プロローグ2

 

 

ある少年がいました・・・

ある少女がいました・・・

 

少年には何にもありませんでした・・・

少年は何にも持っていませんでした・・・

ただ、傷ついていました。

ただ、辛さだけは知っていました。

少年自身が「自分」を感じれるのはその痛みだけでした。

 

少女はすべてを持っていました・・・

幸せを知っていました、でも・・・

幸せは消えてなくなってしまいました。

少女は取り戻そうとがんばりました・・・人知れず努力して。

そして、幸せは戻ってきた・・みたいでした。

 

 

少年は初めて人に必要にされました・・・たとえ

その理由が何であろうとも・・・

うれしかったんです、少年はパイロットとしての自分が

必要にされていたんじゃなく「自分自身」が必要にしてくれる人が

いたのだとわかって・・・

 

 

少女と少年は出会いました。

 

 

そして、相手のすべてを知りました。

 

 

少女は・・・

「何にも持ってないのに・・・私がほしいものだけは

持ってるわね・・・いやなやつ・・・」

 

 

少年は・・・

「すべてを持っているんだね・・・まぶしいな。

なんとなく・・・僕のことは嫌いみたいだ・・・・」

 

 

少女は少年のエヴァにのる才能に嫉妬していました。

少年は少女の才能、容姿、快活さに憧れました。ただ・・・

少女がどうして自分を疎んでいるのか、わかりませんでした。

いえ、知っていたはずでした。

 

 

見たくなかったのです、知りたくなかったのです。

少女が自分から、唯一といってよい才能・・・

エヴァにのる才能を欲しがっているということを・・・・

 

 

少年にとってエヴァにのればここにいてよかったのです。

ここにいれば、幸せを感じれました。

痛みとは違う意味で「自分」を初めて感じることができました。

 

鈴原トウジ

綾波レイ

渚カヲル

 

それはついに訪れました、サードインパクト。

少年はすべてを失いました、何もかも・・・・

やさしくて、厳しくて、初めて「ここにいていいよ」って言ってくれた

血のつながりはないけど家族であった姉さん。

だれもかれも・・・・すべての人を失いました。

 

少女は・・・失い・・・消えてしまったものが戻ってきました。

それまで手に入らなかった物が手に入りましたが・・・・

白い悪魔たちに奪われてしまいました。

ただ、エヴァにのる才能があるはずの少年が

助けにこないことを憎みました。

 

少年は赤い海で告白しました、初めてすべての自分を、

少女にささげました・・・・・・・・真摯なまごころをあげました。

 

少女は憎みました、少年が助けに来なかったことは心のどこかで

しょうがないことかもしれないと納得していたはずでした。

「こいつは臆病で弱かった」・・・ということを知っていたはずでした。

 

少年がとても傷ついて生きてきたことを知りました・・・

少年がやっと幸せを感じれたことを知りました・・・・・・

少年が友を傷つけ、殺し、また不幸になった事を知りました・・・・

 

けれど・・・・

 

少女はそれを知っても、すべてを許せるほど大人ではありませんでした。

 

少女は罵倒しました・・・・さげずみました。

少年はもう少女にあげれるものは・・・・・何にもなかったのに

失う物は何もなかったのに心は痛みました

 

「僕の心さえ・・・あげたのに、

僕がしたことは・・・・

助けに行かなかったことは・・・

エヴァにのる才能を君にささげなかったことは、

とても悪いことだったんだね・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ごめんね・・・・アスカ。」

 

少年は心にひびが入りました、もともと強くなかった心は・・・

そのひびのせいで砕け散る寸前でした・・・

少年は絶望の中で少女の幸せを祈りました。

もう少年には祈ることしかできなかったから・・・・・・・

 

 

少年は母親がそばにいることを感じました。

あったかくて包まれている感じがしたのです。

少年の母親は言いました

「何を望むの?」

少年は言いました。

「幸せを・・・アスカの幸せを」

願いはかないました。

アスカの大切な母親はこの赤い海に現れました。

きれいな人でした、シンジは言いました。

「たぶん、二度とアスカが聞くとは思わないけど

いつか僕のことを聞いたらアスカの幸せを祈ってるって

言っていたって教えてあげてください。

僕はアスカにひどいことをしました。

僕のことがにくいなら殺してください・・・

でも、死んでしまっても僕の罪はなくならないでしょう」

その女性が悲しそうな瞳でシンジに何か言おうとしたとき・・・

シンジは闇に溶けるように体が消滅しました、

シンジが気がつくと闇の中に一人きりでした。

シンジは考えました・・・自分を責めました。

少女にとって自分は必要のない存在であり邪魔な存在なのだと・・・

 

 

少女はまた幸せを手に入れました。

たとえ、それが憎んでいた少年の悲しみの代償だとしても

なんともおもいませんでした。

母親はあったかい存在でした、少女は甘えました。

何年間も我慢して、やっと手に入れた存在でした。

 

 

やがて、少女はこの赤い海の世界が自分の思い通り

になる自由な世界だと知りました。

親友を・・・・・

親友の想いの人であった級友を・・・・

一緒に住んでいた、上司を・・・・・

属していた組織を・・・・

すべてを元に戻しました。でも・・・・

 

 

少年だけは・・・・・・・望みませんでした。

でも、親友は、上司は、母親は・・・・何にも言いませんでした。

少女にとって特別であった存在でしたから・・・・

近すぎる存在であって、決して知りたくない自分を知っている存在でした。

過去の存在となりつつありました・・・赤い海で少年が消えてしまってから

3ヶ月がたちました。

 

 

少年は無に帰ることを望みました。

しかし、母親はそれを望みませんでした。

自分にできることは・・・自分が望むことは・・・

少年が幸せになってくれること・・・・だけでしたから

 

 

少年は帰ってきました、永遠の夏を持つ

この第三新東京市に・・・・

 

 

 

 

少女は渇きました・・・・・

自分でもわけがわかりませんでした、母親がいて、

親友がいて、級友がいたのに・・・です。

少年だけがいないこの世界に不満はなかった・・・はずでした。

 

 

少女は悲しみました・・・少女が少年の立場だったら

きっと、同じ風にことは進み少年と同じように心に傷を

おうだろうと・・・鈴原がヒカリだったら、きっとあたしも

エヴァをおりたかもしれない。

そして、サードインパクトは起きてしまうことを悟りました・・・

そして、少女は少年になんにも与えなかったことを悔やみました。

奪ってばかりでした・・

少年から大事なただ唯一の才能を奪うことは誰にもできないはずでした。

誰もそんな権利なんてもってなかったのに・・・・・です。

 

 

そして、少女は知りました。

「シンジはあたしに比べて本当に何にもなかった・・・

容姿も、学力も、身体的能力も、社会的肩書きもない、

それなのに・・・あたしはシンジから奪おうとした。

やっと手に入れた。幸せを・・・・

あたしはエヴァがなくたって幸せになろうとすれば

なれないことはなかった、シンジはエヴァにのらなければ

幸せに・・・・いえ、幸せじゃなくて

ひとときの安らぎさえ得れなかったのに・・・・」

それを知ったとき愕然となりました、自分のことばかり

大事にしていた少年が最後に見せてくれた・・・まごころは・・・

とても、暖かいものだったのに・・・・です。

 

少女は選択しました。

この世界の創造主になることより、

少女のために心を壊した少年のそばにいることを・・・