羽化拠点、“ザップ・ノイズ”

羽化個体数、30〜100程度の、極小規模に分類される羽化拠点

指揮個体数は1体と確認されている

山林の合間に隠れるように、その羽化拠点は存在している



「フュリィとチャーミーはここで待機。
攻撃地点を確認できたら、迎えに来るわ。
クリスとサトミ、ヒルデは付いてきなさい」

「「「「「了解!」」」」」

「作戦、開始!」



アスカは、クリスとサトミとヒルデを伴って林の中に入ってゆく




 
 

 風、薫る季節

 #3:殲滅作戦同行訓練

 
 


 

 











のそり、のそり



まるで、巨大なむく犬のような使徒がのそのそと歩き回っていた

その顔は毛むくじゃらでよく見えないが、一つ目で口は喉まで裂けている

前哨だ。羽化拠点を守っている



「・・・・・・・あれが、目標よ」

「・・・・・大きい」



サトミが呟く

クリスは黙って剣を抜いた

ヒルデは震えながら銃を構える

三人を押し止めて、アスカは言った



「前哨を始末するとき、重要なのは、如何に早く静かに攻撃できるかよ。
ここは、あたしがやるわ」



アスカは、シルファングを構える

柄頭に、プログレッシブ・エッジの燃料電池を突き刺す

茂みから、疾風のように飛び出した



ぅぐる!!



使徒が吠えて首を巡らせた瞬間

アスカはプログレッシブ・エッジを起動

淡い輝きが刀身を覆い尽くし、空っぽになった燃料電池がイジェクトされる

使徒が口を開けて、高らかに咆吼を上げようとする

アスカの足が、大地を蹴った



「たっ!!」



静かな気合いの声と共に繰り出された剣は、

使徒の下顎から脳天までを、見事に貫いていた



「この手の使徒は、吠えて敵の存在を知らせるわね。
下手にコアを叩いたり、急所を狙うよりも、口そのものを狙うか、
頭を消し飛ばし飛ばす方が良いわね」

「「「・・・・・・・・・」」」



頬に散った返り血を拭いながら、アスカは三人にそう言った

三人は驚きのあまり、口もきけなくなっている



「さ、先を急ぐわよ」










<その頃のフュリィ達>



「あ、アリエスの人達ですか?」

「そうだ。君達は、惣流隊のメンバーかね?」

「はい、そうです。惣流隊:ラキ・フュリィ訓練生と、チャーミー・ロレイン訓練生です」



フュリィは、自分達とは僅かに遅れて到着したアリエスの隊長にそう言った

初老の隊長は全員に待機を命じると、二人に聞く



「現在の状況は?」

「アスカ教官と、他三名が羽化拠点を目指しています。
私達の役目は、羽化拠点攻撃後の掃除です」

「そうか・・・・・・・・有事の際には、我らは自分達の判断で行動する。
その事は、忘れぬように」

「大丈夫ですよ」



気楽な様子で、チャーミーが言った



「本当なら、アスカ教官は単独で羽化拠点を殲滅できる実力の持ち主なのですから」

「!!!?・・・・・・まさか、15歳の女の子が・・・・・・・」

「自己ベストは、100以上だと聞いていますよ」

「以上?何故、そんな曖昧な数値を?」

「100より上は、数えるのが面倒になったそうです」



隊長は、開いた口が塞がらないといった様子だった



「それよりも、詳しい状況は判らないのか?」

「無線通信の使用は、一切禁止ということになっていますので・・・・・・・」

「そうか・・・・・・・・」

「まぁ、大丈夫でしょ。クリス達だってそんなに弱くないんだから」



気楽に言うフュリィ

しかし、隊長の顔は晴れなかった

今までのありとあらゆる記録を塗り替えた問題部隊:クリス隊

そして、その問題部隊を教育している問題教官:惣流アスカ・ラングレー

不安にならないはずもない










<その頃のアスカ達>



四人は、茂みに身を隠していた

目の前には、山のように積み上がっている使徒の繭がある

羽化拠点だ



「あんな形だと、羽化が完了するのに時間が掛かりそうね。周囲に使徒は?」



茂みの中に顔を突っ込んでいるヒルデに、アスカは問うた

短い返事が返ってくる



「いない、と思う」

「ん〜、チャーミーを連れてくるべきだったかしら・・・・・・・・・・・・」



ヒルデの探知能力を期待した自分が馬鹿だった

隠密行動ができるように訓練を受けているのなら探知能力も高いと思ったのだが

どうやらそれは、淡い期待だったようだ



「ま、仕方ないわね。ヒルデ、出番よ」

「うぅ、あたしじゃないと駄目なんですかぁ?アスカ教官〜」

「駄目よ」

「うぅ、行ってくるです」

「・・・・・・・・・・・・気を付けて」

「はい。気を付けていて来ますぅ、クリスさん〜」



ヒルデは、バックパックを背負ってこっそり茂みから歩み出た

周囲を見回して、覚悟を決めたのか羽化拠点の周りを歩き始める

まずは、リモコン爆弾の敷設作業

適当なポイントを選んで、適当に配置した



「・・・・・・・ヒルデは、爆弾使えるのよね?」

「使えますよ。訓練生の中では一番だと思います」

「嘘?」



サトミの言葉に、アスカは目を丸くした

無理もない

5人の中で最年長の癖に、泣く、ぐずる、だべる

三拍子揃っている彼女である



「確かに、爆薬の扱いは一級なんですけど、性格の方が・・・・・・・・・」

「あ、納得」

「人見知りが激しかったから、誰とでも行動できなかったんです」

「成る程、ね」

「隠密としての腕もかなりの物ですし、ヒルデは決して無能ではないんですよ」



恐怖に冷や汗を流しながらも、ヒルデは作業を進める

次に、炸薬ワイヤーを張り巡らせる

爆発の衝撃を羽化拠点に集中させるためだ



「ん、しょ」



木の枝や幹にワイヤーを巻き付ける

ヒルデが茂みに戻ってきた



「終わった?」

「ひぐぅ、怖かったよぉ」

「はいはい、じゃあさっさと終わらせちゃいましょうね」



サトミがそう言って、ヒルデを慰めた

アスカは羽化拠点の方に目を向けると、三人に言った



「撤収。A地点であなた達は待機。
あたしはフュリィ達を迎えに行くから」

「ひぐっ、最初からA地点でフュリィ達に待っててもらえば良かったのに」

「その意見はもっともだけどね、ヒルデ。
万が一、あたし達が始末した以外の前哨が、フュリィ達に接触したら?
あの子達は直接戦闘に向いてないんだから。
間違いなく、殺されるわ」

「・・・・・ひぐぅ」

「わかったでしょ?じゃ、さっさと撤収するわよ」

「「「了解」」」



三人は、羽化拠点に背を向けて足音を殺して走り出した

サトミも、この程度で倒れるほど柔弱ではない

彼女も強くなりつつあるのだ










<A地点>



「じゃ、あなた達はここで待機。すぐに戻るから」

「・・・・・・・」

「あ、教官。クリスが・・・・・・」

「「早めにお願いします」、ね。わかったわよ」

「ひぐぅ、早くしてね」

「はいはい」



ヒルデの涙声に肩を竦めながら、アスカは駆け出した

まるで、自分の妹たちのようだ

随分、大きいのが混ざっているけど

5人のことを考えると、自然に口元が綻ぶようだった



「さて、急がなきゃ」










<その頃のフュリィ達>



「・・・・・・・遅いね。みんな」

「そうですね」

「何かあったのかな!?」

「まさか、絶対大丈夫ですよ」

「・・・・・・・ぅん」



優しくて冷静なチャーミーが羨ましい

短気で直情なフュリィは思った

自分の頬を、ぺちっ、と叩いて気合いを入れる

自分達の出番は、そのうちやってくるのだから



「まだ、何の動きもないようだが・・・・・・・・」



アリエスの隊長が、話しかけてきた

チャーミーは笑って応える



「大丈夫ですよ」

「う、うむ」



チャーミーにそう言われては、さしもの隊長も引き下がるしかない

チャーミー・ロレイン、ゾディアック訓練施設では数少ないスペルユーザーの一人

のっとり、のんびりな外見と性格に反して、魔法の力は計り知れないほどということは、

ゾディアックでも知らぬ者がいないほど有名なのだ

隊長がたじろくのも無理はない



「お待たせっ!」



茂みから、アスカが飛び出してきた



「教官!!」

「アスカ教官!!」

「き、君が、惣流教官か!?」

「えぇ、そうよ。で、この人は誰?」

「アリエスの隊長さんだそうです」

「あ、そうなんだ。羽化拠点の攻撃準備は完了してるわ。
あとはこの子達を連れて叩き壊しに行くだけだから、じゃ、そういうことで。
フュリィ、チャーミー、覚悟は良い?」

「いつでもどうぞ!」

「はい」

「じゃ、早速出発しましょうか」



アスカがそう言った時だった

アリエスの隊員の一人が叫んだ



「ザップ・ノイズに羽化反応!!!」

「何ですって!!!?」

「間違いありません!!
羽化個体数、91を確認!!他、UNKNOWNの存在を数体確認!!」

「どういうこと!!?」

「くっ、すまん!!勝手に無線を使用した馬鹿がいるらしい!!」

「ちぃっ!!!」



アスカは、隊長の無線機をひったくると、マイクに向かって喚いた



「クリスサトミヒルデ!!!起爆して逃げて!!!早く!!!!」



その後、羽化反応を確認してから約2分後、爆発音が響いた

ヒルデの爆弾だ



『教官!!教官!!!』

「誰!!?ヒルデ!?サトミ!!?どっちでもいからすぐに無線を切って!!!
早くその場を逃げて!!!」

『助けて!!早く来て下さい!!クリスが、このままじゃみんな!!!』

「落ち着いて!!今は無線を切って!!何も考えずに逃げて!!!」



まず、落ち着かせて無線を切らせることが先決だった

アスカが受け答えをしなければ、無線に喋っている、恐らくサトミはずっと喋り続けるだろう

無線の電波など、それこそ大声で敵を呼んでいるようなものなのだ



「良い!!!何があっても死んだりしちゃ駄目よ!!!いいわね!!!!」

『了解!了解っ!!!!!』



無線が切られた



「フュリィ、チャーミー、行くわよ!!!」

「「了解!!!」」

「ま、待ちたまえ!惣流教官!!
有事の際の現場指揮権はアリエスの隊長である私に・・・・・・」



ヒュッ



風を切る音がして、アスカのシルファングは隊長の鼻先に突きつけられていた



「出しゃばるんじゃないわよ。何の役にも立たないくせに」



その静かな恫喝に、隊長の口は塞がれた

アスカは、真紅の疾風を化してA地点を目指す

フュリィとチャーミーも後を追った



腰を抜かした隊長とアリエスの隊員が、呆然とその後ろ姿を見送った










<A地点:クリス達>



「っ!!くっ!!!」



サトミが、ライフルを構えて撃ちまくっている

木の幹を遮蔽物にしてクリス達を援護する

しかし、形成は圧倒的に不利だ

爆破がもう少し早ければ、どうにかなったかもしれないが・・・・・・・・



「・・・・・!!・・・・・・・やぁっ!」



クリスは必死に敵の侵攻をくい止めている

その後ろでは、泣きが入っているヒルデが拳銃を狙いも付けずに乱射していた

それでも、敵のどれかに当たる



「・・・・・・・・・ストーム・ブリンガー!」



クリスが、魔法を使った

細身の剣の刀身から、旋風のようなATフィールドが迸る

使徒の頭を切り刻み、吹き飛ばした



「!!クリスっ!!!」

「えっ」



クリスの頭上の樹から、巨大な蜘蛛の使徒が降ってきた

長い、鉤爪のついた足が、クリスの体を弾き飛ばす



「クリスぅ!!!」

「・・・・・・・・・・ぅぅ・・・・・」



ヒルデは、手榴弾を適当に放り投げて後退した

クリスは剣を杖代わりに立ち上がろうとしているが、どう見ても戦えそうにない

サトミもクリスの元に駆け寄った



「クリス、大丈夫ですか!?」

「・・・・・・・・・・・・・」



力無くだが、クリスは首を振った

縦に

剣を構えて、使徒と対峙する

決死の覚悟で切り込む



「・・・・・・!!!」



サトミとヒルデの援護を受けながら、

クリスは、一匹殺した、二匹殺した、三匹殺した

四匹目を殺せなかった



「クリスーっ!!!!!!」



サトミの悲鳴

四匹目に捕捉され、クリスは口から血を吐いて、吹き飛ばされて戻ってきた

傷口からの出血もひどい



「クリスぅ、死んじゃやだよ!!もう、死なせたりするのもやだよ!!!!」



ヒルデが、右腕を細かく、大きく振った

細い、光を反射する何かが空中を走る

それは、炸薬ワイヤーだった

使徒に巻き付くように放ったを、銃で撃つ



「ああああぁっ!!!!!」



爆発

時間を稼いで逃げ出すつもりだった

しかし、完全に意識を失っているクリスを担いだ状態では、追いつかれるのも時間の問題だ



「はぁはぁはぁはぁはぁはぁ!!!」



使徒の咆吼が聞こえる

体の震えが止まらない

後ろを振り返って確認するのが怖くて仕方がない

ヒルデがつまずいたその時だった



「伏せて!!!」



聞き覚えのある大声

ヒルデはサトミの腕を掴んでそのまま地面に倒れ込む

顎を強かに打ってしまった

三人の頭上を、ロケット弾が飛び越えてゆく



爆発



「クリス、サトミ、ヒルデ!!!」



待ち望んだ声

仲間と、教官の姿



「・・・・・教官・・・・・遅いぃ!!!!」

「ごめん。後は任せて。三人は後退しなさい」

「はい・・・・・しかし、大丈夫ですか?」

「サトミ。あたしを誰だと思ってるの?」



シルファングを弄びながら、アスカは笑った



「・・・・・・・そうでしたね」

「わかればいいの。早く、後退しなさい」

「「「了解」」」



三人の背中を見送るアスカに、先ほどの蜘蛛の使徒が鉤爪を繰り出した

その一撃は、正確にアスカの頭を狙っている

アスカは、その使徒に背を向けていた



「教官!!!」



フュリィが、自分の背丈よりも長いロケットランチャーを構えた

しかし、この距離でランチャーを使うのはかなり危険だった



「わかってる」



アスカの独白。怒気を含んだ溜息に等しい声

肉眼でも確認できるくらい強烈なATフィールドが展開された

蜘蛛の鉤爪は、圧倒的なエネルギーを持つ障壁の前にへし折れる



「あたしが切り込むわ。フュリィは敵を近づけないように。
チャーミー、あたしとフュリィで時間を稼ぐから、全開で魔法を使いなさい」

「「了解!!」」



チャーミーも、口答えをしなかった

この期に及んで、制御できないとかそんなことは言ってられなかった



「はぁぁぁぁあああああああっ!!!!!!!」



プログレッシブ・エッジを起動

燃料電池が柄頭から吹っ飛び、淡い光を纏った刀身が現れる



「この、この、このぉ!!!!!」



フュリィは、アスカを無視してこっちに進んでくる使徒に向かって、ロケット弾を撃ちまくる

弾が切れればグレネードランチャーだ

常に破壊と爆発を撒き散らしている



「・・・・・・・・・・・」



チャーミーは、杖を片手に集中している

まだ、迷いがあった

本気で魔法を使うことに



「スラッシュプログラム:ファンクション!!フィールドレベル:17!!!
サラマンダーファング:ドライブ!!!」



アスカの魔法

灼熱の牙が使徒の群を噛み砕いてゆく



「シューティングプログラム:ファンクション!!フィールドレベル:リミット!!
メガ・グラビトン:ドライブ!!」



フュリィが作りだしたディスポの魔法

着弾点で、局地的な重力崩壊が起こった



「チャーミー!!!!」



アスカの声

チャーミーは、詠唱を開始した

アスカとフュリィが前線から下がる



「マジックプログラム:ファンクション!!フィールドレベル:リミット!!
ジャッジメント・セラフ:ドライブ!!!!!」



チャーミーの杖が弾け飛んだ

無数の光の輪が空中を飛び交う

そして、羽化拠点を中心に包囲した



「お願いっ!!」



チャーミーの言葉と共に、光の柱が打ち落とされた

無数の光の輪から、無数の光の柱が乱立し、使徒の群を滅ぼしてゆく

辺り一帯は金色の光に彩られ、視界が真っ白になってゆく





魔法が終わった後

羽化拠点があった地点を中心に、半径5kmは巨大なクレーターになっていた



「これって、まるで禁呪ね」

「禁呪?それは、何ですか?」

「地上で最強の魔法よ。でも、チャーミーのはそれに勝るとも劣らないわね」



半球状のクレーターを見下ろして、アスカは呟いた

隣のフュリィも呆然としている



「チャーミー、使徒の反応は?」

「あ、はい・・・・・・無いようです」

「だったら帰るわよ。あの子達も心配だし」










クリスは、幸い意識を取り戻していた

重傷だが、命に別状はないという

サトミもヒルデも、怪我をしていたが、手当を受けていた

アリエスの隊長は、アスカに向かって平謝りに謝ったが、もうそんなことはどうでもよかった

多分、こんな大騒動を起こしたからには、間違いなくクビになるだろうから










<アスカ:電話中>



「まぁ、と言うわけなのよ」



時間的には、訓練施設に帰ってきた直後

アスカは受話器を握ってシンジと話していた



『じゃあ、アスカはこれからどうするの!?』

「そうね。明日にでも軍法会議があるだろうから、まぁあたしのクビで済むならそれで良いのよ」

『そんなの、ちっともよくないよ!!』



受話器の中でシンジが叫ぶ

アスカは笑って応えた



「大丈夫よ。別に死刑になったりすることはないし、
あの子達も、あたしみたいな無茶な教官はもう嫌だろうし・・・・・・・」



そう言えば、まだあの5人の顔を見ていない



『・・・・・・・・・アスカ』

「大丈夫よ」



何が大丈夫なのか、自分でも良くわからなかった





そして、翌日

来るべき時が来た










<ゾディアック長官室>



だだっ広い長官室に、アスカは呼び出された

書類を持った仏頂面の長官殿が言う



「本来ならば、懲戒免職ものだが・・・・・・全く、君は型破りと言わざるを得ないな」



溜息をつく長官を、アスカは訝しげな視線で見た

その顔には、苦々しい表情が見て取られる



「惣流アスカ・ラングレー教官。
本日をもって貴君はゾディアック訓練施設より転属」

(また、左遷か)



アスカはそう思った

しかし、次に繰り出された言葉は、驚愕を軽々と飛び越すような言葉だった



「日本、特務機関ネルフへの配属が決定している。
なお、君の部隊、No,63:クリス隊も、君の転属に伴い、
特務機関ネルフへの特別留学生として同行することになっている」

「はぁ!!?」

「NO,63の留学期間は無制限だ。今日中に私物を整理したまえ。以上」



わけのわからぬままにアスカは敬礼し、長官室を退室していた

そして、廊下には見慣れた面々が



「えっと、あたし、左遷されることになったから」

「そうなんですか」

「奇遇ですね。教官まで左遷だなんて」

「ホント、そうね!」

「・・・・・・・・・・ネルフ」

「みんな、クビになっちゃいましたね」

「「「「「「あははははは」」」」」」

「あなた達、何かやったでしょ」

「はい、ちょっと署名運動を」



クリスが、アスカの目の前に一枚の紙切れを突きつけた



“惣流アスカ・ラングレー教官の免職を断固阻止!!”



そんなことが書かれている

その下には、署名した訓練生の名前がずらずらと書き綴られていた



「何か、厄介払いされたみたいよ。あたし達」

「まぁ、良いじゃないですか!」

「ネルフって、行ってみたかったんだし」

「・・・・・・・・・教官の、学校」

「アスカ教官の恋人の人ってどんな人ですかぁ!!?」

「日本語、勉強しなきゃ行けませんね」

「明日には出発よ。それに、英語くらい話せるから安心しなさい」



わいわいと騒ぎながら、自分達のユニットに帰ってゆく自分の教え子達

自分よりも年上なのに、妙に子供っぽく感じられる

それは、自分が大人のように、教官のように振る舞っていたからだろうか

大人ぶっていた自分の姿を、あの5人は見透かしていたのだろうか



確かなことは2つ



これからも、自分はあの5人の教官だということ

そして、また命を共にした仲間に会えるということ



「待ってなさいよ、シンジ!」



彼の驚く顔が目に浮かぶようで、アスカは一人でにやけていた










<日本:ネルフ学園>



「大ニュースです、大ニュースです!」



教官補佐の伊吹マヤは、研究室に駆け込んできた

そこには、葛城ミサト教官と、赤木リツコ教官がいた



「どうしたの?」

「アスカちゃんが、また左遷されたそうです!」



がくっ、と肩を落とす二人の教官

ミサトは、苦笑しつつマヤに聞いた



「で、今度はどこに?」

「ここです」

「「は?」」

「ネルフに教官として転属されることになったんです!!」

「・・・・・・・・・つい最近まで訓練生だった子が・・・・・・・」

「・・・・・・・出戻りで教官とはね・・・・・・・」



(また賑やかになるわ)



ミサトは心の中でほくそ笑んでいた



「どうするの?このことはシンジ君には・・・・・・」

「秘密よ。絶対にね」

「はいはい。そう言うと思ったわ。
それで、空港にはシンジ君を迎えに行かせたりするのね」

「もっちろん!」

「はぁ」



最近は実験を手伝ってくれる少年戸惑う姿を思い浮かべ、リツコは溜息をついた

生徒をからかうことが半ば生き甲斐になっているミサトは、燃えに燃えていた



「勝手にしなさい」

「そうするつもりよん」

「はぁ」



やっぱり、リツコは溜息をついた

ミサトは研究室を出ていく

シンジに、新たな任務を伝えるためだ

任務内容は、新規に配属される教官の出迎え



また、ネルフは賑やかになるだろう





つづく





後書き

・・・・・・・・ん〜、っと
次回は、ネルフに帰ってきた一同の話です
マナ達やケンスケ達の話も、そのうち書くつもりです

では