交換留学生としてシンジ達が戦略自衛隊士官学校に行ってから5日目

5人は疲れ果てていた

初日は楽だった

施設内の案内や非常用出口の確認

訓練や授業の見学等だった

2日目から違った

授業や訓練には参加せずにすんだ

しかし、マナやムサシ、ケイタには容赦ない罵声を浴びせる者もいた

そして夜

突然の警報

話によると、緊急出撃訓練らしい

何も知らないシンジ達は、物の見事に最低点をとった

その結果、5日間合同訓練に強制参加というパンチを喰らったわけである

これほどまでとは、予想していなかった





君に吹く風


8月28日:戦略自衛隊







「痛っててて!!!!おい、マナ!もうちょっと優しくできないのかよ!?」

「うるさいわね!!黙ってなさいよ!!」

「・・・・・・河本君。傷を見せてください。手当をします」

「あ、いいよ、山岸さん。どうせかすり傷なんだし」

「そうそう!!ケイタよりも俺の手当をして欲しいんだけどなぁ」



ばしっ!

マナが傷口を思いっきり叩いた

声にならない絶叫



「それは酷いと思うけど・・・・・」

「良いのよ、シンジ!こいつは叩いたくらいじゃ壊れないんだから!」

「はぁ、そろそろ時間だよ」

「何の時間?」

「・・・・・・・合同模擬戦闘訓練。多分、僕達の味方になる人なんて一人もいないと思うから。
みんな気を付けて」

「「「「了解」」」」










<訓練場>



予想通りだった

もともとこの合同模擬戦闘訓練は、数チームによるバトルロイヤルのような形式である

しかし、シンジ達のチームに全ての敵が襲いかかってきた

5分は持ちこたえた

しかし、マユミは魔法を使うことができない

夢魔は抑制しなくてはならない

ATフィールドの使用は躊躇われた

下手をすれば、相手を殺してしまう可能性もあるからだ

だからといって、黙って殺される気もないのだが・・・・・・・・・

数十人からの攻撃を一斉に受けてはどうしようもない



「貴様ら!!やる気があるのか!!!」



にやにやと下品な笑いを浮かべた教官は罵声を浴びせた

ムサシは既に切れる寸前である



「全員、懲罰房にでも頭を冷やしてこい!!!」

「・・・・てめっ・・・・」



ムサシの腕を掴んだのはマユミだった

微かに首を振る

ここで下手に暴れるわけにはいかない

様子を見よう



「・・・・・・・畜生」

「何か言ったか!!!?谷口!!!」

「・・・・・・なんでもありません」

「何だぁ!?その反抗的な態度は!!!!上官不敬罪で軍法会議にでもかけられたいか!!!!」

「・・・・・・・・・」

「ここが戦場だったら貴様なんぞとっくに地獄行きだ!!!わかったか!!!」



言いたいことを言ってすっきりしたらしい

教官殿は犬でも追い払うように手を振った

きっと、彼の言う「戦場」とは、人間同士の争うのどかな「戦場」のことを言ってるのだろう

降伏すれば命ぐらいは助けてくれるかもしれない、神様みたいに尊大な人間との戦場

しかし、シンジ達は違う

降伏なんてできるわけがない。したところで、助かるわけもない

そういう敵と、未知の生命体:使徒と戦っている

最後の最後まで足掻き通すことをネルフでは教えている

真の「戦場」を知らぬ者からの侮辱に、一同は黙って耐えていた










<ネルフ学園:発令所>



「昨日以上に、酷いわね」

「・・・・・・・・戦自らしいわ。姑息なやり方!」



リツコが吐き捨てるように呟く

戦自も、シンジ達自身も気付いていないことだが、

リツコは武器の中に、ミサトは出発前に渡したお守りに、加持はこっそり服に仕込んだものがある

高性能マイクだ

彼らの周りで起こっていることを、一言一言を洩らさず録音している

バッテリーは、十分もつ

168時間分の会話を録音していた

いざとなればそれを楯に戦自に乗り込むつもりだったが・・・・・・

しかし、そろそろ我慢の限界である

後ろにいるクラスメート達も殺気立っている

アスカは、怒りのあまり無口になっている

レイは、静かに怒気を発散している

トウジは、猛り狂い

ケンスケは、黙々と銃の整備をしている

ヒカリは、青ざめた顔ながらも握りしめた拳は真っ白だ

その他大勢の仲間も、皆、憤怒の表情を露わにしている



「あなた達!!わかってると思うけど、命令違反、勝手な行動は懲罰の後退学処分よ!!」

「構うもんか!!」

「そうだそうだ!!!」

「あんな奴ら許しておけないわ!!!」

「みんなで乗り込もう!!!」

「ま、待ちなさい!!!」



今にも教室に戻って武装を取りに行こうとする生徒を止めたのは、ゲンドウだった



「・・・・・何の騒ぎだ」

「学園長!!俺達、戦自に殴り込みに行きます!!止めないでください!!!」

「そうだ、やってやるぜ!!」

「碇君や霧島さんがこのままじゃ可哀想よ!!」

「学園長」



レイが、ゲンドウの目を真っ直ぐに見つめて、過激な意見を吐いた



「攻撃許可をお願いします」

「・・・まぁ待て。既に手は打っておいた」

「?」



困惑する一同、100余名



「加持君に頼んでおいたからな。もう数分で連絡が来るはずだ」

「加持に!?」



怪訝そうな表情のミサト

その時、無線から加持の声が聞こえた



『こちらブリュン・ヒルド攻撃部隊第13分隊、加持リョウジ。
楽隊は到着。準備はできてますよ』

「こちら発令所、碇ゲンドウだ。
ゲストの到着まで時間がある。楽隊の演奏を聴かせて差し上げろ」

『ラジャー。楽隊は陽気な曲が好みのようです。派手に行きますよ』

「それは結構だ。客も喜ぶだろう」

『では、あとはそちらのゲストを待つばかりですね』

「予定通りの時間に舞台は開幕。お客に粗相の無いようにな」



通信を切る

困惑した表情の一同



「が、学園長?一体何を・・・・・・・」

「ふっふっふっふ・・・・・戦自への報復だ」










<戦略自衛隊士官学校:懲罰房>



何故士官学校に懲罰房なんて物があるんだろうか?

催吐剤と下剤を繰り返し使用され、腹の中にある物は上と下から全部出され

体力なんて物は一握りもない

男女に分かれて、隣同士の房に入れられた

ここの看守は、ギネスに乗れるほどの嫌な奴揃いである



「へっ、様ぁねぇな!!」

「オラオラ、何とか言ったらどうだぁ!?」

「ぐうぅっ!!」



腹を蹴り上げられたケイタが、壁に叩きつけられた

口からは血が流れ出している



「次は貴様だ」

「・・・・・・・・」

「おい、貴様のことだ!!」



殴りかかる看守の脛を払うムサシ

瞳は怒りでぎらついている

思わず、看守は息を飲んだ



「何だ!!?その反抗的な態度は!!!」



数人の看守が、よってたかってムサシを房から引きずり出し、取り押さえる



「くそっ!!はなしやがれ!!!」

「貴様!!自分の立場という物を思い知れ!!!」

「ぐあっ!」



指先を、踏みにじられた

看守の一人が、ペンチを持ち出す



「「「!!!」」」

「覚悟しろよぉ・・・・・・」



ムサシの小指を、ペンチで挟み・・・・・・



「・・・・・・おい、いい加減にしろ」



隣の房から、静かな声が聞こえた



「?」

「それ以上やると、命に関して何の保証もできない」

「・・・・・・ぷっ」



看守の一人が吹き出した

マユミだった

立ち上がって鉄格子に近寄り、鋭い視線で睨み付けている



「っくっはっはっはっはっはっはっはっは!!!!!」



大声で笑い転げる看守達



「良いぜ、お嬢ちゃん。可愛がってやるよ」

「・・・・・・・・」



マユミの、白く、細い腕が鉄格子に触れた



「!!!」



同じ房のマナは驚愕に目を見開いた

マユミは、鉄格子を開いた

正確には夢魔による物なのだが、看守達は勿論、シンジ以外は、誰もわからない

頑丈なはずの鉄の棒はぐにゃっと曲がってしまった

マユミが一歩踏み出す

看守達は一歩後ずさった



「山岸さん!!駄目だ!!」

「・・・・・!!!」



剣呑さをたたえていた瞳が、正気に返る

同時に、自分に言い聞かせるように何かを呟く

薄ら笑いと共に、看守が一歩踏み出したその時、警報が鳴った










<ネルフ学園:発令所>



主モニターに、警告がおどった

警報が鳴り響く



「何が!?」

「戦略自衛隊本部の上空にジャミング波を確認しました!!!」

「学園長!!これはどういうことですか!!!!」

「まぁ、待て」



ゲンドウは平然としたものだ



「せ、戦略自衛隊本部の上空に多数のパターン青を確認!!使徒です!!!」

「よし、演奏は始まったな」

「学園長!!」

「何をしている!総員、第1種戦闘配置だ!」

「!!?」

「直ちに現場に急行し、使徒を殲滅せよ!!」



突然の事態に、ポカンとしている生徒達

事態の真意を読みとったのは、教員達だった



「何してるの!!全員戦闘準備!!準備が完了次第第3ケージに集合!!良いわね!!!」

「りょ、了解!」×生徒全員



発令所を駆けだしてゆく生徒達

ほくそ笑むゲンドウと、困惑顔の教員達



「・・・・・・学園長」

「政府機関に連絡。『特務機関ネルフ』は使徒殲滅を最優先任務として出撃する」

「・・・・・・あなた」

「ユ、ユイ」



にこにこ顔のユイがいつの間にか立っていた

顔は笑っている



「やりすぎたら、メッ、ですからね」

「あ、あぁ。問題ない」



あまりに似合わないシチュエーションに、オペレーター一同は目をそらした










<戦略自衛隊士官学校>



そこは既に、混乱のるつぼと化していた

サハクィエルのジャミングによって、あらゆる電子機器は死んでいる

並みの銃火器ではATフィールドには歯が立たない

上空の加持が突き落とした「使徒の繭」十数個は、見事に羽化している

戦自の隊員は、生徒も教官も逃げまどうばかりだ



「な、何をしとるか!!応戦しろ!!」

「駄目です!!全ての攻撃が通用しません!!」

「なんとかしろ!!」



理不尽極まる言い草だ



「!?何だ!?」



生徒の一人が、気付いた

空を横切ってゆく黒い全翼型輸送機

白いパラシュートを広げて、何かが降下する

その何かは、戦自の教官共への報復と、ついでに使徒を殲滅するために降下していた










<懲罰房>



(ここよ。懲罰房)

(ちっ!鍵がかかってるわ)



ドアの向こうから聞こえる声

シンジは呼びかけた



「惣流?綾波?」

(くっ!!開かないわ!)

(どいて)

「えっ?ちょっと、綾波!?」

(マジックプログラム:ファンクション。フィールドレベル:6。
アクア・ジャベリン:ドライブ!)



6本の水の槍が懲罰房のドアをぶっ飛ばした

べっこべこにへこんだドアが、真っ直ぐ壁に叩きつけられる



「・・・・・・な、何?何があったの!?」

「何ぼけてんのよ、マナ!!」

「あ、あすかぁ!!!?何でこんな所にいるのよ!?」

「使徒殲滅を最優先任務として全員出撃してるわ。
幸か不幸か今日は定期哨戒任務の日で、エンジェル・ハイロゥもブリュン・ヒルドもいないから。
冒険科三年生の出番ってわけ」

「使徒が、ここに!!?」

「そ、多分戦自の戦力は何もできてないと思うわ」

「よし、僕も行くよ」

「馬鹿、あんたは下がってればいいの」

「・・・・・ここは、任せて」

「そういうわけにも、いかないよ」



溜息をつく二人



「そう言うと思って、武器だけは回収してきたわよ。あんた達の分もね」

「よっし!!こいつがありゃ百人力だ!まだ一度も本気で使ってなかったんだよなぁ、これ」



そりゃそうだ

生身の人間にATフィールドを乗せた一撃なんぞ叩き込んだら即死は間違いない



「シンジ達は使徒殲滅に向かってくれ。俺はケリを付ける」

「何の?」

「今まで、全部のケリさ。ケイタはどうする?」

「・・・・・・僕も行くよ」

「ちょっと待ちなさいよ!あたしも行くわ!」

「マナ!」

「・・・・お前なぁ、休んでろよ」

「うっさいわね!!さっさと行くわよ!!」



走り出す三人

シンジはマユミに話しかけた



「山岸さんは、あの三人についてて」

「・・・・・・何故?」

「重火器とかを持ち出されたら、ムサシ達のATフィールドじゃ危ないから。
それに、もしものときは・・・・・」

「わかりました」



マユミも、三人の後を追う



「碇君。敵性反応が7つ。来るわ」

「わかった!」

「ま、あんたは下がって、あたしの腕前でも見てなさい!」



狼のような下級使徒が姿を現した

奴らが飛ぶよりも早く、アスカは斬りかかっていた










<戦略自衛隊:発令所>



「な、何が起こっている!!?」



戦略自衛隊長官は、半狂乱で叫んでいた



「わかりません!全ての電子機器が機能停止しています!!」

「状況が全くわからんではないか!!日本政府への連絡は!!?」

「通信機器も全部死んでるんです!!何もできません!!」

「・・・・・・・馬鹿な」



その時、発令所の隔壁を切り刻んで、シャムシエルが現れた

発砲するも、全くきかない

隊員達は腰を抜かし、逃げ惑おうとしたとき・・・・・・・・・・・



「とぁりゃああぁぁぁぁぁああああ!!!!!」



放電光を撒き散らす大剣が、シャムシエルを脳天から真っ二つにした

ムサシのアンスウェラーは、刀身にスタン・エッジが組み込まれている

見事にシャムシエルを切り裂いた

柄に填め込まれている電池をイジェクト

電池がごとり、と床に落ちる



「た、谷口!!」

「貴様、何をしに来た!!」

「・・・・・助けてもらっといてその言い草か」

「頼んだ覚えはない!!!」



喚いているのは、脱走前のムサシ達の教官だった男だ

どうやら、脱走者を出してしまったせいで降格されたらしい



「ま、こっちも助けに来たんじゃないから安心しな」

「そうそう」


ケイタが相槌を入れる



「ちょっと、報復に来ただけ」



マナが明るく言った



「ほざけ!!!」



三人の言葉に顔を真っ赤にした教官が、拳銃を抜く

普通の人間には視認することができないほどのスピードだった

撃つ

渇いた銃声が、3発



「無駄だ」

「きかないよ」

「その程度の力で怒鳴りちらしてたんだから、大したこと無いわね」

「・・・・・ば、馬鹿な!」



ムサシ達のATフィールドでも、銃弾程度は防ぐことはできる



「さぁ、こっちの番だ」



新しい電池を柄頭に突き刺し、スタン・エッジの電源を入れる

ケイタも、弩にクォレルを乗せた

マナは、ジェイソンを構えている



「か、かかれ!!この化け物共をぶち殺せ!!!」



悲鳴を上げながら、戦自の隊員達は発砲した

己の正気を保つため、唯一の指示に従ったのだ

フルオートの弾丸が襲いかかる

マナは防御に集中

ケイタは一番密集しているところに、矢を撃ち込む

矢尻のコアが爆発し、一気に数人をなぎ倒した



「オラぁ!!!」

「ひっ!」



咄嗟にしゃがんだ教官のベレーが、弾き飛ばされる

その教官殿は、一目散に逃げ出した



「待て!!」

「ほっとけばいいよ。みんな抵抗する気はなくなったみたいだから」



油断無く視線を走らせ、新しい矢を乗せながらケイタが呟く

マナは、長官に近寄った



「父さん」

「・・・・・・・マ、マナ」



マナが一歩近寄る

マナの父親は、戦自の長官は悲鳴を上げて飛びすさった

これが二人の関係を象徴しているように思えて・・・・・・・・・



「さよなら、父さん。いえ、霧島ノボル長官」

「マナ!!」



その言葉を無視して、マナは歩く



「良いのか?親父さん」

「良いのよ。私の父さんはもういないから」

「・・・・・・・・でもよ」

「良いから!早くみんなと合流しましょ!」

「そ、そうだな」

「あ、山岸さん?」



開きっぱなしの入り口から出てきたのは、確かにマユミだ



「・・・・・みんな、大丈夫みたいですね」

「うん。心配させちゃった?ごめんね」

「もう長居する理由も無くなったから、とっとと撤退しようぜ」



廊下を歩きながら、口々にぼやく4人



「はぁ。やっとこれでのんびり休めるわね」

「・・・・・・早く、お風呂に入りたい・・・・・・・」

「まったくだな」

「これで、二度と戦自が絡んでくることはなさそうだけど・・・・・・」



ケイタが呟きかけた言葉が終わらないうちに、彼の真横の隔壁が音を立ててへこんだ

慌てて後退し、武器を構える

疲労困憊している体に鞭を打ち、身構えた










<・・・・・・・・その頃のシンジ達>



「はぁい、シンジ君!あらら、酷い顔ね」



ふらつく足取りで出てきたシンジを迎えたのは、ミサトの一言だった



「そ、そうですか?」

「でも、大丈夫よ。これで戦自に片は付けたから」

「・・・・・・・使徒は?」

「殲滅は粗方終わったわ。所々で戦自勢力との小競り合いが見られるくらいよ」

「ま、後はマナ達と迎えを待つばかりね」

「ええ」



アスカがそう言ったとき、ミサトの電話が鳴った

慌てて取るミサト



「はいはい。こちら葛城・・・・・・リツコ?何なの?もう終わりかけてるけど・・・・・・・
・・・!!!!?ちょっと、何それ!!!?・・・・・機動兵器!!!?」

「「「機動兵器?」」」

「わ、わかったわ。すぐに援護に向かう!」



電話を切る

険しい表情で、ミサトは全員に通信で命令を出した



「最優先指令、繰り返す、最優先指令!
戦略自衛隊本部施設内に機動兵器の所在を確認!!
これと戦闘を行っている生徒がいるとの報告が入った!!
直ちに援護に向かわれたし!!ポイントはR−19!!!急いで!!」

「ど、どういうことなんですか!!!?」

「でかいのが残ってたってことよ。
しかも、誰かと戦ってるみたいで・・・・・」

「・・・・・・まさか、霧島さん達?」

「い、急ぐわよ!!馬鹿シンジ、レイ!!!」

「わかった!」

「了解」

「ミサトはここにいて!後続の指示をお願い!!」

「わかったわ!何かあったら無理せず逃げるのよ!!」

「「「了解」」」



三人は施設内へと戻った










<ポイント:R−19>



ガトリングガンが猛烈な勢いで弾丸を吐き出し、辺りの壁、隔壁、全てを穴だらけにしている

攻撃は止まることなく、四人に反撃を許さない



「くっそ!!どうすりゃいいんだ!!?」

「・・・・・・作戦は、あるわ」



マユミの言葉に、他の三人は耳を傾ける



「私が谷口君を魔法で援護、谷口君は突撃。河本君と霧島さんは、敵の注意を引きつけて」

「注意を引きつけろって言っても、どうすりゃいいのよ!!?」

「・・・・・・やってみる」

「ケイタっ!!!」



ケイタが、隠れている角から飛び出した

敵、機動兵器の姿は蜘蛛のような形で、体長は15mほど

口に当たる位置には、本来車載用と思われるガトリングガンが顔を覗かせている

弾幕の一瞬の隙間をかいくぐり、ケイタは矢を放つ

魔法を唱える暇もなかった

しかし、コアでできた矢尻は、強力な爆薬と同じだ

無傷で済むはずがない



射た



爆発



「やった!?」



ケイタの放ったクォレルは、狙い違わずガトリングガンを叩き潰している

マナも身を躍らせ、ライフルを構える

ムサシは飛び出した

マユミは詠唱を始める



「だぁりゃあああ!!!!!」



がっつん!!



アンスウェラーの刃は、蜘蛛の脚に遮られた

いつの間にか、蜘蛛の脚の先には鉤爪が飛び出している



「ちぃっ!!」



懐に飛び込み、装甲にカバーされていない関節部分に剣を突き立てる

スタン・エッジを最大出力

中の回路が弾け飛んだ

脚が3本ほど落ちる

機械仕掛けの蜘蛛は、腹から何かを射出した



「爆弾!?」



打ち出されたのは小型の榴弾

瞬時に多弾頭化し、周囲の壁面に跳ね返る

尾を引く煙が蜘蛛の巣のような軌跡を描き・・・・・・・・



「げほっ!!!げっほぉっ!!!」



ムサシの咳が聞こえる

煙幕は通路を瞬く間に白く染め上げた

何も見えない



「みんな下がって!」



マユミの指示

マナとケイタは隠れていた角まで後退

そっと様子を伺うマナ

直後、煙を突っ切り、マナの鼻先を掠めていったのはムサシの体だった

壁に叩きつけられ、プロテクターがひび割れる



「ぐっぁぁ・・・・・・」

「ムサシ!!!」

「マナ、危ない!!!」



マナはムサシに駆け寄ろうと通路に飛び出した

刹那、蜘蛛の脚がマナの腹を打った

鉤爪が刺さっているようには見えないが、血を吐いて気絶した

内臓を痛めたのだろうか



「マナぁっ!!!!」

「・・・・・・・・やめて」



ケイタは蜘蛛に向かってクォレルを撃ちまくる

しかし、すべて叩き落とされてしまう

コアを使ったクォレルは使えない

使ってしまえば、マナやムサシも巻き添えになってしまう



「・・・・・・もう、やめて・・・・・」



マユミは、俯いて震えていた

駄目だ

これ以上は駄目だ

これ以上はもうどういう種類の保証もすることができない!

だからもうやめて!!



「うわあああぁぁっっ!!!!!!」



飛び出したケイタの体も、蜘蛛の脚に薙ぎ払われた

壁に叩きつけられたところに、頭突きの追い打ちがきまる

ムサシも蜘蛛の突進に巻き込まれた

額が割れ、血が流れ出す

マナは蜘蛛の脚の一本に下敷きになっていた

呻き声にも、力が無い

蜘蛛のセンサーがマユミをとらえた





もう、限界だった





「(やめろって言ってるんだよ!!!このくそ野郎!!!!)」



マユミの影が爆発するように、夢魔が飛び出した

翼を広げ、真っ直ぐ蜘蛛に突っ込む

マユミの太股よりも太く、たくましい夢魔の腕が振るわれる



「(おらああああぁぁぁぁっ!!!!!!!)」



蜘蛛の脚を掴み、強引にへし折る

残る脚も全てへし折り、動けなくなった蜘蛛の頭に拳を振り下ろす

特殊鋼で作られた装甲は、たやすく、発泡スチロールのようにへしゃげた



「(あーっはっはっはっはっはっはっ!!!!!!!)」



蜘蛛の頭部を両手で掴み、引きちぎる

マユミと夢魔の高笑いに、破壊音が重なる

残る腹部の装甲に手を掛け、力任せに引き裂こうと力を込める

具現化した彼女の殺戮本能は、桁違いの力を込めて装甲を引き裂いた



「(てめぇかぁぁ!!!!!!)」

「ひぃぃぃっ!!!!」



悲鳴を上げて、涙と鼻水を流しながら、夢魔に向かって拳銃を放つ男

例の、マナ達の教官だった男だ

発令所から逃げ出した後、こいつに乗りこんだらしい



「(きかねぇよ)」



にやり、と唯一表情を読みとれる耳元まで裂けたような口を吊り上げる夢魔

マユミも、それにそっくりの残忍な笑みを浮かべていた

右腕で襟首を掴み、吊し上げる

ズボンが黒く染まっていき、異臭が鼻についた

夢魔は左腕で、銃を握っている右腕を掴み、力を込めた



「ぎゃああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!」



凄まじい悲鳴が迸った

腕はまだ、かろうじて繋がっている

骨は完全に砕け、折れたところが90°床に向く



「(覚悟しやがれ・・・・・・・)」

「ひぃぃぃぃぃいいいいいい!!!!!!!!!!!!!!!!!!」



左手が、教官の頭を覆う

軽く力を込めれば、トマトを潰すように握りつぶせるだろう

マユミは、夢魔の左手に力を込め



「やめるんだ!!!山岸さん!!!!」



ゆっくりと、夢魔が、マユミが振り返る

残忍な笑みを口元にたたえたまま、睨み付ける



「(またてめぇか・・・・・・)」

「殺しなんかしちゃいけないよ!!!そんなことを望んじゃ駄目だ!!!」

「シ、シンジ・・・・・何なの?あれ・・・・使徒?」

「・・・・・・・山岸さんだよ。もう一人の山岸さんだ」

「あ、あの化け物が!?」

「(そうさ、化け物だよ)」



眼にも止まらぬ速さで、夢魔のしなやかな尾が走る

シンジは胸をしたたかに打ち据えられた

アスカとレイはあまりのことに動くこともできない



「・・・・・・やま・・・ぎし・・・さ・・・ん・・・・・もう、敵はいないんだ・・・・・・
だから・・・・・・夢魔を・・・・・・・」

「(・・・・・・)」



獰猛な狂気は、嵐が収まるように消え失せてゆく

夢魔は、翼を広げたまま、ガーゴイル像のように佇んだ

ゆっくりと黒い霧のようになってゆき、霧散した

マユミの瞳にも正気が宿る



「・・・・!!!わ、私は・・・・・」

「・・・・・よかった・・・・・制御できたんだね」



そう言って、シンジは意識を失った



「シンジ!!」
「碇君!!」

「そんな・・・・・私は、また・・・・・・」



通路の向こうから、複数の足音が聞こえる

救援に来た生徒達だろう



重傷、4人

軽傷、18人

ほとんどが無傷だが、重傷を負ったシンジ、マナ、ムサシ、ケイタは集中治療室送りだろう




















夏が終わりを告げようとしていた



つづく





後書き

あ、夏休み終わっちゃった
結局、生徒達の日常生活の描写がなかったです

いよいよ2学期!
学校行事のオンパレードです