<ネルフ学園:研究室>



珍しく、エヴァ初号機とのシンクロに用いられるヘッドセットが使われていた

ヘルメットに、HUD(ヘッド・アップ・ディスプレイ)を無理矢理付けた様な形

その後ろからは幾本ものケーブルが伸びて、端末に刺さっている

そして、そのヘッドセットを被っているのは




綾波レイだった





君がために風は吹く


インターミッション#2:今の僕らにできること






できること、やってみましょうよ



惣流アスカ・ラングレーの発案に従い、シンクロテストが行われていた

シンクロテスト中に「事故」があったのだ

リツコやミサトは強硬に反対を主張したが、結局、シンジ達の説得に押し切られる形になった

何としても、何かに、ほんの僅かでも可能性があるならばそれにすがって、意地張って、

足掻きたかった



「A10神経、接続完了。シンクロスタート」



リツコが、淡々としているが、緊張をはらんだ口調で報告する

レイの眼前のHUDが、初号機の視覚と接続された

彼女の知るエヴァとは随分感覚が違う

ちなみに、シンジと惣流隊の面子は、今は訓練中でここには居ない



「シンクロ率・・・・・・34.12%」

「それって、どれくらいなの?」

「こっちのレイよりは低いわね」

「・・・・・・・・ふーん、レイ!聞こえる?」



アスカが、マイク越しに呼びかけた

その言葉に反応して、微かに顔を上げるレイ



「どう?気分」

『・・・・・・・・・悪くはないけど、変な感じ』

「アタシにはわかんないけどね・・・・・・じゃ、動いてみなさいよ」

『了解』

「返事はもっと柔らかく!!」

『わ、わかったわ』



そう言って、レイは初号機を動かし始めた

動かす感じは、彼女の知るエヴァと大差ない

むしろ、いちいちプラグスーツに着替えたりLCLにぶち込まれたりしないぶん、快適といえる



「一般操機は可能ね」

「やっぱり、今レイが行ってる世界でエヴァのパイロットだったって言うの、ホントなのね」










<訓練場>



パン、パン



乾いた音が響く



「教官にレイさん、どうしてるでしょうか・・・・・・・」

「さぁ」

「さぁ、って、あんまりですよ。フュリィ」

「ん〜、でもさ。あたし達が心配してどうにかなることでもないし」

「ヒルデちゃんは面白ければなんでもおっけー!!きゃはははははははは!!!!!!」



射撃レンジでの会話

サトミ、フュリィ、ヒルデの三人である

クリスとチャーミーは、それぞれシンジと、レイの代わりのヒカリに訓練を受けている

しかし、こちらのガンナー2人とトラッパー1人には教師が居ない

加持やミサトは、それぞれ仕事がある

まして、地下迷宮復旧が目前なのだ。今はそっちに全力を尽くしている

結論として、この三人は無駄話がし放題という状況なのだ



「でも、ちょっと心配よね」

「そうでしょ?」

「別世界って、どんなところなのかなぁ・・・・・・・・」



パン、パン



乾いた音が響く

標的は、15mほど先の1円玉

無駄のない、完璧な狙撃を見せているのはサトミだった

ちなみに、こんな物は本当のところ、戦闘技術の訓練でも何でもない

単に、集中力を養う訓練と言っても良い

彼女の仕事は、精密射撃である

彼女にとっては、2000m先の人間の頭も、15m先の1円玉も大差ない

しかし、最終的に求められる物は、常に気付かれず接敵する能力である



パン、パン



乾いた音が響く










ぼこっ、ぼこぼこぼこっ!



鈍い音が響く



「それじゃ立て直しがきかないよ!もっと力を受け流して!!」

「・・・!!・・・・はいッ」



クリスの手にあるのは、細身の、堅いラバーブレード

それと、小さな円い楯

シンジの手にあるのは、刀サイズのラバーブレード

それらが打ち合わされるたび、鈍い音が響き渡る



「もっと、楯をうまく使うんだ!体を潜り込ませて!!」

「・・・・・・!!」



振り下ろされるラバーブレード

クリスは、その斬撃を楯で弾き返し、突き返しを狙う

真上から振り下ろされるラバーブレードを、体を沈めて真下から楯で受け止める

そのまま左手を跳ね上げ・・・・・・・・・



「うわ・・・・・・・やられちゃったよ・・・・・・・」



ちょっと、呆然としたシンジが呟く

赤いチョークの付いたブレードが、確かに彼の訓練用プロテクターにマークを付けている

見た目ではわからないが、内心はかなり嬉しいクリスは、黙って頭を下げた



「すごいね・・・・・クリスさん」

「・・・・・・・・いえ・・・・・・・・・・・まだまだです」



ぼそぼそ、とクリスは答える

実際、そうなのだから謙遜でも何でもない

「魔法」を併用して戦ったなら、絶対に勝ち目はないからだ










「チャーミー君はいるかね?」

「理事長先生?」



展開制御の訓練をしていたヒカリとチャーミーに、冬月が声を掛けた

手には、訓練用のコアが填った杖を持っている



「あぁ、たまには訓練に付き合おうと思ったのだが・・・・・・・邪魔かな?」

「いえ!!よろしくお願いします!!」

「しかし、よろしいのですか?仕事とかは・・・・・・」

「なぁに、構うことはない。たまには碇の奴にも働いてもらわねばならんからな」



冬月め、憶えていろ



学園長室にて、書類の山と格闘しながらゲンドウは心に誓った



「では、洞木君。少し変わってくれたまえ」

「あ、はい」



結界から出るヒカリ

ATフィールドを使う訓練を行うときは、必ず「結界」の中で行う

結界というのは、ATフィールド中和装置で、常に一定出力のフィールドを展開している

中和出力以上の展開をするときは、もっと、専用の結界を使うが、

チャーミーの場合は極小出力で展開するための訓練なのだ

ちなみに、彼女は既に3つの結界を消し飛ばした



「では、やってくれたまえ」

「は、はい」



少し、緊張した面持ちで、チャーミーは慎重にフィールドを展開する

ある程度の大きさになったところで、それを固定・維持



「・・・・・・・・・・・・なるほど」



確かに、出力は桁外れに大きい

しかし、何かが根本的に違う・・・・・・・・まるで、そう





禁呪を使うときの自分のように





「良くわかった。チャーミー君」

「あ、はい」

「ところで・・・・こんな事をいきなり聞くのは失礼だと思うのだが・・・・・・・」

「はい?」

「君の姓は、ロレインだったかね?」

「はい」

「では、母の名前は?」

「母、ですか?」



彼女の口から、ひどく、懐かしい名前が紡ぎ出された

それは、彼にとって・・・・・・・・・



「・・・・・・・・そうか」

「あの、理事長先生?」

「洞木君。もう、極小出力の展開はする必要がない」

「え?」

「これから、彼女の面倒は私が見よう」

「で、でも、理事長は・・・・・・・・・・」



重い口を開いた

きょとんとした顔のチャーミー

言葉もないヒカリ

もう一度、老人は言った



「彼女は、禁呪の正当な使い手だ」



驚愕の絶叫さえなかった

チャーミー本人に至っては、その言葉の意味さえ分かっていなかった



「せ、正当な、って・・・・・それじゃ、理事長は・・・・・・・?」

「私は、ただ預かっていただけだ」

「どなたからですか?」



首を傾げるチャーミー

冬月は、とても優しい顔で言った



「君の母から、な」










<迷宮昇降口>



「へー、綺麗になったわね」

「まぁ、な」

「ま、急拵えなんやけど、ええ出来とちゃいますか?」

「もっちろん!」



ミサトと加持と、トウジが居た

ちなみに、加持とトウジに与えられた任務は、ペンキ塗り

一応復旧して見せた地下迷宮と迷宮昇降口

折角なので、遊び心を出しても良いだろうと加持が提案

トウジを引き連れてペンキ塗りに励んでいた



「そういや、内部の復旧はどの程度まで進んだんだ?葛城」

「大方、終わってるわよ。まぁ、壁とか天井とかは崩落しそうなところを補強しただけだけどね。
羽化拠点も潰したし、アダムとか言うのも死んだはずなんだけど・・・・・・」

「何故か使徒が出てくる、と」

「ま、そうでないと困るんだけどね・・・・・・・・」



ミサトが近くにあったベンチに腰を下ろす



という顔をする二人



「ん?何?」

「ミサトセンセ・・・・・・・・」

「すまん、葛城」

「はぁ?何よ!?」

「そこ、ペンキ塗りたてなんだ・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・うそでしょ?」

「「マジで」」



尻を持ち上げようとした

ペンキが乾きかけていたからか、くっついて離れない

ちなみに、彼女が来ているのは数日前に下ろしたばかりの新品・・・・・・・・・



「ちょ、ま、まじで!!!?」

「「・・・・・・・・・・・・・・」」



彼女、葛城ミサトの思考展開

1:くっついているのを無理矢理ひっぺがす
2:リツコに剥離剤を頼む
3:椅子と同化する

無理矢理行くと、服が破れそうだ

剥離剤を使ったりすると、服が傷みそうだ

椅子と同化・・・・・・・論外



「加持君」

「な、何だ?」

「いつか、あなたを殺すわ」

「・・・・・・・・・・・・冗談だよな?」

「私を甘く見ないで!!!!」

「・・・・・・・・・・・・・・・すまん」



結局、ミサトは泣く泣くリツコに電話して剥離剤を頼んだ

結果、新品のワンピースは、おしりのとこだけてかてかになってしまいましたとさ



後日、加持の給料が何者かに奪われたらしい










<その日の夜:男子寮、シンジの部屋>



「はぁ・・・・・・・・・・・」



天井を見上げる

綾波が変わってから、数日が経った

それから、何かが大きく変わったわけではない

強いて言うなら、座学授業の当番が増えたとかそのくらいだ



「・・・・・・・シンジ、シンジ!」

「えっ?」



窓を開ける

向かいの女子寮の一室の窓に、アスカの顔があった



「・・・・・・・・・ねぇ、ちょっと良い?」

「ん、うん」

「・・・・・・・・・・・・・レイ、今頃どうしてるかな?」

「・・・・・・・・・わからないよ」



黙り込む二人

夜風が、二人の間をすり抜けて行く



「ね、ご飯食べた?」

「ん、これからだけど・・・・・・?」

「ちょっと、出掛けない?」

「何処へ?」

「上に。一緒にさ、御飯食べに行こうよ」

「え、でも、外出許可とか門限とか・・・・・・・」

「だーいじょうぶ。そんなの何とでもなるわよ!!」










<第三新東京市>



雑踏の中に、僕達は居た

もう夕暮れもとうに過ぎているというのに、行き交う人々はいっこうに減らない



「でも、何処に行くの?」

「えっへっへ、安心しなさい。さって、何処にしようかなー、と」



嬉しそうに雑誌をめくるアスカ

そう言えば、二人だけで外出したのは、今日が初めてだ

ちょっと、照れるかな・・・・・・・・



「?何変な顔してるのよ」

「いや・・・・・・アスカと出掛けるのって、初めてだなって思って」

「はぁ?何度か一緒に出掛けてるじゃない」

「いや、そうじゃなくて。二人で・・・・・・・二人だけでっていうのが・・・・・・・」



あはは

アスカも真っ赤になった



「ば、馬鹿っ!!とっとと行くわよ!!」



(・・・・・・・助けて・・・・・・・・)



「?アスカ・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・今、何か言った?」

「アスカまで、空耳まで聞こえた・・・・・・・ってわけじゃないよね?」

「違うわよ!・・・・・・・確かに、聞こえたわ・・・・・・シンジも、聞こえたのね?」



(・・・・・・・・・・誰か・・・・・・・・碇君・・・・アスカ・・・早く・・・・・・・)



「あ、綾波!!?綾波なのか!!?」

「レイ!?何?何処にいるの!!?」





(助けて!!!誰か、いやあああああぁぁぁぁっ!!!!!!!!!!!!)










星空が、目に入った

でも、それは星空なんかじゃなかった

薄れてゆく意識の中で、綾波の声と、行き交う人々の足音が



妙に大きく聞こえた



そして・・・・・・・・・僕は・・・・・・・・・・アスカは・・・・・・





つづく



後書き

お待たせしました
いよいよ、王子様の登場です

ここからいよいよ急展開!
といきたいところです

では