「碇、これはどういうことだ?」

「明らかに、シナリオを逸脱しているぞ」

「人類補完計画の要たるファーストチルドレン・・・・・・納得いく説明をしてもらおうか」



人類補完委員会、ゼーレの面々

相対するは碇ゲンドウ



「原因は、現在調査中です。修正可能な範囲での出来事にすぎません」

「・・・・・・まぁ、良いだろう」



闇に浮かび上がる議長

キール・ローレンツ



「後戻りはできん。それだけは肝に銘じておけよ。碇」

「承知しております・・・・・・・・ご安心を」







 風、薫る季節

 第3幕 闇に蠢く者共









<市立第三新東京市第一中学校・・・・・・・・・・・・長い>



「おはよう。綾波」

「「おーっす」」

「おはよう」



レイの周りも、最近は賑やかになりつつあった

シンジを始め、トウジ、ケンスケ、ヒカリ、その他諸々の面子

以前は話しかけられることがほとんど無かったし、

こちらから話しかけても相手が逃げてしまったり・・・・・・・・・

今では、そうおしゃべり、と言うほどではないが、普通に話をしている



「そういや、知ってるか?」

「何を?」

「何でも、第2東京で人型ロボットを動かすらしいぜ」

「人型ロボット?何や、エヴァとは違うんかいな?」



その話は、レイも知っていた



「時田重工のジェット・アローン、通称:JA。
確か、明日が試験運転セレモニーだったはずよ」

「お、流石綾波。詳しいね」

「ネルフにも、招待状が来ていたから。
それに、私もそのセレモニーに行かなければならないから」

「え?そうなの?綾波」

「うん」(こくこく)

「誰と?」

「赤木先生と」

「でも、何で綾波が行かなきゃいけないんだろうね?」

「きっと、ネルフは嫌われてるから。
エヴァの運用を快く思わない人が大勢居るのよ。
だから、もしかしたらJAのテストにエヴァを持ち出すことになるかも知れないから。
って、赤木先生に説明されたわ」

「・・・・・・・・大変だね」

「大丈夫。魔法は使わないから」



後ろでは、ケンスケがるるる〜と滝涙を流していた










<発令所>



「ミサト、例のJAの資料。届いてるわよ」

「ふ〜ん、どれどれ・・・・・・・・・・・・・・・・」



パンフレットに大写しになっているのは

エヴァのフォルムとは似てもにつかない不完全な人型のロボット



「何?これ。こんなのでエヴァに張り合うつもりなの?」

「・・・・・・・・・冗談なら良いんだけど。向こうは本気みたいだから」

「それで、レイを連れていくって言うの?」

「そうよ。碇司令の指示でもあるから・・・・・・・・」

「わかったわ。じゃ、シンクロテストは繰り上げね」

「すまないわね」

「ま、私が行かなくても良いならそれで良いんだけどね〜。
ああいう、式って何か苦手だし」

「ミサト・・・・・・・・・・・・・・あなたって」

「ん、何?」

「もういいわ」

「変なリツコ」



変なのはあなたの頭の方よ!



リツコは心の中でそう言った










<翌日、第二東京:JA完成記念式典会場・・・・・・・・・・・JAって、かっこわるい>



壇上に立つのは、随分額が広い中年だった

何となく、生理的嫌悪感を抱いてしまう



「本日は、JA完成記念式典にお越し頂き、ありがとございます」

「赤木先生・・・・・・・」

「どうしたの?」

「ネルフは随分嫌われているのですね」



ネルフの礼服を身に纏ったレイが、小さく耳打ちした



「まぁね」



慣れたものだ

リツコくらいになると、この程度は予想の範囲内らしい



「・・・・・・・葛城先生が来たがらなかった理由。わかるような気がします」

「まぁね」



実は徹夜明けで眠たいリツコ。舟漕いでる

うんざりした面持ちのレイ

壇上では時田とか言うおっさんが、雄弁を振るっている

間抜けなことに



「それでは、皆様質問等はございませんか?」



ここでリツコがびしっと挙手

・・・・・・・は、しなかった

眠たくてそれどころではないらしい

それを見た壇上の時田は、愉悦とも悔恨ともつかない複雑な表情を浮かべた

仕方なく、レイが挙手



「おやおや、お嬢さん。何か質問ですか?」



どっ、と笑い声

むかっ、と来た



「あのロボットで、使徒に勝てますか?」

「勝てますとも」

「じゃあ、エヴァにも勝てますか?」

「当然。5分しか動けない兵器なんて、話になりません」

「あ、そうですか。なら良いです」

「はい?」

「もう良いですよ。良くわかりました。使徒よりもエヴァよりも強いんですね。
じゃあこの先の、全人類の命運を賭けた戦いはお任せします。
もう、ネルフは出る幕無しでしょうから、後は頑張ってください」

「あ、いや、君?」

「聞きたいことはそれだけですから」



問答無用で会話を打ち切るレイ

ざわつく場内

顔を真っ赤にした時田は、テスト運用を行うと宣言し、姿を消した










<ロッカールーム>



「・・・・・・・・・レイ」

「はい」

「あなた、一体何を言ったの?」

「何の話ですか?」

「ここまで来る間に、随分刺々しい視線が集中していたみたいだけど?」

「・・・・・・・・・・・・せいぜい、頑張ってください。って言っただけです」

「それは結構。ホントに予算の無駄としか思えないわよ。あのロボット」

「?」

「動力源は核エネルギー。原子炉を内蔵してるらしいわ。
5分しか動かないエヴァを馬鹿にしてたけど、使徒相手なら5秒で撃沈ね」

「どうします?テスト運用、見ていきますか?得る物は何もなさそうですけど」

「ま、見ていきましょう」



腰を上げるリツコ

どちらにしろ、見ていかないわけにはいかないのだ

このテストには、別の目的があるからだ










<管制塔>



「システム、起動」

「反応炉。正常値」

「全信号、正常帰着。起動準備完了です」

「JA、起動」



制御棒が、背中から伸びて行く

全体のデザインとしては、上半身ばかりが酷く大きなそれは、ゆっくりと動き始める準備を始めた



「これより、操機演習に移ります」



見てろよ。ネルフの連中め



愚かしくも、内心ではそんなことを考えていた

この先の、仕組まれている事態を知らなかったから










JA、暴走

このままでは、旧東京及び第2東京は核汚染による深刻な被害を被るものを思われる










「無様ね」



この事態に直面してなお、赤木リツコ博士には余裕があった

管制塔に乗り込んで、慌てふためくオペレーターに指示を出す



「停止信号は!?」

「駄目です。受信されません」

「システムダウン!!」

「だ、駄目です!!機体側が全ての信号を拒否しています!」

「強制停止の方法は!?」

「・・・・・・・機体内にある緊急停止装置を作動させることしか・・・・・・・」

「それがわかれば上等よ。止めてみせるわ」

「しかし、緊急停止装置のパスワードは最高機密に属するので、時田主任しか・・・・・・・・」



隅の方で呆然としている禿、もとい時田シロウを確認、捕捉



「緊急停止装置のパスワードを教えなさい」

「馬鹿な!JAを止めるつもりか!!?」

「馬鹿なのはあなたの方よ!!このまま何もせずに逃げ出すならそうすればいいわ!!」

「しかし・・・・・・・・」

「赤木リツコの名前で特務機関ネルフに連絡!
ウイングキャリアと初号機及びパイロットを緊急要請!!
それと、レイ・・・・・・・・・・・これ、使える?」



リツコが差し出したのは、間違いなくコアでできた腕輪だった



「!!?これって!!?」

「第4使徒のコアで作ったわ。死にかけていたから使えるかどうかは不安だけど・・・・・・・」

「いえ、大丈夫です。これなら行けます」

「そう・・・・・・・・こんな事をやらせるのは間違いなんだけど・・・・・・・
レイ、あなたの力で、JAを“止めて”」

「それは・・・・・・・破壊以外の手段で、ということですね?」

「当然よ」

「わかりました・・・・・・・しかし、耐熱防護服か何かがなければ・・・・・・・」

「プラグスーツがあれば問題ないけど・・・・・・・・・」



ガシャン!!!



そんな音が聞こえたので振り返ると、コンソールにハンマーを叩きつけているオペレーターの姿



「これで、背中にある作業用ハッチを開けることができます」

「耐熱、耐汚染作業服があります。一番小さいサイズをすぐに持ってこさせます。
JAを、止めてください!」

「・・・・・・・・わかりました」



呆然と、その光景を見ている時田シロウ



「・・・・・・・・・残るは、緊急停止装置のパスワード・・・・・・教えていただけませんか?」

「・・・・・・・・・・・・・・希望・・・・・・・・・だ」

「ありがとうございます」



外を見ると、滑走路にウイングキャリアが着地していた



「準備はできたわね。レイ、行くわよ」

「はいっ!」










<ウイングキャリア内・・・・・・・・・・防護服って、暑い>



「綾波が、直接止めに行くんですか!!?」

「そうよ。零号機で止めた場合。どんな事態に発展するか見当がつかないから」



零号機の魔法なら、爆発したとしても被害は小さいかも知れない

しかし、零号機が無事で済むという保証はないし、食い止められると言う保証もない



「シンジ君」

「はい」

「初号機で、JAを押さえ込んで」

「はい!」

「レイは初号機が押さえてくれている間に緊急停止装置を作動させるのよ」

「はいっ」

「内部がどんな状況かはわからないから、自分の身を守ること」

「魔法を使って・・・・・・ですね」

「そうよ」



コクピットから、マコトの声



「目標、確認しました」

「シンジ君、搭乗して。レイは初号機の掌に体を固定!活動限界までに食い止めるのよ!!」

「「了解ッ!!!」」










<初号機エントリープラグ>



『目標地点に到達』

「綾波、大丈夫?」

『大丈夫よ』

「降下準備、完了!」

『エヴァ初号機、降下!』



ヴェイパー・トレイルをたなびかせて、初号機が空から下りてくる

掌の中にはレイ

ATフィールドで体を固定している



「行くよっ!!」



シンジは、初号機を走らせ始めた

できる限り、腕を動かさないように



「くっ・・・・・・・・もうちょっと・・・・・・・・」

『頑張って!』

「ッ!!掴んだ!!!」

『後部ハッチまで手を伸ばして!!』

「ぐ、くっ!!?」



何とか、JAの動きを止めたが、暴走しているその力は凄まじい

片腕一本では引きずられてしまう

大地に足首までめりこむ



『構わないから、やって!!』

「わかったよ!」



そっと、押しつけるように手を伸ばす

指から指へと這っていき、何とかハッチに辿り着くレイ



「綾波」

『何?』

「・・・・・その・・・・・・えと・・・・・・・気を付けて」

『碇君も、無茶はしないで』

「うん」



レイは、ハッチをくぐっていった










<JA内部>



「すごい熱・・・・・・・時間がないわね」



ハッチを開けた途端、凄まじい熱気が溢れ出していた

防護服を着ていたって、これでは長くは持たないだろう



「マジックプログラム:ファンクション。フィールドレベル:10。
レジスト・ヒート:ドライブ」



魔法で、熱を遮断するシールドを張る

これなら、しばらくは平気だろう

なんせ、迂闊に壁に触れば防護服が焦げるくらい熱いのだ

防護服はほとんど意味がない



「・・・・・・・・・ここね」



突き当たりにある制御室

熱で天に召されたドアロック機構をぶっ飛ばす

制御室の中もまた、オーブンの中の方がまだマシと言いたくなるような熱気だった

ここの端末は耐熱処理がしてあるらしく、奇跡的に無事だった

防護服越しに、キーボードを叩く

打ちにくいことこの上ないが、時間もないのだ










<総司令執務室>



「・・・・・・失礼します」

「赤木君か・・・・・・・・・・首尾は?」

「シナリオ通りです。JAは暴走し、ファーストチルドレンを向かわせました」

「緊急停止装置へのハッキングは?」

「既に完了しています」

「・・・・・・・・・・・・・・そうか。初号機への影響は?」

「コアへの被害は無いものと予想されています」

「コアと素体への影響がないのならば構わんよ。シナリオ通りだ」



仕組まれたシナリオがあった

一つは、暴走させたJAをエヴァで止めるというシナリオ

日本政府への発言権を強めるためと、エヴァに変わる存在など無いと言うことを示すため

そしてもう一つ










それは・・・・・・・・・・・・











<JA内部>



「あった、緊急停止装置・・・・・・パスワードは・・・・・・・」



きぼう

既望、己卯、癸卯、希望

リターン



何も、変わらなかった



「エラー!?そんな・・・・・」



もう一度打ち込む

結果は同じ

コンピュータからは苦情しか帰ってこない



「パスワードが書き換えられている・・・・・・・・どうすれば・・・・・・・・・」



考えた

緊急停止装置は作動しない=止めることはできない

選択肢1:別の手段を探す

選択肢2:逃げる



レイは、瞬時に選択肢2を選択した

パスワードが書き換えられているのだ

他の停止手段があったとしてもそれも作動しないかもしれない

だったら、初号機まで逃げて、ぶっつけでやるしかない



爆発まで、あと171秒










<初号機エントリープラグ>



『碇君』

「綾波!?まだ止められないの!!?」

『作戦失敗。パスワードが書き換えられていたわ』

「それって、どういうこと?」

『止められない。そういうこと』

「じゃ、じゃあ早く逃げなきゃ!!!」

『今、ハッチに向かってるわ。ハッチから出たら回収して、プラグに入れて』

「わ、わかったよ」



とはいうものの、JAの力は強い

あちこちから吹き出し続ける蒸気も気になる

もう、幾らも時間がないはずだ

左手で頭(?)押さえつつ、右手で後部の取っ手を握り、後ろに回り込む

それと同時にレイが姿を現した

右手に移ったところで、右手をプラグ挿入口に持っていく

左手も放して、シンクロカット。走り出すJA

エントリープラグを排出させ、防護服を脱ぎ捨てたレイをプラグに入れる

シンクロ開始

シートの横に座ったレイは、シンジの手に手を添えるようにレバーを掴む

こんな状況であるにもかかわらず、シンジは赤くなっていた

対照的に、レイは問答無用で高起動モードに移行させた

内蔵電源の残り時間を示すメーターが一気に加速する



「追うわ」

「うん!」



シンクロ率が、急上昇を始めていた



「碇君。操縦、お願い」

「わかった!」



レイは、意識を集中させる

初号機のコアに



そこには、懐かしい気配があった

その気配が、返答を返す

了承

レイが詠唱する



「マジックプログラム:ファンクション!フィールドレベル:18!!
フィールド・レインフォース:ドライブ!!!」



初号機自身のフィールド展開能力を強化した

爆発まで後26



「捕まえた!!」

「碇君!!」

「わかってる!ATフィールド全開!!」










<発令所>



「これまでにない、強力なATフィールドです!!」

「全ての観測を遮断しています!モニター不可能!!」

「な、一体何が起こっているの!!?」

「JA、爆発まであと10秒!!!」



そして、10秒とほんの少しのタイムラグの後





閃光





爆発










<初号機エントリープラグ>



活動限界によってシンクロが切れたエントリープラグの中

LCLの中で漂う二人



「くっ・・・・・・あ痛たたたた・・・・・・・」

「碇君・・・・・・・大丈夫?」

「僕は、だいじょぶ・・・・・・・・綾波は?」

「私も大丈夫よ」

「良かった・・・・・・・・ッ!!!!!!」

「!?」



急にレイの方から顔を背けるシンジ



「碇君!?どこか、怪我でも!?」

「い、いや。そうじゃないんだ・・・・・・・・そうじゃ」



怪訝そうな顔をするレイ



「だったら、どうしたの?急に」

「い、いや、その、綾波の・・・・・・・服・・・・・・・」

「服?・・・・・・・!!!!」



レイは、エントリープラグに入る前に、防護服を脱ぎ捨てていた

あんな物を着たままLCLに入るわけにはいかない

その判断は正しい

しかし、誤算があった

ついさっきまでは、無我夢中で気付かなかった

防護服の下には、普通のアンダーウェアしか着ていなかった



「い、い・・・・・・・」

「・・・・・・い?」

「碇君の馬鹿ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!!!!!!!!!」



透けていた










「な、何で僕が・・・・・・・・がく」










<総司令執務室>



「JAの破壊を確認。初号機プラグより両チルドレンを回収しました」

「・・・・・・・そうか」



リツコの報告を聞くゲンドウの表情は苦々しい



「ファーストチルドレンの生存以外は、全てシナリオ通りです」

「・・・・・・・・御苦労。下がってくれ」

「はっ」



リツコは、迷っていた

レイは、今のレイのままでいるべきなのではないか?と

もし、本当にレイが異世界から来た存在だとするならば(問答無用で本当なのだが)、

愚かなエゴに任せて殺すなど、別の器に移すなど・・・・・・・・

3人目に移行したところで“もと”のレイに戻るとは限らないと言うのに



「・・・・・・・・・・私にしか、何とかすることはできない・・・・・・っ!!!」



赤木リツコの苦悩は、もうしばらく続くことになる



「・・・・・・・・・・・レイ」










つづく





後書き

何故か最近、リンドバーグを聞いている今日この頃です
しかも、かなり初回のアルバム・・・・・・・・・・・・・
昔の音楽って良いですよね?(求ム、賛同者)

さて、「風吹」も次回でアスカが登場です
アスカが登場した後は、ちょっとすっ飛ばすかも知れません

最近、メールの返信が遅れがちになっています。ごめんなさい
ちゃんと読んでいます。ちゃんと返信しますから気長に待ってやってくださいね

では