<ネルフ学園:保健室>



「・・・・・・・・・・・・・」

「あ、目が覚めたようね」

「・・・・・・・・・・?・・・・・はい」

「シンジ君達が心配してたわよ。着替えたら顔見せに行きなさい」

「・・・・・・・シンジ君?それは、碇君のことですか?赤木博士」

「?えぇ、そうだけど。あ、アスカもうるさかったわね」

「・・・・・・・アス・・・カ?・・・・・・ドイツ支部の惣流アスカ・ラングレーが、ですか?」

「?ドイツ支部?・・・・・・・確かに、ドイツにも『冒険科』の学校はあるけど」

「『冒険科』?」

「レイ、あなた、おかしいわよ?
まさか、事故のショックで記憶がおかしくなったとか言うんじゃないでしょうね」

「事故の・・・・・・ショック・・・・・・・・状況の説明をお願いします」

「・・・・・・・・・・レイ、あなたの在学時のコースは?」

「・・・・・第三新東京市立第一中学校での、専攻科目等は特に無いはずです」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・レイ」

「はい」

「あなたは、誰?」

「特務機関ネルフ所属、エヴァンゲリオン操縦適格者、ファーストチルドレン。綾波レイです」



リツコは、こっちの世界でもひっくり返った





・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

君がために風は吹く

インターミッション #01:ファーストチルドレン

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・





<保健室、の前の廊下>



「ど、どういうことなんですか!!!!?」

「静かに!・・・・・・・聞こえるわ」



大声を出すシンジに、リツコは小さく言った

シンジの隣では、仏頂面で腕を組んでいるアスカ



「・・・・・・・・で、レイは一体どうなったのよ」

「事故のショックで・・・・・・・脳神経系負担過剰による記憶障害か、別人格か・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・何でも良いけど、これだけは答えて」

「何?」

「直るの?それ」



リツコは、返事に窮した

腹の内では考えている二つの選択肢

其の一:しらばっくれる>ばれた時がやばい

其の二:洗いざらい、全てを話す>多少は情けをかけてくれるかも知れない



そこ、情けない考えだなんて言わないように

誰だって、本気で切れたアスカを敵に回そうと思う人物は、そうそういない

ゲンドウかユイか冬月か・・・・・・その他数名と言うところだろう



「はっきり言って、肉体的にも精神的にも正常よ。外傷無し、脳への後遺症も無し」

「じゃあ、なんなのよ、何が原因なのよ!!?」

「わからないわ」

「何とかしなさいよ!!!あんたが責任者なんでしょ!!!?」



思わず、アスカは大声を出してしまった

その時、保健室のドアがそっと開き・・・・・・・・・



「・・・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」



会話が凍る四人

通りすがりのミサトが



「やっほ〜、みんなで何してんの?」



レイの姿を認めて



「あら、レイじゃない。もう起きても良いの?」

「え・・・・・・・・はい」

「ふ〜ん。ま、今日は一日ゆっくり休みなさいよ。じゃーねー」



ミサトは去っていった

言いようもない雰囲気が、そう発砲に地雷が置かれているような雰囲気が辺りを包んだ

そうしていると、今度は渚兄妹がやって来た



「あら、皆様お揃いでどうされたのですか?」

「・・・・・・・・・・?」



首を傾げて問うサヲリ

対照的に、カヲルは怪訝そうな顔だった



「その人は、“誰”だい?」

「兄様?」

「その人は、レイさんではないね。レイさんと似て非なる存在というか・・・・・・・・」

「カ、カヲルさん?どうしてそんなことがわかるんですか?」

「雰囲気とか、全然違うじゃないか」

「まぁ・・・・・・・・そうよね」



言われてみればそうかも知れないが・・・・・・・・・・・



「・・・・・・・私は、綾波レイ。それは本当」



それだけは、本当に本当



「なるほど・・・・・・・・・君は異なる時間軸の存在なのか。
エヴァとのシンクロでリリスの力が解放されたことが原因、というところかな?」

「ちょ、ちょっと、何よ?その、“リリスの力”っていうのは」



話の内容が掴めないアスカが、カヲルに聞いた

ちなみに、レイがリリスであると言うことは最重要機密である



「えっと・・・・・・・・何と説明しようか・・・・・・・・」



頭の中では必死に言い訳を考えているカヲル

横からサヲリが絶妙なタイミングでフォローした



「エヴァとシンクロするのに必要な力のことを“リリスの力”と呼んでいるのですよね。赤木博士」

「えぇ、そうよ」



口裏を合わせるリツコ

リツコは、レイがリリスであるという説明を受けている

この先の情報操作などを任されたからだ

ほっと安堵のシンジ

話しに付いていけないレイ



「でも、これからどうするの?」

「私が、元居た世界に戻るにはどうすればいいの?」

「う〜ん・・・・・・・・・とにかく、こっちの世界のレイさんと接触してみるよ」

「そんなことができるんですか!!!?」

「絶対、とは言えない。異なる時間軸というのは無限に存在するものだから」

「つまり、どれくらい難しいんですか?それ」

「そうだね。年末ジャンボ宝くじを一枚買って、それが一等であることよりも可能性が低い」

「それって、普通無理って言わない?」

「大丈夫です。こちらの世界のリリスの力の残滓がある限り、痕跡を辿ることは可能です」

「それでも、僅かに可能性が高くなると言うだけだから、あまり期待しないでね」

「じゃぁ、そっちはそれとして、レイはどうするの?」

「何、を?」

「体が大丈夫なら、寮に帰っても良いんでしょ?」

「確かに、外傷は全くないけど」

「なら、良いじゃん。ほら、早く来なさいよ」

「え・・・・・・・・・あの」



レイの手を引っ張って、アスカは女子寮へ帰っていった



「じゃあ、僕達は研究室へ行きましょう」

「初号機、ね」

「はい」

「わかったわ、行きましょう。シンジ君はどうする?」

「あ、僕も行きます!」










<女子寮:食堂>



「でさ、あの馬鹿シンジったら訓練中に何したと思う?」



食堂では、表情一つ動かさないレイを相手に、アスカが楽しそうにぶーたれている

レイは、目の前にある自分の夕食に、まだ手をつけていない



「・・・・・・で、食べないの?それ。冷めるわよ」

「・・・・・・・・・・・・・・・」

「ま、変なところに来て不安なのはわかるわよ。でも、腹が減っては戦はできぬって言うでしょ」

「ごめんなさい」



レイは、目の前にある二本の棒・・・・・・箸を掴んで



「これ、どうやって使うの?」

「あんた、箸使ったこと無いの?フォークとかナイフは?」

「それも、あまり・・・・・・・」

「普段、何食べて生活してたのよ?」

「ネルフの固形バランス栄養食」

「・・・・・・・・・何となく、わかったわ」



カロリーメイトみたいなもんだ

そして、箸もナイフ・フォークも使えないと言うレイに、アスカは



「特訓よ。あんた器用なんだから箸くらいすぐ慣れるわよ」

「器用・・・・・・・・どうして?」

「私の知ってるあんたは器用だったのよ!箸の先で皿回しができるくらい!!」



ちなみに、嘘



「そうだったの・・・・・・・・・」



どう考えても、想像できない

食堂で、万雷の拍手を浴び、天に向かって真っ直ぐ立てた箸の上では皿が回っている

しかし、その面は無表情な自分の顔



「あっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっ!!!!!」



想像してしまったらしい

一人笑い転げるアスカ

目の前では、無表情だがちょっと困った顔のレイ

この構図は大して珍しい物ではないらしい

周りの女子生徒は、「またか」という顔をしている



「・・・・・・と、とにかく、箸ぐらい使えるようにならなきゃ駄目よ!」

「了解」

「返事は普通に」

「はい」

「ん〜、もっと柔らかく」

「わ、わかったわ」

「OK!」



こうして、ファーストチルドレン綾波レイは惣流隊に入隊した

主な訓練内容は日常会話である

それに関しては、休む暇もないほどだった

何しろ、惣流隊の面子は個性派揃いである

目線で喋るクリス

おろおろのサトミ

きゃんきゃん吠えるフュリィ

くそやかましいヒルデ

良くも悪くもマイペースチャーミー

そして、その隊の頭を張るのは、歴代で最強の卒業生

かもしんない、と言われている惣流アスカ・ラングレー教官

前途は明るい

かもしんない










<研究室>



「・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・」



初号機のコアに額を当て、渚兄妹は目を閉じている

まるで、瞑想しているようにも見える



「何か、わかると良いですね」

「そうね」



無限の時間軸の中には、様々な綾波レイがいた

無論、レイだけではない

そこはすでに異なる世界だったと言っても良い

瞼の裏で、映画のように様々な風景がもの凄い速さで流れて行く

その中に一つに



「!」

「兄様!」

「あぁ・・・・・・やった・・・・・・・・・・・見つけたよ」



心の中で、カヲルはレイに呼びかけた





どうやら、レイはひどく驚いているらしい

そういう思念が伝わってくる

そして、ゆっくりと言い聞かせるように、カヲルは語りかけた

状況を把握してくれたようだ

互いの状況を確認する



コンタクトを切った





「ふぅ」

「兄様・・・・・・・」

「大丈夫、レイさんはちゃんと生きてるよ。どうやら、別世界でも戦っているらしい」

「・・・・・・まぁ」

「とにかく、二人にも教えて上げよう。さっきからずっと待ってるから」



シンジとリツコに、詳しい状況を報告した

レイは、まともに生きていること

現在の状況

そして、



「向こうの世界では、既に3ヶ月近くが経過しようとしているそうです」

「えぇっ!!!!?」

「しかも、レイさんは中学2年生」

「精神だけが入れ替わった、と見るべきかしら」

「でも、魔法は使えるそうです」

「・・・・・・・・・・リリスの力も、入れ替わったとみるべきなのかしらね」

「そう言えば、こっちの世界に来た綾波も魔法が使えるのかな?」



まるで、別人に代わってしまったことを何とも思っていないシンジ



「シンジ君。随分、何というか、君は、その、気楽だね」

「大丈夫ですよ。綾波なら心配いりません」

「その根拠は?」

「ただの勘ですよ。でも、綾波は絶対に、帰ってきてくれます。
助けがいるときは、僕らを呼んでくれるはずです」

「・・・・・・・・・・そうね」



シンジにも、アスカにも、レイにも、前期卒業生の一同は、同じ志を持っている

同期卒業生のためならば、例え火の中水の中くらいの覚悟は持ち合わせている

だから、レイを信じている



「綾波の決心をなめちゃいけませんよ。
一度決めたら、高圧電流くらいはものともしませんからね」










つづく





後書き

初のインターミッションです。今回は短いです
「君風」シンジ達が、本編世界に介入するための足掛かりですね
そろそろ、派手なアクションで攻めたいと思っています
もう3話くらい待ってください

では