前略

皆様、お元気でしょうか?

私達は、そこそこ元気にやっています

遺跡探索、使徒狩りというのはなかなか楽しくもあり、危険でもあり、

適度なスリルが癖になりそうですが、まぁ適当にやっています

今、私達は南米にいます

今回の依頼は、空軍基地跡の調査です

何でも、派遣した調査隊が全然帰ってこないんだそうで、

私達に話が持ちかけられたようです

簡単な仕事のわりに報酬も良いし、お土産でも買っちゃおっかな?

今回の仕事が終わったら、一度ネルフに帰るつもりでいます

では、お元気で



霧島マナ




風、薫る季節


#5:蒼から生み出されたモノ

 

 











「ふー」



額を流れる汗を拭って、マナは吐息を洩らした

南米、ブラジルのジャングルの奥地にある空軍基地を目指しているのだが

何にしても、暑い



「ね、もしかして調査隊の人達ってさ、日射病で倒れたんじゃないの?」

「んなわけないだろ」



マナの意見を一蹴したのは、ムサシ



「でも、そうだとしても不思議ではないくらいの暑さですよ・・・・・」

「そうだね・・・・・ホント、暑いや」



マユミとケイタも頷いた

どうやら、ここで小休止しようというはらのようだ

ムサシが折れた



「はぁ、わかったよ。ちょっと休憩しよう」

「さんせー」



マナはそう言うと、ライフルを近くの大木に立てかけて、木の幹に寄り掛かった

上を見ても、ほとんど空色を見ることができない

視界を覆うのは、緑の木の葉と複雑に絡み合った枝

下を見ても土は見えない

有るのは一抱え以上もあるような木の根がそこら中に

むせるような大地の匂いが辺りに充満している

そして、時々名も無き支流や水たまりがあったりする

鳥や動物の鳴き声も凄い

しかし、最も厄介なのはスコールだった



「あ、もうすぐ降り出すよ」

「げ、マジか!?」

「うん」

「ケイタ!荷物、濡らすなよ!
マナは屋根を作るから手伝ってくれ!」

「「了解!!」」

「あの、谷口君。私は・・・・・」

「あ。お茶でも淹れといて」

「はい」

「何よ。マユミだけ贔屓にしちゃって」

「い〜じゃないかよ。山岸さんのお茶がうまいんだ」

「うっ、そりゃそうだけどさぁ・・・・・・」



文句を言いながらも、二人は作業を進める

ケイタが「雨の匂い」を感じ取ってから、3分間が勝負だ

鉈やナイフで木の枝を切り、頭上に絡み合っている枝に渡し、その上にでっかい葉っぱをかぶせる

ケイタは、屋根の下の丈夫な木の枝に、荷物をくくりつける

マユミは、木の枝に腰掛けて木のうろの中でお茶を淹れる準備を始めた

きっかり3分後、とはいかなかった

正確には、2分49秒後、叩きつけるようなスコールが降り注ぎ始めた



ずずっ

お茶を啜った音である

今日はどうやら緑茶のようだ



「空軍基地って、まだなのかなぁ・・・・・」

「何にしても、早めに辿り着けないと物資が続かないよね」

「いざとなったら狩りでもするしかないか」

「空からも見つけられなかったんですよ。本当に、存在するのでしょうか?」



マユミは、空から辺りを偵察したことがあった

しかし、眼下に広がるのは鬱蒼としたジャングルだけだった



「まさか、ジャングルの中に隠れてる。なんてな」

「でも、案外そうかもね」

「だとしたら、厄介だなぁ」

「今日は、ここで野営しますか?
微かに使徒の反応がありますし、夜間の行軍は避けた方が・・・・・・」

「ン〜・・・・・・マナはどう思う?」

「あたしは強行軍でも目的地を目指す方に一票」

「じゃあ、そうするか。
ま、使徒が出てきたら叩っ斬れば良いだけの話だしな」

「そうですね」

「あ、雨、止んだよ」



4人は、荷物を纏めると歩き始めた

真昼でも薄暗いジャングルは、夕暮れになると闇に閉ざされる

夕方と夜の区別などつきはしない

暗いもんは暗いのだ

しかし、お陰で睡眠不足に悩まされることはない

ジャングルに光が戻るのは、昼前くらいになってからである

眠いもんは眠いのだ



スコールに打たれ、

吠え猿に悩まされ、

時には釣りなど楽しんで、

単調な色彩の世界で踊る極彩色の生き物を眺めた

しかし、その世界は唐突に終わってしまった



目の前に、灰色の建築物

目的地である空軍基地が広がっていた










<空軍基地>



一言で言ってみよう

様子がおかしい



「・・・・・・誰も、いないみたいね」

「でも、気を付けてください。大きな反応を感じます」

「羽化拠点、か?」

「・・・・・恐らく」

「どうする?とにかく施設内を調べないことには何もできないよ」

「そうだよな・・・・・よし、二手に分かれよう」

「「「了解」」」



ムサシとマナ、ケイタとマユミの二人組が二手に分かれた

何故、この組み合わせなのかと問われれば、暗黙の承諾というか、

そんなもので成り立っているのである










<ムサシ&マナ>



「おかしいな・・・・・・人っ子一人いない」

「使徒の反応があるとか言ってたけど、使徒だって全然いないじゃない」



二人は、基地の東側を調査していた



「ん、『電算室』か。記録、残ってないかな?」

「電源は生きてるみたいだし、調べてみる価値はあるかもね」



きぃぃ・・・・・・・・・・・



ドアが軋む音が、嫌に大きく響いた

背筋が寒い

何故だろう、使徒と直面したときなんかよりも、ずっと怖い



「・・・・・・ここにも、誰もいないか・・・・・・」

「あれ?パソコンの電源、入りっぱなしになってるわ」



パソコンのモニターは、確かに光を放っていた

マナはパソコンの前に腰掛け、中身を洗ってゆく

その間、ムサシは部屋の中を調べていた



「・・・・・・えっと・・・・・?」



何かの、実験記録のような物を発見した

最初の記録を開く



・得体の知れない物を発見した
 しかし、これは大出力のエネルギーを発生させることが判明した
 うまく使えば、色んな事に役立てることができるかもしれない
 我々は、これを「蒼」と呼称することに決めた



「ふ〜ん・・・・・・・こんな手掛かりが残ってるなんて、まるでゲームみたいね」



・「蒼」の安定に成功した
 「蒼」から発生するエネルギーを電力に変換することにも成功し、驚愕した
 この基地の全電力を、軽くまかなってしまったのだ
 驚くべきエネルギー量である
 それにしても、最近虫が多い



「「蒼」、「蒼」って言われても、一体「蒼」って何なのかしら?」

「マナ、コーヒー飲むか?」

「ん、お願い」



そこからしばらく、似たような記録が多い

「蒼」を如何に活用するかについての記録のようだった





・ゲイリーが消えた
 ゼノンも消えた
 行方不明の者が多い
 脱走なのだろうか?
 既に10人近くが姿を消している
 早急に原因を探らねば・・・・・・・・・



「次は隊員の行方不明?・・・・・・どういうことなのかしら?」

「ほれ、コーヒー」

「ん、サンキュ」



そして、最後の記録





・全てが判った
 皆、「蒼」に喰われてしまったのだ
 「蒼」の手先である虫共は、人間が寝静まったところで活動するらしい
 人の体内に卵を産み付け、それが羽化したときは「蒼」の操り人形だ
 そして「蒼」に喰われてしまう
 「蒼」をこのまま放っておくわけにはいかない
 何としても、破壊しなければならない
 
 
 もし、私が失敗したときは、この記録を読んだ誰かが私の遺志を継いでくれることを願う



マナは、震える手でコーヒーを口に運んだ

インスタントの安っぽい味が口の中に広がる



とんでもないことに気付いた



「ムサシ!」

「なんだよ?」

「このコーヒー、あんたが淹れてくれたの!?」

「いや、そこの魔法瓶に入ってたんだ。もしかして、悪くなってたか?」



ムサシが指さした先にあるのは、そんなに新しくないタイプの魔法瓶

保温性はそんなに良くないはずだ

マナは、カップを取り落とした



コーヒーは、まだ温かかったのだ










<ケイタ&マユミ>



「何だろう?随分、虫が多いな・・・・・・」

「でも、こんな虫、見たことも無いですよ?」



二人は、倉庫であろう建物の中にいた

倉庫の中には、鋼鉄の翼を持つ空飛ぶ棺桶がたくさん横たわっている



「空軍基地としての機能は残したまま。しかも、電源さえも生きている」

「おかしいですよね・・・・・・・・人だけがいないなんて」

「・・・・・・・!!!」



その瞬間、ケイタが振り向き様に弩を放った

静かに闇を切り裂いて、クォレルが貫いたもの

それは、誰がどう見ても、倒れている腐乱した死体に見えた

そして、クォレルは死体の胸を貫いていた

振り向き様に、“真っ直ぐ”放ったクォレルは、死体の胸を貫いていたのだ



信じられないものを見たような顔で、二人は青ざめた










「ケイタ、山岸さん!!ここ、おかしいぜ!!!」
「ケイタ、マユミ!!ここはおかしいわ!!!」
「ムサシ、マナ!!ここはおかしいよ!!!」
「谷口君、マナ!!ここは、何かおかしいです!!!」



顔を合わせるなり、4人はそう言った



「そ、そっちでも何かあったのか?」

「う、うん。信じられないかもしれないけど・・・・・・・死体が動いたんだ」

「そうか・・・・・・こっちじゃ、もっと青ざめるような情報を入手しちまったよ」

「な、何ですか?」

「この基地、今は人がいないけど、それって、
もしかしたらほんの半日くらい前からなのかもしれない」

「ど、どうして!?」

「・・・・・・魔法瓶の中のコーヒーが、まだ温かかったのよ」



ケイタとマユミは、言葉を無くした



「今すぐここを脱出したいところだけど、そう言うわけにも行かないぜ」

「うん。原因を突き止めないと」

「そうですよね」

「おっし!!とにかく行くわよ!!!」

「「「おぉっ!!」」」



全員、武器を抜いた

背負っていた大剣を抜き、荷物の中から銃を組み立てる

地上の施設内をくまなく捜索したが、それらしい手掛かりはなし

倉庫の死体も調べたが、腐敗が進みすぎていて何の情報も掴めなかった



「残るは、地下か・・・・・・」

「悩んでても仕方ないわ。行くわよ」



階段を下りて、防火扉のような頑丈で重い扉を開ける

マナは、そっと隙間から覗き込んだ



そこには、人間がいた



訂正



人間だったモノがいた

既に、人間をやめていることは明白だった

全身に肉が腐敗している

そして、胸の中心に蒼い光が見えた

マナと目があった

腐った吐息で、一気に胸が悪くなった



悲鳴も上げず、手榴弾のピンを抜いて隙間に放り込む

扉を乱暴に蹴りつけて閉める

叫んだ



「後退ーーーーーーー!!!!!!!!」



防火扉が吹っ飛ぶ

爆風と熱風が溢れ出してきた



「おい、マナ!!一体、何があったんだ!!?」

「し、使徒よ!!!人間の使徒!!!」

「「「人間の使徒!!!?」」」



出てきたモノは、まさしく人間の使徒

腐乱死体にしか見えないが、胸には見まごう事なきコアが付いている

ただし、そのコアは「蒼い」



「蒼いコアなんて、存在するのかよ!!?」

「目の前にあるでしょ!!!」



マナが、フルオートで撃ちまくった

肉片が飛び散り、辺りを腐臭が覆ってゆく



「くっ!!」



ケイタはコアをピンポイントで狙った

動きが襲い目標なので、十分狙撃できる

コアを貫かれた使徒は、倒れて動かなくなる



「うざってぇ!!!!
スラッシュプログラム:ファンクション!!フィールドレベル:15!!
ロスト・ギルティ:ドライブ!!!」



腐乱死体を、ムサシの「魔法」が薙ぎ払う

突き進む四人

目の前をうろつく人間の使徒を、苦もなく切り捨て、打ち倒しながら奥へと走る





どうやら、手荒な歓迎部隊が出迎えたくれたのは、最初だけのようだった

その後、敵らしい敵はなく、迷路のように入り組んだ地下通路を奔走する



「それにしても、「蒼」っていうのは一体何なんだろうな?」

「「蒼」?」



マユミが聞き返す



「あぁ、この基地の記録にあったんだ。
何でも、「蒼」に喰われるとか、虫に襲われるとか」

「虫って・・・・・・・随分たくさんいたんですよ!!」



悲鳴に似た声で言い返した



「あ、安心して良いわよ。寝ている人間しか襲わないらしいから」

「ほっ・・・・・・・・・
でも、「蒼」というと、先ほどの使徒のコアも「蒼」かったですよね」

「「蒼」に喰われる・・・・・・・もしかして、「蒼」に喰われた人間の成れ果てなのかな?」

「かもしれねぇ・・・・・・けど、「蒼」ってのはホントに何なんだ!?」

「それを確かめに行ってるんじゃないか・・・・・」



ケイタがぼやいたときだった

例の「虫」が、通気口から黒い煙のように吹き出してきた



「うわぁっ!!」

「くっ!!」



咄嗟に、ATフィールドを展開した

ぶち当たった虫が、汚く潰れる

一番余裕があったマユミが、通風口をATフィールドで遮断した



「シューティングプログラム:ファンクション!フィールドレベル:3!
エクスプルーシブ・ファイアボール:ドライブ!!」



マナが作った、小さな爆裂火球が、虫の群を焼き尽くす

ATフィールドの中に入り込んで、皮膚に針を突き立てようとする虫は叩き潰した

汚かったけど



「おし、行こうぜ!」

「・・・・・・そう言いたいところですけど、どうやらお客様のようです」



マユミが、手に持っている杖で通路の先を指した

そこには、身の丈3mほどもある巨体の使徒が腰を屈めている

ベースとなっているのは、やはり人間のようだが、こいつは既に形を失っている

指先も爪先も鉤爪になり、肩からは突起が生え、顔は既に何が何だか判らない

人間らしさを感じる部分など、どこにもない



「よし、俺が一発で決めてやる!」

「谷口君。ここは私に任せてください。こんな狭いところで大出力の魔法は危険です」

「魔法無しじゃ、後れをとるって言うのか?」

「そういうわけではありません。ですが・・・・・・・」

「男がごちゃごちゃ言うな!!!マユミにはマユミの考えがあるのよ!!!」



マナが後ろからムサシを殴り倒した

ものも言えず倒れるムサシを後目に、マユミは夢魔を身にまとった

全身を、ほっそりとした漆黒の甲冑が包み込む

軽く翼をはためかせ、マユミは床を蹴って超低空で使徒の足下を狙った



「やぁっ!!」



裂帛の気合い・・・・・にはほど遠いが、十分に鋭い声だった

ATフィールドと夢魔の装甲に覆われた手刀は、使徒の膝を完全に砕き散らした

そのまま股下をくぐり、背後に回ると、今までにない戦法を取った

マユミは、素早くATフィールドを展開すると、その形を複数の「糸」に変えた

それを使徒の全身に巻き付けると、思いっきり締め上げる



グゴガアアアアアアアッ!!!!!



凄まじい苦悶の声だった

僅かに顔をしかめて、マユミは両手を引き絞り、背中に蹴りを見舞った



ヴツン



ワイヤーのように細いATフィールドが、使徒の巨体を切り裂いた音

他の三人は、口もきけなかった

マユミは夢魔の装甲をとくと



「急ぎましょう」



三人を促した



「ね、ねぇ、山岸さん。さっきのって、何なの?」

「ATフィールドの制御の応用です。
どういうわけか、私はあの形態で制御するのが得意なんです」

「ATフィールドの使い方も、人によって変わるんだ・・・・・・・・」

「きっと、河本君には河本君の得意な形があると思いますよ」

「うん」

「お二人さん。お話はそこまでみたいだ」



四人の目の前に、重厚な扉があった

「TOP SECRET」と書かれたシールが貼ってある

そんな物を無視して、扉のコンソールに指を持っていき・・・・・・



「暗証番号なんて、知らないよな」

「知らない」

「ケイタ、開けれないか?」

「・・・・・・・これは、無理だよ。幾ら何でも頑丈すぎる」

「仕方ないな・・・・・・・プログナイフで切開するか」



ムサシは、ベルトに刺してあったナイフを抜き、柄頭のスイッチを入れた

淡い光に包まれた刀身が、限りなく小さな振動を繰り返している事を掌が感じ取る



ドンッ!!



逆手に持って、扉を突き刺した

まるで、段ボールか何かのように、あっさり刀身が埋まった



ごりごりごりごりごり・・・・・・・・・・



ナイフを動かして入り口を切り開く



「よっしゃ!!」



ガンッ!!!



蹴りを一発、切った扉が重い音を立てて倒れた

そこをくぐってみると、中は計器類で溢れ返っていた



「凄いわ。外の様子までモニターされてる」

「・・・・・・何を観測してたんだろう」

「決まってるだろ。「蒼」さ」



ムサシが、親指で指したところに、それはあった

「蒼」だ

簡単に言うと、澄んだ深い青色を湛えた特大の水晶玉・・・・・・・

若しくは特大の蒼いコアだ



「これが・・・・・・「蒼」?」

「決まってるだろ。「蒼」いんだし」

「じゃ、とっととぶっ壊しちゃえば良いわね!!」

「おう!!派手に決めてやれ!!」



ポジトロンライフルを組み立てているマナを、ムサシが焚き付ける

組み立てたライフルを構え、マナはろくに狙いも付けず・・・・・・大きすぎて外しようがないのだ

燃料電池の続く限り乱射した

しかし、爆発も何も起こらなかった

光条は、すべて「蒼」に吸い込まれてしまったからだ



「・・・・・・・ちょっと、効いてないわけ!?」

「ま、マジか!?」

「・・・・・・・・・・・・吸収されたように見えましたわ」

「うん」

「成る程。「喰われる」っていうのは、こういうことも言ってる訳か」

「感心してる場合じゃないでしょ!!どうにかしないと!!!」

「ん〜・・・・・・持って帰ろうにもでかすぎるしな・・・・・やっぱ、俺の出番だな」

「ム、ムサシ!!判ってるよね!!?加減してよ!!」

「加減なんかしない。ピンポイントで集中させるから安心しろよ」



ムサシは、逆手に構えた剣の切っ先を「蒼」に当てると、詠唱を始めた



「スラッシュプログラム:ファンクション!!フィールドレベル:16!!
インパクト・バニッシュ:ドライブ!!」



全開の一撃だった

後のことなど考えていなかったのだから当然だろうけど

電池が一発で切れた

それでも、「蒼」には傷一つ付いていない



「・・・・・どうなってんだ!?」

「谷口君でもこれでは、私達が何をやっても無駄ですね」



その時だった

決して、小さくはない揺れが基地を揺さぶった



「じ、地震か!!?」



揺れは、徐々に激しくなってゆく



「ち、違うわ!!アレを見て!!」



マナは、コンソールにしがみつきながらモニターの一つを指さした

それは、外から基地の様子を映しているモニターだった



「・・・・・・ど、どこがおかしいんだ!!?」

「よく見なさいよ!!!」



気付いた

絶対におかしい

ジャングルは、全然揺れていないのだ

基地だけが、激しく揺れている



「あ、あ、・・・・・・まさか・・・・・そんな・・・・・・」

「こんな、巨大な使徒が・・・・・・いるなんて・・・・・・・・・」



色んな物を見てきた四人だったが、今回のは極めつけだった

地震が収まると同時に、とんでもない物が姿を見せたのだ

それは、巨大な亀のような使徒だった

ただ、巨大なだけならどうとも思わない

この亀の使徒は、背中に「空軍基地」を乗せているのだ

つまり、マナ達が今居る基地を



「この「蒼」っていうのは、この馬鹿でかい使徒のコアってわけ!!!?」

「じゃあ、こいつを何とかして破壊すれば良いんだよな!!?」

「でも、どうやって!?」



ケイタがそう言ったとき、地響きと浮揚感が4人を襲った

動き始めたのだ



「くそっ!!何か良い手は無いのかよ!!!?こんな奴をのさばらせるわけにはいかないぜ!!」

「直接破壊するのは絶対不可能よ!!」

「じゃあ、どうすれば・・・・・・・・」



ケイタが、口を開いた



「・・・・・・・一つだけ、可能性があるよ」



それは、とんでもない作戦だった

作戦展開の授業の担任がミサトだった影響が、こんなところでは如実に出てくる



「薄々、それしかないか・・・・・って思ってたけどさ。
まさか、ケイタまで同じ事考えてるなんて、思ってなかったわよ」

「でも、これしか方法がないよ」



改めて、他人の口から聞くと、それは凄まじい破壊力を持っていた



「空戦。足止めにもならないかもしれないけど、それしかない」










幸いというか何というか、格納庫には戦闘機が手付かずのまま残っていた



「空戦って言っても、そんな・・・・・・」

「・・・・・・大丈夫だよ。折角の空軍基地なんだし、手付かずの飛行機はたくさんある」

「でも、一体誰が操縦するんですか!!?」

「僕達、できるんだよ。戦自で習ったから」



起爆装置を作りながら、ケイタは淡々と言う

マユミは、息を飲んだ

戦自での教育、その一端を、マユミも交換留学で味わったことがある

きっと、想像も付かないような苦しい物だったのだろう



「戦自で習ったことが役立つなんて、今回が初めてかな?」



それでも、ケイタは気楽にそう言う

ムサシとマナがやって来た

ムサシがケイタにヘルメットを投げ渡す



「さて、久しぶりの操縦だ。派手に行こうぜ」

「あんたこそ、ぶつけたりするんじゃないわよ!」

「へっ!言ってろよ!」

「あの・・・・・・私はどうすれば・・・・・」

「ネルフに連絡を取って、その後は退避。僕らはすぐに離陸しなきゃいけないから」

「・・・・・・気を付けて」

「ありがとう」



三人は、それぞれの機に搭乗した



「さーて!!足止めくらいはやってみせるわよ!!」

「へっ!!任せとけ!!!」

「全機、離陸!!!」



エンジンが唸りを上げ、鋼鉄の塊を進ませる

死を運ぶ翼が、ゆっくりと、棺桶を空に舞わせていく










<管制塔>



「ネルフ、聞こえますか?こちら、今期卒業生山岸マユミです!」

『こちら、ネルフ。感度良好』



応答したのは、マヤだった



「伊吹先生!!緊急事態なんです!至急、葛城先生に代わってください!!」

『わ、わかったわ!』



数秒後、懐かしい恩師の声が聞こえてきた



『こちら葛城!!状況は!!?』

「はい、信じられないかもしれないのですが・・・・・・
・・・・・・・・空軍基地を背中に乗せて歩く様な使徒と交戦中なんです!!」

『な、何ですって!!?』

「コアの破壊は不可能!!現在、谷口君とマナと河本君が戦闘機で交戦中です!!
至急、援護を!!!!」

『え、援護っていっても・・・・・・そこ、南米でしょ!!?』

「そうです!!でも、このままの状況で何とかなる相手とは思えません!!」

『・・・・・・じゃあ、手近な国連軍を・・・・あ、何よ!?ちょ、ちょっと!!?』

「?」



どうやら、誰かが無理矢理受話器を奪ったらしい

リツコの声が聞こえてきた



『こちら赤木、聞こえる?』

「赤木先生!!」

『今から援護の準備をするわ。遅くとも15分以内には連絡するから』

「はい!!お願いします!!!」









<日本:ネルフ>



「ちょっと、リツコ!!援護ったって何をする気なのよ!!!?」

「MAGIを使うわ」

「MAGIを?」



怪訝そうな顔をするミサト

確かに、MAGIは凄い代物だ

しかし、援護に使えるなんて話は聞いたこともない



「まぁ、MAGIを設計してから、一度も使ったことがなかったもの。知らない方が普通よ」

「そ、そんな、それって、何なの!!?」



リツコは、コンソールを叩きながらさらりと口にした



「四人目の、守護者としての母さんよ」










<南米:空軍基地>



F−14が三機、使徒の周りを蠅のように飛び交っていた



「くっそ!!!あんだけ叩き込んでも平気なのか!!?」



ムサシが、愚痴をこぼす

既に三機とも、ミサイルを全弾使い果たしている

それでも、使徒の歩みは止まらない



「AAMはもう撃ち尽くした!機銃しかないよ!!」

「ちっ!!ムサシ!!ケイタ!!シェブロン(三角編隊)組んで!!!燃料タンクを狙う!!!」

「「了解!!!」」



ループの後、三角編隊を取った三機が一斉に機銃を放つ

基地の一角、タンクが集まっているところを正確に射撃した

ぎりぎりまで撃ち続け、衝突寸前と言うところで急回避する

爆発の一瞬後、巨大な火柱が立ち上る


「おい・・・・・全然効いてないのか?」

「嘘でしょ!!?あれだけ派手な爆発だったのに!!?」

「でも、傷一つ・・・・ってわけじゃ無いみたいだよ」



ケイタの言うとおり、よく見れば血が流れ出している



「おし!!そうと決まれば、ガンガンいくぜ!!!!」

「よぉっし!!もういっちょ行くわよ!!!」



二度、編隊を組む三機

しかし、使徒はそれに対し攻撃を加えた

口から、虫を吐き出したのだ



「うわっ!!」

「えっ!?何これ?虫!!?」

「やばい!!吸気口に詰まるよ!!」

「ちぃっ!!高々度に退避!!急上昇!!!」

「くっそぉっ!!!」



三機は、急上昇していった

その時、管制塔から通信が入る



『皆さん、聞こえますか!!?』

「マユミ!?ネルフと連絡は!!?」

『取れました!!これから3分後に援護が来ます!!』

「3分後に?」

『私は宙域から全力で退避します!!みなさんも気を付けて!!!』

「ちょ、ちょっと待って!!援護って、爆撃編隊でも来るの!?」



返答はない

既に管制塔から飛び出したのだろうか



「援護、3分後って、一体何が来るんだろ・・・・・・?」

「え?何あれ?」



レシーバーの向こうから、マナの声が聞こえた



「何が?」

「ほら、空の、あれよ」

「だから、何なんだよ!?」

「だから、ほら!!上見なさいよ!!」



蒼穹の空をのろのろと横切ってゆく小さな光

MAGI−4

またの名を、攻撃衛星:カタストロフィ

4人目の赤木ナオコ博士である










<日本:ネルフ>



「MAGI、カスパー、バルダザール、メルキオール、
MAGI−4:カタストロフィによる衛星軌道上からの超々長距離射撃を承認しました」

「最終安全装置解除、加速バレル展開」

「全システム、正常。射撃準備完了!」



主モニターに映るMAGI−4が、4本の加速バレルを伸ばした



「目標座標固定、地球自転、重力、磁場の誤差修正!
及び、太陽、月の重力、磁場による影響の再計算!」

「誤差修正、及び再計算完了!!」

「発射!!」



無音の空間を切り裂いて、光の弾丸が地球に落ちていった










<南米::空軍基地>



「何か光っ・・・・・」



マナが言いかけたときだった

轟音が轟き、土埃と砂煙が高々度まで巻き起こった

空気の乱流に、マユミは木の葉のように翻弄され、マナ達も姿勢制御に精一杯だった



「な、な、何何何何何!!!!?何が起こったの!!!?」

「そ、空から何か落ちてきた、よね!?」

「攻撃衛星か、何かなのか!?」

「あ、でも、まだ生きてる!!」










<日本:ネルフ>



「目標、未だ健在!!」

「第2射、再装填!!」

「装填完了!!」

「撃てぃ!!」










<南米:空軍基地>



「おい。またひ・・」



ムサシが言いかけたとき、二度目の轟音が轟いた

雷のように疾く迸ったそれは、今度こそ、完膚無きまでに空軍基地を叩き潰した

勿論、それを背負っていた使徒もろともに










今回の件は、公式な記録では原子炉の暴走による爆発であるということになった

無論、巨大な使徒のことも、MAGI−4のことも、

そして、「蒼」のことも



全て、闇に隠された










<数日後、日本:ネルフ>



手紙に書いていたとおり、ムサシ達4人はネルフに帰ってきた

友人との再会もそこそこに、リツコの研究室に押し掛ける



「赤木先生!!!」

「あら、おかえりなさい」

「ただいま帰りました!!・・・・じゃなくて!!!」

「?」

「あれは一体、何だったんですか!!?」

「あれ?」

「こないだの奴を倒したアレです!!」

「マナ・・・・・それじゃ説明になってないぞ」

「あの、先生。この間、南米で援護を要請したときの事なんですけど・・・・・」

「あぁ、あれね」



リツコは、煙草を取り出して火を点け

ようとしたが研究室は禁煙なので、仕方なく弄びながらさらっと答えた



「衛星軌道からの超長々距離」

「その正体は!!?」

「リニアキャノンよ」

「りにあきゃのん?」

「リニアモーターカーの原理くらい知ってるわよね。
簡単に言うと、あれと同じ原理で弾を打ち出す大砲みたいなものよ」

「い、いつの間にそんな物を・・・・・・」

「MAGIが完成したときからよ。
あれは、MAGI−4:カタストロフィ」

「「「「・・・・・・・・・・・・・・・・」」」」

「まぁ、とにかく無事で帰って来れたんだから良いじゃない」

「・・・・・・何だか、釈然としませんが・・・・」



退室しようとしたとき、慌ててマユミが振り返った



「あ、赤木先生」

「何?」

「あの、「蒼」いコアって・・・・・・存在するんですか?」

「蒼いコア?・・・・・知らないわね」

「実は、今回の使徒。コアが「蒼」かったんです」

「?」

「それに、人間の死体にコアを産み付けてるようでした」

「・・・・・・・サンプルは回収してる?」

「はい、これです」



マユミは、頑丈な蓋で密閉された小さな試験管をリツコに渡した

ケイタは、試験管を指さしながらマユミに聞いた



「それ、いつの間に?」

「管制塔で、連絡を待っている間に、ちょっと」

「・・・・・・・流石だね」



感心して呟くケイタ



「まぁ、とにかく今日は帰りなさい。疲れてるでしょう?」

「そりゃそうですけど・・・・・・・それのこととか・・・・・・」



視線で試験管を指しながら言い淀むのはムサシ

彼としては早く正体を突き止めてもらいたいのだ



「詳しいことは、後日話を聞くわ。
シンジ君やアスカ達とも会ってないんでしょう。早く行ってあげなさい」

「はい。では、お願いします」

「えぇ」



4人は、揃って退室した










<食堂>



「おーっ!!!ムサシやんか!!!」

「おぅ!!久しぶりだな!!トウジ!!!」

「あ、みんな帰ってきたんだ!」

「今、手紙が来たところだったのよ」

「ッはーい!!シンジに洞木さん!!おっ久ー!!!」

「あはは、久しぶりだね」

「ね、ね、そう言えばアスカって何してるの?あの空港での涙の別れの後」

「あ、アスカは国連の対使徒攻撃部隊とか言うところに引き抜かれたのよ」

「ふむふむ、過去形ね」

「そこで、色々あって左遷されちゃって」

「「「「左遷!?」」」」

「ゾディアックとかいうところで教官任務に就くことになったんだって」

「「「「教官!!!!?」」」」

「ところが、そこも左遷されちゃって・・・・・」

「今じゃ、ネルフの特別留学生部隊:惣流隊の専属教官殿だよ」

「「「「えーっ!!!!?」」」」

「まぁ、今は授業中でいないけど。きっと綾波もそうかな?
様子、見に行ってみる?」

「行ってみる行ってみる!!アスカが教官だなんて、何か新鮮よね!」

「なぁ、トウジ!アスカの隊の訓練生って、どんなのがいるんだ?」

「あ?みんな年上のおなごや」

「・・・・・・・・・・・・・・・・ムサシ」

「ごめんなさいすいませんわるかったですわるかったですからやめてくださいはなしてください」



そんなこんなで、賑やかに談笑しながら、一同は特別教室へと歩いていった

一般の生徒と同じ授業は流石に無理なので、惣流隊の面々は特別教室で授業を受けている

まぁ、その様子については、後々語ることとしよう



今は、一時の安息を





つづく





後書き

うっわ、何だか凄く久しぶりに更新しました
ごめんなさいね、学校始まってから色々忙しくって・・・・・・・・

次回は、惣流隊の授業風景、訓練風景です

では