<第三新東京市国際空港>



「絶対、いつか、絶対会いに行くから!!約束、今度は絶対守るから!!!」

「・・・・・・・・アスカ・・・・・・・」

「だから、絶対、あたしのこと、忘れたりしないで!!」



その時、彼女は泣いていたのかもしれない



「・・・・・・・・アスカ・・・・・・・約束するよ!!
僕はアスカを絶対忘れたりしない!!!」





別れを交わし、二人は離ればなれになった





これから始まるのは、少年と少女が再会するための物語

二人の背中を押す、新しい風の物語



『風、薫る季節(とき)』


 


 風、薫る季節

 #1:ゼーレ


 

 





「あそこから、侵入しましょう」



静かな声で、サヲリが提案した



「研究所内のセキュリティは?」

「厳重です。監視カメラ、ガードロボット、人間のガードはいませんが・・・・・・」

「改造人間のガード、というわけなのね」

「はい」



レイの言葉に、サヲリが頷く



「なるべく交戦は避けたかったけど、そんなことは言ってられないかな?」

「はい。私達の所在も既に察知されていると考えても良いと思います」



三人は不要な荷物をその場に置くと、必要最低限な装備を持つ

シンジは、御霊鎮と荒御霊の二刀流に、軽い装具

レイは、フィールド収束具が付いた杖「ヴァリエ・トレス:mk2」を持っている

サヲリに至っては、完全に丸腰だ



「・・・・・・・・じゃあ、行こう」



3人の前には、通気口と思われるダクトがあった










<日本:ネルフ学園>



「碇よ。12年前、お前達は一体何をしていたのだ!?」

「・・・・・・・・・・知りたいのか?冬月」

「あぁ」

「・・・・・・・どうする?ユイ」

「良いんじゃないですか?冬月先生なら大丈夫でしょ?」

「そうだな」



そして、ゲンドウはゆっくりと過去を話し始めた










<その頃のシンジ達:研究所>



「・・・・・・・・・サヲリさん。目的地とかはわかる?」

「申し訳有りません。逃亡の時は無我夢中だったので・・・・・・」

「じゃあ、行き当たりばったりしかないか・・・・・・・・」

「でも、ここに、改造人間はどのくらい居るの?」

「直接戦闘タイプの改造人間が、150程。
後方支援タイプの改造人間が100程。
殲滅タイプの改造人間が、10程度です」

「・・・・・・・かなり多いな。
でも、直接戦闘タイプと後方支援タイプは判るんだけど、
殲滅タイプっていうのは何なの?」

「では、改造人間についてお話ししておきましょう」



敵地の真っ直中で悠長なものだが、サヲリは改造人間についてのレクチャーを始めた



「直接戦闘タイプというのは、そのまま、主に近接戦闘で敵と交戦するタイプです。
ベースとされる使徒は、
サキエル、シャムシエル、ガギエル、イスラフェル、サンダルフォン、マトリエル、ゼルエル。
それぞれ、ベースとなった使徒の特殊能力を受け継いでいて、決して一筋縄ではいかない相手です」

「成る程・・・・・・・・何となく、想像は付くね」

「後方支援タイプというのは、戦い方次第でどんな敵よりも厄介です。
ベースになるのは、ラミエル、サハクィエル、イロウル、バルディエル、アルミサエル。
特に、サハクィエルが厄介です」

「思い知ってるよ。地下迷宮で遭遇した」

「確か、“咆吼の”ティンバーと名乗ったわ?」

「ティンバー・・・・・・・・倒したのですか?」

「うん」

「では、残りのサハクィエルの改造人間は大した相手ではないです。
ティンバーは、サハクィエルの改造人間の中で最も成功だったそうですから」

「そうなんだ。それで、殲滅タイプって言うのは?」



サヲリは、ゆっくりと説明を始めた



「殲滅タイプとは、あらゆる状況下であってもターゲットを殲滅する事を目的とした存在です。
ベースとされる使徒は、レリエル、アラエル。
特に、アラエルが厄介かと」

「アラエル?」



シンジは名前さえも知らない

レイは疑問をサヲリに投げかけた



「アラエル。聞いたことはあるけど、かなり希少な使徒だったはずよ。
ほとんど目撃された例はないって・・・・・・・」

「違います。目撃例は無いのではなく、されないだけなのです。
アラエルには、広範囲の知的生命体の精神を破壊する能力がありますから・・・・・」

「・・・・・・・・・・・厄介ね」

「はい。そして、最も強敵なのが、最強の殲滅タイプの使徒。アダム」



その言葉に、シンジとレイは息を飲んだ

震える指で、サヲリを指さし・・・・・・・・



「じゃあ、サヲリさんも?
カヲルさんも、そうだったの?」

「はい」



悲しげに言うサヲリ

シンジは、声もなかった

カヲルとサヲリがそんな存在だったなんて・・・・・・・・



「私も知らないのですが、もう一つ、改造人間のベースとなった使徒がいるのです」

「?」

「リリス、という使徒なのだそうですが・・・・・・・ご存じですか?」










一瞬、フラッシュバックされる記憶

リリス

りりす

リリス

りりす

何処かで聞いたことがある何か

泣き叫ぶ誰か

あれは、誰だった?

あの時、泣いていたのは誰だった?











「いや・・・・・・・知らないけど」



シンジの言葉に、レイの意識は現実に戻った



「私達、アダムの改造人間の次に造られた改造人間だそうです。
詳しいことは私も知りませんが、情報が無い以上、油断できない相手でしょう」

「そうだね・・・・・・・・・」



ガンガンガンガンガンガンガンガンガン!!!!!



エアダクトの下から、銃撃

やはり、とっくの昔に気付かれていたらしい

次々と開く穴から、光の柱ができてゆく



「出るよ!!綾波、サヲリさん!!」

「えぇ!」

「はい!!」



エアダクトを踏み破って、シンジは通路に身を躍らせる

その間の防御はレイとサヲリのATフィールド

通路に出たシンジは、そこらに居るロボットのガードを斬り伏せる

御霊鎮と荒御霊はどんな相手でもその切れ味が損なわれることはない



「二人とも今だ!!」



エアダクトから二人も出てくる

セキュリティであろう、ロボットのガードが続々集結しつつある



「シンジ様、レイ様、下がってください。私が何とかします」

「でも、サヲリさん・・・・・・・」

「私は、殲滅タイプの、アダムの改造人間ですから」



そういうと、サヲリは呪文を詠唱した

良く知っている、マジックプログラムだ



「マジックプログラム:ファンクション。フィールドレベル:19。
サンダー・レギオン:ドライブ!」



サヲリの手から、雷撃が迸った

いや、それは雷撃などと言う生ぬるい物ではない

100を越えるガードは、その悉くが一瞬で破壊された

シンジは、驚きに開いた口が塞がらない



「・・・・・・・・レベル:19って・・・・・・・
理論的に言うと、確かレベル:20でリミットじゃなかった?」

「はい。私達のコアは、体内で永久に機能しますから。
使用しても、切れることがありませんし、制御も簡単です。
ただ、シンジ様達の仰る“リミット”でプログラムを行使すると、コアが破損する畏れがあるので」

「そうなんだ・・・・・・・・・・」

「おやおや、随分派手な侵入者が居ると思えば・・・・・・・・・
タブリスに捨てられたのか?リーゼン」



通路の奥から、一人のひょろ長い男が姿を見せた

後ろに、数人の部下であろう人影が控えている



「・・・・・・・・・ムーハ・・・・・・・・」

「改造人間!?」

「どうしたんだ?リーゼン。
タブリスに捨てられたんじゃなくて、そっちの普通人に乗り換えたのか?」



シンジのことを普通人と言った男、ムーハはサヲリを嘲笑った

酷く、耳障りな笑い方だった

ムーハの言葉に、普段は悲しげなサヲリの瞳が、憤りに彩られる



「・・・・・・・・黙れ」



サヲリは、大きく腕を横に振った

腕から生じたATフィールドが、特大の鉤爪となって、ムーハと他多数の身体を切り裂く



「・・・・・・・・・・兄様を蔑む者は、決して許しはしない・・・・・・・・
我に与えられし名は“悲風の”リーゼン!!
命が惜しい者は速やかに去るが良い!!!!!」

「馬鹿な・・・・・・これが、タブリスの後ろに隠れていることしか知らなかった奴の・・・・・」



ムーハが断末魔に呟く

そこには、かつての兄の後ろに隠れ、全てに脅えていた少女の面影はない

己の運命と立ち向かう強さを備えた少女の姿があった










<日本:ネルフ学園>



「12年前、私達はキール議長の研究所を襲撃しました。それは本当です」

「キール・ローレンツ議長か。優秀な科学者だったと聞いていたが。
しかし、襲撃の目的だったのだ?」



ユイが説明を始めた



「本当の目的は、リリスの奪取でした」

「リリス?」

「私達が戦った、アダムより造り出された偽印の使徒です」

「・・・・・・・・・その、リリスを造り出したのは、キール議長だった」



ゲンドウが言葉を続ける



「15年前、私達がアダムと戦った後、議長は調査団を派遣した。
表向きは南極の調査という名目だったが、真の目的は、アダムの細胞を手に入れることだった」

「そして、かき集めたアダム細胞を培養して、アダムを超える力を秘めた使徒。
即ち、リリスを造り出したのです」

「しかし、一体何の目的で・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・三度目の災厄を起こすためだ」



三度目の災厄

その言葉に、今度こそ冬月は恐怖した

セカンドインパクトを起こしたアダムを上回る力を持った使徒が起こすのだ

サードインパクトを



「議長は、リリスを使役し、サードインパクトを起こして人類の頂点に立とうとした」

「しかし、その目論見は私達が打ち砕いて差し上げました。
リリスを奪取することで、議長の野望は完全に費えた、と思っていましたから」



にっこり笑うユイ

しかし、冬月は渋面だった



「・・・・・・・・・・待て、まさか、奪取したリリスというのは・・・・・・・・」












<その頃のシンジ達>



「・・・・・・・・・ここは?」

「私と兄様の部屋です」

「・・・・・・・でも、こんな部屋・・・・・・」



その部屋は、ベッドが二つあるだけと言っても過言ではない部屋だった

昔からこうなのか、それとも誰もいないので荒れたのか・・・・・・・・・



「殺風景な部屋でしたけど、兄様と一緒だったので・・・・・・・・」

「そうだったね」

「はい」



小さな机の上に、フォトスタンドがあった

中に入っているのは、色褪せた写真

恐らくカヲルとサヲリが写っていた写真なのだろうが、顔の辺りが丸く切り抜かれている



「ロケットに入れていたのは、この写真なんだ」

「はい。
もう、行きましょう。シンジ様、レイ様」

「もう、良いの?」

「・・・・・・・・・・・はい。行きましょう」



サヲリがドアを開ける

すると、通路の向こうから足音が聞こえてきた

通路の先から、改造人間であろう女が歩いてくる

立ち止まった



「・・・・・・・・・リーゼン。こんな形で再会することになるとはな」

「フェルミ!」

「マスターの命により、裏切り者であるお前を処理する」

「フェルミ!話を聞いて!!」

「問答など無用だ」



フェルミと名乗った女は、掌から光を撃ちだした

それは、まるっきりラミエルの荷粒子砲と同じである

どうやら、ラミエルの改造人間らしい



「サヲリさん!」

「・・・・・・・・シンジ様、レイ様。ここは、私にやらせてください」



荷粒子砲を、ATフィールドの楯で弾き返すと、サヲリはフェルミに歩み寄ってゆく

フェルミは、サヲリに向かって何度も荷粒子砲を放った



「無駄です。フェルミ」

「まだだ、甘く見るな!!」



サヲリの展開したATフィールドが、荷粒子砲を弾き飛ばす

サヲリが、そっとフェルミのATフィールドに手を伸ばす

フェルミのフィールドは砕け散った

サヲリが腕を振り上げる



「・・・・・・・・・・・・・フェルミ」



フェルミは、両腕から力を抜いて、目を閉じていた



「・・・・・・・・・どうした?やらないのか?」



フェルミが目を閉じたまま聞く



「・・・・・・フェルミ」

「リーゼン。タブリスはどうした?それに、この普通人達は何なんだ?」

「兄様は死にました。私達は兄様の新しい肉体を探しに来たのです」

「・・・・・・・・・・・・そうか」

「お願いです、フェルミ。マスターが何処にいるのか教えてください!」

「・・・・・・・・・・・・・・私は、マスターに忠誠を誓った身だ。教えるものか」

「・・・・・・どうしても?」

「無論だ」

「教えてくれないなら、あなたを殺します」

「殺すが良い」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」



サヲリは、静かに手刀を作る

ATフィールドの刃が形成された

ぽつり、とフェルミが言う



「リーゼン。いや、サヲリ・・・・・・・・今でもロケットを持っているのか?」

「!!何故、あなたがその事を!?」

「・・・・・・・・・私は、お前が羨ましかった。
私も、タブリスに、カヲルに憧れていたよ。“最強”の二つ名を持つ改造人間。
それなのに、傲慢さや、心の醜さがなかった。カヲルにも、サヲリにも」

「・・・・・・・・・・フェルミ」

「・・・・・・・・・・・・・マスターは地下のポイント:T−2だ」

「フェルミ!!」

「・・・・・・・・・・・・・早く行け。ここにも他の改造人間が来る」

「でも・・・・・・・フェルミ、あなたは・・・・・・・」



なおも、戸惑うサヲリを、フェルミは鋭く一喝した



「早く行け!!!さもなくば私がお前達を殺すぞ!!!」

「ッ!!!・・・・・・・・フェルミ・・・・・・・ごめんなさい!」



サヲリが走り出す

シンジ達も、慌ててサヲリの後を追った

その姿を、フェルミは見守っていた

見えなくなるまで



「・・・・・・・・・・・サヲリ、か。
カヲル・・・・・・・どうやら、私はお前の妹には永遠に勝てないようだ」





フェルミは、己のコアに掌を押し当てた



「愛していたぞ。カヲル」










<日本:ネルフ学園>



「では、レイは・・・・・・・・改造人間なのか?リリスの」

「いえ、あの子は、改造人間でさえありません。
あの子は、世界で唯一サードインパクトを越す力を秘めた存在。使徒です」

「何だと!!!?」



冬月は立ち上がって叫んだ



「馬鹿な、そんな話が・・・・・・・」

「本当だ。冬月。
レイは人間ではない。リリスという最凶の使徒だ。
人類を滅ぼす力を秘めた、サードインパクトの導き手」

「・・・・・・・・碇、何の目的でレイを育てた?
前に聞いたレイの生い立ちの話というのも、嘘なのだろう!?」

「嘘だ」

「ならば何故だ!!?」

「決まっているだろう」










<その頃のシンジ達>



「マジックプログラム:ファンクション。フィールドレベル:19。
アブソリュート・ゼロ:ドライブ」



サヲリの魔法が走る

改造人間達は一瞬で凍り付き、ダイアモンドダストのように煌めき散ってゆく



「この先です!突破しましょう!!」

「「了解!!」」



並み居る改造人間達を斬り伏せ、シンジ達は駆け抜ける

そして、目的の部屋に辿り着いた

ポイント:T−2

ここに、この狂った研究を始めた歴史上、類を見ないほどの愚かな大天才がいる










<研究室>



そこは、薄暗い研究室だった



「マスター!!!!!」



サヲリの声が響き渡る

そして、一人の老人が姿を現した

車椅子に座って、バイザーかゴーグルのような物で目を覆っている

視力を補正しているのであろうか?



「・・・・・・・・リーゼンか。ふむ、実体化しているようだが・・・・・・・・
タブリスはどうした?今度はタブリスが実体を無くしたか?」

「・・・・・・・・・・兄様は、私を助けるために死にました。
ここに、兄様の肉体があるというなら、おとなしく提供してください。
そすれば、殺しはしません」

「そうか。それは寛大な申し出だ」

「綾波」

「わかったわ」



それぞれ、身構える三人

レイの顔を見たマスターの顔色が変わった



「!!貴様はリセリア!!!?」

「?・・・・・・・リセリア?」

「何故だ!?12年前奴らに奪われたはずのお前が、何故だ!!!?」

「・・・・・・・・・何を、言っているの?」



その言葉に、マスターの顔が歪んだ

酷く醜い、人を絶望に突き落とす顔だ



「そうか、貴様は知らないのか。自分がどういう存在なのか・・・・・・・・」

「マスター、今それ以上喋ることは許しません!」



サヲリの言葉を無視して、マスターは話し始める



「お前は、人間ではないのだ。
コードネームは“導き手”リセリア。
唯一、リリスとして成功した作品がお前だった。
しかし、お前は12年前に奪われた。
碇ゲンドウと、その一味にな。
しかしお前はこうして私の元に返ってきたというわけだ。
この出来損ないで、なりそこないの人類を高次の存在に導くために。
サードインパクトを導くためにな!」

「嘘・・・・・・・」

「綾波が改造人間だって!!?馬鹿な事を言うな!!」

「違うな。騙されているのはお前達だ。私は本当のことを言っている。
それに、リセリアは改造人間でさえないのだ。
完全に、使徒と同じなのだからな」

「嘘よ!!私の両親は遺跡探索隊の隊員で、
探索中に使徒に襲撃され、命を落とした。私はその時学園長達に保護されたって・・・・・・」

「では聞こう。リセリア、両親の名は何という?
何処の国の遺跡探索隊だった?そして、その時お前は何処にいたのだ?」

「・・・・・・・そ、それは・・・・・・・・」

「知らないだろう?判らないだろう!?
無理もない。そんなものは最初から嘘なのだからな。
お前は15年前、この研究所でリリスとして産まれたのだ」

「そんな・・・・・・・・嘘よ・・・・・・・・・・」



跪くレイ

夢見、焦がれていた故郷は、ここだった

無機質な研究所で、自分は産まれたのか・・・・・・・・・



「生憎、綾波が改造人間じゃないとか、使徒だとか、そんなことはどうでもいいんだ」

「・・・・・・・・・碇君?」

「ほぉ?人にあらざる、使徒に近い存在だとしても、か?」

「綾波は、綾波でしかない。その真実が有れば良い」



毅然と言い放つシンジ

手に持っている御霊鎮と荒御霊を見て、マスターは憤怒の色を見せた



「貴様・・・・・・・そうか、奴の後継者か。
とすると、タブリスを殺したのも貴様か?」

「カヲルさんは、あの時死を望んでいた。だから斬った」

「ほぉ。では、これも斬れるのか?」



闇の向こうから、もう一つの気配が現れる

それは、黒いコートに身を包んだ銀髪の・・・・・・・・



「カヲルさん!!!」

「兄様!!!」

「さぁ、行け。タブリス。裏切り者を排除せよ。
ただし、リセリアは殺すな。捕らえよ」

「仰せのままに」



表情を動かさず、カヲルが、いや、タブリスが動く

荒御霊ではない大振りの剣を手に、真っ直ぐ突っ込んでくる

誰よりも早くその動きに反応したのは、シンジだった

御霊鎮と荒御霊がタブリスの剣を挟み込んでいる



「・・・・・・・・・・・・お前は、お前はカヲルさんじゃない。
カヲルさんなら、僕には止められない一撃だった」



マスターは目を剥いた

このタブリスも、コピーとはいえアダムの改造人間なのだ

オリジナルと比べても、劣る要素はない

しかし、シンジはその一撃を凌いでいる

タブリスは剣を振りかぶり、大振りの一撃を振り下ろした



「お前は、カヲルさんじゃない。
カヲルさんは、決してそんな不用意な攻撃を繰り出したりはしない」



余裕でその攻撃を避け、シンジは呟く

タブリスはその動きを追って斬撃を放った



「お前は、カヲルさんじゃない!
カヲルさんなら、今のは決まってる!!」



弾き返し、シンジが叫ぶ

シンジも二刀流を操り、斬りかかる

2本の刀と1本の剣が交差した

火花が散る



「お前は、カヲルさんじゃないッ!!
カヲルさんなら、今のは相打ちだ!!」



ガキッ!!!



タブリスの剣をへし折り、御霊鎮の切っ先がコアに吸い込まれるように突き刺さる

シンジは手首を捻ってコアを割った



「お前は、カヲルさんじゃない」



崩れゆく亡骸を見下ろし、シンジは言い放つ



「カヲルさんなら、まだ立ち上がってくるさ」

「・・・・・・・馬鹿な、タブリスをここまで・・・・・・」

「カヲルさんだったら、僕が負けていた。でも、これはカヲルさんじゃない。
ただの改造人間なんかに、僕は負けない」



言い放つシンジ

誰もが呆気に取られて動けなかった

それは一瞬だったと言っても良い



「ふふふ・・・・・・碇ゲンドウの後継者か。
相手にとって不足は無し!!!貴様らの首を持ってネルフへの宣戦布告としてくれよう!!!」



車椅子から立ち上がるマスター

その身体が醜く膨れ上がり、巨大になってゆく

白い巨体に



「悪あがきを・・・・・・・レイ様、無理なら下がっていてください」

「いいえ。私も戦うわ」



レイは立ち上がり、マスターであった者を睨み付けた



「私は、負けない。
自分自身のためにも、絶対に諦めない!」

「・・・・・・・綾波」

「・・・・・・・・・・レイ様」

「碇君、仕掛けて。私とサヲリさんで援護するわ」

「了解!!」



アダムのコピーが吼える

腕を自在に変え、予測不能な攻撃を繰り出す

しかし、シンジ達は一歩も退かない



「マジックプログラム:ファンクション!フィールドレベル:14!!
フィールド・レインフォース:ドライブ!!」

「マジックプログラム:ファンクション。フィールドレベル:19。
グレート・ヘイスト:ドライブ!」

「たぁっ!!!!」



アダムの巨躯は揺るがない

シンジが斬りつけ、レイとサヲリが魔法を放っても

揺るがない



「くっ!!」

「こいつ、不死身なのか!?」

(無駄だ!!貴様らの力など、我の前には無力なものよ!!)

「貴様は、許さない!!」

「私は、諦めません!兄様を助けるまでは!!」



シンジが、レイが、サヲリが言い放つ

決死の一撃を繰り出すも、アダムと化したマスターには通用しない



「くっ!?魔法が効かないのか!?」

「まさか、ATフィールドを中和している?」

(今更気付いても、もう遅い!!)



サハクィエルにジャミングされたように、ATフィールドが掻き消される

フィールドが無ければ、相手にならない



「くそぉっ!!何とかならないの!?」

「私では・・・・・・どうにも・・・・・・くっ!!」

「サヲリさん!!」

「碇君、危ない!!」



サヲリを庇おうとしたシンジを、アダムの一撃が捉えた

壁まで吹き飛ばされる



「何か、打つ手は・・・・・・」



呻くサヲリ

シンジは頭を撃ったのか、血を流している




















レイは無意識の内に、ぽつり、ぽつりと呟いた



「・・・・・・・・・・我、命ず・・・・・・・・・・・」



それは、彼女の記憶に刷り込まれし言葉

彼女自身が無意識の内に封印していた呪われし災厄をもたらす言葉



「我、命ず!
滅びの運命を背負いし者よ!
汝、その宿命に従い、永遠の闇に滅せよ!
そして、永遠の宿命を繰り返すが良い!
滅びと再生を司る女神の名において、我ここに命ずる!!
汝の魂を滅ぼすことを!!」



それは、禁呪だった

冬月の魔導書にも載っていない

世界でレイだけがつかえる禁呪

リリスの力を解放して行使できる力の一端

レイの背中に光の翼が現れ、彼女の掌から光が迸った



「ジャイアント・インパクト!!!」










<日本:ネルフ学園、発令所>



全ての計測機器が狂った

警報が鳴り響き、職員達が対応に奔走する



「な、何があった!?」

「ロシア国内にて、強烈なATフィールドの発生を確認!!」

「使徒か!?」

「詳細は確認不可能。MAGIは魔法であると判断しています」

「魔法だと!?禁呪を行使する者がいるというのか?」



唯一の禁呪の使い手である冬月が呻く

ゲンドウが呟いた



「まさか、レイが覚醒したか?」

「・・・・・・・・・・まさか・・・・・・・・」



主モニターの世界地図

ロシアの片隅、国境の当たりに白い円が描かれる

発生したエネルギーの射程範囲だ



「現地の情報は!?」

「駄目です。まだ確認できません」

「・・・・・・・むぅ。
冬月、お前が禁呪を行使したとして、この範囲を破壊し尽くすことは可能か?」

「純粋にエネルギーの爆発を起こすとしても、これほどの範囲は無理だな」



白い円が広がりつつある

既にロシアの約4分の1、及び近隣諸国が飲み込まれている



「映像はまだか!!!」

「そ、それが、全ての通信、観測機器が誤作動を起こしていて・・・・・」

「MAGIは!」

「判断を保留しています!」



状況は全く不明

ゲンドウがはっとした様子で言う



「・・・・・・・まさか、レイがサードインパクトを!?」





飲み込まれた








































その瞬間を憶えている人間は、一人もいない

夢から覚めたときのような気分だった

何も変わっていない

何か起こったのか?





真実は一つ










<数日後、ジオフロント立ネルフ学園:集中治療室>



こんこん



ノックの音に、サヲリはドアを開けた

すると、そこには見慣れた二つの顔があった



「シンジ様、レイ様も・・・・・・」

「こんにちわ。サヲリさん」

「カヲルさんの様子はどうかな?」

「まだ、意識は戻っていませんが、じきに目覚めると思いますよ」

「・・・・・・・・・・ねぇ、サヲリさん。コアを移植したんだよね」

「はい」

「カヲルさんの、記憶とかは、受け継がれているの?」

「はい。そうです」

「じゃあ・・・・・・・・・・・僕が殺した瞬間も、憶えてるんだね」



落ち込むシンジ

無理もない



「シンジ様・・・・・・・あまり気になさらないで下さい。
兄様も、シンジ様を責めたりはしません」

「でも・・・・・・・・・・・・」

「そう、気にすることはないよ。シンジ君」





聞きたかった声だった



ベッドの方に目をやると、カヲルが起きていた

点滴の針を外して、傷口をほぐしている

その顔には、いつもの微笑があった



「兄様ぁ!!!!」

「サヲリ・・・・・・・今まで、ごめん」

「良いんです。兄様が帰ってきてくれたなら、それで・・・・・・・・・」



カヲルは、そっとサヲリを抱き締めた

シンジとレイは、こっそり病室を出る



「・・・・・・・・良かった。カヲルさん・・・・・・・」

「碇君。これからどうするの?」

「そうだね。アスカに連絡を取ってみようかと思ってる」

「新しい旅立ち・・・・・・・・ね」

「うん。綾波は、良いの?」

「何が?」

「・・・・・・・・・・あんな形で決着が付いちゃったけど・・・・・・・・」

「良いの。私は私。そう言ってくれたのは碇君よ」

「・・・・・・・・・・そう、だね」