何はなくとも、情報が必要だった

携帯の液晶画面に大写しになった「EMERGENCY」を消し、ネルフ発令所を呼び出す

すぐに状況を教えてくれた



現在、第三新東京市各所に爆発物が仕掛けられていることが判明

大規模なテロと推定されるが詳細は不明

直ちに、爆弾処理にあたられたし

なお、市内に核が持ち込まれている可能性あり



「嘘?」




 風、薫る季節

 >#7:頭上を漂う核弾頭










<ゲームセンター>



「・・・・・・・・・・・」



シンジとレイは、真剣な眼差しでUFOキャッチャーを睨んでいた



二人の目には何も映っていない

必死に、現状を計算し、何をすべきかを検討している

携帯に向かって、レイは静かに言葉を投げかけた



「ギガスクエア内に爆発物の探知は?」

『反応あり。詳細は不明』

「核、の所在は?」

『不明。現在全力で捜索中』



がごん



取り出し口に落ちるペンギンのぬいぐるみ

その違和感に、シンジが気付いた



がごん?



「・・・・・・・・おかしいな?」



取り出し口に手を突っ込み、拾い上げようとしてその動きが止まった



「お」

「どうしたの?碇君」

「重い」

「重い?」



そう、重いのだ

とんでもなく重い

何か、金属系の物でも入っていない限りこんな重さは・・・・・・・・



金属?



「・・・・・・綾波」

「・・・・・・・・・・碇君、もしかして」



レイの言葉に、シンジはゆっくり頷いた

なるべく揺らさないように、そっと取り出し、しっかりと腕に抱える

とにかく、人気のない場所に行く必要があった



「・・・・・・・っと・・・・・」



周囲を見回す

とりあえず、目に入ったのはトイレの看板

レイが先行し、女性用トイレに侵入

問答無用で「清掃中」の札を出し、個室を全て確認

クリア



「・・・・・・碇君・・・・・・・・・何してるの?」



シンジは、トイレの入り口で固まったままだった



「いや、だって、ここ、その、女性用の・・・・・・」

「緊急事態だから」

「で、でもさ、その・・・・・・・やっぱり・・・・・・」

「私が、男性用トイレに入る?」

「い、いや!!それも何か嫌なんだけど・・・・・・」

「とにかく急いで」



おっかなびっくり足を進めるシンジ

ぬいぐるみを床に起き、慎重にナイフで切開する

そして、中から出てきたのは・・・・・・・・・・・・・



「・・・・・・・・ビンゴ」



パンヤに包まれた爆弾だった










<男性用トイレ>



「清掃中」の札が出ている男性用トイレに、トウジとムサシはいた



「なぁ、トウジ。これって、やっぱ、あれだよな?」

「・・・・・・・・・・せやろな。どないしょ・・・・・・・」



二人は、メダルゲームで入手した景品、目覚まし時計を床に置いて悩んでいた

背の蓋を外せば、出てきた物は時限爆弾



「とにかく、シンジと綾波さんを捜さないか?俺達だけじゃどうしようもない」

「ほんま・・・・・・シンジと綾波は何処へ行ったんや!?
ゲーセンの中、何処にもおらへん!!」



その頃、彼らは爆弾の所在を本部に連絡していた

直線距離で10mも離れていない女性用トイレから



「いざとなったら、ATフィールドで押さえ込むしかないよな・・・・・・・」

「最後の手段やで!とにかく、本部に連絡や!」










<ブティック>



「ね、これ良くない?」

「えー、でも高いよ」

「・・・・・・・・・・・こんなの、好き」

「あはは、そうですよね〜」



携帯なんて誰も気付いちゃいない



アスカとヒカリは、クリスを着せ替え人形代わりにして、

サトミは二人の魔の手をのらりくらりとかわしている



「ね、クリス!!これどう!?」



アスカが差し出したのは、やたらフリルがたくさん付いたどぎつい配色の服

とだけ、言っておこう



「・・・・・・・・・・・教官・・・・・・・・ファッション音痴?」



当然、クリスの反応なんてこんな物である

憎しみでも悲しみでもなく、限りなく同情の念を湛えた眼差しのクリス

サトミも流石に笑って誤魔化すわけにはいかず、アスカとは視線を合わせようとしない



「な、何よ!ちょっとした冗談じゃない!!冗談!!」

「あ、じゃ、クリスさん。こういうの、どうかな?」

「・・・・・・・・こんなの、好き」



そう言って、ヒカリが差し出した服を受け取り、試着室に消えるクリス



「クリスさんのセンスって、綾波さんと似てるわね」

「やっぱり、そう思う?性格もレイと似てるしさ」

「二人とも、静かな性格ですからねぇ」

「ちょっと、ミステリアスのところとか」

「そうそう」

「何考えてるかわかないところとか」



と、まぁ、本人がいないを幸いに好きなことを言ってる三人



「そう言えば、サトミってミサトと名前がそっくりよね」

「葛城教官とですか?確かにそうですね」

「そう言えば、サトミさんは純血の日本人なのよね」

「そうですよ」

「名字は、何て言うの?」

「フワです。不破」

「へぇ、格好いい名字ね」

「何だか、ご先祖様は有名な侍だったとかいう話を聞いたこともあるんですけど、
まぁ、そんなことはどうでもいいんですけどね」

「へぇ〜」



ざっ!!!



試着室のカーテンを勢い良く開いて、クリスが出てきた



「あ、クリス」

「教官・・・・・・・」

「どうかしたの?」

「・・・・・・・・・これ、何でしょうか?」

「何?それ・・・・・・・?」



クリスが手に持っているのは、試着室の小さなゴミ箱に入っていた金属の固まり

何やら、ケーブルが這っていたりタイマーが付いてたりする怪しい代物










<飛行船内>



マナ達は途方に暮れていた

飛行船の中では、手の出しようがない



「・・・・・・・どうする?」

「私は、夢魔で空を飛べますが・・・・・・」



周囲を見回して、マユミは溜息をついた

一般市民が乗っているのだ

夢魔なんて使えば恐慌に陥るだろう

まるっきり、悪魔にしか見えないんだから



「核を使うって、まさか核弾頭を撃ち込むわけじゃないわよね?」

「既に、第三新東京市内にある。
そう考えるべきですよね」

「でも、天井都市内部はネルフの管轄だし、見逃すわけないわよね?」

「第三新東京市内だって、そんなに隠し場所は無いと思うけど・・・・・・」

「港の倉庫とか・・・・・・・・そういうところは真っ先に調べますしね」

「とにかく、この飛行船が着陸しない限り、何もできないわよね」



マナの言葉に、怪訝な表情をするケイタ



「そういえば・・・・・・・・この飛行船って機械制御だよね?」

「そうみたいね」

「この上は?」



天井を指さして、一同は顔を見合わせた

ちなみに、その頃ヒルデとフュリィは、まだ追いかけっこに興じていた



「・・・・・・・・上に上がるには?」

「コクピットから行けるんだと思う。キャビンにそれらしいハッチは見あたらないし」



コクピットへのドアは、ドアノブで開ける旧式の扉



「コクピットには・・・・・・当然鍵が掛かっている、と。ケイタ」

「わかった。ヒルデさんとフュリィさんも呼んで。
それと、万一乗客の人にばれたときは・・・・・・・・」

「ま、何かあったら嫌でもばれちゃうわよ。
その時は本部に連絡して、援護を待つしかないわ」

「そうだね」



そう言って、ケイタはコクピットへ通じる扉の鍵穴に針金を差し込んだ

しばらく、そのまま探るように動かす



微かな手応え



音がしないように、そっとノブを回した途端



警報が鳴り響いた



一瞬、乗客はスピーカーを空虚な眼差しで見つめた

そしてその一瞬後、飛行船ががくりと揺れた

パニックが伝染してゆく



「くっ!これって、やっぱ大当たりってこと!!!!?」

「みたいだね!!!」

「とにかく、ネルフに連絡を・・・・・・・」

「わかった!!マナとマユミは乗客をお願い。
ヒルデさんとフュリィさんはネルフに連絡して」

「「わかりました!」」

「・・・・・・・・河本君」

「大丈夫さ」



何の根拠もないが、ケイタは笑ってそう言ったのだった










<ギガスクエア内:女性用トイレ>



「・・・・・・・・いつ爆発するかわからない時限爆弾が一つ」

「爆発の規模も不明」

「解体は不可能」

「しかも、三種警戒態勢により極秘裏の処理を施さねばならない」

「「さぁ、どうする?」」



顔を見合わせているのは、シンジとレイ

二人の足下には、ぬいぐるみの中に入っていた時限爆弾

爆弾は解体しようにも、完全に一体形成のケースで開くことさえ出来ないときている



そして、同じ様な状況に陥っている二人は・・・・・・・・・










<ギガスクエア内:男性用トイレ>



「さて、トウジ。クイズの問題だ」



ポケットに手を突っ込んで、ムサシはトウジに言った



「何や?」

「ビルの一室に閉じこめられて、爆弾がセットされた。
ビルの中には無関係な人も多い」

「それで?」

「ビルの人に被害が出ないと言うことを第一に考えて。どうする?」

「んなもん、ビルにおる人を避難させればええんや」

「気付かれたら最後という状況だったら?」

「気取られん方法をとるしかないやろ」

「例えばどんな?」

「・・・・・・・・・・せや、な」



トウジは、おもむろに携帯電話を取り出して、発令所を呼び出す



「もしもし、こちら鈴原」

『こちら発令所』

「今からギガスクエアで“原因不明の火災”が起こるさかい。収拾をたのんます」

『え?ちょ、ちょっと!!?』

「ほな」



ぷち



「準備、完了や」

「・・・・・・・・・やれやれ、結局、強硬な作戦になっちゃうんだよな」

「ま、しゃーないやろ」



トウジは、火災報知器の非常ベルに、拳を叩きつけた










<ギガスクエア内:ブティックの片隅>



じりりりりりりりりりりりりりりりりりりりりり!!!!!!!!!!!!



「・・・・・・・何?」

「非常ベル!?こんな時に火事!!?」

「と、とにかく避難を急がないと」

「・・・・・・・・待って、確認を取るわ」



冷静に言ったのは、アスカだった



「もしかしたら、ジャージ馬鹿か熱血馬鹿あたりが無茶やらかしたのかもしれないし」

「あ、もしかして、警報だけを鳴らして一般客を外へ?」

「かもね・・・・・・・本当の火災だとしたら、逃げなきゃいけないし。
どっちにしても、ネルフに確認を取ってからでも遅くないわ」



そう言って、ネルフ発令所をコールした



『こちら、発令所』

「こちら、惣流アスカ。現所在地はギガスクエア内。
非常ベルが鳴ってるけど、火災っていうのは本当?」

『いえ、それは一般客を施設外へ誘導するための“原因不明の火災”です』

「了解。じゃあ、避難が完了次第処理班の手配を!」

『了解』



携帯を切って、アスカは



やっぱりね



と言う溜息をついた



「多分、ジャージ馬鹿か熱血馬鹿の仕業よ」



正解










<ギガスクエア内:紅茶屋>



「おや、何かあったようだね」

「そのようですね」

「火災報知器の非常ベルでしょうか・・・・・・・?」

「火災かい?」



カヲルが、訝しげな顔をする



「火の手が上がっているような気配は感じないよ」

「きっと、犯人の手によるものか、一般の方々を誘導するためのものでしょう」

「そ、そうでしょうか?」



困惑顔のチャーミー

カヲルとサヲリは、のんびり席を立った

既に、店内には誰もいない

代金をレジの近くに置く



「じゃぁ、行こう」

「はい」

「ど、どこへでしょうか?」



その時、カヲルの携帯が鳴った

取り出して、ボタンを押そうとしたところで・・・・・・・・



「・・・・・・・どこを押せば良いんだったっけ?」










<飛行船内>



少し、時間を遡る

マナが状況を発令所に報告していた



「飛行船の操縦系は全てオートです!!ここからではどうすることもできません!!!」

『爆弾の所在は!!?』

「今、ケイタ・・・・・河本が確認に行きました!!」

『え、じゃあ・・・・・・あ、ごめんなさい、赤木博士に代わります!』



受話器を渡す気配

次に聞こえてきた緊迫した声は、リツコのそれだった



『こちら赤木、状況は?』

「操縦不能の飛行船内が市内上空を迷走中!!!」

『乗客は!?』

「一般市民も同乗しています!!」

『それで、核はそこにあるの!!?』

「今、ケイタが調べて・・・・・・・・・」



その時、ハッチから逆さまにケイタが顔を出した

焦りを露わにした形相で、マナからマイクを奪う

以上に甲高い声で



「こぴらかやもろ!!!!」(こちら河本!!!)

『な、何!!?誰なの!!?』

「かやもろてぷって!!!!」(河本ですって!!!!)

『こんな時に、誰ですか!!!』



ヘリウムを思いっきり吸い込んでいるせいで間抜けな声になっているケイタであった

見かねたマナが通訳に回る



「あ、赤木教官!ケイタです。ケイタなんです!!」

『か、河本君!?』

「多分、ヘリウムを吸い込んだからあんな声に・・・・・・」

『わ、わかったわ。それで、何なの?』

「みちゅけまぴた!!!きゃきゅです!!!」(見つけました、核です!!)

『は、何!!?』

「ま、まさか、核があったの!!!?」

『核が、そこにあるのね!!』



激しく頷くケイタ



「そうです!!緊急でヘリを寄越してください!!!乗客を全員下ろします!!!」











<発令所>



「マヤ、総員に状況報告を。それと、初号機のスタンバイをお願い」

「初号機を使うんですか?」

「・・・・・・・いざという時のための、保険みたいなものよ」

「で、リツコも上がるの?」

「当然」

「あ〜あ、こういうときは急にワンマンになるんだから・・・・・・・」

「何?褒め言葉として受け取っておくわよ」

「勝手にすれば」










<第三新東京市:飛行船直下>



一同が、うんざりした面を並べていた

その雁首を申し訳なさそうに眺めているのはミサト

レイが口を開いた



「葛城教官。状況は」

「直情の飛行船内に核弾頭の所在を確認。現在、一般乗客の避難を進めているわ」



自分の真上をきっちり指差してミサト



「あそこに、核弾頭が・・・・・・・」

「嘘でしょ?」

「本当なのよ・・・・・・残念ながらね」



溜息混じりに、ミサトが言った



「ヘリが乗客の救出に上がってるわ。それと、コントロールを奪いに、リツコも上がってった」

「・・・・・・・安心、していいんでしょうか?」

「さぁ?でも、リツコのことだからちゃちゃっと片付けてくるわよ」

「でもどうやって飛行船へ?」



ヒカリがもっともな疑問を口にした










<飛行船内>



今、キャビンの真横に、ネルフの輸送ヘリがついた

そして、ワイヤーロープがくくりつけられたアンカーがキャビンの外壁に撃ち込まれた

これから、リツコがワイヤーロープを伝って飛行船のキャビンに乗り移ろうとしているところ

ここで、重大な問題があることに気付いた方は大勢いるであろう



飛行船は、迷走しているのである



当然、不規則な上下左右移動など当たり前

加速減速なども織り交ぜたなかなか見事な迷走っぷりである

従って、リツコはなかなかキャビンに辿り着けない



「あぁ、もう!!ちょっとは真っ直ぐ飛びなさいよ!!この飛行船!!」



コクピットでマナは地団駄踏みながら待っていた

計器類を叩かないというところが偉い

そして、振り落とされそうになること数回

リツコがキャビンに乗り込むことに成功した



「ぜぇ、はぁ」

「お疲れさまです」

「ぜぇ、すぐに、避難を」

「・・・・・・・・・・教官、あれで、ですか?」



マユミは窓越しにワイヤーロープを指差した

強風に煽られて、首を落とされた蛇のように激しくのたうっている



「「・・・・・・・・・・・・・・・」」



念の為、念の為に申し上げておきたい

決して、リツコの運動神経は悪くない

常人のそれよりは断然、優れていると言える

それでも、強風に煽られている上、不規則な軌道を迷走している飛行船に乗り移ることは、

命懸けで望まなければならない

一般人に、それを期待することは、無謀を通り越して完全に無駄である



「・・・・・・・でも、これ以外に手段なんて」

「ありますよ」



至極当然

という感じで、マユミはあっさりと言い切った



「私が運べば問題無しです」



そう言って、マユミは己の内から夢魔を呼び出した

それを見て腰を抜かした者もいたが、この際それはいいっこなしだ

乗客の一人を担いで、キャビンのドアを開けた

強風が雪崩れ込み、髪を強引に梳かしてゆく



「・・・・・・・ねぇ、山岸さん」

「はい?」

「私の時も、そうしてくれればすぐだったんじゃないかしら?」

「えぇ、そうですね」

「・・・・・・・・・・・・・」

「乗客の避難は私が引き受けます。赤木教官はコクピットへ!」

「了解。頑張ってね」

「はいっ!」



コクピットでは、マナが待ち構えていた



「赤木教官!もう、こいつを何とかしてください!!」

「泣き言なんて言わないの!」



そうたしなめて、リツコはバックパックから携帯用端末を取りだし、

コクピットのコンソールに有線接続する



「そう言えば、河本君とヒルデさんとフュリィさんは?」

「三人は、今時限装置の解析に当たっています」

「時限装置!?残り時間は!!?」

「およそ、2時間と言うところです」

「それだったら、それまでに何とかすればいいわけね・・・・・・・・さてと」



猛然と、リツコはキーボードを叩き始めた

立ちはだかる無数の防壁をすり抜け、何とかコントロールを奪おうとする

が・・・・・・・・・・

どこかに油断があったのかもしれない

ケーブルが強制的にイジェクトされ

全ての計器類が狂った

モニターは不気味な赤色一色で塗りつぶされた

ハッチの向こうから、ケイタ達三人の悲鳴が聞こえてきた



「あぱききょうぱん!!!!」(赤木教官!!!)



ハッチから逆さまに顔を出したのは、ヒルデ

やっぱり、ヘリウムの所為で変な声になっている

備え付けてあった非常用の酸素ボンベから、新鮮な酸素を吸い込んで、ヒルデは言った



「時限装置のタイマーが残り10分になっちゃいましたぁ!!!」

「何ですって!!!?」

「これ以上は危険ですぅ!!!」

「・・・・・・・・とは言っても・・・・・・・・・」



山が徐々に近づいてくる



「これは完全に墜落軌道よ!!」



どうする?

結論を出すのに、5秒は必要だった

はっきり言って、無茶な話しだ

でも、やらなければみんな死んでしまう





覚悟なんて、決めてしまえば楽なものだった



「発令所に連絡!直ちにエヴァ初号機を発進させて!!!」










<その頃のミサト達>



「ねぇ、目に見えて高度が落ちてない?」

「・・・・・・・やっぱり、そう見える?」

「なぁ、このままやとやばいんちゃうんか?」

「とにかく、リツコからの連絡待ちね」



その時、タイミング良く通信が入った



『ミサト!!聞こえる!!』

「へいへい、こちら葛城〜。どうかしたの?」

『飛行船コントロールの奪取に失敗したわ!!このままだと、墜落する!!』





一瞬の沈黙





「ちょ、嘘でしょ!?リツコが、あんたが失敗したの!?」

『残り時間も10分無いわ!!
それに、墜落したら核爆発を免れることはできない!!レイはいる!!?』

「レイに!?代わればいいのね?」

『えぇそーよ!!!早く!!!』

「レイ!代わって!」

「了解」



受話器を受け取るレイ



「綾波です」

『レイ、良く聞いて。今、飛行船は墜落軌道にあるわ。
このままだと、墜落して爆発するか、時限装置が作動して爆発するか、二つに一つだわ』

「では・・・・・・・・・・」

『このまま、爆発させるわ』

「!!!?」

『いい、作戦を説明するわ・・・・・・・・・・・』




















飛行船が墜落軌道に乗ってから、2分後

操縦適格者とエヴァ初号機とのシンクロが完了した

兎にも角にも、早く動く必要があった

ウェポンラックと余分な装甲を、全て剥ぎ取った



「こ、これがエヴァって奴?」



心なしか、声が震えているアスカ

他の面子は声もないらしい

得意気に視線を向けて、景気づけに一声吼えた

ヘアバンドのようなインターフェイスを頭に乗せ、顔の半分を覆うごついゴーグルを掛けているレイ

椅子に座り、肘掛けに手を乗せているだけだが、

インターフェイスは、彼女の脳波を初号機に送り、

ゴーグルの中では初号機の視界が展開されているのだ

視界の隅に、タイマーを表示させ、問答無用で高機動モードを発動させた

衝撃波で吹っ飛ぶ一同を尻目に、初号機を飛行船目掛けて走らせる





いい、初号機を起動させたら、高機動モードで飛行船の直下について

申し訳ないようだけど、私達はそれまでに脱出するわ





全力で走らせる

制限時間は通常モードで1時間

高機動モードだと、消費電力量は通常の5倍にもなる

行動は迅速に、無駄なく

脱出も既に確認した





飛行船は、じきに墜落するわ

だから、無茶を言うようだけど、墜落直前に船体を受け止めて





徐々に、視界の中で飛行船の船体が大きく迫りつつある

手が届く直前まで粘り、ATフィールド全開

球体をイメージして重力を可能な限り遮断する





船体を受け止めることができたら、あとは海に向かって走って





走る

ATフィールドで支えているので、飛行船が潰れることはない

全速力で、海に走る





海まで来たら、飛行船を思いっきり投げるのよ

ATフィールドを維持したままで





全身のバネを使って、飛行船をぶん投げた

ATフィールドにより重力の9割方を遮断された飛行船は、一直線に進んで行く





そうしたら、ロングレンジの魔法をできる限り使って後押しをして

初号機のATフィールドはそう簡単に破れはしないから安心して





振り返る

銃を構えているミサトとサトミの姿

杖を振りかざすヒカリとチャーミーの姿

ここからでは離れすぎていて呪文を聞き取ることはできない

どんな魔法かはわからないが、とにかく光が飛行船を押した





ここまで来れば、残り時間も少ないはず

最後の詰めよ

渚兄妹のATフィールドで飛行船を包んで

彼らの力なら、核爆発なんて大したこと無いわ










<飛行船付近>



「まったく、無茶を言ってくれるね」

「しかし、兄様。私達にしかできないことです」

「あぁ、わかってるよ・・・・・・・・それにしても、マスターよりも無茶を言ってくれる人だね」

「・・・・・・・・・・兄様」

「ごめんごめん。大丈夫だよ、サヲリ。ちゃんとやるさ」

「はい」



海の上に、二人は浮いている

念の為断っておこう

海面にぷかぷか浮かんでいるのではなく、空中に浮かんでいるのだ

早い話が、空を飛んでいる



「来たみたいだね」

「では、兄様」

「あぁ、いくよ」



兄妹は、軽く手を繋いだ

アダムの改造人間の力

一歩間違えば、世界を7度滅ぼしてもお釣りが来るような力

そんな力でも、人の命を助けることができる

大切な人を護ることができるのだ





こんなに素晴らしいことはない





カヲルとサヲリのATフィールドから

爆発が逃れることはできなかった

1mmたりとも、爆発の影響がATフィールドの外側に出ることはなかった










<数日後>



「で、さ。結局、あの事件の黒幕は?」

「さぁ」

「さぁ。って、そんな、本当にわからなかったの!?」

「本当よ。もしかしたら、仕掛けてきた相手は戦自や政治屋よりも厄介な相手かも知れないわ」

「・・・・・・・・・マジ?」



コーヒーカップが二つ置かれた音



「可能性としては、否定できないわね」

「はぁ〜ぁ・・・・・・・結局、ネルフはのんびりできないわけね」

「そういうこと」



溜息



「そう言えば、あの子達は?」

「霧島さん達なら、新しい仕事を探しにまた出ていったわよ。ホント、とんぼ返りね」

「あ、そうだったんだ」

「惣流隊は、毎日訓練。お陰でレイを取られちゃって、初号機の実験がちっとも進まないわ」

「あっはっは、そりゃ残念でしたね」

「笑い事じゃないわよ。あんまり実験が進まないと、報告書を提出できなくなるんだから」

「ありゃりゃ、そりは死活問題ね」



ドアが開く音



「先輩。学園長と理事長が初号機の運用に関して話があると・・・・・・・・・」



盛大な溜息



「・・・・・・・・・絞られてくるわ」

「いってらっさ〜い」





青い空

白い雲

どこを見上げても良い天気

もうすぐ夏で、今は午後

おまけに今日は非番の日



一風呂浴びて、ちょっと街にでも繰り出そうかしらん



そんなことを頭の片隅では考えている










つづく





後書き

お久しぶりの更新です
ん〜・・・・・でも、中途半端な感じが抜けません
やっぱり、小説は構想ができているときに一気に書いた方が良いですね
なんとなく、いまいちです

次回から、番外編を始めるかもしれません(大丈夫なんでしょーか?)
かもしれないだけですけどね・・・・・・・・・
詳細は未定ですし

では