行ってしまった。

「・・・・・・・・」

ケイはアスカの余裕のある行動とレイの心の変化に

確かなものを感じて 何も言わず微笑んでその様子を見ていた。 







翌日、朝早くレイが家に帰ることになった。

「今日の午後には帰ってくるから・・」

「そう、学校行ったら皆によろしく言っておいてね」 

ケイが朝食を作りながら椅子に座っているレイと話す。

出来上がった朝食を食べてレイは学校に行くこととなった、 

土曜なので午後からまた葛城家へ戻ってくる。 

やがてアスカも起きてくる、

この様子で体内時計を合わせるには ケイが遅くおきるか、

アスカが早く起きないとぴったり合いそうもない。

「おはよ、眠い・・・」

ごしごし目を擦ってお風呂に向かう。 

レイが玄関でケイと挨拶を交わして出て行くと同時に、 

ミサトと加持が入ってきた。

「あ、おはようございますっ。」 

「おはよっ、今日も綺麗ねぇお肌のはりも・・」 と言ってケイの頬をつんつんと突つく、

ケイは慌てて両手を頬に持っていってお肌を隠す。

「あらあら、ケイちゃんは恥ずかしがりやねぇ・・」

「おいおい、それが飯をたかりにきた奴の言うことか?」 

「いやねぇ、ケイちゃんと私とは家族なの!互いに支えあって生きてんだからね」 

「いや、生活全般支えているのはケイちゃんだろ・・・」

あきれたようにミサトを見て、さっさとキッチンに向かう加持。

怒って加持の後を追うミサト、 ケイもキッチンに入ると

アスカがシャワーだけだったのか早くも椅子に座って待っていた。 

「さっ、いただきましょ」 

「いっただきます」 

アスカのその声にミサトの声が早くも答えて、食べ始める一同。

「アスカ、なかなかでしょ?」 ミサトが聞く、 

アスカは「んっ、まあまあね」と答える、

ミサトが文句を言う 

「(なかなか活気があってよろしいっ♪)」とケイは心の中で 朝食風景を採点した。

 

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