時に西暦2015年。

 日本ではセカンドインパクトも起きてないのに、人々の名前がカタカナになっていた。

 なぜか?



 それは西暦2000年の事。
 時の内閣総理大臣が下がり行く支持率に恐れをなしてこんな意味の発言をしたのが発端である。

『わかったゴメン! 不評だから2000円札はやめます!』

 そしてこう続く。

『その代わり名前をカタカナにして分かりやすくして、名刺とか表札とか無駄に作り直させて支出増やして景気回復!』

 なんだその論理は(汗)



 だがどんな裏工作があったのか、流行の「何年か後に見直す」条文すらも含まれてないダメ法案は可決してしまい、晴れて学園系エヴァなのに登場人物の名をカナにする事に成功したのである!



 いやまあ別に、カナにしたきゃすればいいのだが、理由がないのも納まりが悪いので考えてみた。







 ……考えなければ良かった(泣)



 とにかくそんな理由で、次期首都であるここ第3新東京市にはカタカナ名の人物たちが登場するのである。

 ちなみにまだここの完成も近くはないと言うのに、既に第4・第5新東京市の招致運動が日本各地で始まっているらしい。
 それもまた、何年経っても回復の兆しを見せない景気を刺激する政策群のひとつなのかもしれないが真相は赤絨毯の奥である。



 いや、話の中身とはなんの関係もないことなのだが。








狙われない学園
 
三笠どらが書いたと伝えられています









<被服室>

「はい、皆さん注目してくださーい。突然ですが、今日はエプロンを作る予定を変更して、メイドさんの衣装を作ってもらいまーす。班長さんは前に材料を取りに来てくださーい」

 被服だなんて、どこのファンフィクションにも登場しないようなマニアックな授業を取り仕切っているのは、ここ第壱中学校ではもっとも新任の伊吹先生である。

「うちの班長って誰や?」
「何言ってんだよ、トウジ、お前じゃないか。ほら行った行った」
「なんやて? いつの間にワシになったんや! 聞いとらんぞ!」

 鈴原班のメンバーは男子3バカ、女子は委員長、アスカ、レイの計6名である。

「あのー言いにくいんだけど……トウジ、先週の水曜休んだよね」
「まさかお前ら、人が見舞いに行ってる間に」
「私は反対したのよ……でもみんなが……」

 委員長が申し訳なさそうにぼそっと責任が無い事を主張する。

「休んでいた貴方を入れても2対4。多数決で民主的に決定されたわ」

 レイの言葉に引っかかりを覚えたトウジは、数秒考えを巡らせたのち、こわーい顔でシンジに向き直った。
 どきりと脅えたシンジは、上ずった声で尋ねる。

「な、なに?」
「センセ……お前までワシを裏切ったんかぁぁっ! お前だけはそないなヤツやないと信じてたのにっ!!」
「だ、だって、アスカが……」
「なぁによバカシンジ! あたしのせいにしないでよねー。あたしは一言だって鈴原にしろなんて言ってないわよ」
「でも、目がそう言ってたじゃないかぁ」
「何と言われようと! あんたは自分の意志で鈴原を班長にする事に賛成したのよ! ……ヒカリが証人よね」
「う、うん……」

 アスカの意味ありげなアイコンタクトを受けて、悲壮な表情のトウジに釘付けな委員長は口を開く。

「あの、鈴原、イヤだったら私が代わ―――」
「鈴原君の班だけまだ来てないですよー。早く取りに来てくださーい」

 ご丁寧に手をメガホンにして呼びかける伊吹先生。これでも来年は四半世紀を迎えるのだが、若いというよりむしろ幼い。その辺りも人気の秘密か。

「僕行ってくるよ」
「イヤ、仕事は仕事や、投げるワケにはいかん。センセは黙って座っとき」

 立ち上がり掛けたシンジを制して席を立つトウジ。
 声をかけそびれて、はううううなヒカリの肩にアスカの手がぽんと置かれる。

「負けるな、ファイト」
「うん……ありがと」

 第8次・鈴原にさりげなく恩を売ってハートがっちりキャッチ作戦(洞木軍軍師・惣流アスカ立案)はあえなく失敗に終わった。






「今度綿アメ食いに来んか? ウチにこないだおとんが妹に買ってきたおもちゃで、綿アメが作れる機械があるんやけどな、これが一見ガキ向けでしょぼいのやけど、やってみるとなかなかどうしておもろいんやで。ザラメもOKで味も本格的やしな」
「へぇ〜綿菓子とは懐かしいな、オレここに越してくる前は神社のすぐ近くに住んでてさ、縁日が出る度にひとり食い倒れツアーとかやってたんだぜ」
「ひとり、って所に哀愁を感じるね」
「ほっとけ」
「あれ? どっちの糸だろう?」

 手がお留守で口ばかり動いている2バカ+糸巻きを両手に持ってオロオロしているシンジに、アスカの怒号が飛ぶ。

「さぼってないで手伝いなさいよ!」

 見ればテーブルに広げられた黒い生地の地平に、委員長とレイが型紙を当てながら水色の鉛筆のようなモノ(チャコペン)で道を切り開いている。

「そない言うてもなぁ」
「布の切り分けが済んで割り当てが決まらないと動きようが無いしな」
「ミシンの準備するとか、考えればする事あるでしょ!」
「ああ、それならセンセが、ほら」

「ねぇ綾波〜下糸って、カタン糸でいいんだっけ?」
「碇君、黒と白の布縫うのに赤い糸いれちゃダメ」
「あ、そっか」

 家庭には置けないようなテーブル一体型の大きいミシンと格闘しているシンジ。

「な、ワシらの出る幕あらへんねん」
「そう言う惣流だって、委員長手伝わないで何やってるんだよ」

 なぜかスケッチブックと鉛筆を持っているアスカに向けられる訝しげな視線。
 アスカは胸を張って答える。

「あたしにはレース部分のデザインを考えるという大事な仕事があるのよ!」
「ほー、どれ見せてみいや」
「ま、まだ検討中だから見せられないわ」
「ふふ〜ん、惣流にしちゃ歯切れの悪い返事だな」

 キラリとメガネを光らせながら痛い所を突いてくるケンスケに、侮りがたい印象を受けつつアスカは描画面を隠す。

「まあ、出来上がりに期待しようか」
「さてと、ほならワシもちーとばかり働くとするかのう!」

 首をコキコキ鳴らしながら席を立つトウジ。

「あ、おいどこ行くんだよ?」
「敵情視察や」






 隣の班。

 伊吹先生が質問攻めに捕まって困っている。

「先生〜〜、布の大きさが足りないんです〜」
「あー、型紙を全部同じ方向に揃える必要はないのよ。なるべく無駄な隙間が出ないように工夫して取ってね」
「これ芯が出ないんですけど……どこ押したらいいんですか?」
「え、鉛筆に押すところはないんじゃないのかしら。削ってね」

「先生ごめんなさい! ボビンの爪折れた」
「あらら、じゃあ代わりにこれ使ってね。……って、どうやったらそんな所折れるの?」

 さすがに名前の分からないような一般の生徒が集まっている班、まとまりに欠け作業は難航しているらしい。

「先生これスカートをタイトのミニにしてもいいですか?」
「いいけど……そんな服装のメイドさんって居るかしら?」
「いいじゃないですか、今時メイドなんてパチモンの方が多いんですし」
「それもそうね」

(フッ、こりゃ楽勝やな)

 何に対して何が楽勝なのかは分からないが、トウジはニヤリと勝利を確信した笑みを浮かべつつ次のテーブルへ忍び足で移動していった。





 ぐるりと一周他の班を見物して戻り、やり遂げた男の顔で椅子に踏ん反り返っているトウジの頭に丸めた紙屑がぶつけられる。

「何すんねん!」
「あんたバカァ? 結局最初に材料取りに行った以外何もしてないじゃないのよ! シンジだけあんなに働かせてどこ行ってたのよ!」

 ミシンの使えないような飾りの細かい部分を、針を手にちくちくしているシンジ。
 一瞬、似合い過ぎや……と思ったトウジだったが、すぐに切り返す。

「そういう惣流はどうなんや。デザインとやらは出来たんか? んー?」
「う、うるさいわね、とっくに出来てるわよ」
「ほほう、それはそれは是非拝見したいもんやなぁ……なぁケンスケ」
「あ? ちょっと待ってくれ今手が離せない」
「あああっ! 相田君ダメじゃない! 腕にワッペンなんかつけたら」

 こっそり何をしているのかと思えば、メイド服の袖にどこぞの軍隊の紋章を縫い付けようとしていた。

「くそっ、メイドのフリして軍服作戦失敗か」
「もうええちゅうに。さぁて、見せてもらおうやないか……自称天才美少女とやらの腕前をなぁ」
「くっ……勝手に見なさいよ!」

 スケッチブックを投げるように机に置くアスカ。
 もったいぶった動作でそれを拾い上げたトウジは、弟子の作品を検分する書画の大家みたいな顔をして表紙をめくった。

 瞬間。吹き出す。

「ぐはははははは!! な、な、な、なんやこれはぁぁぁぁっ!」
「うるさいうるさいうるさーいっ! 笑うなぁぁぁっ!」

 取り戻そうとするアスカの手をひらりとかわして笑いつづけるトウジ。

「お、なんだなんだトウジ、オレにも見せろよ……お、おおおっ!? こ、これが大事なデザインかぁ!?」
「あ、あんたたちにはこの芸術性が分からないのよっ!!」

 笑われた事が恥かしいのと、悔しさから来る怒りが半々で顔を赤くしたアスカが怒鳴る。

「どうしたの? ちょっとこの班はうるさいわよー」

 騒ぎを聞きつけた伊吹先生が余りギレ片手にやってきて、トウジの持つスケッチブックを覗いた。
 途端、苦笑のような顔で凍る。

「う、うーん……これは、どうなのかしら」

 友人たちが塊になってスケッチブックを囲んでいるのに気付いたシンジも手を止めて覗き込む。
 そこには百歩ゆずっても「白薔薇」とは言い難いような不思議な物体を頭に乗せた、アスカの自画像が書かれていた。
 正直な所、アスカだと言われてからそうなのか?と悩むかもしれないレベルで、あんまり上手くない。

「それ……ターバン?」
「―――っ!」

 雷の直撃を受けたようなショック顔になったアスカは、両手で顔を覆いながら駆け出す。

 ―――ガララッ、ガララピシャン!

 教室を飛び出してしまった。

「どうしたんだろ……?」

 自分の発言がもたらした大きな衝撃にもさっぱり気付かない、業の深い生き物シンジ。


「碇君! 追いかけて!」
「え、どうして?」
「いいから早く!!」

 委員長の厳しい命令が、教室からつまみ出すようにシンジを追い出した。
 伊吹先生がどう対応していいのか分からず固まっている。

「え、えーと……私も追いかけたほうがいいのかしら……」

 オロオロ迷っていると、ミシンをいじっていて針の無い事に気づいたレイから声をかけられる。

「先生、このミシン、針全部折れてる」
「あら、じゃあちょっと待っててね。取りに行くついでに二人を探してくるから」






<屋上>

「こんな所に居たんだ。探したよアスカ」
「……」

 フェンスに手をかけたままじっとうつむいているアスカに、シンジはつとめて穏やかに声をかけた。

「あの……ゴメン」
「……」
「アスカが一生懸命書いたのに、ヘンな事言ってゴメン」

 アスカの肩はわずかに震えていた。泣いているのか?

「……ふ……くくく……」
「アスカ……?」

 不審に思ったシンジはそっと近づいて顔を覗き込んだ。
 すると突然。

「ふふふ…ふ…はははははははっ!」
「あ、アスカ?」

 じっとこらえていた何かを解放して、笑い出した。

「は〜〜おっかしぃ〜〜〜〜どこの世界にターバン巻いたメイドが居るのよっっ! いや100歩譲って居たとしても! ターバン巻いてるって事は男じゃないのよっ! 嫌っ、ヒゲオヤジのメイド服は絶対に死んでもいや〜〜っ!」

 両手を腰に当てて世界でも制覇したように快活な笑顔を見せるアスカに、シンジも一安心。

「おどかさないでよ……泣かしちゃったかと思った」
「え? 何が?」

 きょとんと真顔に戻るアスカ。

「あ……教室出てきちゃったわね。……ま、いっか。あとはヒカリたちに任せて、あたしらはここでひなたぼっこでもしよ、シンジ」
「え、でも……」
「いいのよ! 少しは鈴原たちにも仕事させなくちゃ不公平だしね。それともシンジ、あたしと居るのイヤ?」
 アスカはシンジの腕を取って、みずからの腕を絡ませた。

「……ずるいよそういう言い方」
「どうして? 言いたければイヤだって言っていいのよ」
「……それなら言おうかな」
「え、うそ…」

「アスカの居ない教室に戻るのはイヤだよ」

 今日は二人とも悪い子になってしまうようだ。






<被服室>

「なんか材料少ないと思ったら、各班1着なんだな。それにしたって、誰が着るんだこんなもの?」

 消えたシンジに代わってケンスケが細工を担当している。
 ただの布だったものも幾分か形を得てきてはいるが、このペースでは完成までに2〜3週かかりそうだ。

「ほー、やるやないか。なかなかの針裁きやな」
「まぁな。ほらオレ、サバゲ(作註・サバイバルゲーム)やってるだろ? あれでよく破れたところの修繕とかするんだよ」
「ほー、遊ぶんもいろいろ大変やな。銃持って走りまわるだけかと思とったわ」

 結局トウジは男のする事やない!と宣言して何もしていない。

 ―――がらららららっらららららっ。ぴしゃ。

 伊吹先生が針の箱を手に意気消沈して戻ってきた。

「はい綾波さん、針よ」
「ありがとう、感謝の言葉。……碇君、居なかったの?」
「そうなのー。ああどうしよう……授業中に生徒に逃げられたなんて知れたら、先輩に怒られちゃうわ」
「センセ、そない心配せんでもあいつら居なくなるなんて年中行事みたいなもんやから、平気でっせ」
「そうそう、授業終わる頃にひょっこり戻ってきますよ」
「お、そうこう言うてる間にもう終わりの時間やな。センセ、そろそろ片付けんとマズイんとちゃいますか?」「あら、そうね」

 時計は終業5分前。なぜにトウジがそんな指摘をしたかと言えば、片付けが遅れると昼食の時間にズレ込むからである。

「じゃぁ皆さーん、終わらなかった分は宿題にしますのでー、明後日までに提出してくださーい」
「明後日ェ!? なんでやねん!?」

 周囲からも「えー!?」のフィルハーモニーが聞こえてくる。

「そんなの無理です! せめて来週にしてください!」

 クラスの代表として委員長が延期を要求するが、伊吹先生はふにゃふにゃと苦笑いしながら次のように言って取り合ってくれなかった。

「ほんっとにごめんなさい! でも……今週末に使うから、どうしても明後日までに出来ないとダメなの!」





「「「「「使う?」」」」」








<碇家リビング>

 そしてアンニュイな土曜日の午後、今日もアスカはシンジの両親の留守をいいことにあがりこんでゴロゴロしながらテレビのチャンネルをぐるぐる回していた。

 ……チャンネルを回す、という言い方は古い世代にしか通じないだろうか。

 被服の宿題についてはとてもハードなスケジュールであったが某M.I先生の『提出してくれたらみんな満点あげちゃう』という教育者らしくない提案もあって、放課後を徹しての作業で何とか完遂させる事に成功した。
 その辺の疲労もあって、どこにも出かける気がしなかったのであった。

「あーーーーーーーっっ!!」
「どうしたのアスカ!?」

 エプロン姿のシンジがメレンゲの着いた泡立て器を片手に飛んでくる。
 アスカが指差した画面を見てシンジも驚いた。

『続いてエントリーナンバー7番の「NERV」の皆さんは……なんとメンバー全員が現職の教師なんですって!』
『驚きの美人揃いですね〜! こんな先生にボクも手取り足取り教えてもらいたいです〜』

 くだらない司会の二人はどうでもいい。
 そのずっと左の方、ちらっと見える人影は確かにそう!

『ではさっそく演奏してもらいましょう! 頑張って予選勝ちぬいて下さいね!』
『曲は「魂のルフラン」です!!』

 ♪♪〜♪〜♪ ♪〜♪〜♪〜 ♪〜♪〜♪〜

「……母さん……何やってるんだよ……」

 アップで映ったヴォーカルはメイド服をステージ衣装にしたユイだった。

 そしてバックバンドのみなさんは……

 キーボードに伊吹先生。なるほど、この為に急いでいたのかと一瞬納得しそうになるが、なぜメイドなのか?と疑問が再浮上。
 ギターにリツコ。タイトのミニなメイド服の上から白衣を羽織っている。
 ベースにミサト。胸元に深く切れこみが入ってセクシー(単に縫製が甘いだけかも)

「ママまで……」

 パーカッション(コンガっぽいけれど何かは不明)にはキョウコが。

 そしてやっぱりドラムスはゲンドウ。
 何がやっぱりなのかは知らないが、頭にはしっかりとアスカがデザインした――「あ、あのターバンだ」――そう! ターバンが……

「違ーう! バラよ白薔ー薇ー!」

 バスドラム(一番大きい足蹴にするもの)に隠れて画面には映っていないが、やはり足元は……

「スカートなのかな……」
「ぎえ」

 ♪♪〜♪〜〜♪ ♪♪〜♪〜〜♪〜

 言葉を失った二人の耳に、ますますハッスルなユイの歌声と、正確さそっちのけ勢い最優先な演奏だけが流れ込んでいた。

『はいありがとうございました〜! NERVに大きな拍手を!』
『なんと今皆さんが着られてます衣装は、教え子の皆さんが作ってくれたモノなんですって!』
『まあじゃあ今日は生徒さんたちと一緒に頑張ってくれたってワケですね!』



 取り合えず、そんなに上手いとは言えないが楽しく演奏していたようなので、予選落ちという結果については目をつぶるとしよう。








<教室>

「おはよう碇君」
「おはよう綾波」
「こらこらこら、あたしにも挨拶くらいしなさいよ!」
「挨拶……もう、してもいいの?」
「は? 何が?」
「貴方が言ったのに……『朝から辛気臭い挨拶してんじゃないわよ』って……」
「え゛……」

 記憶の奥底を掘り返して見れば1ヶ月くらい前にそんな事を言ったよーな気もしないでもないアスカ。

「あのー……それはね」
「何?」

 一言一句聞き逃すまいと赤い瞳を輝かせて見つめてくるレイのそこはかとなく甘い威圧感のような不可解なオーラに気おされるというか呆れると言うかとにかく脱力が最大レベルまで達してしまったアスカは、はぁ〜〜〜と深く息を吐きながら敗北宣言にも似た投げやりな様子で、レイの肩をぽんと叩くと言った。

「好きなだけ挨拶していいから」
「そう。おはよう惣流さん」
「はいはいおはよう」

 まだ登校して10分も経ってないのに2日分くらい疲れたアスカはふらふらと席に辿り着く。

「碇ィィィ! 見たか今週の! まさかアレのためとは流石のオレも思わなかったなぁ〜〜〜!」

 もちろんアレとはあの素人参加番組の事である。

「見たで見たで! 出るなら出るで教えてくれたらええのになぁ!」
「碇ユイ先生、キレイだったなぁ……あんな若い母親なんてうらやましいよ」
「あはは……ありがとう、伝えるよ」

 自分の事でもないのに気恥ずかしさ満面のシンジが照れ笑いする。

「そういやキョウコ先生も出とったな?」
「あー、そうね」
「お、どないしたん? 興味ありませーんみたいな顔しくさって」
「いーのよ別に。娘のあたしにもひとっことも相談無しであんなことしてるんだから。勝手にやらせとけば」

 頬杖を着いてご機嫌斜めのアスカ。
 自分も出たかった、と言うのが本音である。

「今度キョウコおばさんに教えてもらおうかなぁ、あの太鼓」
「なんで、よりによって地味なの選ぶわけ? あんたにはチェロがあるじゃないのよ」

 わいのわいのと盛り上がっていると、ミサトが入ってくる。
 途端に、ひゅーひゅー!だのと投げかけられる歓声。

「みんな見てくれた〜? あたし結構イケてたでしょ」

 嬉しそうに語る葛城ミサト(花婿募集中)先生に素朴な疑問がぶつけられた。

「どうしてメイドなんですか?」

 そう。満点の為とは言え、精魂込めて服を仕立てている間も脳裏から離れなかった違和感。
 なぜにメイド?の答えはまだ出ていなかった。

 ところが、真実は意外な方向へ転がり出す。

「いやぁそれがねぇ、あたしがマヤちゃんに間違った発注出しちゃったのよ〜」

 しっぱいしっぱい、と頭をかくミサト。

「演奏する曲にあったイメージの衣装にしてもらおうと思ってね、いろいろ考えたのよ。ところが……」

 魂のルフラン。




 えーと、魂が戻ってくる歌なのかしら?

 それとも生まれ変わって何度も出会いを繰り返すって歌?

 ……んー、ま、そんな感じよね。

 じゃあなんか死んだり生き返ったりするような印象が出るように……ゾンビ風?

 ……ダメか。

 天使? って言うか生まれ変わりなら仏教っぽいかしらね。

 それなら……極楽とか地獄とか、あの世ってイメージで作ってもらえばいっか♪




「で、マヤちゃんにお願いしたのね。『極楽って言うか冥土みたいな感じで!』って」

 そこまで言ってミサトはにんまりと笑う。

 オチが分かってしまった生徒たちは呆れて苦笑する。






 伊吹先生は答えた。

『わかりました! メイドですね!』








 えー、あまりのくだらなさに脱力を極めそうになっている三笠どらです〜。
 はじめまして〜。よろしくどうぞ〜。

 さて、今回は NaNaさんより「メイド」という難解なリクエストを受けまして、どーにかこーにか捻り出したモノでして……これで勘弁してください(^-^;

 あ、タイトルは勿論『狙われた学園』のパロです。
 なんの緊迫感も盛り上がりも無いよ、って意味です(^-^;

 そいではまたどこかで。

2000/01/14 1st. 


お礼参りありがとうございます、三笠どらさん。

自身の執筆速度がこの頃鈍っていまして困っていたんです、感謝感激です。

そして、私のリクエストが何故『メイド』だったのかは、永遠のなぞにしておいてください。

けっしてNaNaの趣味だとか、・・・・ってことはないのです、ただたんに憧れてたんです(ぽっ)

私ってM?って私はWですけど・・・。感想はぜひぜひ三笠さん