駅のプラットフォーム。

夏休みなので、今ここにはアタシ達二人以外にも大勢の人がいる。

 

子供連れの親子は子供が浮き輪を持っているところから、これから海にでも行くのだろう。

邪魔だから、海についてから膨らませればいいのに、浮き輪はすでに膨らんでおり、子供はそれを

もって嬉しそうにそこら中を走り回っている。

背広を来た人もいる。こんな日にも仕事があるんだな・・・・。

他にもいろいろな人がいる。

その中にはアタシ達と同じくらいの子もいる。

 

電車はさっきから何本も来てるけど、シンジの乗る電車はまだ来ていない。

シンジは横にボストンバッグを置き、手にはそのストラップを持っている。

「ごめんね・・・・・。」

シンジはそう言って謝る。

アタシは顔を横に振る。

「違う。シンジが悪いわけじゃない・・・・・。」

そう、シンジが悪いわけじゃない・・・・・しかたのないこと。

「・・・・・・・・・・・・。」

何も話さないアタシとシンジ。

また同じ形のした電車が駅に入ってくる。

同じ形だけど・・・・・・・・その電車は他のと違う。

それはシンジが乗る電車。

アタシ達の距離を広げる・・・・・・。

ホントは乗ってほしくない。けどそれは無理なことということは分かっている。

シンジはボストンバッグを持ち上げると、肩にストラップを掛ける。

そのまま何も言わずに電車に乗り込む・・・・・。

が、シンジは振り返って、

「君のことは絶対、忘れないから!!」

そうアタシに言った。

そしてドアが閉まり、電車は動き出した。

アタシはただそれを目で追っていた。

 

 

 

電車がアタシの目の前から消えたとき、

シンジがこの街からいなくなった。

 


with you


 

final story With You

 

シンジがこの街からいなくなってすでに一週間が経った。

アタシはあれから一度も外には出ていない。

出る気力もなかったから・・・・・・。

アタシのことを心配したヒカリからも電話があった。

 

「・・・もしもし。」

『アスカ?・・・・・・大丈夫?』

「・・・・・・うん。大丈夫よ。」

「・・・ねぇホントに大丈夫なの!?」

「・・・・・ごめん、ヒカリ。今は誰とも話したくないの・・・・・・。」

「・・・・・わかったわ。けど、私でよければいつでも相談にのるからね?」

「うん、ありがと。」

 

・・・・それ以来ヒカリには電話していない。

このことについてヒカリに相談してもどうなるわけでもないから・・・・・。

あれからアタシは部屋を掃除した。

・・・掃除した、というよりシンジから貰ったものを整理した。

貰った物・・・・・・といってもそんなにはないけど。

シンジから貰った写真立て。お願いして貰ったシンジが身につけていた腕時計・・・・・・・。

・・・・・・・けど、写真は捨てられなかった。

シンジと一緒に写っている写真。

シンジと一緒に撮った写真はこれ一枚しかない。

これだけは捨てられなかった。

だからアタシはそれを机の奥に仕舞った・・・・・・・。

 

 

 

・・・・・・・・・でも、いくらこんなことをしてもシンジが戻ってくるわけじゃない。

けどシンジを忘れることができないアタシはこれに区切りをつけるために外へ出た。

そして、シンジと初めて出会った喫茶店に行った。

 

 

 

アタシは喫茶店に来た。

・・・・アタシはここに座ってて、シンジを見つけたんだ・・・・。

それから偶然にもシンジにもう一度会って、最初は少し話しただけだったけど、少しずつ話していっ

て・・・・・・つきあい始めたのよね。

・・・・・・・けど今はもういない。二度と会うこともない。

・・・・・・・・・・・・・・・。

・・・・・・やっぱり来なかった方がよかったかもしれない。

ただシンジのことを思い出して、余計に悲しくなった。

 

 

 

 

 

シンジに・・・・・・会いたい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

二学期が始まった。

全てが色あせて見えた。

ただシンジのいなかった時にもどっただけなのに・・・・。

ただシンジがココロの中にいるだけなのに・・・・・。

色あせて見えた。

アタシはやる気という物を失っていた。全てにおいて・・・・・。

シンジがいなくなっただけでこれほどまでに世界が変わって見えたなんて・・・。

そんなアタシに少しだけ笑った。

・・・・・・アタシって凄く弱かったのね・・・・・。

 

 

教室に入ってすぐ、アタシは机に突っ伏した。

ヒカリが何か言いたげだったけど、それを無視した。

 

チャイムがなり、教室に先生が入ってきた。

「起立、礼、着席。」

ヒカリの声が聞こえる。

アタシはそれに反応もせずにそのままでいた。

「転校生を紹介します。」

先生はそう言った。

誰が来ても一緒。アタシには関係のないこと・・・・・。

アタシはそう思ってただ顔を上げ、ボ〜っと教室に入ってくる人を待っていた。

「・・・・・・・・えっ?」

アタシは自分の目を疑った。

そんなはずは無いと、アタシは何度か瞬きをして、もう一度その人を見た。

「・・・・どうして?」

もう会えないって言ってたのに・・・・。

彼は驚いているアタシと目が会うと、少し微笑んだ。

みんなは気づかなかったようだけど、アタシには分かった。

彼はアタシに微笑み掛けてくれた・・・・・・。

もう会えないって言ったのに・・・・・けどそんなことはもうどうでもいい。

今、彼が目の前にいる。それが真実だから・・・・。そんなことはもう関係ない。

アタシは嬉しくて、自分でも気づかないうちに涙を流していた。

・・・・凄く嬉しいのにね・・・・・。

彼はアタシの涙のわけがわかっているみたいで、みんなにもわかるほどに、凄く優しく微笑んだ。

 

 

 

 

 

「碇シンジです。よろしくお願いします。」

 

 

 

 

 

 

アタシの時が再び動き出した。

 

 

 

fin


コメント

これでこのSSは終了です。

最初と最後だけの連載SSです。これは最初から決めていたことです。

この間に何があったかはみなさんの想像におまかせです。

それでは。