<発令所>



「シンジ君。準備は良い?」

『はい!』

「敵はそろそろ市内に入るわ。出会い頭、気を抜かないでね!」

『はい!』

「・・・・・・・・・葛城先生。私は・・・・・?」

「レイは現状のまま警戒待機。零号機の武装で実戦はまだ早いわ」

「・・・・・・・・はい」



沈んだ表情

主モニターに映るそれは、間違いなくラミエルだ

ただ、スケールが何百倍も違うけど

ラミエル相手に不用意に仕掛けることほど無謀なことはない

鉄壁の如きATフィールドに攻撃を阻まれ

体勢を戻す間もなく荷粒子砲が来る

言うべきだろうか?



「エヴァ初号機、発進!」

「えっ?」



遅かった



初号機が地上に出た直後だった



プラグとの通信は繋がったままだった



ありとあらゆるスピーカーから、シンジの絶叫が




 風、薫る季節

 第2幕 魔法の力、エヴァの力





 

 




<発令所>



「シンジ君。準備は良い?」

『はい!』

「敵はそろそろ市内に入るわ。出会い頭、気を抜かないでね!」

『はい!』

「・・・・・・・・・葛城先生。私は・・・・・?」

「レイは現状のまま警戒待機。零号機の武装で実戦はまだ早いわ」

「・・・・・・・・はい」



沈んだ表情

主モニターに映るそれは、間違いなくラミエルだ

ただ、スケールが何百倍も違うけど

ラミエル相手に不用意に仕掛けることほど無謀なことはない

鉄壁の如きATフィールドに攻撃を阻まれ

体勢を戻す間もなく荷粒子砲が来る

言うべきだろうか?



「エヴァ初号機、発進!」

「えっ?」



遅かった



初号機が地上に出た直後だった



プラグとの通信は繋がったままだった



ありとあらゆるスピーカーから、シンジの絶叫が





・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

君がために風は吹く

第2幕:魔法の力、エヴァの力

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・





「私が零号機で出ます!!!」

「初号機を戻して!!早く!!!」

「葛城先生!!」



レイの叫びに、ミサトは耳を貸さない



「リツコ、ここお願い!ケージに行くから!」

「わかったわ」

「赤木先生!私が、零号機で出ます!!」



リツコも、レイの言葉を無視した



「生命維持モードに切り替えて。パイロットの状況は?」

「脳波に異常!心音、微弱!い、いえ!停止しました!!」

「心臓マッサージ!!」

「はいっ!!・・・・・・・・駄目です、反応ありません!!」

「もう一度!!!」

「赤木先生!!聞いてください!!私が零号機で出ます!!私ならやれます!!」



白衣を掴んで、レイは必死に言った

そんなレイに、リツコは静かに答えた

いや、言い放った



「邪魔よ」

「パルス、確認しました!」

「LCL緊急排水。集中治療室の手配を急いで!」

「了解!」

「初号機は第3ケージに拘束しました」

「わかったわ」



俯いて、拳を握り締めているレイ



「・・・・・・・・・・どうして、ですか?」

「あなたが出撃したところで、勝算があるとは考えられないわ」

「だからって、黙っていられません!」

「黙ってなさい!!ファーストチルドレンは警戒待機と命令したはずよ!!」

「私はファーストチルドレンなんかじゃありません!綾波レイです!」



リツコの顔に、正真正銘の憎悪に近い感情が露わになった

掌は平手を作り、腕を振り上げ・・・・・・・・・・・・・・・・



振り下ろさなかった



「レイ・・・・・・では聞くわ。あなたには勝算があるの?」

「はい。ラミエルの荷粒子砲は、単純なエネルギーの放射に過ぎません。
ATフィールドで防御することが可能です」

「話にならないわ。初号機だって咄嗟にフィールドは展開していた。
それでも、相手の荷粒子砲の出力はそれを上回ったのよ」

「ただ、フィールドを展開するだけではそうかもしれません。
しかし、ATフィールドの使い方を変えれば防御は可能です」

「・・・・・・・そう、あなたにはそれができるの?」



レイは、返答に窮した

生身でも、コアのはまった杖があれば可能だ

そして、エヴァはATフィールドの展開ができる。つまり、コアがある

言うなれば、「動く発動体」として考えていた

しかし、確信があるわけではない

エヴァに乗って、魔法が使えるとは言い切れない



「・・・・・・・・・・・それは、わかりません」

「マヤ、レイをお願い」

「あ、先輩!?」

「赤木先生、まだ話は・・・・・・」

「確実でない信頼よりも、より確実に近い作戦の方が安心できるわ」



そう言い残して、リツコは発令所を後にした



「・・・・・・・・・・ッ!!」

「レイちゃん・・・・・・・酷いわよね、先輩も。あんな言い方はしなくても良いのに」

「・・・・・・・・・・・・・・・伊吹先生」

「な、何?」



先生、と呼ばれることには全然馴れていない

ミサトは完全に馴れている

リツコは既にどうでも良くなっている

他の面々は、まだ“先生”と呼ばれることに馴れていない



「赤木先生は、ずっと“ああ”なのですか?」

「・・・・・・・・・・そうね。仕事に厳しくて・・・・・・・
でも、先輩はやっぱりすごい人よ。天才、って、先輩みたいな人のことを言うんだと思うわ」

「・・・・・・・・・・でも、悲しい人です・・・・・・・・」










<集中治療室・・・・・・・・碇君が棺桶みたいな集中治療ポッドに入ってる>



規則正しい鼓動が刻まれている

この様子ならば助かるだろう、とレイは思った



「・・・・・・・・・・碇君」



この世界のシンジは、自分が知っているシンジではないのだ

魔法も使えない、脆い心と傷つきやすい精神を持つ“ただの14歳”だった

強くはない

むしろ、弱いと言った方が良い



「あなたに、助けられたから・・・・・・・・・私があなたを護ってあげる」



別人だけど

弱いけど

シンジはシンジだ



(綾波は、綾波だよ)



もし、この世界のレイと自分が入れ替わったとしたのなら、

きっとシンジはそう言っただろう

別世界の存在でも、シンジはシンジだ











<研究室>



「・・・・・・・・で、どうすんの?」



投げやりな口調で、ミサトはリツコに問うた



「データは揃ったわ」

「・・・・・・・・・・ますます、絶望的だって事が良くわかったわ」

「それは結構。白旗でも上げる?」



資料によると、目標:ラミエルは強固なATフィールドと荷粒子砲を武器にしている

近距離まで敵性目標が接近すれば、荷粒子砲で狙い撃ち

遠距離からの攻撃は、ATフィールドで完璧にガード

そして、攻撃地点に向かって荷粒子砲



「まさに、空中要塞ねぇ」

「それで、葛城作戦部長はどんな作戦を立案するの?」

「・・・・・・・・・・近距離戦は絶対に不可能。遠距離からの狙撃しかないじゃないの」

「でも、目標のATフィールドを貫くような大出力に、ライフルが耐えられないわ」

「ポジトロンライフル、準備できない?」

「無理ね。ただでさえ試作段階で、試射もろくにしてないのに」

「・・・・・・ん〜・・・・・・じゃ、借りるっきゃないわね」

「借りる?」

「戦略自衛隊研究所の、自走式陽電子砲。そのプロトタイプ。
2日前に完成したそうだから、ばっち問題無しよ」










<零号機エントリープラグ>



『レイ〜。準備良い?』

「いつでも良いです。葛城先生」

『そいつは結構』

「でも、戦自の研究所で、何をするんですか?」

『ん〜・・・・・・ま、今回の作戦に必要な物の徴収と、デモンストレーションみたいなものよ。
それと、あなたの準備運動』

「準備運動?」

『今回の作戦は、初号機と零号機の連携作戦だから、あなたにも出てもらうわ』

「・・・・・・・・・・了解っ!!」



予想に反して、レイは喜色満面だった



そして・・・・・・・・・・・・・・・










<戦略自衛隊研究所:格納庫>



「以上の理由により、この試作型自走式陽電子砲は、特務機関ネルフが接収します!」

「そ、そんな無茶な・・・・・・・・」

「ご心配なく!少なくとも形を残してお返ししますので・・・・・・・レイ!!」



打ち合わせ通り、レイは格納庫の屋根を持ち上げた

どよめく研究員



「精密機械だから、一応ゆっくりね」

『了解』



屋根を完全に外し、ゆっくりと件の自走式陽電子砲に手を伸ばす



「おい、これがエヴァって奴か?」

「すごいじゃないか」



へへん



「でもよ、紫色の奴は何だか弱かったらしいぜ。何でも、暴走したとか」

「うっひゃー、そんなのが人類の未来を握ってるのか?



・・・・・・・ぴく・・・・・・・



「しかも、パイロットはみんな14歳の子供なんだってよ」

「マジか?」

「大マジだ。それも、総司令の趣味なんじゃないかとか、色々言われてるぜ」



むか



どごんっ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!



零号機が、前屈みに体勢を崩した恰好で格納庫の床に手を突いている

当然、格納庫の床は砕け散った



「レ、レイ?どうしたの!?」



外部スピーカーから、レイの声



『すみません、手元が狂いました。何分、初操縦なので』

「き、気を付けてね」

『はい』



それでも続く研究員達のこそこそ話(筒抜け)



「おい、もしかして。今のわざとだったんじゃないのか?」

「ま、まさか、聞こえてるわけないだろ」



聞こえてるのよ



「ほんとに、こんな奴に人類の存亡を任せて良いのか?」

「時田重工のJAとかいうのの試作機が完成したって言うし、そろそろ用無しかもな」



むっか〜・・・・・・・・・・・



ずぎゃんっ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!



「・・・・・・・レ、レイ!!!?」



かなり本気の目をしたレイは、一度持ち上げ掛けた陽電子砲を落しそうになった

ふりをした

慌てるふりをして、格納庫の壁に蹴りを一発叩き込んでおく

耐爆装甲の壁が、見るも無惨にへしゃげてが吹っ飛んだ

外部スピーカーから声



『足下が狂いました』

「わ、わかったわ!!わかったからとにかく帰るわよ!!」

『了解』



呆然と見送る研究員達

外れたままの天井

大穴が開いた壁

既に格納庫としての機能を失った格納庫



合掌





「うへぇ〜、アレがエヴァンゲリオンかぁ」

「でも、機密中の機密をこんな風に扱うなんて、ネルフも結構杜撰なのね」

「わからないよ。ああすることで暗に脅迫しようとしてるかもしれないじゃないか」

「ふ〜ん。一理あるか」

「ねぇ・・・・・・・・・エヴァンゲリオンのパイロットって、どんな人なのかな?」

「僕達と同じ、14歳の子供って言うけど・・・・・・・?」

「どうかしたのか?」

「もしかしたら、友達になれないかな?って、思っただけ」

「・・・・・・・・・・・友達、か」

「そうだね。戦自とネルフが協力するようになれば、僕達も友達になれるかも知れないね」

「なぁ、それって、絶対無理って言ってるのと変わらない気がするのは俺だけか?」

「う〜ん・・・・・・・・確かに上層部はネルフを嫌ってるからね」

「あ〜ぁ、残念だな〜」

「仕方ないよ・・・・・・・・あ、そろそろ時間だ」

「げっ!急がないとやばいぞ!!!」

「行きましょ、ムサシ、ケイタ」










<発令所>



「今回の作戦は、戦自の自走式陽電子砲を改造したポジトロンライフルによる超長距離射撃。
技術開発部はこれより改造作業に、作戦部は狙撃地点の選考。
その他の部署は全力で電力確保。敵は時間よ」

「・・・・・・・・呆れた。無茶な作戦を考えるものね」

「仕方ないでしょ・・・・・・・・・この作戦が一番成功率が高かったんだから」

「神様がサイコロを振るというなら・・・・・・ね」

「ま、サイコロだろうが白旗だろうが幾らでも振ってて。勝つのは私達よ」

「はいはい」

「では、これより本作戦を『ヤシマ作戦』と呼称します!!
各員、己の作業に全力を尽くすこと!以上、解散!!」



わらわらと散っていく名も無き一般職員

ミサトは、ふと気付いた



「そう言えば、レイはどしたの?さっき、居なかったみたいだけど。
シンジ君のお見舞いにでも行ってるの?」

「レイなら、第6実験場よ。シンクロテストと、ATフィールドの展開演習中」

「へー・・・・・・・レイらしいって言えばレイらしいけど・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・・でも、ねぇ・・・・・・・・」

「どしたの?」

「いえ、何でもないわ」










<第6実験場:零号機エントリープラグ>



「・・・・・・・・・・通常展開はできる。でも、どうして魔法が使えないの?」

『レイちゃん、どうしたの?』

「・・・・・・いえ、何でもありません」

『そう・・・・・・・シンクロ率は上々よ。これなら、大丈夫ね』

「これでは駄目です。駄目なんです」

『えっ?どういうこと!?』

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・これでは・・・・・・・・駄目なんです」



魔法が使えない

思い切りが足りないわけではない

確かに、エヴァのコアから魔法を作るには不安があった

本部施設を吹っ飛ばすわけにはいかないし、加減は必要だと思っていた

しかし、全く駄目だった

イメージはできる

魔法が作れそうな反応は返ってくる

それなのに

それなのに、だ



「作れない・・・・・・・・・どうして?」



彼女の苦悩を余所に、時間は進む

ヤシマ作戦、発動の時が迫りつつある










<双子山山頂仮設基地>



「では、本作戦における各ポジションを発表します」



固い口調のミサト



「シンジ君」

「は、はいっ」

「初号機でディフェンスを担当」

「はい」

「レイは、零号機でオフェンスを担当」

「・・・・・・はい」

「今回の作戦は、超長距離からの精密射撃。だから、より精度の高い操機が求められるわ」

「・・・・・・・・・・・・そんなの、何とかなるんですか?」

「大丈夫。難しい話ははしょるけど、大体は機械が勝手にやってくれるらしいわ」

「はい」

「そろそろ時間だから、二人とも着替えて」










<更衣室・・・・・・・・・何で、カーテンで仕切ってあるだけなの・・・・・・>



「綾波」

「・・・・・・・何?」

「向こうの世界で、僕はどんな風だったんだっけ?」

「最初は、すごく頼りなかったわ」



がくっ



「でも、段々強くなって、いつも護られてばかりだった」

「・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・私はいつもあなたの背中に甘えていたのかも知れない」

「・・・・・・綾波」

「だから、碇君。あなたは死なないわ」



ぷしっ!



プラグスーツのスイッチを入れた

やっぱり、恥ずかしい

でも、そんなことは言ってられない



「今度は、私があなたを護ってあげる」



日本中の光が、消えつつあった

零時零分零秒

ヤシマ作戦、発動










<零号機エントリープラグ>



『レイ、日本中のエネルギーをあなたに預けるわ。頑張ってね!』

「はいっ!」

『第一次接続、開始!』



レイは、ライトアップされている標的を、ラミエルを睨む

ラミエル戦のセオリーは、荷粒子砲を一人が引きつけ、その間に叩く

若しくは、荷粒子砲を突破して、一気に叩く

超長距離射撃という手段は、あまり有効と教わらなかった

地下迷宮には十分なスペースはなかったし

それに、ラミエルの荷粒子砲の射程距離は凄まじいからだ



不安はあった

失敗は出来ない

だったら、答えは一つ



「やるしか、ない」



静かに、気合いを入れる



『最終安全装置、解除!』

『撃鉄、起こせ!』



ポジトロンライフルのチャンバーにヒューズを装填

ヘッドレストの上から、HUDが下りてくる

網膜に踊る標的、レティクル



『全エネルギー、ポジトロンライフルへ!』

『5、4、『目標内部に高エネルギー反応!!!』1!』

『撃てっ!!!』



HUDの中で、目標とレティクルが重なる

迷わず、撃った

僅かなタイムラグもなく、撃たれた

荷粒子砲と陽電子の槍が、互いの軌道を狂わせた

それぞれ、第三新東京市のはずれと、双子山の遙か後方の山麓に着弾



爆発



仮設基地の一部が爆風で吹っ飛んだ

ジオフロントの装甲の6割が消し飛んだ

ノイズだらけの通信から、僅かに聞き取れるミサトの声



『第二射!!急いで!!』

「くっ!!」



ヒューズを再装填

陽電子が充電されるまで、ただ、じっと待つ










<双子山仮設基地>



「くっ!!みんな大丈夫!?」

「は、はい!!」

「ポジトロンライフルの第二射を急がせて!!」

「あ、葛城一尉!!大変です!!」

「何!?」

「目標の砲撃により、冷却器、加速器の一部が機能停止!!」



マヤの報告は、絶望的なものだった



「このままでは、ポジトロンライフルを撃つことは出来ません!!!」

「修理を、急いで!!!」

「も、目標に高エネルギー反応!!」

「嘘っ!!」

「レイ、シンジ君!避けて!!」



ノイズまみれの通信が、エントリープラグに届くことはなかった










<零号機エントリープラグ>



「・・・・・!?どうして!?」



カウントが進まない

ポジトロンライフルが、撃てない?



「くっ!葛城先生!赤木先生!!状況はどうなっているのですか!!?」



聞こえてくるのはノイズばかり

返答はない



「はやく、何とかして・・・・・・早くっ!!!」

「綾波っ!!」



そして、レイは見た

ラミエルが、荷粒子砲を放とうとする瞬間を

SSTOのシールドを抱えた初号機が目の前に飛び出してくる瞬間を



「碇君っ!!!!」



光の奔流










<初号機エントリープラグ>



「ぐ・・・・・・・・く・・・・・くっ!!」



圧倒的なエネルギーが、シールドと初号機を押し流そうとする

シンジは、歯を食いしばって必死に抗っていた



「・・・・・・・綾波・・・・・はやく、第二射を・・・・・・」

『碇君、逃げて!!ポジトロンライフルがもう使えない!!』

「・・・・・・・・・・・そんな・・・・・・・・綾波が、先に逃げて・・・・・・・・」

『碇君!!』

「僕が・・・・・・楯がもってる間に、早く・・・・・・・・綾波ッ!!!」










<零号機エントリープラグ>



何かが切れた

シンジの言葉で、覚悟が決まってしまった

もう、どんな影響が出ようか知ったことか



誓ったから

あなたを護ると誓ったから

だから私は・・・・・・・・・・・



「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・許さない」



ポジトロンライフルを投げ捨て、伏せていた零号機を立ち上がらせる

目を閉じて、コアに呼びかける



「・・・・・・・・・ATフィールド全開・・・・・・・・・っ!
マジックプログラム:ファンクション!!フィールドレベル:17!!!!
リフレクション・シールド:ドライブ!!」










<双子山仮設基地>



眼前の光景を目の当たりにした人間は、皆目を疑った



「な、何なの!?アレ!!?」

「・・・・・・・わ、私も知らないわよ!!」



零号機が腕を振ると、ATフィールドとは思えない光の楯が初号機の前に広がり、

それが何と、ラミエルの荷粒子砲を弾き返したのだ



「う、嘘よ」

「アレがエヴァの本当の力だって言うの!!?リツコ!!!」

「そんな・・・・・・嘘よ・・・・・・・あんなの・・・・・・・・」



零号機の胸部装甲板が弾け飛んだ

胸のコアが露わになる

強烈な力を宿した真紅のコアが光を放つ










<零号機エントリープラグ>



「汝には聞こうるか。数多の命の囁きが・・・・・・・
汝には聞こうるか。森羅万象の呟きが・・・・・・・
大地より産まれ出し者よ、大地の理へと還るべし!!
聞け!精霊達の歌声を!」



黄金色の光が溢れ出した

あたりは夜で、光が一切無かった世界だというのに

まるでここだけは昼間のように明るい



『・・・・・・綾・・・波・・・・・・』

「・・・・・・・エレメンタル・ソング!!!!」



光が収束され、無数の光弾となってラミエルに襲いかかった

ATフィールドを紙屑のように突き破り、穿ち抜く

構成素体の7割方を失ったラミエルは、第三新東京市に落ちた










<双子山仮設基地>



「・・・・・・・・・・」

「・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・も、目標、完全に沈黙」



誰も、何も言わない

初号機が暴走したとき以上の戦慄が、職員達を包んでいた

ミサトも、リツコも、一言も喋らない

喋ることができない



「・・・・・・・・エヴァ両機より、回収を求めています」

「回収班の手配を、すぐに」

「それと、本部に戻り次第パイロットの精密検査をするわ。手配よろしく」

「了解」



凍った時間が動き出した



「・・・・・・・・リツコ。エヴァって、あんな事もできるの?」

「わからないわ」

「わからないって、あんたが造ったんでしょ!!?」

「・・・・・・・・・・・・・そうね・・・・・・・そうなのにね・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・リツコ」










<総司令執務室>



「・・・・・・・・・・碇、これは明らかにイレギュラーな事態ではないのか?」

「あぁ、修正を急がねばならん」

「・・・・・・・・・・・・・・3人目に、移し替えるのか」

「錆び付いた歯車を取り替えなければ、時計の針は進まない」

「シンジ君はどうするのだ?」

「知ったことか。赤木博士に連絡しろ」

「わかった」



珍しく、総司令は苦虫を噛み潰したような表情をしていた

彼女にあった、かつての面影が消えていたからだ

碇ユイのクローンではない、綾波レイという少女だったからだ



「・・・・・・・・・・・・・・不要な存在はいらん・・・・・・・・・」










<研究室・・・・・・・・・・・・思った通り、呼び出された>



「レイ、説明して貰うわ。あれは何だったの?」

「『魔法』です」

「・・・・・・・・・・・・巫山戯てるの?」

「真実を話しています」



苛立ちを露わにするリツコ

ミサトは腕を組んで、壁に背を預けたまま動かない

レイを含めた3人以外は、ここにはいない

ミサトが口を開いた



「詳しく聞かせて」

「はい。『魔法』というのは、簡単に言うとATフィールドを変化させた姿です」

「それが、あの光の楯だったりするの?」

「アレは、単純にATフィールドを『楯』に変化させただけのものです」

「わからないわ。普通にフィールドを展開することとどう違うの?」

「はい。普通に展開するよりも、形を変化させた方が、特化した性質を持つからです」

「つまり、『楯』にすれば強力な壁ができるんでしょう?それがどう違うのよ」

「ATフィールドは楯にもなり、刃にもなります。
通常展開ならばそれを同時に使い分けることが可能ですが、出力が低いのです。
『魔法』により、ATフィールドの形を変化させれば、出力を増強することができます」

「・・・・・・・・それで、あなたはどんな『魔法』が使えるの?」

「・・・・・・・攻撃系スペルは、氷結系が得意です。
他にも、防御系、強化系は一通りできます」

「攻撃、防御はわかるわ。強化系って?」



ミサトが口を挟む



「他者の肉体や展開能力を強化する系統です」

「零号機に乗っていれば、初号機に使うこともできる?」

「可能です。それに、発動体さえあれば生身のままでも魔法を使うことができます」

「発動体?」

「使徒のコアです。コアからATフィールドを引き出して、魔法を作るので」

「・・・・・・・・わかった、もういいわ。検査を受けて帰りなさい」



溜息を共にそのセリフを吐き出して、リツコはレイを追い出した










<マンション・・・・・・・ちょっと住み心地が良くなった自宅>



ばたっ、とベッドに倒れ込む

本当に、何をしているんだろう

元の世界に戻る方法を考えようにも、一人では何も思いつかない

赤木先生に協力を頼むのがベストなんだけど、こっちの赤木先生は怖くて頼みにくい

『魔法』に関しても、疑っているみたいだし・・・・・・・・・・・・・



「みんな、心配してるかな・・・・・・・・・?」



こっちの世界で普通に話しかけることができる存在は、シンジくらいだ

トウジやケンスケとは打ち解けつつあるが、まだちょっと抵抗があるらしい

アスカがこっちの世界にはいないことも気に掛かる

ここに居ないだけなら良いが、この世界に存在していなかったらどうしよう



「・・・・・・・・・・・・どうすれな、帰れるんだろう・・・・・・・・・・」



見慣れない天井を見上げる

制服を脱ぐのを忘れていた

いつまで経っても、紅い瞳は閉じられなかった














涙が、流れ落ちた





つづく





番外編:『君がために風は吹く』(略して『風吹』)シリーズとする事にしました
レイを主役とした異世界物です
何処まで書くかはわかりませんが、もしかしたらサードインパクトまで行くかも知れません(爆)
今までの「君風」シリーズ以上になったりして・・・・・・・・・・

では、次回をお楽しみに!