<ジオフロント立ネルフ学園・発令所>



「何ですか?ミサト先生」

「ん〜ふっふっふ、来てくれたわね」

「な、何ですか?その笑い方」

「気にしない、気にしない」

「いえ、気になりますよ!」

「ま、いいじゃないの」



ここで、ミサトは表情を引き締める

教官としての顔だ



「実は、アメリカから新しく教官が来ることになったのよ。
それで、空港まで迎えに行って欲しいの」

「僕が、ですか?」

「第三新東京市国際空港に、1時間後には到着するから」

「あの、その人の名前は?」

「・・・・・・さぁ、よほど大慌てだったのか、書類には書いてなかったわ」

「そんな・・・・・・・じゃあ、どんな外見なんですか?」

「そうね・・・・・・・・・・・・・美人よ」

「美人?ミサト先生は見たことがあるんですか?」



心の中で自分の失言に舌打ちし、ミサトは慌てて言い繕った

教官としての顔が剥がれかけているようだ



「い、い、いやぁ、そんな気がしただけよ!
それに、女性教官って言うことは聞いてるし、
ん、ネルフって美人が多いじゃない!ほら、あたしみたいに!!
だから、今度着任する教官もきっとあたし程じゃない美人なんじゃないかなぁって・・・・・・・」

「はぁ・・・・・・・わかりました。プラカードは持っていきますよ」



あきらめの境地に達したシンジは、発令所を後にしようとして

振り返った



「空港までの足は、手配してくれてるんですよね?」

「とーぜんよ。じゃ、頼むわよーん」



ひらひらと手を振って、ミサトはシンジを送り出した





 


 
 

 風、薫る季節

 #4:ひとまず、再会

 
 











<研究室>



「はぁ・・・・・」

「あら、どうしたの?シンジ君」



シンジは、リツコの研究室に来ていた

午後から実験の予定があったからだ

溜息をつくシンジに、リツコが声を掛ける

レイも、心配そうな視線を送っていた



「すみません。午後の実験はちょっと・・・・・・・」

「あぁ、新しい教官のお迎えね」

「あ、はい。知ってたんですか?」

「えぇ、ミサトから・・・・・・・・・・実験の方は良いわ。
レイもいるし、着任される教官に失礼の無いようにね」

「了解。
ごめんね、綾波」

「・・・・・・・・・良いわ。行ってらっしゃい」

「うん」



ちらり、と研究室の片隅に視線を送る

そこにあるのは、身長が3mほどの痩躯

紫色の悪魔の姿があった

汎用人型決戦兵器、人造人間エヴァンゲリオン

破壊された零号機に続く機体。初号機

視界の隅に、レイがヘルメットのようなインターフェイスを被っている姿が入った

実験を始めるのだろう



「頑張って」



レイにそう声を掛けて、シンジは研究室を後にした










<その頃のアスカ達>



「ねーねーきょうか〜ん」

「・・・・・・・・・・・・・・」



ヒルデが何か言っている

断固、無視

これ以上馬鹿にされるのはごめんだ



「あの、教官。具合でも悪いのですか?」

「具合の方が悪くないわよ」

「あぁ、機嫌がよろしくないのですか」



チャーミーがいつもののんびりオーラを発散しながら笑顔で言う

どっと、疲れが増したような気がする



アスカは、自分の部隊の訓練生である五人組・・・・・・

クリスティナ・グリムエッジ

ラキ・フュリィ

サトミ・フワ

ヒルデ・プレセア・フェイムフェイン

チャーミー・ロレイン

の5人に、ネルフ時代の話を少しだが聞かせてしまった

最初は、訓練や授業の話だったのだが、いつの間にかシンジの話になっていて・・・・・・・・

気がついた時、既に遅かった

5人の年上の隊員は、ここぞとばかりにアスカをからかい、今もその話題で盛り上がっていた



「・・・・・・・・」

「きょうかん、きょうか〜ん。ファーストキスはどんな風にでしたかぁ?」

「うっさい!!!!!!!」

「ひぐぅ!!折角“ごがく”の為に聞きたかったのにぃ!」

「後学のため?」

「はいです」

「ってことは、ヒルデはまだキスしたこともないの?19なのに?」



俄然、高姿勢になるアスカ

年上がなんぼ

目の前にいる19歳はキスの経験もないのかと思えば



「はんっ!!ヒルデもまだまだ子供ね!!キスの一つもしたことがないなんて!」

「あるですよ。何回も」

「はいっ!?」

「“ぼーいふれんど”くらい、ヒルデにもいましたですー」



ヒルデ・プレセア・フェイムフェイン

お子様な性格で部隊で一番精神年齢が低いが、流石19歳

アスカと4歳の差は伊達ではない



「ど、どこの幼稚園児よ!!?」



惣流アスカ・ラングレー、精一杯の抵抗



「違うです。同じ訓練施設の男の子です」

「あ、ラウニーの事?」



フュリィがひょこっと顔を出した

アスカは慌ててフュリィを問いただした



「フュリィ、教官命令です。そのラウニーについて知ってることを吐きなさい」

「はい?」



怪訝そうな顔をするフュリィ

しかし、ヒルデが勝手に喋りだした



「ラウニーは、ラウニー・ミュレッツっていう名前で、
訓練コースはあたしとおんなじコースでした!!」



ゾディアックの訓練施設では、最初の1年間は個人別のコースで基礎を学ぶ

そして、訓練生の部隊が編成され、部隊での訓練を行うようになる

ヒルデと件のラウニーは同じ、爆発物コースだった



「ラウニーって、ケーキ焼くのが趣味だったの!すっごく美味しかったんだから!」

「はいはい、良くわかったわ。
まったく、人は見かけによらないものね」

「・・・・・・・・」(こくこく)



向こうで、クリスが激しく頷いている

ちなみに、サトミはその隣で蒼い顔をしていた

再生紙のような真っ白な顔色で、必死に込み上げる物を我慢している



「そろそろ、到着よね」



アスカが呟いた










<第三新東京市国際空港:ロビー>



「はぁ」



シンジは、ここに来てから数十回目の溜息をついた

こういうことは、絶対に自分以外の誰かの方が向いていると思う



「どうせ、ミサト先生もいつも暇そうにしてるのに、こういうことは人任せなんだから」



プラカードを片手に、シンジは立ちつくしていた



「どこからどう見ても、これじゃ不審人物だよ・・・・・・・・」



シンジの横を通り過ぎる人が、珍獣でも見るような視線を向けていく

今、シンジはネルフの制服を持っていないので、仕方なく学生服を着ている

それ以外は、私服とか戦闘用学生服しかないからだ

そして、手に持っているのは極太の明朝体で



『ようこそ、ネルフ江』



と、黒地に赤で書かれたプラカード

はっきり言って、恥ずかしいことこの上ない



「うっわー!広い、ひろーい!!」

「ヒルデさん、走ると危ないですよ」

「・・・・・・・・」(こくこく)



賑やかな声が聞こえてきた



「何だか、賑やかな人達がいるなぁ・・・・・・」



ぼやきながら、シンジは待つ

前方にいるヒルデ達は、まだ騒いでいた

大声でヒルデがはしゃぎ、フュリィがそれを追っかける

サトミは今トイレ。臨界点を突破したらしい

チャーミーとクリスは、ヒルデ達の様子を見守っている。というかほっといている

シンジは、所在なげにプラカードを片手に突っ立っていた



「・・・・・・・・・チャーミーさん」

「何ですか?」

「・・・・・・・あれ」



クリスが、シンジを指さした

正確にはシンジが持っているプラカードを指さした



「『ようこそ、ネルフ江』、まぁ、あの方はお迎えに来られたのでしょうか?」

「・・・・・・・・・・・・・」(こくこく)

「教官、ネルフの方が迎えに来てくれていますよ」

「わかったわー。すぐ行くから」



微かに、その声がシンジの耳にも聞こえた

そうしていると、チャーミーとクリスがやってきた



「あの」

「はい?」

「ネルフの方ですよね?」

「はい、そうですよ。皆様をお迎えに上がりました」



(おっかしーなぁ、教官ってこんなに大勢なのかなぁ?)



シンジは首を捻った

まぁ、考えても結論は出ないので聞いてみることにした



「あの、皆さん教官なんですか?」

「いいえ、私達は訓練生ですよ」

「・・・・・・・・」(こくこく・・・・・頷いてるんです)

「え?僕は教官の出迎えに行けって・・・・・・」

「きょーかん、きょーかーん!!!早く来てよー!!!」



いつの間にか、ヒルデも来ていた

大声で彼女らの教官を急かしている



「うっさいわね!!すぐ行くわよ!!!!」

「ひぐぅ、教官が怒ったぁ・・・・・・・・・・」

「あ〜、よしよし、泣かないの」



30cm近い身長差だが、しゃがんでいれば話は別だ

フュリィはヒルデの頭をくしゃくしゃとかき回した

慰めているつもりらしい



「あの、怖そうな教官ですね・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・」(ふるふる)

「そんなことないですよ」

「・・・・・・・・でも、すぐ怒鳴るもん。怖いよ」

「誰が怖いですって!!!!?」



ヒルデの呟きが、その教官殿の耳に入った

教官殿は赤い髪を躍らせ、柳眉を逆立てている

右肩には、真っ白な顔色のサトミを担いでいた





「あ・・・・・・・・・アスカ・・・・・・」

「え、シンジ!!?」



それが、シンジとアスカの再会だった

堅い抱擁を交わす二人










ずり落ちたサトミが床で頭を打ったことなど、知る由もなかった










<車内>



「と、いうわけで、私達の部隊はまるまる左遷されちゃったのよ」

「そうなんだ。だから、訓練生の人達も一緒だったんだね」



ネルフが手配した車は、マイクロバスだった

シンジとアスカは、一番後ろの席に二人だけの空間を形成している

あの後、空港で散々からかわれた結果である。無理もない

前の方の席で、惣流隊の面々、あ、サトミ以外の面々がその様子を覗いていた



「・・・・・・・・あの人よね。例のシンジさんって」

「えぇ、間違いないと思います」

「・・・・・・・・」(こくこく・・・・・・・こればっかり)

「きょうかん、きょうか〜ん!!!
ここは一つお互いの親睦を深めるために自己紹介などしては如何でしょうか!!!?」

「むっ!」

「ひぐっ!!」



睨み付けるアスカ

一気に半泣きになるヒルデ

何だかんだ言っても、この二人は良いコンビかもしれない



「そうだね。それが良いと思うよ」

「わ、わかったわよ。シンジが言うなら仕方ないわよね・・・・・・・」



アスカのお許しが出ると、ヒルデは勢い良く席を立った



「はいはいはーい!!!
ヒルデ・プレセア・フェイムフェインでーっす!!!ヒルデちゃんって呼んでください!!!
趣味は料理で、好きな物はお菓子!!!!
主な仕事はどっかんどっかんっていう、爆弾テロのお仕事です!!!」



爆弾テロ云々のあたり、彼女自身意味がわかっていないが・・・・・・・・

まぁ、彼女はそう言うキャラクターだ

続いて席を立ったのは、クリス



「・・・・・・・・・・・クリスティナ・グリムエッジ・・・・・です」



そういうと、彼女は俯いてしまった

長い黒髪が彼女の表情を隠している

そのまま固まってしまった



「え、えっと、彼女はクリスティナ・グリムエッジ。通称、クリス。
剣術使いで、この部隊の纏め役ね。趣味とかは・・・・・・・・・・・?」

「・・・・・・・・・」

「あ、うん。読書だって」

「なんでわかるの?」

「そう言ったじゃない」



着々と、クリス語をマスターしつつあるアスカ

シンジには何を言ったのか全く判らなかった



「クリスはかなり無口でコミュニケーションとるのは難しいと思うけど、ホントは良い子だから」

「うん」

「・・・・・・・・よろしく、お願いします」



微かに、それだけは聞き取ることが出来た

続いて席を立ったのは、チャーミー



「チャーミー・ロレインです。
未熟者ですが、よろしくお願いします」

「えっと、チャーミーはスペルユーザーなんだけど、制御が出来ないのよ。
その辺が問題なんだけど、魔法の出力は理事長に並ぶわよ」

「理事長と同レベル!!!?」

「そ。信じられないでしょ?」

「う、うん・・・・・・」



困惑顔のシンジ

続いて立ち上がったのはフュリィ



「ラキ・フュリィです!!
主なポジションは重火器による後方援護!!
これからよろしくお願いします!」

「う、うん。よろしく、お願いします」



フュリィの大声が車内に響き渡った

耳に来ているシンジ

アスカは既に慣れている

他の隊員も当然、慣れている



「あ、それと、もう一人。
サトミ・フワっていう子がいるんだけど、ちょっと飛行機に酔ったみたいで、今は寝てるから」

「そうなんだ」





決定的なとどめを刺したのはアスカ

まぁ、それから賑やかに質問攻めにされつつ、車はネルフに向かってゆく










<ジオフロント立ネルフ学園:学園長室>



「惣流アスカ・ラングレー、以下5名。
本日、本時刻より特務機関ネルフに着任いたします!」

「うむ、着任を認めよう。
君達の転属手続きは既に終わっている。
惣流君にとっては慣れ親しんだ母校だ。今日は羽を伸ばしてくれたまえ」

「はいっ!」

「それと、施設内の案内は早めにしておくこと。以上だ」

「はい!では失礼します!」

「今後の活躍に期待する」



学園長室から出た5人は、びびりまくっていた

なんせ、ゲンドウである

無理もない

5人とも、来るんじゃなかったという顔をしていた



「・・・・・・・・・」

「いつまで惚けてるの?さ、行くわよ」

「どこにですか?」

「まぁ、とりあえずみんなに紹介して回らないと」



と、いうわけでアスカは発令所に向かった










<発令所>




「あ、おかえりー。アスカ」

「えへへ、ただいま」

「なんや、えらい早いやないか」

「うっさいわよ、ジャージ」



発令所に来たアスカ

真っ先に声を掛けてきたのは、ヒカリとついでのトウジだった



「あ、今はアスカって教官なんだっけ?」

「うん、そうよ」

「じゃあ、上官になるのよね」

「やめてよ、そんなの。同級生なんだし、教官なんて関係ないわよ」

「そうよね。それで・・・・・・そっちの人達は?」

「あぁ、あたしの受け持ち部隊。えっと、面倒だから以下省略」



派手にこける5人

某新規劇のようだ



「そうなんだ。皆さん、よろしくお願いしますね」

「・・・・・・・わかったの?」



アスカのツッコミを無視して、ヒカリは5人に挨拶

そうしていると、教官三人組がやってきた



「やっほー、アスカ」

「ミサト!!」

「随分早い帰国だったわね」

「リツコ!!」

「よ、元気だったか?」

「加持さん!!」

「それにしても、つい最近卒業した子が、今では同じ職場の同僚とはね・・・・・・」

「ま、良いじゃないか。賑やかになるのは良いことだぜ?」

「そーよ、その方が楽しいじゃない」

「楽しけりゃ良いってものでもないでしょ!!」

「ぶー、リツコの意地悪」

「ぶー、リッちゃんの意地悪」

「加持君がやっても似合わないわよ」



その様子を困った顔で見守る教え子達

困惑顔でおろおろしているクリス達



「あ、あの、アスカ教官」

「何?サトミ」

「この方達、教官なんですか?」

「そうよ。あたし達の教官で先生」

「そうなんですか・・・・・?」



疑わしそうな5人

無理もない

今でも子供じみた言い争いが続いているからだ



「あ、そういえばレイは?」

「綾波やったら、研究室とちゃうんか?」

「確か、エヴァンゲリオンの適格者に認定されたらしくて、実験を手伝ってるらしいわ」

「そうなんだ。じゃ、行ってみましょ」

「「「「「は(〜)い」」」」」



ぞろぞろと歩く惣流隊

目指す先は研究室

そこには、アスカにとって最高の友達と、最強の恋敵がいるのだ










<研究室>



アスカは、ごつい耐爆ドアの横にあるコンソールのチャイムを押した

しばらくすると、モニターにシンジの顔が映る



『アスカ、どうしたの?』

「レイがここにいるって聞いたから、ちょっとね」

『そうなんだ・・・・・・でも、今はシンクロの実験中だから、静かにね』

「りょーかい。ドア開けてよ」

『うん』



以上のやりとりを終えると、厚さが30cm程もあるごっついドアが開かれる

圧搾蒸気が抜ける音がして、研究室の封印が解かれた

以前は完全にリツコの牙城とかしていたが、今ではシンジやレイが手伝いに来るため、

この封印も簡略化されつつある

以前はパスワードがなければ入れないという厳重さ

しかも、セキュリティに連動していたので、間違えれば警報が鳴るようになっていた



「お邪魔しまーす」

「「「「「まーす」」」」」

「しーっ」



シンジが、人差し指を口の前で立てた

アスカは五人に同じ事をして、シンジに親指を立てる



(OKよ)

(うん、気を付けてね)



シンジは、親指と人差し指で○を作り、もう一度人差し指を口の前で立てる

二人の間で交わされているのは、会話ではなく手話

戦闘中に、音を立ててはいけない状況下で意志疎通を図るための無音会話である



(あそこだよ)



シンジは、レイが座っているところを指さした

無菌室の中で、レイは鼻までを覆うヘルメットのようなインターフェイスを被っている

奥のブースでは、紫色のエヴァが緩慢な動作で動いていた

レイが動かしているのだ

シンジは、キーボードを叩いてレイに伝えた



『アスカが帰ってきてるよ』



その文章が、レイの網膜に投影される

僅かに確認できる口元が、微かに驚きを形作った

くすっと微笑むと、ブースの中のエヴァがアスカ達の方を向いた

緩慢な動作で、手を振っている

アスカも、微笑みながら手を振った

シンジはその様子を見ながら、キーボードを叩く



『今日は、終わろう』

『了解』



レイの考えた言葉をインターフェイスが拾って、モニターされた

電源を落とし、レイがインターフェイスを外して無菌室から出てきた



「ただいま!レイ!」

「おかえりなさい、アスカ」



微笑みを交わす二人

レイは、アスカの後ろにいる5人に視線を向けた



「この人達は?」

「あ、あたしが受け持ってる部隊の隊員よ。あたしの生徒」

「生徒?」

「ん〜、詳しく話すと長くなるから、食堂でも行かない?シンジも行けるわよね?」

「うん、大丈夫だよ」

「じゃ、行きましょ」











<食堂>



8人で賑やかにやっていると、

いつの間にかヒカリとトウジが来たり、

いつの間にかミサトとリツコと加持が来たり

果ては、ゲンドウと冬月とユイまで来ていた



「うむ、では面子が揃ったところで・・・・・」



ゲンドウの静かな言葉に、一同は押し黙った

何を言うかわからないからだ



「えー、せんせーがー、このネルフ学園のー、学園長を勤めているー、碇ー、ゲンドウですっ」

「金○先生ですかぁぁっ!!!!!!!?」



思いっきりツッコミを入れるユイ

きっとこの夫婦なら、その天然の漫才で、努力肌の芸人さんの天敵になるだろう



「えー、至らない点もー、多いとー、思いますがー、そこんとこ夜露死苦ッ!!(何か違う)
じゃ、そっちの席から自己紹介っ!!!!」

「しつこい!!!!」

「ぐはぁっ!!!!!!!」



どこからともなく取り出したお盆の一撃が、ゲンドウを叩き倒した

勿論、ユイの手によって



「全く、あなたったらいい年していつまでも子供なんだからホントに・・・・・・」

「ごほむ、ユイ君」

「はい?」

「皆、引いているぞ」

「えっ?」



冬月とユイを除く全員、引きつった表情で後ずさっていた

慌てて笑顔を繕うユイ



「あ、ごめんなさいね。いつものことだから気にしないで」



迫力のある笑顔だった

ただ、それだけを明記しておこう

そして、なし崩し的に自己紹介が始まる



「えっと、私は購買担当の碇ユイです。ユイさんって呼んでね。
それで、と」



ユイは、足下に転がっているゲンドウを持ち上げて見せた



「この人がネルフ学園の学園長で、碇ゲンドウ」

「え、碇って、まさか・・・・・・・」



フュリィが、怪訝そうな顔をする

5人以外は全員溜息をついた

ま、仕方がないか



「えぇ、夫婦なのよ」



その言葉に、少なくともフュリィとサトミとヒルデは死ぬほど驚いた

クリスとチャーミーも、それなりに驚いていた



「正確には私が嫁いだんじゃなくてこの人が婿養子に来たんだけど・・・・・・・
まぁ、そんな話はどうでも良いわよね?」

「あぁ、問題ない」



ぼこっ



ゲンドウの頭が床を叩いた音

洒落にならないような気がしたが、誰もそれを指摘しなかった

続いて、冬月



「私は、冬月コウゾウだ。この学園の理事長を務めている」

「理事長は、私達の結婚の時の仲人とか色々やってもらって、すごくお世話になってるわ。
この人(どかっ!)が馬鹿なことしたときのフォローとか、
この人(ごすっ!)が余計なことを言ったときのフォローとか、
この人(がつっ!)が法に触れるようなことをしたときの揉み消し工作とか」

「理事長・・・・・・そんなことをしてたのですか?」



テーブルの下から聞こえてくる不穏な音は聞き流して、

怪訝そうな眼差しの一同



「そ、そ、そ、そんなわけないだろう、ユイ君も急に何を言い出すのかね?」

「あら、そんなこと・・・・・・・例えば」

「さ、さ、次は加持君だ!」



慌てる冬月

やはり、何か隠し事があるらしい



「俺は加持リョウジ。体術系の訓練と地理・歴史を教えてる。よろしくな」

「私は葛城ミサト。銃器系の訓練と国語を教えてるわ。よろしくね」

「私は赤木リツコ。魔法系の訓練と科学、数学が担当よ。
あなた達、ミサトの授業は真面目に受けても仕方がないわよ。
担当科目は国語だなんて言ってるけど、まともな授業を期待してるときっと落胆するわ。
ビール片手に教鞭振るような先生、いないでしょ?」

「なによそれ、どーいう意味よ!!?」

「言ったまんまよ」

「何よ!!リツコだって科学の授業中にとんでもないことやってるじゃない!!」

「どんなことよ」

「爆発物から毒薬から、危険きわまりない技術を伝授してるのは何処の誰よ!?
それこそ、授業では絶対に不必要だわ」

「探索時においては、必要かもしれない事態があるわ」

「だからって、あんたねぇ!!!実験中に生徒が死んだらどうするのよ!!!?」

「事実の隠蔽なら、MAGIを使えば簡単よ」



その言葉に、生徒達が過敏に反応した

一歩間違えば自分達も・・・・・・・・・・・



「と、言うのは勿論冗談よ」

「冗談、ですか?」



声が震えているシンジ

リツコは怪しいくらい素敵な笑顔で応じた



「冗談よ」

「ま、まぁ、そういうことにしといてあげるわよ」



これまた、声が震えているミサト




「えと、気を取り直して、次は・・・・・」

「はい、洞木ヒカリです。
サポート系のスペルが得意です。よろしくお願いします」

「あ、私もスペルユーザーなんです」


と、チャーミー



「そうなんですか?じゃあ、一緒に頑張りましょう」

「あー、やめた方が良いわよ。ヒカリ。
チャーミーの魔法、制御が不十分で禁呪並みの破壊力だから。
理事長に直接指導を乞いたいくらいよ」

「そ、そうなの?」

「え、えぇ、実は・・・・・・・」

「ま、今は授業の話なんぞどうでもええやんか。
ワイはトウジ、鈴原トウジや。よろしゅうにな!」

「私の番・・・・・・・?」



レイが、静かに聞いた

一応、みんな頷いてみせる

レイは席を立った



「綾波、レイです。
攻撃系スペルとサード「ぬぅわあああああぁぁぁぁ!!!!!!!!!」が得意です」



突如、大声で叫ぶゲンドウ

いきなりの復活と大声に、一同はびびりまくった



「どうかしたのですか?あなた」

「い、い、い、い、いや、問題ない」

「じゃ、レイ、続きをどーぞ」

「あ・・・・・・終わりです」

「じゃ、次はシンジね」



にこにこ顔のユイ

息子が困惑する様を見て微笑むとは、結構非道い



「えっと、碇シンジです」

「い、碇って、まさか!!!?」



フュリィが叫ぶ

他の5人も似たような様子だ



「はい。子供です。父さんと母さんの」



と言って、シンジはゲンドウとユイを指さした

既に声もない5人

あ、クリスは元々そういうことに関心はないし、チャーミーはいつもマイペースか



「軽戦士コースで、今は綾波の実験を手伝ったりしています」

「これで、全員ね」

「あの、私達は・・・?」

「あ、大丈夫よ。アスカちゃんや他の人から十分聞いたから。自分の口から言いたいことがある?」

「いえ、特には・・・・・・・」

「じゃあ、ひとまず解散ね。
あ、その前に授業をどうするか決めないと」

「そうね」

「ほな、ワシらは帰ろか?そろそろ交代の時間やし」

「あ、いっけない!ごめんね、アスカ」

「いーのよ。仕事?頑張ってね」

「うん!」



トウジとヒカリは食堂から出ていった



「じゃ、俺も発令所に戻ります」

「そうね。あたしも研究室に戻らないと」



加持とリツコも出ていった



「さて、まずは、教官就任おめでとう。惣流君」



ゲンドウが、静かに口火を切った



「教官任務が如何に厳しいものかは、既に身に染みてわかっているだろう」

「はい」

「では、先に言っておこう。
ネルフ学園の現状は、まず、地下迷宮が現在閉鎖中だ」

「えええぇぇぇっ〜!!!!!」

「復旧の目処は立っているが、それでも1ヶ月は掛かるだろう。
この1ヶ月の間は、ネルフでの基礎訓練に励んでくれたまえ。
君は総流隊の専属教官として、この5名に集中してくれればよい。
教官権限として、全施設の使用を許可する。
協力を仰ぎたい場合は、申し出れば可能な限り応じよう」

「はい。
では、シンジとレイを貸して下さい」

「「えっ!?」」

「私一人では、至らない部分もあります。
この二人にも協力してもらおうと思っています」

「ふむ・・・・・・・・・」



考え込むゲンドウ

シンジとレイに視線を向けた



「二人の都合は?」

「僕は、大丈夫だと思います」

「私は、シンクロ実験があるので、そう頻繁には出れないと思います」

「あ、だったら、理事長にお願いします」

「私に?」



驚く冬月



「彼女、チャーミーの魔法の扱いに関する指導をお願いしたいのです」

「ふむ・・・・・・・良いだろう」

「ありがとうございます」

「では、明日より訓練に励むように。
校舎等の施設の復旧は終わっているので、好きに使ってくれてかまわんぞ」

「はいっ!」

「寮は、部屋を空けてるから。
女子寮の窓口で決めれば良いわよ。
それと・・・・・・・・・・・・・・・」



ユイは、アスカの方を見ていった



「アスカちゃんは教員寮にも入れるけど、どっちが良い?」

「え、女子寮の方が良いですよ。
毎晩ミサトに絡まれるのはゴメンです」

「あんですって?」

「まぁ、それもそうね。部屋は代わっていないから、いつもの部屋ね」

「やたっ!!」

「じゃあ、今日は解散、と」



席を立つ一同

しかし、ゲンドウがシンジを呼び止めた



「あ、シンジ」

「何?」

「残れ」

「うん」



食堂から、みんなぞろぞろと出てゆく

二人っきりになったところで、ゲンドウが口を開いた



「シンジよ」

「な、何?」

「浮気はいかんぞ」

「はぁ?」

「今回の5人。揃いも揃って美人揃いだ。
特に、クリスティナという娘、かなり良いと思うが、しかし、お前。
二股はいかんぞ」

「・・・・・・・・・・あの、二股は父さんの方じゃないの?」

「何を言う!!!あたしが愛しているのはユイだけだ!!」

「じゃあ、クリスさんの話は?」

「ふっ・・・・・・・彼女は恋愛対象だ」

「それって、結局二股、しかも浮気なんじゃ・・・・・・・・・・」

「えぇい、男らしくないぞ、シンジ!!
で、お前は一体、誰が良いのだ?」

「へぇっ!!?」



唐突な質問に、シンジは目を白黒させるばかりだった



「誰だ?わかったぞ、きっとチャーミー君だろう?
それが違うならサトミ君だ。ヒルデ君のような娘はお前は苦手だろうし、
フュリィ君も悪くないな」

「と、父さん?」

「ふむふむ・・・・・・いや、お前は惣流君とレイを両天秤にかけていたな」

「そ、そんなことしてないよ!」

「じゃあ、どっちなのだ?」



色眼鏡の奥の瞳が、鋭くシンジを射抜く

かつてない真剣な形相に、シンジは息を飲んだ



「・・・・・・ア、アスカだよ」

「そうか!では、レイは私が貰うぞ」

「な、何考えてるんだよ!?父さん!!」

「良いではないか。そうかそうか、レイではなく惣流君だったとは・・・・・・・
よし、良いぞ。末永く幸せになれ。18の誕生日と同時に挙式だ」

「挙式って、父さん!!?」

「決まっているだろう。結婚式だ」

「だ・か・ら!!!!さっきからおかしいよ!!!!」

「ふむ、おかしいか?」

「おかしい!!!」

「問題ない」

「問題ある!」

「むぅ、そんな切り返しを身に付けたか。成長したな。シンジ」

「嫌な褒め方しないでよ!!」

「嫌か?」

「嫌だ」

「ならば仕方がない。帰れ!!」

「帰るよ!!!」



シンジは勢い良く席を立つと、大股に去っていった

シンジの背中に、ゲンドウは言葉を投げかけた



「シンジ、サードインパクトの真相はトップシークレットだ。
レイがリリスであることも含めてな。
そえと、渚兄妹も紹介しておけよ」

「うん」



カヲルは未だに回復していない

体力が戻れば、すぐにでも動けるようになるだろうが、今はまだ無理だ

サヲリは一日中カヲルに付き添っているので、ほとんど顔を見ることがない





「アスカが、教官。か」



シンジは、一人呟いた



「他のみんなはどうしてるかなぁ・・・・・・マナ達に、ケンスケか」





つづく





後書き

ん〜、今回は路線変更が急だったからか、いまいちです
次回は、遺跡探索をしているマナ達の話です

派手にアクション物です