「それでは、2学期期末考査。今日は実技を行います。
目標階層は、ターミナルドグマ:第26階層。
チェックポイントも26階層にあります。
しかし、有事の際には早めに退避しなさい。命は自前のしか有りませんからね」
ホームルームで、ミサトはそう言った
今日は、2学期期末考査の実技試験なのだ
シンジは、アスカの方に目線を動かした
「・・・・・・・・どうしたんだろう」
窓を見て、ぼーっとしている
覇気が感じられない顔付きだった
もっと、アスカは生き生きとしていたような気がしたが・・・・・・・
11日のあの一件以来、どうも様子がおかしかった
君に吹く風
12月15日:2学期期末考査・実技
「惣流・・・・・何処か、調子が悪いんじゃないか?」
「え?そ、そんなことないわ」
「だったら良いんだけど、今回の試験はどうする?いつものチームで良いかな?」
「い、いいんじゃないの」
アスカの答えは、何処か上の空だ
「惣流・・・・・ホントにおかしいよ」
「べ、別に何でもないわよ!」
結局、いつものチームでいつも通り行こうということになった
最終到達階層は24階層
一気に駆け抜ければ、目標である26階層というのは、無理ではないかもしれない
「頑張ろうね。綾波、惣流」
「えぇ」
「う、うん」
やはり、アスカはおかしい
何処かがおかしい
<男子更衣室>
「なぁ、今日の惣流は、何や、おとなしゅうあらへんか?」
「トウジもそう思うか?」
「実は、俺も・・・・・・・・」
「今日の惣流さん。落ち込んでるようにも見えたけど・・・・・・」
「・・・・・・・大丈夫かな」
いつもの面々は、アスカについてそんなことを言っていた
「シンジ。惣流は、何かあったのか?」
「・・・・・・・わからない」
「その口ごもり方。何か怪しいぞ」
「せやせや。ムサシの言うとおりやで」
「そんな・・・・・・・・・僕には、ホントにわかんないよ」
「でも、何で急にあんな風になったんだろうね。何かきっかけがあったと思うけど」
ケイタの言葉
「でも、意外な一面って言うか、男勝りの惣流がしおらしいって言うのも新鮮だったな」
「そうだな。普段は賑やかなのが静かっていうのも珍しいよな」
「ただごとや、あらへんな」
「ま、とりあえず今は試験のことに集中しようぜ。
卒業を逃しちゃ、どうしようもないだろ」
ケンスケの言葉に、一同は慌てて着替えを済ませた
<迷宮昇降口>
「遅いわよ!!」
「わりぃ、わりぃ。んじゃ、気合い入れていこうぜ!!」
「「「おぉー!!」」」
マナ達は迷宮に入った
「ほな、ワシらも行こか」
「OK」
「頑張りましょうね」
トウジ達も降りていった
「・・・・・・・・・・」
「・・・・・・惣流・・・・・・」
「な、何?」
「今日は、どうしたの?やっぱり、惣流らしくないよ」
「・・・・・・・・・らしくない・・・・・・か」
「え?」
「なんでもないわ。早く行きましょう」
「う、うん」
「えぇ」
シンジ達も、入った
ぎこちなさが三人を取り巻いている
<ターミナルドグマ:第24階層>
「正面に敵性反応、3つ」
「どうしようか?惣流」
「・・・・・・・・・・・・・」
「惣流?」
「え、えぇ。3つでしょ?突っ切りましょ」
「わかった。
・・・・・・・・フォーメーションはいつも通り?」
「・・・・・・えぇ、一気に仕掛けるわ」
やはり、アスカは何処か上の空だ
振るう長剣にも、迷いがあるように見られる
俯きがちの沈んだ顔は、決して晴れない
それでも、24階層は一気に駆け抜けた
25階層では、思わぬ使徒が待ち受けていた
<ターミナルドグマ:第25階層>
「敵性反応が一つ。来るわ」
レイの言葉に警戒する二人
闇から浮かび上がるように出てきたのは、白と黒のまだら模様
宙に浮かんでのっそりと動く使徒
「・・・・・・何?弱そうね」
「油断しないで。ゼルエルだわ」
「ぜるえる?」
「通称:最強の使徒。特殊な力はないけど、近接戦闘時の強さは、他の追随を許さない。
中距離でも攻撃できるから気を付けて。両腕と光線を使うわ」
「「了解」」
右と左に別れる前衛二人
「マジックプログラム:ファンクション。フィールドレベル:10.
フィールド・レインフォース:ドライブ」
「Danke、レイ」
レイが、アスカに援護魔法を掛けた
ATフィールドを強化する魔法だ
アスカの長剣から発生するフィールドが強化された
「仕掛けるわ。援護して」
「わかった」
静かに言い放つと、アスカは剣を構えて突っ込んだ
シンジもそれに続く
ゼルエルは、折り畳んでいた“すだれ”のような腕を伸ばす
怪訝そうな顔をするアスカだったが、気にせず突っ込んだ
「っ!!」
次の瞬間、尋常ならざる速度で腕が走った
アスカの髪を掠り、シンジの顔の横を通り、レイのすぐ横の壁に突き刺さった
「このっ!!」
シンジは刀を振るって、ゼルエルの腕を切り飛ばそうとした
カキン
「うそぉ!!!?」
弾き返されただけだった
薄く傷が付いただけである
その間に、アスカは真っ直ぐ走った
目指すは、コア一点だ
「たあああぁぁぁっ!!!!!」
振り下ろした長剣
しかし、その一撃はATフィールドに防がれた
剣を握る手に力を込め、アスカもフィールドを展開する
それでも、中和できない
「レイ!!中和して!!」
「わかったわ」
「シンジ!!」
「だぁぁぁああああ!!!!!!」
レイが杖をかざし、フィールドを弱体化させる
フィールド同士の力比べで動けないゼルエルに向かって、シンジが接近
一閃でATフィールドを砕くと、右腕を刎ねる
「やああぁぁぁっ!!!!!」
「!?アスカ!!」
アスカもコアに向かって剣を突き出そうとする
瞬間、ゼルエルの顔の内側が光を発した
レイが全力でフィールドを展開し、二人の前に結界を作る
爆発
魔法とは違って、急拵えのフィールドでゼルエルの光線の一撃を防ごうなんて、虫の良い考えだった
物の見事に、シンジとアスカは吹っ飛んだ
アスカの方が、ダメージは軽微だ
咄嗟にシンジが庇ったからである
「う、うぅ・・・・・・」
「・・・・・くっ・・・・はっ」
折り重なるように倒れている二人
ゼルエルは腕を繰り出すべく伸ばしていた左腕を引き寄せた
身を起こしたアスカが目にしたのは、己に迫り来る極薄の刃のようなゼルエルの腕
咄嗟に、剣を真っ直ぐ構えてフィールドを全開した
一瞬で電池が切れそうになるくらいの大出力
「フィールド全開!!」
ギャキキキキキキキキッ!!!!
耳障りな音が響き、ゼルエルの腕が真っ二つに切り裂かれる
川の流れが二つに別れるような光景だった
しかし、耐えきれなくなったアスカのヴァルムンクが砕け散った
首を竦めて攻撃をかわし、アスカは叫ぶ
「シンジ!!動いて!!」
「うっ・・・・・・・ぁぁあああ!!!」
刀を捨て、短剣を逆手に構えるとシンジはゼルエルに突撃した
レイは強固なフィールドを中和し、
アスカは電池切れな上、折れてしまった剣を抱えてシンジに続く
斬
シンジの一撃が左腕を斬り裂き、頭から真っ直ぐ地面に向かって斬り下ろす
それでも弱々しく動いているゼルエルに向かって、アスカがコアに折れた剣を叩きつけた
その一撃が、とどめになった
「・・・・・・・・・ぜぇ、はぁ・・・・・・」
「・・・・・はぁ・・・・・はぁ・・・・・・レイ、残り時間は!?」
「まだ、余裕はあるわ。少し手当をした方が・・・・・」」
「いいえ。先を急ぐわ。手当なんてしてられないわよ」
その声も、苦しげだ
全身に爆発による火傷や擦り傷を負っている姿が痛々しい
それでも、アスカは気丈だった
ふらつく足取りをおして、三人は走る
アスカを庇ったダメージがあるのか、シンジはまだ苦しそうだ
「・・・・・・惣流は、すごいね」
「走りながら喋るとすぐ息が切れるわよ」
「・・・・・・もう、切れてるからいいよ・・・・・・」
苦しげな吐息をつきながらも、シンジは喋った
「・・・・・・・・やっぱり、僕なんかよりずっと強い」
「・・・・・・なによ。藪から棒に」
「女の子なのに剣の腕は立つし、力は強い。
僕なんか、男なのに、恥ずかしくなるよ。ホント」
シンジは、アスカを元気付けようとしていたのかもしれない
しかし、アスカの顔はどんどん暗くなっていくだけだった
「・・・・・・・・・・・・・」
「ホントに、頼りになる仲間だよ。
惣流が一緒なら、どんな使徒が出てきてもきっと・・・・・・」
「やめて!!!!」
急にアスカは立ち止まった
俯いて、大声を出して急に止まった
シンジとレイも止まり、アスカの方を見る
肩が震えていた
膝が震えていた
全身が小刻みに震えていた
「ど、どうしたの?惣流」
「・・・・・あたしは・・・・・・あたしは、シンジにとってそんな存在なの!?
ただ、一緒に戦う存在でしかない!!?巫山戯ないで!!!
あたしを、何も考えないスパーリングドールとかと一緒にするな!!!!!」
「そ、惣流・・・・・・どうしたんだよ」
「あたしは!!
・・・・・・・・・あたしは・・・・・・・」
水が抜けるように、アスカの全身から力が抜けてゆく
握りしめられた拳は、力を無くしてだらんと開かれた
アスカは、シンジの方から顔を反らして、ぽつりと言った
「・・・・・・・・・・ごめん、なんでもない」
結局、26階層までは無事到達し、試験はパスした
しかし、アスカは一言も喋らなかった
話しかけることができる雰囲気ではなかったので、シンジとレイも黙っていた
重苦しい空気が立ちこめていた
「・・・・・・・今日はごめん。さよなら・・・・・・・」
「惣流!!!」
アスカは、振り返らなかった
シンジは、動けなかった
レイが慌ててアスカの後を追った
<男子更衣室>
「お?シンジやんか」
「よぉ、試験はどうだった?」
「・・・・・・・・大丈夫だよ」
シンジの口調は暗い
「なぁ、どっかおかしいぜ?お前も惣流も。何かあったのかよ?」
「・・・・・・・・・・・・・わからないんだ」
シンジは、自分のロッカーを開けると、装具を脱いで戦闘用学生服を脱いだ
普通の学生服に着替える
「ま、自分でもわからないんならどうしようもないな。
ところで、聖夜祭はどうするんだ?」
「・・・・・・・聖夜祭?」
「12月25日の聖夜祭だよ。まさか、忘れてたのか?シンジ」
「・・・・・・・・・忘れてた」
ケンスケの問いかけに、シンジは虚ろな口調で答えた
溜息をつく一同
「・・・・・・・・多分、行くよ」
「そっか。惣流や綾波も来るかな?」
「・・・・・・・・・・・わからない」
やっぱり、シンジの口調は虚ろだった
トウジがシンジの肩を掴んで、きつい口調で言った
「どないしたんや!!?シンジ!!!何ぞあったんか!!!?」
「・・・・・・・・・・・・」
「言うてみい!!!言えへんのか!!!?」
「トウジ!よせよ!!」
「止めるんやない、ケンスケ!!」
「やめろ!トウジ!!シンジはきっと落ち込んでるだ!!」
「・・・・・・・・さよか」
呆然としているシンジ
苦々しい表情のトウジ
ベルセルクに感染してからか、怒りっぽくなったような気がする
「シンジも、ホントに何かあったのか?」
「できることなら、相談してよ」
ケイタもそう言った
しかし、シンジは首を振った
横に
「・・・・・・・・ごめん。しばらく、一人で考えたいから」
<校舎内>
「あら、シンジ」
「・・・・・・・・母さん」
「試験、ご苦労様。どうだった」
「・・・・・・・・・・大丈夫だよ」
「あらあら、随分参ってるみたいね」
「・・・・・・・・・ちょっと、疲れてるんだ」
そう言って、シンジはユイの前から消えようとした
後ろから、核心をつく一言が突き刺さる
「アスカちゃんね」
「!!!・・・・・・・・母さんに何でわかるんだよ」
「何となく、かしら?最近、アスカちゃんも様子がおかしかったし」
「・・・・・・・母さんには関係ない」
シンジは、足早に立ち去った
息子の後ろ姿を見送りながら、ユイは溜息をつく
「まったく、強情なところはゲンちゃん似ね」
<男子寮:シンジの部屋>
心の中の、霧が晴れない
そんな気分だった
何をするにも、身体言うことを聞かず
何かを考えるも、アスカのことしか考え付かない
(・・・・・あたしは・・・・・・あたしは、シンジにとってそんな存在なの!?
ただ、一緒に戦う存在でしかない!!?巫山戯ないで!!!
あたしを、何も考えないスパーリングドールとかと一緒にするな!!!!!)
アスカの、涙声の叫びを、頭の中で反芻した
結局、シンジにとって、アスカはどんな存在なのだろう
結局、アスカにとって、シンジはどんな存在なのだろう
それは、シンジしか知らない
それは、アスカしか知らない
言葉無くして、決して解り合えるはずがない
八つ当たりをしようにも、身体は言うことを聞かない
何か考えれば、思考の底無し沼にはまってしまいそうだった
シンジは目を閉じる
辛い現実から、僅かな時間でも逃避するために
(・・・・・あたしは・・・・・・あたしは、シンジにとってそんな存在なの!?
ただ、一緒に戦う存在でしかない!!?巫山戯ないで!!!
あたしを、何も考えないスパーリングドールとかと一緒にするな!!!!!)
「・・・・・・そんなことない・・・・・・僕は、惣流を・・・・・・・・」
その答えが、出ることはなかった
つづく
後書き
後はもう一直線
LASに突入です