さくっさくっ



「何これ?」

「砂丘、ね」

「・・・・・・地下迷宮って、砂丘もあるんだ」



ターミナルドグマ:第20階層

そこは、迷宮でも何でもない

だだっ広い部屋に、砂丘がでんと聳えている

ただ、それだけの所だった




君に吹く風


9月25日:強敵








「でも、随分広いね」

「使徒の反応も無し。何なのかしら?」

「さぁ」



三人が話していると、聞き慣れた声が聞こえてきた



「お?シンジ達やんか?」

「トウジ!!ケンスケ!!委員長!!」

「何やってるんだ?こんな所で?」

「あたし達も、さっき来たばっかりなのよ」

「アスカ達は、怪我とかしてない?」

「全然平気!もう、向かうところ敵なしって感じね!」



数分後、更にマナ達も姿を現した



「あれ?みんな何やってるの?」

「うわ!?何だここ?」

「よくわかんないから、これからどうするべきかを考えてたのよ」

「・・・・・・・でも、おかしいわ。探索中に生徒同士が合流することは、ほとんど無いはずよ」

「そうだよね?何かあるのかな?」



その時、いきなり警報が鳴り響き、入り口に隔壁が降りた

素早く武器を構え、辺りを警戒する



「レイ!使徒の反応は!?」

「・・・・・・・無いわ・・・・・・いえ、すごく微弱な反応が1つ」



そう言った瞬間、砂丘が爆発した

砂の中から、巨大な何かが飛び出してくる



「「「「「「魚!!?」」」」」」

「「「ガギエル!!」」」



正式名称を叫んだのは、レイとヒカリとケイタ

使徒、ガギエルは白い巨体の魚である

普通は水中に生息する使徒だが・・・・・・・・・・・



「す、砂を泳ぐ魚なんているのか!?」

「目の前にいるでしょ!!!」

「・・・・・・砂ガギエル、ね」



砂ガギエルが、一同の元に突っ込んでくる

その大きさは、山ほどもある

これほど巨大な使徒と闘った経験は、一度もない



「おもしれぇ!!!」

「ムサシ!!」



ムサシはアンスウェラーのスタン・エッジを起動

真っ向から飛び上がって、口先に振り下ろす!



カキン



「嘘ぉ!!」

「あの馬鹿!!!」



マナが援護の弾丸を飛ばす

それも、ガギエルの硬い皮膚の前に弾き返されてしまった

ガギエルが口を開き、ムサシを飲み込もうと・・・・・・・・・



「うありゃあ!!!!」



トウジが横から力一杯ぶん殴った

しかし、鮫肌のようなガギエルの皮膚に、手甲の方がぼろぼろになった

砂に潜るガギエル



「みんな、固まるんじゃないわよ!!」

「わかっとる!!」

「綾波!委員長!探知できる!?」

「・・・・・・・?できない!?」

「多分・・・・・この砂がカモフラージュしてるんじゃないかしら」

「おいおい、打つ手無しかよ」



ケンスケがぼやいた瞬間、彼は足下の砂が微かに盛り上がるのを感じた

砂の上を転がってそこから離れ、伏せたまま銃を構える



「次に出てくるのは、さっき俺がいた辺だ!!」

「OK!刺身にしてやるわ」

「アスカ、油断しないでよ」

「わかってるわよ。あんたじゃあるまいし」



ケンスケが銃を構え、シンジとアスカが刀と剣を構える

トウジとムサシとケイタとマナは、魔法使い二人のガード

頬を伝う汗を拭い、じっと様子を伺う



「来た!」



レイの叫びの半呼吸後、ガギエルが飛び出してきた

砂を巻き上げ、天井近くまで跳ね上がる



「っ!くっそ!!!」



ケンスケが発砲した

撃った弾は、とっておきの神経毒弾頭

一発でも体内に侵入すれば、数秒でどんな使徒でも動きを止める



「どうだっ!!」



一発どころか、パレットライフルのマガジン一本分、60発も命中した

銃口から吐き出された神経毒弾頭の悉くが、砂ガギエルの皮膚の前に弾き返される

ケンスケは恐怖に顔を歪めながら、後退した

今度は、本格的な逃走だ

アスカと一緒に逃げているシンジは、アスカに向かって怒鳴るように言った



「惣流!どうするの!!?」

「今作戦を考えてる!!」

「作戦って、どんな作戦で!!?」



シンジとアスカ

二人はガギエルに追っかけられながら喋った



「奴のコアは!!?」

「何処にも見えなかった!!残ってるのは、口か、体内しかない!!」

「・・・・・・・やるしかないわね」

「!?」

「これだけは、やりたくなかったけど・・・・・・・・」



アスカは、走りながら指示を出す



「良い!!何としてでもこいつの動きを引きつけて!!!
レイとヒカリはできる限りの援護をあたしにちょうだい!!!」

「惣流!!どうする気なんだ!!?」

「・・・・・最後の手段、ってやつよ」











<発令所>



「ターミナルドグマ:第20階層で、砂ガギエルと交戦しているようです」

「予定通りね」



モニターに映る光景を見ながら、リツコは呟いた



「なかなかの動きね。流石だわ」

「あとは、どんな戦い方を見せてくれるかね」

「・・・・・・・でも、良いんでしょうか?あの子達だけ」



砂ガギエルと闘うことになっているのは、シンジ達だけだった

すべて、発令所から操作していたのである



「あの子達が、かなり優秀だからよ。
本人達は知らないけど、卒業後の進路もほとんど決まってるわ」

「一時は卒業さえも危ぶまれた生徒なのにね」

「例えば、どんな?」

「国連軍直属の対使徒部隊の中核とか、
新しく発足が予定されている特務機関へ教官として就職。
他にも、引く手数多よ。各国の遺跡探索部隊の部隊長とかね」

「・・・・・・エリートコース一直線なのよ。あの子達は自覚無いと思うけど」

「そんなに・・・・・・でも、やりすぎじゃないでしょうか?」

「・・・・・・・・・・・」



リツコ達は何も言えない

モニターの中には、あの9人の姿が躍っている










<ターミナルドグマ:第20階層>



「いい!失敗なんかするんじゃないわよ!!!」

「わかっとるわ!!」

「ま、やれるだけやるぜ」

「頑張ってみるよ」



近接戦闘主体の三人、トウジとムサシとシンジは、それぞれの武器を構えて前衛



「無理、するなよ」

「食べられたりしたら、洒落になんないよ」

「ドジ踏むんじゃないわよ!」



遠距離攻撃主体の三人、ケンスケ、ケイタ、マナは銃を構えて中衛



「レイ、ヒカリ、頼むわよ」

「わかったわ」

「でも、危険すぎるわよ!?」

「・・・・・・これしか考え付かなかったのよ。ごめんね、ヒカリ」



後衛に控えるのは、アスカとレイとヒカリ



「作戦、スタート!!」



アスカの声に応じて、ケンスケとケイタが、それぞれグレネードとコアのクォレルを撃つ

20mほど前方に着弾

その熱と音に反応して、砂ガギエルが着弾点から躍り出る!



「ここまでは、予定通りね。散開!!」



中衛の三人が、半円状に素早く動く

前衛の三人が突撃

呪文を詠唱しながら走り込む



「コンボプログラム:ファンクション!!フィールドレベル:7!!
煉獄掌:ドライブ!!!」

「スラッシュプログラム:ファンクション!!フィールドレベル:6!!
ハウリング・オーバー:ドライブ!!」

「エッジプログラム:ファンクション!!フィールドレベル:7!!
白虎襲:ドライブ!!」



三人が、できる限り最強の魔法を放つ

トウジが煉獄掌で鼻面を殴り飛ばす

ムサシのハウリング・オーバーが牙の数本を砕く

シンジの白虎襲が鮫肌を切り裂く

さしもの砂ガギエルも、これには動きが鈍った

そこに、散開した中衛からの援護射撃がとぶ

全員ディスポで口の中を狙う



「シューティングプログラム:ファンクション!!フィールドレベル:リミット!!
ファイア・クラッカー:ドライブ!!」

「エイミングプログラム:ファンクション!!フィールドレベル:リミット!!
ソニックアロー:ドライブ!!」

「シューティングプログラム:ファンクション!!フィールドレベル:リミット!!
レイボール:ドライブ!!」



ケンスケの爆裂火球と、ケイタの音速の矢と、マナの光の球が口の中にねじ込まれる

大半の牙を砕いた

凄まじい咆吼を上げ、砂ガギエルは砂の中に潜ろうとした



「させないっ!!レイ!ヒカリ!」

「「スペルコード:エントリー。タイプ:ユニゾン・シング。
マジックプログラム:ファンクション。フィールドレベル:8。
フィールド・レインフォース:ドライブ!!」



レイとヒカリの「詠唱合わせ」に、アスカのヴァルムンクは燦然と輝きを放つ

勢い良く振りかぶり、砂ガギエルの口目掛けて呪文の詠唱



「スラッシュプログラム:ファンクション!!!フィールドレベル:9!!
ミラージュ・レイド:ドライブ!!!」










<発令所>



「どうなった!?」



興奮した面持ちで、加持がモニターを食い入るように見つめている

モニターは、衝撃波による砂嵐で何も見えなくなっている



「砂ガギエルの生命反応は、微弱ですが残っています」

「コアを叩いたわけではないのね」

「じゃあ、一体何を・・・・・・・・・」



映像が回復した

砂ガギエルは、砂丘に巨体を横たえている

巨大な口の端、牙の間から、何か巨大な物がはみ出していた

真っ赤でのたうつ分厚い何か、それは・・・・・・・・・



「し、舌!!?」










<ターミナルドグマ:第20階層>



「やった!!?」

「まだ、止めは刺せてないけど、もう動けないと思うわよ」

「すごいわ、アスカ!一体何やったの!?」

「生物における絶対的な急所を狙ったのよ」



アスカの言葉に、全員が顔を曇らせる

それって何?

全員がそういう顔をした

アスカは苦笑しながら話を続ける



「舌よ。ここをやられてただで済む生き物はいないわ」

「なるほど」



砂ガギエルは、今でも弱々しい痙攣を続けている

その動きも、じきに止まるだろう



「・・・・・・でも、これだけはやりたくなかったわ」



体中の悪臭に顔をしかめながら、アスカはぼやいた



「うっ・・・・・・確かにそうだね」



シンジ達はアスカから一歩後ずさる

こめかみをつたう冷や汗は、彼らの良心なのかもしれない



「なによ。人がここまでやったのにその態度は!」



アスカは、全身に砂ガギエルの返り血を浴びていた

舌を切り裂いたのは良かった

散開していた中衛や、突撃後の前衛は良かった

レイやヒカリも離れていたので助かった

しかし、アスカは真っ正面から攻撃した

砂ガギエルの口から迸った鮮血は、べったりとアスカの全身を濡らしている

しかも、口臭なのだろうか

かなり臭う



「と、とにかく、今日はもう上がろう?」

「そ、そうね」



引きつった顔のシンジの意見に、眉をしかめたレイが同意する



「せ、せやせや!早う風呂にでも入った方が・・・・・」

「あ、あぁ、そうだよな」

「そうね。そうした方が良いわ」



一歩ずつ後ずさるトウジとケンスケとヒカリ



「そうと決まれば、さっさと帰ろうぜ」

「そうだね」

「う、うん。あたしもそれが良いと思うわ」



既に階段に向かって歩き出しているムサシ、ケイタ、マナ

一同のそんな態度に、アスカの顔が真っ赤になった



「・・・・・・・あんた達・・・・・・・・」



何となく不穏な空気を感じたのだろう

レイはその場を後ずさった

しかし、シンジは間に合わなかった

戦闘の時の反応速度には目を見張る物があるというのに、普段はどうしてこうなのだろうか?



「とりゃー!」

「えっ?」



がしっ



アスカはシンジに飛びついた

シンジの鼻を、悪臭がつく

むせ返るような吐き気を催す臭いに包まれながら、シンジは凍り付いたように動かなかった



アスカに抱きつかれているのである



下手に動いたら・・・・・・・・

という考えが無かったわけはない

やはり、彼も思春期の少年であったと言うことだろうか



「そ、そ、そ、そ、そ、そ、そ、そ、そ、惣流!!?」

「えーい!!思い知りなさーい!!!!!」



アスカは、思いっきり全身を擦り付けた

ぬめる砂ガギエルの血が、シンジの全身に塗りつけられる

無茶苦茶臭い



(う、嬉しいはずなのに、全然嬉しくない!!!!)



情けない悲鳴が、ターミナルドグマ:第20階層に木霊した

その時、シンジとアスカ以外の全員は、巻き添えを食ってはかなわんと判断

全会一致で撤退していた

だから、この二人の姿が噂になるようなことはなかった



アスカに罵られながら、シンジ達は取りあえず更衣室まで帰った

取りあえず、タオルか何かで血を拭って、着替えるつもりだった

しかし、そこでも一悶着あったりする










<男子更衣室>



「何で今日に限ってタオル忘れちゃったのよ!!」

「忘れた物は仕方ないだろ!?」



念のため言っておこう

タオルを忘れたのはアスカで、持っているのはシンジだ

二人は男子更衣室にいた

最初は、アスカは外で待つことを強硬に主張した

しかし、10月も近い夕方の風は、結構冷たい

更衣室に押し入って、タオルを受け取りに来たというわけだ

幸い、更衣室には誰もおらず、ロッカーは一つを除いて全部空だった

その一つもシンジのロッカーだ



「早くしなさいよ!気持ち悪いんだから!」

「それは僕だって同じだよ。はい、コレ」

「Danke!助かったわ!」



アスカはタオルを受け取ると女子更衣室に向かった

嵐が過ぎ去ったような顔で、シンジは血塗れの装具を外す

特殊装甲板の胸当ては、そろそろ寿命かもしれない

新調した直後に、フェンリルと闘ったため、また新調したのだが・・・・・・・・



「取り替え時かなぁ・・・・・・」



そんなことを呟きながら、血塗れの戦闘用学生服を脱ぐ

下に着ていた服まで血が付いていたのでそれも脱ぐ

タオルで体に染みついている血を拭っていると・・・・・・・・



「シンジ!!タオルもう無いの!!?」

「そ、惣流!!?」



ドアから、着替え一式を担いだアスカが入ってきた

シンジは大慌てで体を拭い、服を身につける



「ど、どうしたの!?」

「だから、もうタオル無いの?」

「あ、有るけど」

「使わないなら、貸してちょうだい」

「う、うん」



アスカは、シンジからタオルを受け取ると髪を拭き始めた

装具は外しているが、戦闘用学生服はそのままだ



「こういう時、長い髪って不便よね。拭くのが大変だし」

「そ、そうなんだ」



アスカは平然と髪を拭いている

対照的に、シンジは固まっていた



「でも、ちゃんと拭いてからじゃないと服が汚れるし、
このままだと他の人まで汚しちゃいそうだったから」

「そ、そうなんだ」



シンジは、ふと気が付いた



「そ、惣流!!?ほ、他の人って!!?」

「女子更衣室にいた他の人。血飛沫なんか散らせたくないじゃない」

「そ、そうだけど・・・・・・・」



一体、何と説明したのか?

シンジはそう聞きたかった

案ずることはない



「じゃ、別の所で着替えるから」



としか、アスカは言っていないぞ

髪を拭き終わったアスカは、手早く髪を括ると、服に手を掛けた



「そ、惣流!!!!?」

「?」

「だっ、その、えっと」



顔を真っ赤にしたシンジは、完全にしどろもどろになっていた

アスカは構わず、服を脱いで着替えようとする

下着が露わになると、シンジは慌てて後ろを向いた



「何やってるの?」

「だって、その、惣流が急にき、着替えるから・・・・・
あ、いや!!でも、その、僕、結構口は固い方だから、その、だから、えっと」

「は?」



衣擦れの音が聞こえてくる

シンジの鼓動は最高潮に達していた

顔は耳の裏から首筋まで真っ赤



「何言ってるの?」

「え?」

「もしかして、あたしがいきなり着替え始めたから慌ててるの?」

「う、うん」

「別に、あたしは気にしないけど?」

「へ?」

「別に、裸見られたわけじゃないし、それに、シンジが人畜無害って事くらいわかってるわよ」

「だ、だからって・・・・・・・」

「だからって?」



ぱさっ

スカートを下ろした音だろうか

シンジの動悸は一気に跳ね上がる



「別に、いやらしー目で見るような奴の目の前でこんなことしないわよ。
他の人にも迷惑はかけたくなかったからね」

「で、でも」

「もう着替え終わったわよ。こっち向いたら?」



シンジは、おずおずと振り返った

そこには、普通の制服に着替えて、血塗れの戦闘用学生服を畳んでいるアスカの姿があった

普段と変わらない



「さて、帰りましょ。着替え、終わったんでしょ」

「う、うん」



今だ動悸が治まらないシンジは、口数も少なく帰路についた

寮の前でアスカと別れ、寮内のランドリーに直行

洗濯機の中に戦闘用学生服を放り込み、濡らしたタオルで装具の血を拭き取る

半ば放心状態のような顔で、シンジはランドリーの椅子に座っていた



「・・・・・・ちょっと、無防備すぎるんじゃないかなぁ・・・・・・・」



つい、そんな独り言が口から出てしまう



(でも、綺麗だったな)



内心では、そんなことを考えていた

ひどく、疲れていたのに、心が浮ついていた



「早く寝よう」



一人、呟く

重い足を引きずって、シンジは自室を目指す

倒れ込むようにベッドに寝転がり、目を閉じる















(柔らかかった・・・・・・な)



なかなか寝付けなかった





つづく





後書き

ちょっと、急展開過ぎたかも!?
なんだか、こじつけたみたいで・・・・・・・・
どうでしょうか?

ガギエルの肌って、鮫肌なんでしょうか・・・・・・そういうことにしちゃったけど