校舎のあちこちに、ポスターが貼られていた



中等部三年生冒険科、演劇

脚本、赤木リツコ

監督、葛城ミサト

出演、冒険科生徒多数

『亡国の詩』

午後6:30開場

午後7:00開演



「すごい宣伝ね」

「そりゃ、先生達も気合いの入り方が違うよ」

「取りあえず、午前中は楽しみましょう」

「そうだね」



レイの言葉に、シンジとアスカは歩き出す

しかし、頭の片隅では、自分のセリフを繰り返していた




君に吹く風


11月3日:『亡国の詩』












<発令所>



「いよいよですね。葛城さん」

「えぇ、いよいよ本番だわ」

「総監督として、みんなへ激励の言葉とかは無いの?」

「あの子達は、そんなのが無くても大丈夫よ。
みんな、頑張ったんだから。あんた達もしっかりやりなさいよ!!!」



ばんっ!!!



思いっきりマコトとシゲルの肩を叩くミサト

かなり痛そうだ



「あったたたた・・・・・・」

「て、手加減してくださいよ」

「大の男がこれくらいでピーピー言わないの!ところで、加持は?」

「加持君は、午前中の校内警備の責任者でしょ。
午後から交代でそれからはフリーよ」

「じゃ、午後の練習には立ち会えるわね」










<校舎>



「何か、落ち着かないね」

「シンジもそう?」

「私も・・・・・・・」



シンジ達三人は、2年生の教室でしている喫茶店に入っていた

しかし、何故か落ち着くことができない

やはり、緊張しているのだ

どうしようもなく



「・・・・・・・練習、しようか?」

「そうね、それがいいわ」

「リラックスなんて、できるはずがないもの。
完璧は無理でも、より完璧に近いものを目指しましょう」



かくして、三人は体育館へ向かう










<体育館>



「違う、違う!!もっと、こう!!迫力のある動きで!!」



マナの声

ケイタの声



「で、でも、難しいよ」

「あんたねぇ、この期に及んで甘えた事言ってるんじゃないわよ!」

「は、はいぃ」

「スパルタだなぁ。マナは」

「うっさいわね。次はあんたよ、ムサシ」

「げ」



ムサシもいるらしい



「『安心しな!!俺がいれば百人力だぜ!』」

「『おいおい、こいつをあんまり煽てないでくれ。調子に乗りやすいから』」



標準語でセリフを言っているのでわからないかもしれないが、トウジとケンスケ

ヒカリは、台本片手に二人のセリフのチェックと、自分のセリフの復習

辺りを見回せば、ほとんどリハーサルのような形だ

よく見れば、マユミも台本片手に発声練習をしている



「お、主演男優と主演女優のお出ましだぜ」

「遅かったやないか!!」

「みんな、どうしたの!?」

「えへへ、なんか、じっとしてられなくってね」

「みんなで、練習しようって」

「さ、早くしろよ。衣装も着替えて通してみようぜ」

「うん!」











<午後3:00>



「大道具、小道具!手際よくね!!演出!!準備良い!!?」

「「「おぉぉー!!!」」」

「リハーサル、始めるわよ!!役者!!」

「いつでもOK!!」

「どんと来いやぁ!!」

「準備は万全です!!」

「OK!!緞帳上げて!!」










<午後5:00>



「ここで、シンジ君のセリフ。『例え一人でも、僕は戦う!』の後。
枢機卿の兵士役のみんなは、一斉に抜剣。シンジ君に剣を向ける。
その後、正面玄関から傭兵団が突入。アスカのセリフ。
『報酬は割り増しだからね!』で、傭兵団も抜剣。枢機卿の兵士役はステージを降りて斬り合う。
剣術を習ってないコースの生徒は、剣術コースに習って。
ここが一番の見せ場だから、観客のすぐ近くだけど、照れたりしないで。
会場全体に広がって枢機卿の兵士と傭兵団が斬り合う。2階を使っても良いわ。
でも、照明器具とかカメラには触らないようにね。
少し休憩したら、この場面をもう一回やるわよ」

「はい!!!!!」×無数

「少しは休まないと、本番で持たないわよ」

「大丈夫、大丈夫!!」



苦笑いするミサト

大声で、裏方へも指示を出している



「ミサト先生。張り切ってるね」

「あいつは賑やかなことに関しちゃいっつもよ」

「でも、みんなをうまく乗せてるわ」

「そうだね。そこがミサト先生のすごいところだと思う」

「でも、お客さんが入るかしら?」



レイの心配は杞憂に終わる










<午後6:30、体育館>



ざわざわざわざわ



体育館内に、収まりきらないほど大入りだった

生徒、教員だけではない

こんな時間なのに、父兄や子供連れの姿も見える

舞台の袖からその様子を見ていたシンジ達は、緊張の色濃く見せた



「す、すごい人」

「こんな大人数の前でやるの?」

「でも、これだけのお客さんが入ってくれたんだから、ミサト先生も満足だろうね」

「そういえば、ミサトは?」










<同時刻:発令所>



「・・・・・・」



マヤは、迷っていた

そろそろ交代の時間で、自分も出演のため体育館に行かなくてはならないのだが・・・・・・・・・



「・・・・・・でも、みんなが・・・・・・・」



最優先警報を鳴らすボタンに指を伸ばしかけ・・・・・・・指が止まる

使徒殲滅は最優先任務だ

たかが演劇なんかと等価値に見てはいけない

それでも・・・・・・・・・



「やっぱり・・・・・・・駄目」



意を決してボタンを押そうとしたとき、マヤの肩がぽんと叩かれた

驚いて、振り返るマヤ



「ごめん、マヤちゃんは体育館に行って。あたしが何とかするわ」

「か、葛城さん!!」

「ほんと、ごめん。でも、あの子達は精一杯頑張ったもの。無駄にさせたくないから。
私は、私のできることをするわ」

「でも!!一人だなんて!!」

「そうよ。猪突猛進は寿命を縮めるわ」



ドアにもたれて立っているのは、リツコだった



「リツコ!」

「先輩!!」

「2番から4番までの迷宮昇降口は完全に閉鎖するから、1番で叩きなさい。
こっちの片がつき次第、私も行くわ」

「・・・・・・・ありがと、リツコ」

「借りは、いつか返してもらうわよ」



アーマージャケットを羽織り、腰にコンバットナイフと予備のナイフ。ホルスターに銃を吊す

髪はポニーテールに括った



「・・・・・・・・じゃ、あとお願い」

「ミサト」

「な、何?」

「・・・・・・・死ぬんじゃないわよ」



ミサトは、笑って答えた



「大丈夫よ。そう簡単に死ぬわけないでしょ」











<午後6:43、第一迷宮昇降口>



辺りは、人っ子一人いなかった

時間が時間だし、ほとんどの人間は体育館に集まっているらしい

それは、ミサトにとって好都合だった



「ちっ!!ちょっと遅かった!」



昇降口からは、数匹の下級使徒が姿を現していた

ミサトは、腰のコンバットナイフを静かに抜く

銃は迷宮に入るまで使えない

銃声を響かせるわけにはいかないのだ



「・・・・・・・今日の為に、あの子達は頑張ってきたんだから。
あんた達なんかに、邪魔はさせないわよ!」



押し殺した声で、ミサトは自分に気合いを入れる

影となって飛びかかった










<午後6:45、体育館>



「馬鹿な!!何を考えている!!!?使徒殲滅と演劇と、どちらが重要だ!!!」



そんな怒鳴り声が、舞台裏に微かに聞こえた



「?」

「理事長に・・・・・・」

「赤木先生?」



体育館の裏で、冬月がリツコを詰問していた

役者一同は、揃って耳を大きくする



「・・・・・・現場には、ミサトが向かいました」

「馬鹿者!!!一人で何ができる!!とにかく、最優先警報だ!!
演劇は中止!!エンジェル・ハイロゥとブリュン・ヒルドも緊急出撃させろ!!」

「待ってください!!ミサトは、あの子達のために一人で行ったんです!!!
あの子達の努力を無にはできないからと言って、一人で行きました!!
私も、すぐに援護に向かいます。演劇を中止にはしないでください!!」



クールなリツコにも、激しい一面があった

冬月も渋面になる



「使徒が襲来しているのだぞ!!この状況をわかっているのか!?」



会話を盗み聞きしていた役者一同は、死ぬほど驚いた



「使徒!!?」

「まさか、使徒が出てきた!?」



驚きを隠せない生徒達



「お願いします!!ミサトの気持ちを汲んで上げてください!!!
彼女自身のためにも、生徒達のためにも!!」

「・・・・・・生徒達のことは、私も良くわかっている・・・・・・しかしだな・・・・・・」

「とにかく、私はミサトの援護に向かいます!!」

「赤木君!!待ちたまえ!!!」



走り去る音

二人の会話を聞いた役者達は、困惑の色を隠せなかった



「・・・・・・まさか、ミサト先生、一人で出撃したのかな・・・・・・」



シンジは、呆然と呟いた










<午後6:53、セントラルドグマ:第1階層、第一迷宮昇降口付近>



「たあああああああぁぁっ!!!!!!」



下級使徒に囲まれ、手当たり次第に斬り倒しながらミサトは叫んだ

アーマージャケットは既に雑巾同然になっている

身体のあちこちにかすり傷を負っている



「あんた達なんかの・・・・・・・・・
あんた達なんかの好きにさせてたまるかぁぁぁ!!!!!!」



ガンッガンッガンッガンッ!!!!!



銃口から銃弾が吐き出される



「今日のために、あの子達は一生懸命頑張ったんだから!!!」



薙ぎ払うように振るったナイフから強力なATフィールドが展開され、下級使徒を一気に切り裂く



「ミサト!!」

「リツコ!!遅いわよ!!」

「理事長に掴まってたのよ!!援護するわ!!」

「あの子達の、開演は!!?」

「予定通り、行われるはずよ!!私達がやられなかったら!!」



その言葉で十分だった

それだけでどんな敵にも負けないような気がした

それでも、下級使徒達の波状攻撃は止まらない

段々下層の使徒が上がってきたのか、攻撃も強力になっている

目の前の、使徒:マトリエルを斬り伏せ、溶解液を浴びたコンバットナイフがぼろぼろに腐食する

即座に投げ捨て、予備のナイフを逆手に構える



「負けてたまるかぁぁぁぁっ!!!!!!!!!!!!」





その時、体育館で開演のブザーが鳴った










<午後7:00、体育館>



(負けてたまるかぁぁぁぁっ!!!!!!!!!!!!)





ミサトの咆吼が、聞こえたような気がした

緞帳が降りたままのステージに、シンジが立つ

ここで、挨拶をする予定だった

しかし・・・・・・・・・・・・・・



「・・・・・・・皆さん・・・・・・こんばんわ!」



緞帳を背にして、震える声でシンジは言う

緞帳の向こうでは、既に他の役者がスタンバイしていた

役者だけではない

大道具も、小道具も、演出も、この演劇に携わる全ての人間が開演を待っている



今でも、ミサトとリツコは闘っている

自分たちのために



「・・・・・・・・・・・今日は、お忙しい中お越しいただいて、誠にありがとうございます」



迷いが抜けないのか、シンジはマイクを握ったまま俯いている

マイクを握りしめる右腕が、震えていた

歯を食いしばる



放っておいて良いのか?本当に

あの二人は、自分たちのために闘っているのだ

その気持ちを無にしないために、僕らがすることは

僕らがしなくちゃいけないことは

本当に、しなければならないことは

それは・・・・・・・・・・・・・・・・

それは・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



「・・・・・・・・ごめんなさい・・・・・・・・・」





小さな声で、シンジは謝った



聞き取ることができたのは、僅かなごく一部だった





そして、シンジははっきりと言う













































「皆さん、ごめんなさい!!!演劇『亡国の詩』の開演は中止します!!!!」






























<午後7:17、セントラルドグマ:第1階層、第1迷宮昇降口付近>



「・・・・・はぁ、はぁ・・・・・・最早、これまで・・・・・・かな」

「くっ!」



使徒は、まだまだ残っている

ミサトは、銃の弾丸をとうの昔に撃ち尽くした

手に残っているのは、小振りのナイフ

リツコの杖は半ば辺りでへし折られた

光を失いかけたコアのはまった杖の先が、足下に転がっている

今手にしているのは、拳銃だが弾丸は残り少ない

二人ともディスポは既に使い尽くした



「・・・・・・ぜぇ、はぁ・・・・今頃、あの子達は頑張ってるわよね」

「絶対、そうよ・・・・・はぁ、はぁ」



ミサトはナイフを握り直して、光の鞭を閃かせるシャムシエルに斬りかかった

あっという間に斬り伏せ、血煙と化すシャムシエル

次の獲物を求めて視線を巡らせる

真横から巨大な馬の使徒が突っ込んできた



「くぅっ!!」



普段なら余裕で反応できた

しかし、疲れ切った傷だらけの身体は思うように動いてくれない



「ミサト!!!」



ダンッダンッダンッダンッダンッダンッ!!!



リツコが援護する

銃弾は全弾撃ち尽くした

もう、リツコにできることはない



「ミサト!!一旦後退するわよ!!」

「そんなことできない!!外に気付かれちゃいけない!!!」

「あなたが死んだら元も子もないのよ!!!」



ミサトの目の前に、ラミエルが現れる

一瞬、反応が遅れた

荷粒子砲の光槍が、投擲されようとして・・・・・・



「くっ!」

「ミサト!!」



身体が思うように動かない

全身の関節がきしみ、傷が死ぬほど痛んだ



「・・・・・・これまでか」



ミサトは、諦めて目を閉じた










ダンッ!!



ミサトの方に手を伸ばした姿勢のまま、リツコが固まった

後ろを振り向いて動きを止めている

ラミエルは、見事に撃ち抜かれていた





遙か闇の中に見える人影



「・・・・・・まさか」

「・・・・・・・・あの子達」



それは、派手な衣装を身に纏ったままゲイズを構えるマナの姿だった



ダダダダダダダダダッ!!!



フルオートの銃撃がラミエルを蜂の巣にする

走り込んできたケンスケのパレットライフルから吐き出された劣化ウラン弾頭の弾丸



「ごめんなさい!!ミサト先生!!!」



闇を切り裂いて、戦闘用学生服を纏っただけのシンジが現れる

両手に構えた白刃が、使徒の群を屠る



「命令違反の罪は、全員にあります。戦闘終了後、如何様にも処分してください」



舞台衣装のレイが走ってきた

手に持った杖を構えて、詠唱を始める



「折角の舞台を邪魔してくれたんだから、当然覚悟はできてるでしょうね!!」



ヴァルムンクがぎらりと光を反射し、闇の中にアスカの姿を浮かび上がらせる



「無茶をしますね。先生も」



マユミも、杖を持って前に出る

目の前に現れる使徒を、一瞬だけ具現化される夢魔の腕が殴り飛ばした



「ミサト先生とリツコ先生は退避してください!!
ここは、俺達が引き受けます!!」



ケンスケが右手でパレットライフルを構え、左手で一撃を構える

フルオートで吐き出される銃弾が、グレネードの有効範囲に使徒を釘付けにし、

もっとも効果的な位置にグレネードを放つ



「憂さ晴らしや!!派手に暴れるでぇ!!!」



トウジは新調した重手甲“轟雷”を両腕に構え、使徒を叩き潰す



「おうよ!!公演を邪魔された恨みは晴らさせてもらうぜ!!」



スタン・エッジの放電光をばらまき、アンスウェラーが振り回される

トウジと共に、敵陣に突っ込むムサシ



「みんな!!指揮個体が特定できたわ!!後方約20mにいる!!」



ヒカリの声

探知に成功したらしい



「よぉっし!!あたしとケイタで突破口を開くわ!!
みんなは指揮個体を倒して!!!」



マナは、今はハンドガンを構え、連射している

ディスポを装填しながら言った



「わかった!!みんな散って!!!」



ディスポの矢を乗せ、ケイタは詠唱を開始する





「・・・・・・・・みんな・・・・・・どうして・・・・・・」



ミサトの微かな呟きが聞こえたアスカは、怒鳴り返す



「今、あたし達がしなきゃいけないことは、一つしかないでしょ!!」



シンジも、その言葉の続きを言う



「僕達は、ジオフロント立ネルフ学園、冒険科の生徒です!!」

「せや、せや!!」

「ミサト先生らが頑張ってくれてるときに、黙ってることなんかできやしないぜ!!!」

「後は大丈夫です。現場責任は既に学園長に移行しています。
後退して、治療を受けてください」



レイが、ミサトとリツコにそう言った



「で、でも、他の昇降口を解放して攻撃しないと・・・・・・」

「他の昇降口は既に解放されています。
第1には役者。
第2には大道具。
第3には小道具。
第4には演出がそれぞれ当たっています」

「・・・・・・・ミサト」

「・・・・・・わかったわ・・・・・あと、お願いね」

「「「「「「「「「「了解(!!)」」」」」」」」」」



傷ついた足取りで、ミサトとリツコは後退する



「ケイタ!!」

「うん!!」



その言葉に、前に出ていた全員が左右に分かれた

マナとケイタが呪文を唱える



「シューティングプログラム:ファンクション!!フィールドレベル:リミット!!
レイランサー:ドライブ!!」

「エイミングプログラム:ファンクション!!フィールドレベル:リミット!!
ストリーム・アロー:ドライブ!!」



一直線に光の槍と疾風の矢が使徒を掃討する

ムサシが残り後衛をガード、シンジとアスカとトウジとケンスケが前進

指揮個体を目指す

しかし、そう簡単に近寄らせてはくれないらしい



「シンジ!惣流!ここは俺とトウジで抑える!!」

「わかった!!頼むよ!!」

「任せとき!!」

「しっかりやんなさいよ!!」

「コンボプログラム:ファンクション!!フィールドレベル:8!!
電光・雷檄掌:ドライブ!!!」

「シューティングプログラム:ファンクション!!フィールドレベル:8!!
クロス・ファイア:ドライブ!!」



波のように押し寄せる使徒を、掻き分けるように切り払い、二人は指揮個体を目指す

突如、火炎が二人を襲った



「くっ!!!」

「きゃっ!」



慌てて飛び避けるシンジとアスカ

目の前には、口の中に炎を揺らめかせている大蜥蜴の姿があった



「サラマンダー、って奴ね」

「強い?」

「フェンリル・・・・・・・・・よりはまし」



サラマンダーが吼える

火炎の舌を伸ばし、鋭い爪と、しなやかな尾が繰り出される

頑丈な鱗は半端な攻撃を弾き返し、燃え盛る息吹は容易に近づくことを不可能にする

このままでは埒があかない



「このままじゃ、どうにもできないわよ!!」

「・・・・・惣流、詠唱合わせをしよう!!
魔法はスラッシュプログラム:ヴォルキャニック・ファイア、10レベル!!」

「OK!!今だったら何でもできそうよ!!」



不敵に笑って、アスカは剣を構える

互いの刀と剣を打ち合わせ、二人は肩を並べて呪文を詠唱し始めた



「「スペルコード:エントリー!タイプ:ユニゾンダンス!!」」



後ろから襲いかかろうとした使徒が、ケンスケの銃撃に始末される

二人の刀と剣に、ATフィールドの破壊のエネルギーが集まる

サラマンダーは、大きく息を吸い込み、灼熱の息吹を迸らせる

直後、詠唱合わせが完成する



「「スラッシュプログラム:ファンクション!!フィールドレベル:10!!
ヴォルキャニック・ファイア:ドライブ!!!」



放たれた力の奔流は、灼熱の息吹を押し返し、サラマンダーを直撃した

さしものサラマンダーも、この一撃には敵わなかった

断末魔の叫びを発して、消滅する



その瞬間、周りの使徒が浮き足立ったようになる

指揮個体が倒されたので、統率が乱れたのだ

こうなってしまえば、組織だった戦術をとるシンジ達が俄然有利だ

刀が閃き、長剣が唸る

銃撃は絶え間なく続き、的確に矢は急所を貫き、魔法の援護射撃も惜しまない

数時間かけて、使徒の掃討は完了した









<午後10:19、校舎内、教員室前>



教員室に、傷だらけのミサトとリツコ

そして、百余名の生徒が集められていた

命令違反は、懲罰の上退学処分だ

しかし、皆の顔に後悔は無い



「・・・・・・・・・・」



ミサトが、黙って立ち上がった

そして、躊躇いながら口を開く



「命令違反、勝手な行動。懲罰の上退学処分って、知ってるわよね」



鋭い視線を投げかけるミサト

目の前にあるのは、にやけた面の生徒達

その鋭さはすぐに優しさを宿した視線に変わった

どことなく、照れたような風でぼそぼそと言う



「・・・・・・・ありがと、みんな」



後ろでリツコが、



「やれやれ」



と、肩を竦めた










<校舎内、廊下>



「あぁ〜あ、折角の舞台がパーになっちゃった」

「でも、仕方ないよ」

「・・・・・・本当に、良かったの?」



レイが、立ち止まってシンジの瞳を覗きながら聞く



「碇君の言葉次第で、劇はできたかもしれなかったのに」

「・・・・・・・・・いいんだ」

「・・・・・・・みんなで成功させたかったんでしょう?」

「あの時、助けに行ったことに、後悔はしてないよ。
あれで、良かったんだ」



そうは言っても、割り切れない部分があるらしい

シンジの口数は少ない



「おい、あれって・・・・・・」

「まさか!?」

「あれ?マナ?」

「何見てるの?みんな」

「体育館の様子見て見ろよ!何でこんな時間なのに電気が点いてるんだ!?」



一同の脳裏に、まさか、と言う考えが掠めた

慌てて、体育館目指して走り出す










<体育館>



舞台の袖から、様子を伺うと、そこには驚くべき光景が広がっていた



「すみませ〜ん!!おにぎり5つとお茶!!」

「こっちにもおにぎり!!3つ頂戴!!」

「はーい!!少々お待ちくださーい!」

「それにしても、いつまで待たせるんだぁ!!?」

「こっちゃ開場1時間前から並んでたくちなんだぜ!!」

「すみません。みんなもうすぐ帰ってくるはずですから・・・・・・・」

「こっち、おにぎりが足りません!!あと50ください!!」

「うひ〜っ!!」



怒鳴っている観客にとろけるような笑顔を見せて、ユイは言った

三角巾に割烹着に身を包んだユイや教員は、忙しく動き回り、おにぎりを配ったりしている

唖然とするシンジ達



「遅いぞ!!!」



出し抜けに怒鳴られた

後ろを振り返ると、そこには割烹着姿にお盆を両手に抱えた冬月理事長がいた

お盆の上には、おにぎりが満載されている



「り、理事長!?一体、何なんです!?」

「事情を説明して、避難してもらおうとしたのだが、
・・・・・・・・人っ子一人動かなかった」

「へ!?」

「お陰でこの有様だ学園内の全食堂総動員で夜食の手配をしている」

「そ、そんな・・・・・・・」

「それよりも、君達ははやくスタンバイをしたまえ!!!客が待っているんだぞ!!!」

「りょ、了解!!」×多数



歓声を上げながら準備に取りかかる生徒達

肩を落として溜息をつく冬月に、柱の影からゲンドウが声を掛けた



「・・・・・・すみませんね、冬月先生。厄介事を押しつけてしまって」

「もう、慣れている。碇、お前は準備をしなくて良いのか?」

「すぐに行きますよ」



そう言って、ゲンドウも悠然と歩き出す

悪の枢機卿の扮装をしに

ふと振り返り、ニヤリと笑ってこんな事を言う



「お似合いですよ。その姿」

「馬鹿なことを言う暇があるなら、とっとと行け!」

「あら、私もお似合いと思いますよ。冬月センセ♪」

「む、むぅ、そうか?」



ユイの言葉に、まんざらでもない冬月

お盆の一つを手渡して、観客の所へ向かう










人々に夢を与える一時が、始まろうとしていた





ブーッ



開演のブザーが鳴る

それは、一時の夢の始まり・・・・・・・・










今は亡びし国の詩が、静かに奏でられる





つづく





後書き

いやぁ、今回はもう・・・・・・・
まるで某劇団ですね
かなり、気に入ってます
力、入ってます

ミサトさんって、活躍してなかったんですよね。あまり
今回は、大活躍でした♪