<研究室>



「レイ、準備は良い?」

「はい」

「今日は、起動実験の後、操機演習を行うわ」

「はい」

「まぁ、あの時みたいな操機ができるんだから、今更必要ないとも思うけど」

「報告書、ですね」

「御名答。じゃ、初めて」

「了解」



頭に、ヘアバンドのようなインターフェイス

顔の上半分を覆うゴーグルを掛ける

視界に踊る「READY?」の表示

視線でポイントし、シンクロを始める















そして、それは起こった





 風、薫る季節

 第1幕 合わせ鏡の世界





 

 

 

 

 





「・・・・・・・・・・・・・ここは、保健室?」



目を覚ましたレイは、白い天井を見上げて呟いた

でも、おかしい

ネルフ学園の保健室はこんなに広かっただろうか?

本部施設の病棟だって、こんなに広い部屋はなかったはずだ

横を見ると、頑丈そうなドアと、脇に取り付けられているコンソール

天井の隅には、小型のカメラ

監視用の病室に入れられるはずが無いけど・・・・・・・・・・

そんな事を考えながら、身を起こす

どうやら、緑色っぽい病院着を着ているようだ

手首や額に包帯が巻かれているが、痛みは感じない

困惑していると、ドアが開いた

入ってきたのは、白衣姿のリツコだった

レイの知っている顔よりも、何だか目つきが険しい



「レイ、気分はどう?」

「・・・・・・・・・・赤木先生、何が起こったのですか?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・先生?」

「はい」

「・・・・・・・・レイ、ここは何処かわかる?」

「・・・・・・保健室でも医務室でもないような気がしますが・・・・・・」

「ほ、保健室?」

「ここは、ネルフ学園以外の施設ですか?」

「ネ、ネルフ学園!!?」



頭痛を堪えているような表情で、リツコは自分の額に手を当てた



「・・・・・・・わ、私、熱はないわよね」

「赤木先生」



その背中に、レイは呼びかける

びくっ、となるリツコ



「説明をお願いします」

「・・・・・・・綾波レイ。あなたを緊急で検査をするわ」

「?」

「・・・・・・・・念の為聞くけど、記憶喪失なんて言わないわよね」

「記憶はあります」

「では、あなたは何者?」

「ネルフ学園卒業生、綾波レイ。
惣流隊教官補佐、及びエヴァンゲリオン初号機操縦適格者。
スペルコース専行。好きな食べ物は学食のニンニクラーメンチャーシュー抜き。
いつも残さずに食べています」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」



リツコは、何も言わずにぶっ倒れた










<総司令執務室・・・・・・・・と説明されたんだからそうなのよね、学園長室によく似てるけど>



「どういうことかね・・・・・・・?」



静かな口調で、ゲンドウが言った

やっぱり、学園長室そっくりで無駄に広い部屋だ

なんだか、ゲンドウも、横に控えている冬月も難しい顔をしている

レイにはその理由がさっぱりわからない



「レイ・・・・・・・・私が誰かわかるか?」

「はい、学園長」(即答)



沈黙が辺りを支配した

今度は、冬月が口を開く



「では、私は?」

「冬月理事長以外の何者でもないと思います?」(即答)

「「「・・・・・・・・・・・」」」



三人は、揃って沈黙している



「赤木先生。葛城先生はどうしているのでしょうか?
碇君やアスカは?鈴原君や相田君に洞木さんは?
霧島さんや谷口君、河本君はどうしているのですか?」

「・・・・・・・・赤木君。もういい」

「はい」

「???」



レイには、何のことかさっぱりわからない



「レイ、今日は家に帰りなさい」

「家?・・・・・・・ネルフの女子寮ではないのですか?」

「あなたにはあなたの家があるのよ。保安部に送らせるから」



わけがわからない

家って、ネルフの学寮以外で自分の家など存在しなかったはずだ










<マンション・・・・・・・自分の家だと説明されたけど・・・・・・・・これは、何?>



「何?これ」



まず、チャイムが壊れている

鍵が壊れている

新聞、広告、ダイレクトメールが溢れている

日付を見てみると、随分昔の物から最近の物まで様々だ

壁、床、天井はむき出しのコンクリートで、調度品は机とタンスとベッドとパイプ椅子のみ

ゴミ箱は、コンビニ弁当の容器で溢れ返っている

台所のシンクは完全に乾いている

全く使っていなかった証拠だ

隅の方に、箱から出してもいない紅茶用のポットがあった

風呂場も、小さなバスタブと、シャワーがあるだけ

シャンプーもリンスも石鹸も浴用ブラシもタオルも無し



「・・・・・・・・これが、本当に私の家?」



とりあえず、レイは片付けを始めた

こんな所で暮らすのは嫌だが、ここが家だというのなら仕方がない

まずは必要物の買い出しに近くのコンビニに出向いた

資金に関してはカード一枚でどうにかなるというのがせめてもの救いだった

日用品を一通り買いそろえ、一応新聞も買った

マンションに帰り、真新しいスリッパを履く

まず雑巾を持って家具の埃を拭き取り始めた

掃除機が欲しいところだが、生憎コンビニに掃除機は売っていない
・・
ベッドの毛布とマットレスは、人通りのない通路に放り出す

布団叩き代わりの箒で叩いてみると、むせるほど埃が出てきた

そのまま日向に持っていって干すことにする

ゴミ箱の中身はゴミ袋に開け、これも通路に放り出しておく

どうせ、文句を言う住人も居ないのだ

彼女は知らないことだが

タンスを調べると学校の制服しかなかった

デザインはネルフ学園の制服と同じだったが、ネルフ学園ではない何処かの制服なのだろう

それと、同じデザインの下着が幾つも

まぁ、特に下着のこだわりはないのでこれで良しとする

着替えに関しては、今は仕方がないので我慢我慢

台所に立ち、ガス水道が来ていることを確認

スポンジやらタワシやら洗剤やらを置いて、ひとまず風呂場へ

風呂場用洗剤と柄付きブラシを手に、湯垢に果敢に立ち向かう

しつこい奴だったが、持久戦の末何とか勝利を収めた

綺麗になったバスタブに湯を張り、後で入ろうと心に決める

汗まみれで埃まみれの体を今すぐ洗いたいところだったが、今はグッと我慢

毛布とマットレスを回収し、ベッドの上に乗せる

ぺちゃんこで埃っぽくて、ちょっとカビ臭かったマットレスは

今や、太陽とちょっと埃の匂いがするふかふかのマットレスに大変身を遂げていた

台所に行って、薬缶に水を入れる

弱火に掛けて、自分は風呂場に向かった

急に、鍵が壊れていることが不安になった

しかし、鍵の修理など簡単にはできない

諦めて、風呂場用品一式を片手に狭い脱衣所へ





最悪の事態というのは、いつも狙い澄ましたタイミングでやってくるものである



来客だ





当然、チャイムは鳴らない。壊れている

ドアは簡単に開く。鍵が壊れている

シャワーから出る水の勢いはそんなに強くないので、音が外に聞こえることもなかった

彼女自身、汗や埃で汚れていたので体を洗うことに夢中だった

何から何まで、悪い方に転んでしまった

体を拭いていると、下着の存在を忘れていたことに気づいた

仕方がないのでバスタオルを肩に掛けただけの姿で部屋に戻った





シンジが居た

紛れもなく、碇シンジが居た

ネルフ学園の物と同じデザインの制服を着た碇シンジが居た

口は半開き、目は見開かれて何度も瞬きをしている碇シンジが居た

まだ、彼だったというところは不幸中の幸いだったかも知れない

どこぞの変質者だったりしたら、命の心配をしなければならない

無論、相手の



「・・・・・・・・・・・・・・・ぁ」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」



しばらく、呆然と見つめ合う二人

何か言葉を紡ごうとしても、その悉くが吐き出されることを拒否した



「・・・・・・・・・・・・・・・・・・き」



随分、長い“溜め”だった

数瞬後、悲鳴

むしろ絶叫

とどめとばかりに・・・・・・・・・・・・・・・











<発令所>



「第三新東京市内に、微弱なATフィールドの発生を確認!!」

「な、何ですって!!?まさか、使徒!!?」

「いえ、パターン青は確認されていません!」

「発生源は!?」

「S−21番区画。ファーストチルドレンの住居です!!」



一瞬の空白

ゲンドウが叫んだ



「ご、誤報だ!!委員会と日本政府にはそう伝えろ!!

「し、しかし、司令!!」

「最優先だ!!」

「りょ、了解」










<マンション・・・・・・悔しいことにここが私の家>



不幸な来客、碇シンジはぶっ飛ばされた

レイが無意識の内に展開してしまった微弱なATフィールドによって

倒れた拍子にタンスで頭を打ってしまったのか、気を失っている

どういう倒れ方をしたのか、額を強打していた



「ど、どうすれば・・・・・・」



とりあえず、干したて太陽に香りつきマットレスに寝かせた

ちょっと、シンジの体を持ち上げるとき苦労した

タオルを絞り、たんこぶができている額に当てて冷やす

ちょっと、青痣になっているようだった



「・・・・・・ん、あれ・・・・・・」

「あ、気が付いた?」

「・・・・・・・・・えっと・・・・・・ここは」

「一応、私の家よ。碇君」

「・・・・・・・綾波っ!!!!?あ、その、さっきはごめん!!!
あ、で、でも、僕は、その目がそんなに良くないし口も固い方だし物忘れも激しくて、そのあの」

「悪いのは私。その・・・・・・・・碇君、吃驚した拍子に倒れて頭を・・・・・・」

「あ、痛たた・・・・・・・」



今頃気付いたのか、シンジはタオル越しに額を押さえた



「あ、動かないで。じっとしてて」

「・・・・・う、うん・・・・・・・」



タオルを冷やしに台所に向かうレイの姿を見ながら



(綾波って・・・・・・・・・お母さんみたいだな)



とか、シンジは考えている

そして・・・・・・・・・・・・・



(綾波ってこんなに優しかったんだ・・・・・・・・・・)



なんて、考えていた



「まだ、痛む?」

「・・・・・ん、そうでもないよ・・・・・・」

「そう、一応治療はするから」



そう言って、レイは消毒薬とガーゼとテープを持ってきた

消毒薬を染み込ませたガーゼで、患部をゆっくり拭く



「あ、っつつつ・・・・・・・」

「あ、ごめんなさい!・・・・・・・・痛かった?」

「・・・・・いや、消毒薬がしみただけだから」

「じゃあ、続けるわね」

「うん・・・・・・・・・・」



額にガーゼを張り付けている自分の顔は、なかなかに間抜けだった

シンジはベッドに腰掛けたまま、レイはパイプ椅子に腰掛けて今は紅茶を飲んでいる



「・・・・・・・・ねぇ、碇君」

「何?」

「・・・・・・・・・・・・私は、誰?」

「そんな・・・・・・・難しい、質問だね」



ちょっと、苦笑しながらシンジは言った



「僕には、わからないよ」

「・・・・・・・・・・私にも、わからないの」



小さく、紅茶を啜る音が部屋に響いた

顔を上げたレイが、二度目の質問をした



「じゃあ、私と碇君はどんな関係?」

「!!!!!」



危うく、紅茶を吹き出してしまうところだった

シンジはむせながら、涙目で綾波に訴えた

ひどいよ



「・・・・けほ・・・・・・どうして、そんなこと急に聞くの?」

「・・・・・・・え・・・・・・・ただ、知りたいから・・・・・・・」



赤くなるレイ

シンジは、ちょっと寂しそうに答えた



「・・・・・・・・・クラスメート、だよ」

「・・・・・・・それだけ?」

「だって、転校してきてから3週間目だけど。
ほとんど、喋ったこともなかったし、今日みたいに話したのは、初めてだし」

「転校・・・・・・・・私が?」

「僕が、だよ」



不思議そうな顔をするシンジ

もっと不思議そうな顔をするレイ



「ずっと、遠いところにいたんだ。でも、三週間前に父さんに呼ばれて・・・・・・・・」



俯きながら、シンジは話す

レイが知るシンジの表情とは、似ているようでもかけ離れていた



「たった一言、“来い”っていう手紙で呼び出されて、エヴァに乗せられて、
でも、僕が乗らなかったら、あの時は綾波が出るしかなかったんだよね」

「・・・・・・・・じゃあ、碇君は私の命の恩人なのね」

「命の恩人って・・・・・・・そんなに大したものじゃ無いと思うけど」

「なら、私達、友達よね?」

「・・・・・・・・・・・・・・友達?」

「うん、友達」



「ええ」、ではなく、「うん」と言った

微笑みながら

シンジの顔が真っ赤になった

その様子を見ておかしそうに笑った

シンジも笑った

二人で、一緒にくすくす笑った



「それで、碇君はどうしてここに?」

「あ、そうだ。カードの期限が切れてるから持って行ってって、リツコさんに頼まれて」

「カード?」

「本部に入るためのカードだよ。綾波は持ってなかったの?」

「・・・・・・・・・・・・・・」



沈黙の後、レイは思い切って言った



「・・・・・・・・・碇君」

「な、何?」

「私は、どうやらこの世界とは違うところから来たみたいなの」



レイの言葉の続きを遮り、シンジはあっけらかんとした口調で言ったのだ



「そんなの、関係ないよ。綾波のこと、僕はほとんど知らなかったし、気にする事じゃないよ」

「・・・・・・・・・・・・・そう・・・・・・かな?」

「綾波は、綾波だよ」










<第三新東京市立第一中学校・・・・・・・・私が通うことになってる学校。普通の学校>



学校に、登校する

幸い、制服は着慣れた制服と同じ物なので、違和感はない

昨日シンジに書いてもらった地図を見ながら、ちょっと辺りを見回しながら登校する

市内の様子は、ほとんど変わらない

見慣れた建物は幾つもあるし、ギガスクエアだってある

ここは、確かに第三新東京市だ

そして、学校に着いた

シンジと同じクラスで、2年C組



(また・・・・・・・2年生なのね)



2年も留年したような気分になりながら、教室のドアを開ける

開けると、少ないクラスメートの視線が集中した



「おはよう」



その言葉は、自然に口から紡がれた言葉だ

ただそれだけなのに、あたりがどよめいている

自分の席に着こうとして・・・・・・・・・席がわからないことに気が付いた

周囲を見回す

知った顔を発見



「おはよう。洞木さん」

「え!?」

「?」



ひどく、驚いているヒカリ

しかし、お下げにそばかす顔の彼女は、どこからどう見ても洞木ヒカリのはずだ



「あ、おはよう。綾波さん」

「私の席って、何処だったかしら?」

「あそこ、窓際の、一番後ろよ」

「ありがとう」



席に着く

しばらくすると、シンジとトウジとケンスケが教室にやってきた

何やら楽しそうに談笑している

ちょうど、隣を通った



「おはよう。碇君、鈴原君、相田君」

「おぅ、おはようさん」

「おーっす、おはよ」

「おはよう、綾波」



条件反射で挨拶を返し、そのまま通り過ぎる一行だったが、

シンジの言葉に、我に返る二人



「「あ、綾波!!!!!?」」



飛び上がるように驚いて振り返る二人

もう一度、レイは言った



「おはよう」

「「お、おはよう・・・・・・」」

「良い天気ね」

「せ、せやな・・・・・」

「・・・・・・・・?・・・・・・どうかしたの?」

「な、何が!!?」

「脈拍、発汗が急に多くなったわ」

「そ、そんなこと、わかるのか!?」

「・・・・・・・・・別に、基本、だから・・・・・・・・」



かっちかちに固まる二人

シンジはその後ろでクスクス笑っている

相当不思議そうな顔をしているレイ

チャイムが鳴って、HRが始まった





普通の先生

普通の授業

普通の中学生

皆、口には出さないが心の何処かでは憧れを抱いていたものだった

もっとも、先生は全く知らない先生だった

授業だって、レイにとっては簡単な物だった

ただ、周りの対応がよそよそしかったことが気になった










<昼休み・・・・・・・・・・心の休息、魂のオアシス・・・・・・・・お弁当?>



「碇君」

「何?」

「購買って、何処?」

「あ、今日はパンなんだ」

「・・・・・・・・私、普段はどんな物を食べてたの?」

「・・・・・えっと・・・・・・・ネルフ支給のビタミン剤とかカロリーメ○トみたいなのとか」

「・・・・・・・・・・・・そう」

「パンだったら、買ってきてあげるよ。何でも良いよね?」

「あ、うん。でも・・・・・・・」

「じゃ、ちょっと待ってて」



行ってしまった

一人で所在なげに立っているのも何だか空しい

自分の席で待つことにした



小さく、お腹が鳴った



「お待たせ、綾波」

「あ、ありがとう」

「もう、あんまり良い物なかったけど」



シンジが買ってきてくれたのは、卵ドーナツとクリームパン



「お金は?」

「あ、いいよ。そんなの」

「でも・・・・・・・・・」

「お〜い、シンジ!メシ喰わんのか!?」

「あ、ごめん。すぐ行くよ」



トウジの方に振り返り、シンジはそう声を掛けた



「・・・・・・・・ありがとう、碇君」

「ん、うん」



ちょっと濁った返事を返して、シンジはトウジとケンスケの所に戻った

何だか、からかわれているらしい

三人はちらちらとこっちに視線を送っている

会話の内容までは聞こえないが、シンジの真っ赤な顔を見れば容易に想像できる

レイは、袋を片手にシンジ達の所に向かった



「一緒に、良い?」

「「「・・・・・・・・・・・・・・」」」



突然のレイの登場に、呆然とする三人



「駄目・・・・・・かしら?」



ちょっと首を傾げて眉を寄せる

陥落










「それにしても、綾波って随分話せたんだな」

「せやな、いっつも全然喋らんかったからのぉ」

「・・・・・・・そうだったの」

「そうだったの、ちゅうても、自分のことやないかい」

「・・・・・・・・・・知らないの。私は違う私だから」

「「へ!?」」



レイは、話してみた

信じられなくても良いから、本当のことを



「私達は、みんな魔法使いだったわ」

「「「へ?」」」

「私も、碇君も、鈴原君も、相田君も、洞木さんも、まだここにはいない人もたくさんいたけど、
みんな、「魔法」が使えたの」

「・・・・・・魔法、ねぇ?」



半信半疑、という様子のケンスケ



「ね、綾波。その世界で、俺はどんな奴だった?」

「相田君は・・・・・・・・ガンナーコース専行だったわ」

「ガンナーコース!!?くぅ〜・・・・・そっちの世界に行ってみたいなぁ〜」



苦笑するレイ

得た物はたくさんあったが、手放した物だってあるのだ

そして、その手放した物を、みんなは持っているのに



「せや、ワシはどないやった?」

「鈴原君は、格闘家コース専行だったわ。とても強かった」



ベルセルクのことは言わなかった

何となく、彼の不幸を暗示しているような様な気がしたからだ



「じゃあ、僕は?」

「碇君は、軽戦士コースで、私とアスカと、三人でチームを組んでた」

「あすか?」

「・・・・・・・・ここには、いない人。
最初は、すごく頼りなかったけど、段々強くなって、最後の最後で、私を助けてくれた」

「そうなんだ・・・・・・・・・映画かゲームみたいだね?」

「この世界だとそう思うかも知れないけど、私のいた世界では現実だったのよ」

「せや、シンジかてエヴァに乗っとるやんか」

「そ、そりゃそうだけど・・・・・・・・・・・・・」

「でも、俺はもうエヴァに乗りたいなんて思わないよ」



意外なことを言うのはケンスケ



「カメラが壊れちゃったんだぜ。ネルフは弁償してくれないし」

「命があっただけでもめっけもんや」



そんな話をしている三人を尻目に、レイは考えていた



最後に記憶しているのは、初号機のテストの時だった

シンクロしていたら、急に意識が無くなって、目が覚めたらこの世界だった

元の世界に戻る方法の見当など、さっぱり無かったが、エヴァが存在するというのなら話は別だ

今度、是が非でもエヴァにシンクロさせてもらおう



「でも、エヴァに“乗る”って、そんなに大きかったかしら?」



レイの記憶の中にあるエヴァの大きさは、3mほどの身長だ



「何言ってるんだよ。この学校の校舎を三つ縦に重ねたって敵わないくらい大きいだろ?」

「・・・・・・・・・・・・・・・」



言葉もなかった










<ネルフ本部・・・・・・・・・・見知った施設は、ほとんど無い>



「シンクロテストをしてみたいって、レイが?」

「そうなのよ」

「良い事じゃない」

「・・・・・・・・・・・あのね、ミサト」



溜息と一緒に言葉を吐き出しながら、リツコ



「今のレイは、どこかおかしいわ」

「えぇ〜?でも、シンジ君の話聞いてると、ずっと優しくて人当たりも柔らかいって言ってたわよ」

「あのね・・・・・・・今までのレイから考えてみて」

「ん」

「どう考えても、急に性格が変わるなんておかしいでしょ?」

「ん〜・・・・・・まぁ、思春期の女の子なんてよくわからないわよ」

「・・・・・・・・・・・・はぁ」

「どれで、どうするの?シンクロテスト」

「やらないわけにはいかないでしょ。世界で3機しかないエヴァなのに、
その1機を無駄に遊ばせるわけにはいかないわ」










<エントリープラグ・・・・・・・・・プラグスーツって、恥ずかしい・・・・・・・>



「レイ、プラグスーツの着心地はどう?」

「葛城先生・・・・・・・恥ずかしいです。全身タイツみたいで落ち着きません」



苦笑するミサト

実験場の片隅では、リツコが暴れていた

まぁ、“服”としては人類の英知の結晶と言っても良い代物を、

よりにもよって「全身タイツみたい」と言ったのだ

暴れたくもなる

実際、プラグスーツは耐圧、耐火、抗腐食、ある程度の防弾、防刃仕様。それに生命維持装置

オプション装備を駆使すれば深海用スーツにも宇宙用スーツなど、局地用にもなる

最も、この人類の英知を結集して作られたスーツにも欠点はある

着用時に、着用者の体格に最適化されるからだ

つまり、“みてくれ”と言う点で凄まじく着る物を選ぶのである

もし、プラグスーツが量産されたりして、兵士のアンダーウェアに使われるようになったとしよう

男性だって、まだここにはいないが加持なんかが着ればまだ様になるだろう

しかし、デブな親父だって着る可能性があるわけだ

悲劇としか言いようがない



つまり、レイが何故恥ずかしがっているのかというと、

着用者の体格に最適化される。早い話が、体の線が出てしまうからだ

どんなに自信を持って良いプロポーションだったとしても、こればっかりは本人の性格によるものだ

まぁ、話を進めよう



「あぁ〜、っと。ま、大丈夫みたいね」

「はい・・・・・・・葛城先生」



先生、ねぇ

内心、?マークが飛び交っているミサト

まぁいい

先生と呼ばれようが一尉と呼ばれようが、別に変わるものでもない



「リツコ、準備は良いわよ」

「・・・・・・・・わかったわ」



気を取り直して、苦々しい表情のリツコがやって来た

マイクを取って、プラグ内のレイに言う



「とりあえず、座ってれば良いわ。今は全部こっちでやるから」

「はい」



了解、だったのにね〜

ミサトはそんなことを考えている



「じゃ、LCLを注水するわよ」

「注水?LCL?何ですか?それ」

「・・・・・・・・・まぁ、呼吸できる水みたいな物よ。ちょっと苦しいけど、我慢して」

「・・・・・・・え、まさか、あの赤木先せ・・・・・・」

「注水」



足下から、オレンジ色のLCLが出てくる

思わず、斜めに傾斜しているプラグの上の方に逃げてしまうレイ



「ちょ、ちょっと、レイ?シートに座ってて」

「あの、で、でも、これじゃ水責めじゃないですか!?」



前置き無しの方が良かったかしら?

リツコはそんなことを考えている



「我慢なさい」

「ん・・・・・ぐっ・・・・・・・んんっ・・・・・・・・」



口を押さえて、必死に我慢するレイ

我慢の方向性が違う

息を止めろと誰が言ったか



「ん・・・・・・ぐ、げほっ!!」



喉を押さえてLCL内でのたうち回るレイ

無理もない

初回なら正常な反応かも知れない



「落ち着きなさい!息ができるでしょう!?」



肩で息をしているレイ

どうやら、息ができることに気付いたらしい



「落ち着いたようね?」

「・・・・・・・・酷いです・・・・・・・」



涙が滲んでいるのだが、それもLCLに溶けてしまうので気付けない



「じゃ、シートに戻ってね」

「・・・・・・・・はい」



シンクロテストは進む

その結果は・・・・・・・・・・・・



「・・・・・・・・・・シ、シンクロ率、93.5%・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・ど、どういうこと?」

「しかし、これは安定した状況での数値です。もっと伸びるかも知れません」

「・・・・・・・操機演習もやってみれば?」

「そうね。第6実験場に移動して、ATフィールドの展開でも・・・・・・・・・」



その時、警報が鳴った

未確認飛行物体が第三新東京市に接近中





第五使徒:ラミエル襲来

時に西暦2015年、9月

異世界から来た綾波レイ

彼女はこの世界にとって福音をもたらす神の使いとなるか?

それとも、破壊の使者となりうるのか?

ありとあらゆる可能性を、その身に秘めた彼女は・・・・・・・・・・





「・・・・・・・・・・・お腹空いた」





空腹だった










つづく





後書き

調子に乗れば、更新が早くなるのはいつものことですね
そろそろマンネリ化が心配な今日この頃です

で、今回は異世界物に挑戦しました
「君風」シリーズのレイを、本編の世界のレイと入れ替えてみようかと
ちなみに、タイムテーブルで言うと、もうわかっていると思いますが、
ラミエル戦の前です

個人的には、アスカの話よりもレイの話の方が好きだったりします
LASとかLRSとか、そこまでは言いませんけどね
どっちのキャラクターも好きですから

次回は、ラミエル戦です
次回も(?)レイが活躍します

では