<ジオフロント森林区画>
今日も、シンジはカヲルと特訓していた
カヲルが刀の使い手であることは良く知っていたから、刀術の稽古をつけてもらっている
素質があったのだろうか
ゲンドウに刀を預けられてから1ヶ月半ほどだが、瞬く間に上達した
それでも、カヲルには敵わない
研ぎ澄まされた刃は紙一重で避けられ、思いがけないところから反撃が来る
「たぁっ!!」
素早く、シンジが打ち込んだ
カヲルは鞘ごと抜いた刀で受け流し、体が泳いだシンジの背中を狙う
しかし、その動きは急に止まった
君に吹く風
10月17日:刺客
<ジオフロント森林区画>
今日も、シンジはカヲルと特訓していた
カヲルが刀の使い手であることは良く知っていたから、刀術の稽古をつけてもらっている
素質があったのだろうか
ゲンドウに刀を預けられてから1ヶ月半ほどだが、瞬く間に上達した
それでも、カヲルには敵わない
研ぎ澄まされた刃は紙一重で避けられ、思いがけないところから反撃が来る
「たぁっ!!」
素早く、シンジが打ち込んだ
カヲルは鞘ごと抜いた刀で受け流し、体が泳いだシンジの背中を狙う
しかし、その動きは急に止まった
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
君に吹く風
10月17日:刺客
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
予想していた激痛は、いつまで経っても来なかった
シンジはきつく閉ざしていた目を開き、恐る恐るカヲルを見た
「・・・・・・・・・」
いつもの微笑をたたえている顔はそこにはなかった
紅い瞳が燃えている
カヲルは、短く言った
「シンジ君。今日はここまでにしようか」
「えっ?」
目を合わせようともしない
「すぐにここから離れるんだ。今日一日はここに近づいちゃいけない」
「そんな、どうして・・・・・・」
「良いから、言う通りにするんだ。良いね?」
「は、はい」
シンジは、黙って踵を返した
一度だけカヲルの方を振り返る
しかし、カヲルは森林の奥深くに視線を投げかけているだけだった
シンジは、不審に思いながらも森林区画を駆け抜けた
「来たか。そろそろ来る頃とは思っていたけどね」
カヲルの周りに、3人の男が現れる
全員、真っ黒なコートを着ているところは、カヲルと同じだった
手は素手だ
しかし、コートの中に何を隠しているかはわからない
若しくは、武器に頼らない力の持ち主なのか・・・・・・・・
「タブリス。マスターの命により貴様を廃棄処分する」
「・・・・・・・一つ、聞きたい。ラヴェルはどうなった」
「・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・成る程、そう言うことか」
カヲルの顔に、微かな憐憫の色が浮かんだ
しかし、それはすぐに怒りへと変わる
「たった3人で、僕に敵うと思ってるのかい?この“最強の”タブリスに」
「・・・・・・・・・・」
3人が動いた
常人には見切れない速度
弾かれたようにカヲルに飛びかかった
「君達は・・・・・・イスラフェルの改造人間か」
カヲルは、淡々と言った
三方向から迫る鉤爪を避け、一人を斬りつける
「・・・・・無駄だ。タブリス」
切り飛ばされた腕は、見る間に生え替わった
「「「我ら三位一体。互いが互いを補い合える」」」
「三人でないと何もできない中途半端な失敗作か」
「「「後悔させてやるぞ!!タブリス!!!」」」
「やれやれ」
肩を竦めて、溜息をつく
「念のため言っておく」
不敵な笑みを見せながら、カヲルは言った
「僕の“最強”の二つ名は伊達ではないんだ」
優しい音を立てて、鞘から刀が引き抜かれた
普段は絶対に抜かない刀
刀身は光さえも吸い込むような漆黒の刃
カヲルはATフィールドを展開する
武器にコアはない
己の中にあるATフィールドを解放した
「強いよ。僕は」
「「「如何に貴様が強大だろうと、我ら三人には敵うはずがない」」」
「試してみるかい?」
カヲルは、黒い疾風となって刺客の一人の胸を刺し貫く
残る二人が振り向く前に、一人の首を刎ねる
最後の一人が鉤爪を振り上げたときには、背後に回って袈裟懸けに叩っ斬る
血煙を上げてながらも、三人は平然としている
「「「無駄だ」」」
たちどころに、傷が癒えた
刺し貫かれた胸の傷は埋まり、
刎ねられた首は生え替わり、
袈裟懸けに斬られた傷は瞬時にして再生した
余裕の表情で口笛を吹くカヲル
「流石だね。イスラフェルの改造人間達」
「「「我らがこれほどの攻撃を許したのも、貴様が初めてだ」」」
「それは光栄だ。是非、名前を聞いておきたいね」
「「「我らに与えられし名は“不死の”スカーザム」」」
「“最強の”タブリス」
一人と三人は、それぞれ刀と鉤爪を構えると、試合のように対峙した
スカーザムの一人が、凄まじい速度でカヲルに接近
鉤爪を繰り出す
カヲルでさえ、息を飲む速さだった
辛うじて刀で受け止める
しかし、その間に背後に一人回っている
横薙ぎに払った刀は、胴を真っ二つに切り裂いた
残る一人が上から襲いかかる
かわすことも、受け流すこともできず、カヲルは背中に鋭い痛みを憶えた
「くっ、流石だ」
「「「どうした?“最強の”タブリス」」」
「・・・・・・・サヲリ、援護を」
(・・・・・・・・はい、兄様)
カヲルの背後に、微かな人影が現れる
その姿に、スカーザム達は息を飲んだ
「「「“悲風の”リーゼン・・・・・そうか、タブリス。その為なのか?」」」
「・・・・・・僕は、死ぬわけにはいかない」
サヲリが、風のような声で呪文を詠唱する
それは確かに、ネルフで教えている「マジックプログラム」だった
杖も、何も無しに、彼女は魔法を使う
(マジックプログラム:ファンクション。フィールドレベル:17。
グレートヘイスト:ドライブ)
「さぁ、決めるよ!スカーザム!!」
カヲルの姿が、消えた
スカーザムには、そうとしか見えなかった
カヲルから見れば、時間が止まったようなものである
全ての物体がゆっくり動き、自分はその空間の中を素早く動く
サヲリの援護の賜物だった
「ぐぉっ」
スカーザムからすれば、瞬きをする時間もないほどだった
「力の流れ」を見切ったカヲルの一閃に、スカーザムの一人が動きを止める
残る二人が動く
(マジックプログラム:ファンクション。フィールドレベル:18。
アブソリュート・ゼロ:ドライブ)
サヲリの体から、白い霧が吹き出す
空気さえも凍らせる冷気が、スカーザムの二人を包み込む
一瞬で、凍結した
「・・・・・・・さよなら。スカーザム」
一振り
粉雪のように舞い散った
斬られた一人も、煙を上げて崩れてゆく
「・・・・・絶大な力を得た、改造人間の末路がこれか・・・・・」
(兄様。お怪我は?)
「かすり傷さ。大丈夫だよ」
(でも・・・・・)
「お前が優しい子だというのは良くわかってる。でも、大丈夫だから」
(・・・・はい)
<発令所>
「森林区画に、強力なATフィールドを確認!!」
「何が起こったの!?」
「状況は不明!全ての観測機器が探知不能!!」
「エンジェル・ハイロゥ斥候部隊は緊急出撃。
ブリュン・ヒルド攻撃部隊は第一種警戒態勢にて待機!!」
ミサトが指示を出す
しかし、エンジェル・ハイロゥが到着した頃には、何も残っていなかった
戦闘後を示す大地と木々の傷痕
そして、僅かなパターン青の痕跡が残っていただけ
「・・・・・やはり、使徒?」
「痕跡が残っていたと言うことは、既に逃亡後かしら」
「でも、周囲の状況を考えると、誰かが闘ったって感じだな」
ミサト、リツコ、加持の三人は、現場の映像を見ながら話していた
既に映像は回復している
「何でも、一定範囲の物体全てが凍り付いていたらしい」
「どういうこと?」
「・・・・・・液体窒素をぶちまけるような奴はいないだろ?
考えられる最後の手段は、「魔法」だ」
「・・・・・・・生徒の誰か?」
「それ以外の、とんでもない組織なのかもしれないな」
加持が、鋭い眼差しでモニターを睨む
リツコが、溜息と共に言葉を吐き出した
「でも、迂闊だったわ。
森林区画なんて、普段は全く注意を払っていなかったから・・・・・・」
「それを、知っていた可能性もあるわね」
「でも、わざわざジオフロントで戦闘をする根拠は何だ?
確かに、第三新東京市内で暴れ回られるよりはましかもしれないが、
ジオフロントの警備だって厳重だぜ」
「それは・・・・・・・・わかんないわよ」
結局、その事件の真相は不明のまま終わりを告げた
しかし、彼らにとっては始まりでしかない
<森林区画>
「ふぅ、やれやれ」
(兄様・・・・・大丈夫ですか?)
「大丈夫だよ。この程度の傷はすぐに癒える」
木の幹にもたれ、カヲルは木漏れ日を見つめていた
とうとう、刺客が来るようになった
「このままでは、シンジ君を危険に巻き込むことになるな」
(・・・・・・いっそ、全ての事情を話してはどうでしょうか?
シンジ様は、優しい方ですから、きっと力になってくれます)
「・・・・・・彼の優しさにつけ込むことはできない。
それに、これは僕達二人の問題なんだ。話したところで、力になってくれるとは思えない。
・・・・・・状況次第で、彼らは敵になるかもしれないから」
(・・・・・・・・・・)
「僕らに残された時間はもう少ない。早く知恵の実を見つけなければ・・・・・・・」
刀を握る手に力がこもる
ふと、カヲルが優しい表情になった
「僕が、世界を滅ぼすことになるかもしれないな」
さらっと、とんでもないことを口にした
「そうでなければ、地球上の全てを敵に回すことになるかもしれない」
(・・・・・兄様と共にいられるなら、私は何処までも・・・・・・)
沈黙が、森林を支配した
木漏れ日に抱かれて、カヲルは幹にもたれ座り込んでいる
「・・・・・・サヲリ」
(・・・はい?)
よく見ると、カヲルは寝ていた
あまり安らかな寝顔ではないが
(・・・・・・・寝言?)
サヲリは、そっとカヲルを包み込んだ
優しく、子供をあやすように
(・・・・・・・ごめんなさい・・・・・・・兄様・・・・・・・・)
自分の存在故に、兄は苦しんでいるのだ
そう思うと、サヲリには謝ることしかできなかった
<訓練場>
「はっ!!」
広い訓練場で、シンジの気合いの声が木霊する
何故木霊するかというと、シンジ一人しかいないからだ
「せやっ!!」
繰り出される刀は、素早く弧を描く
風を切り裂く鋭い音も、響き渡る
その時、暢気な声が掛けられた
「あらあら、頑張ってるわね」
「え?母さん!?」
「はぁい。シンジ」
入り口に立っているのは、ユイだった
お気楽な様子で、手を振っている
「どうしたの?母さん。訓練場なんかに」
「ん〜、ちょっとね」
「?」
ユイは珍しく言葉を濁した
訝しむしんじ
慌てて取り繕うように、ユイは早口に言う
「あ、えっと、練習熱心なのね」
「そうかな?」
「日曜日に練習なんかしてるのはシンジだけよ」
「・・・・・・普段は、カヲルさんっていう人に教えてもらってるんだ」
「カヲル、さん?」
首を傾げるユイ
彼女の頭の中にあるデータベースに、その名前はない
「すごく、強い人なんだ。技も、身のこなしも、戦術も」
「まぁ、そんな人がいたの?」
「うん」
「うふふ、憧れてるのね」
「・・・・・・そうだよ。憧れてる」
ユイが、どことなく人の悪い笑みを浮かべながらシンジに言った
「ね、その人程じゃないけど、お母さんで良ければ付き合おうか?」
「え?」
「訓練。まだ錆び付いてないわよ」
ユイは、シンジが返事をする前に、既に壁に掛けてあった模擬短剣を手に取っている
シンジも、刀を鞘に収めて、模擬刀を手に取った
「じゃ、いくわよ。手加減無しだからね」
大丈夫かな?
内心、シンジはそんなことを考えていた
しかし、次の瞬間にはその考えは撤回される
ガンッ!!
「あら、止められちゃった」
ユイは、いつもと変わらぬ調子で、そんな科白をのたまった
尋常ならざる速度で動いたのに、だ
振り下ろされた模擬短剣を受け止めることができたのは、偶然に近い
背中を、冷や汗がつたう
「えい、やーっ、それっ!!」
「くっ!!!」
何となく、力が抜けるユイの声
しかし、繰り出される模擬短剣は、とんでもない速度を伴っている
力ではシンジに分がある
しかし、動きや、技、速さではユイの方が圧倒的だ
シンジは、防戦一方となった
一撃受けた次の瞬間には、次の一撃が繰り出されている
「どうしたの、シンジ?
私、ホントは二刀流なんだからね。こんなもんじゃ無いんだから」
「!!」
その言葉に、シンジは思いっきり動揺した
本気になれば、今の倍近い手数のラッシュが繰り出せるというのだろうか
シンジは考えた
闘っている最中でも、シンジは戦い方を考える
いつでもそうだ
考えてからでないと、体は動いてくれない
闇雲に突進するようにはできていないのだ
「それっ!!」
気合いの一声と共に、4、5回打ち込まれる模擬短剣
受け止めた瞬間、シンジは払い飛ばそうとした
「きゃっ!」
しかし、ユイは華麗な身のこなしでそれをかわし、距離を取る
「やったわねぇ!」
「今度は、こっちの番!!」
シンジが突っ込む
連撃の速度は、決して遅くはない
ユイと比べれば、かなり見劣りする部分がある
しかし、ユイが早すぎるのだ
「だぁぁぁぁああああああぁぁぁぁっ!!!!!!!!!」
「うわっ、きゃ、うひっ、もぉ、ちょっと!」
なんて良いながらも、ユイは確実に一撃一撃を受け流す
的確に、力を逃すように滑らせる
踊るように、華麗なステップを踏んで、ユイは立ち回る
シンジの模擬刀はかすりもしない
「たぁぁっ!!!!」
焦りが出たのか、シンジは深く踏み込みすぎた
一瞬だった
模擬刀を受け流したユイが、シンジの懐に飛び込んで模擬短剣を突きつけたのは
シンジは、その動きを見切ることができなかった
「これまで、ね」
「・・・・・・・・・」
からーん
模擬刀が落ちる音
「流石ね、シンジ。ゲンちゃんが前褒めてたのがよくわかったわ」
「父さんが?」
「そうよ。シンジは強くなってるって言ってたわ」
「・・・・・・・そんな・・・・・僕は」
「自信を持ちなさい。恥じることはないわ」
僅かに自分より背が低い母親は、ぽんと息子の肩を叩いた
「残り半年も、頑張るのよ」
「・・・・うん」
ユイは、模擬短剣を戻して、立ち去ろうとした
「母さん!」
「何?」
「また、付き合ってくれる!?」
「いつでもいいわよ。ゲンちゃんにも言っておくから」
そう言って、ユイは訓練場を立ち去った
残ったシンジは、息を切らせてその場にへたり込んだ
「か、母さんまであんなに強かったんだ」
短剣を使わせたらネルフ一の実力という噂は、決して嘘ではなかった
<学園長室>
「どうだった?」
「・・・・・まだ、力不足ではないかしら。それを使うには」
ユイの視線は、ゲンドウの手元にある群青色の鞘に収められた刀に注がれていた
「・・・・・・・・・対を持つ者が、現れたのね」
「・・・・・・・あぁ、森林区画で起こった事件というのも気になる。
近いうちに、何かが起こる」
「ターミナルドグマ下層やヘヴンでは、使徒が強力になっているという話も聞きますしね」
「・・・・・・・・奴が復活するかもしれん」
「そんな!」
ユイが、珍しく大きな声を出した
「その時は、私達が・・・・・・・・」
「私達では無理だ、アダムを封印することはできまい」
「・・・・・・・・・万が一の時は、シンジに、託すのですか。人類の命運を」
「・・・・・・・何も起こらなければ、それで良い・・・・・・・・・」
ゲンドウは、静かに呟いた
手にしている刀を、きつく握りしめる
「できる限りのことはしよう。我らには最善を尽くす義務がある」
「そうですね」
夫婦は、呟き合った
それきり、学園長室には静寂が宿る
つづく
後書き
カヲルの元に刺客が現れました
カヲルの過去の話とか、夏休みの話とか、番外編で書こうかな・・・・・
では