<特別教室>



「つまり、使徒の群と遭遇したときに重要なのは、まず指揮個体の確認。
そして、周囲の地形を生かした作戦を立てるのが良いとされています」



教壇に立っているのは、レイ

授業を受けているのは、お馴染み惣流隊の面々

ちなみに専属教官のアスカは一番後ろの席で寝こけている



「地下迷宮なら、狭い通路で戦うよりも、広間で戦ったほうが良い状況もあるかも知れません。
それを見分けることができるようになれば、どんな使徒とも互角の戦いが出来るでしょう」



チャイムが鳴った



「今日は、ここまでです」

「・・・・・・・・・・・起立」



なし崩し的に学級委員長に祭り上げられたクリスが、微かに聞き取れる声で呟く



「・・・・・・・・・・・・・・・・礼」








 風、薫る季節

 #6:いつもの日常、非日常


 

 





「あ〜、よく寝た」

「アスカ、寝過ぎ」



レイの冷たい視線が突き刺さった

大きく伸びをしていたアスカはその姿勢のまま固まり・・・・・・・



「ん、ごめんごめん。今度は私がやるからさ」



額に流れるでっかい汗は彼女の良心なのだろうか?



ただ単に、焦っているだけである



「次の授業はどうするの?」

「ん〜、次は選択訓練だから・・・・・・」

「私は実験の続きがあるから・・・・・・・頑張って」

「ん、ありがとね」



そんなことを話しながら、廊下を歩いていた

そして、曲がり角から聞こえてくる賑やかな話し声

勿論、聞き覚えがある



「ぃやっほー!!!!アスカ!!レイ!!!」

「ま、まな!!?いつ帰ってきたの!?」

「ついさっき!!!久しぶりね!!」

「そうね」

「レイさん、シンクロテストの方は順調ですか?」

「えぇ、大丈夫よ」

「惣流!!今度こそ負けねぇからな!!グレードアップした俺の実力を見せてやるぜ!!!」

「ム、ムサシ・・・・・」

「じょーとーじゃない!!!!次の授業の時、訓練場に来なさいよ!!白黒つけてやるわ!!!」

「おーっし!!!いーどきょーだ!!!!」

「・・・・・・・・アスカ、授業はどうするの?」

「あ、そだった・・・・・・・勝負はお預けよッ!!!!」



まぁ、そんなこんなで次の授業が始まる

当然の事ながら、マナ達にも手伝って貰うことにした

実際、フュリィやサトミやヒルデの訓練ははかどっていなかったのだ

ミサトや加持の手はあまり借りれなかったから仕方がないかもしれない

彼らには彼らの受け持ちがあるのだ

そう考えれば、マナやケイタの復帰はありがたかった

銃器に扱いはマナが長けている

隠密行動に関してはケイタがベストだ

欲を言えば、ケンスケが居ると良いのだが、彼は今頃海軍士官である

チャーミーの訓練も、冬月に教わるのがベストなのだが、理事長とて暇ではない

レイも初号機のシンクロテストなどがあり、忙しかったのだ

ヒカリは防御系が得意なので、あまり頼っていなかった

そう考えれば、まともな訓練ができていたのは、クリスだけなのかもしれない

シンジもアスカも、剣術のエキスパートだし



まぁ、それはそれで話を進めよう

次の授業風景である





<訓練場>



さて、剣術の訓練である

今日の担当は、アスカとシンジとムサシ

生徒は、クリスのみ



「さて、今日からは新しく谷口ムサシって言うのに手伝って貰うことになったから」

「おい、惣流。のに、ってなんだよ!」

「うっさいわね。男が細かいこと気にするんじゃないわよ!!自己紹介くらいしたら!?」

「ちっ・・・・・・・・・
えっと、まぁ、初めまして。谷口ムサシ、だ。
剣術が得意で・・・・・・・まぁ、それだけかな。よろしく」

「・・・・・・・・・・・・お願いします」



ぺこり、と頭を下げながら、クリスは小さな声で言った



「さて!!折角今日は人数が居るんだし、まずは模擬戦から」

「えぇっ!!?」



激しく驚くシンジ

何となく、アスカの視線に嫌な予感を感じ取ったからだ



「ま、クリスはこの馬鹿の戦い方をよく見る事ね」

「ア、アスカ・・・・・・・」

「大丈夫よ」

「・・・・・・・・なぁ、何をするって?」

「わかんないの?あたしとあんたが戦うっていったのよ」

「・・・・・・やっぱり・・・・・・」



シンジは頭を抱えた

しかし、こうなってはどうしようもない

不敵な笑いを浮かべたムサシは、左手に小さな楯を持ち、ゆっくりラバーブレードを構えた



「覚悟しろよ、惣流。今日こそ担架に乗るのはお前だかんな」

「言ってなさいよ。あんたなんかに負けるもんですか!」



対峙した

あきらめの境地に達したシンジ

内心は、はらはらしているクリス



戦いのゴングが鳴った



仕掛けたのは、アスカの方だった

呼び動作など微塵もないアスカの一撃をかわしたムサシの袈裟懸けの一撃を真っ向から受け止めた
アスカの身を沈ませ膝を狙う斬撃を見切ったムサシの横大振りの一撃を辛くも避けたアスカのフェ
イント混じりの鋭い突きを辛うじて受け止めたムサシの力任せとばかりにブレードを叩きつける攻
撃を何とか凌いだアスカの跳躍から顔面を狙う切っ先を弾き飛ばしたムサシの腕目掛けて叩きつけ
ようと振り下ろす楯の一撃を余裕で身を翻したアスカの連続で繰り出される鋭い突きの連撃を見切
り最小の動きで回避するムサシの袈裟懸けから逆袈裟のコンビネーションを何とか辛うじて耐えた
アスカのいい加減切れてきたのか力一杯振り下ろす斬撃をすんでの所で避けたムサシのここぞとば
かりに勢い良く振り回す攻撃を受け止め鍔競りに持ち込むアスカ

ここまでで、28秒

二人とも、人間じゃない



「はっ、はっ、はっ、なかなか、やるじゃないの!!!?」

「そっちこそ、ぜぇ、流石だぜ・・・・・はぁ」

「このぉぉぉーーーーーーっ!!!!!」

「おぉりゃああああああぁぁぁぁぁっ!!!!!!!」



ぼこっ!!!!



ラバーブレードが打ち合わされる音が、低く訓練場に響いた

その時、クリスはシンジと訓練に励んでいた

仕方ない話かもしれない





所変わって射撃訓練場

ここでは、マナとケイタが教官役

生徒はサトミとフュリィとヒルデ



「さって、じゃあ、銃撃に関する訓練を始めるわよ」

「「「お願いしま〜す」」」

「銃撃手に求められるものって、何でしょう?」



マナの質問に、ヒルデが勢い良く手を挙げて答えた



「堪忍袋!!!」

「・・・・・・・・」

「ヒルデ。それってむしろ指揮官に求められる物なんじゃないの?」

「あ、そっか」



口元がひくついているマナ

どうやら冗談のつもりではないらしい

サトミが「ああはははは」と、白々しく笑っていた

マナは、己の中で荒れ狂う感情を押さえ込むのに必死だった



何を教えてるのよ、アスカは・・・・・・・・・



そんなことを考えながら、正解を言う



「銃撃手に一番求められる物って言うのは、状況判断力よ。
銃器の攻撃範囲は、剣とかに比べれば圧倒的に広いでしょ?
だから、誰を援護するか、その敵を狙うか、敵と味方はどこにいるか、
色んな事を考えて、計算しながら動かないと、後ろから味方を撃つことになりかねないもの」

「はぁ」



濁った返事を返すのはサトミ



「まぁ、そうは言っても、そんな訓練は実戦か模擬戦でしか養えないし。
今は射撃訓練よ」

「「はいっ!」」

「あ、あの、教官〜」

「何?えっと・・・・・」

「ヒルデさんだよ」

「そうそう、ヒルデさん。どしたの?」

「えっと、あたしは爆弾魔の係なんですけど〜」

「「爆弾魔!!?」」



驚くマナとケイタ

サトミとフュリィが慌てて言い繕う



「あ、違うんです違うんです」

「ヒルデは、爆発物とかを担当しているんです。変な事言うんじゃないわよ!」

「あぅ、ご、ごめんなさいぃ・・・・・」

「と、とにかくわかったから・・・・・・じゃ、ケイタ。お願いね」

「う、うん」



この人が爆発物系のトラップなんて・・・・・・・



ケイタが心配になったのも無理はない

真っ黄色な笑い声を上げながらトラップを設置しようとする様はまるで砂場で遊ぶ幼稚園児そのもの



「できましたーっ!!」

「もう!?随分早いなぁ」

「んふふふふふふ、会心の出来映えなのです!」



ケイタは驚きながらも、ヒルデが仕掛けたという箱に対峙した

トラップの設置、解除の訓練は、みんなこんな方式である

生徒が設置したトラップを教官が解除し、その出来映えを計る

もしくは、その逆



ケイタは、ATフィールドで箱を覆い、そっと隙間にフィールドを滑り込ませた

ゆっくりと、フィールドを指先のように動かして、蓋を開けてゆく



何も起こらない



「あの、ヒルデさん。罠、仕掛けたの?」

「ふぇ?」

「いや、何も無いようなんだけど・・・・・・」

「えぇっ!!?そ、そんなはずわっ!!!」



ヒルデは、慌てて箱に飛びついた

ケイタはフィールドを解除し、箱を握り締めたまま震えるヒルデの反応を待っている

と、振り返ったヒルデはいきなりしゃくり上げ始めた



「ぐずっ・・・・・・教官〜・・・・・・」

「な、何何?どうしたの!!?」

「罠、ちゃんと仕掛けてありますよぉ・・・・・・」

「え?」



箱を握り締めたまま、ヒルデはぐずりだす

いつまで経っても、箱を手放そうとしない



「ちょっと、もう一度見せて。良いかな?」

「ひぐっ、無理ですぅ」

「どうして?じゃあ、どんな罠だったのか教えてよ」

「・・・・・・・無色無臭の接着剤を箱の外側にべったり塗ってたんですぅ」



ヒルデは、いつまで経っても罠を仕掛けた箱を手放さない



「・・・・・・・・もしかして、それ、くっついてるの!?」

「はい、ですぅ」



ケイタは、頭痛を感じながらリツコの研究室へ向かった

剥離剤を分けてもらえるように頼むためである



そんな光景を後目に、マナの下サトミとフュリィは射撃訓練に励んでいた





で、更に変わって魔法訓練所

ここでの教官役はマユミとヒカリ

生徒はチャーミー

ちなみにトウジは現在ベルセルクの検査中



「何で鈴原が出てくるのよ」

「洞木さんと一緒にいないからじゃないですか?」

「へ、変な事言わないでよ!山岸さん!」

「あ、あの・・・・・・」



呆然としているチャーミー

無理もないかもしれない



「あ、ごめんね。チャーミーさん」

「いえ、良いんですけど。今日の訓練も、制御訓練ですか?」

「うん。そうね」

「でも、洞木さん。一度は展開訓練もした方が良いと思います」

「あ、あ、やめた方が良いの!チャーミーさんの出力は半端じゃないから!」

「そうなのですか?」

「恥ずかしながら、その通りなんです」



溜息をつくチャーミー



「そう落ち込まないで。すぐ上達するわよ」

「はい」

「じゃ、まずは最小出力で展開、維持」

「はい」



ごっ!!!!



髪が逆立つほどの勢いでフィールドが展開された

マユミは、目を丸くしている

最小出力って・・・・・・・・・



「こ、これで最小なんですか!!?洞木さん!!!」

「そ、そうなんです・・・・・・・」

「で、でもこれって、戦闘で通用するほどの出力じゃないですか!?」

「・・・・・・・そう思うわよね?」

「・・・・・・・・・・・・そんな、全開で魔法なんか使ったら・・・・・・・」

「禁呪に、匹敵するとか・・・・・・」

「う、嘘」



抜かない名刀は、徐々にその真価を発揮しつつあった





日頃の訓練は、いつもこんな感じである

まだ地下迷宮が使えないのだから仕方ない話しと言えば仕方ないかもしれない

復旧工事も、残すはゲート付近の更衣室やら何やらを建てるだけなのである

折角なので、今までのボロだった更衣室はちゃんとしたものに立て直すことになったのだ

直に工事は終わるだろうから、惣流隊の面々の地下迷宮デビューはそう遠い話ではない










<日曜日:女子寮>



「何?朝早くから・・・・・・」



目を擦りながら、惣流アスカ・ラングレー教官殿は女子寮の食堂にやって来た

目の前では、自分の受け持ちの面々が朝食を食べながら



「待ってました」



という顔をしている



「日曜日は、訓練はお休みですよね?」

「ん、訓練したいの?」



欠伸をしながらアスカが答える

とんでもない、という感じで5人は首を横に振った



「折角の日曜日ですから、みんなで第三新東京市に行ってみようという話になったのです」

「・・・・・・・・・それって、私も?」

「とーぜんです!!教官は私達の部隊の責任者なんですから!!!」

「・・・・・・・・・・修学旅行の引率の先生じゃないんだから・・・・・・・」

「むぐむぐ?ネルフ学園にも修学旅行があるんですか?」

「ふわぁ〜ぁ・・・・・・・あったわよ。2年生の時にね」

「・・・・・・・・・・」

「あ、教官。クリスが・・・・・・」

「『何処に行かれたのですか?』、でしょ?そんなに良い所じゃないわよ」

「何処何処!!?」

「・・・・・・・・・・・・サハラ砂漠」

「「「「「・・・・・・・・・・・・・・・」」」」」

「ダイエット、できるわよ」



それは既にダイエット云々の問題を軽々と通り越しているような気がするのは気のせいだろうか?

まぁ、大したことではないのだろう

加持やゲンドウなどはサハラ砂漠にど真ん中に最低限の装備で放り出しても

1ヶ月で2キロくらい太って帰って来るような構造をしている



「・・・・・・・サハラ砂漠が嫌だったら・・・・・・・」

「「「「「嫌だったら?」」」」」

「・・・・・・・・・・・・・・・エベレスト・・・・・・・・・」

「「「「「・・・・・・・・」」」」」

「あたしはさ、エベレストに行ったのよ。
そしたら、キャンプにどでかい熊が襲いかかってきてね。
酔っぱらったミサトが素手で殴り倒して、その日の夕食は熊鍋になったわ」

「「「「「・・・・・・・・・・・・・・・」」」」」

「昔の話よ・・・・・・・思い出したくもないわ」



それでも、投げ出した生徒がいないというのだから立派というか何というか



「それで、何の話だったっけ?」

「あ、第三新東京市にお出掛けしようって言う話なんです」

「それに、あたしも含まれているから、ついでに色々案内して欲しい。というわけね」

「ぴんぽんぴんぽん!!!御名答の大当たりぃぃぃぃ!!!!」

「はぁ、わかったわよ」

「シンジさんは呼ばないのですか?教官」

「な、な、何であいつが要るのよ!!!!!!?」

「人数は多い方が楽しいじゃないですか」

「そ、そりゃまぁそうかもしれないけど・・・・・・・・」










<ネルフ学園:玄関>



「カヲルさん、もう大丈夫なんですか?」

「あぁ、もう完璧だよ」

「サヲリさんも、大丈夫なの?」

「はい、ご心配をお掛けしました」

「良かった・・・・・・・・一時はどうなるかと心配だったから・・・・・・」

「あぁ、ありがとう。シンジ君・・・・・・・・・・それにしても・・・・・・・・」

「はい?」

「凄い・・・・・・・何というか・・・・・・顔ぶれだね」



玄関には、そうそうたる顔ぶれが集まっていた

惣流隊の5名を始め、

アスカ、シンジ、レイ、トウジ、ヒカリ、マナ、ムサシ、ケイタ、マユミ、カヲル、サヲリ

総勢、16名の大所帯である

全員が私服姿と言うところに、何か違和感を感じたが誰もそれは口にしない

だが、惣流隊の面々は私服を持っていないので、アスカやマナ達から借りた服を着ている

身長の都合上、ヒルデだけはミサトに服を借りることになった

その時ミサトも同行しようとごねていたが、アスカが丁重にお断りした



「はいはいはいはいはい!!静かにしなさいよ!!」



アスカである

やっぱり、修学旅行の引率の先生だ



「とにかく、何処に行くかの相談は歩きながらでもできるわ。とにかく上に上がるわよ」



「上」というのは、第三新東京市のことを指す

そんなこんなで、一同はぞろぞろと歩き始めた










<第三新東京市:メインストリート>



「で、何処に行く?」

「お菓子屋さんッ!!!」:ヒルデ

「紅茶屋さんがあればいいのですけど・・・・・」:チャーミー

「スポーツ用品店とかかな?」:フュリィ

「・・・・・・・本屋」:クリス

「あ、あははははは」:サトミ



物の見事に、バラバラである

こめかみに青筋浮かべた赤髪の教官殿は、怒鳴りつけたい衝動を必死に押し殺しながら、



「じゃあ、ギガスクエアね」



と、言ったのだった

アスカの内心を見透かしていた同級生一同+2人は、ほっと胸をなで下ろしていた

自分の意見を言って場を混ぜっ返すよりも、黙って待っているところが偉い

かくして、総勢16名の一同はギガスクエア目指して歩き出したのである










<ネルフ:発令所>



「どういうことっ!!!?」

「聞いての通りよ」

「だからって、まだ動いてないわけじゃないんでしょ!!!?」

「現在、学園長と理事長で検討中」

「・・・・・・ったく!!いつの時代でもこんな馬鹿はいるってわけね・・・・・・」



ミサトは吐き捨てるように呟くと、手近な椅子を蹴りつけた

その音に、マヤが身を竦ませる

ミサトが怒るのも無理はない

現在、第三新東京市市民は誰一人として知らないが、第三新東京市では爆弾テロが起こっている

ネルフに寄せられた犯行声明によると

犯人の要求は、特務機関ネルフの実態を公表すること



こんな輩が現れても無理はない



なんせ、こっちは天井都市に大穴開けた凶状持ちである

ネルフ学園に関してはともかく、特務機関ネルフは非公開組織である

ネルフの実態など、公表したところでいたずらに不安感を煽るだけなのだが・・・・・・・



「きっと犯人は元戦自か、第三新東京市議会の元重役、というところかしらね」

「逆恨みに、利権にあぶれた連中の腹いせ!!?勘弁してよ・・・・・・・・」

「いや、そんなものではないだろう」



いつの間にか、ゲンドウが来ていた

いつも険しい顔付きだが、今日は普段に増して険しい



「学園長!」

「そんなものではない、とは・・・・・?」

「核だ」



ぼそり、という感じの言葉を理解できた人間は一人も居なかった



「第三新東京市の各所に仕掛けた無数の爆弾、そして核を爆発させると言ってきている」

「・・・・・・く、狂ってるわ・・・・・」

「避難勧告を出せばすぐに爆発させるだろう・・・・・・・
総員、第三種警戒態勢!!!爆弾処理を行える者に非常召集!!直ちに処理に当たらせろ!!!」

「了解!!」



そこまで言ったところで、あることに気付いた



「そう言えば、シンジ君やアスカ達も第三新東京市にいるじゃないの!!!」










<ギガスクエア:ゲームセンター>



「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラーッ!!!!!!!!」

「ドララララララララララララララララララララララララララ、ドラーッ!!!!!!!!」



何をしているかわからないと思うので説明しておこう

トウジとムサシがゲーセンでモグラ叩きに興じているのである



「なかなかやるなっ!!!」

「お前もなっ!!!!」



この二人は終始、こんな乗りなので勘弁して欲しい

(何事かと思った)ギャラリーができるほどである

そんな二人を尻目に、シンジとレイもそこそこ楽しんでいる

レイはゲームなんてからっきしに見えるが、それがそうでもない

バイクレースのゲームとか、カーレースのゲームとか、結構そういうのが強い

今も、バイクレースのゲームでシンジをボロボロのケチョンケチョンにうち負かしたところである

ちなみにスカートではないのでご期待された殿方は悪しからず

丈長のドレスシャツにちょっと大きい男物のジーンズという、動きやすそうな服装です



「あ」

「どうしたの?」



レイの視線の先には、UFOキャッチャー

このゲームの曲者なところは、取れそうで取れないところと、

それが悔しくてついつい大金をつぎ込んでしまうところである

しかし、得意な者はいとも簡単に取ってしまうと言うのだからその辺がミステリー

ぬいぐるみやら中身の補充の時に言う店員さんの



「あ、取りやすいように入れますから」



という言葉に騙されないように

きっちり、アームを突っ込む事もできないほど整然と並べてくれたりするのだから質が悪い

UFOキャッチャーには魔物が棲み着いている

まぁ、ちょっと私情を挟んでしまった

話を戻そう



「碇君、あれ取れそう」

「ホントだね。やってみようか」



レイが指さした先の人形を見て、シンジは100円玉をUFOキャッチャーに投入

目指すは、やたらと頭が尖った感じのペンギンの人形(?)

いつになく真剣な眼差しで目標を見据え、シンジはボタンを押した

期待に満ち満ちた眼差しで、レイは中のぬいぐるみその他を見ている



さて、何故に彼らがゲーセンなんぞにいるかというと



「付き合ってらんない」



という本音をトウジが口にした為である

それにムサシも同調し、

人混みが苦手、と言うレイに付き添う形になったシンジ

人混みの喧噪とゲーセンの騒音は、彼女にとって別物になるらしい

アスカはシンジを引っ張っていこうとごねたが、結局現在に至る

4人で時間を潰しているというところだ










<ギガスクエア:本屋>



「・・・・・・・・・・・」



ぺらり

クリスが雑誌をめくった音

読んでいる雑誌は、意外にもファッション系の雑誌



「何だか、クリスがそう言うのを読むって意外ね」

「・・・・・・・・・そうですか?」



本屋にいるのは、クリスとサトミとアスカ、ヒカリ



「ゾディアックでは、訓練服以外は着たことがなかったんですよ」

「・・・・・・・・・・だから、今風の服って、どんなのか、気になって・・・・・・・」



途切れ途切れに話すクリス

ちょっと恥ずかしそうに俯いている

最近、誰とでも辛うじてコミュニケーションが取れるようになってきた



「そうなんだ・・・・・・じゃ、さ。ブティックとか見に行ってみようよ」

「賛成!!さっすがヒカリ!!!グッドアイデア!!!」

「い、いきなりですか?教官」

「当然。教官命令よ」

「・・・・・・・・・・・・・・」

「実物を目にした方がわかりやすいでしょ。何事も経験よ。
あ、でも買い物するんだったらシンジも連れてくれば良かった」

「ホント、鈴原も一緒に来てくれれば良かったのに」



女性にはわからないかもしれないが、

女性向けブティックに男が入るというのは勇気がいることである

はっきり言って、試着室から出てくるまで待つ時間は男にとっては苦痛に等しい

きっと、試着室にも魔物が棲み着いているに違いない











<ギガスクエア:紅茶屋>



「助かりました。紅茶屋さんがあって」

「チャーミーさんは紅茶が好きなようだね」

「はい」



紅茶屋に来ているのは、チャーミーとカヲルとサヲリ

チャーミーは紅茶葉を買い、今は三人で紅茶を飲んでいる

流石は紅茶屋の紅茶、とチャーミーは絶賛している



「サヲリも、お茶を淹れるのは上手なんだよ」

「まぁ、そうなのですか?」

「チャーミーさんほどではありませんよ」



そんな話をしながら、カヲルは珍しい物を見た

彗星のように、一瞬だけ見ることができる珍しい物



「私も、紅茶葉を買ってみましょうか・・・・・・兄様」

「あぁ、そうだね」



それは、サヲリが他人に向けた笑顔だった

妹も、いつまでも自分の背中に隠れているわけではないようである



「アールグレイはちょっと癖があるので、ダージリンが飲みやすいですよ。
ミルクティーにするなら、甘みのあるフレーバーなんか良いでしょうね」

「アイスティーならどんな物が良いでしょうか?」

「そうですね・・・・・・これなんかどうですか?ちょっと不思議な香りですけど」

「・・・・・・良い香りですね・・・・・・」

「ちょっと、好みが別れそうですけどね」

「こっちのは、どうでしょうか?」

「あ、これも良いですね」

「兄様、どちらが良いでしょうか?」

「え?あ、何?」



突然、妹から呼ばれたカヲルは、見事に慌てた

はしゃぐ二人を眺めていて、話なんか聞いていなかったからだ



「兄様、ちゃんと聞いててください」

「あ、うん。ごめんごめん」



僅かに頬を膨らませるサヲリ



今日は、出掛けてきて良かった



カヲルは、本気でそう思った










<ギガスクエア:屋上>



追いかけっこだった

ここにいるのは、ヒルデとフュリィとマナ、ケイタ、マユミ



「こらーっ!!!待ちなさいよっ!!!!」

「きゃはははははははっ!!!!!」



追っかけているのはフュリィ

追っかけられているのは当然ヒルデ

ヒルデの両手と口には焼きたての鯛焼き

どうやら、フュリィから奪ったらしい

どう見てもいい歳の女性を小学生にしか見えないちんちくりんの追いかけっこという奇妙な構図

マナは盛大に溜息をついた

溜息の原因がもう一つ



「こうして、見てみると、第三新東京市もそんなに大きくないんですね・・・・・・」

「山間部に無理矢理作ったみたいな感じだからね」

「あ、飛行船・・・・・・・」

「あぁ、あの飛行船。ここに着陸するみたいだよ」

「乗れるのでしょうか?」

「ちょっと、見に行ってみようか?」

「はい!」



悔しい

何か知らないけど、無茶悔しい

ちなみに、その時ムサシはゲーセンでトウジと熱(苦し)い戦いを繰り広げていた

現在は第四ラウンド、DDRとかいう略称で親しまれているダンスゲーム

足が四本に見える

ま、それはさておいて

ベンチに座っていたマナは、ヒルデ達も飛行船に向かうのを見て席を立った

一人で居てもつまんない



「ムサシの馬鹿ッ!」



何となく、そんな言葉が口から出てきた

もっと、悔しくなった



「マナさん!!早く早く!!」



ヒルデが急かしている

全く、どっちが年上だかわかったもんじゃない

急ぎ足で飛行船に乗り込んだ



「飛行船って、初めてです」

「そりゃ、普通乗る機会なんてそうないわよ」

「きゃーきゃー!!!飛んでる飛んでる!!!!」

「機内では静かに!!!他の人だっているんだから!!!」

「はぁ〜い」



ヒルデ、反省の色無し



「あ、すごい景色・・・・・・・・」



眼下の光景に、マナは一瞬だけ不機嫌を忘れた

航空写真のような、地図のような街の奇妙な光景に、機嫌の悪さはちょっとだけ飛んでいった

そしてその時、携帯が鳴った

ちょっと期待して、液晶画面を見る

何だろう

ムサシかな?

そんなことを考えていた

だから、一瞬のタイムラグを置いてケイタとマユミの携帯が鳴ったことに気付かなかった





大写しの“EMERGENCY”

その下に移る“第三種警戒態勢”

第三種とは、民間人に悟られぬよう、極秘裏に行動しなければならない状況を指す





顔を見合わせる三人

きっと今頃、他の仲間にもこのメッセージは届いているのだろう

ただごとではない非日常の影が、そこまで忍び寄りつつある





つづく





後書き

ん〜・・・・・・・・勢いに乗ればすぐ更新できるんですけどねぇ
なかなか勢いが着かなかったり乗り過ぎちゃったりして、他のことに手がつかなかったり
極端ですよねぇ

さてさて、次回はいよいよ非日常に突入します



では