朝方の空気は、かなり冷たかった

シンジは、早く目が覚めた

普段はしばらく、布団の中で丸くなっているのだが、今日は違った

布団から出て、服を着替える

気温よりも冷たい水で、叩きつけるように顔を洗う

口を濯いで歯を磨く

鏡に向かって、寝癖を直し、髪を整える



笑ってみた





・・・・・・・・・・・ぎこちない















君に吹く風


12月25日:聖夜祭















<男子寮:食堂>



「おはようございます」

「あら?今日は早いじゃない!?」



食堂のおばちゃんが、そんな声を掛けた

シンジが黙って笑うと、別のおばちゃんが声を掛けてくる



「今日が楽しみで眠れなかった?何せ、今日は聖夜祭だもんね!」

「そうですね」



湯気を立てているトレイを受け取ると、シンジは一人で食事を始めた

まだ、時間が早すぎるので、誰も食堂に来ていない

冬はこんな物である

シンジの食事が終わる頃になって、ちらほらとやってくる程度だった



「おっす、今日は早いんだな」

「おはよ」



すれ違った生徒と挨拶を交わし、シンジは自室に戻る










<男子寮:シンジの部屋>



「プレゼントだけは、買いに行かなきゃな」



シンジはコートを羽織り、手袋を付け、財布の中身を確かめる

十分あった

そこそこ高価な物でも大丈夫だ

聖夜祭のメインイベントの一つに、プレゼント交換がある

アスカのこともあって、聖夜祭に出席できるかどうかは怪しかったが、一応、だ



「よし、行こう」



シンジは、一人で寮を出た

軽く、ジオフロントの公園を散歩して回る

森林区画にも行ってみる



「・・・・・・・・いないよね」



憧れを抱いていた、銀髪の青年の姿はない

シンジは、地上の第三新東京市に向かった










<第三新東京市>



いきなりだが、シンジは途方に暮れていた

プレゼント交換

それは大抵、男女で交換される

去年は・・・・・・・みんなで買いに行ったのだった

それで、こんなのが良い、あんなのが良いと言っている間に、こっそり購入していた

今回は、一人だ

シンジは考える



「・・・・・・形に残る物が良いって、言ってたっけ」



形に残る物

例えば・・・・・・・・・



「服、とか・・・・・・・・駄目だ。サイズが分からないじゃないか」







「装飾品?・・・・・・でも、あんまり高いのはなぁ・・・・・・・・」



しかし、それ以外は考え付かないので、シンジは装飾品を探し求めて歩き出した










<その頃の男子寮:食堂>



「?シンジはまだ起きてへんのか?」

「ここまで遅いのは珍しいな」

「ま、今日は寒いしな」

「ねぇ、プレゼント交換のプレゼントって、もう用意した?」

「げ、忘れてた!」

「俺はもう用意してるよ」

「ワシもや。急いだ方がえぇで」

「よっし、ケイタ!!メシ喰ったら第三新東京市に行くぞ!!」

「う、うん」

「そういや、誰に渡すつもりで用意したんだ?二人とも」

「秘密や」

「右に同じ」










<その頃の女子寮:食堂>



「あれ?アスカは?」

「・・・・・今日はどうするのかしら?」

「ねぇ、そういえば、聖夜祭ってプレゼント交換があるんだよね」

「えぇ、ありますね」

「あたし、忘れてたのよ!!どうしよ〜!」

「私は、もう用意してるわ」

「あら〜?誰にあげるつもりで用意したのかしら〜?ヒカリ〜?」

「だ、誰でも良いじゃない?」

「ふ〜ん・・・・・・・万年黒ジャージのエセ関西弁がそんなにいいのかしら〜?」

「ぶっ!!!!」

「じょ、冗談よ。軽い冗談。レイは用意したの?」

「えぇ」

「やっぱ、碇君?」

「・・・・・・・・わからない」

「そ、そうなんだ。山岸さんは?」

「私も、用意してませんでした・・・・・・・・私から貰いたがる人なんていないでしょうし」

「勿体ない!!!その考えは勿体ないよ山岸さん!!!!」

「そ、そうですか?」

「よっし!!!朝ご飯が終わったら第三新東京市買い物に行くわよ!!!」

「は、はい」










<第三新東京市:ギガスクエア>



シンジが来ているのは、第三新東京市で一番でかいデパート

ギガスクエア

食料品から生活雑貨、服飾品から貴金属

映画館もあれば本屋もある。遊園地まである大デパート

その、小物屋にシンジは来ていた

ちょっとしたアクセサリーが多いこの店なら、良い物があるだろうと考えていたが・・・・・・・



「すまないね。昨日で全部出払ってしまったんだ」



店主の気の良いおじさんはそう言った

何せ、世はクリスマスなのである

このての商品は真っ先にターゲットにされることはよく考えればわかることだ



「はぁ・・・・・・今日中には手に入りませんよね?」

「済まないけど、次の入荷は3日後なんだ。手作り用の材料も含めて、全部売り切れ」

「そうですか・・・・・・じゃあ、また来ます」

「あぁ、また来てくれ」



そして、シンジの足は仕方なく宝石店に向かった










<ギガスクエア:宝石店>



「・・・・・・・・駄目だ、こりゃ」



高すぎる

あっさり予算をオーバーした



「いらっしゃいませ。何かお探しかね?」

「・・・・・・・・あの、予算2,7000円くらいで何とかできる物って、無いですか?」



店長の札を胸に付けた、初老の男に、シンジは聞いた

すると、店長は首を捻った



「ちょっと・・・・・うちには無いね・・・・・プレゼントかね?」

「はい、聖夜祭の・・・・・・」

「聖夜祭?すると、君はネルフ学園の生徒?」

「?そうですけど・・・・・・」

「だったら、頼みたいことがあるんだ!」

「?」

「ちょっと、奥へ・・・・・・」

「は、はい」



奥の部屋に引っ張られたシンジ

椅子を勧められ、腰掛ける

初老の店長は、口を開いた



「・・・・・・実は、うちの地下倉庫に変な物ができたんだ」

「変な物?」

「大きな、白い・・・・そう、繭のような」

「・・・・・使徒の繭だ!」

「あ、あれは使徒の繭なのか!?
・・・・・・・手を出さなくて、正解だった・・・・・」

「でも、そんな物があるなら、何故ネルフに連絡をしなかったんですか?」

「そんなことをしたら、ギガスクエアの信用ががた落ちになってしまう。
だから、ネルフへの連絡は躊躇われたんだよ・・・・・・」



そして、シンジの目を見て店長は言った



「こんな依頼の仕方は間違っていると言うことはわかっている。
それでも、君に頼みたい。あの繭を何とかしてくれ!」

「・・・・・・・・依頼、ですか・・・・・・」

「報酬は・・・・・・君の好きな商品を一つ持っていって良い」

「そんな!!・・・・・・・お金は払いますよ。払えるだけ」

「・・・・・・わかった、取りあえず、案内しよう。武器はあるかね?」

「短剣と、ナイフなら」



いつも得物を持っていなければ落ち着かないという、人生裏街道な癖が染みついている

ネルフ学園の生徒はみんなそうだった










<同時刻、ギガスクエア:宝石店の前>



「あ、きれ〜」

「マナさん・・・・・・プレゼントの購入は・・・・・・」

「良いじゃん。のんびり考えれば・・・・・・・・あれ?」

「?・・・・・碇君?」



宝石店から、シンジが出てくるところだった

店長と共に、何処かに向かっている

何かを話しているようだが、会話は聞こえない



「・・・・・追うわよ」

「マナさん・・・・・・・当初の目的を忘れてませんか・・・・・・?」

「最優先よ!」



マユミは溜息をついた

そして、シンジの後を尾行する










<ギガスクエア:倉庫>



「この奥だ。シャッターを開けよう」

「・・・・・お願いします」



がらがらがらがらがらがらがら



シャッターが開かれると、白い塊が目に飛び込んできた

数は6つ

間違いなく、使徒の繭だ

だとすると、羽化する使徒は全部で50以上はいるだろう

シンジは息を飲んだ

ここまで来て、引き下がることはできない



「僕が入ったら、シャッターは閉めてください。
30分経って、僕が出てこなければ、ネルフに連絡してください」

「わ、わかった。
・・・・・・・・・・・頼むよ」

「はい」



シンジが倉庫の奥に足を踏み入れようとして・・・・・・・



「ちょっと待った〜!!!!!」

「ちょっと待ったコール?・・・・・・・・マナ!?山岸さん!?どうしてここに!?」

「へっへ〜、シンジの後を尾行してきたのよ」

「私は止めたのに・・・・・・」

「あの、この子達は・・・・・・・?」

「ネルフ学園の生徒です。優秀なスナイパーに、スペルユーザーですよ」

「そうか・・・・・・だったら、手伝ってくれないか?報酬も三人分出そう」

「シンジ、報酬って、何?」

「この人、宝石店の店長さんなんだ。
それで、この仕事が成功したら、好きな商品を持っていって良いって・・・・・・」

「やるわよ。二人とも」



マナは、ホルスターに吊っていたジェイソンを握りしめる

マユミは溜息をつきながら、コアのはまった短いロッドを撫でた

シンジも、ベルトに刺していた使い慣れた短剣、不破を抜き放つ



「では、シャッターを閉めてください。今にも、羽化しそうです」

「わ、わかった!後を頼む!!」



がらがらがらがらがらがらがらがらがらがら、がっしゃん



シャッターが閉められた

蛍光灯の、薄暗い明かりの中で、繭がぴくぴくと蠢いている



「・・・・・・動けない間に、できるだけの数を仕留めよう。
マナ、サイレンサーをつけて。銃声を響かせるわけにはいかない」

「了解」

「山岸さん、制御できる?」

「・・・・・・・大丈夫です」

「じゃあ、お願い。手早く終わらせよう」



繭が、ひび割れた










<発令所>



「先輩。聖夜祭のプレゼントはもう用意したんですか?」

「・・・・・・・・いいえ。まだよ」

「えっ?どうしてですか?」

「貰いたがる人なんていないわよ」

((大歓迎です!!!!))



マコトとシゲルの心の叫び



「マヤこそどうなの?プレゼントは」

「えへへ、既に準備完了です」

「そう、誰と交換するの?」

「それは秘密ですよ。先輩」

「あら、そう・・・・・・・日向君に青葉君は?」

「ば、ばっちりぐーってやつっすよ!」

「そうそう、問題ない。なーんて・・・・・・・」



ゲンドウの声真似までしているシゲル

寂しさを紛らわせているのだろうか?










<購買>



「今日は、聖夜祭だな・・・・・・ずずっ」

「そうですね。あなた・・・・・・・・もぐもぐ、あ、おいしい」

「・・・・・・・今日の茶請けは、羊羹か」

「芋羊羹ですよ。私の手作りです」

「それは美味そうだ・・・・・・・・もぐもぐ。うむ、美味い」

「お口に合います?」

「どんぴしゃ」



訳のわからない受け答えだ

ユイの方は慣れているのか、平然としたものである



「今宵は、楽しみですね。あなた・・・・・・・もぐもぐ」

「そうだな・・・・・・ずずっ」

「シンジは、プレゼントの用意ちゃんとしたかしら・・・・・・あの子、忘れっぽいから」

「君に似たんだろう」

「あら、顔はともかく性格はあなたに似ていますよ」

「・・・・・そうなのか?」

「そうじゃないですか?」

「・・・・・・・・ふむ、そうかもしれんな」

「そうでしょ?」

「・・・・・・・・・まぁ、シンジのことは良い。それよりも、ユイのプレゼントは・・・・・・」

「今年は、日頃お世話になっている冬月理事長と交換しようと思っていますわ」

「・・・・・・・・・・・・・・・えっ?」










<ギガスクエア:倉庫>



「(おらああぁぁっ!!!!)」



夢魔の拳が、繭を叩き潰す

それでも、中の使徒はまだ蠢いており、マユミは容赦せず夢魔に踏みつぶさせた



「足止めするわ!やって!!」



ぷし、ぷし、ぷし、ぷしっ!



サイレンサーの付いた銃口から、弾丸が吐き出される

動こうとした使徒に突き刺さり動きを止めた

その間に、シンジが呪文を詠唱、突っ込む



「エッジプログラム:ファンクション!フィールドレベル:10!
飛燕一閃・杜若:ドライブ!!」



キン



澄んだ音と共に、シンジの短剣が閃く

一筋の光が、使徒の群を舐めた

斬り裂かれる下級使徒



「残りは!?」

「17です!!」

「よっし!ディスポで一気に・・・・・」

「駄目だよ!!!」

「ちぇっ、シンジのけち」










<教員室>



「よ、終わりそうか?」

「何とか・・・・・・おかげさまでね」

「そりゃ良かった。今夜の聖夜祭には出られるな」

「えぇ」

「ちゃんと、出られる顔で来いよ」

「そ、そんなに酷い顔になってる?」

「あぁ、かなりな」

「・・・・・・徹夜明けだもんねぇ・・・・・・・はやく、シャワー浴びて一寝入りしたいわ」

「夜には起きろよ」

「わかってるわよ・・・・・・・・ね、プレゼントって、用意した?」

「黙秘権」

「なによそれー」

「じゃ、残り頑張ってくれ」

「ちょっと、待ちなさいよ!!加持君!!」

「じゃあな、葛城ー。あでゅ〜」

「こら、待てぇー!!!加ぁ持ぃー!!!!」











<ギガスクエア:倉庫>



「はぁはぁ・・・・・片付いたね」

「よっし!!店長さんに報酬貰いに行こう!!」

「あ、あはは・・・・」



渇いた笑いしかでないマユミだった

シャッターを開けて外に出ると、店長が立っていた



「おぉ!!?大丈夫かい!?」

「はい。終わりましたよ」

「そうか!!いや、ありがとう。本当に助かった!!
放っておくわけにもいかなかったし、どうしようもないと思っていたんだ!!」

「いえ。使徒殲滅は『特務機関ネルフ』の最優先任務ですから」

「そうか、頼もしいな。有事の際には、早めに連絡することにするよ」

「はい。それが良いと思います」

「では、約束は守らねばなるまい。ついてきたまえ」

「ほ、ホントに良いんですかっ!!?」

「あぁ、勿論さ」

「ぃやったぁぁ!!!!!!」

「マナさん。遠慮しないと悪いですよ」

「でも、助かったな。一人じゃどうなってたかわからなかったよ」

「あまり、無茶なことばかりしないでくださいよ」

「うん。でも、これでプレゼントの目処も立ったよ」

「何にするんですか?」

「・・・・・・・首飾りか、耳飾りかな?指輪はサイズがわからないから」

「ネックレスが良いでしょう?身に付けていて、そんなに邪魔になりませんし」

「イヤリングって、結構邪魔になるんだよね。先生にも睨まれるし」

「じゃあ、ネックレスにしよう。どんなのがいいかな・・・・・・・・」

「あたしが選んであげよっか!?」

「マナさん!」

「い、いいよ。自分で決めなきゃ」



そして、シンジは宝石店の前で2時間ほど考える羽目になった

マナとマユミには帰ってもらい、一人で考えた結果がこれである

結局、学校に帰って来れたのは6:30

あまり、余裕は無い










<男子寮:シンジの部屋>



シンジは、急いで制服に着替えた

聖夜祭は、制服着用の行事である

ただのパーティーではない。厳粛な行事でもあるのだ

7時から開始となる

着替えて、プレゼントをポケットに入れる

もう一度、アスカの手紙を読んだ





碇シンジ様



12月25日

午後7時に3年C組の教室に一人で来てください

夜が明けるまで、待っています



惣流アスカ・ラングレー





「・・・・・・・・・もう、行かなきゃ」



ドアを開けると、トウジ達が待ち構えていた



「おぅ!シンジ!」

「元気になったみたいじゃないか?」

「一緒に行こうぜ」

「それ、プレゼント?」



トウジとケンスケとムサシとケイタ

四人に、シンジは苦笑いで応えた



「ごめん。先に行ってて。僕は行かなきゃ行けないところがあるから」

「そっか・・・・・・頑張れよ」

「えっ?」



ケンスケの言葉に、シンジは驚いたが、ケンスケ本人は素知らぬ顔だ

きっと、想像は付いているのだろう

もしかしたら、聖夜祭に来られないかもしれないと言うことも

シンジは、校舎に走った



6:58だった




















<7:00、校舎内:3年C組教室>





夜の校舎は、静かだった

教員室にも、誰もいない

校舎内にいるのは僕と、居れば惣流だけだった

全員が、体育館に集合している

今夜は、聖夜祭だから

どうして、惣流は今日を指定しのだろう





僕は、教室のドアを開ける



からから、と言う音がした



天井都市の採光鏡から月明かりが差し込んでいる





「・・・・・・・・惣流」

「・・・・・・・ここにいるわよ」



惣流は、自分の席に座っていた

俯いていて、表情は読みとれない

ぼそぼそと、口を開いた



「来て、くれたんだ」

「うん」

「・・・・・・・・・良かったの?みんなと約束とかしてたんじゃ・・・・・・」

「みんなには、後で謝るよ。
惣流、最近様子がおかしかったし、心配だったから・・・・・」

「少し・・・・・・相談したいことがあって」



惣流は、そう言って話を切りだしてきた



「惣流が悩み事って言うのも、珍しいね」

「そう?」

「何て言うか、考える前に動き出しそうな印象が強いから」

「・・・・・・・・・やっぱり、そういう風に見えるのかな」



惣流は、沈んだ口調で呟いた



「・・・・・・・笑わないって、保証できる?」

「うん。笑わない」



惣流は、静かに深呼吸をしていた

そんなに、すごいことなんだろうか



「あのさ・・・・・・・もしも、あたしが剣を使えなかったら、
シンジはあたしのこと、相手にしてくれた?」

「な、なんでそんなこと・・・・」
























「・・・・・・・好きな人が、できたから・・・・・・・」

「惣流に!!?」

「何よ。あたしが人を好きになっちゃいけないの?」

「そんなことないよ。
・・・・・・・・・でも、いきなりだったから驚いた。
でも、それと剣を使うことが何か関係あるの?」

「・・・・・・・・・・・・怖いのよ」



惣流は、そう言うと震えだした

声が段々、涙声になっていく



「そいつは、あたしのこと、剣を扱うのがうまい仲間としか思ってないのかもしれないから。
もしかしたら、あたしのこと、女の子だなんて思ってないかもしれないから。
あたしのこと、ただの『剣士』としてしか、見てくれてないかもしれないから・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・」

「もし、剣が使えない、普通の女の子だったら、見向きもされなくなるんじゃないかと思うと・・・・・・」



惣流は、膝を抱えておでこを押し当てた

まだ、震えが止まらない

僕は、慎重に言葉を選んだ



「そんなこと無いよ。
惣流は、僕みたいな奴が言うのもなんだけど。
頭がいいし、可愛いし、ちょっと乱暴なところもあるけど、
すごく、女の子らしいと思うよ」

「・・・・・・・・・・・・・・・」



惣流は、しばらく何も言わなかった



「ホントに・・・・・・・そう思う?」



俯いたままで、惣流は聞き返してきた



「うん」



僕は、はっきりと答えた










<体育館:聖夜祭会場>



「ねぇ、シンジは?」



マナは、ムサシに聞いた



「さぁ、どっか行かなきゃいけない所があるとか言って、遅れるって聞いたぜ」

「ふぅん・・・・・・・アスカも居ないのよね」

「・・・・・・・シンジに限って、それはないだろ?」

「でも、心配じゃない」

「んが〜!!!!」



トウジの悲鳴が聞こえる

ミサトに、一升瓶を口に突っ込まれたようだ

溺れそうになっている



「きゅう」



ばたっ



「あによ〜、だらひないわね〜・・・・・・・」



既に、ミサトは呂律が回っていない

次の獲物を索敵している



「・・・・・・ここにいるよりは、安全かもな」

「たにぐちくぅ〜ん。ちょっちいらっしゃぁ〜いぃ」

「・・・・・・・・・・・・・・」



ムサシ、後ろに向かって全力疾走



「マナ、後頼む」

「え!?きゃぁぁぁぁ!!!!!!!!!」











<校舎内:3年C組教室>



「ねぇ、あたしの・・・・・・・・」



そこで、惣流は言い淀んだ

何度も唾を飲み込んで、呼吸を整えている

そして、惣流は言った



「好きな人って言うのは・・・・・・・ね」



惣流は、涙目になっていた

震える声で、続きを言う




























































「・・・・・・・シンジ。あんただって言っても、そう言える?」



「・・・・・・・ぇ・・・・・・・・・」



息が、止まりそうになった





「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「好きなのよ」



ぽつり

惣流は言った



「あたしは・・・・・・・シンジのことが好きなのよ。自分でも、どうしようもないくらい」

「・・・・・・・・・そう、りゅう・・・・・・」

「・・・・・・・・男の子に恋して、好きになって、一緒に付き合って・・・・・・・・
あたしは、小さい頃男の子みたいになりたかったから、そういうの、ずっと忘れてた」

「・・・・・・・・・・・・」



ちょっと、照れたような口調で言う



「でも、シンジ・・・・・・あんたを好きになるようになって、思い出した。
ずっと、そういうのに憧れてたこと・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・」

「でも、シンジがあたしのことを強いって言う度・・・・・・・・
あたしは、剣を捨てられなくなった。仲間で居ることしか、無いのかと思ったから」



そんなことを・・・・・・・・・・



「どうして、あたしは、剣なんか振り回すようになったんだろうって、
どうして、あたしはレイみたいに綺麗じゃないんだろうって・・・・・・・・
馬鹿みたいに悩んでた」

「・・・・・・・・・・・・・・僕は」

「あたしはね!!!シンジ!!!!!!」



ばんっ!!!!!

惣流は、机を叩いて、叩きつけるような大声で言った

そうしないと、勇気が持てなくて、言い切ることができなかったのかもしれない



「強いって言って欲しいんじゃない!!
いつまでも「惣流」じゃなくて、「アスカ」って呼んで欲しいの!!!
あたしは!!!シンジに、あんたに・・・・・・・・」















「好きだって・・・・・・・そう、言って欲しいの」





呟くような、告白だった



僕の頭は、真っ白だったかもしれない



それでも、自然に言葉を紡ぎ出すことができた





「・・・・・・・・あたしじゃ、駄目かな?
あたしみたいなのに、好きだなんて言われるの、やっぱり、迷惑かな!?」

「・・・・・・・・・アスカ・・・・・・・・」

「・・・・・ぁ・・・・・・」

「そんなこと、無いよ。絶対」

「・・・・・・・・シンジ・・・・・・・しんじぃ・・・・・・」



惣流は、急に泣き出した

緊張の糸が切れたのか、へたり込んで泣き出した



「うっぅっぅうぅ・・・・・・」

「惣流、泣かないでよ・・・・・・ほら、拭いてあげるから顔上げて・・・・・・・」

「・・・・・・・・こんな顔、シンジに見せたくない・・・・・・・」

「・・・・・・・アスカは、アスカだよ」





しばらく、僕達は寄り添ったままだった



隣に座っている、アスカの微かな息遣いが聞こえてくる





「・・・・・・・今日、聖夜祭なのに、プレゼント、用意してなかった・・・・・」





アスカが、呟いた

僕は、ポケットから細長い包みを取りだして、包みを解いた

アスカの目の前で、開けてみせる





「・・・・・・・・・今日は、記念日だね」

「何の記念日?」

「アスカが、はじめて自分の気持ちに素直になれた記念日」

「・・・・・・・・シンジ・・・・・・ありがとう・・・・・・・・」



そっと、アスカの首にネックレスを掛けた



月明かりに包まれて、時間が止まったみたいだった



でも、時計の針は進んでる



8:35



まだ、聖夜祭は終わってないはずだ・・・・・・・・・





「アスカ・・・・・・みんなの所に、行こうか?」

「・・・・・・・・・でも、もう少し、こうしていたい・・・・・・・」

「・・・・・・・わかった・・・・・・・」















<体育館玄関:聖夜祭会場>



「ぅぇ・・・・気持ち悪ぅ・・・・・」

「鈴原、大丈夫?」



トウジは、夜風に当たっていた

ヒカリはトウジに付き添っている



「ぅぅ・・・・すまんなぁ・・・・委員長・・・・・・」

「気にすること無いわよ」

「せや・・・・・プレゼントがあんねん・・・・・受け取ってんか・・・・・」

「え?・・・・・・私に?」



トウジがヒカリに渡したのは・・・・・・・・・



「フォトスタンド・・・・・・高かったでしょ?」

「えぇねん・・・・・・委員長には、世話になっとるし・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・私こそ・・・・・・」

「委員長、別に隠さんでもええねん。ワシのベルセルクっちゅう病気のこと。
何となく、わかるんや。自分の身体やし」

「・・・・・・・で、でも」

「せやから、ワシが委員長に手ぇ出そうとしたときは・・・・・・・・・・」



トウジは、静かに言った



「ワシを、殺してくれや・・・・・・・委員長やったら、恨んだりせぇへんで」

「そんな事言わないでよ・・・・・」



その時、トウジの背中をさすっていたヒカリの手は、不穏な振動を感じた

内蔵が震えている

もしや・・・・・・・・



「う、うげぇぇぇぇぇぇっ!!!!!」

「いやあああああぁぁぁぁぁっ!!!!!!」





「な、何やってるの?二人とも」

「え、碇君?アスカも!」

「ど、何処いっとったんや?シンジ」

「・・・・・・アスカを、迎えに。ね」



アスカは、こくりと頷いた



「行こう」

「うん」



呆然と、二人を見送るトウジとヒカリ



「なぁ、委員長。いま、シンジの奴・・・・・」

「惣流じゃなく、アスカって、呼んでたね・・・・・・・」










<体育館:聖夜祭会場>



体育館には、一面真っ赤な絨毯が敷かれ、テーブルクロスを掛けられたテーブルがたくさん出ている

その上には、料理が並んでいた

今では、最初の半分もないようだけど

体育館に入ったシンジとアスカを迎えたのは、レイだった



「碇君、アスカ・・・・・・・」

「ごめんね、レイ」

「いいの。元気になってくれれば」

「うん」

「遅かったな。シンジ」

「ケンスケ・・・・・気付いてた?」

「まぁ、予想はしてた」



そうしていると、マナが血相変えて走り込んできた



「あぁーっ!!!!シンジシンジシンジシンジ!!!!!ちょっと助けて!!!!!!」

「な、何々?何なの?」

「ミ、ミサト先生が来るのよぅ!!」

「きぃりぃしぃまぁさぁ〜ん?」

「来たーっ!!!!!」



ゆらり、と、ミサトが現れた

酒瓶片手に薄ら笑いを張り付け瞳には暗い光が宿っている



「うぅふふふふふふふふふふふふふふふぅ」

「きゃー!!!!いやー!!!襲われるー!!!!!」

「うぅふふふふ、ふうっ!!!!」



いきなり、ミサトは倒れた

とうとう、死んだのかもしれない



「まったく、世話を焼かせる・・・・・・」

「あ、加持先生」

「済まないな。霧島さん。みんなもゆっくり楽しんでくれ」



そう言うと、加持は気絶させたミサトを担いで寮に帰った



「はぁ、怖かったよぉ〜」

「ムサシはどうしたの?」

「ムサシは、捕まって・・・・・・・」



マナは、体育館の一角を指さした

一人生徒が倒れている

多分、彼がムサシなのだろう

溜息をつくシンジ



「行ってあげた方が良いんじゃないかな?」

「でもさぁ・・・・ムサシの奴」

「行ってあげなさいよ。もしかしたら待ってるのかもしれないじゃない」

「そうかな?ちょっと行ってみるね」









その頃、別の一角では



「はい、冬月センセ♪プレゼントです」

「・・・・・・ユイ君・・・・・・これを、私に?」

「はい、日頃お世話になっている理事長に、是非」

「・・・・・・で、では、これは私から・・・・・」

「まぁ、ありがとうございます!」

「こ、今年の聖夜祭は、良き日になった!乾杯!」



グラスに入っている酒を喉に流し込む冬月

そんな様子を、ゲンドウは隅の方から見ていた



「・・・・・・・ユイ・・・・・・」(しくしく)










さて、その頃ケイタはと言うと・・・・・・・



「あの、山岸さん。これ・・・・・・・」

「私に、ですか?」

「うん。プレゼント、山岸さんに受け取って欲しい」

「・・・・・・・はい、ありがとうございます・・・・・・・・開けてみてもいいですか?」

「う、うん。気に入るかどうかはわからないけど」



ケイタのプレゼント

それは、白いヘアバンドだった



「山岸さん、髪、綺麗だから、こういうの似合うと思って、め、迷惑だったかな?」



しどろもどろのケイタ

顔は真っ赤になっている

マユミは、何も言わずにヘアバンドを付けて見せた

そして、ケイタに聞く



「嬉しいです、河本君。これは、私から・・・・・・」

「え?」

「受け取って、欲しいです」



マユミの顔も、真っ赤

ケイタは、マユミの白い手に包まれているプレゼントを受け取った



「開けても、良い?」

「どうぞ」

「これは・・・・・・本?」



ハードカバーの、分厚い本



「はい。私が一番好きで、大切な本なんです。河本君は、本は読まないんですか?」

「そんなに熱心じゃないけど、でも、嬉しいな。ありがとう。
何ヶ月掛かるかわからないけど、読んでみるよ」



それは、マユミが12才の時熱中して読んだ本

ありきたりな、恋愛小説だった

彼女は、誰かと思いを共有したかったのかもしれない










「はーい。ムサシぃ。生きてる?」

「・・・・・・ばっかやろぉ・・・・・・本気で死にかけたんだぜ」

「ごめんごめん。罪滅ぼしと言っては何ですが、マナちゃんからプレゼントぉ!!はい」

「・・・・・・マナが、俺に?」



ムサシは、渡された箱を、持ち上げてみた



「爆発物ほどの重さはないか・・・・・」

「とっとと開けなさいよ!失礼な詮索をする暇があるなら!!」

「わかったよ・・・・・・・おい、これって」

「欲しがってたでしょ?これ」

「でも、これって・・・・・・・・」

「い〜のよ。あたしには似合わないから」



箱の中に入っていたのは、真っ黒なバンダナ

端の所に、己の尾を噛む蛇

ウロボロスの刺繍が入っている

人気バンドグループ“ウロボロス”のバンダナだった

マナが音楽番組に応募して、見事当選したときはかなり羨ましかった

ムサシは、“ウロボロス”の大ファンなのだ



「ホントに良いのか?貰ったからには返さないぜ?」

「そんなけちくさい事言わないわよ」

「・・・・・じゃ、これは、俺から」

「開けて良い?」

「おぅ」

「えっへへ〜、何かな〜?」



ムサシのプレゼント

それは、口紅だった



「へぇ〜。ムサシにしてはまともね」

「見直したか?」

「うん」



マナは、早速口紅を塗っていた

塗り終えると、ムサシに向かって悪戯っぽく言う



「えへへ、キスしよっか?」

「馬鹿!!何言ってるんだよ!?お、おい!!?」



ちゅっ



ムサシの頬に、見事な口紅の跡が残った










「相田君は、プレゼント交換。しないの?」

「する相手が居ないよ。綾波は、シンジとだろ?」

「・・・・・碇君は、アスカと交換したみたいだから・・・・・」

「交換、じゃなくても良いんじゃないのか?渡したい相手に渡すのが一番良いって」

「・・・・・・・・・・・・・」



レイは、黙ってケンスケに背を向けた

そして、シンジの方に小走りに走っていく



「・・・・・・勿体無かった・・・・・かな?」



振り返ってみた

嬉しそうなシンジ

照れているレイ

微笑んでいるアスカ

あの三人の笑顔を、壊すような真似はしたくない

それが、ケンスケの本音だった



「・・・・・・渡したい相手・・・・・・か・・・・・・・」











叶う想い

叶わぬ想い

密かな想い

打ち明ける想い

皆の胸には様々な想いがある



それは、



恋であったり



憧憬であったり



友情であったり



愛であったり



どうして、人はこれほどの想いを抱えることができるのだろう

これほど、人を想うことができるのだろう

されど、その答えはなし





聖夜は、静かに更けてゆく





つづく





後書き

これでいいかな?と何度も考えました
でも、これで良いと思います
人の好みは色々ありますが、このシリーズの目標のこの話でした
ただ、こういう話を書きたかっただけなのかもしれません

でも、ちゃんとした形で完結させます
その時、シンジの隣にいるのは誰でしょうか・・・・・・・?