ANOTHER EVANGELION - EXTRA 01


爆撃機の事件から数日。
あの事件はネルフの独裁体制を快く思わない、アメリカの過激派グループの仕業と解った。
大量の資本をステルス機に注ぎ込んだため、先日米国では株価大暴落が起こっている。

一時は第二次世界経済恐慌に発展するかと思われたが、現在の所その様子は見られない。
また例のグループはNERV米国支部によって全員が逮捕されている。


NERV本部の現在の問題は、チルドレン殺害未遂、スパイ容疑の霧島マナの対処である。
普通であれば即闇に葬られるところであるが、それは14歳の少女であるし、
なかなか処理が難しいのである。

そんなわけで、彼女の処置に付いては未だ確定せず、本人は独房暮らしを余儀なくされていた。

だが、そんな時。




ANOTHER EVANGELION

外伝(壱) 人の操りしモノ


ビーッ!ビーッ!

数日前と同じく突然に、発令所に警報が鳴り響く。

発令所にいた副司令が声を上げる。

コウゾウ「何事だ!」

MOVING OBJECT
LOCATION : AREA-C12 (Tokyo-3)

UNKNOWN
(POSSIBLE APPARENTLY with ROBOT)


CASPER-3

マコト「正体不明の移動物体が第三新東京市に急速接近中!」
シゲル「位置を捕捉しました!」
マヤ「MAGIは恐らくロボットの様なものと解答していますが詳細は不明です!」

3Dホログラムモニタに黄色い点が表示される。

『停止勧告を行います…応答ありません。』
『再度、停止勧告を行います…応答無し。』

モニタの点は見る間に街に近づいてくる。

シゲル「待って下さい!目標、二体です! 双方が接近しているため気付きませんでした!」

コウゾウ「…これは一体?」

モニタの黄色の点が二つに増える。それらは依然、街に進行している。

『迎撃警告を行います…応答ありません。』
『再度、警告します…応答なし。』

マコト「目標、本部直上より20km圏内まで接近!」

『応答がないので、光信号による警告を行います…応答無し。』

シゲル「迎撃システム射程に入りました。指示を!」
コウゾウ「迎撃しろ!街に近づけるな。それと住民の避難を!」
マコト「了解!」

マヤ「中央ブロック収容開始。」
シゲル「迎撃システム稼働。」

ビルが地下に吸い込まれると同時に、遠距離用兵装ビルが火を噴く。
まだ住民の避難は完了していないのだが、それは相手が早すぎるからである。

ミサト「状況は!」

本部内の食堂で休んでいたミサトとリツコが発令所に入ってきた。
マコトが現状況を説明する。

マコト「葛城三佐!、正体不明の移動物体が急速接近中です。停止勧告に応じず、
    現在、迎撃中。上の市民は避難途中です。」
ミサト「とにかく迎撃して!」

リツコはEVAが出動していないため、何も指示をする権限はないし、しようとも思わない。
ただ、状況を眺めているだけだ。

そうこうしている内に二体の移動物体は第三新東京市郊外に侵入する。

シゲル「対象は、郊外に侵入しました!目標を映像で確認!」

その報告の直後、メインモニターに画面が映った。

マヤ「!!」
シゲル「なッ!?」
マコト「これは!?」
ミサト「何よこれ!」

そこに映し出されたのは、ロボットとしか名状のしようのないモノだった。
後部から噴射しているジェットで高速移動している様に思われる。
特殊装甲を使用しているのか、迎撃システムは全然効いていない。

ミサト「EVAは?」

迎撃システムだけでは対処が難しいと感じたミサトはEVAの様子を尋ねる。

マヤ「準備出来ています、ですが、パイロットがいません!」
シゲル「二人共に非常召集をかけていますが、まだ数分かかります。」

ミサト「クッ…」

パイロットが付くまでにNERVが抑えられる可能性は低い。本部は地下にあるのだから。
だが、街を破壊されることはかなりやっかいである。
市民の不信を導く元になってしまう。ましてや数日前にも避難を要する事件があったのだ。
まあ、その時は初号機の活躍で街に被害は無かったが。

ゲンドウ「赤木博士。」

いつの間にか発令所にやってきて自席に着席している司令。
その方向にリツコが向き、次の言葉を促す。

ゲンドウ「例のシステムはまだ動かないのか?」

「例のシステム」と聞いてミサトはまた嫌な気分になる。
何故作戦部長の自分に聞かされていないものがまた出てくるのか。
だが、そのことをリツコに問いただしたところで、
「まだ未完成だから」の一言を返されるのみなのは解っているので何も言わない。

リツコ「完成はしていますが、耐久テストを含む各種テストが完了していません。」
ゲンドウ「…構わん。それで迎撃しろ。」
リツコ「わかりました。」

現場の指揮権が一時的にリツコに移る。

リツコ「マヤ、“ジッグラト”を起動して。」

「ジッグラト」とは新兵器の開発コードである。
それは昔、人間が神の住居として建設した七層の塔である。

マヤ「はい、“ジッグラト”、起動します。」

Ziggurat System

Revision:2016β

Boot-process :

  System Check... All Green.

  Loading IPL...Loaded.

  Starting Operating System...

BootPhase-1 : (Tower)
『“ジッグラト”を起動します。』
『起動、第一フェーズに入ります。』

ピラミッド型NERV本部の隣に建設中の塔の上の部分が開いていく。

『内部ポジトロンキャノン、安全装置を解除。』
『電圧充填状態、72.5%』

マヤ「まだ充填が完了できていませんが…。」
リツコ「本部以外の電源を回して。それでも足りない分は無視して構わないわ。」
マヤ「はい、電源、回します。」



フッ…

突然シェルター内の電気が消える。非常灯のみ各シェルターの非常電源で点灯する。

「うわ!?」
「きゃあ!?」

一時的にシェルター内がパニックに陥るが、非常灯が付いたお陰で、
大きくならずに沈静化した。



『電圧上昇、充填率、78.9%』
『第二フェーズへ移行。』
『特殊衛星「クロノス」へデータ送信開始…受信を確認。』
『クロノス、スリープモードを解除、状態をアクティブにします。』

Ziggurat System

BootPhase-2 : (satellite)

 Connecting "Cronus" ... connencted. 

  Protocol:NLPβ  SynchroCode:1ns

 Receiving Infomation ... 

>NLPβ=NerveLinkProtocolβVersion(神経接続転送方式,開発途中版)

リツコ「“クロノス”の充填状況は?」
マヤ「電圧、充填率121.4%。行けます。」

『クロノスの全制御システム起動。ターゲットを目標甲に指定しました。』
『第三フェーズへ移行。』
『発射口開け。』

EVAの射出ルートの様にジッグラト直上にある隔壁のゲートが全て開いていく。

『進路、オールグリーン。』
『発射準備よろし!』

シゲル「目標、外輪山を移動しています。芦ノ湖を迂回して市内中枢へ回る模様。」
マコト「迎撃システムによるダメージは確認できません!」

準備完了の報告に敵の情報も重なる。

リツコ「構いませんね?」

司令に尋ねる。

ゲンドウ「…。」

司令は何も答えずにニヤリと笑った。

リツコ「ミサト、構わないわよ。」

それまで無視されていたミサトに突然声がかかる。
せめて発射命令だけはと珍しくも(失礼。)リツコが気を利かせたのだ。
ミサトはミサトで、どうやら光線兵器らしいことが解ったので、そのつもりで指令を出す。

ミサト「え、あ、あぁ、発射!」

マヤ「最終充填率80.1%、発射します! 総員対閃光姿勢!」

Ziggurat System

Fire! : (infomation)

 Electoro Percentage : 80.1%

 Target : Object-A

  (Target Lock : Supported by MAGI-3)

 Using Satellite : Cronus
数瞬後、ジッグラト内部の砲身に光がともり、刹那の間を置いてその光を直上に放つ。
光は発射ゲートを伝って、地上に出る。そしてそのまま空を突き抜ける。

ミサト「え?」

ミスった?ミサトはそう感じた。光は真っ直ぐに空に突き刺さったのだから。
だが、深く考える暇もなく、報告が飛び交う。

『クロノス加圧システムに正常に入射!』

上空に飛び去った光は、特殊人工衛星クロノスに命中した。
そしてその光はクロノスの加圧システムで威力を増していく。

『加圧システム臨界!』

こんどはクロノスから地上に向けて光が放たれる。
その光は一直線に森を切り開きながら疾走するロボットの一体に向かう。
ロボットのパイロットも光が一度飛び去ったことで、少し気を抜いていたようだが、
瞬時に反応して回避行動をとる。が。



ッ!!!!!!!

閃光が一瞬にして辺りに焼き付く。


『衝撃波来ます!』

ォォォオオオオオオオ!!!

轟音ともに地上が揺れる。

ブチッ…ザッーーー!

『監視衛星に切り替えます。』

ザーーッ…ヒュン…。

衝撃波のせいでモニターが砂嵐を映したが、それは一瞬で衛星からの映像に切り替わる。
松代から有線で情報を所得しているようだ。


『目標乙をロスト!目標甲は爆心地から200mの地点にて発見!
 目標甲、完全に沈黙!』

どうやらあのロボットですら吹き飛ばされたらしく見あたらない。
目標甲の方はジッグラトの攻撃で行動不能に陥ったようだ。

ミサト「すごい…」

思わず声に出す。N2爆雷よりも威力があるかも知れない。
恐ろしい兵器である。N2弾頭に比べて速度が圧倒的に早いのだから。
それにN2爆雷とは違い、局地性があるため周辺に大きな被害も出ない。
ジッグラトの担当以外のスタッフは皆呆然としている。

『ジッグラト、陽電子残量0%。』
『衛星クロノス、陽電子残量21.4%。』

リツコ「ジッグラトに何か損害は?」
『内部ポジトロンキャノンの特殊加速増幅器“ブルーウォーター”に亀裂が発生しました。』
マヤ「クロノスには損傷は見られません。自己診断結果はオールグリーンです。」
リツコ「…しばらくは撃てないわね。」
マヤ「はい。無理に第二射を打つと、暴発する可能性があります。」

そしてリツコはロボットが映っているモニタを見る。
やはり興味があるようだ。

そのロボット(目標甲)は腕の様な部分が失われていて、また複数の箇所から煙が出ていた。

ミサト「目標を収容次第、戦闘態勢を解除、第二種警戒態勢へ移行します。
    使徒サンプル回収班は目標甲を第9格納庫へ収容。」

その声で皆再び行動を開始する。

ミサトは未だ破損したロボットと、爆心地に開いた局地的な深いクレーターを眺めていた。




ANOTHER EVANGELION
EXTRA-EPISODE:01  -  HUMAN WORK II





あの後到着したEVAパイロット二名がEVAを起動し、目標乙の捜索を行ったが、
どうやら芦ノ湖に逃げこんだらしく、その場での捜索は打ち切りとなった。

回収されたロボット、目標甲は着弾した陽電子エネルギーのせいで装甲を破損、
内部に超高電圧が流れたらしく、完全に機能停止していた。
ただパイロットのいたコックピットはかなりの対電、対磁、対ショックなどの装甲が
施されていたようで、中のパイロットは重傷ながらも無事であった。
現在そのパイロットはNERV中央医療センターのICUで治療を受けている。

また、NERVでは目標甲の取り扱いに関して議論の真っ最中であった。
戦自から、パイロット二名がロボットを占拠、強奪したとの連絡も遅れて入っていた。

NERVではEVA新装備、S装備(Swim)をEVA初号機が装着、
芦ノ湖内の捜索を試みることになった。
リツコが以前作った傑作、「垂直型使徒キャッチャー」の使用は実用性の面から却下されたが、
密かにリツコはそのことを根に持っているようだ。
(とはいってもS装備もリツコの開発なのだが。)

S装備はD装備(Dive)とは違い、低圧下での高速潜行を前提として作られた、
機動性重視の水中装備である。

早速、初号機はそれを装着し、芦ノ湖に潜るために岸に姿を現した。
ちなみに弐号機にも装着可能だがまだ一つしかないし、
アスカの戦闘行為は身体に危険なためシンジが潜ることになったのである。
シンジは元々泳げなかったのだが、LCLで結構慣れているし、同じく息をする必要も無い。
加えてユイの記憶のお陰で感覚的に、なんとなく、漠然と、泳ぎ方が解っている。

そしてシンジはゆっくりと潜っていった。





さて、ロボット、目標乙のコックピット。

ピーッ、ピーッ。

(芦ノ湖内に巨大物体が侵入…NERVの奴だな…。)

モニタにはまだかなり離れているEVAの姿は映っていない。

(水中までは追ってこれないと思っていたが…。)

レーダーでは完全に水中を移動している。それもかなり高速だ。

(戦自の情報よりも新しくなっているのか!?)

まさにその通り。NERVによる世界掌握が始まり、戦自のスパイ達はNERV本部に
近づくことがかなり難しくなった。NERVのみならず第三新東京市自体の監視体制も、
かなりきつくなり、使徒戦が無いという余裕が出来たため、内部の「掃除」にも
力を入れ始めたのだ。そのせいで戦自のNERVに関する資料が古くなってきているのだ。

直ぐにモニタに姿が現れた。EVAと呼ばれる物。人型のその機体には
特殊な水流ジェット(パイロットの意識とリンクされている)が多数配置されている。
これらは出来るだけEVAに乗っていないときの水泳のフォームに近づけて設計されている。
通常の泳ぐフォームをパイロットが意識するだけでかなりの速度で泳げる装置だ。

EVAがものすごい速度で「泳いでくる」。
自分の乗っているロボットの様に単にジェットだけを推進としているだけではない。
文字通り泳いでいるのだ。

(流石はNERVと言ったところか!?だが、俺は負けない!!)

自分のロボットには水中戦闘用の装備は無い。みたところEVAにも無いようだ。

(水中で格闘か。)

人型に近いものの完全な人型ではない自分の機体では多少不利。
しかし自分は訓練は怠らずにやっている。
相手のEVA(初号機)のパイロットは、半年かそこら前に突然、選出されて、
それからの訓練しか受けていないと言う。年季は自分の方が上だ。

(それだけじゃない!俺は負けられないんだよ!!)

ロボットのジェットを噴射してEVAに突っ込む。
EVAはそれを軽く避ける。
それを見越してロボットを追撃させる。
EVAは紙一重でかわす。
EVAがこちらに向かってくる。
避けてから距離を取る。

(機動性はほとんど変わらないか。…ん?)

自分の目にEVAから伸びる線が映る。

(電源ケーブル!?)

EVAは外部電源であると、戦自の資料にあったことを思い出す。

(あれだ!)

再びEVAが向かってくる。
それをかわし、電源ケーブルに手を伸ばす。
相手はそれに気付いたのか、ケーブルを掴んで離れるように動く。

(届いた!!)

ロボットの手が逃れようとするケーブルを掴んだ。
唯一の水中で使用可能な防水爆弾(機雷のようなもの)をケーブルに取り付ける。

(爆破!)

遠隔操作で爆発させる。ケーブルが弾ける、その瞬間。


…ッッッッ!!!バチバチバチッ!!


芦ノ湖を一瞬にして電気が襲う。
これには自分も驚いたが、この程度の電圧ではロボットの装甲は突破してこなかった。
同じく、EVAの方にも大した被害はないようだ。
あっちもまさか、水中でケーブルを狙うとは考えなかっただろう。

(…ん?)

相手の機動性が落ちている?
どうやらさっきの一撃で相手のジェットの一部が損傷したらしい。
自分のロボットを調べてみると、こちらも一部損傷していたが、問題ない程度だ。


すぐに反転して、相手から逃走する。
相手の残り時間は5分のはず。それならば、このまま逃げ続けて相手の撤退を待てばよい。

(もし水中で停止したら捕まえて交換条件をだせばいいだろう。)

ほぼ互角の機動力のため、同じ距離を保ちながら追っかけっこをする二体。
そして四分以上経過した。

するとEVAが反転して陸を目指し始める。

(電源切れが近いな…)

自分も反転して先ほどよりも更に距離を保ちながら後を追う。
そして五分。相手はまだ陸から数百メートルの位置で停止してしまった。

(よし、これを捕まえれば十分条件の材料になるはず…)

たしか情報では動作可能なEVAはあと一体あるはずだが、これを捕虜にしておけば
多分大丈夫のはず。出した条件さえ認めてもらい、自分で確認したら…
後はもういい。出来れば逃走したいが、恐らく無理だろうから…。


先ほどから停止勧告をする通信が来ている。
アクセス許可。通信回線を開く。ただし、音声のみで。

音声
SOUND ONLY

EXTERNAL COMMUNICATIONS

ミサト『NERV作戦部長、葛城ミサト二佐よ。ロボットのパイロット?』
「そうだ。」
ミサト『貴方は日本国憲法及び第三新東京市条例、その他多数の法律の条項を侵犯しているわ。
    ただちに武装を解除して投降しなさい。』
「ふん。条件がある。このEVAと引き替えなら安い物だろう?」

少しの沈黙の後答えがくる。

ミサト『…。条件によるわね。』
「簡単なことだ。先日NERV捕まった俺の仲間、マナとケイタを解放しろ。」
ミサト『霧島マナのことね。ケイタっていうのはもう一体のロボットのパイロットかしら?』
「そうだ。早く解放しろ。確認次第、EVAを地上まで送る。」

(そして俺は悪あがきとして逃走する。逃げ切れなくてもいいさ。)

ミサト『そう。そういうことね。でも、それで投降するのかしら?』
「…」

(もし逃げ切れても戦自に戻るわけには行かない。どこかの国にいって暮らすか…。
 まあ、逃げ切れるわけがない…ここまでだな。)

ミサト『死ぬ気ね?』

沈黙が辺りを支配する。

シンジ『…話は聞きました。』
ミサト『…シンジ君?』

(シンジってのはこのEVAのパイロットか。多分そうだな。)

シンジ『その件については僕が何とかしましょう。悪いようにはしません。』

(なんか偉そうな奴だな…。一介のパイロットにそんな権限など無いだろう?
 この状況だから、命乞いのようなものか?まあ、わからないが…。)

シンジ『いいですよね。父さん。』
ゲンドウ『…ああ。』

(誰だよこのオッサン。パイロットの父親か?また偉そうな奴。)

ミサト『司令!』
ゲンドウ『問題ない。』

(何!?司令!?碇総司令か。ふん。偉そうでも人の親か。自分の息子を優先するとは…。
 組織を統轄する者としては二流だな…。)

ゲンドウ『やれ。シンジ。』

(何?)

その瞬間、EVAの瞳に光りが点る。

こっちが何をする間もなく掴まれる。

「何? くそ、電力が切れたふりだったのか!?」

そのまま一気に水上まで引き上げられる。

ドオオオォォォォン!

一瞬の浮遊感。そして水面に着水する音。

「くそぉ!」

引き剥がそうとしてもビクともしない。
メイン推進エンジンがある部分は後ろを向いている。
岸から離れるには姿勢制御用のジェットを噴射するしかないが、
そんなものでは相手のジェットには敵わない。

数秒の間に岸まで連れて行かれた。

「く…駄目だったか…やっぱり無謀だったかな。…マナ。」

暴れて相手を困らせることもできるが、そんなことをする気にならなかった。
自分のいるコックピットをこじ開けようとする音を聞いたとき、
素直に自分から厳重なハッチをオープンさせた。

そのまま黒服の男達に捕らえられた。




ガシャン!

そんな音がして目が覚めた。

「…?」

ぼやけた頭で目を擦りながら身体を起こす。

「…。」

隣の独房(とは言っても20世紀末の警察署の留置所の様に粗末なものだが)に
誰かが連れ込まれたようだ。
(昔シンジが入れられたような壁で囲まれた部屋ではなく二重の鉄格子で仕切られていた。)

自分が連れてこられたときの様な黒服の男達が何か言ってから去っていく。

しばらくして声を出した。

「誰?」

その言葉に相手は直ぐに反応した。

「マナ!?マナか!?」

!!!

「ムサシ!?」

ムサシ「やっぱりマナか!無事か?」
マナ「う、うん。大丈夫。ムサシは?」
ムサシ「ああ、別に何もない。」

取りあえず安否を気遣う。

マナ「…ねえ、なんでNERVにいるの?」

もしかしたら戦自がまた何か作戦を展開して捕らえられたのだろうか?

ムサシ「…マナを助けに来たんだよ…。」
マナ「え!?」
ムサシ「でもヘマをしちまってこの様だ。」
マナ「何て事…。」

まさか助けに来てくれるなんて。
でも、戦自が自分なんかのためにNERVと戦闘をするなんてことはあり得ない。
となると…

マナ「まさか、ロボットを無断で?」
ムサシ「…ああ。そうさ。あいつら、お前のことを『ヘマをした馬鹿な女』なんて
    言いやがったんだ! 同じ組織に属している者にそれはないだろう!?」
マナ「!!」

自分たちが戦自内で嫌われていることは知っていた。
でも…。

ムサシ「助けに行こうと提案したところで、何が変わるわけでもない。
    だから俺達は勝手にロボットを動かしてここまで来たんだ。」

何か引っかかる言葉が…

マナ「“俺達”…? もしかしてケイタも!?」
ムサシ「ああ。一緒に助けに来た。」

しかしこの独房にはケイタはいない。

マナ「ここには来てないよ…まさか?」

ムサシは暫く何も言わなかった。

ムサシ「解らない。初めにここに来たときに良くわからない攻撃を受けた。
    その時にケイタの機体にレーザーのような指向性エネルギーが命中したことは確かだ。
    俺は衝撃波で飛ばされて、その後のことは知らない…。」

それっきり何も言わなかった。
死んでしまったのかも…という最悪の考えが頭に浮かぶ。

マナ「…ッ!」

その考えを振り払おうと頭(かぶり)を振る。

ムサシも同じ事を考えていたのか、その事については何も言わなかった。


ムサシ「すまない。ケイタのことは俺の責任だ。俺があいつを誘ったりしなければ…。」
マナ「そ、そんなことない!」
ムサシ「いや、俺が助け出そう何て提案しなければ良かったのか…?」
マナ「そんなことない!私は助けに来てくれて本当に嬉しいの。でも…。」
ムサシ「解っている。無謀だと言いたいんだろ?」
マナ「う、うん。出来れば来て欲しくなかった。」

マナ(でも来て欲しかった…。)

ムサシ「ああ。でも仲間だろう?今までずっと一蓮托生でここまで来たんだから、
    お前だけを放って置けなかったんだ。あいつもそう思ってたはずだ。」
マナ「うん。ありがとう…。」

そして微笑む。

ムサシ「あ、ああ、うん。」

ムサシは少し顔を赤くして答えた。




ガチャッ!

驚いて振り返ると黒服の男達が入り口を開けていた。

「出ろ。」

マナ「なんだろう…。」
ムサシ「さあな。俺達の処分が決まったんじゃないか?」

素直に言葉にしたがって外に出る。そこには更に五人の男達がいた。

「付いてこい。」

そういって先頭の男が歩き出す。

私たちが付いていくと周りの黒服達も一緒に歩き始めた。



エレベータで上層まで連れられ、大きなドアの前に来た。

黒服の男がIDカードをスリットに通す。

ピッ!

しかしドアが開くわけではなく代わりに声がした。

ゲンドウ「何だ。」
「例の二人を連れてきました。」
コウゾウ「入りたまえ。」

プシュッー!

その声を共にドアが開く。
そこには両腕を組んでいる髭臭い眼鏡の男と、外見は紳士的な老人がいた。
たしかNERVの総司令と副司令だったはず。

中に入ると黒服達もついてくる。そしてドアが閉じる。
司令達がいる机から3mほどのところで止まる。

しばらくの沈黙。

ムサシ「何のようだ?」

司令達を睨みながらムサシが言う。

コウゾウ「まあ、待ちたまえ。まだ一人そろっておらんのでな。」

まだ一人?NERVのNo.3でも来るのだろうか。

ピッ!プシュー!

後ろのドアが開いた。そこには…

マナ「シンジ君!」

シンジは微笑むと司令達の横に来る。
机に座っている総司令、その右斜め後ろに立っている副司令。
そして、シンジが総司令のその左斜め後ろに立つ。

それを見届けると黒服達は退出していった。

コウゾウ「では、全員そろったようだ。」
ムサシ「…俺達がおまえらを人質にするかもとは考えなかったのか?」

私たちは手錠も何もされていない。

ゲンドウ「…そうして見ろ。」

その声に弾かれたようにムサシが跳ぶ。

マナ「ムサシ!」

何て事を!罠に決まってるのに!

パキィン!

ムサシ「何!?」
マナ(あれは!?)

確か私がシンジを撃ったときにシンジを護った金色の壁。
私は壁に弾かれたムサシの元に駆け寄る。

マナ「大丈夫!?ムサシ?」
ムサシ「…くそ…。ああ。大丈夫だ。」

コウゾウ「もうよいかね?では本題に入ろう。先程、君たちの処置が正式に決定した。」

やっぱり。なんだろうか。公開処刑?

ゲンドウ「霧島マナ、ムサシ・リー・ストラスバーク、浅利ケイタの三名に国連より辞命が下った。」

戦自じゃなく国連から?いったい何があったの?

コウゾウ「ではシンジ君。内容を読んでくれたまえ。」

シンジ君がうなずいて書類を取り出す。

シンジ「本文。霧島マナ、ムサシ・リー・ストラスバーグ、浅利ケイタの三名は
    本日付けて戦略自衛隊よりNERV本部作戦課に転属。
    移転後の待遇は全てNERV本部が決定する物とする。
    署名。国連長官及びNERV総司令。」

マナ(え?)

隣を見るとムサシも驚いている。

コウゾウ「ではシンジ君。NERV内での待遇を。」

シンジ君が書類をめくる。

シンジ「霧島マナ三尉、ムサシ・リー・ストラスバーグ三尉、浅利ケイタ三尉は
    本日付けてNERV本部作戦部に葛城三佐作戦部長直属として所属。
    またストラスバーグ、浅利両名が持ち込んだロボットの解析協力として
    一時的にNERV本部技術部にも赤木技術部長直属として所属すること。」

私たちはポカンと口を開けていたかも知れない。
それくらい状況に付いて行けていなかった。

コウゾウ「異議はあるかね?」

しばらく何も答えられなかった。

マナ「あ、ありません…。」
ムサシ「あ、俺も…。」

ゲンドウ「では下がれ。」

でもどうしてだろう。

ムサシ「あ、あの。」
コウゾウ「何かね?」
ムサシ「いえ、その…。」

ムサシが言葉に詰まるのは珍しいのんじゃないかしら?

シンジ「何も気にしなくて良いよ。」

シンジが微笑みながら言う。
もしかしたらシンジが助けてくれたのかな?

マナ「ねえ?シンジ君が助けてくれたの?」

それを聞くと、シンジは困った顔をした。
ムサシは、あれ?シンジ君を睨んでるの?
私の視線に気付くとムサシは慌ててそっぽを向いた。
???

コウゾウ「まあ、確かにシンジ君の意見もあったが。
     赤木君、…技術部長だが、その彼女がロボットに興味を持ってね。
     総合的にロボットの解析と君たちの今後が交換条件になるわけだ。
     国連には手を回してある。この街なら安全だよ。」

ムサシ(NERVって意外と甘い組織なんだな。)

横で私に耳打ちする。

マナ(え?)
ムサシ(普通なら処刑くらいだろ?それに一介のパイロットの意見をしっかり採り入れるなんて。)

シンジ「ああ。そのことなら。」

もしかして聞こえていたのかしら。

シンジ「一応、NERVも半軍隊組織だからね。上下関係は一応厳しいんだよ。」

シンジが微笑みながら言う。
じゃあ、何で?

コウゾウ「もう良いだろう、“碇シンジ三将司令補佐”。」

え?
階級を聞いた私とムサシが顔を見合わせる。

ゲンドウ「シンジ。発令所に案内して皆に紹介しておけ。」

ニヤリと笑う総司令。

この髭眼鏡、結構食わせ者ね…。
>当たり前だろ。




―――了。



あとがき

今回は主役三人がメインじゃないので、あとがきの座談会は無しです。
もう一つの三人パイロットで一つ小説を書きたかったので、外伝として書いてしまいました。

さて、モニタイメージの英語はEVA本編と同じく英語として成り立たないモノ多数です。
「POSSIBLE APPARENTLY with ROBOT」って何て訳すんでしょうね(^^;
TVで「POSSIBLE SIMILARLY with A.T.Field」が「恐らくATフィールドに近い物」と
訳していたので、「恐らくロボットの様に見える物」って感じの意味になるのかな?
…と考えて、作った文章です。英文として成り立つかどうかは甚だ疑問が残りますが。

Swim装備は手足や腕に小さな水流ジェットが付いている感じです。
細かい仕様は考えられていません(コラコラ)

「ジッグラト」のモデルに気付いた人、きっと多いよね。
そう「不思議な海のナディア」(GAINAX)の「バベルの塔」です。
なんで「ジッグラト」っていう名前にしたのかや、人工衛星の名前を「ミカエル」ではなく
「クロノス」にしたのか等は一応裏設定があるんですが…。秘密です。(^^;

物語ですが、まあ妥当なところ、マナとムサシをくっつけようという方向にしました。
ケイタは鋼鉄のGFと同じく完全に脇役化。


第三部以降は2000年4月頃まで停滞予定です。m(_ _)m
でも、出来るだけがんばりますのでよろしく!



私としては、かなり大作のよーな気がしますし、できれば連載してほしーなぁー。←NaNaは身勝手なことをよく言いますね

ケイタは脇役化決定ですか、かわいそうですね。しかし、私の所では登場すらしてないのでコメントとしては3流ですね。

いろいろとシンジの設定などが気になる方、本編はマインドさんのホームページ「Malchut of Sephiroth」でど・う・ぞ♪

投稿作品(AE外伝1)不確かな部分の追加です。

* NaNa's Color Pageの新装開店(?)の記念。
* 私の「ANOTHER EVANGELION」(以下AE)の第三十一話の続きなので、
  それを示す説明を書いて置いて下さい。<作品の先頭に書くのを忘れてました。m(_ _)m
  少なくともAEの30、31話を読んでいないと、つながりが良くわかりません。
*AEの第二部と第三部の幕間にあたります。